2012
01.19

診断推論 Starter & Booster:第9回~感度と特異度、そして尤度比

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 Rule inとRule outを意識して主訴に対する一連の流れを行いますが、そのために必要な知識が感度Sensitivityと特異度Specificity、そして尤度比Likelihood Ratioです。これは現代の診断学を語る上では外せない話題。今回のレクチャーでは統計の専門知識をあまり使わない方針ですが、この三つの言葉はどうしても覚えてもらわねばなりません。これを知ると自分の行っているものがどの程度対象としている鑑別疾患を引っ張ってくるか、それとも圏外に押しのけるのかというのが実感できます。まずは感度と特異度を極端な例で見てみましょう。

 ある疾患Aが存在するとします。それに対する感度100%の検査Bと、特異度100%の検査Cがあるとします。検査Bの意味するものは、この結果が陽性とならないAは存在しない、Aならば必ずそのBが陽性ということになります。ただし、他の疾患でBが出ることを否定するものではありません。他の疾患でBが陽性になることもあるけれど、Aなら確実に陽性になる。裏を返せばBが陰性であればAは否定できると言うことになります。つまりは、感度が高いほど、それが陰性であればAではない方向性(除外)に向くんですね。

 では、検査Cの意味するものは、結果が陽性となるのはAにしか見られないものとなります。ただし、Aなら必ずCが陽性になるという情報を与えるものではありません。他の疾患ではCが陽性になることはないけれど、Aでも陰性の時がある。しかし陽性なら必ずAである。つまりは、特異度が高いほど、それが陽性であればAである方向性(確定)に向くんですね。まとめるとこんな感じ。



 感度や特異度が高ければ高いほど、上図の矢印の”必ず度合い”が強くなることになります。まとめると、感度Sensitivityの高い項目が陰性Negativeなら除外Rule outの方向に、特異度Specificityの高い項目が陽性Positiveなら確定Rule inの方向に、と言えます。これをSnNOut、SpPInと覚えましょう。感度100%の所見が無ければアリバイ完全成立、特異度100%の所見があれば言い逃れできずに即逮捕、という感じ。

 ここで、ある疾患に対する感度90%、特異度80%の検査があるとします。となると、この検査が陽性もしくは陰性になったとき、その疾患の可能性がどう変化するのか?それはちょっと分かりづらい。じゃあどうしようか、となります。

 それを分かりやすく表したのが、尤度比(ゆうどひ)です。”もっともらしさ”を示すもので、感度と特異度から計算することで導かれます。尤度比には2つあり、陽性尤度比(LR+)と陰性尤度比(LR-)。前者は、その検査が陽性の場合、どのくらいの”もっともらしさ”があるかを示します。後者は、その検査が陰性の場合、どのくらいの”もっともらしさ”があるかを示します。検査前確率と尤度比から、検査後確率が導かれるわけですね。どの様に計算するかは、以下に示されます。

・陽性尤度比=感度/(1-特異度)
・陰性尤度比=1-感度/特異度

 この尤度比が1からどのくらい離れているか?でそのパワーを知ることが出来ます。



 尤度比=1は、全く役に立ちません。その疾患を確定の方向にも除外の方向にも動かさないものです。感度50%、特異度50%という状況を想定すると分かりやすいでしょう。尤度比が0に近づけば近づくほど、”もっともらしさ”から遠ざかります。尤度比が∞に近づけば近づくほど、”もっともらしさ”に接近します。ということは、これら両極端の値に近いものほど役に立つということです。

 では実際どのくらいの数字の尤度比が役に立つのか、というのが知りたいところ。一般的にLRが5以上もしくは0.2以下で中くらい、10以上もしくは0.1以下ですごく使える、とされています。ただし「尤度比がすごく高いから確定だ、尤度比がすごく低いから除外だ」という訳ではありません。それはやはりその検査をする前の確率、つまり“検査前確率に左右される”というのは絶対に覚えておきましょう。ここでノモグラムを紹介します。検査前確率と尤度比からどのくらいの検査後確率が生まれるのかというのを簡単に知ることが出来るスグレモノ。



 これを使って例を出します。例えばですが、統合失調症の検査前確率が50%とします。ここに統合失調症に対するLR+20、LR-0.6という検査が出来たとします(架空の検査です。精神科領域にも役に立つ検査欲しいですね…)。これを先ほどのノモグラムを使って考えてみましょう。



 よって、この検査が陽性であれば、統合失調症の検査後確率が95%くらいになり、確定診断に近づきます。しかし、陰性の場合は検査後確率が40%であまり変わりません。除外は出来ませんね。では、今度は統合失調症の検査前確率を1%にしてみましょう。ほとんど疑っていない状況です。



 なんと、検査が陽性でも検査後確率が20%に満たないのです。これを見ると分かるように、検査前確率が著しく低い状況では、ものすごく役に立つと言われる検査でも非力なものです。だから検査はすりゃ良いってもんではなくて、何故するのか、その理由を考えましょう。さもないといちいち検査結果に揺さぶられてしまいます。

 しかし、ここで1つ疑問が沸きます。「このノモグラム、いつも持ち歩かなければならんのか?」そんなのは面倒ですね。これを解決に近づけてくれたのが、McGeeという先生で、彼は足し算方式を考えてくれました。それは、検査前確率が10-90%の範囲内という前提で、大きく言うとある程度メインな鑑別に挙がっているという状況で

LR10→+45%
LR5→+30%
LR2→+15%
LR0.5→-15%
LR0.2→-30%
LR0.1→-45%

というものです。


検査前確率+[LRから推定される確率]=検査後確率


 これを覚えておくと、大凡の見当が付くので非常に楽ちん。でもきちっとしている人は、こんな曖昧な感じで良いのかと思うかもしれません。先ほどのノモグラムでも大体こんなもん、そしてここでも大まかな足し算。

 しかし、それで良いのです。何故かというと、検査前確率を何%と正確に出すことは無理だからなんです。「この患者さん、肺炎の検査前確率は37%、急性上気道炎の確率が18%、胸膜炎の確率が6%…」と見積もることは不可能。大体こんなパーセンテージかな、というファジィな確率を想定することしか私たちには出来ません。なので、その時点からして実は曖昧なんです。エビデンスエビデンスと言われて数字がもてはやされていますが、根っこの部分ははっきりしないものです。それでも、こういった尤度比などは知っておいて、かつ適正に使えれば損はありません。自分は後輩に教えるために数字を細かく覚えておいてますが、その様に知る必要はありません。以下のように


強く引っ張るor強く押しのける(LR+≧10、LR-≦0.1)
中くらいに引っ張るor中くらいに押しのける(LR+≧5、LR-≦0.2)
参考くらいに(LR+:2-5、LR-:0.2-0.5)


3段階を目安として知っておくと良いですよ。Rule inとRule outの意識を高める良い素材だと思っています。

 検査検査と言ってきましたが、最近は診察項目にもエビデンスが出てきています。最たるものが先ほど紹介したMcGee先生の書かれた”Evidence-Based Physical Diagnosis”や、その親本的存在であるJAMAの”Rational Clinical Examination”です。ここでは、こんな症状がある患者さんにこんな疾患を疑って、その時に行われる診察(や病歴)がどの程度役に立つか、というのを感度、特異度、尤度比を以て示しています。ということで、この2冊は是非読んで下さい。和訳も出てます。病歴に絞れば、Tierney先生が監修している”The Patient History”があります。総合して尤度比と言う意識を用いながらの診断学としては”Symptom to Diagnosis”がお勧め。”Symptom to Diagnosis”に関しては、和訳(”考える技術”)の方が優れています。

 さて、宣伝したところで尤度比に戻りましょう。この尤度比で引っかかるのは、尤度比が5以上もしくは0.2以下で有用とした部分。では、0.2~5のものはどう扱えばいいのだろう?という疑問が残ると思います。特に尤度比が2とか3とかの所見をどう解釈して良いのか分からなくなってしまいます。単純に足し合わせれば良いと思うかもしれませんが、そうそう単純に行かないのです。各々の所見の尤度比を足し合わせることが出来るのは、それらが独立した因子である時。別々の病態生理に基づいている時、と考えても差し支えは無いと思います。純粋に2+3=5になるのはそういう時です。同じ病態生理から派生した所見であれば、2+3=2.6になるかもしれないのです。さて、どうしたものか。

 そういう時、いわゆるスコアリングが発表されているものがあります。色々な所見を複数集めて、尤度比をある程度まで確保するシステムです。細菌性咽頭炎の鑑別の際に咽頭痛を訴える患者さんに用いるModified Centor’s Criteriaや、肺塞栓の鑑別の際に呼吸苦の患者さんに用いるWell’s criteria simplified version、胸部Xpが必要かの判断のために咳をしている患者さんに用いるDiehr’s Threshold Scoreなど。比較的便利なものが多いので、きちんと有用性が検証されているスコアリングは覚えておいて損はないです。

 余談ですが、San Francisco Syncope Ruleという、失神患者さんに用いる比較的有名なスコアリングがあります。5つの項目があり、7日後の重大なイベントの予測の感度96.2%、特異度61.9%と2005年に発表されました(尤度比を計算するとLR+2.5、LR-0.06)。尤度比を見ても分かるようにRule outに特化したものでして、5項目全て無ければ恐らく帰しても大丈夫、1つでも当てはまれば入院させましょうという感じで使われています。しかしその後検証が行われ、それほど信頼性の高いものではないと言うことが分かり、2010年のシステマティックレビューでは感度86%、特異度49%と言われています(LR-0.28なので危険な失神の除外に用いるには不安な尤度比)。この様に、後々になって実はあまり使えないんだと分かることもあります。スコアリングを用いる際は、その有用性というものをきちんと理解してからにしましょう。

 また、尤度比やスコアリングを用いる際は、どんな疾患を疑って、どんな患者さんに用いるかを明確にしましょう。「○○を主訴とする○○な患者さんにおいて、○○を疑った際の検査/診察の尤度比」とセットにして知っておく。これがとてつもなく大事。先の例で出したModified Centor’s Criteriaは、咽頭痛を主訴にする患者さんで、ウイルス性咽頭炎か細菌性咽頭炎かの鑑別に用いるもの。咽頭痛というだけで使ってはいけません。きちんと危険な疾患を除外して、上記の2疾患が鑑別となった時に用いるものです。乱暴に言えば、咳を主訴にした患者さんに咽頭痛があるからと言ってこのスコアリングを使う、なんてことをしてしまうと肺炎の患者さんをウイルス性咽頭炎として帰してしまう、ということになります。どういうセッティングで用いるものかをはっきりと理解しましょう。そうでない状態で使ってしまってはミスリードされてしまいます。

 診察と検査は、しっかりと尤度比を理解した上で用いましょう。そして、診察前確率のところでお話ししたように、病歴の中で得られる症状についてもそれは当てはまるものです。その中にも尤度比が分かっているものがありますし、実はこれまで述べたこと、すなわち患者背景と病歴から鑑別疾患群の順位づけをするという作業自体が、数字的には表れにくいんですけど、”経験的な尤度比”に基づくものなのでした。感覚的確率アプローチは、「らしさ」「らしくなさ」を照合度合いで決めるものですが、この感覚的というのは、数字に出ない尤度比っていうのも意識して名付けたものなんです。

 尤度比の使い方のセオリーとしては、鑑別順位の上位にある疾患に対しては尤度比が5以上、出来れば10以上のものを検索してRule inに、鑑別順位の下位にある疾患に対しては尤度比が0.2以下、出来れば0.1以下のものを検索してRule outに持って行くというもの。ただし、くどいようですが「見逃してはいけない疾患」に対しては、尤度比が0に近い所見があってもRule outというよりは一端保留という態度にしておく方が安全だと思います。

 また、診察や、検査の中でも超音波などはそれを行う医師の腕によってかなり所見の出方が異なってきます。研修医のうちは論文に出ているような尤度比を自分が出せるとは思わずに、少し差し引いて考えておくことが大事です。病歴も、熟練者の聞き方によって初めて得られる情報もあります。

 救急外来で用いることのある検査について、いくつかピックアップして尤度比をベースに解説している記事もあります。参考にしてみて下さい。

 まとめですが、各疾患について、尤度比が分かっている所見を3段階に分けましょう。そして、有用とされているスコアリングがあるのなら覚えて活用しましょう。しかし、尤度比を活用する際は“セッティング”をきちんと意識し、また一歩手前の確率を出来るだけきちんと見積もることが大事となります。
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コメント
ついつい尤度比だけで考えてしまうんですよね。
先生の仰るように、事前確率が大事だと噛みしめました。そういう意味でもステップに分けておくのは良いですね!
通りすがりdot 2012.01.24 12:42 | 編集
>通りすがりさん 
そうですね。見積もり、を意識するにはステップに区切ると分かりやすいと思います。尤度比だけで物事を決めるのは、碁盤をひっくり返すようなものです。それまでの照合度合いを大切にしましょう。
m03a076ddot 2012.01.25 23:22 | 編集
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