2011
01.10

診断推論を学んでみよう!

 医者は、診断に至るまで、どのような思考過程を踏んでいるのか?

 1年次研修医は、まずはこのことをOSとして組み込んでおく必要があります。いうなれば、医療における大原則。

 病態生理も大事。でもその前に、診断学としてOSを入れておかないと、正常に研修医は作動しません。外来でも病棟でも、その場の思いつきだけで医療を進めようとしてしまいます。それは非論理的。OSをきちんと入れておくことで、的外れなことをしなくなります。

 以前、当院(名古屋大学医学部附属病院)の1年次研修医に、その診断推論をどう行うか、という資料を作って2回に渡り配布しました。

 「自分の頭の中はこうやって患者さんの情報から診断を考えてますよ」というもの。ちょっとブログに載せてみようかなと思います。

 但し、以下の推論は自分の推論であって、これが絶対的に正しいわけではありませんし、質としては低いかもしれません。また、この考え方を強いるものでもありません。あくまでも、自分のシンプルな考え方。

 でも、今年の4月から研修医になる人達や、今1年次研修医でも何か閉塞してしまっている人には参考になるかも。と言っても、あんまり偉そうなことを言える内容ではありませんが。。。



追加:もう少し分かりやすいのと、後は何回かに分けて少し詳しめに説明した記事もあります。医学一般のカテゴリからお入り下さい。


=====
~診断推論事始め・主に救急外来~
*1年次用資料*

とんでもない。僕は自分で君がアフガニスタンから来たと分かった。長い間の習慣になっているから、僕の心に浮かぶ思考の連鎖は非常に素早い。僕は中間の段階を意識することなく結論を導き出している。しかし、それでも段階は踏んでいるのだ。推理の連鎖はこうだ。『医者っぽいタイプの紳士がいる。しかし軍人のような雰囲気がある。ということは、明らかに軍医だ。彼は熱帯から来たばかりだ。彼の顔は黒い。しかしそれは彼の肌の自然の色合いではない。手首は色白のためだ。彼は苦難と病気を体験している。彼のやつれた顔が明白に語っている。彼の左腕は傷ついている。彼はこわばった不自然な方法で固定している。熱帯のどの場所が、ある英国軍医に、こんな苦難と腕の傷を与えうるか。明らかにアフガニスタンだ』全体の思考の連鎖は一秒とかからなかった。その後、僕は君がアフガニスタンから来たと言った。そして君は驚いた。
コナン・ドイル 『緋色の研究』より

 診断推論は、症状から診断までへの道筋。「推論」とあるからには、これは推理。証拠(患者の症状や所見など)を集めて容疑者(鑑別診断)の中から犯人(確定診断)を探し出す一連の流れ。

 我々は探偵である。与えられた情報から更なる情報を引き出し、論理的に考え結論を導き出す。シャーロック・ホームズになるのは無理でも、来年度にできる後輩を常に上回るくらいの診断知識は持とう。

1st STEP:問診の前から推理は始まっている!
 背景を捉えることから始めてみよう。まずはこれから診る患者の性別・年齢・既往歴・主訴などを一瞥する(時間はかけすぎないこと)。特に年齢は各鑑別疾患の可能性をある程度想定出来る。既往歴や薬剤歴などは、特殊な鑑別疾患を思い浮かべる際に役立つ。

 マニュアルなどを眺めると、主訴を起こす疾患が色々と書かれてある。胸痛であれば、見逃してはいけない疾患として急性冠症候群、肺塞栓、大動脈解離、食道破裂など。良くある疾患として肺炎、胸膜炎、肋骨骨折、帯状疱疹など。これらが、いうなれば容疑者である。しかし、複数の容疑者が全員同じ確率で怪しいというわけではない。背景に金銭問題が絡んでいたり人間関係が絡んでいたりすると、その容疑者が犯人である可能性が高くなる。診断学も同様で、開腹術の既往を持つ腹痛患者では腸閉塞の可能性が高くなるし、糖尿病・高血圧・高脂血症・関節リウマチを持つ男性高齢者の胸痛では急性冠症候群の可能性が高くなる。

 このように、患者背景を見て情報を集めておくと、問診の前にある程度の容疑者のランク付けが出来てくる(追加:補講の「3つのC!」も併せて読むこと)。

2nd STEP:問診・診察で証拠集め!
 頭の中にある容疑者たち。彼らがどの時間に何をしていたのか、直接聞いたり聞き込み捜査をしたり。それに当たるのが問診と診察。特に問診は、診断推論の中で最も重要。

 問診内容は、いわゆる「痛みのOPQRST」を使う。患者の主訴が痛みに関連した場合、最低限の問診内容を聞き漏らさないためにOPQRSTという覚え方が存在する。しかし、この問診の仕方は痛みのみならず殆どの主訴に関しても使用可能と自分は思っている。OPQRST以外にも覚え方はあるので、何でもいいから絶対に覚えること! 特にOとTは、各鑑別疾患の可能性を更に正確なものにしてくれる。

 このOPQRST、1人1人の患者ですべて埋めるのは教育的には理想。しかし実際の現場ではOPQRSTの中でもポイントをつかんだ問診をしている。

 最初はopen questionで患者に話を少しさせる(1分くらいで良い)。しかしそれだけでは情報が散漫になって集まりにくく時間の無駄。ある程度話させたらOPQRSTで積極的にclosed questionを使って容疑者を絞り込むために有用な情報を捕まえる!

O:Onset
  症状はいつ始まった?何をしている時に始まった?
(Sudden onsetは要注意!詰まる・破れるを想定する)
P:Provocative/Palliative
  何をすると症状が悪化する?何をすると改善する?
(ほとんどclosed questionで聞かないと答えは出てこない)
Q:Quality
  その症状の性質は?
(痛みなら、捻られるような・刺されるような、など)
R:Region
  その症状のある部位は?
(関連痛を想定する場合は、closed questionで)
S:associated Symptoms
  他に症状は?
(積極的にclosed questionで詰めていく)
T:Time course
  症状の経過は?
(どの位の期間でどれくらい悪化しているか、ひどくなったり良くなったりを繰り返しているか、など)

 問診をしていくうちに、当初想定していなかった容疑者が浮かび上がってくるor当初あまり重要視していなかった容疑者が一気に怪しくなってくることは非常に多い。1st STEPではある程度の予想をしたのみ。問診をして患者からの言葉の1つ1つを聞き、頭の中で鑑別順位をめまぐるしく変動させる。その中で追加すべき問診事項も出来てくる。その繰り返しで容疑者のランク付けはより確実に近づいていく。

 次に診察。診察では、問診で一定の重み付けをされた容疑者たちの更なる絞り込みを行う。例えば、問診からは急性心不全の可能性がある。かつ診察でS3が聴こえた。ならば、その患者はほぼ確実に急性心不全と言える。ただし、診察は施行者によって技術にバラつきがある。限界を知った上で、上達の心がけをもって行うこと。

 良く教科書に載っている問診のROS(Review Of System)や診察のTop to Bottomは、救急外来ではルーチンで行わない(フォーカスのよく分からない患者では用いる)。時間がないのもそうだが、救急外来の患者層と病棟での患者層は異なるのも1つの理由。病棟は、外来では鑑別不可能な病態を診る。その病態は難事件ともいえる。難しい事件の場合は、少しの証拠でも良いので欲しい。また、別の事件が隠れていることもある。そのためにROS・Top to Bottomを行う。しかし、救急外来は病棟よりも患者層がシンプルな場合が多く、原因臓器・波及臓器と思われるところにピンポイントな問診と診察を行い、短時間で犯人を捕まえることが要求される。

 救急外来で患者をさばくスピードが遅いと言われるのは、この問診と診察をダラダラやっていることも一因。ピンポイントで効率的に、感度と特異度(後述)を意識した問診・診察を行うことがクレバーな方法。

c.f.主訴の交代
 全身倦怠感など、漠然としていて鑑別の絞りにくい訴えが主なものだった時は、随伴症状を探る。咽頭痛や胸痛など、より鑑別を絞りやすい症状があった場合、それを医学的主訴にし、鑑別を立てなおしていく。

3rd STEP:検査でウラを取れ!
 殺害現場近くから捨てられた凶器が見つかって、怪しいと踏んでいた容疑者の指紋が検出された。となれば犯人はほとんど決まってくる。

 問診と診察で犯人の推定をする。検査は決して絨毯爆撃で行うものではなく、原則として問診・診察の確認のためのもの。もちろん、それらで捉えられずに検査で初めて明らかになることも多い。胆管炎や、高齢者/免疫抑制患者の肺炎などはその好例。しかし、その場合でも「高齢者」という言葉から「検査の閾値を下げる」という鉄則を覚えていれば、元気がないという主訴のみで肺炎を疑えるし、「胆道手術既往のある患者の発熱は、そうでないと分かるまで胆管炎と思え」という格言を知っていれば、発熱という主訴のみで手掛かりの他にない膵癌手術後の患者に採血検査を行うということもできる。これらは患者背景から事前確率の高い疾患が浮かび上がってくることを示唆している。

 ただし、予想外の検査所見が返ってきたら、問診と診察に必ず戻ること。何かを見逃しているかもしれない。
注意点として、救急外来では「問診⇒診察⇒検査」の順は崩れることがある。ある程度の問診や見た目からして超緊急!と判断すれば、いきなり検査でも許容される。例えば胸痛患者の12誘導心電図や、大動脈解離疑いの造影CTなど(この場合は、必ずバイタル安定化させてからCT室へ行くこと!)。ただ、どの病院でも研修医1年の判断は往々にしてずれていることがあるので、いきなりの検査を上級医がストップをかけることがある。その時は、自分のどの判断がまずかったかをきちんと学ぶこと。

★補講:3つのC!
 救急外来では、鑑別診断の軸を3つ取る。
~Critical~
 致命的な疾患を見逃さない。事前確率は低いけど、見逃すと重篤な転機をもたらす。腹痛患者のDKAなど。
~Common~
 事前確率が高い疾患。喉が痛ければ咽頭炎、など。
~Curable~
 その場の介入で治りうる疾患。慢性硬膜下血腫や低血糖(低血糖はCriticalにもCommonにも入るけど)など。

 言ってしまうと、この3つの軸から漏れる疾患、言うなれば「Commonではなく、救急外来で見逃しても当面は患者の予後に悪影響を及ぼさないと思われる疾患」は救急外来ではあまり考慮しなくて良い!そこの割り切りが出来ていないとダメ。関節痛の患者に救急外来でANCAを測るのはナンセンスである。

 効率の良い診療でスピードアップを測るべし!

★補講2:感度と特異度、尤度比
 問診・診察・検査には感度と特異度(感度と特異度から導き出されるものが尤度比)というものが存在する。救急外来でも病棟でも、今自分が行っていることはどれだけの意味があるのか?を考えることは非常に重要。

 どういう使い方をするかは↓
SnNOut:高い感度の所見(high Sensitivity)が陰性(Negative)ならば、想定する疾患を除外(rule Out)する方向に向かう
SpPIn:高い特異度の所見(high Specificity)が陽性(Positive)ならば、想定する疾患を診断(rule In)する方向に向かう

 例えば、呼吸苦で運ばれてきた患者。鑑別に心不全を考える。その場合、患者に労作性呼吸困難があるかどうか質問する。労作性呼吸困難の心不全に対する感度はほぼ100%なので、労作性呼吸困難がなければ心不全は否定的(聞き方にもコツがあるが)。ただし、特異度は非常に低い。労作性呼吸困難は他疾患(COPDや貧血など)でも起こりうるので、労作性呼吸困難があるからといって心不全であるとは言えない。

 COPDを疑う患者で、剣状突起下に心尖拍動を触れたらほぼCOPDである(特異度は95%以上)。ただし感度は低いため、その所見が無いからと言ってCOPDを否定することはできない。

 腹痛の患者でアミラーゼ高値。実はアミラーゼは膵炎に対する感度特異度ともに高くない。4ケタまで上昇するならさすがに膵炎を考えるが(基準値上限×3以上なら膵炎を疑いだす)、少し高いくらいならイレウス、腸穿孔、子宮外妊娠などもあり得る(激しい嘔吐で唾液腺が刺激されて上がることも)。膵炎を疑うならばリパーゼを測った方が有用。

 大事なのは、これらは「ある疾患を疑った時」という前提。健康な若者において剣状突起下で心尖拍動を触れたからと言って有意とは取らない。必ず対象疾患が鑑別に挙がっている状況(事前確率がある程度存在する状況)で感度・特異度、そして尤度比を用いること。尤度比はLikelihood Ratio(LR)と言い、「もっともらしさ」を表す。マクギー(後述)に詳しい。

 計算方法は
・陽性尤度比=感度/(1-特異度)
・陰性尤度比=(1-感度)/特異度
である。

 マクギーでは足し算によるものが紹介されており(マクギー先生自身が考案したもの)
事前確率+尤度比による確率=事後確率
という考え方である。

 実際の確率変動は

尤度比が1なら確率は一切変化せず
尤度比が2なら確率は15%上乗せ
尤度比が3なら確率は20%上乗せ
尤度比が4なら確率は25%上乗せ
尤度比が5なら確率は30%上乗せ
尤度比が6なら確率は35%上乗せ
尤度比が8なら確率は40%上乗せ
尤度比が10なら確率は45%上乗せ
尤度比が0.5なら確率は15%引き下げ
尤度比が0.4なら確率は20%引き下げ
尤度比が0.3なら確率は25%引き下げ
尤度比が0.2なら確率は30%引き下げ
尤度比が0.1なら確率は45%引き下げ

という風に記されている。尤度比3以上、もしくは0.3以下が有用ととらえられる表現があるが、実際には尤度比5以上、0.2以下とした方が良いと思う。特に10以上、0.1以下は強く引っ張る力を持つ(尤度比の大したことのない所見は、それ単独では微弱だが所見の組み合わせ-いわゆるスコアリングなど-で力を発揮するので、決して軽視はできない)。

 だが、事前確率が何%とはっきりと分かることは非常に少ないので、”感覚的な運用”が現実的と思われ、自分も実際には感覚で確率を変化させている。

 このような大きな捕え方で尤度比の利用に慣れていけば良い。ただし、事前確率の設定をミスすることは避けたい。そのためには、鑑別疾患をより多く知っておくこと、そして各疾患のヒストリーを知っておくということが必要となる(鑑別に挙がらない疾患は診断不可能!)。おのおのの疾患がどういった振る舞いをするか知らなければ、事前確率を感覚的に想定することは不可能である。それぞれの典型的・非典型的なヒストリーを覚えておき、目前の患者がそのヒストリーとどの程度重なり合うか。これが重要であり、それを知らなければ問診内容の工夫も出来ないのである。

 これまで事前確率と一括りにしていたが、細かく言うと、それぞれの前後に確率がある。
問診前確率⇒診察前(問診後)確率⇒検査前(診察後)確率⇒検査後確率。

 それぞれにおいて、尤度比を意識して自分の中で鑑別疾患のランクを入れ替えていく。重きをおくのは、当然ながら問診前確率と診察前確率の2つ。この段階で鑑別疾患を的確に想起し、的確にランク付けすることが出来れば、ゴールは近くなる。研修医は特にその技術を磨く必要がある。

★補講3:勉強方法
 救急外来の勉強の仕方は
①主訴から想起できる鑑別を3つのCで整理
②既往歴・年齢・性別・問診(細かくは薬剤歴なども)で「感覚的確率」を変動
③診察・検査
①に関しては救急のマニュアルを見て最低限は暗記。これは大前提。

 そして、②と③でエビデンスが必要となる。想起する疾患をRule inに向かう情報、Rule outに向かう情報をピンポイントで狙う。その情報を学ぶために、以下、補講4の推薦図書を挙げる。

 研修医は、上級医に対してExperienceでは全く叶わない。だが、研修医ならではの貪欲さで論文や資料などを当たり、上級医の知らないEvidenceを得ることは出来る。それを実際の診療に組み込んで、上級医に少しでも近づけるように、すなわち良い診療が出来るように、勉強すべきである。自分がエビデンスエビデンスとうるさいのもこのため(決してエビデンス礼賛主義ではないですよ…)。

★補講4:推薦図書
 来年度1年次に甘く見られないために、以下のうちいくつかは読んでおこう!

・誰も教えてくれなかった診断学
まだ読んでなかったら必ず読むこと。

・The Patient History(和訳:聞く技術)
問診の精度を高めるための本。和訳よりも原著がオススメ。

・Evidence Based Physical Diagnosis(和訳:マクギーの身体診断学)
和訳で良いので、診察のエビデンスを知るために出来るだけ読む。尤度比について分かったような気になれる本。

・Rational Clinical Examination(和訳:JAMA版 論理的診察の技術)
マクギーの親本。マクギーの方が分かりやすいので、まずはマクギー。こちらはその後に余裕があったら和訳でパラパラと。でもマクギーには尿路感染症について記載がないので、それは本書で補う。

・診察エッセンシャルズ
マニュアルではない。教科書のようにしてじっくり読み込むこと。これも必ず読んでほしい。

・急性腹症の早期診断(原著:Cope’s Early Diagnosis of Acute Abdomen)
腹痛本はこれ以外認めないという位にすごい本。和訳の方が読みやすい。少し「?」と思うところもあるけど、それ以上に凄いことばっかり書いてある。

・考える技術(原著:Symptom to Diagnosis)
和訳の方が優れている。救急ではないけれど、診断推論の練習に。

・感染症の本
救急では感染症の患者が多い。救急対応として読んでほしいのは「感染症診療のロジック」「見逃したらコワイ外来で診る感染症」の2冊。後はサンフォードをポケットに。抗菌薬に関しては「絶対わかる抗菌薬はじめの一歩」がミニマムエッセンシャル。

・何でも良いので救急のマニュアル(もう困らない救急・当直、救急初期診療パーフェクト、問題解決型救急初期診療、KAMEDA-ER、亀田総合病院の総合診療・感染症科マニュアルなど)
オススメは上記5冊。なんだかんだ言って救急はマニュアルなしでは動けない。問題解決型救急初期診療のアルゴリズムは覚えておいて損はない(抗菌薬治療は参考にしてはいけない)。

・何でも良いので診察法の本(ベイツ、DeGowin、エビデンス身体診察、診察と手技がみえるなど)
診察を疎かにしていると、いつか足をすくわれる。エビデンス身体診察は、マクギーの入門編のような存在。総診の伴教授が編集してますよ。

・何でも良いのでプレゼン本(臨床医のための症例プレゼンテーションA to Z、米国式 症例プレゼンテーションが劇的に上手くなる方法など)
プレゼンが下手だと内科直や外科直も困る。また、プレゼンは研修医の能力を判断する有力な指標にもなる。短時間でまとまりのあるプレゼンをするために、何でも良いので1冊は読む!

 医療の世界において、「習うより慣れろ」は正しくない。自分では経験したことのない疾患を診断しなければならない事の方が多いため、そのような姿勢では容易に見逃す。心がけるスタンスは「習って慣れろ」!そうでなければ、自分も患者も不幸にする。医者という職業を選んだ以上、イヤでも勉強はきちんとしておくこと!そして、多くの患者を診ること!両方揃って、生きた知識が身につく。

★補講5:感染症が得意になれば、内科に強くなれる
 感染症診療には大原則がある。
 
①患者背景を理解する
 ・年齢や基礎疾患
 ・曝露
 →微生物を推定する
②感染臓器を考える
 ・診断過程が進めやすくなる
 ・重症度を把握できる
 ・どのような微生物が原因か予測できる
 ・経過観察に役立つ
③原因微生物を探す
 ・微生物の推定:患者背景、感染臓器から
 ・微生物の同定:検体提出、グラム染色や培養検査などで微生物の絞り込み
④抗菌薬を選択する
 ・empiric:ターゲットを推定し、それに対して有効な抗菌薬を
 ・definitive:起因菌と感受性結果により抗菌薬を再選択
⑤適切な経過観察
 ・各疾患の自然経過の理解
 ・よくならない場合の仕切り直し、対処法

 感染症診療が得意という医師は、オールラウンドな内科医でもある。それは、この流れをきちんと捉えて常に診療しているからにほかならない。この大原則は、良く見てみるとすべての疾患に適応可能であることが分かる。つまり、感染症の診療を良く理解することは、医療そのもののレベルアップを図れるのである。自分がこれまで述べてきたことも、救急外来特異的な診かたもあるが、言い換えればこの感染症診療の原則である。この考え方はぜひ習得してほしい。
=====

 以上でした。最初のSTEPは探偵の推理にこじ付けた部分があるので、大事なのは補講の1-5と、後はOPQRSTです。これさえ覚えれば、それが自分の診断推論です(補講の5は、1つ前の記事とほとんど被ってますね...)。加えるならば、自分はOPQRSTのPの所に"Past"を入れて「前にも同じような症状がありましたか?」と聞いています。

 以上に示した考え方、自分はこれを上回ることが出来ません。たまにはsnap diganosis(いわゆる一発診断)もしますが、研修医のするsnap diagnosisは常に誤診と背中合わせ。きちんと考えて行動するのが大事(snap diagnosisも、超高い事前確率と超高い尤度比の所見が組み合わさることが大きな要因と考えていますが)。そのためには、所見の有用性というのを知っておくのは大事だと思います。

 常人離れしたワザは必要ありません。Sapira's Art and Science of Bedside Diagnosisで有名なSapira先生は、とある病院に医学教育で行った際、診断がついていない患者さんの声を聞いただけで"Hypothyroid speech"とびしっと言ってのけて、見事に甲状腺機能低下症を当ててしまったという伝説があります。でも、自分たちにはそのマネは出来ません(格好良いけどねー)。泥臭くても、きちんとOSに則って診断に辿りつくのが大事です。

 でもあんまり尤度比に興味を持ってくれる1年次がいなくて、ちょっと寂しいかも。。。McGeeとRational clinical examinationは面白いよー。読んでね。
トラックバックURL
http://m03a076d.blog.fc2.com/tb.php/1324-4a79ead7
トラックバック
コメント
ぼくは尤度比大事だと思います.
こんな素敵な先輩がいるなんて名大の一年目,新一年目の方は幸せですね!羨ましいです.
学生dot 2011.01.11 18:16 | 編集
>学生さん 
有難うございます。若手医師がベテランに少しでも近づくには、やはり尤度比は有用だと思っています(あくまでもツールとして)。
周りは難しいことを教えている風に考えてるみたいなのですが、何も自分は高尚なことを求めているのではなくて、適切な事前確率の設定と尤度比に基づいた確率の変動ができたら、十分だと思っています(それが難しいって言われますが...)。それにプラスして問診のちょっとしたコツを2年次や上級医から学んでいくと、鑑別で大外れはしないのかなと考えています。
今回の記事は、研修医が作動するためのOSだと思っています。学生さんは、今は国試の勉強中でしょうか?研修医になった際には、症候学ももちろん、その前にOSを教わっておくと良いですよ。勉強がんばってくださいねー。
m03a076ddot 2011.01.12 04:40 | 編集
オレんとこの1年次も行き当たりばったりみたいな感じの奴少しいるなー。毎回注意しても直らない。
まあ、でもこうやってレクチャーしてくれる2年次がいる病院は良いな。お前の面倒見が良いだけかもしれないけど。
たい焼き屋dot 2011.01.12 09:15 | 編集
尤度比は検査や所見,病歴が診断をつける/除外する うえでどれくらいのパワーを持ってるかというイメージで理解してます.(この理解正しいでしょうか?)
知識を入れる以前の,OS作りが大事とのこと,国試が終わったら必ず思い出します!
学生dot 2011.01.12 21:33 | 編集
>たい焼き屋さん 
逆にお節介かもしれませんけどね。。。
少なくとも他人様の命を預かる商売、中途半端なことではよろしくないと思っています。それはこの研修期間のみならず、各科専門に進んでも変わりません。この熱さが彼らに欲しいところです。
m03a076ddot 2011.01.12 23:26 | 編集
>学生さん 
その捉え方で良いかと思います。事前確率のランク設定と、それを尤度比に基づいて感覚的に(イメージ的に)動かすということが肝腎。
国試大変でしょうけど、もう少しですよ。終わったら好きなことできますからねー。
m03a076ddot 2011.01.12 23:30 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top