2007
08.28

上顎癌


 学生の時に実習で勉強した項目。上顎癌について。

☆上顎癌について、治療法を中心に
 鼻・副鼻腔悪性腫瘍の中で最も多いのは上顎洞癌である。欧米では少なく我が国ではかつては頭頚部癌の約1/3を占めていたが、最近は著しく減少している(全癌の1%)。従来、疫学的に慢性副鼻腔炎が上顎洞発癌母地とされてきたが、我が国における慢性副鼻腔炎の著しい減少により上顎癌も減少したといえる。欧米では木材加工業がリスクファクターとして挙げられているが、我が国では明確なものではないとされている。また、最近HPV-16・18の関連が示唆されている。TapasinとHLA-class Iの発現が、予後の悪い上顎洞癌では高頻度に抑制されていることから、それを予後に関わる因子になりうるとする報告もある。1) 現時点では、5年生存率と5年制御率に決定的に関わるものとして外科手術 (P < 0.0001) とT分類(P < 0.04) が挙げられており、組織学的なgradeやリンパ節の状態も5年生存率に関係している。2) 

 病型としては、鼻腔癌、上顎洞癌、篩骨童顔、前頭洞癌、蝶形洞癌に分けられるが、上顎洞癌が殆どであり(75~90%)、前頭洞癌、蝶形洞癌は極めてまれに見られる。病理組織は扁平上皮癌が80%以上を占め、未分化癌が4%程度、腺癌3%、悪性リンパ腫、腺様嚢胞癌、悪性黒色腫などがみられる。上顎洞癌では扁平上皮癌が圧倒的に多い。頻度は男女比3:2で男性にやや多く、好発年齢は50~60歳代である。症状だが、上顎洞は骨に囲まれており初期症状は出にくい。ある程度進展して鼻閉、鼻出血、頬部腫脹、更には眼球突出をきたして来院することも多い。頚部転移例は少なく、90%がN0M0である。主な症状は、鼻閉70%、血性鼻汁70%、頬部違和感80%、鼻出血50%、眼球突出40%、歯の浮いた感じ(第一大臼歯)、流涙などである。上顎洞癌は上顎洞内に発生した主要の進展方向によって5型に分けられ、それぞれ初期症状が異なり、また、予後の面からOhngren面(両内嘴と上顎角とを含む面)より上方(supero-posterior structure)と下方(infero-anterior structure)とでは下方の方が予後は良い。

 腫瘍の進展と症状:(1) 内方進展型:鼻閉、流涙、鼻腔腫瘍充満、(2) 上方進展型:眼球の上方偏位、複視、(3) 下方進展型:硬口蓋・歯肉腫脹、歯痛、歯牙動揺、浮歯感、(4) 前方進展型:頬部腫脹、皮膚発赤、(5) 後方進展型:上顎歯肉・硬口蓋知覚異常、三叉神経痛、開口障害、眼球突出、となっている。

 治療方針だが、初回治療法は、Satoらによる5-FU動注と放射線照射、それにネクロトミーを組み合わせたいわゆる三者併用療法が一般的である。3), 4) ただし、治療法は欧米と本邦で異なる点に注意が必要である。欧米では進行症例に対し術後照射として施行される例が多い。一方我が国の多くの施設では上述のように、診断のための開窓術、浅側頭動脈にカテーテル留置した動注化学療法、放射線療法、その後ネクロトミーによる三者併用療法が施行されている。3) しかし、その内容は治療施設により様々で、動注に用いられる薬剤も5-FU、PEP、CDDPなどで、持続的であったり、大量ワンショット、少量間歇的投与したりなど様々で、照射時間、照射量も異なる。またネクロトミーも一定間隔で全麻下に行ったり局所的に頻繁に行ったりなど一定しておらず、今なお治療法が標準化されていない。治療成績だが、このように標準的治療法が確立されていないため報告で異なっている。従来の欧米の諸家の報告をまとめると摘出術と術後照射の5年生存率は、T1~2:60~70%、T3~4:30~40%程度であり、手術不適応症例では高線量照射でも5年生存率10~15%とされている。5)

 本邦で主に施行されている三者併用療法での5年生存率あるいは5年制御率は、40~70%とされている。1997年のAJCC TNM分類を用いた Yoshimura らの三者併用療法の成績は5年局所制御率T1~2:80%、T3:64%、T4:52%、また5年原病生存率T1~2:94%、T3:73%、T4:46%である。6) 手術療法は、病変が口腔や眼窩、頭蓋底等の重要臓器に接し、さらに周囲を骨組織に囲まれているという解剖学的特殊性から、十分な安全域を確保した病変の一塊切除が困難である。さらには術後の機能障害や美容面でのQOLの低下が大きな問題となる。放射線治療も照射野に眼球や視神経、咀嚼筋、頭蓋底、脳幹等の重要臓器が含まれることが多く、合併症を考慮すると放射線治療単独による根治は難しいとされている。一般には切除範囲の縮小を図るための術前照射、あるいは術後照射として施行される。その一方で、頸部リンパ節転移や遠隔転移の頻度は少なく、死因として局所制御の失敗が最も多い。7), 8)

 多分割照射に関しては、Jenらが222例の上咽頭癌に対して 1回1.2 Gyの 2分割照射と、1回1.6 Gyの加速分割照射、1 回1.8~2.0 Gyの通常分割照射の比較を行い、通常分割照射に比べ多分割照射の方が 5年累積生存率・無再発生存率ともに良好であるが、有意差はなかったと報告している。9) 動注療法に関しては生存率を向上させるという報告と6), 10)、改善には寄与しないが全摘率が低下するという報告があり3), 8), 11), 12), 13)、意見の一致は得られていない。術前の化学療法と放射線療法は、Isobeらは満足の良く結果が得られなかったとしている。2)

 このように、様々な治療法が試みられてはいるものの、5年生存率に有意差のあるものは確立されていない。今後は線量や動注量の違いや使用する抗癌剤、超選択動注のより多くの施設での実践などの研究を進め、患者さんに最も利益のある、エビデンスに基づいた標準的な治療法の開発が急がれる。


☆参考文献
1) Ogino T, Bandoh N, Hayashi T, et al : Association of tapasin and HLA class I antigen down-regulation in primary maxillary sinus squamous cell carcinoma lesions with reduced survival of patients. Clin Cancer Res. 2003 Sep 15;9(11):4043-51.
2)Isobe K, Uno T, Hanazawa T, et al: Preoperative chemotherapy and radiation therapy for squamous cell carcinoma of the maxillary sinus. Jpn J Clin Oncol. 2005 Nov;35(11):633-8. Epub 2005 Nov 7.
3)Sato Y, Morita M, Takahashi H, et al: Combined surgery, radiotherapy, and regional chemotherapy in carcinoma of paranasal sinuses. Cancer 25: 571.576, 1970
4) 佐藤康雄,森田 守,高橋広臣:上顎癌の形態・機能保存治療について.耳鼻17:86 .99,1971
5) Persons JT, Mendenhall WM, Stringer SP, et al. Nasal cavity and paranasal sinuses. In: Perez CA, Brady LW, eds. Principles and practice of radiation oncology. 3rd ed. Philadelphia: Lippincott-Raven; 941-959, 1977.
6)Yoshimura R, Shibuya H, Ogura I, et al. Trimodal combination therapy for maxillary sinus carcinoma. Int J Radiat Oncol Biol Phys 53: 656-663, 2002
7)Nibu K, Sugasawa M, Asai M, et al: Results of multimodality therapy for squamous cell carcinoma of maxillary sinus. Cancer 94: 1476.1482, 2002
8)西尾正道,桜井智康,加賀美芳和,他:上顎癌の集学的治療法の変遷とその治療成績.癌の臨床 32:1503 .1509,1986
9)Jen YM, Lin YS, Su WF, et al: Dose escalation using twice-daily radiotherapy for nasopharyngeal carcinoma: Does heavier dosing result in a happier ending? Int J Radiat Oncol Biol Phys 54: 14.22, 2002
10)犬山征夫,川浦光弘,田路正夫,他:上顎癌に対する動注化学療法の意義について.癌と化学療法16:2688 .2691,1989
11)Nishino H, Miyata M, Morita M, et al: Combined therapy with conservative surgery, radiotherapy, and regional chemotherapy for maxillary sinus carcinoma. Cancer 89: 1925.1932, 2000
12)小野 勇,海老原敏,吉積 隆,他:上顎洞癌の遠隔成績.耳鼻35:999 .1004,1989
13)酒井俊一,森 望,宮口 衛:上顎洞癌併用治療における拡大デンケル手術の役割.日耳鼻94:214 .224,1991
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