2007
12.23

黄斑円孔-1

 学生の時にまとめたもの。眼科です。


~黄斑円孔(全体)~

■DESCRIPTION AND PATHOPHYSIOLOGY
 黄斑円孔は外傷、レーザー術後、炎症時の類嚢胞黄斑水腫、網膜血管疾患、黄斑パッカー、網膜剥離(RD)、光刺激や高血圧性網膜症などに関連して起こることがある。だが殆どの黄斑円孔は年齢による特発的なものであり、70歳代が好発年齢とされる。女性に多く、67~91%を占めているとされている。加齢性の特発性黄斑円孔の病態生理的機構は様々な仮説が出されているものの、後部硝子体表面からの硝子体黄斑牽引が重要ということは共通して支持されている。

 特発性黄斑円孔にはGassによって提唱されたstage分類がある。臨床的にhorseshoe-shaped tearsや眼に見える網膜小窩のanterior tentingなどが稀であるのに対し、後部硝子体剥離の伴わない黄斑円孔が多いことから彼は中心窩上の後部皮質硝子体による接線方向の牽引によって、多くの場合は黄斑円孔に至ると提唱した。その分類ではstage 1A, 1Bは切迫円孔を表し、それぞれ網膜小窩、中心窩の剥離を伴っている。Stage 1の60%は自然と硝子体と中心窩の分離が起きて網膜牽引が軽減され、それ以上症状の進展は見られない。残りの40%は大体数ヶ月で小さな黄斑円孔であるstage 2へと進む。そして殆どのstage 2はより大きな円孔であるstage 3になる。だが、硝子体中心窩分離の見られるstage 2, 3では完全な後部硝子体剥離は認められない。20~40%は黄斑、視神経からの完全な硝子体分離を伴う硝子体剥離となり、stage 4と分類される。Stage 3, 4における自然閉鎖は前者7%、後者1%と極めて低い頻度となっている。

 最近OCTによって、中心窩周囲の硝子体が潜在的に剥離し、それが黄斑円孔形成の前駆症状だということが示されている。硝子体が中心窩に接着し続け、その周囲の硝子体が分離することで中心窩が牽引され、それが遂には円孔を形成するのである。

■CLINICAL FINDINGS AND FUNDUS IMAGING
 黄斑円孔形成の基礎となる病態生理にはまだ議論が続いているが、患者の臨床所見を表現し評価するにはGassの分類が未だ有用である。Stage 1A, 1B(切迫円孔)では、患者はmetamorphopsia(変視症)や中心視の軽度喪失を訴える。硝子体を生体顕微鏡で覗いてみると、網膜前部にempty vitreousを認める。Weiss’ ring(乳頭周囲における硝子体のcondensation ring)などの後部硝子体剥離の確たるサインは見られない。そしてpseudo-operculum(網膜表面の前における硝子体の混濁)といった硝子体中心窩分離のサインもない。中心窩の落ち込みは減少しているか全く無く、大抵はリポフスチン様の黄色斑点が見られる(直径は1Aで100~200µmのyellow spot、1Bでは200~300µmのyellow ring)。中心部を囲むように、放射状の微細な線条が観察されることもある。蛍光眼底血管造影においては、中心窩は正常であることもあるし、過蛍光点を示すこともある(この場合、造影後期には過蛍光点は退色していく)。診察でははっきりとした円孔は認められない。OCTでは硝子体が中心窩に接着し、後部硝子体は中心窩周囲で分離している様子が見られることもある。網膜は中心窩の剥離かpseudocystを示し、全層性網膜欠損は確認出来ない。
 小さな全層性円孔がyellow ring内、もしくはその周囲で見られた場合はstage 2と分類される(early, small, full-thickness macular hole)。硝子体はstage 1と同じ所見を示す。蛍光眼底血管造影ではより強い過蛍光点を見ることもあるが、stageを分類する上では信頼性に乏しい。患者の視力における症状はわずかに悪くなることもある。逆説的にstage 1から2へ進展する初期には改善することもあるが、これは部分的な硝子体中心窩分離が自然と起こったことによるものであろうと解釈されている。小さな円孔が大きくなるにつれyellow ringは灰色に変色もしくは消退するが、その時は円孔を囲っている網膜が網膜色素上皮(RPE)から剥離し始め、環状のneurosensory RDとなっている。OCTでは小さな全層性網膜欠損を、もしくはpseudocystの蓋が破裂していることを認める。

 上述のように、殆どのstage 2はstage 3へと進展し、これにはおおよそ数週~数ヶ月かかる。stage 2-likeな円孔の中には、大きな円孔へ進展することなく何年も安定した状態でいるものもある。その中には中心窩の前に硝子体混濁があり、それが部分的な中心暗点を引き起こす例も知られている。こういった患者はおそらくすでに硝子体中心窩分離を経験しており、大抵は正常もしくはそれに近い視力を維持している。こういう眼は本当の全層性neurosensory 網膜欠損ではなく、lamellar macular holeなどある種の黄斑円孔形成不全なのではないかと思われる。OCTでは、典型的には全層性網膜欠損が認められず、硝子体中心窩分離やpseudo-operculum、網膜上膜が見えることもある。このような違いを臨床的に立てるのは難しいが、手術との関連性は明らかである。このような理由から、非常に小さいかもしくは疑わしいと見られる全層性の黄斑円孔に対する手術は、進展が臨床的に明らかになるまでは異なるべきである。

 stage 3, 4は他のstageに比べて診断には困らない。患者は大抵、中心視力を中等度喪失している(20/80~20/200)。硝子体の生体顕微鏡所見は正常である。後部硝子体分離の所見(Weiss’ ringの部分的もしくは完全遺残)は20~40%の患者に認められ、こういった円孔はstage4に分類される。硝子体混濁(retinal operculumと解釈される)はstage 3では網膜のすぐ前方にありstage 4の50~70%では後部硝子体を自由に浮遊している形で認められる。生体顕微鏡で網膜表面を観察すると、直径300~1500µmの全層性neurosensory 網膜欠損が見られる(400~750µmが最多)。典型的には周囲のneurosensory RDが容易に見えるものの、中にはそれを捕らえにくい患者もおり、特に小さくて円孔が新しい場合は難しい。もしneurosensory RDが見られなかった場合、全層性黄斑円孔をmimicするような他の黄斑の状況を考えるべきである。黄色の結節性沈着が網膜欠損部のRPE表面や周囲RDの下に見られることがある。これは時間とともに数や場所が変わり、特に長期の円孔においてより一般的に認められる。蛍光眼底血管造影では、普通はwindow defectが見られ、neurosensory網膜欠損部位で早期に過蛍光点を、後期には次第に過蛍光点が退色していく。Neurosensory RD周囲ではground-glass appearanceが認められる。OCTにて全層性網膜欠損とその周囲のneurosensory RDを認める。網膜内浮腫や網膜上膜を認めることもある。時が経つにつれ、黄斑円孔の縁は丸みを帯びてくる。片眼の特発性全層性黄斑円孔では15~20%で発症5年以内に僚眼にも発症する(1)。

 他の眼所見に関係して起こる黄斑円孔には、それぞれ特徴を持つことがある。外傷によるものでは円孔は網膜下出血や脈絡膜破裂を伴い、周囲RPEが広範に変化することもある。円孔は外傷後すぐか数日後には形成される。類嚢胞黄斑水腫では、大きな嚢胞が破裂し円孔が形成されることも考えられる。大抵は周囲網膜の類嚢胞性変性を伴っている。蛍光眼底血管造影では硝子体周囲毛細血管床から大量の色素漏出が見られ、petalloid spacesへ集まる様が観察される。

■DIFFERENTIAL DIAGNOSIS
 切迫円孔や全層性黄斑円孔と混同してしまう黄斑疾患は類嚢胞黄斑水腫、孤立性ドルーゼン、網膜上膜、lamellar macular hole、中心性漿液性網膜症や加齢性黄斑変性症といった滲出性黄斑症などが挙げられる。これらの鑑別には硝子体と網膜の生体顕微鏡を用いた注意深い観察、絶対暗点の発見(全層性黄斑円孔)、OCTや蛍光眼底血管造影、超音波といった網膜の画像検査を必要とする。硝子体を生体顕微鏡にて見ることで、切迫円孔をlamellar macular holeや網膜上膜と鑑別できる。後2者はpseudo-operculumやWeiss’ ringを示すことが良くあるためである。類嚢胞黄斑水腫の眼では生体顕微鏡を用いると大きな嚢胞の内層や周囲の類嚢胞腔の存在を確認できる。網膜上膜では、膜が線維性の様相を呈し、硝子体周囲の血管は変形していることが生体顕微鏡で分かる。膜の中央に穴が開いていると黄斑欠損をmimicするが(pseudomacular hole)、周囲にRDは見られないことが黄斑円孔と異なる。さらに、黄色の結節性沈着物は網膜上膜単独では起こらないが黄斑円孔の約50%に認められるのも大きな違いである。滲出性黄斑症では、嚢胞性変性は見られることがあるかもしれないが、neurosensory網膜欠損を伴わないneurosensory RDの所見を生体顕微鏡で認める。

 絶対暗点は黄斑円孔では存在すべき所見であり、検査で発見されることも多い。だが絶対暗点は小さいので、Amsler grid testでは患者の30~40%にしか見つからない。生体顕微鏡と極細のスリットを用いると、絶対暗点はより大きな円孔の中心にある場合、スリットの光線の途切れとなって現れる(Watzke-Allen signということが多い)。より小さな円孔の中心にあったり、大きな円孔周囲のneurosensory RD上にあったりした場合には光線の歪みや狭小化としてしか現れないこともあり、これは類嚢胞黄斑水腫や滲出性黄斑症と同じ所見である。小さな欠損に伴う絶対暗点を発見するにはアルゴンレーザーの50µm aiming beamを円孔へ照射すると良い。本当に全層性黄斑円孔である場合には円孔中の光線が消失することがある一方、網膜上膜やpseudomacular holeではそうはならない。

 黄斑円孔に伴う絶対暗点や相対暗点に対する、より洗練された分析はscanning laser ophthalmoscopeを用いた黄斑の微小視野測定である。この技術より、黄斑円孔による視機能障害は円孔周辺の網膜機能の消失(neurosensory defect)や周囲のneurosensory RDにおける網膜機能の衰退によることが示されている。

 蛍光眼底血管造影はmasquerading syndromesを網膜血管漏出、脈絡膜漏出の存在(類嚢胞黄斑水腫や滲出性黄斑症にて)で除外出来ることもある。だが、この検査はpseudomacular holeを伴った網膜上膜を本当の黄斑円孔との鑑別には有用ではない。部分的な過蛍光が現れ、後期に消退する現象は両者に起こりうるからである。黄斑円孔と他の殆どの黄斑疾患とを鑑別するにはOCTが極めて有効だということが示されている。黄斑円孔での全層性網膜欠損を容易に実証でき、黄斑円孔をmimicする疾患では部分的な網膜の菲薄化や網膜浮腫、RD、RPEの剥離を認める。OCTは患者の負担が少ない状態で容易に行え、蛍光眼底血管造影が鑑別に要する時間も不要である。超音波も切迫円孔などの疾患と全層性黄斑円孔との鑑別に用いられることもある。本当の黄斑円孔をしっかりと診断をした上で手術を行わねば他の疾患であった場合にその手術が不必要、不適当なものとなってしまうため、非常に重要である。

■VISUAL EFFECTS
 患者は主なものではmetmorphopsiaや中心視力の低下、比較的少ないものでは中心暗点といった視覚症状を訴える。患者は円孔の初期に症状を訴え、出現が突然であったと言う者もいる。また徐々に症状が悪化してきたと言ったり、健側眼を閉じた時に慢性に進行していた症状を円孔の後期になって初めて訴えたりする患者もいる。このことから、患者の言う症状の期間は完全に正確ではないと言える。

 Stage 1A, 1Bでは、中心視力が20/25~20/50に大抵は落ちている。Metamorphopsiaはコモンであり、中心暗点は認められない。十分に全層性黄斑円孔が進展した状態だと、中心視力は20/80~20/200へ落ちていることが多い。Central metamorphopsiaは深刻であり、中には絶対中心暗点を訴える者もいる。中心視力は適切な屈曲矯正により回復するが、20/80を超えることはあまりない。中心視力と黄斑円孔の直径とは高い相関関係にあり、更に円孔周囲のneurosensory RDのサイズとも関係している。円孔のサイズとneurosensory RDのサイズは両方とも症状の持続期間と関係しており、その期間はまた視力とも関連性がある。初期に視力が悪い患者はfollow-upにより視力は安定する傾向にあり、一方初期に視力が良い患者は進行性の障害となる。視力の良い状態にある小さな円孔は概して大きな円孔へ進展し時が経つにつれ悪化していくようである。ただし、20/400以下まで低下することは稀である。また、黄斑円孔において、視力が大幅に改善されるということはあまりない。円孔が自然閉鎖し視力が劇的に回復した例も報告されているが、これはstageが進むと特に稀になるようである。

■TREATMENT OF MACULAR HOLES
 全層性黄斑円孔は、かつては治療不可能と考えられていて手術は広範囲にRDが起こった時にのみ適応とされていた。後に、リスクのある患者に対し特発性黄斑円孔が起こるのを防ぐという予防が注目された。接線方向への硝子体牽引が円孔形成の病態生理的メカニズムという理解が深まり、毛様体輪硝子体切除が示唆された。それにより切迫円孔が治療でき、それ以上進むことを防げるかもしれないとの評価を得た。だが臨床試験によりその考えは覆され、今では硝子体切除は黄斑円孔予防には働かないと考えられている。そして全層性黄斑円孔の治療技術が改善されていったことで、予防への考えは薄れていった。

 全層性黄斑円孔治療の最初の試みは、脈絡網膜を円孔周囲に沿って強く接着させることで周囲のneurosensory RDを平らにすることであった。光凝固が行われたが、neurosensory retinaやRPEへのダメージが避けられなく、結果は厳しいものであった。

 次の試みは破壊的な脈絡網膜瘢痕を生じさせないような治療法であった。外科医はしばしば眼内ガスタンポナーデを用いた硝子体網膜の外科技術により、黄斑円孔に付随して起こる広範囲のRDを瘢痕なしに治療していた。これによりneurosensory detachmentの小さな辺縁のみを伴う黄斑円孔を、光凝固、寒冷療法、電気透熱療法なしで先の手術と同様にして治療することとなった。

■INDICATIONS FOR TREATMENT
 黄斑円孔の患者で視力が低下しmetamorphopsiaを持つものは、術後はある程度の視力回復が見込まれている。黄斑円孔の進展度とその結果生じる症状、共存する眼病変によって手術の決定や時期は影響を受けることがある。症状があり、視力が20/60~20/400に落ちているstage 3, 4の患者は殆ど手術適応となる。また、術前の視力と視力回復の程度は逆の関係にある。

 症状があり視力が20/40~20/60である、小さいながらも全層性のstage2, 3も手術適応となることがある(術前の視力が良いため、術後の改善の程度はそれほど高くない)。しかし、この段階での手術にはリスクがある。円孔が小さいということは網膜上膜など多くの疾患がmimicする可能性があるため、診断が難しいのである。更に手術が失敗に終わった場合、円孔がより大きくなり、術後の視力が悪くなっていることもある。成功したとしても術後の核硬化が視力回復を相殺してしまい、患者の心情としては手術の利益が消し飛んでしまう可能性も否めない。よって20/40よりも視力が良いのであれば手術は殆ど行われない。概して、症状が出現し円孔が進展しているというエビデンスが出るまでには、視力は20/40以下に落ちている。

 20/400よりも視力の落ちた黄斑円孔は、視機能障害や術後の視力回復を妨げるような病態が共存している可能性を示唆する(視力が良くても共存することもある)。こういった病態は重症な外傷性黄斑症、脈絡膜破裂、進行した糖尿病性網膜症、網膜血管異常、黄斑変性、重症な緑内障、視神経障害などがある。これらは黄斑円孔手術の絶対禁忌ではないものの、術後視力改善の予後は悪く、手術をするかは慎重に考えなければならない。

続く。。。
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