2016
07.31

地に足つけて考える

Category: ★本のお話
 宋美玄先生や松本俊彦先生や菊池誠先生などなど、様々な分野の専門家が集結した『各分野の専門家が伝える 子どもを守るために知っておきたいこと』を読みました。

 いわゆるニセ医学やデマに対して正しい知識を得てもらおうという考えのもとに書かれています。結論から言うと


とても良い本


 です。子どもを育てている親御さん、そして教育に関わる教師のみなさんにぜひとも読んで欲しい本だと思いました。項目によっては少し浅いところもありますが、おそらくはページの都合なのでしょうね。

 ニセ医学やデマというのは難敵です。流布する人たちはそれがビジネスになっているので、あの手この手で信者を獲得しようとします。そして彼らは不確実なことをあまり言わず、極端な妄言(極論という言葉すら当てはまらない)で多くの人を騙します。そして、いくら真っ当な内容で指摘しても「陰謀だ!」「利権だ!」と言って聞こうとしません。そして信者さんは「この人は隠された真実を暴こうとしている! 権力に立ち向かっている! 素敵!」と信じこみ、一緒になって聞こうとせず…。特に子どものことに関しては、我が子を少しでも危険な目にあわせたくない、健康に育って欲しいと思うその親のこころに付け込んでくるのです。卑劣極まりない。そして、SNSなどではニセ医学の一派と真実を教えようとする一派とが激しい罵り合いをしてしまっています。これではお互いの距離が遠のくことはあれ、縮まることはないでしょう。この本は感情的にならず、優しく、そして正しい知識を伝えたいという思いに溢れています。そういうスタンスが一番平和的なのかなぁと感じる今日このごろ。

 今の時代は様々な情報が氾濫しており、その中から適切な情報を選びとるのは難しくなっています。そういった教育を受けていない人たちも多いはず。そして、極端で明快な意見(妄言)を見ると「分かりやすい!」と思い込んでしまう。そして国や製薬会社との結びつきを誇張すると、妄言をばらまく人は正義に見えてしまいます。いったんそこに入ると、後はその意見に沿った情報ばかりを集め、気がつけばすっかり頭は絡め取られています。この本は騙されてしまっている人たちにも読んで欲しいのですが、重要な点は、騙されているということはこの本を手に取る可能性が低いということ…。当の本人たちは”騙されている”なんて思っていないわけですから。仮にパラパラとめくっても「また医者が自分の利権を守るために書いている」「政府とつながってるんだろ」という感想くらいしか出てこないのかもしれません。そして、この本に対する攻撃も増してくるでしょう。でも、1人でも目が覚めてくれれば、と祈っています。

 そういえば、抗菌薬の適正利用も、聞く耳を持たない医者には何を言っても通用しませんね…。こういった事態に共通する戦略で最も重要なのは、まだ騙されていない人たちを救うこと、要は未然に防ぐことなのです。ニセ医学やデマに関しては、色んな情報を目にして困っている段階にある人々への正しい方向付けとしてこの本が役立つでしょう。抗菌薬については、知識がまっさらな学生さんや研修医の段階でしっかり教えこむこととして啓発運動が役立つでしょう。

 一人でも多くのかたがこの本を手にとって、冷静に物事を考えてみるようになってもらえたらと感じます。自分の考えとは違うことが書いてあるかもしれません。でもそれを切って捨てるのではなく、そっちの立場の論拠を見てみようかなと思ってみてください。きちんと情報の源に当たり、判断することが大事なのです。そんな練習も欠かせませんね。
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2016
07.29

変化を付けたきゃ手を見てみようぜ

 家計のため、健康診断のバイトを週に1回しています。本職はリハビリ復帰の途中みたいな感じ(?)でして、健康診断を織り交ぜながら日常労務復帰を目指すのであります。

 ま、それは良いとして、健康診断を受けたことがあるという人はとても多いかと思います。そこでは医者の診察があるのですが、恐らく



ものすごい短時間



 だと思います。ちょっと頚を触ってポンポンと聴診器を当ててオシマイということもあり、「え、これだけ?」と感じたことが幾度となくあるでしょう。。。不満はあるかもしれませんが、医者側にしてみるとそれくらい短くやらないと時間内に終わらないという実情があるのです…。

 健康診断のスタッフみんなに時間のゆとりがあって、かつ受診者さん(健診の場合はお客さん?)も「別に診察くらい3-4時間は待っても良いよ」というのであれば、時間をかけることができます。でも現実は違うでしょう。スタッフは複数の会場をバスで移動して午前も午後も時間に遅れないようにバタバタと動きます。そして受診者さんも順番が遅いとイライラしてきます。健康診断の流れ作業的な雰囲気、そして医者の短時間診察はやむなくなされること、と理解していただきたいところ。

 診察以外にも心電図や血液検査とか消化管の検査なんてのが用意されている場合も多く、かつ”健康診断”というセッティングを考慮すると、診察そのものの果たす役割はそれほど大きくなく、診察以外で分かるものは基本的に診察しません(あくまで健康診断という条件で、ですよ)。健康診断に来るみなさんは基本的に健康(主訴があって自ら病院に来るわけではない)だし、時間もないし。

 しかし午前中だけでも100人近くで同じことをやっているとマンネリ化というかなんというか、飽きが生じてきてしまいます(人間なので…)。よって、自分は健康診断で受診者さんの”手”を診るようにしてます。数秒で終わるし。たまーにTerry's nailを発見して「糖尿病があるのかなー、肝臓とか腎臓が悪いのかなー」と思いを巡らすことも。そうそう見つかるものでもないですが。あとは最近”梅毒”が流行しているので、手掌に見事な発疹がポツポツ出ていないかを確認。今のところ見つけたことはないですけど、やっぱりね、用心して。

 手を診るようになったきっかけは若かりし時に買った『手で診るリウマチ』という上野先生の本(めちゃくちゃ薄い)。「色んなことが分かるんやなぁ」と面白く感じて、健康診断で診るようにしています。手を診る医者は少ないようで、受診者さんは「?」という顔をしますが。この本はもう絶版なんですかね、Amazonでは高値になっているし。

 ぱっと診て分かる所見というのは、それを伝えると受診者さんにも結構な印象を与えます。アルコールでちょっと肝臓が弱っている人にTerry's nailがあれば、その関連を示すことで、脅すわけではないですが「手にも出てきた」という感覚になります。「あらまぁ」と思っているところに「ここからきちんと立て直していきましょう」と伝えると生活習慣への助言が入って行きやすいかな? と思っています。じん肺の健康診断でばち指を見つけるとこっちも心配になって、キチンと調べたほうが良さそうだなぁという気持ちになりますし、受診者さんにも伝えやすいですし(実際、見事なばち指を診たことがあります)。脂質異常症についても、手ではないですが老人環(arcus senilis)があれば「眼に脂質が沈着している」というのは結構なインパクト。老人環そのものは高齢者にはよく見られるものですが、中年くらいの人にあるとやっぱり脂質異常症の可能性、ひいては心血管リスクが高くなります。耳朶皺襞(earlobe crease)も同様ですね。McGee先生の『Evidence Based Physical Diagnosis』にも記載があり、胸痛が繰り返し起こる患者さんでそれが冠動脈疾患なのかどうかという状況において、老人環はLR+3.0、耳朶皺襞はLR+2.3という、まずまずかな?という所見になっています。ものの1秒で分かる所見でこのLRなら悪くないですよね。

 ということで、健康診断には手を診るクセを付けてみたり、他にも視診で色々探すようにするとこっちも飽きずにこなせますし、受診者さんも「へー、手でこういうのが分かるんですね」みたいな新鮮な驚きを示してくれます。眼だと老人環以外に翼状片をよく見かけます、そういえば。

 患者さんにも”見て分かる”ものは、訳の分からない概念みたいな病気や数値で表される検査値を一段階近いものにしてくれるでしょう。患者さんと概念や数値とをつなぐのが、目で見える所見なんだと感じています。そこから健康に対する意識が高まってくれれば、言うことなしや。

 ちなみに、女性は健康診断にもかかわらずネイルをしてきたりお化粧してきたりと「うーん…」と思うところもありますが。。。頚の触診なんてしたら自分の指がキラキラ光ったり白くなったりで大変でございますよ。出来ればお化粧は落としてきて下さいね。健康診断終わったらいくらでもしてもらって良いので。。。
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2016
07.26

ライフはもうゼロよ!

Category: ★本のお話
 佐藤雅昭先生の『なぜあなたは論文が書けないのか?』を読みました。

 そう、何を隠そう、自分は論文が書けないのです(隠されていない)。タイトルを見てつい買ってしまった。内容は、最初からグサグサと突き刺さることが多かったですね…。例えば


論文をイッキに書き上げようとしていないか?
・論文がなかなか書けない人に共通するのが、こうした地道な工程を積み重ねようとせず、全体を見て悩んでしまう点です。


 ウッ! 胸が苦しい…。そして


「まとまった時間がないから書けない」を言い訳にしていないか?
・「まとまった時間」常に求めていたのでは、いつまでたっても着手できません。


 ウゥッ! 冠動脈が…。さらには


論文作成中、ついネットやメールをしていないか?
・メールやネットを論文作成のsmall stepの後に回すと固く決心し、それまでネットへの接続を遮断しましょう。


 ウボアー! (心破裂)

 と、このようにもうライフをガンガン削ってくるお言葉が並びます。ゼェゼェ…。後半は書き方のノウハウも記されていて、きちんと動機づけから実際の作成までを見据えてくれている内容でしょう。

 しかし、前半で当てはまりすぎる自分にとっては、絶命寸前にまで追い込まれる本でした。当てはまるということを真摯に受け止め、本の指摘を活かしていきたいと思います。

 ま、今もこうやってネットにつないでしまってるんですけどね(反省してない)。
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2016
07.23

焼きたてって言葉だけでさ

 自分は月に1回ですが安城市に用事があります。今回はちょっと早く着いたので暑い中うろうろと歩いていたら、”みたらしだんご”の文字が。これは自然と足が向かいますな。

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 枡見屋さん、とのこと。店内のこのレトロな昭和感が良いですね。しかし、なんと大正時代から続いているそうで。

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 みたらし団子は小ぶりで、1本80円。なんと注文を受けてから焼いてくれるのです。もうね、”焼きたてのお団子”って言葉を見ただけで、聞いただけで、文字を打ち込んだだけで、美味しい感じになるし幸せがやってくる気持ちになるし。世界が平和になりそう。

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 この焦げ目がね、また香ってくるんですよ。携帯電話の待ち受けにしても良いくらい!

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 では、いただきます(路上にて)。

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んまい (当然)



 みたらしのタレがそれほど甘くなく、でもおしょうゆ団子のような辛さもなく、しかも超もちもち! 実にんまい。岡崎の和泉屋さんも美味しかったけど、ここも実に素晴らしい。甘さ控えめなのでしつこさがなく、何本でも入ってしまいそう。しかも焼きたてでしょ。容器ごしに伝わってくる温もりがまた良いんですよ。夏で晴れてて暑いけど、このお団子の温かさは別。焼きたてって素敵ですね。焼きたてパン、焼きたてシュークリーム、焼きたて団子…。どれもが美味。ということで、ここで現代短歌風にひとつ


焼きたてよと 買ってきた君  肩がはずんで 温かい声の玄関は (by m03a076d)


 ま、それはそうとして、コンビニとかスーパーで売っている大量生産型のお団子って、お団子自体にちょっと変な甘さがあるんですよ。グリシンとかトレハロースとかソルビトール(ソルビット)なんかが原材料に含まれていることが多く、それがイマイチ。お団子自体はお米の甘さだけで十分なのです。それとタレとの調和こそ重視すべきでございます。だからお団子屋さんのお団子はコンビニの量産機とはまったくベツモノ。

 そして、”すあま”も買ってしまった(120円)。

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 愛らしい形。ぱくっと。

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 んまい。スッとした優しい甘さがあって、みたらし団子の後に食べるとまた格別。

 その日は、おやつに”みたらし団子×3本、すあま×2個”を一気呵成に食べてしまいました。糖質がすごいことに…。ま、いつもはちょっとだけ控えてるからこういう日もあって良いよね、と言い訳。

 ぜひですね、安城市に来ることがあったらこのみたらし団子を食べてみてくださいまし。愛知県は岡崎市のも美味しいしこの安城市のも良いし、何やら豊橋市にも有名なお店があるらしいですね。いやぁ、お団子天国や。
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2016
07.20

投げっぱなしジャーマンではない

Category: ★精神科生活
 ベンゾジアゼピン系はその弊害が叫ばれつつあります。このブログの記事でも、毎日ずっと飲むことはあまりよろしくないという記載をしていますが、自分はベンゾそのものを否定しているわけではございません。

 確かにこれまでは長期処方の危険について啓蒙がなされておらず、漫然と処方して「いつやめても安全」と言ってしまう医療者もいました(今もいるっちゃいますが)。結果的に離脱症状を起こしてしまった患者さんがおり、彼らが大変な思いをしているのは事実です。

 しかし、だからと言って「ベンゾ=絶対悪」ではないのです。”うまく使えば”良いお薬だと思っていますし、自分も処方することがありますよ。一度に大量に飲んだって死なないし、しかも薬価が安いし。この”うまく使えば”というのは、あくまで個人的な見解ですが

・頓用で処方し、1週間に2回程度を上限とする
・連用はするにしても1-2週間程度とする
・事前に依存と離脱症状についてお話をする

 というのがまず入ってきます(アルコール依存症の離脱や緊張病の治療は例外)。そして、強調しておくべきは


お薬があなたの問題を解決するわけではないんですよ


 ということ。特にベンゾは問題を先送りにする働きだと思ってもらいます。先送りにしている間に何らかの手を打つこと、しかもその主語は患者さん、を前提としているのです。その対策の後押しを診察室できちんとするのが医療者の役目であり、それをすることで初めてベンゾが良いお薬にななる舞台が整うことになります。

 例えば、発表のたびにドキドキして不安でしょうがないんです、という患者さん。

「とにかく発表の時を何とか乗り切りたいです。発表の回数ですか? 月に2-3回ですね」

 こういう人にベンゾを使うことがあります。発表以外では何とかやって来られて、日常生活は大丈夫。そしてその発表もそんなに多くない。であれば頓用でベンゾを出しても悪くないでしょう。しかし、前述のように注意は促します。

「じゃあ、頓服のお薬を使ってみましょうか。ただ、これは毎日飲んでると”飲まないと不安”になってしまって、やめにくくなることがあります。あくまでも、発表の時だけにしてください。そして、飲んでから効果が出るまで少し時間がかかって、あとは眠気も副作用で出ます。だから、まずは休日とか何でもない日に飲んでみて、眠気がどれくらいで出るかとか確認しておいて下さいね。効果は緊張した時じゃないと分かりづらいかもしれないですけど、眠気とだいたい同じようなタイミングで出てきます。飲んで30分から2時間の間かなと思うので、発表の前に飲む時はそこを計算しておいて下さい。直前だと意味無いですからね」

 などなどをお話。そしてさらに

「お薬はドキドキとか不安をゼロにはしません。少し軽くして何とかなる程度にはしてくれると思います。まずはお薬を使ってしのげる程度にしてみましょう。それを繰り返すと、こころにゆとりが出来て慣れてきます。そうしたらお薬の量を少なくして、飲まなくても発表が大丈夫になりますよ」

 とある程度の道筋を付けておきます。決して症状をゼロにはしないというのを自分は強調するようにしておりまして。

「感情はもともと人間に備わっているものだから、それ自体は悪いやつじゃないんですよ。でも○○さんは不安が頭いっぱいになって発表の時にパニック(医学用語ではなく一般用語として)がやってきますね。お薬でそのパニックを少し小さくしてあげると、落ち着いて不安を見つめることが出来るようになってきますよ」

 とお話ししています。「不安を見つめられるように」とは言うものの、患者さんからすると不安が大きすぎてなかなか対処しきれない時があるでしょう。そこは薬剤で少し不安を小さくしてあげて、患者さんが対処しやすい形に持って行きます。そこからは診察で自信を少しずつ持ってみても良いんだよという内容のお話しを。その積み重ねによって、不安からだんだん距離が取れるようになってきて、お薬をちょろっと少なくしてみるきっかけにつながります。そういう話をしておくことで、ベンゾはプチ精神療法の一翼を担ってくれるでしょう。

 仮に処方したベンゾが効かなくても、初回の処方前に「今が一番つらい時だから、これ以上の負けはないですよ。悪くて引き分け。負けのない勝負だから、今回出すお薬が効かなくても大丈夫。そういう時は少し長期的に考えてみましょうか。方法はいくつかありますからね」とお話ししておきます。

 ちなみにこういう状況依存性のドキドキとか手の震えには、ベンゾ以外にも自分はβ遮断薬を使うことが多いです。例えばプロプラノロール(インデラル®)10mg頓用、という形で。いずれも安いのが特徴。抗うつ薬は高いですし毎日飲むししばらく続けないといけないですからねー。
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2016
07.18

糖尿病とエビデンス

Category: ★本のお話
 能登洋先生の『最新 糖尿病診療のエビデンス』を読みました。

 と言っても発売された時に読んだのでほぼ1年前ですけど。この前ちょっと読み返してみたのです。

 糖尿病治療におけるエビデンスを○×形式でまとめてくれていて、門外漢にとってはありがたい。さらには最初の方にエビデンスの扱い方がちょろっと述べられていますし、各項目でも示されたエビデンスをどう読むかというのをしっかりと解説してあります。糖尿病診療にもちょっと詳しくなれて、エビデンスのどこに注目するかも学べるのであります。しかも200ページ未満ですから読む意欲も出て来る。自分は糖尿病を専門で診ているわけではなく軽症を対象としているのですが、専門にされている先生でも一度ブラッシュアップのためにご覧になってはいかがでしょうか。エビデンスをどう解釈するか、についても勉強になりますよ。

 能登先生は統計の本も数多く出していますが、内容は被っているので、買うならどれか1冊で良いかと思います。でも気になるところがあって、今回の本でもそうなんですが、メタアナリシスを読む際の注意点として


メタアナリシスはエビデンスレベルの最高峰に位置づけられることが多いが、実は含まれる研究の妥当性によって、そのレベルが変わる。特に、未発表データ(エビデンスレベル「なし」)が含まれる場合は、メタアナリシスのレベルも「なし」となるため、読む価値はほとんどない。


 と書かれてあります。メタアナリシスも採用する文献によって確かに結論が異なってきますし、最近流行のネットワークメタアナリシスは著者が恣意的に操作可能な感じが否めません。精神科領域ではMANGA studyがそのネットワークメタアナリシスで抗うつ薬の有効性などを比較しましたが(Cipriani A, et al. Comparative efficacy and acceptability of 12 new-generation antidepressants: a multiple-treatments meta-analysis. Lancet. 2009 Feb 28;373(9665):746-58.)、あの結果は正当なものでないと思っています。後に行なわれた他のメタアナリシスでは”有効性に差はない”とされていますよ(Gartlehner G, et al. Comparative benefits and harms of second-generation antidepressants for treating major depressive disorder: an updated meta-analysis. Ann Intern Med. 2011 Dec 6;155(11):772-85)。ここでこの本に戻ると、「おや?」と思うのは”未発表データが入るのは好ましくない、メタアナリシスのレベルを下げる”というところ。自分は統計に詳しくなく、本を読んで「うーん、分からん」と感じてまた別の本を買って「うーん、やっぱり分からん」ということを重ねてしまっている状況ですが、未発表データを外すことについては「??」と思いました。

 未発表データというのは、製薬会社主導の臨床試験で製薬会社にとって好ましからざる結果になった時、公表せずに闇に葬ったものが含まれる、という認識でいます(全部じゃないですよ)。また精神科の例で申し訳ありませんが、たとえばラモトリギン(ラミクタール®)。これはうつ病エピソードへの治療効果が喧伝されているんですけど、効果がなかったと結論付けられた論文で未公表のものが実は存在しまして、それを考慮するとうつ病エピソードそのものへの効果は大きくないとされるのです(Amann B, et al. Lamotrigine: when and where does it act in affective disorders? A systematic review. J Psychopharmacol. 2011 Oct;25(10):1289-94.)。こういうことがあるから、きちんと発表されていないものまで目を通したほうが良いと考えていたのですが。でも確かに発表されていないということは論文としての体をなしていないということにもなるのかもしれません。難しいですね。

 話題のSGLT2阻害薬について、この本はEMPA-REG OUTCOME(Zinman B, et al. Empagliflozin, Cardiovascular Outcomes, and Mortality in Type 2 Diabetes. N Engl J Med. 2015 Nov 26;373(22):2117-28.)の結果が出る前に出版されているので心血管イベントの軽減については触れられていません。あの試験の解釈は難しいみたいですね。。。

 また、低炭水化物食、いわゆる糖質制限食の死亡リスクについては”確固たる結論を出すことはできない”と述べてあります。糖質制限と言っても色々ありますしね。タイトなものからゆるいものまで。そして糖質を制限した代わりの食事内容など。個人的にはほんのちょっとの制限(ご飯の主食を半分くらいにする程度から)をして、それをお豆腐やお魚に置き換えるのであればそんなに悪さはないかと感じています。が、これはあくまでも自分の意見に過ぎません。

 糖尿病治療は学会があまり機能していない、と思います。いや、むしろ変に機能していて医者の薬剤選択をミスリードしているのか…? 『科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013』も経口血糖降下薬の記載は優劣をつけずに横一線なんですよねぇ。。。メトホルミンを第一選択にしっかりと据えていない時点で”科学的根拠に基づく”という言葉が虚しく感じます。廉価であり最も大血管障害や死亡のリスクを減らすことが出来るというのがUKPDSで明らかになりましたし(Effect of intensive blood-glucose control with metformin on complications in overweight patients with type 2 diabetes (UKPDS 34). UK Prospective Diabetes Study (UKPDS) Group. Lancet. 1998 Sep 12;352(9131):854-65.)、アジア人でもそれは示されています(Hong J, et al. Effects of metformin versus glipizide on cardiovascular outcomes in patients with type 2 diabetes and coronary artery disease.)。もうね、日本人は違うからと言い張って世界の流れから取り残されるのは笑いものになりかねません。UKPDSを大きく覆すような試験がない限り、メトホルミンの第一選択は揺るがないでしょう。

 そういうことばっかりやってるから、糖尿病学会と聞くと「胡散臭い」というか「その程度」というか「製薬会社と結びついてるんでしょ」というか、そんな印象になってしまうのではと思うのです。特に製薬会社と学会の関連性はクリーンさが強調されるべき時代。世界の潮流に素直に目を向けないと、変なところで疑われてしまいます。李下に冠を正さずって昔から言うでしょ。ま、ひょっとしたら李(すもも)を本当にゲットしようとしているのかもしれませんけどね。メトホルミンも発売されたばかりの新薬(薬価が高い)も横並びでは、ガイドラインとは言えないでしょう。そして発売されて日の浅い新薬がバンバン使われる現状はいかがなものか。

 正しい治療、それは患者さんのための治療ですが、それをするために今回の本は1つの参考になると思います。もちろん他にも良いものが出てきていますし、『ここが知りたい!糖尿病診療ハンドブック Ver.2』もお勧めできる内容です。


追記(2016年7月20日):ついこの前のJAMAにも、第一選択にメトホルミンを使ってその後は病態に合わせて次の薬剤を選ぶべき、というメタアナリシスが出ましたね(Suetonia C. Palmer, et al. Comparison of Clinical Outcomes and Adverse Events Associated With Glucose-Lowering Drugs in Patients With Type 2 Diabetes A Meta-analysis. JAMA. 2016;316(3):313-324)。結論部に

All drugs were estimated to be effective when added to metformin. These findings are consistent with American Diabetes Association recommendations for using metformin monotherapy as initial treatment for patients with type 2 diabetes and selection of additional therapies based on patient-specific considerations.

 と記されています。
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2016
07.15

とらえる意味

 以前、引き継ぎで新しく診ることになった患者さんから、ちょっとしたお叱りを頂いたことがあります。

患者さん「先生、書かないの? 前の先生はオレの言うことをすぐ書いてくれたよ。書いてくれないと診てもらった気がしないなぁ」
自分「あ、そうでしたか…。私は字がヘタなもんで、書く時はしっかりとカルテの方を向かないと自分でも読めないくらいでして…」
患者さん「前の先生だってそうだったよ。そっち(机)向いて一生懸命書いてたよ」

 診察で、自分がカルテを書かずに話を聞いていた時の出来事。その病院は検査や処方のオーダーだけが電子化されており、診察記録はまだ紙カルテという状態でした。自分の診察スタイルは

・電子カルテであればタッチタイピングで内容を打ちながら患者さんの方を向いて話を聞く

・紙カルテであればキーワードをちょっとメモするくらいにして患者さんの方を向いて話を聞く
(後でキーワードをつなげて記録する)

 というものです。基本的にはいずれも患者さんの方に身体を向けて、眼や頭や手の動き、相槌のトーン・種類などによって「話を聞いてますよ」というアピール(?)をしています。以前担当していた先生はそうではなく、カルテの方を向いて患者さんの話すことを書き留めていたそうです。

 ここで、「おや?」と思うことがあるかもしれません。”カルテの方を向いて患者さんの話すことを書き留めていた”ということは、良く世間様からの言葉で


カルテの方ばっかり向いて、こっちの話を聞こうともしない


 というものがあります。”カルテの方”というのは、紙カルテが主流だった昔は机、今はパソコンになるでしょうか。そう、その先生のスタイルは一般的にその状態に当てはまる悪手と言えそうです。しかしながら、患者さんがその先生から受ける印象は全く異なっていたのです。カルテの方を向いて患者さんの言葉を書き留めていた行為、それがその患者さんにとって「診てもらっていた!」という意味になったのでしょう。もちろん、それだけでなく書きながらきちんと相槌を打っていたのだと思いますが、患者さんによると目線もカルテを向いていたと。

 私たちは既存の意味に規定され既存の意味の中を生きてはいますが、その意味付けをある程度は変えることができます。精神科なんてのは様々な事象の意味付けをちょっと変えるように持って行って、患者さんに別の視点を提供し、症状へのとらわれに気づいてもらってゆとりを得られるようにする科でございます。「カルテの方ばっかり向いて…」というのは世間一般の医療に対する不満を象徴する言葉でしょう。しかし、カルテの方を向いていてもその他のこと、例えばそれは相槌であったり、心理教育であったり、丁寧な検査であったり、患者さんの状態がその治療で改善していったという事実であったり、患者さんのこれまでの医療経験であったり…様々な因子が影響し合い、その”あいだ/あわい”で患者さんが「この先生は診てくれる先生だ」と思ったのであれば、カルテの方を向くという行為はその患者さんにとってマイナスにならない、むしろそのスタイルがプラス(話す言葉を一生懸命書き留めてくれる)に働くこともあるのだと思います。

 自分が引き継ぎ初っ端からちょっとコケてしまったというカッコ悪さを出したものの、そういう見方を改めて認識させてくれた好例とも言えそうです。ただ、自分はカルテの方をずっと向いてというのはちょっと出来ないかな…。世間様の既存の意味付けが強すぎて変える自信がないですわ、さすがに。
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2016
07.12

精神科診断を考える

Category: ★本のお話
 今回は、『モリソン先生の精神科診断講座』という本を読んでみました。訳も分かりやすいですし、文章そのものも難解ではありません。

 これは奇抜で職人芸を求めるような内容ではなく、DSMという診断基準をどのように臨床に活かしていくか、をまっすぐに述べている内容だ、と思いました。それと同時に、昔から言われている精神科診断における注意点にもしっかりと触れています。たとえば…


基準はあくまでも手引きとして理解すべきであり、それに拘泥するのではなく、臨床家は個々の状況のすべてを考慮して、慎重に基準を用いるべきである。

ただちに診断を下すことができない患者もいるという現実を認識することこそが重要である。

他の精神状態を認める場合には、パーソナリティ障害の診断に特に注意を払うべきである。他の精神障害の症状が最小限にまで緩和されて、パーソナリティ障害の症状が容易に認識され、それを誤って解釈する可能性が低くなるまで、診断を下すのを控えるべきである。

深く愛していた人が亡くなると、遺された人が悲しみにくれるのはごく当然である。私たちが臨床家として(そして、私たち自身も悲嘆に暮れる人として)必死になって立ち向かうのは、治療が必要な臨床的うつ病と、慰められそして耐えていかなければならない自然の悲嘆の過程の間にどのような境界を設けるかということである。
(中略)深刻な喪失の後に悲嘆や悲哀の感情に出会うのは当然であるので、性急にそれを精神障害と診断しないように注意すべきである。しかし、持続時間や絶望の理由にかかわらず、悲嘆に暮れている人がうつ病エピソードに該当するのに十分な症状を呈している場合には、治療の可能性について慎重に検討する必要がある。


 など。

 DSMに記載されている診断名についての説明や診断名間での違いを述べているため、DSMの勉強にももちろんなります。主眼は前述のように”DSMを精神科臨床でどのように活かしていくか”になるでしょう。DSMは色々と批判されてはいるものの、それを活かすか殺すかは臨床に携わる私たちです。私たちの使い方が”チェックリスト”であれば、それはDSMを殺してしまっています。批判すべきはDSMではなく、そのように使ってしまっている私たちの態度にあるでしょう。

 気になったのは、この本の著者は身体症状症という診断名に否定的だということ。


身体化障害に関しては、定義がより厳密なDSM-IVを今後も使うべきであるというのが、私の助言である。


 と述べています。ただ、自分は身体症状症に変更されたのは進歩だとも思っているのです(どちらが正しいかということもないでしょうけれども)。大きな違いは、身体症状症は身体疾患の有無にこだわらなくなった点でして、身体表現性障害では身体疾患が除外されていることが重要でした。でもDSM-5ではそうでなく、むしろ症状への認知や感情、これまでの患者さんの生き方などを考慮して判断しています。特に”痛み”はその傾向がありますね。身体疾患があっても身体症状症と診断することが出来るため、それによって私たちが患者さんの思いに配慮していけるのです。もちろん、この診断名を単なるラベリングとして用いてはいけません。要は、精神疾患でも身体疾患でも身体症状があるならば、相応の配慮をして患者さんと向き合いなさい、と言っているのがDSM-5の”身体症状症”です。

 あと、この本を読んでオーソドックスで基本に忠実で好感が持てたのと同時に、日本で長く読まれている笠原嘉先生の『精神科における予診・初診・初期治療』や土居健郎先生の『方法としての面接』はやっぱり名著だ、というのも実感しました。この2冊はいつ読んでも「なるほどなぁ」と思わせてくれる内容で、伝統的診断の時代のものですが実に臨床臨床臨床、なのです。

 『モリソン先生の~』で操作的診断を活かす術を学び、同時に笠原先生と土居先生の本で伝統的診断の深みに触れてみましょう。それらが頭のなかで混ぜ合わさって醸成されると、精神科医にとって良いのではないかなと感じています。
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2016
07.09

新生姜の甘酢漬け

 6-8月は新生姜が出回ります。

 自分は辛(から)いものが苦手ですが、生姜の揮発性の辛さは何とか大丈夫。鼻が詰まっていると、特にわさびの持つ揮発性の辛さって感じないんですよ、実は。唐辛子は全く変わらず痛い。

 新生姜はその味を楽しむならやはり甘酢漬けが簡単でかつ美味しい。生姜ごはんも良いですけどね。作り方は簡単でして、まず新生姜を買ってきます(そこから?)。

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 で、包丁の背でゴリゴリやって皮を削いでキレイに。赤くなっているところは残しておきましょう。

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 薄く切ります。でも適当で良いの良いの。気にし過ぎると大変だから。薄さがまばらなのも色んな歯ごたえがあって面白いですよ。薄くしたいのであればスライサー(ピーラー)を使うとカンタン。

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 で、湯がきます。辛いのが好きなら3分弱。少し抑えたいなら5分ちょっと。

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 ちなみに、このお鍋は床に落として歪んでしまってます。。。

 ザルに移動。このお湯はピリッとしてまして、生姜エキスがたっぷり。捨てずに残しておいて、お魚を煮る時なんかに使いましょう。臭み取りになります。自分はアラを良く調理するので、大活躍や。

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 甘酢つくり。自分はミツカンの”やさしいお酢”を使っています。これは純粋なお酢ではなくて、お砂糖とかかんきつ果汁とかがブレンドされていて、まろやかタイプ。それに三温糖をもうちょっと加えて、かつレモン果汁を結構入れます。このレモン果汁がポイントでして、フルーティーな甘酢漬けになるんですよ。

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 で、ジップロック先生に封印。30分位でO.K.です。2日くらいすると馴染んでいちばん美味しい。1週間程度は大丈夫だと思いますけど、その前に食べ切ってしまうのが常。数日経つとピンク色が強まって綺麗ですよ。

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 これは30分後。いただきます。

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 お、ちょっと辛かった。。。しかし、身体がポカポカしてきて夏場は厳しいですな。

 季節限定のこの味わい、ぜひぜひ。簡単につくれますので。
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2016
07.06

久々に感染症のお勉強

Category: ★本のお話
 今回は『medicina 2016年6月号』を読みました。特集が”抗菌薬の考え方、使い方 ホントのところを聞いてみました”というもので、パラパラめくって面白そうだったので購入。もう専門外は英語でガリガリやる気力が乏しくなってきまして、こういう和文医学雑誌の特集や和書で勉強することが多くなりました。

 感染症は好きなのですがしばらく勉強から遠ざかっていまして、やる気を奮発して読んだのであります。ちなみに2016年4-6月に読んだ本で特にためになったのは『卒後10年目総合内科医の診断術』、『ジェネラリストのためのこれだけは押さえておきたい皮膚疾患』、『ねころんで読めるてんかん診療』でしょうか。『卒後10年目~』は知識の総まとめ的な立場で、『ジェネラリストのための~』は苦手な皮膚疾患のカンドコロが分かるようになった気がしないでもありません(どうせすぐ忘れちゃうんですけど)。『ねころんで~』はてんかん診療が専門外の医者向けに分かりやすく書かれていますね。で、雑誌を読み終えた今は『極論で語る総合診療』を読んでます(精神科の勉強はどうしたんや…)。

 今回は雑誌の特集ですが、分担執筆なのでそれぞれ味があって面白かったです(忽那先生は相変わらずトバしてるし)。もちろん「ちょっと薄いなぁ」と思う部分もありますが、強弱があるのは分担執筆の短所でもあり長所でもありますね。特に興味深くて「他の科でもそうなんだなぁ」と実感したのは冒頭の座談会での、青木眞先生のこのお言葉


(青木先生に感染症診療のことを)相談してくる医師は相談してくる必要のない医師で、相談してこない医師こそが問題だという思いがあります。問題のある医師の意識は10年前と変わらないですね。私の講演を一番聞かせたい医師がぜんぜん聞きに来ないし、聞いても反応がない。岩田先生たちが教育されて良くなっている若手がいる一方で、感染症の学会に行くと「ぜんぜん変わっていないのかな」と思える医師も多く、そのまだらの濃淡が強くなっているという印象です。これからの課題は、聞いてくださらない医師に、どのように変わっていただくかですね。
(カッコ内は前後関係が分かるように付け足しました)

 精神科の薬剤治療もそうなんですよねぇ。これはもう若手を底上げして、変わらない医者たちを駆逐するしかないのではないかと思ってしまいます。というか、言い方はものすごく悪いですけど、そういう医者の寿命が来るのを待つのが良いのかしらん、とも頭をよぎってしまうのです。精神科も若手はかなり教育されている人たちが多くなってきて、もちろん若手じゃなくても尊敬できる勉強熱心な素晴らしい先生も多いのです。でも何でもかんでもベンゾジアゼピンをぽいっと出して年単位でそのままだったり抗うつ薬を何剤も併用して症状を不安定化させたり、そんな医者はまさに「ぜんぜん変わっていないのかな」と言う感じで、まだらなんです(もちろんそのような処方をせざるを得ない患者さんもいるので、すべてダメという訳ではないですよ)。こういう底上げの他には、やっぱり国民の皆様に色々と”正しい情報”を知っていただくことが大事なのではないでしょうか、抗菌薬についても精神科のお薬についても。ただし! ただしです。そういうのに付け入って妙なビジネスをする輩も多いので、そこは情報を正しく選択してもらう必要があるのでございます。どうにも両極端な人が多いですからね、世の中。

 で、このmedicinaの特集ですが、どうしても気になったのは前立腺炎の項目。前立腺炎では移行性の良い抗菌薬を選択する必要がある、と書かれています。でも、”急性”前立腺炎は炎症が激しいので血液・前立腺関門が破壊され、移行性の良いものを選ぶ必要がなかったと自分は記憶しているのです。文献を調べてみると、ほとんどの抗菌薬は急性炎症を起こした前立腺に移行するという記載があります(Lipsky BA, et al. Treatment of bacterial prostatitis. Clin Infect Dis. 2010 Jun 15;50(12):1641-52.)。このことに本文で触れられていないのは残念。しかもこの文献は本項目でも参考文献で挙げられていたものなのですが。。。参考文献自体の本数も本文の参照番号と一致しないし。ここは「?」と思ってしまった(誤植というか編集段階で何か抜けてしまったの?)。

 後は、周術期の抗菌薬という項目があったので、出来れば”抜歯”の時の抗菌薬投与に強く触れても良かったのではないか、と考えています。対象が歯科医師になってしまうので読者層からはズレてしまいますが。なぜって、現在の歯科医療では抜歯の時にはほぼ全員に抗菌薬が処方され、かつ出される抗菌薬の種類も「いやはや…」だからなんです。前者について実は、抜歯の際の予防的抗菌薬投与は、感染性心内膜炎のハイリスク患者さん”のみ”に出されるべきだからなんです。そのハイリスクとは

心臓人工弁や人工物の入っている時
感染性心内膜炎の既往がある時
先天性心疾患でチアノーゼがある時、あるいは治癒していても人工物での治療6ヶ月未満、あるいは人工物の周囲に欠損が残っている時
弁膜疾患を伴う心移植患者さん
(Wilson W, et al. Prevention of infective endocarditis: guidelines from the American Heart Association: a guideline from the American Heart Association Rheumatic Fever, Endocarditis, and Kawasaki Disease Committee, Council on Cardiovascular Disease in the Young, and the Council on Clinical Cardiology, Council on Cardiovascular Surgery and Anesthesia, and the Quality of Care and Outcomes Research Interdisciplinary Working Group. Circulation. 2007 Oct 9;116(15):1736-54.)

 となっています。それ以外では”不要”なんです。AHAガイドラインも2007年に、そしてNICEガイドラインも2008年に”不要”へ変わりましたし、予防的投与をしてもしなくても感染性心内膜炎の発症頻度は変わりなかったということも明らかになっています(Thornhill MH, et al. Impact of the NICE guideline recommending cessation of antibiotic prophylaxis for prevention of infective endocarditis: before and after study. BMJ. 2011 May 3;342:d2392.)。

 そうであるにもかかわらず、抜歯の時は依然として患者さんは抗菌薬を渡されます。100歩譲って処方するのは目を瞑るにしても、出されるタイミングは抜歯”後”になってしまっています。本来なら抜歯の1時間くらい”前”に投与されるべきなのに。

 後者について、出される抗菌薬は判で押したように”フロモックス®”とか”メイアクト®”とかの第三世代セフェム(しかも用量少ない)。何というか開いた口が塞がらん。。。「何だよ、フロモックス100mg×3/dayで何とかなってるから良いじゃねーか」と思う人もいるかもしれませんが、フロモックスで何とかなっているのであれば、それは”抗菌薬なしでも何とかなっている”こととほぼ同義だと思いますよ。歯科処置で予防として出すべきなのはアモキシシリン2gを1回、しかも処置の1時間くらい”前”です。口腔内であればアモキシシリンで十分なのです。そういう悪しき習慣がまだまだ根強いので、今回の特集に入れて欲しかったなぁと思いました。

 今回の特集は、前半部分に”旨味”が出ていると思います。”座談会””肺炎球菌性肺炎””マイコプラズマ肺炎””気管支炎””急性咽頭・扁桃炎””細菌性髄膜炎”は目を通しておいても良いのではないでしょうか。新しい発見は少ないのでしょうけれども、「そうだよねぇ」と再確認できるような内容になっています。
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2016
07.04

腸間膜静脈硬化症と漢方薬

 腸間膜静脈硬化症(mesenteric phlebosclerosis)は結構レアな疾患。基本的な病態としてはその名の通り腸間膜静脈が硬化するのですが、この静脈の石灰化によって慢性的に血流が乏しくなって虚血を起こしてしまいます。

 原因は不明なのですが、漢方薬が関連していると言われているので、頻用する身として注意が必要でございますね。数年前にMRさんが情報提供をしてくれて、自分はそこで初めて知りました。その関連性を指摘した論文は前に存在していたので、本来なら自分で情報収集して知るべきではありましたが…。むむむ。

Hiramatsu K, et al. Mesenteric phlebosclerosis associated with long-term oral intake of geniposide, an ingredient of herbal medicine. Aliment Pharmacol Ther. 2012 Sep;36(6):575-86.

Guo F, et al. Idiopathic mesenteric phlebosclerosis associated with long-term use of medical liquor: two case reports and literature review. World J Gastroenterol. 2014 May 14;20(18):5561-6.

 この辺りの論文を参考にしてみましょう。

 先述のように結構レアな疾患で、1991年に最初に報告されました。2000年にphlebosclerotic colitisと名付けられましたが、炎症所見が見られないことから2003年にidiopathic mesenteric phlebosclerosisと呼ぶべきではないかと推奨されました。地域が限定されており、ほとんどが日本や中国などの東アジアなのです。中高年に多く、男女比はやや女性寄り。症状は腹痛(右側に多い)、嘔気嘔吐、下痢など。ただ無症状ということもあるそう。主たる病変部位は回盲部から横行結腸です。頻度で言えば盲腸では80%弱、上行結腸は100%、横行結腸では90%弱、下行結腸は30%弱、S状結腸は20%弱、直腸は5%弱なのだそう。

 原因は、患者さんのうち漢方薬を内服していたのが9割近くということもあり、この関連性が強く疑われています。だから地域限定の疾患なのですね、たぶん(漢方を使う東アジア)。漢方薬では特に加味逍遥散と黄連解毒湯が多く、辛夷清肺湯、茵蔯蒿湯、加味帰脾湯などがそれに続きます。それらに共通する生薬が”山梔子(クチナシの実)”なのです…!

 山梔子の成分であるゲニポシドが腸内細菌で加水分解されて、ゲニピンが出来上がります。これが大腸から吸収されて腸間膜静脈に入るのですが、そこで色々と反応を起こして青色の色素をつくり出し、かつ静脈に石灰化をもたらします。なるほど。しかしそこまで行くにはかなりの年数が必要なようで、多くの患者さんが10年以上の服用をしています。最短で4年くらい? 休薬すると多くは改善するみたいでして、疑ったらまずお薬をストップするのは王道でございます。ただ、それでも改善しない場合は手術も要するとのこと。良く分からない慢性腹痛で漢方薬内服の病歴が取れたら、チラッと想起してみましょう。

 画像的には、ゲニポシドの人生を反映してCTで石灰化が確認できますし、大腸内視鏡では青~紫の色素沈着が見られます。結構特徴的な所見なので、知っていれば一発診断できるかも(下図参照)。大腸から吸収されるモノが原因なので、回盲部から横行結腸に多いのは頷けます(そこでゲニピンが多く吸収され、下行結腸まで行くとゲニピンが少ししか無い)。

腸間膜静脈硬化症CT
(World J Gastroenterol. 2014 May 14;20(18):5561-6.より)

 この疾患は中高年に多くてやや女性寄り、と言いました。これはですね、あくまで自分の憶測ですが、加味逍遥散が中年女性に用いられやすい、ということがあるかと思います。それを年単位で服用すると、発症は中高年。もちろん年をとって動脈硬化が進んで血流が悪くなりがちだというのもあるでしょうけど。後は加味帰脾湯も女性に良く用いられますね。茵蔯蒿湯と黄連解毒湯は男性に用いることが多いでしょう。”やや”女性寄りということは男性にもまぁまぁ多いことでもあります。それはやはりこれら、特に黄連解毒湯や茵蔯蒿湯が男性患者さんの数を引き上げているように感じます。あくまで自分の考えですが。あとは漢方って言うと女性のほうが食いつきが若干良い印象(これは偏見?)。

 少し漢方の話をすると、加味逍遥散や加味帰脾湯などのいわゆる”加味方”は本来なら一時的な使用が良いと思います。

加味逍遥散=逍遥散+[山梔子、牡丹皮]
加味帰脾湯=帰脾湯+[柴胡、山梔子]

 であり、加味された牡丹皮や柴胡や山梔子は”肝鬱化火”を鎮めます。イライラ、怒りっぽい、などですね。加味方を用いてそれが良くなったら、それらを抜いた逍遥散や帰脾湯を使っていくのがスマートなやり方だと思います(清熱がなされたらそれ以上熱を抑える必要が無いので)。ただ、ここが日本漢方の残念なところで、何と医者の処方する医療用エキス製剤には逍遥散が無いのでした…。仕方ないから、使うなら四逆散と当帰芍薬散を合わせるかなぁ。帰脾湯はあるんですけどね。あと、黄連解毒湯もそんなに長期連用するかな…?

 この疾患、もちろん漢方薬を内服していない人にも発症しうるのですが、その際の原因は色々言われているものの不明。しかし、健康食品が個人的に怪しいと踏んでおります。ゲニポシドで考えてみると、生薬では杜仲がありますね。よって、”杜仲茶”は長年飲んでいたらひょっとするかもしれません。健康食品を売っている会社はゲニポシドの有効成分を謳って杜仲茶を推しているところが多いので、そこは注意した方が良さそうです。他には、生薬の山梔子が”クチナシ”の果実ということを踏まえて、”クチナシ茶”を飲んでいる場合とか。後はサプリだと例えばDHCの”ルテイン”とか”速攻ブルーベリー”とかにはクチナシエキスが含まれていますね。しかし、生薬の量がサプリよりも多い医療用漢方薬ですら発症には年単位の服用を要するので、ちょっと飲むくらいなら問題はないでしょう。杜仲茶然り、クチナシ茶然り。何事もホドホドが一番ということで。

 ちなみに、クチナシの花言葉は”喜びを運ぶ”だそうです。もうね、運ぶものが違いますよと言いたい。ゲニピンなんて運んじゃあかんで。
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2016
07.02

サンリオキャラクター大賞!

 今日は2016年サンリオキャラクター大賞の発表がありました!

 自分は”ぐでたま”先生にせっせと投票してまして。去年は4位だったんですよねー(ポムポムプリンが1位でシナモロールが3位)。さてさて、今年は…!?

 ぐでたま先生自身は順位をまったく気にしてないんですけど、やっぱりファンとしてはね。ということで、生放送を見てみました。もうね、仕事どころではない。結果、、、、、、、、、




4位!




 中間発表で5位でございましたが、そこから1つ順位を上げました! キティちゃん(5位)をおさえて堂々の順位ですよ、うんうん。TOP3はマイメロディが3位、2位がシナモロール、1位がポムポムプリン。ポムポムプリンつえーな、2連覇かよ。うーむ、この牙城は切り崩せないか。4位と3位にも10万票近く差があるなぁ。ぐでたま先生にはできれば表彰台に上がって欲しかった。そしてその上でぐでっとして欲しかった。。。

 しかし、よく頑張った! いや、頑張ってないのか?

 そんなぐでたま先生には、ぐでぐでしながら長寿キャラになってほしいなぁと祈っております。
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