2009
04.23

移り行くt-PAの使い方

 脳梗塞の治療で名を馳せるt-PA。これはプラスミノゲンを限定分解し、プラスミンに活性化する役割を持ちます。そしてプラスミンはフィブリンを分解し、線溶へと導く。

 「カタマリ?のしてやんよ!」と息巻いたt-PAは鳴り物入りで脳梗塞治療に参入してきました。期待も強かったのですが、惜しいことに時間の制限があります。


発症後3時間


 これがt-PAを使えるリミットとされています。

 それ以降だと虚血性の血管障害などによる頭蓋内出血により死亡率が増加。

 しかし、中には発症後3時間以降の患者さんでも少なからず効くことがあるんです。ECASS1, ECASS2, ATLANTISなどの研究によると、有効例が約40%、増悪例が約10%、変化無しの例が約50%と3つのグループに分けられるそうです。では、その有効例はどんな人々なのでしょう?40%も効くんなら、見過ごす手はありません。
その謎に対してMRIを使った研究がありまして、その名前をDEFUSE studyといいます。

Magnetic resonance imaging profiles predict clinical response to early reperfusion: the diffusion and perfusion imaging evaluation for understanding stroke evolution (DEFUSE) study.

 そこではペナンブラに着目。

 ペナンブラとは、脳梗塞の周りで血流が低下しているものの、神経細胞は生きている部位を指し、画像で「PWI(灌流画像)での血流低下部位とDWI(拡散強調画像)での高信号域の差」と定義されています。DWIでの高信号域は、不可逆な部位を意味します。

 そしてPWIによる血流低下部位の体積がDWIによる高信号域の体積よりも20%以上大きい場合、


PWI-DWI mismatch陽性


としました(つまり、ギリ生きている細胞が多い、ということ)。これから「ミスマッチ陽性群」、「ミスマッチ陰性群」、さらにPWIやDWIによる評価で、血流低下部位や高信号域が非常に大きい症例を「Malignant MRI pattern群」として3群に分類し、その予後を調べました。対象患者は、北米や欧州の大学脳卒中センターに入院した脳卒中患者の74人。発症3-6時間後のtPA静注による治療の直前、および3-6時間後にMRIを撮りました。

 その結果、ミスマッチ陽性群ではt-PAによる血栓溶解は予後を有意に改善しました。ミスマッチ陰性群ではt-PAによる血栓溶解は予後に影響しないかむしろ悪化させ、さらにMalignant MRI patternの患者さんでは血栓溶解で厳しい出血合併症を来たすのでは、ということになりました。

 以上から分かることは、発症後3-6時間の症例でもPWI-DWIミスマッチ陽性群ではt-PAが有効!そしてPWI-DWIミスマッチ陰性群・Malignant MRI pattern群では、t-PAは再灌流障害を引き起こすことで予後が悪くなる、ということ。

 つ・ま・り、ペナンブラ領域(大きすぎない奴ね)のある患者さんなら、たとえ発症後3-6時間であっても治療効果が高いということを示しています。

 となると、発症後6時間以内でかつt-PAを積極的に使用している病院という条件下であれば、脳梗塞の患者さんにはCTだけでなく拡散強調も撮るべきとも言えそうです。

 ちなみにこの研究のサブ解析では、来院時の段階で大きなDWI volume(>90mL)、かつt-PAで再灌流を認めた場合に出血しやすいということになりました。

 その後、PWI-DWIミスマッチを調べず、単純に発症後4.5時間くらいでやってみたらどうなんよ?という研究が2008年の9月に2つ出ました。

 1つはLancetに出たもの。

SITS-ISTR study(the Safe Implementation of Treatments in Stroke (SITS), a prospective internet-based audit of the International Stroke Thrombolysis Registry (ISTR))

 ここでは、tPA治療を発症3時間後から4.5時間後に受けた患者664人と、現段階で認められている3時間以内に治療を受けた患者11865人を比較したんです。そうしたら、両者間での転帰に有意差がでなかったとのこと。

 もう1つは

Thrombolysis with alteplase 3 to 4.5 hours after acute ischemic stroke.

ECASS 3です。この研究結果は2008年9月25日の世界脳卒中会議で発表されて、同じくNEJMにも出ました。方法は、CTで脳出血や大きな脳梗塞を合併した例を除外した後に、患者をalteplase群とプラセボ群の2群にランダムに振り分けたというもの。

 結果としては821名がエントリーして418人がalteplase群に、403人がプラセボ群に割り振られました。alteplase群の平均投与時間は3時間 59分。予後良好群はalteplase群で有意に多く、今流行りのNNTは14となりました。副作用の怖い脳出血はalteplase群で高かったものの、死亡率はalteplase群とプラセボ群で有意差なし!そのほかの重篤な合併症も両群間で有意差は見られなかったんです。

 よって、3時間から4.5時間のt-PA投与では脳出血は増加するものの、有意に予後を改善するという結果になりました。おめでとう!

 これでもっと多くの人々がt-PAの恩恵を受け、回復していくのでしょう。ECASS3の結果を受けて、ヨーロッパ脳卒中会議等で現行のガイドラインの修正が検討されるそうです(日本はいつかしら?)。

 これらをまとめると


0-4.5時間ではt-PA投与可能。
4.5-6時間ではMRIを撮ってPWI-DWI mismatchが陽性であればt-PA投与可能


とするのが理想でしょうか。現時点ではまだ3時間以内の制限がかかっているので、臨床では使用できませんが、いずれコレに近い様なガイドラインが出来るのかもしれません。

 しかしながらt-PA投与までの猶予が増えたからといって「ゆっくりしていってね!!!」とお茶を患者さんに差し出すヒマが出来たかというとそういうことでもなく、早いに越したことはありません。




 ちなみに、このECASS 3を主導したドイツの先生は、t-PAのプロトコールを最初に作成したお方。彼が以前行ったヨーロッパのスタディは失敗していて、後発のアメリカさんが投与量をちょっと減らしたら成功してしまったという苦い経緯を持っています(日本もヨーロッパと同じ投与量で行って失敗しています)。

 だからこそ今回の4.5時間での成功は非常に嬉しいものだったらしく、脳卒中会議の発表の場ではNEJMを握りしめて「アメリカに勝ったぞ~!」とアピールしており、会場も珍しくスタンディングオベーション。白熱したものだったようです。

 研究者には意地の強さも必要だなと感じました。
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コメント
t-PAのお勉強、お疲れ様です。私の医師になりたての頃は、CTが大分普及して、各病院に備え付けられるようになった頃でした。その頃に予後を格段に向上させたのは、まずグリセオール、次がウロキナーゼでした。脳血管障害の患者が来たら、まずCTを取り、出血でなかったらウロキナーゼだ、と言われたものでした。

しかし、いまだに一般病院ではt-PAが入っていないところも多く、ウロキナーゼもないので、グリセオールだけで管理している症例もかなり多く見られます。

祖父江逸郎先生は昭和19年卒、4修(中学を4年で終了した)でなおかつ戦時中の繰上げ卒業だったために、同じ年齢の方々より2年早く卒業されています。卒業後、戦艦大和の軍医となられましたが、大和の特攻出撃の際にはこのような特攻で優秀な人材を失ってはならない、とのことで、おろされました。その後、名大第一内科の講師、助教授を経て、昭和50年、第一内科の教授になられ、昭和59年、国立療養所中部病院の院長となられましたが、ただ院長を勤められただけでなく、これからの長寿社会の到来を予見して、国立長寿研究所の設立に尽力されました。長寿研を大府に引っ張ってきたのも、祖父江先生のお力です。
iwasedot 2009.04.23 21:12 | 編集
グリセオールしか武器のないところが多いのですか!?
大きな病院というのは恵まれているのだなと実感しました。同時に、地域に目を向けることも大切な考えだとも感じます。

祖父江先生は随分と先見の明がおありだったのですね。長寿研も祖父江先生とは初耳でした。
m03a076ddot 2009.04.25 01:17 | 編集
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