2011
12.17

躁病の急性期治療に用いる薬剤

 以前、うつ病に用いる抗うつ薬は何を選ぶべきかという内容の記事で引っ張った論文があります(Comparative efficacy and acceptability of 12 new-generation antidepressants: a multiple-treatments meta-analysis. The Lancet, Volume 373, Issue 9665, Pages 746 - 758, 28 February 2009)。その著者らが味を占めたのか、同じ手法であるMultiple Treatments Meta-analysisを用いて、今度は躁病の急性期治療で用いる薬剤で効果のあるものは何だろう?という解析に乗り出しました。それが、2011年Lancetのこの論文。

Comparative efficacy and acceptability of antimanic drugs in acute mania: a multiple-treatments meta-analysis. Lancet 2011; 378: 1306–15

 躁病の急性期治療は3週間という期間。有効性をYMRSで、忍容性を3週間での脱落で評価しました。有効性の対象になったのは63の研究(15673人)で、忍容性の対象は65の研究(15626人)という大きなもの。

 対象となった薬剤は、以下の14種類。ただし、パリペリドンはリスペリドンと同じものとしてこの論文で扱っているため、実際は13種類です。日本で採用されているものにはカナ表記を施しました。

aripiprazole(アリピプラゾール、商品名エビリファイ®)
asenapine
carbamazepine(カルバマゼピン、商品名テグレトール®)
valproate(バルプロ酸、商品名デパケン®/セレニカ®)
gabapentin(ガバペンチン、商品名ガバペン®)
haloperidol(ハロペリドール、商品名セレネース®/リントン®)
lamotrigine(ラモトリギン、商品名ラミクタール®)
lithium(リチウム、商品名リーマス®)
olanzapine(オランザピン、商品名ジプレキサ®)
quetiapine(クエチアピン、商品名セロクエル®)
risperidone(リスペリドン、商品名リスパダール®)
paliperidone(パリペリドン、商品名インヴェガ®)
topiramate(トピラマート、商品名トピナ®)
ziprasidone



 この様な図(クリックすると拡大)で解説されているのですが、やっぱり分かりにくい。別の図を出してみましょう。



 要は、有効性と忍容性を併せて優れている順に挙げると、以下のようになりました。

risperidone(87%)
olanzapine(79%)
haloperidol(75%)
quetiapine(68%)

 鎮静作用のある薬剤が並ぶのは偶然?やはり気分安定薬よりも抗精神病薬の方が効果発現速いですね(これだけを見ると、アリピプラゾールは次点と言ったところでしょうか)。この中で、クエチアピンとハロペリドールを取り上げてみます。

 quetiapine(セロクエル®)は双極性障害のうつ病相に効果てきめんで頻用されますが、躁状態にも良いと言うのが分かりました。非常に優秀な薬剤だと思います。躁ならセロクエルよりもエビリファイかなと思っていましたが、効果としてはほぼ同等。恐るべし、セロクエル。。。躁状態への使い方としては早めにトントントンっと400mgまで増量することが勧められます。初日50mg、2日目100mg、3日目200mg、4日目300mg、そして5日目に400mgにまで増量。もしくは、初日200mg、2日目にもう400mgなんていう急速法もあるようです(自分は前者の方法で行っています)。うつ病相なら300mgを目標に使用します。ちなみにセロクエルは単極性うつ病の増強療法としても有用です。

 古豪のハロペリドール先生が喰い込んでくるのは面白いですね。。。有効性ではNo.1となっています。大体10mg/dayを使用した文献が多いとのこと。基本的には5-10mg/dayを使用し、効果薄ければ15mg/day辺りまで増量。自分はハロペリドールを真っ先に使うことはないのですが、個人的な経験からは液剤が良く効く印象です。使い過ぎると鬱転すらします。ちなみにハロペリドールは錠剤も細粒も液剤も静注薬も持効性筋注薬もあって、実はかなり使い勝手が良いお薬。EPSさえ出なければ、ですが。。。非定型の原型がこのお薬にありそうな気がして、上手く使いこなせるようになりたいですな。。。ちなみに、ハロペリドールの進化形とも言える(とMRさんがプッシュしてた)日本発の薬剤blonanserin(ブロナンセリン、商品名ロナセン®)は、躁症状に効くのでしょうか?世界的には使われていない薬剤なのでエビデンスを作る点ではちょっと弱いですけれども。。。作用するレセプターを見ると効く印象はありませんが。ホント幻聴妄想狙い撃ちって感じですもんね。

 ただ、この論文で使われているMTMという手法はどの程度信頼して良いかは不明です。アリピプラゾールとハロペリドールとを例に出してみましょう。プラセボとの対決ではどちらも有効性あり。アリピプラゾールとハロペリドールとのガチンコ対決では、アリピプラゾールの勝利。しかし、全体でのn、特にプラセボと比較した際のn(研究が対象にした患者さんの数)では圧倒的にハロペリドールの方が多く、それを勘案してハロペリドールがアリピプラゾールよりも優位な立場となっています。しかもハロペリドールとプラセボを比較した試験は古く、昔で言う躁状態と今のDSMで言う躁状態は異なる所もあるため、本当にアリピプラゾールがハロペリドールに劣るかは何とも言えないような気もします。ただ、アリピプラゾールを急性躁状態に使用する際は最初から18-24mgくらいの高用量で攻めて、かつバルプロ酸のoral loadingを噛ませるか抗不安薬を噛ませるかをした方が良いでしょう。聞いた話では、アリピプラゾールを躁病急性期に使っても効果発現が若干遅いのでそこが難点ということでした。自分は使ったことないので分かりませんが。

 気分安定薬の古参中の古参であるリーマス®老師は効果発現まで時間がかかるので急性期治療には残念ながら向かないです。しかし、うつ病相と躁病相の両方を予防出来て(うつ病相にはちょっと弱いですが)、かつ自殺予防のエビデンスもありますし、特に古典的な双極性障害には長期的に使いたい薬剤。ちなみに、イライラ型であるぷりぷりマニーにはデパケン®が有効でして、こちらも自殺予防のエビデンスありです。リーマスは、効く患者さんと効かない患者さんがいまして、反応予測因子を見て投与を考えます。良好因子には、以下のものがあります。

・多幸感、爽快感を伴う古典的躁病
・軽症、中等症の躁病
・双極性障害の家族歴
・躁病相の先行
・発症年齢が高い

 そして不良因子はこんな感じ。

・不快気分や抑うつ気分を持つ混合病相
・急速交代型
・気分と不調和の精神病症状を伴う重症躁病
・脳器質性障害の合併
・アルコール/物質乱用の合併
・頻回の病相
・うつ病相の先行

 この論文では急性期治療なので抗精神病薬大活躍で気分安定薬がちょっと後ろに退いていますが、いくら急性期とは言え、維持期のことも考えて最初から気分安定薬(古典的ならリーマス、イライラならデパケン、うつ病相メインや若年女性や体重増加が不利に働く患者さんならラミクタール®)も入れておいた方が良いように思います。抗精神病薬のみで双極性障害治療の維持が何とかなるのかはまだ不明。代謝系にも影響がありますし、自殺が増えるかも?とした論文もあるくらい(Bipolar pharmacotherapy and suicidal behavior: Part 3: Impact of antipsychotics. J Affect Disord. 2007 Nov;103(1-3):23-8. Epub 2007 Jun 29.)。気分障害の大家であるGhaemi先生も「抗精神病薬は気分安定薬たりえない」と仰っています。

 ということで、躁病の急性期治療についてでした。この論文は絶対視するものではありません。参考としてお考え下さい。
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