2007
12.23

黄斑円孔-2

 一つ前の記事の続き。



■GENERAL SURGICAL TECHNIQUES
 現在、黄斑円孔における手術はthree-port systemを用いた経毛様体輪の術式である。Stage 4は定義により完全後部硝子体分離が存在している。分離しているかどうか怪しい場合は、以下に述べるstage2, 3に対する技術を用いて確認する。後部硝子体は有水晶体眼であれば全例切除される。無水晶体眼、偽水晶体眼では前部も含め全体の硝子体ゲルを除去する。stage2, 3であれば後部硝子体剥離がないため、術式は修正される。

 中心硝子体を除去した後、後部皮質硝子体を同定し網膜表面から剥がす。殆どの症例で、Weiss’ ringの有無やcore vitrectomy中の硝子体の振る舞いによって後部硝子体剥離があるかないかは識別できる。疑わしい場合、後部硝子体の状態を知る技術がいくつかある。皮質硝子体はsoft-tipped silicone suction cannulaを使って最も容易に同定できる。カニューレで軽く網膜表面近くを吸引していると、カニューレ口が皮質硝子体によって閉塞しカニューレが曲がる。これは動きが似ていることから”fish-strike” signや”divining-rod” signと呼ばれている。また皮質硝子体はフルオレセインやICG、トリパンブルーなどの色素を硝子体内に注射すると染色されることで眼に見えるようになる。粒子状のトリアムシノロンをcore vitrectomyの後に注射することもある。粒子が接着するか皮質硝子体内でもつれることで、その存在を明らかにする。後に述べるように、ICGについてはその毒性が危険視されている。眼内に残ったトリアムシノロンは許容できるが、硝子体内注射による合併症(眼圧上昇、白内障、無菌性ぶどう膜炎など)を引き起こすことがある。皮質硝子体はその後網膜内表面から分離され、後部硝子体剥離となる。これはsuction cutting instrumentかactive suction(100~200mmHg)を用いたカニューレを使い皮質硝子体を視神経近くまで進入させ、前後方向に挙上することによる。後部硝子体剥離をつくると、大抵は浮遊するWeiss’ ringが見られる。硝子体切除術はこれで完成となり、完全に後部硝子体が切除されたかはsoft-tipped cannulaを使って確かめる。網膜上膜は外科医が望めば手術のこの段階で除去する。間接的検眼鏡にて網膜全体を見て、医原性の網膜破損、RDの有無を確認する。Fluid-air exchangeが次に行われる。最後に強膜切開部を閉鎖しair-gas exchangeを行う。タンポナーデをもたらし、眼内の液体の流れを押さえ円孔を閉鎖するために、患者にはうつむき姿勢が必要となる。

 内限界膜(ILM)を剥皮すると網膜の弾性が高まるため、それが閉鎖の一助となっている可能性がある。そして円孔部ではMuller cellsが増殖し、円孔を求心性に収縮させ、遂には閉鎖させると考えられている (ILM剥皮によるreverse gliosis effect)(2)。

Epiretinal membrane peeling
 黄斑円孔の手術で最も議論となっているのは網膜上膜とILM剥皮の必要性、効果、術式、合併症であろう。黄斑円孔手術の初期には、網膜の可動性が増すようになるまでbarbed bradeを用いて黄斑円孔の縁を掻いた。その次の技術は、黄斑円孔周囲のILMとそれより上の網膜上組織を分離除去しようという試みだった。Small-gauge retinal pickを円孔周囲のILM下に入れ、円形に進めてsurgical planeを作る。ILMはその後forcepsによって剥皮される。この術式はmaculorhexisと呼ばれる。ILMが広範囲に除去されると、網膜の内層はしばらくの間蒼白であり、剥皮されたところとされていない部分の境界はシャープである。この色の変化によって剥皮されたところとされていないところが見分けられ、剥皮を完成させるガイドとなる。しかし、この微妙な所見ではILMが完全には見えず、他の技術が必要となる事態もしばしば生じる。硝子体腔へICGを注入するとILMのみが染まるため、コントラストが際立つ。だが、ICGの毒性が懸念されている。最も障害を受けるのは黄斑円孔部分のRPEの様である。この毒性を防ぐため、ICG注入に先だってHealonなどで円孔をカバーする方法がある。ICGの代わりとしてはトリパンブルーやトリアムシノロンがある。トリパンブルーはICGと同様にILMを染め、眼への毒性はそれほど多くないと考えられている。トリアムシノロンはILMを染めないが、術中に網膜表面へ注入される。ILMが剥がされると、その部位がトリアムシノロン粒子の欠けている部分として認識される。眼毒性はないと考えられているが、眼圧上昇、白内障、ぶどう膜炎と関連しているのではとされている。

 残念なことに、様々な技術を比較した無作為試験は行われておらず、どれが好ましいのかは分かっていない。

Surgical adjunctive agents
 電気透熱療法や寒冷療法、光凝固は網脈絡膜瘢痕をつくるため殆ど用いられない。黄斑円孔手術の解剖的かつ視覚的な成功率を高めるため、いくつかの補助薬が使われてきた。ウシ由来のTGF-β2(Celtrix Pharmaceutials, Santa Clara, CA)は用量依存性の効能があり、高い解剖学的成功を示した。だが、recombinant DNA由来のTGF-βはそれほど効能がないということが分かっている。

 主に血液に由来する他の補助薬も研究されている。自己血清は利益が小さく、大きな黄斑円孔では恐らく良い結果にはならないとされた。自己凝縮血小板はとりわけ加齢性特発性のものと小児の外傷性のものに高い解剖学的成功率を示したものの、術後の最終的な視力には変化がなかった。全血はあまり意味がなく、血漿トロンビン混合物はある一定の成功を得ている。

 Fluid-gas exchangeに伴う円孔基底部RPEへの補助的な光凝固は、硝子体切除後も存続する円孔の代替治療となる可能性がある。これらの補助療法を用いずとも黄斑円孔手術の結果は良いが、慢性や再発性の黄斑円孔といった予後の悪いものにとっては安全で効果的なものとなりうる。

Tamponade
 手術の最も大きな合併症は術後のうつむき姿勢であろう。これにより、硝子体内ガスタンポナーデの選択や術後のうつぶせ姿勢の期間は議論の的となっている。初期においては非膨張性のsulfur hexafluorideの使用と最低一週間のうつぶせ期間が必要であった。だが、全ての外科医がうつむき姿勢の期間については同じ意見を持っているわけではない。残念なことに、ガスの種類や濃度、うつむきの期間を解剖学的、視覚的な結果で比較した信頼に足る研究は少なすぎるのである。

 手術結果のうつむき姿勢への依存を減らすため、シリコンオイルが使われることもある。Fluid-gas exchangeの後に注入され、典型的には術後6~12週間で除去される。術後正しい姿勢をとることの出来ない患者にとって恐らく最も有用であろう。このシリコンオイルの代わりに”heavy silicone oil”を用いて手術を行った結果、うつむき姿勢をとらずとも治療に成功したという報告がなされたが(3)、2名の患者にしか用いておらず、更なる前向きRCTが待たれる。

 ILM剥皮と16%C3F8もしくは25%SF6のガスタンポナーデを用いた手術において3日間のうつむきで好成績を残したという報告もあるが(4)、現在は術後うつむき姿勢を最低1週間持続する方法が主流である。長ければ長いほど良いのであろうが、理想的な期間というものはまだ不明である。

■SURGICAL RESULT
 手術が終わりガスの吸収された後、neurosensory RDの完全な解決、円孔部における眼に見える辺縁の消失が解剖学的成功に必要である。OCTでは早ければ術後24時間で円孔閉鎖が確認される。中には中心窩のneurosensory RDを模倣する閉鎖の仕方もあり、視力回復が乏しい。このパターンでは正常の閉鎖へ進み、視力が回復することもある一方、円孔が早期に再発することもある。

 解剖学的成功により、網膜機能は大抵改善する。Scanning laser ophthalmoscopeを用いたmicroperimetryにより、neurosensory RDの範囲における相対暗点は部分的、もしくは完全に治る。更に、殆どの症例で絶対暗点が見つからなくなる。円孔が上手く塞がった患者の多くはmetamophopsiaの症状が改善する。また、術前では症状として出ていた絶対暗点でも改善を見る。重要なことは、視力が主観的にも客観的にも改善するということなのである。

 術後における視力の回復具合を予想するであろう術前の特徴に関しても評価が行われている。術前の視力は術後の視力と直接関係しているし、視力回復の程度とは間接的に関係(逆の関係)している。ほかには円孔のサイズや術前のレンズ混濁化の程度があり、円孔が小さければ小さいほど、そしてレンズの混濁化が軽ければ軽いほど良いとされている。

 黄斑円孔手術で視力が回復するために重要なことの一つに、レンズの状態がある。前から混濁が存在しており、術後に進展してしまったら視力回復は制限される。黄斑円孔手術を受けた無水晶体、偽水晶体の患者では術後最初の6ヶ月間は視力が回復し続け、その後も安定もしくはわずかながら改善を見る。有水晶体の眼は術後3~6ヶ月が最もよく見え、その後はレンズの核硬化が進むため視力は次第に悪くなっていく。白内障の手術を受け、眼内レンズ挿入を受けると視力はしばしば改善を見るものの、後に黄斑円孔が再燃したという報告もある。黄斑円孔手術後におけるレンズ混濁化の視力へ与える影響はまだ完全に定まってはいない。

■COMPLICATIONS
 術中の最も重要な合併症は医原性の網膜破損である。それが発見されなかったり不適切に処置されたりすると、更なる視力障害や追加手術を要することもあるRDとなってしまう。術中に網膜を破損する確率は5.5%である。この破損は後部硝子体剥離が必要となるstage 2, 3において、網膜のどの四分円にも起こりうるので、間接検眼鏡で網膜表面全体を調べることが非常に重要となってくる。これはFluid-air exchangeの前に行われる。Fluid-air exchangeの後に行うと、空気が網膜にかけるテンションや空気に満ちた眼球の光学的な都合で網膜破損が見えなくなってしまう。網膜破損は術中に網膜復位術を、術後にガスタンポナーデを行うことで治療され、更なる合併症は一般的にはない。

 硝子体切除術では、術中の網膜への光による毒性がある。これは顕微鏡からのものではなく光ファイバーの照射器から発射された光によるものと考えられている。よって、長い間照射器を網膜の近くに固定しておくことは避けるべきである。だがこの合併症の発生頻度は1%にも満たないのではと考えられている。

 術後のRRDは黄斑円孔の手術を受けた患者の1~2%に起こるとされているが、報告によっては14%に認められたとするものもある。RRD発生は個々の外科医の経験に関係しているとも考えられるし、過去数十年の外科医全体の経験によるのかもしれない。剥離は硝子体切除後すぐに起こることがあり、これは恐らく術中に周囲の網膜を破損してしまい、それに気づかないことによるのであろう。数ヵ月後に剥離が起こることもあり、大抵これは取り損じた硝子体の収縮によるものか、術中に後部硝子体剥離が必要だった周囲硝子体が更に分離したことによるものである。硝子体切除後のRDは網膜復位術とガスタンポナーデで一般的に治療され、成功する。硝子体切除の見直しが要求されることもあるが、強膜折込術は殆どの症例では必要でない。Macula-off detachmentはいつも黄斑円孔を再発させるわけではなく術後には視力を取り戻せることもある。術後のERDは黄斑円孔術後に認められることがあるため、術後RDの鑑別診断に含めるべきである。

 Fluid-gas exchangeを伴う毛様体輪硝子体切除術後に起こる周辺視野障害は黄斑円孔手術を受けた患者によって初めて確認された。典型的な視野欠損はtemporal wedge defectであり、マリオットの盲点と連続することがよく起こる。この欠損は視神経のsectoral pallorや欠損に対応する神経線維層の消失に関連している。他には、眼底にて局所の斑点形成、RPEの変性、脈絡膜循環の変化、網膜下線維増多、網膜上膜形成なども起こりうる。周辺視野障害の原因は完全には分かっていない。後部硝子体剥離を形成する時やfluid-air exchange時、術後のガスタンポナーデ時などに起こる機械的外傷が関係しているのかもしれない。この合併症が術中に起こるのか術後に起こるのかも不明であるが、多くは術後24~48時間以内に認められ(大きな眼内のガスバブルがあっても)、欠損は進展しない。高圧酸素療法で改善したという報告があり、またfluid-air exchangeに使う空気を湿潤化したり、ポンプ圧を下げたり、後部硝子体剥離の形成を制限したりすることで視野欠損の発生率が低下したとする研究もある。

 最近、小さく殆どは無症状の傍中心暗点が黄斑円孔の硝子体切除術後に発見されている。0.25~4 degreesであり、術前は正常であった部位に起こる。原因は分かっていない。

 眼圧上昇や緑内障は黄斑円孔手術後に起こることもあるが、硝子体切除術やfluid-gas exchangeに特異的なものではない。二次的な開放隅角緑内障が炎症やステロイドによって起こることがある。眼内に注入するガス濃度を間違えると膨張性のガスバブルが形成されることがあり、術後に眼圧が上昇してしまう。解剖学的にリスクのある患者でうつむき姿勢がきちんとなされなければ、膨張性のバブルがなくとも瞳孔ブロックを引き起こし、閉塞隅角緑内障を起こす可能性がある。正確な診断は術後にgonioscopyを用いることなどによる。

 遠視やスリットランプで狭隅角が見える眼には、術前のgonioscopyが有用である。殆どの術後緑内障を治療するには房水産生抑制薬やアトロピンの使用で十分である(稀に虹彩切除術や線維柱帯切除術を要する)。眼圧上昇は殆ど術後数日で起こるものの、中には1, 2週間後になってから起こるケースもある。

 レンズの進行性混濁が硝子体切除術後に起こると報告されている。特異的な原因は不明ではあるものの、硝子体そのものの除去と関係しているようである。進行性の核硬化がレンズ混濁で最も多い型である。後嚢下白内障も術後に起こるが頻度はかなり低く、概して核硬化白内障と関連している。核硬化白内障の発生と進展は患者の年齢によって変化するのかもしれない。患者は進行性の術後レンズ混濁と視力への影響について医師の相談を受けるべきである。

 黄斑円孔手術のあまり多くはない合併症として、姿勢によるulnar decubitusやulnar neuropathy、笑気麻酔を用いた外科手術後に突然起こる視力喪失などがある。術後の脈絡膜の血管新生は小数に見られる。他には眼内炎、増殖性硝子体網膜症などがあるが、頻度としては高くなく、黄斑円孔手術に特異的なものではない。



☆参考文献
全体) Stephen J. Ryan. RETINA 4th edition. Mosby-Year Book. 2005 Nov;20:2527-2544 
1) Ezra E, Wells JA, Gray RH, Kinsella FM, Orr GM, Grego J, Arden GB, Gregor ZJ. Incidence of idiopathic full-thickness macular holes in fellow eyes. A 5-year prospective natural history study. Ophthalmology. 1998 Feb;105(2):353-9.
2)Madreperla SA, Geiger GL, Funata M, de la cruz Z, Green R. Clinicopathologic correlation of a macular hole treated by cortical vitreous peeling and gas tamponade. Ophthalmology. 1994 Apr;101(4):682-6.
3) Rizzo S, Belting C, Genovesi-Ebert F, Cresti F, Vento A, Martini R. Successful treatment of persistent macular holes using "heavy silicone oil" as intraocular tamponade. Retina. 2006 Oct;26(8):905-8.
4) Wickens JC, Shah GK. Outcomes of macular hole surgery and shortened face down positioning. Retina. 2006 Oct;26(8):902-4.
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