2008
06.28

悪性転化を伴う成熟奇形腫

 悪性転化を伴う成熟嚢胞性奇形腫について、学生の時に勉強したこと。大御所的教科書を見てもほんの数行しか書いていないので、作成にはかなりの労力を要しました。。。でもその甲斐あってか「かなり詳しく書けてるよ」とのお言葉を担当の先生から頂いたので(直訳っぷりがナイス、とも言われましたが…)、調べた時間は無駄にはならなかった模様です。


☆Ovarian Mature Cystic Teratoma with Malignant Transformation

 Mature cystic teratoma (MCTs:成熟嚢胞性奇形腫)は最もコモンな卵巣胚細胞腫瘍であり、卵巣癌の10~20%を占める。だがMCTの悪性転化は稀であり、MCTの1~2%となっているに過ぎない(1)。いくつかのタイプがあるものの、最も多いものがsquamous cell carcinoma (SCC:扁平上皮癌)であり悪性転化の80~90%に上る。Adenocarcinoma(腺癌)がそれに続き7%であり、sarcoma(肉腫)やmelanoma(黒色腫)はその中でも稀である。

 若年者に好発する腫瘍としてMCTは知られており平均年齢は35歳前後であるが、悪性転化は多くが閉経後である。これは、胚細胞腫瘍は始原生殖細胞から生じておりMCTsは悪性転化よりも大抵15~20年早く見つかることから、MCTsが様々なcarcinogensに暴露することで悪性転化となるのではないかと言われている(2)。よって、高齢者に見られたMCTには注意を払う必要がある。

 悪性を示唆する症状としては腹痛、腹部膨満感、腹水、便秘、下痢、尿意、性交疼痛が挙げられるものの、特異的というわけではない。多くは他の卵巣癌と同一の症状である。

 画像所見では、MCTは歯や骨、軟骨といった骨組織がCTで見つかるため他に比べて分かりやすいが、悪性転化を診断することは非常に難しい。嚢胞壁を重度に侵食する充実性成分があり、近隣の骨盤内臓器へ直接浸潤するような病変が見られた場合、悪性転化を示唆する(3)。また、Gadolinium enhancementはteratomaが悪性転化を受けているかどうかを評価する際の手助けになる可能性がある。近接した組織への直接浸潤は、体の別の部位から生じたSCCのコモンな所見である。逆に、一般的な卵巣癌の最も重要な拡がり方はリンパ行性の播種である。よって、近接臓器へ二次的に進取する子宮頸癌もこの成長パターンを模倣するものの、侵襲的な成長の仕方はSCCを伴うMCTに特徴的なものであり、悪性の性質を反映している(3)。

 腫瘍のサイズはMCTに比べ悪性転化の方が大きい傾向にあり、直径が10cmを超えることも珍しくない。また、成長の度合いもMCTと悪性転化では異なる。

 腫瘍マーカーに関しては、SCCはMCTにおいて上昇する傾向にあるものの、悪性転化では非常に高くなっており、最も感度の高いマーカーとして優れている(4)。ただ、SCCが上がっていないからと言って悪性転化を否定することにはならず、11症例中4例しか上昇していなかったとする報告もある(2)。CA125もMCTにおいて上昇する傾向にある。一方悪性転化では高値を示すという報告もあれば(4)正常値であったとするものもあり(2)、信頼性に欠ける。CA19-9はMCTの優秀なマーカーとして知られ、平均的なレベルはカットオフ値(37U/mL)を超えている。悪性転化でも上昇しており、その差が著しくはないため鑑別には不向きである(4)。CEAはMCTで非常に低いものとなっていて、逆に悪性転化では上昇している。このことからSCCとCEAがスクリーニングとして他のマーカーよりも優れていると言える(4)。前者に関して付け加えると、再発のモニタリングとしても有用であるとされている(5)。

 以上から、患者の年齢、腫瘍のサイズ、SCCとCEAはスクリーニングやMCTとの鑑別において役立つ指標ということが分かる。数字的なことを挙げると、直径が9.9cmを上回れば悪性転化の感度は86%とされ(4)、40歳を超えていてSCCの値が2.5ng/mLを上回っていた場合、悪性転化に対しての感度が77%で特異度が96%との報告もある(6)。

 卵巣癌において良性と悪性の鑑別を立てることは、術式がこの二者ではかなり異なるため非常に重要である。MCTでは腹腔鏡手術がたびたび行われているが、悪性転化が疑われている場合、この手術法は非常に高リスクなのである。よって、上述したファクターは術式を決める上でも重要になってくる(4)。

 骨盤壁への浸潤、破裂、播種、腹水、付着、SCC以外の組織型であると予後は不良であるものの、Stageが予後を決める上で最も重要とされる。卵巣を超えて広がると不良であり(1)、またcytoreductionが上手く行くことは予後を向上させる(2)。

 先述の様に、予後はstageに著しく依存している。Kashimuraらの研究ではstageⅠでは50%、stageⅡでは25%、stageⅢにおいては12%、stageⅣでは0%となった(7)。

 初期では術中や病理で予期せずに診断がなされることも良くあり、外科的なstage、アジュバントの必要性に関してジレンマとなる(1)。

 悪性転化は稀な疾患なため、マネジメントに関してコンセンサスは得られていないと言うのが実情である(1),(2)。SantosらはstageⅠ-Ⅱでは毎週のプラチナベースのケモに骨盤全域へのradiationを併用すると良い結果の得られる可能性があるとしている(1)。今後様々な研究が行われ、効果的な治療法が開発されることを期待したい。


☆参考文献
1)Dos Santos L, Mok E, Iasonos A, Park K, Soslow RA, Aghajanian C, Alektiar K, Barakat RR, Abu-Rustum NR. Squamous cell carcinoma arising in mature cystic teratoma of the ovary: a case series and review of the literature. Gynecol Oncol. 2007 May;105(2):321-4. Epub 2007 Jan 22.
2) Rim SY, Kim SM, Choi HS. Malignant transformation of ovarian mature cystic teratoma. Int J Gynecol Cancer. 2006 Jan-Feb;16(1):140-4.
3) Kido A, Togashi K, Konishi I, Kataoka ML, Koyama T, Ueda H, Fujii S, Konishi J. Dermoid cysts of the ovary with malignant transformation: MR appearance. AJR Am J Roentgenol. 1999 Feb;172(2):445-9. Review.
4) Kikkawa F, Nawa A, Tamakoshi K, Ishikawa H, Kuzuya K, Suganuma N, Hattori S, Furui K, Kawai M, Arii Y. Diagnosis of squamous cell carcinoma arising from mature cystic teratoma of the ovary. Cancer. 1998 Jun 1;82(11):2249-55.
5) Tseng CJ, Chou HH, Huang KG, Chang TC, Liang CC, Lai CH, Soong YK, Hsueh S, Pao CC. Squamous cell carcinoma arising in mature cystic teratoma of the ovary. Gynecol Oncol. 1996 Dec;63(3):364-70.
6) Mori Y, Nishii H, Takabe K, Shinozaki H, Matsumoto N, Suzuki K, Tanabe H, Watanabe A, Ochiai K, Tanaka T. Preoperative diagnosis of malignant transformation arising from mature cystic teratoma of the ovary. Gynecol Oncol. 2003 Aug;90(2):338-41.
7) Kashimura M, Shinohara M, Hirakawa T, Kamura T, Matsukuma K. Clinicopathologic study of squamous cell carcinoma of the ovary. Gynecol Oncol. 1989 Jul;34(1):75-9.
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dot 2015.03.26 17:18 | 編集
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dot 2015.03.26 17:28 | 編集
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。

さすがに専門外の中の外なので、医学的にどちらかというのは申し上げられず…。
ただ、大きな決断ですので、主治医の先生が信頼できそうだ、話しやすい、という感覚が強いほうが良いと思います。そして大事なのは、患者さん側からの意見を聞いてくれる先生であることだと考えています。これは患者さんの言うことを無批判に受け入れるというわけではなく、いったん咀嚼して、分かりやすく医学的に正しいことを交えて返してくれる先生のことです。
そこを重点に考えてみてはいかがでしょうか。
もちろん治療が医療として正しいというのは当然ですが。
m03a076ddot 2015.03.31 22:49 | 編集
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dot 2015.04.01 17:13 | 編集
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。

おっしゃるように、ご家族の考え方も含めて、意見をまとめることがいいのだと思います。
病院の空気、ご家族の空気、患者さんの空気、それらが一致することが望ましいのでしょうね。
m03a076ddot 2015.04.04 10:19 | 編集
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