2008
09.18

Rebound Tendernessは有用なのか

 腹膜刺激症状を見る一つの手段として「Rebound Tenderness(反跳痛or反跳圧痛)」があります。聞いたことのない学生や研修医はいないのではないかと思われるほど広く知れたもので、これがあったら一大事。腹膜炎だ!と緊急性がぐっと高まると一般的には言われています。しかし、このメジャーさとは裏腹に、有用性に関しては疑問符が付くもののようでして。。。



 「急性腹症の早期診断」という古典中の古典に拠りますと、24ページに

この診察法は、予期せぬ不必要な痛みを引き起こすだけで、注意深く優しく圧迫する以上に何かが得られるわけではないため、われわれは推奨していない。腹部の優しい打診のほうが、より正確な情報を提供するだろう。

とあります。この本、原著はCope’s Early Diagnosis of the Acute Abdomenという、初版が1921年で現在22nd editionまで版を重ねている重鎮(日本語版は20th editionを和訳したもの)。

 そう書かれているにも関わらず今も行われているということは、Rebound Tendernessを否定するエビデンスがこの本にないからなのかもしれません。

「Cope先生はあんな風に言ってるけどそれはホントなの?証拠はあるの?」

 まさしくごもっとも。ということでMcGee先生のEvidence Based Physical Diagnosisの出番。私が持っているのは2nd editionです。その573ページでは

Many expert surgeons discourage using the rebound tenderness test, regarding it “unnecessary”, “cruel”, or a “popular and somewhat unkind way of emphasizing what is already obvious”.

と記述しています。既に明らかなことを強調する惨い方法、、、これだけ聞くと何か拷問じみてますね。。。そして576ページにて、急性の腹痛で腹膜炎を示唆するサインとしてのRebound Tendernessの感度・特異度・陽性尤度比(LR+)・陰性尤度比(LR-)を出してエビデンスを強調。

 さてその数字は

感度40-95%、特異度20-89%、LR+2.1、LR-0.5

感度、特異度共に開きがあり頼るには不安。そして尤度比を見る限りは、あってもなくてもあんまり使えません、この所見。。。

 同じくこの本に記載されているPercussion Tenderness(打診での痛み)を見てみましょう。

感度65%、特異度73%、LR+2.4、LR-0.5

 なので、Copeさんの言っていることがやはり正しそう。でもLR+は打診の方がほんのちょっと高いだけですから、打診もそれ程の威力はなさそうです。腹痛の患者さんは診察だけで物事を決めては決していけません。やはり病歴あっての診察、です。

 Rebound tendernessの感度と特異度がびしっとなってくれれば更に良いのですが、やはり身体所見は取る人の技術で異なりますからこれは致し方ないのでしょう。しかもそんなに驚くような数字ではないのが分かりましたし。おそらくは、Rebound tendernessが陽性になる患者さんは、それ以外の病歴や診察から「こりゃすんなり帰せないな」と思えるような患者さん。なので、そういう人に敢えてやらずとも、ということでしょう。

 ちなみにBlumberg’s sign(ブルンベルク徴候。ドイツ語読みするのならブルンベルグではなくブルンベルクです)てのもあります。左下腹部を押して急に手を離すと生じる下腹部の痛みは虫垂炎のサイン、とBlumbergさんは考えたそうです。何か今はRebound Tendernessと同義になっている感がありますが。。。


 追加:腹部診察で腹膜炎に対して尤度比の高い所見は、Rigidity(筋硬直)。いわゆるGuardingとは異なります。前者はinvoluntaryなもので、後者はvoluntaryなもの。このRigidityは

特異度86-100%、LR+3.9

 それでもLR+が3.9ではありますが。。。これのあるなしだけで決めたら痛い目に遭います。

 そしてCarnett’s signですが、これのLR+が0.1(感度1-5%、特異度32-72%)ですから、あった場合は腹膜炎の確率が45%低下。腹腔外による腹痛(筋骨格系など)を考えるべし、ということなんですね。

 また、臨床的には後腹膜臓器や骨盤内臓器の炎症は所見が出にくいので、診察でものごとを決めないようにしましょう。Obturator signやPsoas signなどが診察項目としてありますが、感度が著しく低いことは覚えておきましょう。概して診察と言うのは低感度ではあります。


☆足し算による尤度比と、尤度比の意味(2008年11月16日追加)
 McGeeさんの本では、尤度比と確率の関係を足し算で求めています。ただしこれは検査前確率がある程度ないと通用せず(10-90%)、スクリーニングなどでは使えません。救急やベッドサイドで簡単に推測するものとしてお使い下さい↓

尤度比が2なら確率は15%上乗せ
尤度比が3なら確率は20%上乗せ
尤度比が4なら確率は25%上乗せ
尤度比が5なら確率は30%上乗せ
尤度比が6なら確率は35%上乗せ
尤度比が8なら確率は40%上乗せ
尤度比が10なら確率は45%上乗せ
尤度比が0.5なら確率は15%引き下げ
尤度比が0.4なら確率は20%引き下げ
尤度比が0.3なら確率は25%引き下げ
尤度比が0.2なら確率は30%引き下げ
尤度比が0.1なら確率は45%引き下げ

 尤度比の意味ですが、前述のように「もっともらしさ」を意味します。もっと砕いて言うならば「それっぽさ」と表現できるでしょうか。尤度比は1を境目にし、1より上だと検査後確率が上昇していき、対して1未満だと下がっていきます。丁度1の場合、何ら影響を与えない、無意味なものということです。

 例えばさっきのRebound Tendernessは陽性尤度比が2.1でした。ということは、腹痛を訴える患者さんでこの所見があった場合(陽性)、腹膜炎の確率(もっともらしさ)は15%ちょっと上昇ということ。そしてRebound Tendernessの陰性尤度比は0.5です。これは、この所見がなかった場合(陰性)、腹膜炎の確率(もっともらしさ)は15%下がるということに他なりません。

 そしてMcGee先生は、尤度比が3以上と0.3以下のものを一般的に有用であるとしています。この基準から見ると、Rebound TendernessもPercussion Tendernessもあんまり使えないということになりそうですが…(一般的には尤度比は5以上、0.2以下が有用と言われています)。
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