2012
01.13

輸液 Starter & Booster:第3回~輸液製剤を分解する

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 前回は張度の概念と、少し炎症のお話もしました。ここからは輸液製剤について学びましょう。輸液製剤には、外液と呼ばれる生理食塩水(生食)や乳酸リンゲル液(ラクテック®など)、後は1号液~4号液、5%ブドウ糖液、そして膠質浸透圧を意識した膠質液と呼ばれる輸液製剤、例えばアルブミン液などがあります。大きく分けて、電解質の入っている輸液製剤を晶質液、ニカワ成分が入っていて血管内への水分保持能を高めたものを膠質液と言います。膠質液は特殊なので、まずはそれから説明を。

 膠質液はアルブミン液が代表ですが、生物製剤なので高価で感染のリスクがあるとのことで、代用としてデンプンやゼラチンを混ぜたもの(サリンヘス®など)もあります。これら膠質液の特徴は血管内に留まる能力が高いということ。細胞間質に逃げにくいということから、理論的には血管内の容量の少なくなってしまった患者さんには適任です。中でもアルブミン液は4.4%や5%のものと、20-25%という高濃度のものがあり、4.4%や5%ですと血漿のアルブミン濃度に近いので、投与した量がそのまま血漿に。20-25%のものはめちゃくちゃ濃いです。ということは、膠質浸透圧が上昇、換言すると血管内の張度が上昇。すると、間質や細胞内からぐぐっと水を引っ張ってきますね。なので、投与量以上の血漿量が増加することになります。



 ただ、皆さんご存じの様に、アルブミン液を代表とする膠質液が生命予後の改善に役立っているという明らかな研究結果は出ていません。そればかりか、代用の膠質液は敗血症に対して使用した際、腎臓に悪い影響を与える可能性があると示唆されています(Renal effects of synthetic colloids and crystalloids in patients with severe sepsis: A prospective sequential comparison. Critical Care Medicine: June 2011 - Volume 39 - Issue 6 - pp 1335-1342)。これは敗血症に限ったことではなく、いわゆるcritically ill patientや、特にデンプンの分子量が大きいとそのリスクが高まるとされます。合成の膠質液の中でも第三世代と言われるHES 130/0.4というものは腎障害を与えないと言われていますが、それも果たして。現在大規模研究が行われています。

 しかし、だからといって全てを生食などの等張晶質液にするというのはフェアでないかもしれません。対決姿勢にするんじゃなくて、晶質液と膠質液とが手を取り合って血管内水分の保持に努めねばいかんのでしょうね。また今度お話ししますが、輸液ではまず血管内水分量が適切かどうかを考えます。少なすぎても多すぎても内皮細胞表面層が関与する血管壁バリアの機能が低下します。そうすると、凝固系に乱れが生じたりタンパクを多く含んだ水分が血管外へ移動したりしてしまいます。この場合には炎症のコントロールに努めると同時にアルブミン液などの膠質液を投与して血管内の膠質浸透圧を維持することも候補になります。血管内容量を維持すれば、血管壁バリア機能が相当低下していても間質への水分移動を減らすことが出来ます。輸液を考える際には血管壁バリアを意識した“炎症”概念を持ち出す必要があると言えましょう。いかなる時も、どうすれば血管内に適切な水分量を保持できるか、有効循環血漿量(動脈系への“血の巡りの良さ”)を保てるか、それを考えるべき。細胞間質へ水分が逃げてしまうことと血管内容量が多すぎることの両者とも出来るだけ避けたいもんです。

 さて、炎症の話はここまでにして、次はその他の輸液です。ここでの原理原則は、高張液や栄養輸液を除いて「全ての輸液製剤は生食(等張液)とブドウ糖液(自由水)を混ぜ合わせたものだ」と言うこと。

 生食はNaとClとが154mEq/Lずつ入っています。細胞外液のNa濃度とほぼ同じなので、生理的であります。これを投与すると、細胞外液に広がっていきます。なにぶん生理的でして、張度も細胞外液と同じ。154mEq/Lという濃度のNaは血管内を自由に移動しますが、細胞外液の張度を変えないので細胞内液に干渉せず。血管内と細胞間質に分布するのです。分布量としては、「生食≒細胞外液」ですから、最初に戻って「細胞外液の3/4が細胞間質、1/4が血漿量」という事実を思い出せば、3/4が細胞間質へ、1/4が血漿へということが分かるかと思います。



 乳酸リンゲルも生食と同じ外液に属しますが、成分が若干違います。生食は細胞外液の陽イオン(と言っても殆どNaですが)を全てNaに、陰イオンを全てClに置き換えたもの。乳酸リンゲルはNa 130 mEq/L、K 4 mEq/L、Ca 3 mEq/L、Cl 109 mEq/L、Lac 28 mEq/Lとなっています。このKや乳酸を嫌う先生方もいますが、臨床的には特に問題にならないことの方が多いと言われます。生食はClが多く含まれているため大量投与では高Cl性代謝性アシドーシスを呈しやすく、そのためか腎機能保持に関しても乳酸リンゲルの方に分があるのでは?と言う意見も。乳酸も乳酸リンゲルに入っている量だと大丈夫とMarino先生も仰ってますね。

 5%ブドウ糖液はどうでしょう。このブドウ糖はすぐに分解されるため、張度を形成するような溶質のない水、osmole free waterを入れているのと同じ。良く言われる自由水free waterは、真水であると理解しましょう。自由水だと尾崎豊を連想しますし、何が自由だか分からないですよね。アルコールフリーとか糖質フリーとかのフリーです。ちなみに純粋な水を入れてしまうとその部位だけでも張度が急激に下がって赤血球が溶血を起こしてしまいますよ。5%ブドウ糖液は溶質のない水を入れているのと同じ。ということは、張度0です。細胞外液に入り、その張度を下げる。すると細胞内液の張度の方が相対的に高くなり、サーッと細胞内液にも広がります。容積比は最初にお話ししたように細胞内液:細胞間質:血漿量=8:3:1なので、それに従って分布。ただし、ものすごく濃いブドウ糖液を、分解速度を上回るくらいに投与すると、血漿内で無視できない張度を作り出します。



 他の輸液製剤はこの生食(等張液)と5%ブドウ糖液(自由水)との組み合わせで説明できます。例えば生食の半分の輸液があるとします。0.45%食塩水ですね。これを1000mL輸液するとします。するとこの1000mLは、生食500mLと5%ブドウ糖液500mLとを輸液したものと解釈できます。生食500mLは全て細胞外液に、5%ブドウ糖液500mLは1/3が細胞外液に、2/3が細胞内液に。こんな感じで輸液をイメージできるんです。

 しかし、輸液の中身を見てみると、大体はKとか他の電解質も含まれています。もちろん、Na以外の陽イオンも張度を作りますし、血漿と異なり輸液の種類によっては中に含まれているKの量は無視できません。よって、輸液に関して言うと、NaとKを張度の要員として数えましょう。他の電解質は少ないのでスルーできます。ということは、輸液の生食らしさ、すなわち等張性を考える場合は、輸液のNaとKの総和で判断。ある輸液のNaが77mEq/Lであっても、Kも同量の77mEq/Lであれば、これは立派な等張液で、細胞外液にのみ分布します。

 以上を踏まえて、1号液~4号液を見てみましょう。ここでは、ソリタT1号®とソリタT3号®を分解。

 T1はNaが90mEq/L含まれています。Kは入っていません。ということは、154mEq/Lが等張だから、等張液らしさは90/154≒0.59となります。T1を1000mL投与すると、590mLの等張液と410mLの自由水を投与することと同じ。生食の590mLはそのまま細胞外液に、細かく言うと3:1で細胞間質と血管内に、5%ブドウ糖液の410mLは8:3:1で細胞内液と細胞間質と血管内に分布します。

 T3はNaが35mEq/Lですが、Kが20mEq/L入っています。足すと55mEq/Lなので、等張性は55/154≒0.36となります。T3を同じく1000mL投与すると、360mLの等張液(Kが入っているので生食という言い方は避けました)と640mLの自由水を投与するのと同じになります。以下のような位置づけですね。



 この様に輸液製剤を分解すると、どれくらい分布するかの印象が沸くと思います。1号から4号になるにつれて、生食らしさが無くなっていき、真水らしさが出てくる、そう理解すると良いですね。ここで、生食とT1、T3、5%ブドウ糖溶液の各コンパートメント分布を表にしてみましょう。多くのテキストに載っていますが、表になっていた方が分かりやすいですし。

輸液の分布

 ただし、これは理論的なモノの言い方です。特に血管内の水分が少ない患者さんに生食を入れた場合、半分くらいは血管内に残るとも言われます。人間の身体は全て計算通りには運ばないので、臨床的な状況を常に加味することが大事。
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コメント
お世話になっています。もなかのさいちゅうで勉強させてもらっています。
第3回~輸液製剤を分解する の一番下の図ですが

細胞内液(8) 細胞外液(3)  
細胞間質(2) 血管内(1)
となっていますが 細胞外液(4) 細胞間質(3) 血管内(1) の間違いではないですか?
万年研修医dot 2014.05.24 14:00 | 編集
>万年研修医さん(先生)

ありがとうございます。
確かにご指摘のとおりです。今まで気づきませんでした…。
各輸液製剤のmLは合っていますが、比の数字が誤ってますね。。。
失礼いたしました。数字への弱さが露呈した感があります。
本の方も間違ってますね…。『臨床研修はじめの一歩』182ページの図も同様に訂正でございます。
わざわざありがとうございました。
また何か間違いがあったらご指摘いただければと存じます。
m03a076ddot 2014.05.25 23:14 | 編集
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