2011
09.14

Diffusion Tensor Imaging(DTI)と精神疾患

 精神科領域でも画像検査は当然のように行われ、特に最近は、精神疾患において灰白質のみならず白質に注目が集まっています。そこで大事なのが、神経線維の走行を画像化できる拡散テンソル画像(DTI)です。水分子が白質の方向に沿ってどの程度動きやすいか、白質線維と直角の方向に動きにくいか、ということを定量的に評価できます。さらに白質線維の方向の情報も得られます。

 使用されることが多いのが、ADC(Apparent Diffusion Coefficient)もしくはMD(Mean diffusivity)とFA(Fractional Anisotropy)の値です。

 ADCもしくはMDは拡散の大きさを示す指標で、同じ様なもの。よりmacroscopicにはADCを使用する傾向にあるようです。ADCの高い値は、白質が密ではないことや微小管などの軸索内構造物の存在を示唆します。逆に低い値は拡散を妨害する路や線維、線維間での水の移動を減少させる厚いミエリン層の存在を示唆します。

 FAは異方性の強さを表す指標の一つで、白質線維の統合性の異常検出に鋭敏であると言われています。FAは0-1までの値をとり、白質で高く灰白質では低くなり、CSFで0になります。水の拡散を不自由にする構造があれば1に近くなっていきます。

 自分は物理に関して完全なる素人なので、どの様なメカニズムかは全く理解できません。。。

 この記事では、代表的な精神疾患であるアルツハイマー病/軽度認知障害、統合失調症、気分障害、不安障害、発達障害(自閉症、ADHD、読字障害)を扱います。

☆AD(Alzheimer disease)とMCI(Mild cognitive impairment)
 ADによる病的な白質の変化はミエリン密度の上昇やMBPの欠失、oligodendrocyteやmicroglia活性の低下など。DTIの分野では、ADとMCIにおいて3つの領域が注目されています。

(a) subregions of the medial temporal lobe: hippocampus, entorhinal cortex, and parahippocampal WM
(b) temporal lobes proper
(c) the posterior cingulum

 ADは健常者に比して著明なFAの低下とMDの上昇が見られます。MCIでは中等度。よって、白質の統合性が低下することはADの発展に関与する病理的な変化と考えられています。

☆Schizophrenia(統合失調症)
 前頭葉と側頭葉における深部白質のFA低下が言われています。健常者との最も顕著な違いを示す部位はcingulate(帯状回)、CC(脳梁)、前頭葉の白質です。他に示唆されているのはSLF(superior longitudinal fasciculus)、IFOF(infero-frontal occipital fasciculus)、uncinate fasciculus、frontal longitudinal fasciculus、arcuate fasciculusなどでのFA低下。これらは神経シグナルの葉内や葉間での伝達を担っている部位です。

 cerebral peduncles(大脳脚)のFA低下も言われています。この所見は、統合失調症の背景であると示唆されているcortico-cerebellar-thalamo-cortical circuitryの破綻を支持しています。

 CCとIFOFのFAは幻覚の重症度、fronto-temporo-limbic circuitsでFAが低下していることは患者の衝動性の増加と関連していると考えられています。

 また近年注目が集まっているPsychosis risk syndromeですが、この状態における研究では、発病に先んじてFA低下が見られるとしています。外来や入院している患者さんでもARMSか?と思えることがたまにあるので、画像研究が進むことは大きな恩恵となりそうです。

☆Mood disorders(気分障害)
 MDD(大うつ病性障害)では、上前頭回や側頭葉の白質においてFA低下が見られます。

 BP(双極性障害)でのDTI解析は解釈に難しいようです。CCでMD上昇とFA低下が見られることが、最も顕著な所見とされています。前頭前野や前頭葉についても言われており、他には交連線維なども。

 単極うつか双極かというのが臨床でも問題になっているので、画像が強力なサポートとなってくれると良いですね。


Fig. 1 Major brain regions implicated in bipolar disorder. A parasagittal section of the cerebrum shows the major brain regions and white matter tracts, i.e. prefrontal lobe (highlighted pink), frontal lobe (highlighted green), corpus callosum (highlighted yellow), internal capsule, uncinate fasciculus and superior and inferior longitudinal fasciculi that have been shown to exhibit white matter abnormalities in bipolar disorder

☆Anxiety disorders(不安障害)
 帯状束がOCDの発病に絡んでいると言われています。しかし、FAの値は様々であり、上昇していたり低下していたり一致しません。内包や脳梁でFA増加が、頭頂葉や縁上回、後頭葉の左舌状回ではFA低下が観察されています。そして、FA上昇は薬剤による治療で消失する可能性も示唆されています。

☆Developmental disorders(発達障害)
・Autism(自閉症)
 FA低下や拡散率の上昇は認知実行機能との関連が示されています。しかもFA低下は領域特異性があり、fusiform gyrus(紡錘状回)、superior temporal sulcus (上側頭溝STS、社会性に関与する部位)、vmPFC、ACC、temporoparietal junction、amygdala(扁桃体、心の理論の工程を担う)などがその例。

 自閉症児は脳、特に白質が大きく、PET解析ではセロトニン合成がより盛んであることが示されています。
FA低下と拡散率の上昇はミエリン化の減少、軸索の密度の減少や軸索の構造の異常を示しているかもしれません。このように仮定すると、上記の所見とつじつまが合うとされています。

・ADHD
 ADHDでは前頭葉領域が有意に影響を受けており、問題解決や計画性、他人の行動を理解すること、衝動のコントロールに難が見られます。興味深いことに、他の精神疾患と異なりテンソルでは前頭葉領域のFA"上昇"が見られるのです。FA上昇が病理を示唆するまれな例と言えます。前頭葉と線条体とを結合している前方のcorona radiata(放線冠)部位に差異が見られるのではないかと言われています。FA上昇は枝別れの少なさ(つまり一方向への干渉性の高差を示します)や代償機構によるものを示しているかもしれません。

 ADHDではFA値がどの部位でも上昇しているわけではありません。例としてはright premotor and striatal regions, bilateral cerebral peduncles, cerebellum, and left parieto-occipital, as well as in corticospinal and SLF regions of interestなどが挙げられています。小児期にADHDのあった成人においても、right cingulum, SLFでのFA低下が見られています。よって、ADHDにおけるテンソルの適応は、純粋な前頭葉から前頭皮質に行き来する情報ネットワーク(広範な脳部位へ広がります)の方向へわずかにシフトしていると言えましょう。

 最近の研究では、統合失調症とADHD、どちらも同様な認知行動機能の欠損を示しますが、その両疾患において左後部の脳弓にFA低下が見られたとしています。よって、この部位の異常は両疾患の関連性を示すものとなるやもしれません。

・Dyslexia(読字障害)
 neuroimagingと死後脳研究において、左の側頭葉から頭頂葉にかけてが読字能力の低下と関連しているのではないかと言われ、テンソルでも同部位のFAが強い関連性があるとされました。よって、この部位でのFAがより高いことは正常児のみならずこの障害を抱えた患児において有利となるのでしょう。


☆参考文献
Diffusion Imaging, White Matter, and Psychopathology
Annu. Rev. Clin. Psychol. 2011. 7:63–85

White matter abnormalities in bipolar disorder: insights from diffusion tensor imaging studies
J Neural Transm (2010) 117:639–654 DOI 10.1007/s00702-010-0368-9
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