2011
12.27

感染症診療 Starter & Booster:第7回~常在菌と市中感染原因菌との関連

目次→コチラ

 これまで”常在菌の大事さ”と”臨床的な視点からの細菌分類”を記事にしてきました。ここで、大野先生のテキスト(感染症入門レクチャーノーツ)を参考にして、代表的な常在菌と市中感染原因菌とを並べます。これまでの基本的なルールを覚えておくと、これらの関連も何となく分かってくるのではないでしょうか。今回は、この関連を知ってもらえると良いなと思います。

 以下の表を見ると、常在菌は

・皮膚:GPC~Group A, Group B StreptococciとStaphylococcus
・鼻咽頭:GPC~D群以外の連鎖球菌(S. pneumoniae含む)とStaphylococcus、GNR~H. influenzaeなど
・腸管:GPC~腸球菌、直腸には Group B Streptococci、GNR~腸内細菌科やE. coliなど


を筆頭とした勢力関係が見られるのが分かるかと思います(大雑把ですけどね)。女性生殖器の常在菌はCandidaや Group B Streptococci、lactobacillusなどがいるのですが、妊娠時や月経周期によって微妙に変わってきます。連鎖球菌のGroup AやGroup B(A群、B群)といった分類の説明はもう少し後するので、今はあまり気にしないでください。



 これら常在菌の雰囲気を掴んだ上で、各臓器の主な感染症15個の原因菌を見てみましょう。バリア破綻と閉塞の2つを考えると、常在と感染の立場が見えてくると思います。

★主な市中感染原因菌
(1)中枢神経-特に細菌性髄膜炎
GPC:Streptococcus pneumoniae
GNC:Neisseria meningitidis
GNR:Haemophilus influenzae など
 鼻咽頭に住む菌の勢いが強いと、髄膜にまで波及します。N. meningitidisは髄膜に感染を起こすのが大好きです。H. influenzaeは鼻咽頭に住んでいるGNRの代表。

(2)副鼻腔炎
GPC:Streptococcus pneumoniae, Staphylococcus aureus
GNR:Haemophilus influenzae
GNC:Moraxella catarrhalis など
 これも大体鼻咽頭に住んでいる菌が感染を起こします。Moraxellaは副鼻腔、中耳、肺に感染を起こすのが得意な菌。

(3)中耳炎・外耳炎
中耳炎
GPC:Streptococcus pneumoniae
GNR:Haemophilus influenzae
GNC:Moraxella catarrhalis など
外耳炎
GPC:Staphylococcus aureus
GNR:Pseudomonas aeruginosa
Fungi:Candida spp., Aspergillus など
 外耳炎は皮膚の感染なので、S. aureusが前面に出ます。鼓膜で仕切られ、その内側の中耳は気道となります。よって、肺や副鼻腔と同じ扱い。

(4)咽頭炎
GPC:Group A Streptococci(GAS:Streptococcus pyogenes
 咽頭炎はGroup A Streptococciがほとんどで、少数は他の鼻咽頭常在菌によります。GASは肺や副鼻腔に感染を起こすのは苦手で、ここを好みます。後は、性行為感染症としてNeisseria gonorrhoeaeも咽頭炎を起こすことがあります。

(5)肺炎
GPC:Streptococcus pneumoniae
GNR:Haemophilus influenzae, Legionella pneumophila
GNC:Moraxella catarrhalis など
その他:Chlamydophila pneumoniae, Mycoplasma pneumoniae など
 鼻咽頭の菌が肺に移って感染を起こします。これまでを見て分かるように、鼻咽頭に常在する菌でもStaphylococcusや肺炎球菌以外の連鎖球菌は副鼻腔・中耳・肺・咽頭へ感染を起こすのを大の苦手としています。GASは咽頭炎を起こすのは得意ですが、これは例外的。彼らがこの範囲の感染原因菌となる場合は、COPDやインフルエンザなど、何らかの足がかりが必要となります。外部から侵入する菌では、LegionellaChlamydophila pneumoniaeなどなど。Legionellaは50歳以降の男性に多く、異様に熱が上がったりNaが下がったり肝酵素が上がったり、何とも不思議な振る舞いをします。

(6)感染性心内膜炎
GPC:Staphylococcus aureus, Viridans streptococci, Enterococci など
 心内膜にはGPCが血流に乗って感染を起こすことが多いです。GNRは少しここが苦手。”発熱+心雑音”では、常にこの疾患を念頭に置きましょう。雰囲気は”悪性腫瘍+膠原病”的でして、症状や検査値に現れます。不明熱の代表格で、関節痛や腰痛があったり、RFが上がったり補体が下がったり。GPCが血液培養ボトルからバンバン検出されたらこの疾患とカテ感染を考慮します。

(7)腸管内感染症
GNR:Vibrio parahaemolyticus, V. cholera, ETEC, Campylobacter jejuni, Salmonella enteritidis, Yersinia enterocolitica, Shigella sonnei, EHEC など
 外部から来るGNRが感染を起こします。細菌性腸炎というやつですね。市中感染と言うより院内感染で見かける偽膜性腸炎は、多くは抗菌薬投与と接触感染とが原因となって病棟で問題になり、Clostridium difficileが原因菌。不明熱の原因にもなります。今はClostridium difficile関連下痢症(CDAD)と言うらしいですね。偽膜性腸炎による下痢は独特な臭いがするので、経験的には病室に入った時の臭いで分かることもあります(確たるエビデンスは無いですが)。この偽膜性腸炎、何とPPI(プロトンポンプインヒビター:オメプラゾールやランソプラゾールなど)がリスク因子になるとFDAが2012年2月に発表しています。具体的には、PPI使用時の、改善しない下痢。この時に偽膜性腸炎を疑いなさい、と助言しています。

(8)腹腔内感染症
GPC:Enterococci
GNR:”Enterobacteriaceae”~E. coli, Proteus, Klebsiella, Enterobacter など
Anaerobes:Bacteroides fragilis など
 多くは腸管に住んでいるGNRと嫌気性菌によるもの。”閉塞”が起点になるんでしたね。ただし腸球菌がどの位腹腔内感染に関与しているかは謎らしいです。

(9)尿路感染症・腎盂腎炎
GPC:Enterococci, Staphylococcus saprophyticus
GNR:”Enterobacteriaceae”~E. coli, Proteus, Klebsiella など
 これも腸管にいるGNRが”閉塞により”感染します。嫌気性菌の出番は少ないですが。性的にactiveな女性の尿路感染において、グラム染色でGPCが出たら腸球菌ではなくてStaphylococcus saprophyticusです。高齢者なら腸球菌を疑いましょう。糖尿病患者では重篤な腎盂腎炎でも平気な顔しているので、見た目に騙されないように。

(10)骨盤内炎症性疾患(PID)
GPC:Group B Streptococci(GBS:Streptococcus agalactiae
GPR:Gardnerella vaginalis
GNC:Neisseria gonorrheae
GNR:”Enterobacteriaceae”~E. coli, Proteus, Klebsiella など
Anaerobes:Peptostreptococcus, Bacteroides fragilis
その他:Chlamydia trachomatis など
 同じく腸管にいるGNRと嫌気性菌が”閉塞”により感染します。Streptococcus agalactiae は消化管や女性の膣内に常在する菌。STDを起こすNeisseria gonorrhoeaeChlamydia trachomatisも感染に参加します。

(11)前立腺炎
GPC:Enterococci
GNR:”Enterobacteriaceae”~E. coli, Proteus, Klebsiella など
STDとしてなら
GNC:Neisseria gonorrheae
その他:Chlamydia trachomatis
 同じく腸管にいるGNRと嫌気性菌が”閉塞”により感染します。STDを起こすNeisseira gonorrhoeaeChlamydia trachomatisも参加します。この疾患を疑ったら、躊躇せず直腸診で前立腺を触れて熱感と圧痛を確認です。

(12)肛門周囲膿瘍
GPC:Enterococci
GNR:”Enterobacteriaceae”~E. coli, Proteus, Klebsiella, Enterobacter など
Anaerobes:Bacteroides fragilis など
 同じく腸管にいるGNRと嫌気性菌が”閉塞”により感染します。診察をおろそかにすると見逃されやすいので、発熱の原因がわからない患者さんでは、必ずうつ伏せにして背部とお尻を見ましょう。

(13)皮膚感染症
GPC:Staphylococcus aureus, Streptococi(GAS, GBS etc)
血流障害を伴うと
GPC:Staphylococcus aureus, Streptococi(GAS, GBS etc), Enterococci
GNR:”Enterobacteriaceae”~E. coli, Proteus, Klebsiella, Enterobacter など
Anaerobes:Bacteroides fragilis など
 皮膚の感染は表皮にいるGPCの出番。血流障害があると話は違ってきますが。

(14)骨髄炎、関節炎
化膿性関節炎
GPC:Staphylococcus aureus, Streptococcus pyogenes, Streptococcus agalactiae, Staphylococcus pneumoniae
淋菌性関節炎
GNC:Neisseria gonorrheae
 表皮の常在菌が多いですが、敗血症の一表現としての関節炎もあります。Neisseria gonorrheaeも関節炎を起こすことは知っておきましょう。診断は関節穿刺によってなされます。仙骨部の骨髄炎は上記の菌の他、肛門が近いのでGNRやB. fragilisも原因菌として浮上します。

(15)末梢・中心ライン感染
GPC:Staphylococcus aureus, Staphylococcus epidermidis, Enterococci
GNR:Pseudomonas aeruginosa, ”Enterobacteriaceae”~E. coli, Klebsiella など
Fungi:Candida albicans, non-albicans など
 市中感染というよりも院内感染ですが、重要。表皮の常在菌の他に、P. aeruginosaをはじめとするGNRも考えなければいけません。カテ感染は、疑ったら原則抜去。

 以上が常在菌と主な感染症の原因菌についてです。何となく関連性が分かってきたでしょうか??常在菌を大づかみに覚えて、後はバリア破綻と閉塞というキーワードから各感染症の原因菌を理解していく。これが第一歩になります。
トラックバックURL
http://m03a076d.blog.fc2.com/tb.php/1421-60951e48
トラックバック
コメント
常在菌と感染の関係がスッキリ分かりました!ありがとうございます!
尤度比には足し算のやつもあったんですね。速く計算できて良いです!
6年生dot 2011.12.31 01:27 | 編集
>6年生さん 
コメントありがとうございます。
感染症を理解するには常在菌をとらえることが大事になります。そうすると、暗記量が減って感染の成り立ちを知ることが出来ますよ。
m03a076ddot 2011.12.31 23:16 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top