2016
09.27

国家資格ということで

Category: ★本のお話
 医学書院さんから出ている『公認心理師必携 精神医療・臨床心理の知識と技法』を読みました。

 いわゆる”心理士”は国家資格ではありません。2016年時点で最もメジャーな資格が”臨床心理士”でしょうか。”○○心理士”や”○○カウンセラー”という資格がものっすごくたくさんあり、乱立の様相を呈しています。通信教育で取得できたり(臨床経験がなくても!)、中には資格ではなく名乗ったモン勝ち的なものだったり。怪しげな自己啓発本を出している”~~カウンセラー”というのも職業としての意味合いが強く、料理研究家と似たような気分になってしまいます。ちなみに自分は勝手に料理愛好家を名乗っていますが(料理が好きなら誰でも名乗れるし)。

 そのような現状なので、国家資格の誕生が求められており、紆余曲折を経てようやく”公認心理師”が誕生することとなりました。自分はあまり詳しくないのでこれ以上の言及はできませんが、”心理士”だと集合が大きすぎて、また知識の多寡や偏りが激しく、ちょっと良く分からなかったのが正直なところ。臨床心理士、学校心理士、臨床発達心理士ならまだイメージが沸くんですが、それ以外となるとどんな知識を持っていてどんなお仕事をしているのか分かりません。よって、公認心理師という”国家資格”が出来れば、医療者も何となくホッとできるのではないかと。「国の定めたこのラインは超えてきてますよ!」というお墨付きはやっぱりあると安心します。特に精神療法(心理療法)は療法間での対立も強く、自分みたいな部外者から見ていてあんまり気持ちの良いものではありません。とってもクセの強い人たちも多く、「心理士の世界は怖いのかしらん」と思うこともちょろっと。最近はそのケンカも大人しくなっているでしょうし、多くの心理士の先生がたはうまくバランスをとっているのでしょうね。声の大きな人たちの意見が大きく見えるということなのかも。

 さて、そんな国家資格が出来る、ということは試験が行なわれるということでもあります。それに向けて複数の出版社が本を出していますが、ご多分に漏れず(?)医学書院さんも参戦。「公認心理師ってどんな知識が必要とされているの?」という興味もあり、読んでみることとなったのであります。

 この本、一言で言うと


THE☆医学書院


 です。医学書院さんの本道を行っている感じで、学生時代に読んで情報の多さと文字の小ささに打ちのめされた『標準生理学』をちょっと思い出させてくれました(今は『標準生理学』を読んでもそんなにストレスを感じませんが、何も知らない学生時代はきつかった…)。”情報の多さと真面目さ”においてまさに「これぞ医学書院だなぁ」と思わせるもので、本のつくりといい表紙の色合いといい、あえて言うなら『標準心理学』でしょうか。ホント”標準シリーズ”に加えても良いくらい。最近はナンパな本が多くなっており、出版業界もユーザーフレンドリーな流れになっていますが、この本はそんな流れを気にせず「真面目につくりました! どうぞ本気で読んでください!」という気概を感じます。

 国家試験ではどれくらいのものが出るかがまだ分からないので、試験対策本として的を射た内容かは不明です。しかし、目次を見てもらうと分かるかと思いますが、本当に幅広く扱っておりどんな内容の問題が出ても掠ってはくれそうですし、試験対策としてのみならず心理士として知っておくべき事柄を網羅している本としての側面も持ち合わせているでしょう。ページ数は300ページちょっとなのでそんなに厚い部類ではありません。これも読む気にさせてくれます。

 とは言いながら、そんなに厚くない本にたくさんの範囲を詰め込んでいるとも表現でき、残念ながら各範囲の内容の浅さにつながります。こればかりは何ともしようがないのですが、例えば向精神薬全般については8ページのみ、本領が発揮されるべき個人心理療法では認知行動療法が約2ページ、対人関係療法も約2ページ、精神分析的心理療法は約1ページのみの記載。

 そんな中でも無駄話を一切なくし、回り道なしで直進して伝えたいことを記載しています。削って削って何とかギリギリ詰め込んだ、執筆した先生がたの苦悩が浮き上がってきそうな気も。ホントはもっと書きたかっただろうに…。でもこれだけのものをこのページ数に収めたな。

 ということで、心理士の先生がたのご意見も聞いてみたいところではありますが、自分から見ると「公認心理師とか関係なく医療職として働くのであれば知っておきたい内容」です。しかし、読んでいて「もっと知りたい」「ちょっと説明が少ない」という部分が多く見られるため(仕方ないんですけどね)、そこは個人個人で掘り下げる必要はあるでしょう。試験対策本としては、明確な範囲の公開(もうされているかは寡聞にして知らないのですが)や今後行なわれる試験によって試されることになるかと思います。でも単なる試験対策本に成り下がってほしくはないなぁという気持ちもアリ。
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2016
09.23

なんで? はあまり使わない

Category: ★精神科生活
 精神科の診察をしていると、ちょっとした言葉を「あんまり使わないほうがええんちゃうかな」と感じることがあります。

 自分は使わないように気をつけているものの1つが「なんで?」というフレーズ。


「なんで~したの?」
「なんで~と思ったの?」


 などなど。普段よく口にされている言葉だと思います。これは、もちろん語調や発話者の態度にもよりますが


詰問


 ととらえられることがあるのです。

患者さん「1ヶ月前から眠れなくなって、会社に行こうとしても気持ちが悪くなって吐いちゃいそうな気がして」
医者「そうでしたか。1ヶ月前からですね。何で今日来ようと思ったんですか?」

 これは、状況によっては「今日じゃなくてもいいじゃないか」「もっと早く来ることができたんじゃない?」「これだけ待てたんなら軽いんでしょ?」というような裏のメッセージと読まれてしまうかも。


何で~したの?→しなければ良かったのに
何で~しなかったの?→すれば良かったのに


 もちろんそうではなく純粋な疑問として質問者は呈しているわけで、多くの場合は受け取り手もそのように感じるでしょう。ただ、裏メッセージととられた時にはそこから挽回するのが難しくなるのです。ひょっとしたら裏のメッセージととらえるのは、小さい頃お母さんから言われた「何でこんなことしたの!」という叱責がベースになっているのかも?(ちょっと精神科っぽい)

 よって、「何で~?」と口にしたい時、質問の言い換えをすると良いでしょう。


「~したのは何か”こうしたいなぁ”と思ううところがあったのかしら」
「どんな思いで~したのでしょうか」


 などなど。気持ちとしては、”Why?”というよりむしろ”For what?”でいたいものです。原因を聞くとさらにその原因、そしてまた…とどんどん後ろの方を向いていきます。後ろを振り向くのは決して悪いことではなく、現在地点を確認するためには必要なことでしょう。後ろを向くことがあって初めて前を向けるという人も多いと思います。しかし、それだけでは終わらせないようにするのがコツで「こういう思いがあったから、そしてこうしたいと考えたから」というのを引き出すことで


今後どうしていけば良いか


 が見えてくるかもしれません。抱えている問題を患者さんが主体的に取り組むことが大切であり、解決を医療者が行なってしまっては、患者さんは患者さんのままでいてしまう可能性があります。

 ぜひですね、「何で?」と言いたくなった時こそ解決を頭に置いて聞いてみてください。
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2016
09.21

あえて世俗、長い髪

 自分はちょっと昔の歌をよく聴きます。フォーク・クルセダーズ(この前、名古屋で北山修先生の講演会がありました)から70年代は吉田拓郎、伊勢正三、荒井由実、中島みゆき、小椋佳、大滝詠一、山本潤子、グレープ、チューリップ、オフコース、安全地帯などなど。リアルタイムではないんですけど。

 60年代から70年代前半にかけては学生運動が盛んな時期でした。特に60年代後半は学生たちの思いを歌に乗せた非常にメッセージ性の強いものが多く、そこから学生運動の収束とともに音楽も様々な題材に広がっていったような感じがしています。学生運動の広がりと終焉(と言ってもまだくすぶっているところはチラホラ見えますが)には、音楽が強く関係していたのではと、改めて思っています。岡林信康、高石ともや、五つの赤い風船、赤い鳥などは学生運動の膨張とともに名を馳せたミュージシャンやグループでしょう。社会・政治と強く関連した歌詞が多くあります。

 で、個人的に興味があるのは、学生運動の”終わり”の方。学生運動そのものにアレコレと言う気はさらさらありませんが、その幕切れを促した要素の1つに歌があったのではないかなという考えはあります。始まり、膨張、そして破裂に歌が絡んでいた気がしてなりません。

 その代表曲は、やはり荒井由実の『いちご白書をもう一度』(バンバン, 1975年)ではないでしょうか。当時の象徴であった”男性の長髪”が歌詞に入っています。髪を伸ばして無精髭もたくわえて学生集会に行った、でも就職が決まって髪を切った。付き合っていた女性には「もう若くないさ」と言い訳をする。そして雨によって破れかけてしまった”いちご白書”という映画のポスターも、学生運動の比喩ととらえられます。1975年は学生運動が鎮静化に向かっていた時期であり、荒井由実はこのような歌詞と、ちょっと悲しげなメロディで長い髪と同じく運動への思いも断ち切る、「もう終わったんだよ」と表現したことで、それに拍車をかけたと言えましょう。時代に飲み込まれた若者の様子を描き切っているなぁと感心。

 でも自分としては、吉田拓郎の『結婚しようよ』(よしだたくろう, 1972年)がとても気になります。昔に聴いていた時はシンプルな歌だと思っていましたが、時代背景を考えるととても革新的だったのではないか、と最近になって思い直しています。歌い出しに、自分の髪が付き合っている女性と同じくらい伸びたら、という内容が来ます。当時のフォークソングで”男性の長い髪”というのは学生運動の比喩であることがとても多く、その視点でこの歌を眺めてみると、吉田拓郎の歌詞は常識をくつがえすものだったと感じられるかもしれません(穿った見方かもしれませんが)。この歌には、キナ臭さが全く出てきていません。甘ったるいような、でもどこか現実離れした感じ。肩まで届く髪というキーワードを冒頭に出しておきながら、政治に一切触れず、付き合っている女性に結婚しようよと語る内容になっています。内ゲバを繰り返す学生運動の方を全く向かない、結婚という言葉を出し学生運動には愛想を尽かしているような、そんな印象を抱かせます。時代を編みこんで歌を聴くと、まったく違う解釈が出て来るという好例ではないでしょうか。

 吉田拓郎は日本フォーク界の伝説であり、反体制の雰囲気の強かったフォークソングを大衆に引き込んだ役割を持ちます。しかし、それゆえに初期は観客から罵声を浴びせられていたこともあり、「大衆に迎合している軟弱野郎」という目で見られたのです。それでも吉田拓郎はスタンスを全く変えずに歌い続け、学生運動そのものも内部から崩れていったこともあり、ファンを獲得していきました。とはいえ、彼は恋だけを歌っていたわけではありません。彼は表立って政治関連の内容を出してはいませんが、個人と個人の関係性を歌いながらも反体制の運動は終わったのだというメッセージを出すことに長けていたと言えるかもしれません。かまやつひろしに提供した『我が良き友よ』(かまやつひろし, 1975年)も、自分と友との個人間の隔たりだけでなく、学生運動を引きずる友とその後の時代に適応して生きている自分という内容になっています。仮にそんな気がなく作詞していたのだとしたら、そのように思わせてしまうのも吉田拓郎のすごさなのではないか、とも感じてしまいます(言い訳?)。

 ちなみに、この流れを痛烈に持って行ったのが井上陽水の『傘がない』(井上陽水, 1972年)であり、社会のことなんかよりも君に会いに行く傘がなくて困っているんだ、という、社会や共同体、そして体制と反体制などという大きな物語が瓦解して、個人の多様性へと進んだメルクマールになっています(たぶんね)。

 そんな気持ちで、『いちご白書をもう一度』や『結婚しようよ』などを聴いてみてはいかがでしょうか。
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2016
09.18

ピンキリイタリアン

 イタリアンレストランにて、属している医局の教授や他の先生がたと一緒に集まってのお食事会がありました。このお食事会は年に2回ありまして、いつも教授がお店をセレクトしてくださるというちょっとおもしろい展開。普通は幹事がしますよね、そういうのって。

 今回行ったレストランは店主曰く”野暮ったさ”をウリにしているそうで、イタリアの田舎を思わせるようなお店にしたいそうです(でも結構なお値段でしたが)。

店主「ですから、皆様が普段行かれているようなところとはちょっと違うんですけれども」

 と。ほー、あぁたがたはいつもお高くとまっているイタァァリアンに行っているんじゃろという言外の意味。しかし、、、



言えない、普段行っているイタリアンレストランが近くのイオンに入っているサイゼリヤだなんて…

言えない、その中で”辛味チキン”が好物だなんて…



 他の方々は舌が肥えているのかもしれんですが、自分は常勤で働いているところが無く、お財布事情が厳しいこともあり…。外食と言えばサイゼリヤやフードコートが主。でもサイゼリヤ美味しいですよ、うん。”辛味チキン”とか”柔らか青豆の温サラダ”とか”真イカのパプリカソース”とか、そういうの大好き。

 ていうか、お食事会をサイゼリヤでやるのも面白いと思うんですけどねー。同じ予算で行なったらすっごく大量のお料理が出てきそう。
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2016
09.15

シンプルな魅力

 愛知県豊橋市には、事務的な用事でたまに出かけることがあります。2010年に生まれたまだ日の浅い”豊橋カレーうどん”も食べに行ったことがあり、美味しかったですよ(その時の記事→コチラ)。

 今回はスイーツの方で、ヒヨっ子の豊橋カレーうどんとは対照的に半世紀を生きている”ピレーネ”でございます。いつの間にか成長しすぎて愛着が出てしまって出荷されずに飼われているブロイラーのような感じでしょうか(たぶん違う)。”ボンとらや”という、これまたシックな感じの名前のお店でつくられております。とてもシンプルで、スポンジ生地でクリームを包んだだけのもの。豊橋駅でも売られており、手に入りやすい。豊橋では知らない人はいない(?)スイーツであり、豊橋出身東京在住である某出版社のこれまた某編集者さんも推薦(謎すぎる)。

 シンプルながらも色々種類があります。今回はバニラとチョコレートをチョイス。バニラが150円くらいで、チョコレートが170円くらい。コンビニシュークリームと比べると高級ですが、和洋菓子屋さんのスイーツであればお財布も許せる価格。

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 たなごころに乗せて。

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 代表してバニラをパカっと割ってみると、クリームたっぷり。撮影したのが夜と朝でちょっと画像の色合いにバラつきがありますが、ご了承あれ。

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 このピレーネの特徴は、ふわふわしっとりのスポンジ生地。肌理が粗くなく、クリームとマッチしています。そして、クリームはホイップクリームではなく生クリームを使用。ぶっちゃけ自分はブラインドで食べてみたらホイップか生かを当てる自信はありませんが、このピレーネのクリームは軽くないのが特徴だと思います。きちんと存在感を示しており、「今、クリームを食べている…ッ!」という実感が湧くのです。そして、クリームの量や手に取った時の重さ、そして食べる時の感覚を考慮すると、スポンジ生地はこれ以上厚くても良くないでしょう。かといって薄くするとクリームが勝ちすぎるかもしれません。絶妙なバランスだと思います。ピレーネはスポンジ生地とクリームという、余分なものをそぎ落として完成された、シンプルな”素顔美人”とも言えるスイーツなのでした。前半部分で妙な例えをしたのは訂正いたします。

 このブログでは色々と盛っているスイーツに良い感想が出てきておりませんが、年を取ってくるとゴテゴテしたのが受け付けなくなってくるのよ…。たまになら食べることだってありますし美味しいなぁと感じます。でも普段ならこういうシンプルなのが本当にありがたい。デコレーションされていた方が視覚的に新鮮だしSNSとかに挙げやすいかもしれんけどね。

 ちなみに、似たようなものだとモンテールの”ふわふわファンシー”というのがあり、こちらは全国のスーパーでお求めになれます(ピレーネの方が美味しいけどね!)。愛知県だとボンボヌールというお菓子屋さんが”ファンシー”という名前で同じようなものを売っていたようです(何だか紛らわしいね)。ピレーネとファンシー、どちらが本家か知りませんが、後者は販売をやめてしまっているそうで。ま、ファンシーがなければピレーネをお食べ。
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2016
09.10

たいまつは先を明るく照らすもの

 トーチの会、という集まりがあります。

 母子感染の中で、胎盤を介して子どもに障害を与える病原体の頭文字を取って名付けたものをTORCH症候群と称します。母子感染症の中に、一部の病原体の頭文字をとってTORCH症候群というのがあるのですが、その中の特にトキソプラズマとサイトメガロウイルスによる感染症についての患者会、それがトーチの会なのです。こういった感染症は知識があれば防ぐことが出来たり早期に発見ができたりするものですが、いかんせん知名度が低い。これを実際に経験された方々が知らせてくれると、真実味をもって浸透していってくれるのではないでしょうか。

 そして、母子感染は、お母さんに強い罪悪感や後悔の念を抱かせます。「私がもっとしっかりしていたらこの子は…」という思いは誰しも持つことでしょう。そして、子どもに罪は全くないのです。患者会は、その母子感染を経験してしまったお母さんや子どもさんにとって大きな救いになるはずです。こういう患者会を「傷の舐め合いだ」と軽視する人も一部にいます。でも、世界中の何処かで、一箇所でも良いから傷を舐め会える場所って必要なのだと思います。そして、お互いに傷を舐め合えば、治りも早くなるでしょう。理解者がいないとお母さんがたは虚勢を張ったり嘘ぶらないといけなくなります。どこかに「正直に自分の気持を吐露していいんだ」と実感できるところはなければなりません。お母さんの気持に少しゆとりができると、それは子どもにもちゃんと伝わります。

 トーチの会はそれだけではなく、極めて冷静な立場でもあります。”傷の舐め合い”はそれのみになると視野が狭まって社会を敵視してかえって孤立しかねないような状況を自らつくってしまう可能性を持っているのは確かでしょう。そこからこころにゆとりができて、周囲の人たちは自分たちの存在を広げてくれる資源だと感じることが出来るか、が大切。トーチの会はそこが明確に出来ており、敵味方に分けず、みんなで良い社会をつくっていこうという姿勢にあふれています。大きなポイントだと思います。

 そのトーチの会がサイトメガロウイルス感染症に関する本をクラウドファンディングで翻訳出版するとのことで、ちょろちょろと応援しております。防げること防ぐには、正しい知識が必要です。そのためのものであるならば、応援しようと言う気持ちになりました。これから生まれてくる子どもたちやお母さんに悲しい思いをさせないために、そして残念ながらも患者さんやそのお母さんとなった方々の努力が報われるように。トーチの会の活動が、未来に明かりが灯るような松明になってくれることを期待しています。

追記(2016年9月13日):上記のクラウドファンディング、支援が目標額に達成したそうです。1人でも多くの人に読んで欲しい本だと思います。物語として純粋に読んでもらって、その結果として母子感染について知識が深まってくれたら。
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2016
09.07

歯が痛い、舌が痛い

 歯の痛みや舌の痛みで歯医者さんに行っても「異常なし」と言われて困ってしまう人たちがいます。「こんなに痛いのに異常がないなんて…」と不思議に思い、別の歯医者さんに行ってみる。そこでも「異常なし」と言われ、また別の歯医者さんに。。。耳鼻咽喉科を受診してみても結果は同じ。そういう経験をしている人がチラホラといるのです。ひとまとめにすると”口腔内の慢性疼痛”とも呼べるような状態であり、これには疾患名がきちんとありまして、大きく”非定型歯痛/特発性歯痛(Atypical Odontalgia/Idiopathic Odontalgia)”と”口腔内灼熱症候群/舌痛症(Burning Mouth Syndrome/Glossodynia)”に分かれます(以下、それぞれをAO、BMSと略します)。この疾患を医療者が知らないと「異常がないから気のせいでしょ」「年のせいでしょ」ということになり、「だから治らないよ」と告げてしまう可能性だってなきにしもあらず。自分は立場上こういう患者さんを診ることがあるのですが、歯科医の先生は知らないことがままあるようで、患者さんが「どこに行っても異常がないって言われて、自分でネットで調べたら”舌痛症”っていう病気にそっくりの症状だった」と初診で述べることもあります。

 さて、この2つの疾患ですが、その定義も細かいわけではなく、そして病態も現時点では不明。しかも診断がついて治療を行ったとしても治りづらく、長期化すると抑うつなど精神症状も呈することが言われています。患者さんのQOLはガタ落ち…。自分も治療には難渋しておりまして、とっても苦しい(いちばん苦しいのは患者さんでありますが)。

 ここでは文献を1つ参考にしながら、AOとBMSについて少しまとめてみます(Forssell H, et al. An update on pathophysiological mechanisms related to idiopathic oro-facial pain conditions with implications for management. J Oral Rehabil. 2015 Apr;42(4):300-22. PMID: 25483941)

 International Headache Society(IHS)によると、AOは持続性特発性顔面痛(Persistent Idiopathic Facial Pain)のサブグループであり、以下の定義を共有しています。

persistent facial and/or oral pain, with varying presentations but recurring daily for more than 2 h per day over more than 3 months, in the absence of clinical neurological deficits

 そしてさらにAOは以下が付言されます。

the term AO has been applied to a continuous pain in one or more teeth or in a tooth socket after extraction, in the absence of any usual dental cause

 患者さんとしては歯が長期間に渡り痛いのですが、そこに臨床的にも検査上も明確な器質的な異常を認めません。顔、頚、肩にまでその痛みが波及することもあります。歯科治療後に症状が出て来ることが多く、3.4%ほどが経験するそうです。女性に多く、40代がピークともされています。歯が痛いなら抜けば良いじゃない、と思うかもしれませんが、不思議な事に痛いとされる歯を抜くと別の歯が痛くなったり、歯のあった歯茎が痛くなったり…。非常に謎めいた疾患です。患者さんは抑うつ的になることもあるため、うつ病が原因でそうなるんじゃない? と言われることも在るのですが、うつ病がAOをもたらすとは現在のところ考えられてはいません(むしろ、原因が分からず治療も捗々しくない痛みが長く続くので抑うつとなる、ということ)。

 BMSもIHSの定義によると

an intraoral burning or dysesthetic sensation, recurring daily for more than 2 h per day over more than 3 months, without clinically evident causative lesions

 となっています。舌に限らず口腔粘膜が焼けるように痛い、もしくは何か変に痛いような感じがする、というのが主な症状。そういった痛みに加え、半数以上に口腔内の乾燥感を、最大で70%に味覚異常を伴います。「火箸を当てられるように痛い!」と表現することもあり、その痛さの壮絶さが伝わってきます。まさに口腔内”灼熱”症候群。そうではない痛みの患者さんも多々。もちろん検査はすれど異常は出て来ず…。診断基準を厳密に適用すると、成人の3.7%ほどがBMSなのだそうです。女性のほうが多く、女性の5.5%に対し男性は1.6%となっており、かつどちらも年齢を経るごとに有病率は上昇していきます。最も多いのが60-69歳の女性で、12%がBMSともされています。AOとは異なり歯科治療後に多いわけでなく、過半数は誘引が不明です。痛みは末梢神経の解剖に従わず、大抵は起床後に最も軽く夕方に最も強くなります。また、食事中はむしろ痛みが軽減することも多いようです。BMSはいくつかメディエーターの研究がなされており、例えば口腔粘膜においてTRPV1とNGFとP2X3受容体の発現増加が観察されています。唾液中のサイトカインについては論文間で上昇/低下がバラバラであり一致を見ていません。ただ、IL-1βをより産生する遺伝子型が認められたとする報告がいくつかあります。

 病態は不明なものの、いずれも神経障害性疼痛の範疇ではないか、とする説が今は有力です。それに基づき治療を組み立てますが、薬剤では抗うつ薬や抗てんかん薬が主に用いられます。

 ここからは文献から離れてお話を。

 患者さんはこういった薬剤のことを聞くと「私ってうつ病なの?」「てんかんだって??」と疑問に思うことがあるので、決してそうではないことを強調しておきます。「痛みに対するバリアを修復する働きがあるんですよ」などと説明すると良いでしょう。抗うつ薬では三環系抗うつ薬やSNRIが選択肢となり、最近ではSNRIのデュロキセチン(サインバルタ®)が頻用されるでしょうか。効果は三環系抗うつ薬、特にアミトリプチリン(トリプタノール®)の方が高いのですが、副作用や相互作用(しかも患者さんは高齢なことも多い)との兼ね合いで、まずはデュロキセチンかと。そこは立場によって異なるため、どちらが絶対に優先だとは言い切れません。抗てんかん薬ではカルバマゼピン(テグレトール®)やガバペンチン(ガバペン®)、そしてその派生のプレガバリン(リリカ®)あたり。いずれも少なめから始めてゆっくり増やすことが肝腎。他にはクロナゼパム(リボトリール®/ランドセン®)も効果があるとされます。ベンゾジアゼピン系ですが抗てんかん薬としての働きもあるからでしょうか。他にもいくつかありますが、主要な薬剤はこれらになるでしょう。ただ、薬剤は全員に効くわけではなく、痛みをゼロにするのはとても難しいことは最初にお話ししておく必要があります。

 薬剤のみならず、生活での”養生”も欠かせません。痛みへのとらわれが強いと生活がそれ一色になってしまうので、痛みがあっても目的をする行動を1日1日積み重ねることの大切さを重視します。理想的には、痛みのなかったあの頃と同じような振る舞いをしてもらう、というスタンス。痛いからと諦めていた旅行や外食などは、むしろ積極的に行なってもらいます。それは、痛みがあっても出来るんだという目線を得てもらうため。イメージとしては、痛みでモノトーンになってしまった生活に彩りを与える感じです。最初から旅行はちょっと自身がないのであれば、スモールステップとして出来そうなことからやってもらいます。ただ、こういった”養生”の目的は痛みをゼロにすることではありません、実は。痛みがあっても思うような日常生活を送ることが出来るという実感が大切なのであります。それを経験すると、痛みへのとらわれから脱して、距離ができるでしょう。そこから痛みを眺められれば、長期的には痛みの方からサヨナラしてくれるかもしれません。

 ちなみに漢方薬も治療に用いられますが、特に”女性・高齢”という観点から方剤を組むことが多いようです。エストロゲンは抗炎症作用を有しており、これの減少が女性において慢性疼痛に一枚噛んでいるかもしれないという仮説もあります。漢方薬の雑誌では、四物湯と加味逍遥散を合わせて出しているという先生がいました。口腔内乾燥感を伴うことも多く、”女性・高齢”というのも考慮すると血虚や瘀血を中心に方剤を組んでみるべきでしょうね。中には疲れると痛みが強くなるという患者さんもいまして、そういう人には補気剤を合わせて出します。もちろん天候に関連しているのであれば利水剤を入れますし、患者さんの状態によって方剤は変わります。個人的には瘀血の関与は大きいように感じており、特にBMSの夜間に増悪するというタイプは瘀血の可能性がありそう。桃核承気湯や通導散なんてのは使いたいですね。でも今の病院は駆瘀血剤の採用がないので処方できないという残念さ。むむむ…。
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2016
09.03

手を取り合うか、殴り合うか

 コンビニのシュークリームはそれぞれ味が微妙に異なります。100円前後のものと130円前後のものというラインナップが多いでしょうか。自分は130円出すのがちょっと「むむむ…」と感じるので、シュークリームを買う時は100円前後のものを選んでいます。

 価格の高いものは、おいしくて当然、というかおいしくなければならないと思っています。そればかりを狙って食べていても面白くない(というかお財布が軽くなるばかりです)。やっぱり探すという視点であれば”まぁまぁ安いけれども意外とおいしい”というのが「おぉ!」と思わせるところ。大福でも1個で200円を超えているものもチラホラ見かけます(デパ地下などで)。しかしながら、それだと買って食べてもおもしろくないのです。ちょっと地方に行って謎めいた和菓子屋さんに入って100円ちょっとの大福を買って食べて「んまい!」と感じる。これが食の楽しみではないでしょーか。もちろんたまには高くて美味しいのも食べたいですけどね、そのためにはかなり日々の生活で節約しないと。

 コンビニでも似たようなモノでして、あまり高いスイーツはあえて買わないようにしています。お財布事情もそうですし、おいしいのが当たり前(というか義務)ですし。だからシュークリームなら100円前後が妥当なライン。130円はちょっとね。

 セブン-イレブンはコンビニの王道を走っていますが、シュークリームに関してはどうでしょう。100円前後のランクでは『ミルクたっぷりとろりんシュー』がありますが、確かにミルクの風味は強く感じます。でも味そのものは薄めの感が否めず、またとろりんしすぎているのは事実で、それは”のばしている”感じすらあり、「もうちょっとクリームっぽくなれよ!」「しっかりしろよ!」と励ましたくなるのです。かつ、クリームに力を入れすぎたせいか、シュー皮の出来はイマイチだと思っています。そして、サークルKサンクスの『とろけるカスタードシュークリーム』はクリームの味がちょっと薄いかしらん。セブン-イレブンのミルク重視クリームと似た感じはありますが、あそこまでとろりんしていないので食べやすいと言えば食べやすい。ファミリーマートの『くちどけなめらかカスタードシュー』はしっかりとした味わいで、クリームもとろとろしてないし、これが良くも悪くも気取らない”コンビニのシュークリーム”の王道と位置づけて良いのではないでしょうか(訂正あり。追々記参照)。

 クリームには”たまご重視”と”ミルク重視”がありますが、前者がファミマで後者がセブン-イレブンとサークルKサンクスと考えると良いのかもしれません。個人的には、この中ではファミマを推します。シュー皮の焼き方も良い感じだし、クリームとも合っています。しかしながら、自分はアレルギー性鼻炎と慢性副鼻腔炎があり細かい匂いや味が苦手です。なのでクリームも濃いめじゃないと分かりにくいという欠点を持っています。そこを差し引くと、ミルク感があって少し舌触りもなめらかな感じのクリームが好きなら、セブン-イレブンやサークルKサンクスの方がフィットするのではないかと思います。

 いっぽう、ミニストップとローソンは以上のシュークリームとはやや異なり


ダブルクリーム


 なのです(訂正あり。追記参照)。シュークリームの中のクリームはカスタードクリームというのが一般的ですが、この2社のものはカスタードクリームのみならずホイップクリームも入っています。ローソンは『大きなツインシュー』であり、ミニストップは『なめらかダブルクリームシュー』です。画像は後者。

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 しかし! ダブルクリームには注意が求められます。2種類のクリームが混ざり合うことなく存在しているため、我々の舌が感じる味は複雑化します。単純に言うと、一度に感じるのがシュー皮とカスタードクリームの味のみならず、ホイップクリームの味も追加されるのであります。そうなると、作る側には魔が差すこともあるでしょう。


それぞれの味を落としてもそうバレないんじゃない?


 という考えになることは想像できます。2種類のものを入れるわけですから、ちょっとくらい質を低下させても分からないんじゃなかと想像できるわけです。塩ラーメンやざるそばなど、シンプルなお料理でお店の良し悪しを判断するのと似ていますね。豚骨をベースにしたラーメンだと細かな違いが飛んでしまいますし(食べ慣れていないと分かりづらい)、おそばも具材をたくさん入れるとおつゆが変わり過ぎてしまいます。例えばかけそばとシンプルな部類に入る玉子とじであっても、おつゆの味は相当異なるのです。また、ダブルクリームは製造過程でも少しコストが上乗せで発生します。それを価格に反映させることは難しいので、どこかで無理をしなければならなくなるでしょう。

 で、ダブルクリームだと消費者側も

「2種類入ってる!」という、いつものシュークリームとの”違い”に期待する
「見た目も良い!」という、黄と白のコントラストに期待する
「2つの味がする!」という、味の複雑化に期待する

 という事態になりやすいのです。特に自分は”たくさん味がすれば良い”みたいなのがキライでして。何なんでしょうね、最近だとパンケーキにどさどさと妙なものが乗っかってるのを有難がる風潮は(ここでいわゆる”女子”を敵に回す)! デコレーションもし過ぎると”厚化粧”になってしまうことがあるので、そのものの良さを消さないようにしましょう! 夏目漱石の作品だと、『草枕』とか『二百十日』とかの後に『虞美人草』を読んだような、あんな感じがしてしまいます。

 そんな期待は架空の「おいしい」を引き出します。たとえ味が変わっていなくても、おいしく感じられるでしょう(プラセボ効果)。1つ1つに自信がない時はいろいろと合わせてデコってしまえば良いということにつながり、それは悲しくも横行しています。変化はただ複雑にして煙に巻いてしまえば良いというわけではなく、そのものの良さを引き出すためになされるべきです。お化粧もそうですよね。その人の顔立ちをとらえてよりキレイにするお化粧もあれば、なんだか顔をノックすればコンコンと音がしてパラパラ剥がれていきそうなお化粧もあり、それはその人らしさを失わせます。

 そして、そのダブルクリームで残念なのがローソンなのです! カスタードクリームは少し薄いし、ホイップクリームはきめ細やかさがないし。もう少し、それぞれのクリームを見なおした方が良いでしょう。合わせるということは、1つ1つの質を下げても良いことにはならず、またお互いがケンカしてもいけません。難しいと思いますよ。特にローソンはカスタードクリームとホイップクリームの粘稠度が違いすぎるので、口の中が騒がしくなります。そこのピント合わせも重要。シュー皮もちょっとポソッとしているし。ミニストップはバランスが良く、善戦してると思います。それでもそれぞれのクリームの質は落ちている感じ。

 ということで、シュークリームもシンプルなスイーツでありながら、そしてシンプルなスイーツであるからこそ、侮れないのでした。カスタードクリームひとつとってもミルク重視かたまご重視か、とろとろしてるかしっかりしてるか、などが挙げられます。特にダブルクリームシューは2種類のクリームの質と調和がポイントになるため、繊細なのでございます。そしてクリームとシュー皮の相性。コンビニのシュークリームはすべてパリパリ系ではなくふわふわ系ですが、その中でも焼き方を工夫して香ばしさを出すか、それともやわらかさ重視でいくか、関係性の中で決まっていくのです。

 しかしながら、どこも100円前後で知恵を出しているんだなぁという感じており、企業努力というのは色んなところで見つけようと思えば見つかるものなのですね。でも安いのを当たり前とは思わない方が良いのだとも考えています。安くする、便利になるというのは、どこかで無理や不便を被っている人がいるから成り立つものです。その行き過ぎはひずみをもたらすでしょう。


*追記(2016年9月12日):この日にミニストップに寄ったら、なんとシュークリームがダブルクリームからカスタードクリームのみに変更されていました(110円)。製造元も山崎製パンからロピアにチェンジ。食べてみましたが、シュー皮は香ばしさがなく、クリームの色や味は薄め。カスタードというよりもホイップに近いような印象で、言ってしまうとダブルクリームだったあのカスタードとホイップを混ぜ合わせたような感じでしょうか。たまご感も「うーん」だし、かといってミルク感が強いかといえばそうでもなく。とろり感を強調していますが口の中でまとわりつくと言った方が正しいかもしれません。この変更は失敗だったのではないでしょうか。あえて競争相手の多いカスタードのみにするのではなく、ローソンに負けていなかったのだからもう少しダブルクリームの品質向上で頑張れば良い線行けていたのではないかしらん。

*追々記(2016年9月24日):なんとファミマもシュークリームをリニューアルしていました。あの味気ないパッケージからちょっと都会に慣れてきた感じの袋に。肝腎の中身ですが、個人的には”劣化した”と思います。前のほうがたまご感があってクリームもしっかりしていたのに、今回は中途半端にミルク感を出しており、他社との違いが明確になっていません。シュー皮もちょっと香ばしさが減ってもそもそとした印象。昔のシュークリームを返しておくれ。
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