2011
05.23

脳梗塞に対するVEGF抑制療法

 自分の母校である新潟大学の、脳研究所からの報告。

Inhibition of VEGF signaling pathway attenuates hemorrhage after tPA treatment.
Kanazawa M, Igarashi H, Kawamura K, Takahashi T, Kakita A, Takahashi H, Nakada T, Nishizawa M, Shimohata T.
J Cereb Blood Flow Metab. 2011 Feb 9.

 脳梗塞には、日本では3時間以内であればt-PA(組織型プラスミノゲン・アクチベーター)という血栓溶解薬が使用可能なことがあります。しかし、この3時間という制約により、この治療を受けることが出来るのは脳梗塞患者全体の5%未満といわれています。

 もし3時間を超えた患者にt-PAが投与されると、一部の患者さんでは合併症の脳出血で予後が悪くなることもあります(ヨーロッパやアメリカでは、ウィーンの世界脳卒中会議を受けて4.5時間までの延長が推奨されています)。脳出血を起こす理由としては、血管閉塞が一定時間を超えてしまうと血管を構成する内皮細胞や周皮細胞、そして支持する細胞外マトリックスにも障害が生じてしまい、その結果血管が破綻するからとされています。

 この出血を予防することができれば、短い制限時間を延長させ、さらにt-PAによる血栓溶解療法を受けることが出来る患者を増やすことが可能となります。

 この論文では、t-PA治療後の血管障害を引き起こす蛋白の1つが血管内皮細胞増殖因子(VEGF)であることと、このVEGFを阻害することでt-PA治療後の脳出血を抑制し、治療可能時間を延長する可能性があると述べています。

 著者らはラットを用いた実験において、血管閉塞前には脳でのVEGF発現を認めないものの、t-PAを4時間後に投与した群では血管内皮細胞や周皮細胞、星状細胞にVEGFが高度に発現していたことを突き止めました。VEGFはその受容体を活性化し、さらにVEGFカスケードの下流に存在するマトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP9)の活性化を促し、細胞外マトリックスを分解することが分かりました。

 そしてVEGFを分子標的とした治療として、増加するVEGFを除去できる抗VEGF中和抗体(RBB-222)を静脈注射。虚血後のVEGF増加、MMP9活性化、細胞外マトリックスの分解はいずれも抑制され、脳出血も減少し、予後も改善しました。VEGF受容体リン酸化阻害剤(SU-1498)の腹腔内注射でも、抗体と比べると効果はマイルドではありましたが、同様の効果が認められました。

 以上から、治療可能時間を越えたt-PA治療による脳出血という合併症に対し、VEGF抑制療法は有効である可能性が示唆されました。


Figure 6 RB-222 or vascular endothelial growth factor receptor-2 (VEGFR2) inhibitor, SU1498 attenuates hemorrhagic transformation (HT) after tissue plasminogen activator (tPA) treatment. (A–C) Quantification of infarct volumes (A), edema volumes
(B), and hemoglobin concentrations of the lysates from the ischemic hemisphere (C) at 24 hours after ischemia. White bars indicate the permanent ischemia group treated with control antibody alone; black bars, the tPA 4-hour group treated with control antibody; gray bars, the tPA 4-hour group treated with RB-222 (n=6). **P<0.01. (D) Motor scales at 24 hours after ischemia of the permanent ischemia group treated with control antibody alone, and the tPA 4-hour group treated with control antibody or RB-222 (nX14). Outcomes were scored using the 5-point motor function scale: 0=no motor deficit, 1=flexion of the forelimb contralateral to the ischemic hemisphere, 2=reduced resistance against push toward the paretic side, 3=spontaneously circling toward the paretic side, and 4=death. *P<0.05. **P<0.01. (E–G) Quantification of infarct volume (E), edema volume (F), and hemoglobin concentration of the lysates from the ischemic hemisphere (G) at 24 hours after ischemia. Black bars indicate the tPA 4-hour group treated with vehicle (dimethyl sulfoxide); gray bars, the tPA 4-hour group treated with SU1498 (n=6). **P<0.01. (H) Motor scales at 24 hours after ischemia of the tPA 4-hour group treated with SU1498 and vehicle (n=14).
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