2012
01.10

輸液 Starter & Booster:第2回~浸透圧から張度の理解へ

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 さて、第1回では浸透圧が水を引っ張る力と言いましたが、もっと詳しく説明すると、ここで言う浸透圧は、細胞膜を通過できない物質による圧である、ともう一歩踏み込んだ理解をしましょう。水は、細胞内液と細胞外液の両陣営にしっかりと分かれている連中が引っ張り合います。尿素なんてのは細胞膜をひょいひょい通過してどっちの陣営にも行ったり来たりする軽薄な輩なので、引っ張り合いには参加しません。敵から水を引っ張る、その強い意志のある物質をeffective osmole(有効浸透圧物質)と言い、それによって作られる浸透圧を有効浸透圧(effective osmolality)張度(tonicity)と呼びます。この張度という概念は重要なので、しっかり押さえておきましょう。

 浸透圧と張度は違う。これを式で見てみます。血漿浸透圧の式は覚えているでしょうか。


血漿浸透圧(mOsm/kgH2O)=2×[Na+ + K+]+血糖(mg/dL)/18+BUN(mg/dL)/2.8


 Na濃度やK濃度に2を掛けるのは、同じ分だけ陰イオンを連れてくるからでした。では血漿張度はどうなるか??


血漿張度(mOsm/kgH2O)=2×[Na+ + K+]+血糖(mg/dL)/18


 このようになります。尿素(BUN)は自由に細胞内外を行き来するので、張度には関与しません。ブドウ糖は細胞外液側の陣営なので、張度にも参加。でもこの張度、もう少し簡単にできます。


血漿張度(mOsm/kgH2O)≒2×[Na+ + K+]


 何と細胞外液側にきちんといるはずのブドウ糖が省けます。著しい高血糖でない限り、「血糖(mg/dL)/18」というのは微々たる戦力。なので、殆どいないも同然。ヤムチャのような存在なんですね。。。Kも同じです。血漿中のKは少ないので、これも無視してしまっても大丈夫。ということは、浸透圧と張度の式はここまで簡単になります。


血漿浸透圧(mOsm/kgH2O)≒2×[Na+]+血糖(mg/dL)/18+BUN(mg/dL)/2.8
血漿張度(mOsm/kgH2O)≒2×[Na+]


 おー、あっさり。これから分かるように、水の移動に寄与する血漿張度はほぼNaが命運を握っているようなもの。

 では、お塩を食べると?お塩は細胞外液に行きますね。すると細胞外液の張度が上昇し、細胞内液の水を引っ張ります。細胞内液が減少するとADHが分泌されて水を出さないようにして、また口渇感が出てきて飲水します。水を飲むと2/3は細胞内液に、1/3は細胞外液に分布。細胞内液が元の量を復活させる頃には、細胞外液は増えています。ということは、Na量が増えると細胞外液が増えますね。循環血漿量が増加したり浮腫になったり。逆にNa量が減ると細胞外液が減ってしまって、カラカラに。Naの投与は細胞外液に影響するんですね。

 量の話が出たら、今度は濃度の話も。Na濃度が下がる、いわゆる低Na血症ではどうでしょう?細胞外液の張度が減少。ということは、水が細胞内液の方へ。高Na血症だと、細胞外液の張度が上がるので、水が細胞外液の方へ引っ張られます。Naの濃度は、細胞内液に影響するんですね。

 簡潔に言うと、Na量は細胞外液に影響し、Na濃度は細胞内液に影響する。こうまとめられます。実際にNa関連の問題ではこの量と濃度の程度が色々混ざっていますが、まずは簡単にこう覚えておきましょう。

 そうか、水の移動はNaを押さえれば良いんだな。確かにそうです。しかし、ここでもう1つ、水の移動に関わる物質が登場します。“膠質浸透圧”って、聞いたことあるでしょうか?それに関わるのが、アルブミンを代表とする血漿蛋白。これらも水を引っ張る力を持ちます。ただしこのアルブミンは血漿の中のみ。普通の状態では血管の外には出て行きません。何とシャイな。。。大きく言うと、膠質浸透圧は「血管内外限定の張度をつくる」と言っても良いかもしれません。Naは血管内外の移動が自由なのが違い。

 ただし、この膠質浸透圧について少し違う言い方が最近はされています。血管内皮細胞の表面には厚さが1μm以上もある層(ESL)があると言われており、この層は、glycocalyxとそれに結合した血漿タンパクと血漿水分から成っています。これと血管内皮細胞が血管壁の二重バリアを形成し、血管の内から外へ水分が無制限に出て行くのを防いでいる様です。



 血管内に水をとどめておくには、血管内外の膠質浸透圧差よりもこの層自体に膠質浸透圧勾配があることが重要、と考えられています。でも今の段階では考えやすいように、膠質浸透圧は「血管内外限定の張度をつくる」と覚えておきましょう。ちなみに、この層のglycocalyxは、炎症や血管内容量過多などなどによりアルブミンが減少したりTNFαやらANPやらが多くなったりすることで、傷ついてしまいます。これが少なくなると血小板凝集・白血球接着・内皮細胞の透過性亢進が生じることで、凝固系のバランスが乱れ、また水が血管の外へ逃げて組織浮腫となってしまいます。この血管壁バリアを守る/回復させるというコンセプトは重要で、“炎症と凝固の相互作用”を考える際にはこの先重要な概念となってきます(Therapeutic strategies targeting the endothelial glycocalyx: acute deficits, but great potential. Cardiovasc Res (2010) 87 (2): 300-310.)。



 さて、輸液の話に戻ると、細胞の内外ではNaが水の引っ張り合いに関与し、血管の内外では血漿蛋白が水の引っ張り合いに関与する、と簡単に考えて良さそうです。



 すると、長期の低栄養や激しい炎症により血漿蛋白が少なくなるとどうなるか、はもう分かりますね。血管壁バリアも傷ついてしまい水を血管内に引っ張っておく力が足りなくなるので、血管内から水が逃げていって、間質に移行します。これは、浮腫や胸水という形で臨床像を呈します。細胞外液量としては結構な量があっても、血管内の量は少なくなってしまうという事態はこういう状態で現れ、これは厄介。。。こういう状態は、血漿のアルブミン濃度が2g/dL以下になると顕著に見られます。

 他に“圧”の付くものには、毛細血管部位の静水圧があります。血管から水が出て行く強さのこと。血液は細動脈から毛細血管を経て細静脈に流れますが、毛細血管は文字通り細く、動脈側では血液が渋滞しがち。この渋滞の強さが静水圧の強さの様なものと考えて下さい。静脈側の流れが滞ってしまうと、動脈側の渋滞が強くなり血管外に水が押し出されてしまいます。ただし、健康な状態ではあまり静水圧は血管内外の水の出入りに関与していません。先ほども出てきた内皮細胞表面層、これが大きく関与しています。炎症の酷い状態や手術や麻酔時など、この血管壁のバリアが傷ついた状態ではスターリングの法則が成り立ち、毛細血管内外の静水圧と膠質浸透圧が平衡するように水分が移動します。手術は外傷と考え、輸液を組む際はそこから導かれる炎症のコントロールという意識を持ちましょう。

 後1つ、輸液を学ぶ際に重要な知識、と言っても当然のものですが、全ての液の出入りは血管内を経由する、ということです。経口摂取も輸液も血管内を通して体内に分布します。汗や尿などの喪失も血管内を介します。本当に当然な事実でありますが、これはきちんと認識しておきましょう。この血管内から、主に張度の変化によって細胞内外へ水の移動がなされていきます。
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コメント
張度のことを書いてある本て少ないですよね。
そこが分からないと電解質とか輸液の全体がつかみにくい感じがします。
先生はどの本で張度の勉強をされたんですか?
通りすがりdot 2012.01.14 14:03 | 編集
>通りすがりさん 
そうですね。張度を理解することで、随分と電解質補正や輸液については一段深く考えることが出来ますね。
自分は、中外医学社から出ている柴垣先生の「より理解を深める!体液電解質異常と輸液」という本で張度を知りました。決して入門用のテキストではないですが、和書の中では最も優れた電解質異常のテキストだと思っています。
m03a076ddot 2012.01.15 17:10 | 編集
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