2009
03.12

乳癌の乳房温存療法

 学生時代のもの。今にそぐわないところもあるやもです。



 乳癌の乳房温存療法について、その適応、照射法、治療成績、乳房内再発、有害事象に分けて説明する。

☆適応
 乳癌の乳房内再発率(5-20年の観察)は温存術単独群で5-44%、照射併用群2-18%とされている。放射線治療は、術後乳房内の潜在病変を制御するのが目的であり、通常断端陰性が確認された早期浸潤癌症例を対象に行われる(断端陰性、断端近接、断端陽性例の5-10年局所再発率は、それぞれ2-9%、2-17%、10-27%とされている)。このため、局所制御が困難な症例や、温存療法後の整容性が問題になる症例は良い適応ではない。非浸潤性乳管癌(DCIS)も照射の適応に含められているが、断端陰性と温存乳房内の残存石灰化がないことを確認した上で、乳房のみに絞った術後照射が勧められており、多中心性やびまん性の悪生石灰化例および4cmを超える病巣は乳房切除術の適応となる。また核異型度が低く、切除断端まで10mm以上ある症例では、術後照射を省略できる可能性がある。温存療法を希望する浸潤癌やDCIS症例のうち、妊婦、患側乳房や胸壁の放射線治療歴(ホジキン病など)、治療体位が取れない、強皮症やSLEの合併患者などは適応外とされている。

 また、リンパ節転移は癌のリンパ管侵襲があって起こるものであるが、リンパ管侵襲があまり目立たないことも多く、またリンパ節転移の所見を術前に診断することは困難である。よって、現在リンパ節転移の程度で乳房温存療法の可否は決められていない。多発病巣においては、2個の病巣が近傍に存在し、整容性と安全性が保たれれば適応外とはならない。化学療法に関しては術前治療が注目を集めており、術前に行っても術後に行うのと同様の予後が得られることが分かっている。

☆照射法
 全乳房(腺)接線2門照射を行う。治療計画には二次元治療計画(X線シミュレータ)と三次元治療計画(CTシミュレータ)がある。二次元治療計画では、乳房周囲に鉛線でマーキングを施したX線透視像からガントリー角度、コリメータ角度および臨床標的体積(CTV)を決定し、アイソセンター面とその上下各5cmのオフ・アキシス面CT画像で線量分布図を作成し、ウェッジの有無や角度を調整の上最適照射法を決定する。三次元治療計画では、触診上の乳腺組織の上・下縁、内・外側縁にカテーテルでマーキングを施し、正・側方向のスキャノグラムを撮影後に、上・下のマーキング間のCT撮影を行い、治療計画装置に転送されたCT画像に標的体積とリスク臓器(肺、心)を入力し、ビームズ・アイ・ビューで標的堆積を充分含め、リスク臓器を出来るだけ含めない矩形照射野を設定し、ウェッジなどの条件を変えた線量分布を検討のうえ、ガントリー角度やコリメータ角度を決定する。なお、いずれの方法でも乳頭と照射野前縁間距離は1.5cm程度に設定し、ボーラスは使用せず、アイソセンター面で含まれる肺の厚みが2.5-3cmを超えないよう留意する必要がある。

 乳房は乳頭から胸壁に広がる円錐形臓器であり、乳房のすぐ背側は放射線感受性の高い肺が存在する。乳房への線量分布を均等にし、肺への照射線量を出来るだけ減らす目的でウェッジ・フィルターが用いられ、傾向として浅いウェッジ角度(15度程度)は普通-大サイズの乳房の、深いウェッジ角度(30度)は小サイズの乳房の線量分布補正に有用である。

 術後化学療法を行わない症例では、放射線治療の開始時期は局所再発率の増加との関連で注目されている。メタ解析から、創部の回復後速やか(2-4週後)に放射線治療を開始するのが望ましい。

 術後化学療法が必要な症例では遠隔転移が予後因子であり、遠隔転移の抑制が局所再発の抑制に優先する。その意味から、化学療法を行うための放射線治療開始の遅れは容認されると判断される場合が多い。

 線量配分の世界的な標準は、総線量45-50.4Gy、1回線量1.8-2Gy、治療期間4.5-5.5週となっている。

 全乳房接線照射が整容性に与える影響は軽度であり、ブースト照射は短期的には整容性を下げるが、長期的には影響を与えないことが示されている。整容性で問題になる事象としては、急性反応としての発赤や腫脹、晩期反応としての皮膚萎縮や線維化、毛細血管拡張などである。

☆治療成績と乳房内再発
 早期に診断・治療すれば完治する可能性は高いが、早期乳癌であっても診断時に既に微小転移が存在している場合がある。また、分子マーカーも研究が進み、エストロゲンレセプターやHER 2などは臨床で使用されている。10年生存率は、stage Iで90%以上であるが、stageが進むごとに生存率も低下してくる(stage IVでは30%以下)。乳房切除術と乳房温存療法で遠隔再発率および生存率で差は認められない。また、乳房温存療法でも適切な適応のもとに行えば局所再発も必ずしも高くない。

 乳房温存療法後の乳房内再発には腫瘍側因子だけではなく宿主側や治療側の因子が複雑に絡み合っている。宿主側の危険因子としては年齢が挙げられる。腫瘍側としては腫瘍径、リンパ節転移、リンパ管侵襲、EIC(腫瘍内に25%以上の乳管内成分があり、腫瘍外に乳管内進展が認められること)、核異型度、多発などの危険因子があり、治療側としては切除断端陽性、放射線非照射、補助療法非施行がある。

 切除断端が陽性の場合、施設によって方法は異なる。多くは追加切除を行い、その後永久標本で最終的に断端陰性であれば50Gyの放射線療法を行う。乳管内進展で限局的に切除断端陽性の場合は、放射線療法(50Gy+ブースト照射)を行う。陽性部分が多数切片に及ぶ場合、乳管内成分が断端に露出している場合や浸潤部で陽性の場合は原則に追加切除を行う。

 多発癌の場合、切除断端を陰性に出来れば局所コントロールは良好であるが、乳腺の切除量が増えると美容的な問題が生じる。切除範囲と美容両者の兼ね合いで、乳房温存療法を決定すべきである。

 乳房内再発は、正確に分類することは困難であるが、出来るだけNP(New Primary:二次癌)とTR(True Recurrence:真の再発)に分類することが望ましい。一般的にNPに関しては、原発性乳癌と同様に治療を行ってよいと考えられる。腫瘍が限局していれば再乳房温存手術も可能である。全身病の1症状としての乳房内再発では後に遠隔転移をきたすことが多いので、有効と考えられる化学療法を行い、局所制御のために乳房切除術を行う。遺残癌からの再発では、全身病としての危険が高ければ、乳房切除と強力な化学療法を行う必要があり、局所病としての可能性が高ければ、病変の範囲によっては乳房温存手術も可能と考えられている。

☆有害事象
 乳腺には生命維持に関わる機能がないため、乳腺照射によって重篤な障害を引き起こすことはない。ただ照射によって導管萎縮、乳汁分泌障害が起こるので、将来出産を希望する若年患者ではその点を十分説明する必要がある。以下に代表的な障害を記す。

 放射線皮膚障害:数-48時間後に、急性炎症反により紅斑が起こることがある(線量閾値2Gy)。数日経つと基底細胞の死による炎症反応からも紅斑が起こる(線量閾値10Gy)。3-6週経過すると乾性落屑、4-6週で湿性落屑が発生する(それぞれ線量閾値18, 20Gy)。放射線皮膚炎はほとんどが2度までにとどまる。皮膚障害を増悪させる要素は皮膚の皺と摩擦による機械刺激で、肥満患者の皺の部分、大きな乳房のinflamammary fold、腋窩などは3度になることもある。これらの障害に対する治療であるが、冷罨法には予防的効果はないため、症状があるときのみ行う。冷罨法にて症状が緩和しない時は、トプシムスプレーを使用することがある。軟膏は直接皮膚に塗ると刺激となるため、リント布や繊維が柔らくなった再生ガーゼなどを使用する。軟膏は使用量を多くする。少ないとリント布やガーゼが軟膏を吸収し、患部に吸着して皮膚剥離の原因となるためである。また、患部に貼る際は皺にならないよう、テープなどはできるだけ貼らないか必要最小限とし、包帯・スカーフ、下着(胸帯)などで工夫して固定する。軟膏使用は照射後・入浴後・就寝前など、1日1-2回を目安とするべきである。放射線照射前には、拭き取ると皮膚を擦ることで刺激となり、症状が悪化する場合があるため、必ず軟膏をやさしく洗い流して取り除く。また、軟膏を皮膚につけたまま治療を受けると、線量が増加して皮膚炎を発症・悪化させる原因となる。さらに、照射目標に使用しているマーキングは軟膏により消えてしまうことがあるため、使用時には注意が必要である。これらの皮膚障害は照射終了後1-3ヶ月で回復する。晩期障害としては治療後に色素沈着、皮膚萎縮、毛細血管拡張などが起こることがあり、これらは難治性である。

 患側上肢浮腫:腋窩リンパ節郭清術の程度や郭清レベル、更には腋窩照射の範囲や線量が複合的に作用する。充分な腋窩郭清後の照射は不要な場合が多く、三次元治療計画の普及とも相まって、今後患側上肢の浮腫は減少するものと思われる。

 放射線肺臓炎および肺線維症:照射される肺容積と化学療法の内容や併用時期で異なる。照射野内の線維化にとどまれば臨床上問題となることはない。しかし約1%ではあるが、照射後6ヶ月以内に器質化肺炎を伴うBOOP様の肺炎を見ることがある。

 その他:心臓に関して、心筋は比較的放射線抵抗性であるが、冠動脈障害、心外膜炎などの晩期障害が時に見られる。腕神経叢症も50Gy程度の線量であればほとんどない。放射線による2次発癌も稀で、照射乳房における血管肉腫の報告が散見されるのみである。


☆参考文献
乳房温存療法ガイドライン〈医療者向け〉p12-14、p27-36
乳癌治療のコツと落とし穴 p196-203
よくわかる乳癌のすべて p246-254、p391-394
放射線治療学 改訂3版 p172-180
トラックバックURL
http://m03a076d.blog.fc2.com/tb.php/1208-d6ca9052
トラックバック
コメント
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top