2012
01.10

感染症診療 Starter & Booster:第8回~グラム染色での見え方と臨床的知識

目次→コチラ

 前回は常在菌と感染原因菌との関連を学びました。その中では菌の名前がたくさん出てきましたので、グラム染色での判別も兼ねて、GPCとGNRの知識を少し入れておきましょう。今回、真菌は省きます。

 まずグラム染色では、青か赤かで陽性か陰性かを判断し、次にブドウ状や連鎖状などの種類を分けましょう。そして、形や大きさなどから見えている菌の名前を考えてみます。最初のうちはこれらに気を配って顕微鏡を覗いてみましょう。もちろん、菌名の推定は臨床状況を加味して行います。

 覗くと言っても、検体のどこを顕微鏡見れば良いのでしょうか?ポイントは、細胞が濃くなるところと薄くなるところの境界線、いわゆる”波打ち際”ですね。無ければ薄い部分を、それも無ければ濃い部分を探します。波打ち際は細胞数も適度で染まり具合も丁度いいので、最も見やすい部分なんです(藤本卓司先生の「感染症レジデントマニュアル」にその記載があります)。



 まずは、グラム陽性のブドウ状球菌から見てみましょう。これが見えたら、S. aureusかCNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)か、そしてMR(メチシリン耐性)か否か、この2点を思い浮かべます。

 CNSにはS. epidermidisS. saprophyticsなどがあり、後者は性的にactiveな若年女性の尿路感染症の時に考慮するくらいで、他の状況ではS. epidermidisを多く想定します。なので、ここでは臨床的に重要なS. aureusS. epidermidisとを考えます。MRか否かですが、S. epidermidisであればとりあえずMRSEであろうと判断してコトを進めます。S. aureusは院内感染だとMRSAとして最初は考えておきます。市中感染では、最初はMSSAとして考えます。最近は地域によってCA-MRSA(Community Acquired MRSA)という耐性菌を考慮しなければならないところもありますけどね。この菌については後でお話しします。

 問題は、グラム染色でブドウ球菌のS. aureusS. epidermidisとを判別できるか?というところ。研修医の段階ではそこまで踏み込まない方が良いのかもしれませんが、慣れてくると何となく特徴が分かってきます。その特徴は、培養していない状態の検体ではS. aureusよりもS. epidermidisの方が、1つ1つが丸々としていて大きいかな?というもの。じーっと見ると、何となく…?でもほとんどアテにならないと思います。

スライド1

 注意が必要なのは、上記のものが非培養検体という点。血液培養の、しかも好気ボトルのグラム染色においては、なんと逆になります。すなわち、好気ボトルではS. aureusの方が丸々としていて大きく見え、クラスター度も高いです(嫌気ボトルでは元気なく見えますが)。これは論文も幾つか出ていて結構頼りになる所見(血液培養液中のブドウ球菌属の塗抹グラム染色による形態学的鑑別 感染症学雑誌第82巻第6号、Rapid identification of Staphylococcus aureus from BacT/ALERT blood culture bottles by direct Gram stain characteristics J Clin Pathol; 2004;57:199-201 doi:10.1136/jcp.2003.10538 )。これは補足として1つの記事を設けて追加記載しています(補足→コチラ)。

 次はグラム陽性の連鎖状球菌で、これには連鎖球菌と腸球菌が含まれます。グラム染色の見え方をお話しする前に、連鎖球菌について述べておく必要があります。A群とかβ型とかが連鎖球菌の表現に出てきますね。連鎖球菌には多くの種類があり、代表的な分類は、寒天培地上の溶血によるものとLancefield抗原によるものとがあります。これが群やら型やらという分け方なのですが、何ともややこしい。。。嫌々ながらも少し詳しく見てみましょう。

 溶血による分類では、α型(コロニー周囲に緑色の溶血環を生成)、β型(透明の溶血環を生成)、γ型(溶血環を生成しない)の3種類。漠然と、β型が最も病原性が強く、最も弱いのがγ型と覚えます。α型は中間ですが、これに含まれるS. pneumoniaeは例外的に病原性が強いということは知っておきましょう。β型がいわゆる溶連菌というもので、α型にviridans streptococciの多くが含まれます。

 Lancefieldの分類はA~V群まであり(IとJは欠番)、大きく言えばA群(C, G群)は最も病原性が強く、D群はマイルドです。B群はその間。A群(C, G群)、D群、B群以外の群は出番も少なく、割愛します。青木先生の仰るように、このLancefieldの分類は、β型という最強グループをより細かく見るためのものと考えていいかもしれません。

 かなり大ざっぱですが、この2つの分類を併せて見てみます。



 β型にはA群としてS. pyogenes、B群としてS. agalactiae、C, G群として主にS. dysagalactiaeがいます。B群は皮膚、鼻咽頭、腸管、女性生殖器に常在していますが、若干病原性が劣るので、新生児や妊婦、高齢者、糖尿病など免疫機能が少し低下した患者さんがターゲットになります。C, G群も多くは基礎に何かある人に感染し、A群と同じように咽頭炎、蜂窩織炎などを起こします。菌血症を生じることもあり、また心内膜炎の原因にもなります。

 α型には抗原分類できないS. pneumoniaeの他に様々なグループがあります。それらは口腔内に常在しているということが大事で、心内膜炎の原因菌になります。この中でもS. milleri groupは膿瘍を作りやすいという傾向があり、覚えておいて良い知識。病原性という点では肺炎球菌は強力ですが、その他は若干力不足。抗原分類では様々な群が見られます。血液内科領域ではたまにβ-ラクタム系が利かないα型連鎖球菌がいるので注意。

 γ型には、以前は腸球菌が含まれていましたが今は外されています。ここにも様々なグループが入ります。D群のS. bovisはα型やγ型を示します。彼は腸管に常在としており、心内膜炎の原因にもなりますが、何といっても結腸癌の併発。この菌が検出されたら、癌の検索はしましょう。病原性そのものは強くありません。

 さて、腸球菌に関してはE. faecalisE. faeciumとを意識しましょう。後者の場合は何とVRE(バンコマイシン耐性腸球菌)を考えねばなりません。前者にVREはほとんどいません。この腸球菌、腹腔内感染や尿路感染でポツポツと検出されますが、臨床的な意義がなかなか分からないこともあります。腹腔内感染症でこれ以外の原因菌をカバーする抗菌薬で治療しても治ってしまうことは良く経験するものでして。ただ、カテ感染と感染性心内膜炎では完全なる原因菌になります。

 こういった細菌たちを含め、グラム染色でこれらを見分けられるかどうか。連鎖する数と1つ1つの形を見て行くことになります。

スライド2

 S. pneumoniaeは2連鎖が多くいわゆるランセット型でして、丸々とはしておらず細長い感じ。莢膜を持っているので、その部分が抜けて見えることもあります。この菌は簡単に分かると思うかもしれませんが、見た目だけでS. pneumoniaeと自信を持って言うのは難しいかもしれません。鑑別となって出てくるのが、意外かもしれませんがGNCのMoraxellaです。彼らは強く染まってしまうことがあり、グラム陽性に見えなくもない時も。しかしMoraxellaはけっこう丸い双球菌でしかも集塊を作らないというのが特徴。また、S. pneumoniaeはその細長さのためGPRのCorynebacteriumと間違えやすいです。Corynebacteriumはハの字型に曲がっており、S. pneumoniaeよりも大きく染色も強いのが鑑別ポイント。S. pneumoniaeはペニシリン耐性の度合いからPSSP、PISP、PRSPに分けられています。それについては後述しましょう。

 腸球菌は4-8連鎖です。1つ1つが少し細長いのがfaecalisで、丸いのがfaeciumと言われおり、何回も染色像を見ると何となく見分けが付いてきます。前者はS. pneumoniaeと似ていて、後者はS. agalactiaeとの鑑別を要します。そのS. agalactiaeは1つ1つの直径が約1μmであり、連鎖球菌の中では大型(S. aureusと同じくらい)。丸々としていて染まりの良いことが特徴。

 E. faecalisと似たような形で連鎖が8連鎖以上と非常に長ければ、viridans streptococciを考えます。しかし、viridans streptococciの全てが長い連鎖となるわけではありません。膿瘍形成をしやすいS. milleri groupは短連鎖で染色性が少し悪くはっきりしないのが特徴となります。難しいですね。

 また、菌周囲が赤く見えるのなら、いわゆる溶連菌の可能性が高いとも言われます(グラム染色道場師範手前のご意見)。鑑別の補助としてみましょう。

 どこまでグラム染色で迫るか、というのは難しいところです。臨床状況と検体を加味した上で、S. pneumoniaeらしさと腸球菌らしさを意識するところから始めるのが良いかなと思います。欲が出てきたら、背景情報(フィブリン塊、上皮など)にも目を配ると深みが出てきますよ。

 次はグラム陰性の桿菌。これは腸内細菌科かブドウ糖非発酵菌かの区別を付けたいところ。何故かというと、後者にはP. aeruginosaをはじめ院内感染の原因菌が含まれており、抗菌薬の選択に大きな影響を与えるからなんです。また、グラム陰性菌でも薬剤耐性は問題になっており、ESBL、AmpC、メタロβ-ラクタマーゼ、インフルエンザ桿菌のBLNARなどは良く悩みの種となります。こういった耐性菌は項を改めてお話しします。

 一般にグラム染色では、腸内細菌科は濃く染まり縁がカクカクっとなっていて、ブドウ糖非発酵菌はやや薄く染まって、縁が丸く見えます。

スライド3

 P. aeruginosaはブドウ糖非発酵菌の代表選手ですが、KlebsiellaH. influenzaeとの鑑別が必要になってきます。P. aeruginosaは柔らかい感じの色合いで、小さめで何となくひょろっとしている。サナトリウムにいる青年のような印象を受けます。塊を作ることも多いですね。ムコイドがあるならその部分もベタっとした感じに染まってきます。菌の両端が丸く、やや湾曲していることも鑑別の注意点。

 Klebsiellaは赤くはっきり染まる感じで、やや厚みのあるその菌の両端はカクカクしてます。しかし検体の種類によって形が少し変わってくるのがクセモノ。連鎖状に見えることもあり、染色次第ではブドウ球菌やS. pneumoniaeと間違えそうになることもあります。ムコイドもありますが、塊を作ると言うよりも散在している感じ。この菌は基礎疾患を持っているような人に良く感染を起こし、その部位も多彩。色々な感染症を引き起こします。免疫が正常でも尿路感染や肝胆道系感染症などは起こりやすいです。

 H. influenzaeは一面に散在していてゴミの様に見えるのが特徴。桿菌とは言いますが、短いので細長い印象をあまり受けません。フィラメント化して長くなっているものもあり、そうなるとP. aeruginosaとの区別が難しくなってきます。この菌には非莢膜株と莢膜株との2種があり、病原性も異なります。非莢膜株が中耳炎や肺炎など気道感染症を起こす一般的なもの。莢膜株は血流に進入して感染を起こします。敗血症や新生児の髄膜炎、急性喉頭蓋炎などの原因。良くHibと言いますが、これはH. influenzae type bのことで、代表的な莢膜株です。

 嫌気性菌の見え方も話しておきましょう。

スライド4

 嫌気性菌の関与する感染は混合感染なので、グラム染色では色々な菌が見えます(polymicrobial pattern)。ということは、グラム染色で陽性も陰性も長いのも丸いのも色々見えたら、嫌気性菌が感染に一役買っているのかしらと考えましょう。嫌気性GPCの場合は菌が小さいこと、染色性が不均一になることが特徴です。嫌気性GNRは腸内細菌科のようにしっかりと染色されず、どちらか言えばP. aeruginosaなどのように少し薄い染まりに。多形性を示す菌が多く、Bacteroidesはそれが特徴的です。Fusobacteriumなどは縁が細く、紡錘形になることもあります。

 最後に、貪食像について。顕微鏡で覗いてみると、貪食?それとも白血球に菌が乗っているだけ?と疑問に思う時がありますが、その判断の目安は、白血球の核です。

 白血球の核は標本の表面方向に盛り上がって立体的に見えます。貪食なら、菌は白血球の核と同じかそれより下のレベル。顕微鏡のピントをちょろちょろっと動かして、核や細胞質と同じレベルにいるか見てみましょう。核より少し上のピントにすると、白血球はぼやけます。菌もぼやけるなら貪食で、はっきり見えるようになれば乗ってるだけ。でも難しいですね。。。

 細菌の分類、常在菌と原因菌との関連、グラム染色での代表的な菌の鑑別。以上の臨床微生物学は、抗菌薬選択の際に重要となってきます。菌によって随分と性格に違いがあるなと理解してくれたでしょうか。こういった知識を踏まえて、次は抗菌薬について学びます。
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