2011
04.05

診断への絵合わせ~研修医のOSとして~

 1年次が新たに入ってきました。少し前に昨年度の1年次に渡した診断学のプリントを、ここでも挙げておきます。

 以前に挙げた物をもう少しわかりやすくした感じ。言っていることはほぼ同じです。

 前にも記載しましたが、研修医に成り立ての頃は、全く新品のパソコンと同じで、OSが入っていません。OSがないとパソコンは作動せず、研修医は診断にたどり着く術を知りません。自分が挙げているのはOSの1つです。他にも色んなOSがあると思います。まだ診断の枠組みが定まっておらず、何となくこなしている研修医の方々や、研修医に成りたての方々は、少し眺めてみて下さい。なるほどなーと思ってくれたのなら、これを自分の研修医としての初期OSとして採用してもらえればと思います。なんのこっちゃと思ったら、たぶんこの考え方は合わないのかもしれません。その時は無理にこれをOSにする必要はありません。自分に合って、かつ臨床的に有用な考え方が一番です。

 なお、各確率の名称と脳卒中の選択肢にいては、池田正行先生のサイトから頂きました。



追加:何回かに分けて記事にしたものを作りました。医学一般のカテゴリからお入り下さい。




*1年次用資料

 事前確率、事前確率と口を酸っぱくして言ってきましたが、漠然として分からないこともあったかと思います。もう少し詳しく、診断へ至る確率を考えてみます。診断というのは、患者が言葉や所見で表現する疾患の「顔」と、我々の知っている鑑別疾患の「顔」とを照らし合わせて、誰の顔が一番近いか?を判断することと言っても良いでしょう。同じ胸痛という主訴でも、心筋梗塞の持つ顔と帯状疱疹の持つ顔は全く異なります。それぞれの顔を知っていれば、患者の持っている疾患の顔にどちらが近いかが分かり、鑑別の順位を付けることが出来るのです。ほぼ同様の内容ですが、概論や尤度比などは以前配布したプリントを参照して下さい。

★それぞれに、確率
 原則として、診断は

主訴→病歴→診察→検査→…

という一連の流れで行われます。そして"それぞれにおいて"確率(顔の特徴)が存在しているのです。そこを意識して鑑別の順位を変えていくことが大事。

 確率と言っても具体的に何%というところまで要求はされていません。感覚的に、高~低のどの辺に位置しているかを意識しましょう。今回はこれを、語弊があるかもしれませんが、確率と呼ばせてもらいます。ただ、感覚的にとは言ってもこの位置づけはきちんとした知識に立脚するものでなければいけません。詰め方が甘いと、鑑別の順位が異なってきたり重要な疾患を挙げていなかったりといった事態が生じます。最初でコケると後で挽回するのは大変。研修医同士で鑑別順位を挙げてその根拠を述べ合う(できれば誰かアドバイザーを立てて)、というのが勉強になるので是非トライしてみて下さい。

 さて、確率を分けると、以下のようになります。

主訴

↓←病歴前確率

病歴

↓←病歴後(診察前)確率

診察

↓←診察後(検査前)確率

検査

↓←検査後確率

...

*病歴前確率
 脳卒中は、どちら?

1. 81歳男性、昏睡
2. 18歳女性、昏睡

 このように、年齢・性差・既往歴・薬剤歴といった、病歴を患者から聞く前に得られる情報(患者背景)があります。主訴とこれらの因子を組み合わせることで、患者のもつ疾患の顔が、そこからぼんやりと得られ、ある程度のアタリを付けることが可能です。年齢は主訴から浮かんだ複数の鑑別疾患の可能性を大まかに分類してくれます。既往歴や薬剤歴はその患者さん特異的な疾患を想定するポイントとなります。ACEI服用中患者の咳、開腹手術歴のある患者の腹痛などは好例と言えますね。

 待合室にいる時や診察室に入ってくる時の患者さんの様子、顔つきなどもこの患者背景に含まれます。

*病歴後(診察前)確率
 脳卒中は、どちら?

1. 65歳男性、今朝起床時に左の手足に力が入らない
2. 65歳男性、半年前から両手に力が入らない

 病歴はもっとも大事。ここにおいては、OPQRST(★補足参照)などのゴロに従って、適切な病歴をとります。先程の病歴前確率も考慮に入れて行いましょう。適切な病歴というのは、複数ある鑑別疾患の顔を意識して聞くことです。漫然と思いついたことを聞くことは、極めて質の低い病歴になってしまいます。そのためにも、主訴を呈する鑑別疾患、広く構えるなら鑑別臓器を挙げられるようにしなければなりません。

 鑑別から外しやすくなってしまうのは、一見すると主訴からイメージしづらい臓器の疾患。例えば、嘔気嘔吐という主訴からは消化管や頭と考えるのは自然の流れ。しかし、心臓(心筋梗塞)、腎臓(腎盂腎炎)、DKAなどはふっと忘れてしまうことがあります。こういった、離れた臓器は意識して覚えておくことが肝要です。

 さて、鑑別疾患を想定できても、その疾患の持つ顔を知っておかなければいけません。咳の鑑別に副鼻腔炎があることを意識できても、副鼻腔炎はどういった振る舞いをするのか(どういう顔をしているのか)を知らなければ、質の良い病歴をとることは不可能です。鑑別となる疾患のOPQRSTを予め知っておけば、それに従って病歴をとることが出来るのです。

 「患者は答えを知っている」とは良く言われます。確かにその通りで疑う余地はありません。しかし、全ての答えを患者が自発的に答えてくれるわけではないのもまた事実。患者は不十分な答えしか我々の前に出さないのです。こちらの聞き方によっては、間違った答えを示してしまうこともあります。より完全に近い答えにするには、こちらから適切に聞いていかなければならないのです。何を聞くか、というのは、鑑別疾患の呈する典型的/非典型的なプレゼンテーション、つまりは顔を知っておく。知らなければ聞くことは出来ません。患者は「眉はこんな形で、髪型は…」と疾患の顔を述べます。我々は、複数ある鑑別疾患の顔を知っておく必要があります。その顔は、それぞれの疾患において特徴的です。例えるならば「ほくろはありましたか?あれば顔のどこですか?眼は一重ですか二重ですか?」こう聞くことで、疾患の顔をより細部にわたり想像できるのです。病歴の段階でどんな顔をしているかを、患者から出来るだけ聞いておきます。

 例えるなら、"同期の研修医"という括りの中でも、当然なことに研修医は1人1人異なる顔をしています。鑑別疾患も同じことなのです。

 余談になりますが、特に神経変性疾患というのは病歴で顔を絞り込むことが出来ます。例えば、転ぶという1つの症状を取り上げても、パーキンソン病では足が出ずに棒のように倒れ、ふらつきません。脊髄小脳変性症では倒れる前から足を広げており、足も出ますがふらついて倒れます。筋萎縮性側索硬化症では倒れる前に疲れてしまいます。この様に、各疾患で顔の特徴が異なります。我々は、その特徴をしっかりと押さえて患者から疾患がどういう顔をしているのか引き出すのです。

*診察後(検査前)確率
 病歴の段階で、ある程度の確率の意識(疾患の顔の想定)はなされています。それを補強するための診察。ここでは、我々の行う診察がどの程度の意義があるのかを考えましょう。例を挙げると

1. 頻尿・排尿時痛・発熱の女性患者:CVA tendernessが陰性なので腎盂腎炎ではないだろう
2. 心雑音・発熱・腰痛の患者:Janeway lesionがないので感染性心内膜炎ではないだろう
3. 頭位変換で誘発される回転性めまいの患者:Dix-Hallpikeが陰性なのでBPPVではないだろう
4. 咳と労作性呼吸困難の高齢患者:S3が聴こえたので心不全だろう
5. 長年の喫煙歴のある高齢患者の腹痛:腹部血管雑音が聴こえないのでAAAではないだろう
6. ふらついて歩けない高齢患者:指鼻試験と回内回外試験と膝踵試験が陰性なので小脳梗塞ではないだろう
7. 陰嚢痛の男性患者:Prehn徴候が陽性なので精巣捻転だろう
8. 腹痛の患者:触ってもお腹が柔らかいので腹膜炎ではないだろう

 これらの中で正しいのはどれでしょう?

 診察の意義を知らなければ、疾患の顔の再現がミスリードされてしまいます。
また、診察は施行者によりバラつきがあることも意識しましょう。

*検査後確率
 無駄な検査はしない。何故この検査をするのか、しないのかをはっきりと意識しましょう。そして、検査の意義も診察と同様に捉えておくことが肝心です。

 腹部単純レントゲンはイレウスの簡単なスクリーニング程度にしかなりません。良く言われるレントゲンでの便秘も、LR+が2に満たないとされています。

 実際に我々が体験するように、胸部単純レントゲンで肺炎が見えないことも多いです。特に脱水、高齢者、免疫抑制患者はその傾向が強いと言われます。

 心筋梗塞疑いの患者で頻用されるTrop-Tですが、発症6時間(特に3時間)に満たない段階での陰性で安心は出来ません。

 多くの検査は、病歴と診察で得た鑑別疾患の確率の確認です。

 ただし免疫抑制患者や高齢者などではそれらで顔を描きにくいため(症状や所見に乏しいため)、検査は必要となってくることが多いです。また、疾患によってはそれらで十分に絞り込めないこともあるため、検査が突破口になることも知っておく必要があります。好例としては、胆管炎やDKA、低血糖などが経験されると思います。

 また、診察と同様に検査にも施行者でバラつきがあります。画像の読影やエコーなどは研修医の間においてすら差が出てくる項目です。

★確率を意識した勉強を
 以上のように、患者の疾患が持つ顔と、我々が挙げる複数の鑑別疾患の顔とを見比べて、どの顔が患者の疾患の顔とより近いかで診断します。そのためには、どんな顔かをより詳細に聞かなければなりません。そのためには

1. 鑑別疾患を挙げられるようにする
2. 鑑別疾患の症状、自然経過を覚える

 地味ですが、これが大事です。それによって、患者に聞くことが整理されて現病歴がスッキリとしてきます。その上で、どの様な病歴・診察・検査がRule in/outに向かうのかというものを知識として蓄えましょう。

★補足
O:Onset
P:Provocative/Palliative(/Past)
Q:Quality
R:Region
S:associated Symptoms
T:Time course

 これらの項目を意識した視点で、鑑別疾患の持つ顔を整理してみましょう。

★推薦図書
病歴前確率:診察エッセンシャルズ、Symptom to diagnosis(考える技術)、Step Beyond Resident、がん患者の感染症診療マニュアル
診察前確率:診察エッセンシャルズ、Symptom to diagnosis(考える技術)、Rational Clinical Examination(論理的診察の技術)、The Patient History(聞く技術)、Step Beyond Resident
検査前確率:診察エッセンシャルズ、Symptom to diagnosis(考える技術)、Rational Clinical Examination(論理的診察の技術)、Evidence Based Physical Diagnosis(マクギーの身体診察学)、Step Beyond Resident
検査後確率:Symptom to diagnosis(考える技術)、Step Beyond Resident

★Clinical Pearls
 知っておくと役に立つ、ちょっとした臨床の知識。有名なものや自分が聞いたものを紹介します。

He who studies medicine without books sails an uncharted sea, but he who studies medicine without patients does not go to sea at all.
 患者を診ずに本だけで勉強するのはまったく航海に出ないに等しいと言えるが、本を読まずに疾病の現象を学ぶのは海図を持たずに航海するに等しい(その通り、の格言。患者のために、本で勉強すること、そして実際に経験すること。その両方が大事。Osler先生の有難い教え)

Listen to the patient, he is telling you the diagnosis.
 患者の声に耳を傾けろ。診断はそこにある(病歴聴取が如何に重要か。これもOsler先生。しかし、ただ聞くだけのListenではなく、こちらからもどんどん聞いていく姿勢が大切)

A stroke is never a stroke until it has received 50 of D50.
 脳卒中と思われる患者では、50%ブドウ糖液を50mL静脈投与するまで脳卒中と診断できない(Tierney先生の作った最も有名なPearlであり、救急外来では忘れていけないもの。低血糖は脳卒中の常なる対抗馬であるため。血圧も高くなり、まさに脳卒中症状を呈する事が多い。片麻痺、瞳孔不同なども出現しうる。いわんや意識障害をや)

Once an osteo, always an osteo.
 一度でも骨髄炎を発症した患者をみたら、常に骨髄炎を疑え(再発が異様なまでに多い)

Always remember PE in unexplained ↓SpO2
 説明のつかないSpO2低下は、肺塞栓を忘れるな(まさにそのまま)

Abdominal pain following vomiting doesn’t suggest appendicitis.
 嘔吐の先行する腹痛は虫垂炎ではない(虫垂炎の典型的なヒストリーから大きく外れるため)

Never forget appendicitis in any type of abdominal pain.
 どんな腹痛でも虫垂炎を忘れるな(虫垂炎は実に様々なプレゼンテーションをする。非典型例が実に多いというのが特徴。でもさすがに嘔吐が先行すると虫垂炎の確率は極めて低くなる…)

In a severe sore throat with a normal pharyngeal exam, call ENT; the diagnosis is epiglottitis.
 咽頭と扁桃の所見が正常で喉の強い痛みを訴える患者を診たら、耳鼻科医を呼びなさい。診断は喉頭蓋炎である(喉頭蓋炎は喉頭蓋の炎症であるため、喉を覗いても正常であることがほとんど)

Hyperventilation is Demon.
 過換気は悪魔である(軽く見ると頭蓋内出血や心筋梗塞など重篤な疾患を見逃す。過換気になる前の症状などに注目を)

Always remember vasculitis in unexplained numbness.
 説明のつかないしびれでは、血管炎を忘れるな(救急外来では血管炎を診断する必要はないが、有名なPearlなので掲載)

ショックの患者で手足が冷たければ頚から上は忘れろ
(血圧が低いことは頭蓋内疾患の可能性を低くする。cold shockでは尚更)

患者の胃痛・胸やけは心臓だ
(患者の言う主訴は適切な医学的主訴に置き換えること。胃痛は心窩部痛であるためACSは必ず考慮。胸やけは、否定されるまではACSと考える)

患者のふるえは医者のふるえ
(毛布をかぶっても治まらないようなふるえは、敗血症を強く示唆する)

女性を見たら妊娠と思え
(いささか差別的だが。。。女性の腹痛では、出来るだけ妊娠反応を。可能性はないと答えても裏切られることは、救急外来では経験する。また、妊娠の質問をする時は失礼のないように。)

CTは死のトンネル
(バイタルが安全域でない限り、CTへは行かない。CT中は医療者が介入できない状態である。)

頻呼吸の腹痛は気を引き締めろ
(頻呼吸であることは、腹部疾患でも膵炎などの横隔膜近辺の病変や穿孔や破裂で腹水が発生して横隔膜を刺激しているかも。またDKAなどの腹部疾患以外を想定するヒントにもなる)

研修医の「胃腸炎」はred flag!
(胃腸炎はゴミ箱診断。除外の上に成り立つものという意識を常に持つこと)


 こんな感じ。研修医のための診断学入門(あくまでも研修医用です)として、以前の資料と併せてご活用下さい。
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コメント
Listen to the patient. He is telling the diagnosis.
という言葉があります.病歴聴取の重要性を表した言葉です.
Historyで50%,Physicalで30%Labで残り20%ですね.
iwasedot 2011.04.13 11:59 | 編集
>iwase先生 
Osler先生のそのお言葉、記事にも掲載させていただいておりますが、問診は最も大事だとひしひしと感じています。特に救急外来では状態像が一般外来や入院よりもシンプルなこともあり、いっそう病歴で絞れてくる感覚があります。質の高い問診は何よりも価値がある、と思っています。
m03a076ddot 2011.04.13 16:42 | 編集
おひさしぶりです.丑でございます.元気そうですね.うちの病院にも一年生が入ってきたので、少しネタをパクらせていただきます(笑)しかし、ここまで内科の知識を持ちあわせた精神科医は会ったことないです.自分ももう少し勉強せねばと反省する今日この頃です….
dot 2011.04.23 22:27 | 編集
>丑先生 
あら、お久しぶりでございます。ネタは使えるものがあれば何でもパクって下さいまし。
たぶん、丑先生が普段見ている精神科医は、もはや他科の知識が退廃しきった上の先生なのでしょう。。。自分はついこの前まで研修医でしたので、まだ精神科医と言うよりは感染症医か救急医だと錯覚してます。
丑先生も3年目と言うことは専門に進まれたんですね。心の病に気をつけて頑張って下さいまし。
m03a076ddot 2011.04.24 08:53 | 編集
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