2015
02.26

統合失調症のメカニズム(仮説)と抗精神病薬の考え方

 今日は、統合失調症のグルタミン酸仮説と、治療に用いられる抗精神病薬の分類である”定型”と”非定型”というものを考えてみます。

 まず、統合失調症という病気は脳内ドパミンのアンバランスで生じているという”仮説”があります。脳内のドパミン経路には4つあり、特に”中脳辺縁系”のドパミン過剰と”中脳皮質系”のドパミン過少というアンバランスが、統合失調症の症状にすべてではないにせよ関与しているとされています。中脳辺縁系のドパミン過剰で幻覚や妄想といった陽性症状が生じ、中脳皮質系のドパミン過少で感情鈍麻や意欲低下などの陰性症状、認知機能障害が生じると理解しておきましょう。他にもグルタミン酸神経伝達の異常やニコチン性アセチルコリン受容体の異常やミクログリア活性化と慢性炎症なども関与しているらしく、特にグルタミン酸受容体の機能不全によって、結果的にドパミンのアンバランスが産まれているのではないか、と言われます。これを”グルタミン酸仮説”と言いまして、以下のイラストを見てみましょう。

統合失調症仮説

 皮質にある抑制性のGABAニューロンですが、このグルタミン酸受容体が異常をきたしており、このニューロンが働きにくくなっています。すると次につながるニューロンを抑制することができなくなってしまい、興奮の強いまま脳幹にシグナルが伝達されます。このシグナルは、側坐核に向かう道と、前頭前野に向かう道の二手に分かれます。側坐核に向かうドパミンニューロンは抑制性のGABAニューロンを介さないため、強いシグナルがそのままどかんとやってきて、ドパミンをたくさん放出します。これが幻覚妄想へつながります。対して前頭前野に向かうドパミンニューロンは抑制性のGABAニューロンを介します。このGABAニューロンは機能しており、強いシグナルがやってくることで次につながるニューロンへの”抑制”を強めます。すると前頭前野に向かうドパミンニューロンにはブレーキがかかりすぎてしまい、ドパミンが放出されにくくなります。これが社会性の低下や認知機能の低下に結びつきます。

 現在の抗精神病薬は専らドパミンを標的としているんですが、これは最下流を何とか調整しようとしていることになります。上流であるグルタミン酸受容体へのお薬も研究が進んでいますが、残念ながら理論通りには行かず、なかなか成功していないのが事実。統合失調症は単一疾患ではなく異質性の高い症候群ということもあるでしょうが、特に慢性期の統合失調症においてはこのグルタミン酸受容体の機能不全がどこか別の部位で補償されている可能性があり、それがグルタミン酸への治療介入を難しくしているかもしれません。慢性炎症についての視点はまた別の記事(→コチラ)をご覧ください。

 ここからは、抗精神病薬の開発をたどって、現在の非定型抗精神病薬の立ち位置を再考してみましょう。

 世界で最初の抗精神病薬は、1950年に抗ヒスタミン薬として開発されたクロルプロマジン(コントミン®/ウィンタミン®)です。その後、中脳辺縁系のドパミンD2受容体阻害が統合失調症の陽性症状に効果があることが分かり、これを主目的としてハロペリドール(セレネース®/リントン®)など様々な薬剤がつくられました。しかし、この作用に特化したことで脳の至る処のドパミンD2受容体を攻撃したため、錐体外路症状や意欲低下という副作用を強めることになってしまいました。

 その中で登場したクロザピン(クロザリル®)は錐体外路症状が少なく陰性症状や認知機能障害も改善させたことから、非定型抗精神病薬と呼ばれるようになりました。ただし、重篤な副作用として無顆粒球症を生じることから、クロザピンの持つセロトニン5-HT2A受容体阻害作用に注目して同等の効果を持ちかつ安全に使用できる非定型の開発が進められ、結果としてオランザピン(ジプレキサ®)やクエチアピン(セロクエル®)がつくられました。この流れはドパミンD2受容体への親和性はそれほど高くなく、かつセロトニン5-HT2A受容体をはじめ多くの受容体に結合することが特徴です。他には、ハロペリドールと同系統のピパンペロン(プロピタン®)も錐体外路症状が少なくセロトニン5-HT2A受容体阻害作用を持つことが判明し、それをヒントにつくられた非定型がリスペリドン(リスパダール®)です。このように、非定型はセロトニン5-HT2A受容体阻害作用を強く持ち、定型よりも錐体外路症状が出にくく陰性症状や認知機能低下の改善も優れているという認識が一般的になりました。

 しかし、果たして本当にそうなのか? と言われるようになっています。非定型を販売している製薬会社が論拠とする定型との比較試験は、非定型に有利なように組まれていることが多いんです。対象としての定型はハロペリドールというドパミンD2受容体阻害作用の強いものがよく選ばれており、更に投与量が多く設定されています。これでは錐体外路症状や意欲低下や認知機能低下が出現しやすく、相対的に非定型の優位性が出て当然。更に、定型の時代はドパミンD2受容体を根絶やしにするような治療が行なわれ投与量が多く、適切な用量設定がなされていませんでした。こういったことを鑑みると、非定型が優れているという前提に疑問が湧いてきます。最近の複数のメタアナリシスでは、有効性において定型と非定型との間に大きな差はなく、定型は錐体外路症状がやや多く、非定型は代謝系の副作用がやや多いという結果になっています。これを考えると、定型でも用量に注意し使用すれば非定型といい勝負が出来るでしょう。

 とは言えどれも横並びで同等というわけではなく、クロザピンは治療抵抗性統合失調症への切り札として存在しています(モノアミン系以外への作用も想定されています)。ただし副作用のため使用できる施設が限られているというのがネックでして、日本の多くの施設で使用できるものではオランザピンが有効性において頭ひとつ出ているとされます。複数の非定型と定型のペルフェナジン(ピーゼットシー®)とを比較したCATIE試験がありますが、有効性はどれも同じでしたがオランザピンのみが有意に優れていました。試験の組み方に問題がないわけではなかったのですが、他のメタアナリシスも同様の結果になっています。しかし、これを以てオランザピンが純粋に優れているとは言えないでしょう。なぜならそれは、抗精神病薬の切り替えの際に“リバウンド症状”が生じるからです。以前の記事にも出しましたが、以下の図をご参照。

リバウンド

 この図では、それぞれの受容体を占拠した際の効果、そしてリバウンドによる症状も提示されています。オランザピンは示されている受容体の中ではセロトニン5-HT1A受容体を除いてすべてに作用し、カバーが非常に広いというのがポイント。例えば抗コリン作用を持つものから持たないものへいきなりスイッチングするとコリンリバウンドが生じ焦燥や混乱や不眠などをもたらすため、それを症状の悪化ととらえてしまうかもしれません。更に、長期にわたる抗精神病薬使用によって受容体を阻害し続けると受容体のアップレギュレーションが生じ、減量や切り替えでリバウンドも起こりやすくなると想定されています。オランザピンは実に多くの受容体を占拠しますが、言い換えればオランザピンから他剤への切り替えの際にはリバウンド症状が出やすく、他剤からオランザピンへの切り替えではその症状が出にくいんです。リバウンド症状を精神症状の悪化と判断してしまうと、オランザピンが統合失調症治療において優れているという結果になってしまいますね。

 ここでもう1つ図を示してみます。

CATIE PANSS

 これは前述のCATIE試験のものですが、前薬からの切り替え後の症状変化をプロットしていまして、最初の4週間は移行期間として切り替え前後の両薬剤の併用が認められています。オレンジの枠で括ったところを見てもらうと分かるように、オランザピンのみが一貫して症状の改善を示している一方で、他の抗精神病薬では切り替え完了後にいったん悪化している点。そして6ヶ月前後から改善を示すというパターンをとっています。これは純粋な症状悪化ではなく、リバウンドによる症状が含まれていると考えられるでしょう。オランザピンはその広汎な受容体カバーと適度なドパミンD2受容体への親和性から、強いリバウンドなく症状改善に向かったと言えます。オランザピンに限らず、抗精神病薬を変更する際は作用する受容体を考慮して、リバウンドが出ないよう慎重に調節しなければいけません。

 また、抗精神病薬の投与量も適切な量にすることで、統合失調症患者さんの死亡率が最も低くなるようです。慢性期の患者さんの全死亡率で最も高いのが抗精神病薬を内服していない群で、次に高用量内服群、低用量内服群と続き、最も低いのが中等用量内服群であることが示唆されています。初回エピソードでは内服していない群が抜きんでて死亡率が高かく、心血管疾患と悪性腫瘍による死亡は、内服していない群と高用量内服群で高かったとされました。呼吸器疾患による死亡は、内服していない群で最も低く、高用量内服群で最も高くなりました。自殺率はほぼ横一線。なお、抗精神病薬別では、クロザピンが最も死亡リスクを下げるとする研究もあります。抗精神病薬は高用量になると錐体外路症状が出現しますから、それを抑えるために抗コリン薬を使うこともあります。しかし、高用量と抗コリン薬の漫然とした使用の両者は認知機能低下をもたらすことになってしまいます。高用量で副作用が出現したら、適切な量まで慎重に減量することが最も正しい行為でしょう。

 ということで、抗精神病薬は“使い方”が重要になってきます。確かに非定型抗精神病薬は経験の少ない精神科医でもある程度うまく使うことができます。添付文書でも上限がしっかりと定められ、臨床試験も進んでおり急性期や安定期にどのくらいの用量を投与すれば良いかが把握しやすくなっています。ドパミンD2受容体のみを狙うのではなく、多くの受容体に作用することがハンドルで言う“アソビ”をもたらし、錐体外路症状が出にくく使いやすさを産むと言っていいかもしれません。ハロペリドールなどドパミンD2受容体への親和性が強く他の受容体をあまり考慮しないものは、細やかな用量調節が難しくなっています。製薬会社もわざわざ旧来の安い薬剤を調べ直す気にはならないですよね。しかし、様々な受容体に関わることは代謝系への副作用を強くすることを忘れてはいけません。耐糖能悪化、脂質異常、体重増加などが生じ、心血管イベントのリスクになります。その好例がオランザピンでありクエチアピンです。非定型のアリピプラゾール(エビリファイ®)はこういったリスクが少ないものの、ドパミンD2受容体パーシャルアゴニストという特性から、ドパミンD2受容体のアップレギュレーションが生じている場合は投与量を多くしても期待される薬剤効果が十分に出ないことも多いです。

 最後に、“定型”と“非定型”というラベリングにも注意が必要。この分節化で抗精神病薬の世界は理解しやすくなったかもしれませんが、それは本質ではありません。定型は第一世代、非定型は第二世代とも呼ばれますが、そのネーミングも実に恣意的です。定型の中でもクロルプロマジンやピパンペロンやクロカプラミン(クロフェクトン®)などは様々な受容体に結合するため、非定型に近いとも言えるでしょう。非定型の中でもリスペリドンは錐体外路症状や高プロラクチン血症を起こしやすく、定型に近い印象です。よって、“定型・非定型”と抗精神病薬を2つに分節するのではなく、混沌の中から個々の薬剤のプロフィールを今一度調べ、その性格に配慮した選択をすべき。特に自分はピパンペロンやモサプラミン(クレミン®)といった定型を使うことも多いです。



[参考文献]
1) Elert E. et al. Aetiology: Searching for schizophrenia's roots. Nature. 2014 Apr 3;508(7494):S2-3.
2) Anticevic A, et al. N-methyl-d-aspartate receptor antagonist effects on prefrontal cortical connectivity better model early than chronic schizophrenia. Biol Psychiatry. 2015 Mar 15;77(6):569-80.
3) Samara MT, Cao H, Helfer B, et al. Chlorpromazine versus every other antipsychotic for schizophrenia: a systematic review and meta-analysis challenging the dogma of equal efficacy of antipsychotic drugs. Eur Neuropsychopharmacol. 2014 Jul;24(7):1046-55.
4) Leucht S, Cipriani A, Spineli L, et al. Comparative efficacy and tolerability of 15 antipsychotic drugs in schizophrenia: a multiple-treatments meta-analysis. Lancet. 2013 Sep 14;382(9896):951-62.
5) Lieberman JA, Stroup TS, McEvoy JP, et al. Effectiveness of antipsychotic drugs in patients with chronic schizophrenia. N Engl J Med. 2005 Sep 22;353(12):1209-23.
6) Correll CU. Antipsychotic use in children and adolescents: minimizing adverse effects to maximize outcomes. J Am Acad Child Adolesc Psychiatry. 2008 Jan;47(1):9-20.
7) Torniainen M, et al. Antipsychotic Treatment and Mortality in Schizophrenia. Schizophr Bull. 2014 Nov 24. pii: sbu164. [Epub ahead of print]
8) Tiihonen J, et al. 11-year follow-up of mortality in patients with schizophrenia: a population-based cohort study (FIN11 study). Lancet. 2009 Aug 22;374(9690):620-7.
Comment:0  Trackback:0
2015
02.24

落ちてくる凶器

 ある晴れた冬の日、街路樹を見上げてみました。

RIMG1106.jpg

 おや? 何か実がなっております。

RIMG1104.jpg

 クリ? いや、この時期にクリはないですよね。しかもぶらさがってる感じでございますよ。

RIMG1099.jpg

 足元に眼を落とすと…。たくさん転がっています。

RIMG1105.jpg

 なんやコレ!

RIMG1101.jpg

 めっちゃイガイガしてますよ、トゲトゲしてますよ。でも何だかカッコイイですよ。

RIMG1103.jpg

 調べてみたら、”モミジバフウ”というアメリカ原産の木の果実らしいです。街路樹にもよく利用される木なんですって。へー。何だかウルトラ怪獣の”ブルトン”を更にゴツくさせたような感じ。

 この実、かなり硬くてですね、かつこんなにとんがってますでしょ。木から降ってきたら大変。結構痛いと思います。街路樹にあるっていうのが、何だか歩いている時も油断するなかれというメッセージに見えなくもない。
Comment:2  Trackback:0
2015
02.21

臨床のワンフレーズ(8):どちらを選んでも後悔する

Category: ★精神科生活
 うつ病患者さんで、そろそろ復職の段階になると就労中の恐怖感が蘇ってきて足がすくんでしまって頓挫するということを繰り返しているかたがいました。職場のことを”戦場”とも形容しており、その恐怖の強さがうかがえます。

 恐怖突入ができるかどうか。患者さんは言います。「あの職場に戻ることを考えると…。辞めて人生をリセットして、もう一度仕事を考えるのもありかなと思ってます」と。

 そこで長い間立ち止まって悩んでいる患者さんを複数経験します。よほど会社ではつらい経験をしてきたんでしょう。無責任に「戻ってみてダメならまたその時考えれば良いんじゃないですか」とはこちらも言えない雰囲気でもあります。もしダメだったら、患者さんの自尊心はボロボロになっているでしょう。そうなった場合、再び立ち上がれるか…。さて、どの様に対応したら良いんでしょう。

 正解かどうかは分かりませんが、自分は患者さんが悩むことを肯定します。ただし、いずれの選択肢をとっても後悔はするだろうということは絶対にお伝えしています。その上で、じっくり悩むこと。

自分「復職するかどうか、したらしたであの時の様なつらさが待ってるんですね」
患者さん「はい…。あの記憶を思うとまたあそこに戻るのか…て。でもこれで辞めてしまっても良いのか。逃げることにならないのか…」
自分「戻るのもつらい。でも辞めたら逃げることになるかもしれない」
患者さん「はい…」
自分「そうですね…。恐らく、どっちを選んでも後悔は付いて回ると思います」
患者さん「…」
自分「仕事に戻ったら、職場の苦しさで、あの時に辞めていれば、と。辞めたら、あの時逃げていなければ、と思うんじゃないでしょうか」
患者さん「…はい。そう、だと思います…」
自分「どっちを選んでも後悔する。だからこそ、たくさん悩んでみるのが良いんじゃないかなと思います」
患者さん「…」
自分「悩んで悩んで、そして納得のいくような後悔をしてください。その後悔を受け止めることができるように、じっくり悩んでください」
患者さん「…はい」
自分「だから、今の○○さんで良いんだと思います。間違ってません。大事なことですから、悩むのは自然ですし、○○さんは悩む力を持っています。悩みぬくことで見えてくることもあるかと思いますし、今がその時かもしれません」
患者さん「はい。ありがとうございます」
自分「でもどこかで、悩んでいるあなたを冷静に見つめる視点も持ってあげてください。悩みの中に入り切るんじゃなくて、どこかで悩む自分を見ていてください」
患者さん「はい」
自分「その上での決断であれば、それは大切な結果だと私は思います」

 「いずれにしても後悔はするでしょう」と伝えることは、患者さんにとってかなりの意外性を産みます。そして、その上で悩むことを肯定して納得の行く後悔をするようにとお話しする。そうすると、どうしようかとふわふわしていた患者さんの雰囲気がどっしりと腰を据えるような、真摯に悩むような、そんな感じを受けます。なかなか言葉にしづらいですが…。患者さんからも「どっちにしても後悔するって先生に言われて、自分で後悔を受け止められるようにたくさん考えるようになりました。それまではどうしようどうしようと思ってました」と振り返りを受けることが多いです。ただ、悩むことは本当に苦しく長いものなので、診察の度にそこへの配慮を忘れずに行ないましょう。

 治療者は決して指南役ではない、というスタンスを自分は持っています。患者さんの人生を決めるような立場であるという認識は、とてもおこがましい考え方だと思います(しかも若造の自分が)。出来ることは悩む患者さんの姿を、せいぜい診察室で肯定的にまなざすこと。もちろん、病状に圧倒されて冷静な判断ができない時は違いまして、治療者として代わりに出ることもあります。でも人生の深い悩みは、患者さん自身が考えて決めるもの。治療者はその行く末をハラハラドキドキしながらも、松葉杖として地面を突いて支えることくらいしかできないのかもしれませんね。
Comment:6  Trackback:0
2015
02.18

進む時間、廻る時間

Category: ★精神科生活
 自分の患者さんではありませんが、昔に流行した服装をしている患者さんを外来で眼にすることがありました。

 看護師さんに何の気なしに話してみると

自分「あの患者さん、数十年前に流行ったような感じの服装ですね、なんか」
看護師さん「あの人ね、昔はすごく綺麗で。でもその時に発症しちゃってね。格好もその時のままで」

 という返答。

自分「あの人の時間は止まっちゃったのかしら…」
看護師さん「そうかもしれないですね…」

 患者さん自身の世界は変化をやめ、いつまでもあの時の綺麗なままなんでしょうか。それとも、老いていきかつ病者である自分を否定せんがために、健康で若かった頃の服装でいるんでしょうか。

自分「なんか、悲しいですね」
看護師さん「そうですね」

 こちらとしてはその時何か不憫な気持ちにもなったんですが、ひょっとすると体験する時が進まないというのは残酷さを和らげてくれる可能性も。悲しいことだけれども、そのままでも良いのかもしれません。可愛そうだと一方的に思うのはこちらのエゴであるのは否定できません。この患者さんに限らず、統合失調症で陰性症状が主体の患者さんの中には、服装も大して変わらず住み慣れた家のかつ自身の定位置でずっと暮らしているかたもいます。診察もいつも同じ感じで過ぎて行きます。お薬を減らしたり変えたりすることもあまり好みません。

 そういうのを眼にするにつけ、彼らはどんな時間を生きているんだろうかと思うことがあります。私たちは直線時間を生き急いでいますが、彼らは円環時間に佇んでいるのかもしれません。

 いつも変わらない、昔と変わらない。そんな彼らに、あわただしく過ごしゆとりをなくしがちな自分はどこか安心して頼っている感じもあります。でも、彼らはその生活を望んでいるものなのか、時間の流れで自身が変わることを恐れているのか、時の変化に恐怖を感じ自らは変わらないことでこころの安定を保とうとしているのか、ともちらりと思います。

 実際の診察では、そっとそのままにという以外は大きなことをしていません。動かない時の中を好むのであれば、診察者もまたその一部になろうか、という気持ち。ひょっとしたら、何か変化の時期が患者さんの中で来るかもしれないし、こないかもしれない。患者さんの中で良い意味での変化が生まれそうな時は、そっとデイケアや何かしらの変容を勧める。そのために診察はいつもと変えずにいて、患者さんの方の変化を察知しやすいように整えています。

 もちろん、お薬の量が多い時は説明をして減らすことを勧めてはいます(社会性の低下や認知機能低下に拍車がかかるので)。でも頑なに頚を横に振る患者さんも多く、その際は深追いせずにいったん退いて「医者はこんな感じで思ってるんで、ほんの少しで良いので考えてみてくださいね」とお伝えしています。
Comment:7  Trackback:0
2015
02.14

そういえば

Category: ★本のお話
 医師国家試験が終わっていたんですね。受験生のみなさん、本当にお疲れさまでした。人生最後(?)のモラトリアムを堪能しておりますでしょうか。

 自分は大学生活では”ぼっち”だったため、卒業旅行などにも行かずに自宅で寝て過ごしていました。社会性の無さがその時点から輝いていたんですねぇ…。することがなかったため、何と研修に備えて勉強をしていたんですよ。昔は真面目でした。今はちょっと疲れてしまってピットインをすることになりましたが。。。

 さて、研修を既に終えている身として研修医になるまでの間にざくっと学んでほしいことは、最低限のTOP 3として

・診断学
・感染症
・輸液


 です。研修医の日々の臨床は、学生の時とはやっぱり異なります。診断をどうやって組み立てるか、どの科でも出会う感染症の診断と治療はどう行なうか、学生の時はほとんど勉強しない輸液をどうするか。この辺りをちょいちょいとおさえておくと、初期研修もスムーズに始めることができると思います。特に感染症を勉強することは、論理的に診断し正しい治療をするということを学ぶ機会にもなります。あと、この3項目って研修中にしっかり教えてくれる先生が少ないのが事実。自分でやらねばならない研修病院も多いでしょう。だからさっさと大枠を掴んでおくと楽。

 診断学では、もうすっかり有名になった野口善令先生のこの本。

誰も教えてくれなかった診断学―患者の言葉から診断仮説をどう作るか誰も教えてくれなかった診断学―患者の言葉から診断仮説をどう作るか
(2008/04/01)
野口 善令、福原 俊一 他

商品詳細を見る

 2008年の本なのでだいぶ昔になってしまいましたが、名著色褪せず。これで診断の基本を学んでみましょう。

 感染症ですが、抗菌薬において読みやすさと新しさでは矢野邦夫先生の書かれた本がベスト(2015年2月下旬に続編の『もっとねころんで読める抗菌薬』が出ます)。

ねころんで読める抗菌薬: やさしい抗菌薬入門書ねころんで読める抗菌薬: やさしい抗菌薬入門書
(2014/07/24)
矢野 邦夫

商品詳細を見る

 本当に寝っ転がりながら読めるという、書名に偽りのない素晴らしい入門書。矢野晴美先生の『絶対わかる抗菌薬はじめの一歩』も薄くてまとまっていて頭に入りやすいですし、ロングセラー。2010年ということで、改訂してほしいなという気持ちがちょっとありますが。もちろん岩田健太郎先生の『考え方、使い方』でもO.K.ですよ(ちょっと新しいし)。

 感染症診療そのものの骨格は大曲貴夫先生のこれを。

感染症診療のロジック感染症診療のロジック
(2010/04/01)
大曲 貴夫

商品詳細を見る

 硬派。青木先生の『マニュアル』の総論部分を丁寧に解説している様な感じ。これを読むと診断学そのものの力もアップ! 自分は研修医にしつこいくらい勧めています。必読と言って良いくらい。

 輸液は柴垣先生の薄い本を。これで最低限をカバーしてから他の本に進むべし。

輸液のキホン輸液のキホン
(2010/03)
柴垣 有吾

商品詳細を見る

 ちょっと昔の本になりかけてますが、超薄いっていうのがポイント。とはいえ、最近はスターリングの法則がもう古くなったと言われ、血管内皮のglycocalyxへの注目がなされ、そして敗血症へのEGDTもちょっとどうかなぁと言われておりますよ。だいぶこの本が出た時と状況が変わりましたね。でも原則は不変ということで。

 ちなみに、こちらの本は初期研修のスターターキット的なものを狙っています(診断・感染症・輸液・栄養・エコーをまとめています)。

こうすればうまくいく! 臨床研修はじめの一歩こうすればうまくいく! 臨床研修はじめの一歩
(2013/04)


商品詳細を見る

 研修の始まる前、1年次が終わる時、2年次が終わる時、それぞれで読んでみると自身の成長ぶりが分かるような感じでつくられており、『はじめの一歩』というタイトルですが到達目標としての『まとめの一歩』という意識もあります。ちょろっと宣伝。

 最後の1冊は蛇足でしたが、こういった本を読んである程度は実践に備えておきましょう。実践を重視し机上の勉強を”頭でっかち”とマイナスイメージで語ることが多いかもしれませんが、最初は頭でっかちになっちゃいましょう。そこから経験を積んで身体も大きくしていけば良いんです。一番ダメダメなのが、頭でっかちを悪く言っておいて、自分は勉強も少ないというもの。頭も身体も小さい状態で臨床を行なうと、患者さんにとって害になりますよ。勉強は大事。

 あ、コモンディジーズへのエビデンスに基づいた的確な診療、そしてエビデンスの使い方というのもざざっと知っておくと良いかも。それには谷口先生の本を。

内科診療 ストロング・エビデンス内科診療 ストロング・エビデンス
(2013/12/16)
谷口 俊文

商品詳細を見る

 この本って、ぶっちゃけるとフツーの事が書いてあるんです。ちょっと調べて勉強する癖が身に付いていると、ここに書かれてあることは「ま、そーですよね」という内容。でも実際の臨床ではこういったエビデンスに基づかない(製薬会社に踊らされた)治療がはびこっています。ACE阻害薬ではなくARBが頻用されている、メトホルミンをしっかり使わない、などという残念な治療が実に多いです。こういった不勉強な医者にならないためにも、読んでみることをお勧めします。認知症の項目は、精神科医からすると「うーん」と思うところもありますが。3つあるコリンエステラーゼ阻害薬はエビデンス的には同一なので好きなのを選べ、とかはちょっと…。

 こういう勉強も必要不可欠ですが、他に、医者という職業についてしっかり考えてほしい、と思います。医者になるにはいろんな理由があるでしょう。お金を稼ぎたいからとか親の後を継ぐからとか安定した職業だからとか、そんな現実的な理由でも全く構わないです。でも患者さんからすると、私たちはひとしく”医者”です。研修医だって、研修”医”です。学生のうちは学ぶだけで良いのですが、研修医ともなると”医者”としての判断、そして行動が求められます。自分の考えが患者さんの人生に揺らぎを与えかねない、そんな立場にいるのが医者。ですから、しっかり勉強してほしい、そう思います。医者であることに、矜持と責任を持ってください。原点、というワケではありませんが、そういう意識を持つためにこういった本たちを折に触れて読んでみると良いですよ。

医者が心をひらくとき-A Piece of My Mind (上)医者が心をひらくとき-A Piece of My Mind (上)
(2002/09)
ロクサーヌ・K.ヤング

商品詳細を見る

医者が心をひらくとき-A Piece of My Mind (下)医者が心をひらくとき-A Piece of My Mind (下)
(2002/09)
ロクサーヌ・K.ヤング

商品詳細を見る

医師は最善を尽くしているか―― 医療現場の常識を変えた11のエピソード医師は最善を尽くしているか―― 医療現場の常識を変えた11のエピソード
(2013/07/20)
アトゥール・ガワンデ

商品詳細を見る
決められない患者たち決められない患者たち
(2013/04/05)
Jerome Groopman MD、Pamela Hartzband MD 他

商品詳細を見る

 研修の始まる前や、ちょっと研修に疲れた時、何かを見失ったと感じた時に読み返してみてくださいまし。この4冊は医療関係者以外の方々が読んでみても、興味を魅かれるところがあるかと思います。

 医者というのは、人の生きる道の支え手になれる職業です。でも、あくまで支え手でしかないという意識も必要な職業です。限界と成長を繰り返し、本当に色んな事を学ぶことでしょう。これから研修医になる人たちや研修を行なっている最中の人たちは、立ち止まり、迷い、またちょっと回り道をすることもあると思います。でも、それらをした分、多くの景色を眺めていることにもなりますよ。一本道をスムーズに歩かないからこそ見えてくる景色、これを大事にしてください。それは医者としての土壌を豊かにしてくれるものだと思います。
Comment:4  Trackback:0
2015
02.11

マスク、しますか?

Category: ★精神科生活
 精神科は他の科と違うところがあるので、今回の記事は精神科限定とお考えください。。。

----------

 インフルエンザの流行もあり、最近は病院の方針で医療者が全員マスクをするように言われています。外来でも病棟でも、全員マスク。

 感染ということを考えると確かに致し方ないところもあるんでしょうけど、患者さんを診察する身としては、マスクをすることにかなり抵抗があります。

 マスクは表情を隠し、人が何を思っているのか分からなくさせる作用があります。それは、精神科の診察でほんの少しでしょうけど、影響を与える気がしないでもありません。患者さんがマスクをするのを否定しているわけではないですが、医療者がマスクをすると表情を見えなくしてしまい、患者さんとの薄い壁を作ってしまっている感覚があります。精神科では、大凡のことは人と人との”あいだ”に生起すると自分は考えています。というか”人”というのも”あいだ”によって成り立つんでしょうね。人間(にんげん)は人間(じんかん)でもあります。そんな”あいだ”に、マスクはノイズを与えそうな印象。

 病棟でも、これまでずっとマスクなんてしてなかった看護師さんが全員している光景を慢性期の患者さん側から見ると「何か起こるのではないか」という不安や、表情の見えない不安も与えてしまうかもしれません。

 精神科の診察は、言語でのやりとりもそうですが、非言語的なやりとりもとても大切。表情は言葉に意味を乗せて患者さんに伝える大切なものだと思っています。言葉だけでなく、医者はすべて(診察室の雰囲気)を活かして診察をします。マスクはその妨げになっていると思ってしまうんです。気にし過ぎかなぁ。

 ということで、自分はマスクしてないんですよね…。今のところ怒られてないから大丈夫でしょう、たぶん。熟練の精神科医であればマスク1つで揺れることはないんでしょうけど、自分はまだまだなので、少しでも不利に働きそうなものはなくしていきたい、と考えています。
Comment:20  Trackback:0
2015
02.09

足して引いて…

Category: ★精神科生活
 自分が勤めている病院は認知症の患者さんを受け入れていまして、他院から紹介患者さんがやってまいります。

 その中で、たまに「こりゃ何をしたいんだ?」と思う処方を見ることがあります。代表的なものが

・ドネペジル(アリセプト®)
・リスペリドン(リスパダール®)
・ビペリデン(アキネトン®)

 の組み合わせ。

 ドネペジルはコリンエステラーゼ阻害剤でして、アセチルコリンを分解するコリンエステラーゼを邪魔するというのが作用。アルツハイマー型やレビー小体型などの認知症ではアセチルコリンが足りないんじゃないかという”仮説”があるため、アセチルコリンが減らないようにするというのがこのお薬の目的。副作用は徐脈や興奮や錐体外路症状などなど。この興奮を副作用と思わずに認知症の症状悪化と勘違いするとお薬の治療が混沌としてしまいます。

 リスペリドンは抗精神病薬で、D2受容体阻害作用と5-HT2A受容体阻害作用をメインに持ちます。非定型抗精神病薬というグループですが、錐体外路症状や高プロラクチン血症を起こしやすく感覚的には定型抗精神病薬にかなり近いと考えています。用量が多いと前頭前野のD2受容体阻害によって認知機能低下や意欲低下なども来たします。自分は認知症患者さんにリスペリドンを使うことがほとんどありません。

 ビペリデンは抗精神病薬による錐体外路症状を抑える目的で使われる抗コリン薬というもの。抗精神病薬による錐体外路症状はD2受容体阻害作用が原因。線条体でのアセチルコリンとドパミンのバランスが乱れて、相対的にアセチルコリン>ドパミンになります。パーキンソン病と同じ状況を医原的に作り出しているとも言えますね。この一見多く感じるアセチルコリンを抑えることでバランスを取り戻そうというのが抗コリン薬の狙い。ただ、長期的な使用は認知機能低下を招きますし、減量することで認知機能改善もします(Gray SL, et al. Cumulative Use of Strong Anticholinergics and Incident Dementia: A Prospective Cohort Study. JAMA Intern Med. 2015 Jan 26. [Epub ahead of print] Desmarais JE, et al. Effects of discontinuing anticholinergic treatment on movement disorders, cognition and psychopathology in patients with schizophrenia. Ther Adv Psychopharmacol. 2014 Dec;4(6):257-67. など)。

 総じて、副作用は「副作用だ」と気づくことで副作用として立ち現れます。これ重要と個人的に思っていたり。

 でもって、この3つのお薬の使い方で「あれ?」と思いませんか?


コリンエステラーゼ阻害剤と抗コリン薬が同時に入ってる…?


 そうなんです。アセチルコリンを増やしたいのが減らしたいのかよく分からなくなっているのがこの処方の謎なところ。薬理作用を理解せずに表面的な対症療法をしていると、このように不思議な感じになります。

 大体こういうのは、ドネペジルを最初に使って副作用で興奮して、それを抑えるためにリスペリドンを使って副作用で錐体外路症状が出て、それを抑えるためにビペリデンを使うという、お薬の副作用に振り回されているケース。しかもリスペリドンもビペリデンも投与量によっては認知機能低下になりますし、リスペリドンにいたっては錐体外路症状で転倒して骨折とか誤嚥して肺炎とか…。

 これはちょっと不味い処方ですね…。精神医学は確かに対症療法的な薬剤の使い方をせざるを得ないというのがリアルワールドでの愚痴ですが、”作用機序を理解した上で”という但し書きが付きます。今回の様にコリンエステラーゼ阻害剤と抗コリン薬を合わせて使うというのは残念な使用法でしょう。ただ、若手の精神科医は作用機序を覚えて使用する傾向にあるので、そういう使い方は少ないように感じます。さらに、どのお薬も必要な時に必要な量を使うというのはもちろん大事ですよ。念のため。

 しかし、精神疾患の原因はいまだ不明であり、確定的なものはありません。薬剤もあくまで”仮説”をもとにしてつくられているということは肝に銘じておくべきでしょう。その限界を確認した上で、薬剤の作用機序を知って使うこと。それが大事なんだと思います。
Comment:2  Trackback:0
2015
02.06

悪性症候群をちらりと疑った時は

Category: ★精神科生活
 悪性症候群は、多くの場合は抗精神病薬の使用による疾患です。他には抗パーキンソン病薬をいきなり中断した時や、ごく稀ですがメトクロプラミド(プリンぺラン®)やドンペリドン(ナウゼリン®)といった制吐剤の使用によっても生じることが知られています。いずれもドパミンが一気に遮断されるというのが共通。

 ただ、致死性緊張病という概念が1930年代にありまして。これは悪性症候群と同じような経過をたどる状態なんです。1930年代というのがポイントでして、この時期は抗精神病薬が開発されていなかった頃、すなわち統合失調症に対する本格的な薬剤治療が始まっていなかった頃なんです。これは、今の世で言う”悪性症候群”は100%薬剤によるものとは限らず、ごく一部は統合失調症の病状として現れるのではないかということを示唆しています。

 そして、悪性症候群と言えば対抗馬がセロトニン症候群。なかなか鑑別は難しいよとされています。悪性症候群はドパミンがブロックされるというのが大まかな原則で、対してセロトニン症候群はセロトニンが溢れるというのがイメージ(シナプス後部の5-HT1A受容体や5-HT2A受容体への刺激)。ただ、最近は抗うつ薬と抗精神病薬を一緒に使うこともあり(うつ病でも不安障害でも統合失調症でも)、使用薬剤のみではスパッと鑑別できかねる時もあります。

 薬剤使用開始(もしくは増量)から症状発現までのスパンは重要で、セロトニン症候群はほとんど24時間以内に始まります。対して悪性症候群は数日から数週間。治療開始から改善のスパンも同じでして、この辺りがまずもって病歴で欠かせません。あとは病態生理的に、セロトニン症候群は神経伝達の暴走(↑セロトニン)、悪性症候群は神経伝達の鈍さ(↓ドパミン)という基本に立ちかえります。よって、腱反射亢進やミオクローヌスというのは、悪性症候群では非常にレア。セロトニン症候群を強く示唆する所見です。かつ、セロトニンは消化管にも作用することを踏まえると、嘔気・嘔吐・下痢という消化器症状はセロトニン症候群の前駆症状として見られるもので、悪性症候群ではこれまた珍しいです。こういったのを参考に鑑別を拾っていきましょう。

 検査所見ではCK上昇が有名。rigidityを反映しており、CK以外にも筋に含まれるLDHやASTなども悪性症候群では90%ほどで上昇します。ただ、セロトニン症候群でもrigidityが強ければ上昇しますし、悪性症候群でもrigidityが軽ければそんなに上がりません。また、急性精神病状態では何故か判らないけれどもCKが上昇している、なんてことも往々にしてあります。だからCKのみではちょっと分からない時も。

 そこで今回のタイトルに戻るんですが、測定してみる項目として挙げられるのが


血清鉄


 なんです。鉄はカテコラミ合成に関わるチロシンヒドロキシラーゼ(tyrosine hydroxylase)の補因子で、血清鉄の低下はドパミン合成を落としてしまい、そこにドパミン受容体アンタゴニストを投与することによって更にドパミンが効かない様な状態に拍車がかかるようです。これを鑑別に使用してみることを少しばかりオススメします。

 いくつか文献を見てみると、血清鉄は悪性症候群のスクリーニング機能を持っていて、感度92-100%という優秀さ。Lancetの論文では結構キレイな図で出ています。

血清鉄測定

 キレイ過ぎるくらいで逆に訝しんでしまうくらい…。悪性症候群と回復の状態を繰り返した1人の患者さんで測っている図もあるんです。

同一患者さんでの測定

 こんなに鋭敏に動くとは驚き。文献がちょっと古いものしかないというのが残念ではありますが。フェリチンならどうなんでしょうね。ということで、悪性症候群かな? とふと思った時には、そっと血清鉄を測定項目に加えて参考にしてみると良いことがあるかもしれません。もちろん、いくら優秀なスクリーニングのマーカーとは言え事前確率が高ければそれのみをもって除外することは出来ませんよ。「悪性症候群じゃないよなぁ、たぶん」という時に測定して正常値であればかなり除外に向くというような印象で使い始めてみてはいかがでしょうか。


☆参考文献
Lee JW. Serum iron in catatonia and neuroleptic malignant syndrome. Biol Psychiatry. 1998 Sep 15;44(6):499-507.
Rosebush PI, et al. Serum iron and neuroleptic malignant syndrome. Lancet. 1991 Jul 20;338(8760):149-51.
Perry PJ, et al. Serotonin syndrome vs neuroleptic malignant syndrome: a contrast of causes, diagnoses, and management. Ann Clin Psychiatry. 2012 May;24(2):155-62.
Comment:5  Trackback:0
2015
02.03

臨床のワンフレーズ(7):回復の芽を摘まない

Category: ★精神科生活
 ”回復の芽”というのは、中井久夫先生の本で見て「良い表現だなぁ」と思ったフレーズ。自分もたびたび使わせてもらってます。

 どんな疾患でも、回復の芽がぴょこっと出てくると、患者さんはついそれを伸ばそう伸ばそうと焦ってしまいます。そうではなく、大事に慈しんでまなざすこと。これが回復を育てる秘訣。

自分「ちょっとした例えですが、これからは土地を耕すようなものだと思ってください」
患者さん「耕すんですか」
自分「○○さんは、水をまいて肥糧をあげて、回復の下地をつくってください。そうすると、回復の芽っていうのが出てきます」
患者さん「はい」
自分「そこからが大事で、出てきたばかりの芽は弱いんです。焦ってその芽を伸ばそうとして引っ張ると…」(引っ張って抜くような仕草)
患者さん「抜けちゃう…」
自分「ですね。なので、出てきた芽をやさしく育てていくイメージを持ってみましょう」
患者さん「分かりました」
自分「焦った時ほどこのことを思い出して下さいね」

 焦るなとは言いません。誰だって焦ることはあります。でも、焦った時に少しでもゆとりを象徴するイメージが出てくると、焦っている自分を少し冷静に見ることができましょう。 

 先日、外来のうつ病患者さんで、この様に言ってくれたかたがいました。

患者さん「先生が前に回復の芽を大事に育てていきましょうって言ったのがすごくこころに残っていて。それを意識して今は苗にまで成長してくれました」
自分「お~、苗ですか。素晴らしいですね。大事に育ててくれてるっていうのが伝わってきました。根もしっかりと伸びている感じですね」
患者さん「はい」
自分「そのイメージを大事に持って、柔らかく包んで育てていくようにしていきましょう」

 苗という表現をしてくれたのはこの患者さんが初めて。良い回復の過程にあるなと実感しました。自分もそれを受けて”容易には抜けない根”というのを連想したので返してみました。

 病気の芽ではなく、回復の芽をそっと育てる。そんな感覚を持つようにすると良いですし、たまに「回復の芽はどんな感じで育ってますか?」と聞いてみても新鮮に響くかもしれませんね。
Comment:19  Trackback:0
back-to-top