2011
12.11

診断推論 Starter & Booster:第5回~鑑別の感覚的確率アプローチ

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 前回は、鑑別の教科書的なアプローチとしてVINDICATE!!!+Pがあることを学び、そしてそれに基づいて鑑別が思い浮かばないという原理を探してみました。

 さて、こんな感じで鑑別疾患を把握したうえで診断へのプロセスに進みたいと思います。がしかし、ここで少しストップ!

 どうでしょう、この鑑別のアプローチ法、確かに良く紹介はされています。でもちょっと実践的かどうかと言われると???VINDICATE!!!+Pというゴロを常に引っ張り出すということを考えると、何やら面倒くさそうな雰囲気が漂ってきます。ちょっと鑑別疾患が多くなりすぎるしクレバーではない、そんな感じがしませんか?絨毯爆撃的で、それを全部考えて問診と診察を、となると時間がいくらあっても足りません。救急外来で要求されるものには”迅速さ”というものがあります。その場で常にVINDICATE!!!+Pを意識するのは、救急外来では致命的。「良くある疾患」と「見逃してはいけない疾患」という考え方が薄まってしまいますし、いちいち「この主訴だと、Vでは、、、Iでは、、、Nでは、、、」と考えるのも時間のロス。じゃあ考えなくても良いように出来るだけ沢山の鑑別疾患が載っているマニュアル使えば救急外来でも良いんじゃないか、と思うかもしれません。

 網羅的の極みで有名なポケットマニュアルである"A Pocket Manual of Differential Diagnosis®"でChest Painの鑑別疾患を見てみましょう。すると、筋骨格系だけで13個の疾患が挙げられています!全て数えると何と70個以上…。Headacheの項目を見ても、70個以上あるんです。。。これを全て、なんてのはムリですね。

 つまり、系統アプローチのみだと網羅的であることが災いしてしまい、患者さんが押し寄せてくる忙しい現場ではなかなか有用性に乏しい印象なんです。何度も外来を重ねていたり入院したりしているのなら話は別で素晴らしい効力をを発揮しますが、救急外来という点を考えると困っちゃいます。どうしたら良いのか、解決法を考えてみましょう。

 1つの解決法は、そのアプローチを少し緩くすること。VINDICATE!!!+Pを常に意識するのは確かに辛い。なので、これは煮詰まった時に紐解くものとして、いつもは主訴から臓器を漠然と描いて代表的な鑑別疾患を想定し、かつ先述の2つの落とし穴を別個に確実に覚えておく。「主訴やその機序から解剖と病態を意識して鑑別疾患を挙げる」という表現をすると良さそうですね。こうすると確実性は少々薄くなりますけど、特に救急外来は鑑別疾患が最初から絞られているので、いちいちゴロを持って来なくてもあまり支障はなさそう。よって採用することとします。慣れてしまえば、主訴を聞いただけで「見逃してはいけない疾患」と「良くある疾患」をスラスラと言えるようになるものです。

 もう1つ上乗せする解決法は、新たな視点を持ち込むこと。主訴と解剖と病態のみで勝負しようとするから手に負えなくなります。他の情報をプラスすることで、より可能性の高い鑑別疾患を挙げて、それから更に絞って診断へ到着するということが出来るようになるんですよ。これは解決法というよりはVINDICATE!!!+Pでも行うことですが、VINDICATE!!!+Pをした上で他の情報をプラスしようと思うと、鑑別が多いだけに収集しなきゃいけない情報も多くなってしまいます。

 で、ここで言っている他の情報とは何か?診断へのプロセスを見てみることにします。それは

【主訴と患者背景→現病歴→診察→検査】

という順番を基本的に踏むことに尽きます。もちろん患者さんのバイタルが狂っていて全身状態が悪いのに「やっぱり病歴と診察してから検査だよな」と愚直なまでに考えて早期の治療介入を遅らせるということはしていけません。原則としてこの順番ということです。

 これまでは主訴しか見てきませんでしたが、ここに新しく患者背景、現病歴、診察、検査というステップが出てきました。臨床らしくなってきましたね。ある程度絞った鑑別疾患群において、ある程度絞った問診・診察・検査を行うことが大切になってきます。これらの視点を持ちこむことで、実践的な鑑別が行えるようになるのです。

 この様に鑑別を行っていく私たちは、例えるならば「似顔絵捜査官」と言えるでしょう。こちらは、主訴などから容疑者を何人か挙げている状態。後は患者さんから犯人とも言える疾患の顔がどういうものかを、背景を探ったり話を聞いたりなどして引き出していく。そのようにして、どの容疑者の顔が犯人と一番近いのか?それを辿っていくのが診断推論です。なので、こちらは主訴別の「容疑者リスト」を持っていなければいけません。容疑者の名前と、彼らがどの様な顔をしているのかの特徴を表したリストです。それと患者さんから引き出した容疑者の似顔絵と比べてみる。「絵合わせ」と言ってしまうと単純すぎるかもしれませんが。

 ここで、実践的なアプローチで意識したいのが、各ステップにおける鑑別疾患の「確率」。やっと出てきたこの言葉、自分のレクチャーでのキーワードです。こちらが想定する鑑別疾患群の中で、どれが患者さんの持っている疾患に最も近いか?各ステップでの確率を意識して、最終的に最上位に来た鑑別疾患が患者さんの持っている疾患であろうと考えるのです。鑑別疾患群での”重み付け”と言っても良いと思います。ただ、確率確率とは言っていますが、きちんと「この疾患の確率は67%、この疾患は12%、この疾患は、、、」と細かい数が出ると言う訳ではありません。可能性がどのくらいかな?という印象、変な言い方ですが、感覚的な確率、定性的な確率を意識してみるのです。なかなかファジィではありますね。なので、ほとんど常に不確実。この不確実性はしっかりと認識しておきましょう。言い方は悪いですが、私たちは”分の良い賭け”をしているようなもんです。その分の良さを出来るだけ上げていくのが各ステップだと言うと分かりやすいかも?

 主訴を聞いた段階では、漠然と鑑別疾患群が列挙されるだけ。順番を付けるにしても一般的な有病率の順になって、それだけじゃあさすがに臨床は厳しくなります。患者背景を組み込んで、病歴を聞きとって、診察と検査を行って。それらの総合所見を解釈するんです。それを先ほど言った各ステップにおける鑑別疾患の「確率」という考え方に照らし合わせてみましょう。ステップに分解すると「その時々での確率はどうなっているのかな?」「ここまでの重要情報はどういうのがあるんだろう?」と立ち止まって考えることが出来るんですよ。

 そのステップごとの確率に名前を付けておきます(この名前は、マッシー池田先生に倣っています)。主訴と患者背景の時点で得られる鑑別疾患の確率を「病歴前確率」とします。現病歴を聞いて得られる確率が「診察前確率」、診察をして得られる確率が「検査前確率」、検査をして得られる確率が「検査後確率」ということになります。ステップに区切り、それぞれにきちんと名前を付ける。こうするとそれぞれの段階で確率を考えるために少し立ち止まれます。各段階を意識して、確率を変動させていきましょう。これらは、常に患者さんとの相互作用でなされるものなんですよ。原則として、この分け方で鑑別疾患の順位を考えていくこととなります。


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