2017
09.25

夏のお食事会、その前に

 9/21は、週に一度外来をしている病院の科の先生方とお食事会でございました。”海の日” という、名古屋の栄にある魚料理のお店。ここの病院の科はお食事会を夏と冬の年に2回行なっております。自分は3年前か4年前に一度遅刻をやらかしまして、もともと「遅刻するくらいなら欠席する!」というくらいに遅刻を恐れてはいたのですが、それ以来完全なる遅刻恐怖症に陥り、準備万端で臨むようにしているのです。

 その遅刻も自己弁護をすると、時間には間に合うはずだったのです。自分の足を過信せずにタクシーに託したところ、そのタクシーの運ちゃんが全然道の分からないかたでして…。「んー、どこだ?」とぐるぐるとお店付近の道を回り、時間には遅れるわメーターは回るわで、とっても損をしたような気分になったのでした。自分もしっかりと道を調べておくべきでしたが、タクシーなら大丈夫やろと思い込んだのが運の尽き。

 その時から「もう遅刻はすまい」と固く決心し、その次のお食事会はきちんと病院をその日1日有給休暇(!)として無事に遅れなく出席を果たしたのであります。しかも前日に下見をしました。どんな受験生だ!と思われかねない万難を排した行為。以降は病院を午前だけにして、午後は休んで家に帰り早めに会場に出かけるということをしています。

 今回も午前で仕事を終わらせて午後早くに帰宅し、会場までの道筋をイメージトレーニング。家を出て会場付近にやってきたのは1時間30分前という完璧な仕上げ。早すぎるのでお店には入れず(当然)、これまた調査済みである近くのコメダ珈琲店で休憩と相成りました。遅刻恐怖症の調査能力たるや大したものです。

 せっかくコメダに入ったからと、食事の前にもかかわらずなぜかシロノワール(ミニではない)とミルクコーヒーを注文してしまいました。そこで講演会のスライドを少し手直し。

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 何度か記事をアップしていますが、 自分のシロノワールの食べ方は、デニッシュとソフトクリームを分離する方法です。別の器にこのように。

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 なぜかというと、デニッシュが温かいので、ソフトクリームを乗せたままだと大部分が溶けてしまうんですよね。ひたひたになったデニッシュが好きであれば別に構わないのですが、溶けたソフトクリームって結構甘く感じて自分は大量に食べられません。しかも今回はミニシロノワールではなくノーマルのシロノワールだし。

 分離すると多少は溶けるのを防げ、こんな感じでデニッシュにソフトクリームを乗せていただくのであります。

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 最後くらいは溶けたソフトクリームにひたして食べましょうか。

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 うーん、やっぱり甘いかなぁ。

 あ、自分はシロノワールに別添で付いてくるシロップ(メープル風味)は使わない派でして。でも、このようにコーヒーにちょっと入れることがあります。これはこれでまた悪くない。今回はミルクコーヒーに入れていますが、入れるなら普通のブレンドコーヒーやアメリカンコーヒーが適役かと。通常、ミルクコーヒーは甘くしないで飲んでます。

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 音がうるさいというのを不問にするのであれば、付いてくる豆菓子をガンガン叩いて細かくし、シロノワールのソフトクリームの上にパラパラとふりかければ、ちょっと塩味が入ってそれもまたよろし。色々と工夫のしがいがありますね。

 そんなこんなで、1時間ほどコメダで過ごし、30分前に入店。

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 もちろん(?)、一番乗り。よしよし。

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 そして、時間が経ち、お食事会は無事に終了。唯一誤算だったのは、コメダでシロノワールを食べてしまったために本番のお食事前にお腹が結構いっぱいになってしまったこと。つまりはアホということです。

 なぜあの時ミニシロノワールにしなかったのか、不思議でなりません。ミニでも十分満足するのでお食事会の結果はあまり変わらなかったかもしれないのですが。

 いずれにしても、遅刻せずに安心しました。個人的には、こういうお食事会とか集まりというのは一大イベントでして、終わった後はかなり精神的に疲労します。お食事会がキライってわけじゃないですよ。遅刻を恐れすぎて準備を過剰に整えるので、それが良くないのだろうなというのは理解しております。でもしょうがないなぁ、遅刻は怖い。
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2017
09.16

舌の根が乾かぬうちに

Category: ★精神科生活
 2017年7月に、精神神経学会に(嫌々ながら?)行ってきましたというお話を記事にしました。そこでは


もう当分学会には出ないでおこうと固く決心


 と書いたのでありますが、何と11月に別の学会に行くことにしました!

 まさにタイトル通りではありますが、これは強制されてではなく、自らの意思で決めたのです…! なんと、そんな余力がまだあったとは。

 実はですね、今月に”日本てんかん学会”の会員となりました。会員になるには評議員や正会員の先生がたの推薦が必要なのですが、周りにそんな先生が全くおらず…。この交友関係の狭さが色々と不都合を生み出しているのは重々承知してますが、何ともはや。日本てんかん学会のHPには「そんなアナタ、まずは事務局にお電話を!」という内容の文言が記載されていたので、電話をかけたのであります。

 すると「推薦人の欄は空白にして、用紙にそれ以外を書いて送ってください。推薦人はこちらで探しておきます」とのこと。あ、そんなんで良いんやね…。で、晴れて会員になれたのです。

 ”てんかん”はもともと三大精神病の1つと言われておりました。精神科との縁は長く、古くは満田久敏先生の提唱した”非定型精神病”があります。てんかん、躁うつ病、統合失調症の”あいだ”にあるのが非定型精神病である、いやむしろ非定型精神病が中心であり、それら疾患は非定型精神病から派生しているような印象も一部にありました。とはいえその”てんかん”は立派な器質疾患だということが判明し、精神疾患から外れた経緯があります。そこからてんかんの診療は神経内科がメインとなり、精神科はあまり携わらなくなりました。精神科は、常に不確定な疾患を診る科なんだなぁと実感。器質因が判明すれば精神疾患から外れるんですもんね。ただ、非定型精神病と思しき症状を認める患者さんは無きにしもあらずで、興味深いところです。

 さて、そのてんかんの中には精神疾患と紛らわしい症状を認めるものもありまして、側頭葉てんかんや前頭葉てんかんがその好例です。何もガクガク全身が震えるのだけがてんかんではありません。最近は認知症との鑑別でも話題ですね(認知症がてんかんのリスクファクターでもありますが…)。もちろん、てんかん患者さんの精神症状やPNES(心因性非てんかん発作)は精神科医がしっかり携わるべきものだと思っています。

 さらに、最近はてんかん患者さんのてんかんそのものの治療を新規ですることが多くなり、やっぱりてんかんとその薬剤についてしっかり知らねばいかんな、と思うに至ったのであります。”てんかんなら何でもバルプロ酸”なんていうのはいけません。ちょっと前に、病歴から複雑部分発作の二次性全般化と判断した患者さんが、その前の病院ではプライマリーな全般発作と考えられていた、なんてこともありまして。そうなると治療に用いる薬剤がちょっと変わってきます。ところが、てんかん診療をしっかり行なっている精神科医はあまり多くなく、周囲には全くいません(学会員が周りにいないし…)。

 よって、自分で色々勉強しているのですが、独学のみだとちょっと心細いんですよね、実は。漢方はみんな言ってることが異なる(良い意味でも悪い意味でも)ので、独学で大きなマイナスは少ないと思っています。でも、てんかんは自分の治療に疑心暗鬼となってしまいまして。自信がないんですよね。

 ということで、学会員になって、学会にも参加してみよう!と思ったのです。これまでは学会に参加する意義が分からなかったのですが


自信のない時、自分の現在位置を確かめるために


 と自分なりに考えました。「自分の行なっている治療はどうなんだろう?」「ちょっとしたコツってあるかな?」というのを探しに。精神疾患でも心細さはあるのですが、周囲にたくさん教えてくれる先生がいます。しかし、てんかんはそうでないため、学会に参加してみようと思いました。もちろん今は文献やUpToDateを見れば必要なことが書かれていますが、それに加えて”人から聞く””人が集まっている”ということで心細さを解消しようという目論見なのです(学会の内容だけで勉強なんてのはもちろんダメでしょう)。

 今年の日本てんかん学会学術集会は京都で、11月3-5日に行なわれます。ちょっと行って勉強してきますよ。観光じゃないですからね。本懐は勉強です、たぶん。あー、でも泊まるホテルが錦市場の近くなんですよねぇ・・・。これはヤバい。
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2017
09.09

事前確率とセットでね!

Category: ★研修医生活
 研修医の先生に論文を読んでもらって解説をしてますよーというお話を1つ前の記事でしました。その中で、時間がある時は事前確率の大切さを説くことがあります。もうすっかり尤度比の使い方も世の中に根付いたかと思っていたのですが、意外にもそうではないことに気づき、ちょっと解説するようにしました。自分が研修医の時は誰も教えてくれなかったしなぁ。

 例えば、この論文。

Antunez E, et al. Usefulness of CT and MR imaging in the diagnosis of acute Wernicke's encephalopathy. AJR Am J Roentgenol. 1998 Oct;171(4):1131-7. PMID: 9763009

 ここでは、Wernicke脳症に対するMRIの感度が53%、特異度が93%となっています。もっと感度が高いよ!とする論文もありますが、例としてこれを。研修医の先生にこの感度と特異度をどう思うか聞きますが、多くは「特異度が高いから診断に役立って、感度が低いから除外には向かない」と、バシッと答えてくれるのであります。感度や特異度というのは、例えば、感度80%の所見というのは”病気を持つ人”の80%に見られる所見だということを示します(Positive in desease)。いっぽう、特異度80%の所見というのは”健康な人(その病気を持たない人)”の80%に見られない所見だということを示します(Negative in health)。実は、自分はこの辺りをちょっと正確に理解していなかった時期があり、そのため過去の記事でも間違った記載が存在し、そこは修正を入れておきました。大事なので言い方を変えてお話しすると…

 感度とは、想定する病気を持っていると判明している人たち(患者さん)にその検査をした場合、どのくらいの割合で検査が陽性になるのか? という指標です。だからその病気を持っていない人(健康な人)にこの検査をしたらどうなるのかは、実は感度からだけでは分からないのです。健康な人でも陽性になる可能性が十分に考えられます(偽陽性)。

 特異度とは、想定する病気がないと判明している人たち(健康な人)にその検査をした場合、どのくらいの割合で検査が陰性になるのか? という指標です。だからその病気を持っている患者さんに検査をしたらどうなるのかは、実は特異度からだけでは分からないのです。患者さんでも陰性になる可能性が十分に考えられます(偽陰性)。

 そして、この感度と特異度は連動しているので、別々に見ると誤解を生むことがあります。特異度がものすごく高いけれども感度が著しく低い検査の有用性などは、盛んに指摘されていますね。感度5%、特異度98%の検査があったとして、それが陽性なら「特異度の高い検査が陽性! Rule Inだ!」と考えがちですが、決してそうではない。特異度はあくまで”病気がない人の中でその検査が陰性になる割合を示すもの”なのです。”特異度が高いからRule In” ”感度が高いからRule out” というのは、多くの場合はそれで問題ないことが多いのですが、実際はちょっと早計なのでございます! 感度と特異度は別個に考えてはいけない。自分は研修医の時、ここを完全に勘違いしておりました…。

 「あくまで病気がない人の中での話で、患者さんに当てはめられない??」と頭がこんがらがってきそうなので、要は感度と特異度っていうのは、単独ではなくつなげて考えねばならないのだと言うことにして、そのためのツールである”尤度比”のお話に移りましょう。

 感度と特異度をがちゃがちゃ計算して出て来る”尤度比”ですが、研修医の先生に尋ねると

自分「感度と特異度をバラバラに見ると間違うから、尤度比にしてみようか。尤度比って知ってる?」
研修医「…」

 となることが稀ならずあり、尤度比をしっかり教えることも大事やなぁと考えるに至ったのであります。それが今回の記事をつくるきっかけになりました。計算してもらい数字を弾き出してもらうと、感度53%、特異度93%はだいたい

陽性尤度比:7.6
陰性尤度比:0.5

 となります。計算式は”陽性尤度比=感度÷(1-特異度)”であり、”陰性尤度比=(1-感度)÷特異度”です。尤度比というのは尤もらしさ(もっともらしさ)を示すものですが、英語の Likelihood Ratio の方が分かりやすいかもしれませんね。Likely な度合いを示します。陽性尤度比は”所見が陽性の時の尤もらしさ”を、陰性尤度比は”所見が陰性の時の尤もらしさ”を意味しています。尤度比が1というのは尤もらしさを全く動かしません。感度50%、特異度50%というやつですね。大まかな動き方は

10:尤もらしさぐぐっとup!
5:尤もらしさちょっとup
1:ピクリとも動かない
0.2:尤もらしさちょっとdown
0.1:尤もらしさぐぐっとdown!

 となります。例えば、陽性尤度比5、陰性尤度比0.1の検査があったとすると、その検査が陽性の時は、ある病気の尤もらしさがちょっとupし、陰性の時は尤もらしさがぐぐっとdownするということになります。

 「おー、尤度比は便利だな」と思うかもしれません。しかししかし、感度だけ、特異度だけで物事を見てはいけないのと同様に、尤度比だけで考えても間違いのモトになってしまいます(めんどくせぇ)。尤度比を運用するために欠かせないのが”事前確率”でして、「この検査をする前の段階で、患者さんがこの病気である確率はどれくらいだろう?」というのが代表例。この”見積もり”いかんによっては、尤度比のインパクトもだいぶ変わってきてしまいます。「尤度比だけで物事は決められない」と覚えておきましょう。

 役に立つのがノモグラム(nomogram)というもので、これを使うと事前確率の大切さがひしひしと伝わってくるのではないでしょうか。

nomogram.png

 ある検査を想定すると、左側のバーが検査前確率、真ん中のバーが尤度比、右側のバーが検査後確率。検査前確率と尤度比をつないだ線をぴーっと延長して右側のバーにぶつけると、検査後確率が判明するというスグレモノ。分かりやすいように、感度99%、特異度99%というものすごく優秀な検査を想定しましょう。ELISAによるHIV抗体検査が実はこれ以上に優秀な検査であり、確か国試の公衆衛生でも出てきたような?? で、この尤度比を計算すると、

陽性尤度比:99
陰性尤度比:0.01

 これはすごい! この検査が陽性なら必ずその病気をRule in、陰性なら必ずRule outにできそうな気がしてきます。しかし、ここでちょっと冷静になりましょう。検査前確率が0.1%というややレアな病気(鑑別でほぼ想定していない病気という意味)の場合はどうでしょうか。それでもそんなに興奮できるかどうか。

 とある病気の検査前確率0.1%という時、この陽性尤度比99という検査をしてばっちり陽性になった。さて本当に「この病気だ!」と言い切れるのか? nomogramを使ってみると…

nomogram 2

 なんと、検査後確率はほぼ10%なのです! ハイパーに優れた検査が陽性でも、こんな結果だなんて…。

 これから分かるように、検査(診察も)をする時は、「この患者さんがこの病気を持っている確率はどんなもんだろう?」という”見積もり”をできるだけ正確に行なう必要があるのです。このセッティングを疎かにして絨毯爆撃的に検査をしてしまったら、いざ陽性になった時にミスリードとなってしまいますし、陰性でも同じこと。

 では最初に戻り、Wernicke脳症に対するMRI(陽性尤度比:7.6、陰性尤度比:0.5)を見てみましょう。アルコール依存症で、ここ1ヶ月ほど食事もあまり摂取しておらず、そういえば歩き方が何となく変だな…と思った時、Wernicke脳症の検査前確率はかなり高そうです。80%と見積もってみましょう。「これはWernicke脳症っぽいなぁ。MRIだなこれは」と思って撮りました。結果は特に異常所見なし。さて、Wernicke脳症を否定できるかどうか。

 同じくnomogramを使うと…

nomogram 3

 あれ、検査後確率が80→70%程度に下がっただけ。全然否定できません! 検査前確率を50%と考えても、検査後確率は30%以上残っています。この例えをすると、研修医の先生は「おー」と感心してくれることが多くてですね、教え甲斐があるなぁと実感するのでございます。よって、闇雲に診察や検査をするのではなく、常にその一歩手前の確率、診察前確率や検査前確率といった事前確率をできるだけ正確に考えることが大切です。常に事前確率とセットで尤度比を考える、そこを忘れないようにしましょう。すなわち、検査をするなら問診と診察で、診察をするなら問診でそれぞれきちんと鑑別疾患の事前確率を想定しましょうね、ということなのです。

 ちなみに、McGee先生の本にはnomogramではなく以下のような足し算方式が載っており、それを眼にしたことのある研修医の先生もいるかもしれません。

0.1:-45%
0.2:-30%
0.5:-15%
1:動かず
2:+15%
5:+30%
10:+45%

 これは事前確率が10-90%、言い換えれば救急外来や一般外来の初期に鑑別に挙がってくるような病気の時に使うことができます。「この患者さん、肺炎の検査前確率は40%くらいかなぁ」と思った時に、陽性尤度比5の検査が陽性になったら、40+30で検査後確率は70%と考えることができます。「この病気の可能性はかなり低いなぁ」という時はnomogramを使用しましょう。

 ただし、検査前確率というのは”見積もり”なので、正確無比ではありません。患者さんの病歴や診察などから「この病気の確率はこんなもんかな…?」という感覚的な確率(言い方は変ですが)なのであります。よって、特に初期研修医1年目のうちは事前確率を”なさそう””あるかも””ありそう”の3段階くらいにまずは分けてみて、その上で尤度比を10、5、0.2、0.1くらいを目安にこれまた感覚的に検査後確率を推定していく、というやり方が良いのかなと思っています。もっと勉強して経験して種々の病気のゲシュタルト(岩田先生風に?)が分かってくると、患者さんの像とのつながり具合からもっと事前確率が細かく、例えば5段階くらいに分かれてくるようにも考えています。そうしたら、尤度比ももっと緻密に運用できるかもしれませんね。

 ということで、感度、特異度、尤度比のお話でした。これらだけで診断をしてはならず、常に一歩前の確率を考えましょう、というのがいちばん大事なところではありますが。
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2017
09.03

研修医の先生に読んでもらう論文をいくつか

Category: ★研修医生活
 自分が勤めている病院に研修医の先生が2週間やって来ることがあります。研修医の先生がいる病院に精神科がなく、それで精神科のタームの時だけこちらに来るというシステム。若い先生を見ると、昔の自分を思い出しますね。

 多くの研修医の先生は精神科に興味がないので、こちらも色々教えるというよりは「せん妄の対処は知っておこう!」くらいの立ち位置になります。しかもローテーションも2週間だし、出来ることは限られている。ちなみに精神科志望であればなおさら「今のうちに身体疾患の勉強をしておこう!」と言うことにしています。

 研修医の先生に一緒に診てもらう患者さんは他の先生がたが紹介しているので、自分は午前中に論文を何本か読んでもらって午後にその内容でお話をする、というスタイルにしています。座学も大切ですし、自分自身がリハビリ出勤なので省エネにしているというのも否めず。読んでもらう論文は大体決まっておりまして…

・Galvin R, et al. EFNS guidelines for diagnosis, therapy and prevention of Wernicke encephalopathy. Eur J Neurol. 2010 Dec;17(12):1408-18. PMID: 20642790

・Isenberg-Grzeda E, et al. Wernicke-Korsakoff syndrome in patients with cancer: a systematic review. Lancet Oncol. 2016 Apr;17(4):e142-8. PMID: 27300674

・Bhattacharyya S, et al. Antibiotic-associated encephalopathy. Neurology. 2016 Mar 8;86(10):963-71. PMID: 26888997

・Turrini A, et al. Not only limbs in atypical restless legs syndrome. Sleep Med Rev. 2017 Apr 4. pii: S1087-0792(17)30080-1. [Epub ahead of print] PMID: 28559087

 こんな感じ。人によって読むスピードは異なるので、全部読めなくてもO.K.です。あとは志望科によってそれと関係する論文を1つ付けるかどうか。

 これら論文を読んでもらう狙いとして

「Wernicke脳症を見逃すな!」
「がん患者さんのWernicke脳症だとモヤッとした症状もあるぞ!」
「抗菌薬で脳症が起きるぞ!」
「restless "legs" だけじゃないぞ!不定愁訴と片付ける前にちらっと疑え!」

 という強いメッセージがあるのです。精神科以外を志望しているのであれば、統合失調症の精神病理学とかを話してもあまり意味はないので、他の切り口にしているのでした。これら論文の内容を踏まえて研修医の先生に話す内容はですね…

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 Wernicke脳症はとても見逃されており、有名な3徴は16%にしか見られない。国試的には「Wernicke脳症といえばアルコール依存症、アルコール依存症といえばWernicke脳症」であるが、決してそれだけでない。アルコール依存症以外でも見られることは覚えておくべきであり、その内訳では、がん患者さん(特に血液腫瘍や消化管腫瘍)、消化管手術、妊娠悪阻、飢餓(神経性やせ症も注意)でアルコール依存症以外において発症するWernicke脳症の50%以上を占める。そして、がん患者さんでは頭痛、無気力、脱力といった ”モヤッとした” 症状を来たすことがある。「がんだし無気力にもなるよなぁ」「がんだしあまり動かず寝ているとアタマも痛くなるよなぁ」と過剰に了解することなく、「ひょっとしたらWernicke…?」と考えてまず治療をしてみるというのも大事。検査はMRIが有名だが、感度や特異度はスタディによってまちまちで、基本的にはRule inのために用いる補助と考えておこう。よって、所見がなくても治療してみるという勇気も必要。治療にはビタミンB1の経静脈的投与が行われるが、安価でありゆっくり投与すれば大きな副作用も大きなものはないので、疑ったら治療開始の気持ちで。ただ、投与量や投与期間にコンセンサスはない。

 抗菌薬の副作用で脳症が起きることもある。これらは大きく3つのグループに分けられる。開始後数日で発症し、けいれんやミオクローヌスが多く生じ脳波異常も見られやすいグループが1つ。これはペニシリン系とセフェム系に多く、特にセフェム系は腎機能が悪いと起こりやすい(セフェピムは特に有名)。別のグループは精神病症状が多いもので、これも開始後数日で発症する。脳波は異常がそれほど多くなく、プロカインペニシリン、スルホンアミド、キノロン、マクロライドで生じやすい。精神病症状だからと言ってすぐ精神科に!ではなく、これら抗菌薬を使用していればそれによる脳症かを考えよう(だから精神科医もそのことを知っておく必要がある)。別のグループはメトロニダゾールによるもので、投与後数週間してから発症する。小脳症状が多く、脳波は非特異的異常所見を示し、MRIでも異常所見(小脳歯状核がT2強調で高信号、脳梁膨大部が拡散強調で高信号)が見られる。最近、日本でも偽膜性腸炎(CDAD)の治療薬として静注のメトロニダゾールが承認されたので、こういった例が増えるかも? イソニアジドはいずれのグループにも入らない。発症は数週から数ヶ月で、精神病症状がコモン。脳波は異常を示すが非特異的である。

 Restless legs syndrome(RLS)は見逃されやすい疾患であるが、"legs" ではなく腕、他にも会陰部や膀胱、腹部、後背部、顔や口など様々な部位にも生じることが分かってきた。IRLSSGの診断基準は以下だが、それを身体の各部位に当てはめて疑うことが大切である。「変な症状だな。不定愁訴か」と括ってしまう前に、鑑別を考えよう。ドパミンアゴニストで速やかに改善することが多い(でもフェリチン低値なら鉄剤投与が優先かな…)。

IRLSSG 診断基準
1: 脚を動かしたくてたまらない衝動と不快感
2: 安静時に悪化
3: 脚の運動により不快感が軽減ないし消失
4: 夕方から夜に悪化
5: これらの特徴を持つ症状が,他の疾患・習慣的行動で説明できない

 ちなみに、日本語では”むずむず脚症候群”というが、”むずむず”では引っ掛けられないことが多い。”ちくちく””そわそわ””虫が這うような””お布団を蹴っ飛ばしたくなるような感じ””落ち着かない”など様々な訴えである。まさに"restless"なので、”むずむず”に引っ張られないように! 後は、「落ち着かないから眠れない」のではなく、「眠れないから落ち着かない」と患者さんは考えることがある。そうなると患者さんは「眠れない」としか言わないので、こちらから積極的に問うことが大事。

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 と、このような感じ。どれも精神科以外で遭遇しやすいので、こういう知識を入れておくのはムダではない、はず(覚えておいてくれれば)。こういった論文の中には検査方法の感度や特異度も記載されているものがある(Wernicke脳症に対するMRIなど)ので、時間があれば尤度比のお話もしています。今度はそれを記事にしようかな?

 そう言えば、以前は名古屋大学で研修医の先生がた相手に朝の勉強会を行なっていたんですが、他の科も勉強会をすることが多くなったそうで、研修医の先生から「朝は忙しいから夜にしてくれ」と言われ、しょうがないなーと思って夜にずらしたは良いけれども今度は「夜に集まるのは困難です」と言われ、何と2015年の7月(だったかな?)を最後に中止に追い込まれた苦々しい過去があります…。その時は「随分と身勝手な研修医だな…」と実は怒っていたんですが、まぁでも魅力のある面白い勉強会ならみんな来てくれていたんだろうと思うと、まだまだ自分も勉強不足だなと(今になってようやく)考えております。教えるっていうのは難しいものですね。
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