2012
02.28

感染症診療 Starter & Booster:第13回~感染症診療の原則とは?-2

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3)検体の理解
 原因となる菌を捕まえるためには、検体が必要。しかし、その理解が正しくなければ、原因は覆い隠されてしまいます。検体はとっても大切で、とっても解釈が難しい。まずは、軽く勉強してみましょう。

 まず、検体の種類。これには、無菌検体非無菌検体の2種類があります。前者は本来であれば菌はいない状態、後者は菌が元々いる状態です。

スライド1

 無菌検体には血液、髄液、胸水、胆汁、羊水などなど。何事もなければ、そして採取方法が適切であれば、通常は菌がいません。ということは、理想的な採取方法という前提では、検出された菌が原因菌と考えてよさそう。ただし、ドレーン等が入っている場合、そこから取った際にドレーンにいる菌を拾うことは十分にあるので注意。このことから、ドレーン排液には培養検査をする意味はない、とも言われます。

 非無菌検体には喀痰、便、皮膚スワブなど。これには菌が通常でもわんさかいます。原因菌もいればただただ住み着いている菌も。当然、検出される菌が原因菌とは限らず、この解釈が難しくなりそうですね。

 このように、検体と言っても最初から菌が住み着いているかどうかで分かれます。そして、検体を見る時には質と目的を考えます。見えた菌は感染なのか、ただそこに住んでいるだけなのか、はたまた混じっちゃったのか。そして何故この検体を培養に出すのか。自問自答が必要です。

 検体の質について言うと、例えば喀痰でも、下気道から喀出された純粋な痰と、唾液の混じった痰とでは質が全く異なります。培養は極端に言えば”とりあえず、そこにいる菌を増やしたもの”。質が悪い検体を培養したら、色んな菌が生えてきます。どれが原因なのか…?なかなか難しい時もあります。こういう時は、グラム染色。これは培養の持つ欠点を補ってくれまして、その質と菌の勢いを見せてくれます。

スライド2

 質で例を挙げると、有名なのが喀痰のGeckler分類(1977)と思います。これは成人の市中肺炎のためのもので、高齢者の誤嚥性肺炎には適応しづらい部分もありますが、肺炎一般における喀痰の品質評価として広く浸透しています。誤嚥性肺炎なら、きちんとした膿性痰でも扁平上皮が結構見えるので、Geckler分類では格下げされてしまうんですよね。白血球による貪食像も評価が難しいことがあります。S. pneumoniaeなど莢膜を持っていたら原因菌であっても貪食されにくいこともありますし、白血球が原因菌ではない菌を食べてしまうこともありますし(特に吸引痰)、免疫抑制なら指標になりにくいですし。貪食している=原因菌、貪食していない≠原因菌、とは一概に言えず、常に患者さんの状況とにらめっこすることになります。

 その培養の良いところは、少数しかいない菌も検出できること(これは前述のように短所にもなりますが)、グラム染色で推し量った菌名が分かること、そして薬剤感受性が出る、ということがあります。グラム染色だけでも不安ですし、培養だけでも不安。理想的には、グラム染色で大体の予想を付けて、培養で裏付け。無菌検体では、適切に採取されたと言う条件下において、グラム染色で菌が見えなくても培養検査で検出されたら、原因と考えておくことが重要です。本来は無菌なはずですから。

 グラム染色は怠る先生がいますが、簡便さリアルタイム性は培養には無い特徴です。治療効果を見る時も、検体を染めることで菌の勢いが衰えていくのが見て取れます。こういった利点は活かしましょう。ただ、評価に耐えうるグラム染色の標本を作るには練習が必要です。中途半端に染めて菌を見誤ってしまっては大変。頼りになる先輩にきちんと見てもらいながら繰り返し練習することが大事です。

スライド3

 目的。検体はむやみやたらに培養に出せばいいと言う訳でもありません。病変部位でないところの検体から、疾患とは無関係な菌が偶然検出された場合、間違ってそれを治療ターゲットとしてしまうことがあります。きちんと原則に従って、問題となっている解剖/臓器を探し出して、そこから検体をとりましょう。目的を意識しないと、その培養結果に振り回されてしまいます

 そして、培養ではどうしても耐性菌に過敏になってしまうことがあります。患者さんが抗菌薬を使っても良くならない。喀痰培養したらMRSAが出てきた!バンコマイシンに変更したけど良くならずにまた培養出したら緑膿菌が出てきた!あわててメロペンに変更したけどさっぱり良くならず。。。こんな感じにはまり込むことがあります。抗菌薬投与中に培養を撮ると、それに耐性を持った菌が検出されることは当然です。でもその耐性菌は「そこにいるだけ」の定着であることが多いのです。きちんとこれまでの治療を振り返り、診断が間違っていないか、抗菌薬が到達しにくい病態があるのではないかなど、原則に戻って原因を見直していきましょう。

 これらからお分かりのように、培養で検出された菌が原因菌とは限りません。そしてもちろん、原因菌が培養で生えてこないということもあります。その時は患者さんの背景や状況、そしてグラム染色の結果などから類推することになります。そして、そもそも嫌気性菌は培養で生えづらいということもあります。嫌気培養をこちら側できちんとオーダーすることが大事ですし、そうであっても培養にたどり着くまでに嫌気性菌が採取管内でお亡くなりになることもあります。臨床的に嫌気性菌の関与が疑われたら、培養で生えて来なくても抗菌薬は嫌気性菌を狙ったものが必要です。

 さて、血液培養では、コンタミか真の原因菌かの判定が重要となります。

 S. aureus、S. pneumoniae、E. coli、K. pneumoniae、Enterobacter、Serratia、P. aeruginosa、Candida albicans、Candida non-albicansなどは、血液培養で検出された場合、真の原因菌の可能性が高いと言われます。逆に、Bacillus、Corynebacterium、CNS、Propionibacteriumなどはコンタミの可能性が高いです。

 しかし、そうは言っても2セット取って2セットともに生えたら、やっぱり疑わしいなぁ、、、と思ってしまいますね。患者背景ももちろん大事で、中心静脈カテーテルや脳室シャントなどが入っていると、CNSやPropionibacteriumは原因菌として可能性が高まり、一概にコンタミと言えなくなります。

 血液培養の話が出てきたので、その採取についてお話しします。血液培養採取の適応とタイミングですが、以下が主なもの。

・菌血症を疑う症状がみられる(発熱・悪寒/戦慄・頻脈・頻呼吸など)
・原因不明の低体温や低血圧
・突然変調を来した高齢者もしくは小児
・免疫抑制患者での原因不明の呼吸不全・腎不全・肝障害
・昏迷などの意識の変調(特に高齢者)
・説明のつかない白血球増多や減少、代謝性アシドーシス
・抗菌薬の変更時

などです。どうしようかな?と思う/迷うことそのものが適応と言っても良いくらい。これは腰椎穿刺と同じですね。日々是血培と念じましょう。

 採取するセット数と血液量もとても大事になってきます。

 採取するセット数は、必ず最低でも2セット!つまりはボトル4本!検出される菌にもよりますが”1セットのみの血液培養に大きな診断的意義はない”と考えておきましょう。1セットのみでは、菌が検出された場合、皮膚常在菌のコンタミネーション(汚染、混入)か真の原因菌かの判定が難しくなってしまうのです。原因菌の検出感度は70%くらいとも言われます。特にグラム陽性球菌なんかが生えた日には困りモノ。ですが、2セット採取して2セットとも同じ菌が出れば、よっぽど下手でなければ恐らくコンタミネーションではないだろうな、真の原因菌だろうなと考えられるのです。2セットだと90%以上の検出感度。

 そして、各セットの採取血液量は20mLを目標としましょう。2セット取るなら合計40mLが必要です。もし頑張って採っても20mLに足りなければ、好気ボトルを優先させましょう。例えば15mL採取なら、嫌気5mLと好気10mLというように。この採取量が大事でこれは死守するくらいの勢いで。

 子どもであれば、ルーチンでの嫌気ボトルは必要ありません。以下に示すように採取量は体重に依存し、最低1mLの血液は必要とされています(Frequency of low-level bacteremia in children from birth to fifteen years of age. J Clin Microbiol. 2000; 38:2181-2185)。

体重1kg以下:2mLを1セット(計2mL)
1.1-2kg:2mLを2セット(計4mL)
2.1-12.7kg:3mLを2セット(計6mL)
12.8-36.3kg:10mLを2セット(計20mL)
それ以上:成人と同様。

 採取手順ですが、イソジンを使う場合「(採取部位をアルコール綿で消毒→)イソジンで2回消毒→清潔手袋はめる→採取」とします。手袋をはめる前にイソジンで採取部位を消毒するのは、イソジンが殺菌効果を発揮するまでに1分ほどかかるため。その間を利用して手袋をはめましょう。手袋は清潔手袋を使用するとコンタミが50%減ると言われます。ですが、やっちゃいけないんでしょうけど、自分は明らかに「取れる!」と判断できるほど良い血管であれば清潔手袋使いません。採取部位に触れなければ良いので。皆さんはマネしないで下さい。。。

 培養ボトルの口は消毒するのが通例となっています(エビデンスがあるのかは不明)。そして、血液を入れるのは嫌気ボトル→好気ボトルの順。嫌気ボトルに空気が入らないようにするためです。空気が入ると嫌気性菌が死んじゃいますからね。この時、穿刺に用いた針をそのまま使って構いません。翼状針(トンボ針)であれば、ルート内の空気を考慮して好気ボトルを先にします。

 用いる消毒薬ですが、必ずイソジンでなければならないということではありません。自分は血管が良く見えて失敗しないだろうなと思える患者さんでは、アルコール綿でごしごしごしごし消毒して、ささっと採取しています。

 各種消毒薬の利点欠点は以下の様(「臨床に直結する感染症のエビデンス」より)。

1. イソジン
 利点:持続性+、穿刺に手間取っても雑菌混入のリスク上昇しない
 欠点:即効性-、穿刺までの時間を十分取らなければならない
 推奨される臨床場面:穿刺まで十分時間をとれる、術者の習熟度問わない

2.アルコール
 利点:即効性+、すぐ穿刺可能、コスト安い
 欠点:持続性-、穿刺に手間取ると雑菌混入のリスク上昇
 推奨される臨床場面:穿刺時間かけられない緊迫した状況、術者がベテラン

3.クロルヘキシジン
 利点:即効性+/持続性+、すぐ穿刺可能、穿刺に手間取っても雑菌混入のリスク上昇しない
 欠点:コストが高い
 推奨される臨床場面:コストが許せばさまざまな場面で使用可能

 静脈血を採るのか動脈血を採るのかという問題。これは、2セットとも静脈血が望ましいです。片方の腕にルートが入っているから、、、ということで1セットを鼡径から取ることもありますが、採取部位さえ異なれば同じ腕で取っても大丈夫。鼡径で取る際には、最初のアルコール消毒を執拗なまでに行いましょう!鼡径は汚染が著しいことをお忘れなく。

 培養を出した後のことも知っておくと勉強になります。

・嫌気ボトルと好気ボトルのどちらが先に陽性になったか
・提出後どれくらいの時間で陽性になったか
・ボトル内のガス産生所見はあるか

 こういったものも大きな情報です。例えば好気ボトルのみ陽性になったグラム陰性桿菌、なんて来られたら、真っ先に緑膿菌を代表とするブドウ糖非発酵菌を思い浮かべましょう。奴らは嫌気の環境が苦手で、嫌気ボトが陽性になることは珍しいのです(なので、嫌気ボトルが先に陽性になったGNRなら、何となく安心しますね)。Clostridium,Bacteroides,Fusobacteriumといった偏性嫌気性菌は嫌気ボトルのみが陽性になる傾向にあります。ボトル内のガス産生所見というのは、腸内細菌と嫌気性菌に特有の現象です。大腸菌は産生がやや弱いですが、Klebsiella, Enterobacterで強く見られます。培養陽性になる時間については、臨床的に重要な菌は殆ど培養開始から3日以内で検出可能とする報告があります(Routine incubation of BacT/ALERT FA and FN blood culture bottles for more than 3 days may not be necessary. J Clin Microbiol. 2005;43:2506-2509)。元々の菌数がコンタミなら少なく原因菌なら多いという至極尤もな現実を反映してますね。ただし、感染性心内膜炎などではじっくり生えてくる、栄養要求の厳しい原因菌もいます。臨床状況からそういう菌が疑われたら「検査室に長めに培養しておいて下さい」と一言かけるのが良いでしょう。

 2008年の岩田健太郎先生の論文では、ルーチンの嫌気培養は不要であり、偏性嫌気性菌の感染が疑われ、免疫機能が落ちていて、直接の培養検体が取れない場合には取る意味がある、としています(Is anaerobic blood culture necessary? If so, who needs it? Am J Med Sci. 2008 Jul;336(1):58-63.)。こういう、当然と思っていたことに切り込むのは斬新で面白い姿勢ですね。

 蛇足ですが、胸水や腹水を培養する際は、血液培養ボトルに入れると検出感度が上昇するので、ぜひ活用して下さい(胸水はBlood culture bottle culture of pleural fluid in pleural infection. Thorax 2011;66:658-662. 腹水はInoculation of blood culture bottles with ascitic fluid. Improved detection of spontaneous bacterial peritonitis. Arch Intern Med. 1987 Jan;147(1):73-5.)。

 ここからは、特殊な状況として「感染性心内膜炎を疑う時」「CRBSI(カテーテル関連血流感染症)を疑う時」の2つを述べます。これらはいずれも血管内感染の代表で、血液培養が何度も陽性になる際には疑わねばなりません。

☆感染性心内膜炎
 感染性心内膜炎が鑑別に挙がれば、24時間以内に間隔を空けて、最低3セットは血液培養を採りましょう。持続的にグラム陽性球菌が検出されれば、それは感染性心内膜炎を強く示唆します(カテ入ってれば別ですけど)。感染性心内膜炎は決して稀な疾患ではありません。「心雑音+発熱=心内膜炎」として考え、コモンな意識を持ちましょう。

 ちなみに経胸壁心エコー(TTE)の疣贅vegetation検出に対する感度は約70%とされているので、TTEで疣贅が見つからなかったからと言って、感染性心内膜炎は否定できません。疑った場合は、経食道心エコー(TEE)も必要となります。TEEの感度は、施行者にもよりますが90%以上とされています。疣贅は僧帽弁前尖に出来やすいので、ごもっとも。問題なのが、TEEも空振りだった時。診断の洗いなおしをして本当に疑わしければ、やはり感染性心内膜炎として対処することとなっています。

 診察所見(Janeway lesions, Osler nods, Roth spots, splinter hemorrhage, conjunctival petechiaeなど)は恐ろしいまでに感度が低いので、診察で所見が無いからと言って否定してはいけません。その代わり特異度は異様に高いので、見つけたらほぼRule inとなります(いつ出るか分からないので、毎日繰り返し診察すること)。

 血液検査ではRFが陽性になったり補体が低下したりすることがあります。関節痛も出ることがありますし、不明熱の原因としても良く出てきます。なので、何となく捉えるなら、感染性心内膜炎の症状や所見というのは「悪性腫瘍+膠原病」の雰囲気としておくと良いかもしれません。

☆CRBSI(カテーテル関連血流感染症)
 いわゆるカテ感染ですが、これを考えた時、1セットはカテから、もう1セットは末梢から取ります。そしてカテを抜いた場合は、そのカテ先も培養に提出(カテ先培養の感度は低いです)。

 カテから取った血液培養が陽性判定となる時間が、末梢から取った血液培養が陽性判定となる時間よりも2時間以上早ければ、非常にカテ感染らしくなります(検出される菌はもちろん同じという前提で)。

 ちなみに、カテ刺入部の発赤は出ない方が多いので、発赤がないことはカテ感染の否定材料には全く使えません。そもそもカテ感染は、いったんカテーテルを刺入した後は、皮膚側からの細菌侵入が稀とされています。細菌の侵入ルートは「ルートの継ぎ目」です。すなわち三方活栓の使用時や点滴差し替え時、側管からの薬液注入時。これらの操作をする際は、無菌操作と厳密な消毒が必要となります。

 治療は「カテ抜去+抗菌薬治療」の合わせ技が基本。どうしてもカテを抜きたくない時は、菌によっては抗菌薬ロック療法というのがありますが、ICTや感染症に詳しい医師などに相談しましょう。

 これまでの話は中心静脈カテーテル(CVカテ)においてのものですが、末梢カテ感染(PV-CRBSI)というのも存在しますので、注意が必要です。そして末梢カテ感染では、刺入部より中枢側に膿瘍などを形成することもあるので、硬結所見が無いかもチェックが必要。

4)抗菌薬の理解
 抗菌薬については、これまでのお話でおおよその使い方が分かったかと思います。嫌気性菌用とP. aeruginosa用の抗菌薬を別々に覚えておくことが第一となり、これらは特別な薬剤と言う意識を持ちましょう。当然ながら、耐性菌をカバーする抗菌薬も覚える必要があります。こういうスペクトラムの他に、臓器移行性と、各病院での抗菌薬感受性の違いを考えます。

 患者背景と感染臓器から原因菌を推定し、適切な検体を採取した後に、推定した原因菌をカバーする抗菌薬を投与。この際、患者さんの状態が芳しくなければ、広域に構えることを躊躇ってはいけません。検体をしっかり採ってあれば後で狭めることが可能ですから、外したらやばい時は最初から狭域で攻めるというのは恐い。そして、十分量を十分期間使用することが大切です。感染臓器によっては移行性の問題などがあるのでそれも考慮しなければいけませんし、腎機能や肝機能によって投与量の変更を迫られることも多々あります。頻用する抗菌薬の移行性は覚えておかねばいけません。

 そして、抗菌薬感受性。いわゆるlocal factorというものも考慮しましょう。ちょくちょくとお話ししてきましたが、ここで少しまとめて。菌も生き物でして、住んでいる地域、住んでいる病院によって性格が異なってきます。この病院にいる大腸菌は第2世代セフェムが効くのに、あの病院にいる大腸菌には全然効かない。。。などなど。前いた病院ではゾシンが緑膿菌に効いたのに今の病院の緑膿菌には効かない!とか。院内感染でも市中感染でも、この情報は非常に大事になってきます。自分が勤めている病院、そして住んでいる地域で、主な最近の感受性パターンを知っておくと抗菌薬選択の際に、有力な情報となります。

5)疾患経過の理解
 対処している疾患がどういう振る舞いをするのか、をしっかり知りましょう。良く例に出される腎盂腎炎ですが、これは適切な治療を開始しても24-48時間は全く解熱しないこともあります。それを知識として知っておかないと、妙に慌ててせっかく当たっている抗菌薬をもっと広くしてしまったり、培養をやたらめったら提出したり、果ては診断を変えてしまったり。。。また、治療経過で頼りにするのは患者さんの所見です。それは症状であったり診察項目であったり、もっと漠然とした食事量とか全身状態とかも参考になり、例えば、ぐったりしていた患者さんが、座っている時間が長くなってきたり、段々毎朝新聞を読むようになってきたりするのであれば大きな進歩。患者さんの振る舞いも日々とらえることが大事であって、発熱やCRP、プロカルシトニンのみを頼りにしてはダメなのです。検査値は使いようによっては良い武器になりますし、患者さんの意思疎通が難しいなどの理由があれば参考にすべきもの。しかし、値の変化は積分的なとらえ方をするのが肝要。CRPがどんどん高くなってくるのなら「何かあるのか?」と考えますが、1回だけちょろっと上がったからと言って大あわてはしないこと(診察をしっかりしてみようという動機付けにはなると思います)。出来るだけ患者さんの状態とセットで考えましょう。

 これで長く続いた感染症の原則・総論もお仕舞いになります。おつかれさまでした。感染症を診療する時は、まずは敵とも言える微生物の臨床的な知識、そしてこちらの武器である抗菌薬の知識、それらを正しく得た上で、この13回目でお話しした”原則”に基づくことが大事になります。もっと詳しく知りたいという方は、青木先生の「マニュアル」、大曲先生の「ロジック」「がん患者の感染症診療マニュアル」、大野先生の「レクチャーノーツ」、藤本先生の「レジデントマニュアル」などを読んでみて下さい。自分の記事も、多くはこの先生方の本を勉強したことで出来ています。
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2012
02.24

感染症診療 Starter & Booster:第13回~感染症診療の原則とは?-1

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 ここまで色々とお話をしてきました。臨床微生物学、抗菌薬、そして真菌と抗真菌薬についても。ようやく感染症診療の総論とも言える、原則についてです。

 青木先生や大曲先生が仰っているように、論理的に以下の段階を踏んで診療に当たることが大事です。これは絶対に外さないこと。大曲先生の著書(感染症診療のロジック)から抜粋して少しだけプラス。

①患者背景を理解する
 ・年齢や基礎疾患
 ・曝露
 →微生物を推定する
②感染臓器を考える
 ・診断過程が進めやすくなる
 ・重症度を把握できる
 ・どのような微生物が原因か予測できる
 ・経過観察に役立つ
③原因微生物を探す
 ・微生物の推定:患者背景、感染臓器から
 ・微生物の同定:適切な検体提出、グラム染色や培養検査などで微生物の絞り込み
④抗菌薬を選択する
 ・特徴の理解:スペクトラム、臓器移行性を考慮
 ・自分のいる地域の抗菌薬感受性パターンを知る
 ・empiric:ターゲットを推定し、それに対して有効な抗菌薬を投与
 ・definitive:起因菌と感受性結果により抗菌薬を再選択
⑤適切な経過観察
 ・各疾患の自然経過の理解
 ・的確な臓器特異的マーカーを使う
 ・よくならない場合の仕切り直し、対処法
⑥自分自身にフィードバック
 ・実際の臨床で得られる手応えをしっかり得る


 これがポイントになります。

 感染症診療が得意という医師は、オールラウンドな医師でもあるんです。それ何故でしょうか?思うに、この原則がカギなのではないでしょうか。もう少し感染症っぽさを取り除いてエッセンスを抽出すると


背景を捕えて鑑別疾患の初期ランクを設定し、症状の原因となる臓器/疾患を問診・診察・検査により把握し、適切な治療方法と経過を理解することで患者さんを治癒の方向へ持っていく


こうなります。この流れは、私が診断推論でお話しした原則、全科に共通した原則でもあるのです。医療の原則とも言えるかもしれません。この大切なことを、少し詳しく見ていくことにしましょう。

1)患者背景の理解
 患者背景を理解することで、どの部位が感染しやすいか、原因微生物の種類などを考える際に可能性の重みづけが出来ます。肺炎でもCOPDや気管支拡張症の既存症がある、大酒家であるなどによって原因菌の可能性ランキングが変わってきます。また、高齢者は症状が非特異的で診察もはっきりしないという情報を知っていれば、ある程度の検査が必要だなとなってきます。先ほどの真菌ではやたらとリスクファクターが出てきましたが、こういう背景をきちんと得ておくことが非常に重要となってきます。どんな基礎疾患があるのか、性別や年齢、ライフスタイルなどは言うに及びません。前医で抗菌薬を使用されていたら、それがどの様な抗菌薬で、投与期間や投与量がどのくらいであったというのも有用な情報になります。

 患者さんの生活する場も重要で、それによりまずは市中感染か院内感染(より広く言うと、医療関連感染)かに大きく分けられることになります。院内感染はやはり特殊で、尿路や肺、カテ、オペ部位が感染部位として多くなり(これらで8割を占めると言われます)、他には偽膜性腸炎なども目にしますね。原因菌も院内感染では複雑になります。常にP. aeruginosaやMRSAなどに目を配らねばいけません。

 患者背景を丁寧に拾うことで、鑑別疾患や原因微生物のランク付けが出来るようになります。ここをおろそかにすると、考えなければいけない疾患が膨大になり、かつ判断のミスにつながってしまいます。
 
 患者背景には随分と特殊なものがあります。これは別個に覚えておきましょう。以下のようなものが挙げられます。

a)皮膚や粘膜のバリア障害(ルート、外傷/手術/熱傷、NGチューブ、化学療法など)
b)管腔の通過障害(腹部手術、がんによる閉塞、誤嚥など)
c)好中球減少と貪食能や遊走能の低下
d)細胞性免疫低下
e)液性免疫低下


c)~e)に関しては、単に免疫不全と一括りにするのではなく、免疫のどの機能が障害を受けているのかを調べましょう。実際の患者さんではどれか単独と言う訳ではなく、好中球減少と皮膚のバリア障害など、複数の要素が絡んできます。また、一部のがん患者さんでは易感染状態が時間とともに変化していきます。特に造血幹細胞移植ではくっきりと分かれている傾向にあるので、それを知っておくと感染の原因微生物の見当がつきます。

 以下にa)~e)の各要素を具体的に見て行くこととします。

a)皮膚や粘膜のバリア障害
 バリア障害があれば、当然そこからの侵入が予想されます。皮膚バリア障害では皮膚の常在菌が原因となりやすく、また、外界の菌が侵入しやすい状況なので、GPCや医療施設内にいるP. aeruginosaなどにも注意が必要。粘膜バリア障害では、溶連菌や嫌気性菌といった口腔内常在菌が問題となります。粘膜障害に伴う痛みのために嚥下障害が起こり、誤嚥による呼吸器感染を引き起こすこともあります。

b)管腔の通過障害
 これがあれば、その”閉塞”が原因となり感染症を引き起こします。最初の方にお話しした、GNRの感染形態でしたね。抗菌薬のみならず、その閉塞の解除を行うことが必要になります。

c)好中球減少と貪食能や遊走能の低下
 一般に、炎症となる部位にはまず好中球が集まってきて、患者さんには症状が出ます。好中球減少はその第一線の防衛が崩れていることになるので、症状が乏しくなり得ますし、免疫不全の中でも要注意。好中球減少の原因としては、血液疾患、化学療法、薬剤などが挙げられ、この状況で発熱すると発熱性好中球減少症ということになります。この疾患は大まかな特徴があり、発熱してから5日間と言う日数が1つの区切りになります。発熱して5日未満で大きな問題になるのが、P. aeruginosaなどのGNR、そしてMRSAやMRSEといった多剤耐性のGPCです。治療を行っても、発熱が5日以上続けば一部の真菌感染、特にCandidaAspergillusの2種類も考慮に入れなければ行けません。まとめると、以下の図になります(「がん患者の感染症診療マニュアル」より)。

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 ただし、固形がんの場合は好中球減少の期間が短いとされるため、真菌のことを過剰に心配する必要はないと言われます。好中球の貪食能低下は放射線治療、化学療法、ステロイド使用、糖尿病、腎不全、肝不全などによりもたらされます。原虫やウイルスは後述の細胞性免疫により駆逐されるものなので、好中球の障害では感染症の原因とはなりにくいことが分かるかと思います。

d)細胞性免疫低下
 細胞内に寄生する微生物に対し、好中球や抗体、補体などは効果的な攻撃手段を持ちません。こういう時に出番なのが、マクロファージやTリンパ球、NK細胞と言った細胞性免疫となります。この細胞性免疫低下では、やはり細胞内寄生をする微生物が問題になることが多く、その原因は、悪性疾患や感染症、医療行為などが挙げられます。前者には移植や急性リンパ性白血病、悪性リンパ腫、腎不全、肝不全、糖尿病、ウイルス感染そのものなど。後者にはステロイドや免疫抑制剤の投与などがあります。

 細胞性免疫低下の状態で感染を起こす原因菌は多岐にわたります。細菌でもListeriaNocardiaLegionellaといった変わり種や結核、真菌、ウイルス、そして原虫などなど、非常に多いのが特徴。以下に図としてまとめましょう(「がん患者の感染症診療マニュアル」より)。

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 好中球減少と比べると原因菌の同定に時間と手間とがかかってきますが、すぐに患者さんの命を奪うことは少ないので、腰を据えて鑑別していきましょう。細胞内寄生微生物の住みつきやすいリンパ節や骨髄の生検などが、侵襲的ではありますが診断のため重要となってきます。

e)液性免疫低下
 B細胞と抗原となる微生物との反応、免疫グロブリンを産生する形質細胞への変化などを指します。細胞外の細菌除去として機能します。脾臓は多くの抗原が通過し、また免疫グロブリンを産生し、免疫グロブリンが微生物に作用すし、免疫グロブリンによりオプソニン効果を受けた微生物を排除する場所です。また、莢膜を持つ細菌やグロブリンが結合していない微生物を除去します。よって、脾臓の機能障害や摘出は液性免疫にとっては屋台骨を失いかねない事態なのです。

 液性免疫低下の原因は、成人では多発性骨髄腫や慢性リンパ性白血病、造血幹細胞移植、HIV感染、脾臓の摘出や機能低下が挙げられます。特に脾臓の摘出、機能低下を来たしている患者さんの感染症は緊急事態です。摘出歴や機能低下を来たす疾患があれば、大事に扱いましょう。

 感染症の原因微生物には、莢膜を持つS. pneumoniaeH. influenzaeが多くを占め、3番目に重要なものとしてN. meningitidisが挙げられます。その他、Salmonellaや腸内細菌科、Bacteroides、イヌとの接触があればCapnocytophaga canimorsusというGNRも考慮。ウイルスではエンテロウイルス、原虫ではGiardiaなども可能性として浮上してきます。

2)感染臓器と微生物の理解
 感染臓器は、患者背景から得た知識と、問診と診察との組み合わせで多くの場合は知ることが出来ます。もちろん、必要な場合は検査をします。全てを問診と診察で済ませるのは無理なので、適切に検査を使います。この適切というのが難しいんですけどね。。。注意点は、検査結果はこれまでの情報から推測されるべきもので、予想外の結果が出たら必ず問診と診察に立ち返るということです。検査結果を盲信すると、振り回されてしまいます。また、どんなに頑張って感染臓器を検索しても見つからない時は、自信を持って「分からない」と言いましょう。青木先生の言うとおり、分からないことは、通常の感染症ではないことを示します。これは”不明”熱だなと定義することで、次の一歩を踏み出せます。

 微生物については、これまでの説明で大まかな理解が出来たかと思います。まずはどの菌がどこに常在しているかを知る必要があります。そしてどの様な臓器に感染を起こすのが得意かを知り、症状や診察、検査の所見なども併せて理解しておきましょう。特に患者背景と感染臓器とをセットにすることで、原因微生物との関係性がより色濃く見えてきます。

 次回が永らく続いた感染症診療の最終回ですが、検体の理解から入っていこうと思います。
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2012
02.24

感染症診療 Starter & Booster:第12回~「カビ」を分類する

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 抗真菌薬について軽く触れたので、今度は真菌を学びましょう。”カビ”と一括りにせず、きちんと分類。これも簡単に済ませておきます。

 真菌感染については特に免疫状態を考慮する必要があります。このような”下調べ的”な患者背景という要素はこれまでもちょくちょく述べていましたが、詳しくは後述する『感染症診療の原則とは?』という項目で触れます。しかし真菌のまとめを述べると言う都合上、ここでも少し話題にします。まずはCandidaから。

1) Candida
 真菌でヒトに常在しているのはCandidaで、皮膚・口腔・腸管・泌尿器などに幅広く存在しています。ということは、感染症としては皮膚・粘膜といった表在性のものと身体の中の深在性のものとに分かれそうだと想像がつきますね。

 表在性は基礎にHIV感染、ステロイド、糖尿病と言った細胞性免疫障害のある時に多く発症します。深在性は持続する好中球減少症や広域抗菌薬使用でも症状が改善しない場合、既にCandidaが血液以外の検体培養で検出されている状態で多くのカテーテルやドレーンが入っている場合などが発症のリスク。この深在性ではターゲットになる臓器に特徴があり、血流感染(カテ感染、心内膜炎)、肝・脾膿瘍(播種性カンジダ症)、尿路感染、眼内炎、髄膜炎、骨髄炎といった疾患を起こしやすくなります。眼内炎は知らず知らずの内に発症していることがあるので、カンジダ血症を見たら眼科医に診察をお願いしましょう。また、肺は苦手なので、肺炎を起こすことは極めて稀とされています。

 問題点は、診断の難しさです。培養でCandidaが検出された時にそれが単なる定着なのかそれとも本当に感染症なのか、この見極めが大事になります。特に広域抗菌薬がドンドン使われていたら、他の菌が死滅してCandidaだけがポツンと残るということもあります。定着か感染か、これを判断するにはCandidaの性格を知る必要が出てきます。細菌感染で学んできた知識を使うと、知る必要のあるものは、Candida好きな臓器、そして感染のリスクファクター。これを把握しましょう。臓器は今しがた述べたので、リスクファクターを紹介します。

・広域抗菌薬の使用既往
・長期の病院滞在やICU滞在
・免疫抑制(ステロイド、悪性腫瘍、HIV感染含む)
・ステロイド使用
・糖尿病
・頻回の輸血
・好中球減少
・透析
・人工呼吸器装着
・手術後(特に腸管)
・カテーテル使用、中心静脈栄養
Candidaの定着状態

 上記となります(Epidemiology, diagnosis and treatment of systemic Candida infection in surgical patients under intensive care; Intensive Care Med. 1998 Mar;24(3):206-16.)。他には熱傷や未熟新生児なども含まれます。

 これを見ると、細胞性免疫低下や好中球低下といった”内科的”なハイリスクと、バリア機能の異常である”外科的”なハイリスクに分けられるということが分かると思います。この2つのリスクを参考にして定着か感染かを判断。また、一見健康そうな人にCandida感染、特に表在性の感染症が多いですが、それを見たら、必ず背後にHIV感染などの免疫抑制がないかを見なければいけません。

 ちなみにカンジダスコアCandida scoreというのもありまして、どういう時にCandidaを定着として見ることが出来るか、という1つの指標になっていまして、以下の式からなります。

Candida score = 1×(複数ヶ所colonization)+1×(手術)+2×(severe sepsis)+1×(TPN)

 論文では、セッティングが好中球減少のないICU入室患者さん。3点以上をカットオフにした場合、侵襲性カンジダ感染症の陽性的中率13.8%、陰性的中率97.7%となっています。2点以下なら様子見可能、ということが示唆されるでしょうか(Usefulness of the "Candida score" for discriminating between Candida colonization and invasive candidiasis in non-neutropenic critically ill patients: A prospective multicenter study. Critical Care Medicine. 37(5):1624-1633, May 2009)。

 さて、一口にCandidaと言っても、albicansnon-albicansに分類され、後者には多くの種類があります。通常はalbicansの病原性が強くて多くのカンジダ症の原因になります。しかし、non- albicansでは耐性が問題になってきます。どの様な抗真菌薬がどの様なCandidaに効くか、青木先生による表を用いましょう。

e0035413_2318425.jpg

 この様な性格になります。患者背景を押さえて、感染か定着かの区別。そしてCandidaの種類による抗真菌薬の効果。これを認識しておきましょう。臨床的にリスクが揃っており広域抗菌薬の治療でも症状が改善しなければ、β-D-グルカンの値にとらわれず抗真菌薬を開始するという割り切りも大切です。

2) Aspergillus
 Aspergillusの病態は良く言われているように以下の4つに分類できます。

・単なる定着としてのアスペルギローマaspergilloma
・アレルギー(ABPA:アレルギー性気管支肺アスペルギルス症。喘息患者に発症。↑IgE、↑好酸球)、
・慢性壊死性アスペルギルス症
・侵襲性肺アスペルギルス症

 ただし多少のオーバーラップは存在し、定着状態にアレルギーや侵襲病変が重なることも多いです。ここでは最も重篤な侵襲性肺アスペルギルス症について軽く述べます。

 好中球減少や細胞性免疫異常が遷延する患者はハイリスク。具体的には

・慢性肉芽腫症
・熱傷
・臓器移植(特に心臓・肺・肝臓)
・骨髄移植
・HIV感染
・急性白血病や多発性骨髄腫

といったものが挙げられます(Invasive Aspergillosis; Clin Infect Dis. 1998 Apr;26(4):781-803; quiz 804-5.)。長期にわたる重篤な好中球減少症やステロイド、免疫抑制剤の使用ももちろんリスクになります。ただし固形がんの化学療法ではAspergillusは非常に稀。この時はCandidaが問題になります。

 Aspergillusは環境のどこにでも存在し、通常はこの分生子を吸入することで感染。ということは、肺が主なターゲットだと分かりますね。病院の改築時などは分生子が大量に舞うので、集団発生を起こすことがあります。この肺から副鼻腔に広がると、そこから中枢神経へと到達。後は肺から血管に浸潤していき全身に広がることもあります。大雑把に述べましたが、この様に感染の広がりを覚えましょう。他の感染ルートとしては、傷口などから直接に皮膚や角膜へ到達することもあります。

 この疾患は極めて非特異的な症状であり、胸部CTのhalo signは他の真菌症やP. aeruginosaでも認めると言われます。ガラクトマンナン測定も、どういう状況で、何を考えて検査するかで有用性が変わってくると思いますし、ピペラシリン・タゾバクタムの使用で偽陽性になることもあるそうです。

 血液培養からほとんど検出されないことが知られています。よって、上記ハイリスク患者ではまず疑うことが大事。場合によっては経験的に治療を開始しなければならないこともあります。理想的には組織を持って来ること。生検やBALで菌糸を見つけることが大事になります。

3) Cryptococcus
 土中、鳩の糞の他、野菜などにも存在します。吸入することで感染します。20%ほどは免疫不全がなくとも見られるのですが、特にリスクとなるのが細胞性免疫不全です。ステロイド投与や移植、悪性リンパ腫、糖尿病、そして何といってもHIV感染。吸入するということは肺に病変を作ります。しかし、細胞性免疫に障害があると播種性感染症となり、特に髄膜炎が多くなります。診断は血清や髄液の抗原検査、培養によってなされます。

4) Zygomycetes
 いわゆる”ムコール症”の原因真菌。彼らは広く自然界の土壌に存在します。病原性が低いので、感染は極めて稀。著しい免疫抑制の患者さんに発症することがあります。感染のリスクファクターは

・DKA患者
・デフェロキサミン(鉄キレート)による治療
・血液腫瘍
・熱傷
・長期のステロイド使用

などとなります(Invasive zygomycosis in hematopoietic stem cell transplant recipients receiving voriconazole prophylaxis; Clin Infect Dis. 2004 Aug 15;39(4):584-7. Epub 2004 Jul 30.)。侵入経路は吸入によるものが多く、他には熱傷や外傷からの侵入も考えられます。病型がいくつか分かれていて、それを以下に記します。

・鼻腔から脳の病変(rhinocerebral type)
・肺病変(pulmonary type)
・皮膚病変(cutaneous type)
・胃腸病変(gastrointestinal type)
・その他の病変(miscellaneous type):心、骨、腎、膀胱、カテーテル

 これらの中でどのタイプになりやすいかは、基礎疾患により予想が付きます。糖尿病患者やデフェロキサミン使用ではrhinocerebral typeが多く、長期間の重篤な好中球減少症ではそれに加えてpulmonary typeも多くなります。栄養障害があればgastrointestinal typeのリスク。

 ムコール症は血管侵襲性が強いので、Aspergillusと同じような進展をします。鑑別も重要で、組織を持って来ることと培養することでなされます。Aspergillusと同様に血液培養は殆ど陰性。

 基本的に効く抗真菌薬はアムホテリシンBのみなので、他の抗真菌薬を使用している時にも発症することがあり、注意を要します。特にボリコナゾールやキャンディン系の投与中にBreakthroughとして出てくることが多くなりました。治療については、外科的切除も併せて行います。どの真菌症にも言えることですが、治療の基本は可能ならば免疫抑制状態の解除です。
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2012
02.24

救急外来で使用する検査項目~くも膜下出血に対するCT

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 くも膜下出血(SAH)は見逃したくない疾患の大御所です。さて、どうすれば良いのか…と思うもの。

 少し古いですが、2000年のNEJMでは、SAHに対するCTの感度は、発症から24時間以内では95%、3日で74%、1週間で50%、2週間で30%、3週間では殆ど0%という結果になりました(1)。

 時は移り2011年のBMJ。発症から1時間以内に頭痛がピークとなった患者さんを対象にして第3世代のCTで撮影した試験をしています。そこでは、発症6時間以内に撮影された場合、感度と特異度ともに100%となることが示されました(2)。ただし、読影は十分に訓練を受けた放射線科医が行っています。そして、6時間以降ではCTの感度が落ちることも記載されています。いくら検査機器が進歩しても研修医や救急医では見逃しうるということは肝に銘じておきましょう。

 CTが空振りだった時の腰椎穿刺(LP:ルンバール)はどうでしょう。2008年のMayo Clinic Proceedingsでは、肉眼的なキサントクロミーは感度93%、特異度72%としています(3)。ここでは、肉眼とspectrophotometryとで見て、両者とも空振りなら帰宅、肉眼的に綺麗でもspectrophotometryで陽性なら赤血球のカウントをしなさい、と言っています。ちなみにここでも読影は放射線科医。

 同じく2008年のAnnals of Emergency Medicineでも、同じような結果。CTとルンバールを併せるとSAHに対する感度100%、特異度67%となっています。SAHと動脈瘤をエンドポイントにしても感度98%、特異度67%と十分な値。偽陽性が多いのは、ルンバールでの赤血球カウントでの陽性を5×10^6 RBCs/Lとしており、traumatic tapも陽性判定になるため。やはりCT空振りでも疑わしければルンバールを厭わない姿勢が大事。ルンバールの適応は、「しようかどうしようか」と迷った時点です。困るのがCTで空振ってルンバールで微妙な時。この時は安全のためにもSAHあり、と判断して専門医にコンサルトすべき。

 林先生のStep Beyond Residentには、キサントクロミーを肉眼で見ると半数は見逃す、とありますね。やはりカウントまで持って行くのが良いと思います。髄液を採取する試験管も1本のみでなく3-4本にするのが適切で、traumatic tapなら段々血の赤い色は薄まってきますが、SAHなら一貫して同じ色となります。そして、SAHでは何らかの心電図異常が80%の患者さんに出ると言います(特に有名なのがcerebral T waveです)。意識障害で心電図異常があっても、原因は頭ということもあるんです。同じ様に、SAHが原因による神経原性肺水腫という病態もあります。意識障害でレントゲン撮ったら肺水腫と来たら「心不全」と言いたくなりますが、意外な落とし穴になります。

 最近はMRIを撮ることもありますね。微量の出血ではFLAIRが有用では?とも言われていますが、これは今後の検討が必要。FLAIRにはCSF artifactがあるため、それがSAHへの感度と特異度に干渉します。しかし、新しいCube-FLAIRがそのアーチファクトを抑えるため、それによりその問題を解決できるかもしれません(5)。ただ、安全に除外するにはMRIにせよCTにせよ、空振りでなお疑わしければルンバールは絶対に必要でしょう(患者さんの安全にも、医療者の安全にも)。ただ、亜急性期や慢性期に入るとMRI、特にT2*が有用と言われます。

 画像以前の段階で否定するにはどうするか?2010年のBMJにちょっとしたルールが掲載されており、このブログでも扱っているので、ご参照ください。


☆参考文献
1) Avoiding pitfalls in the diagnosis of subarachnoid hemorrhage. N Engl J Med. 2000;342(1):29-36
2) Sensitivity of computed tomography performed within six hours of onset of headache for diagnosis of subarachnoid haemorrhage: prospective cohort study: BMJ 2011;343:d4277 doi: 10.1136/bmj.d4277
3) Thunderclap Headache and Normal Computed Tomographic Results: Value of Cerebrospinal Fluid Analysis: Mayo Clin Proc. 2008; 83(12):1326-1331
4) Is the Combination of Negative Computed Tomography Result and Negative Lumbar Puncture Result Sufficient to Rule Out Subarachnoid Hemorrhage?: Ann Emerg Med. 2008 Jun;51(6):707-13. Epub 2008 Jan 11.
5) 3D Fluid-Attenuated Inversion Recovery Imaging: Reduced CSF Artifacts and Enhanced Sensitivity and Specificity for Subarachnoid Hemorrhage: AJNR Am J Neuroradiol. 2011 Dec;32(11):2054-60. Epub 2011 Sep 15.
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2012
02.24

救急外来で使用する検査項目~脳梗塞に対するMRI

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 脳梗塞ischemic strokeを疑った時に、MRIを撮るべきかどうか?撮って空振りなら脳梗塞はないと言えるのかどうか?という問題はいつでも出てくるものです。大きく言うと、脳梗塞に対するMRIやCTの感度特異度はどのくらいか、ということ。知っておいて損はない知識と思います。

 2007年Lancetにある、有名な報告を引っ張り出してみます(1)。

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 この図からも分かるように、急性脳梗塞に対する尤度比は、発症3時間以内でCTはLR+∞、LR-0.88であり、MRIはLR+9.1、LR-0.3と言う結果でした。よって、MRI(拡散強調を含む)を撮ってもLR-0.3という数字からは全く除外に向かないことが分かります。12時間以内に広げてもMRIのLR-0.2であり、12時間以降でやっとLR-0.08となり、ようやくLR-<0.1を弾き出せます。全時間を通して、CTのLR-は全く使えません。たまに「発症から6時間経ったらCTでも見つかるだろ」という人もいますが、それは残念ながら真実ではありません(もちろん、見つからない可能性はゼロとは言いませんが)。しかもこの論文ではテント上下を併せた脳梗塞を扱っているので、テント下の脳梗塞であれば更に数字は悪いものになるでしょう。ちなみに、脳出血に対する感度特異度は、MRI81%と100%(LR+∞、LR-0.19)、CT89%と100%(LR+∞、LR-0.11)となっています。

 この論文では、MRIの方が数字的に優位なので脳卒中を疑ったらMRIを撮れ、と結論付けていますが、それは間違いかもしれません。私たちは、脳梗塞はMRIでは決して除外できないと知るべきでしょう。救急外来ではコンサルト先から撮るように言われるので撮っても良いですが、臨床的に脳卒中が疑わしく低血糖を除外しCTで脳出血がなければ“臨床的に脳梗塞である”という判断を下しましょう。これはMRIが空振りでも不変。特に画像検査は盲信してしまいますが、決してそうではなく、臨床的に思考することが求められます。病歴と診察で出血性脳卒中と虚血性脳卒中とをどの程度アタリを付けられるかは、2010年のJAMAに掲載されています。あまり強力な因子はありませんが、一度ご参照ください。

 脳梗塞のCTと言えばearly CT sign(脳実質所見としては皮髄境界消失、レンズ核の不明瞭化、脳溝の消失がある)ですが、非可逆性の目安として注目されています。しかし、客観性はやや劣り、読影者間での判定のばらつきが比較的大きいことが問題。熟練医と研修医とではかなり差があります。熟練医では感度61%、特異度65%であるのに対し、研修医では感度46%、特異度56%との報告もあります(2)。


☆参考文献
1) Magnetic resonance imaging and computed tomography in emergency assessment of patients with suspected acute stroke: a prospective comparison. Lancet 2007;369:293.
2) CT and diffusion-weighted MR imaging in randomized order: Diffusion-weighted imaging results in higher accuracy and lower interrater variability in the diagnosis of hyperacute ischemic stroke. Stroke 2002; 33:2206-2210.
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2012
02.24

救急外来で使用する検査項目~D-Dimer

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 現段階の救急外来でD-Dimerが大きな意義を持つのは、以下の2点と思われます。

・大動脈解離の否定
・肺塞栓の否定


 大動脈解離について見てみましょう(1)。発症24時間以内に大動脈解離を疑われた患者でD-Dimerの値0.5をカットオフとした場合、感度96.6%、特異度46.6%であり、尤度比を計算するとLR+1.8、LR-0.07となります。これは除外に非常に有用。思いっきり疑っていた場合は、この検査が帰ってくる前に腎機能が悪くても造影CTを行うことが救命に必要な作業で、仮に空振りでも許されるでしょう。しかし、それほど疑っていないという状態で、造影CTまでするかな…?と思っているのであれば、このD-Dimerの値を見て決めて良いと考えます。検査前確率を10%と仮定すると、D-Dimer<0.5であれば検査後確率が1%未満になります(それでもゼロにはならないと言う事実は大事ですが)。この研究では、キットはBiosite社のものを使用しています。

 ただし、このD-Dimerは偽腔閉塞型の解離では上昇しづらいということが知られています。否定できなければ、やはり造影CTが決め手になると言うことは認識しておきましょう。ついでですが、大動脈解離を疑っているのに造影CTで空振りの時は、大動脈の分枝(腹腔動脈や上腸間膜動脈など)にも目を凝らしましょう。そこが解離している時もあります。また、単純CTや胸部Xpで解離を疑う画像所見としては、カルシウムサインというものがあります。動脈の石灰化に着目したサインで、それが血管の内腔に見えるということは、血管内膜が内腔側に寄っていると言うこと、つまりは解離を示唆すると言うことです。

 肺塞栓に関してはWells criteriaが有名。Wellsの通常版/simplified版とGenevaの通常版/simplified版の4つのスコアリングの精度は同等なので(2)、皆さんのよく知っているWellsのsimplified版を使うのが良いかと思います(simplified版は、Wellsの各項目を1点扱いとし、総得点が1点以下ならPE unlikelyとします )。それでunlikelyとなり、かつD-Dimerが基準値に入っていれば、否定に持って行きます。スコアリングのみで否定した場合、15%を見落とすとされており、D-Dimerを組み合わせることで誤診率を0.5%程度に下げられます。どちらか片方のみでは除外が難しいというのは覚えておきましょう。

 D-Dimerのみの場合は、2004年にシステマティックレビューが出ています(3)。ELISA法もしくはquantitative rapid ELISA 法での解析がダントツに優れており、0.5をカットオフとして、肺塞栓に対してLR-0.13となりLR+は1.5-2.5でした。Wellsでlikely、すなわち検査前確率が高いと推定された場合、このLR-を以てしてもなかなか安全な除外には結びつきません。疑い出すとキリがない、と言われてしまいそうですが。。。

 最近はSMA閉塞に代表される急性腸管虚血(acute mesenteric ischemia)にもD-Dimerが応用されてきています。2009年に発表されたある研究では感度94.7%、特異度78.6%と示され、LR+は4.4で微妙なラインですが、LR-が0.07くらいであり、Rule outにはとても有用(4)。用いた検査キットはbioMérieux社のものですが、この著者らはカットオフを3.17という高値に設定していました。

 とあるシステマティックレビューでは3件の論文を解析して、急性腸管虚血に対する感度89%、特異度40%とされ、LR+1.48でありLR-0.3でした(5)。LR-0.3という数字を見ると除外にも向かない検査かもしれないと思ってしまいます。

 新しいレビューでは感度が96-100%ではあるものの特異度が低く、またカットオフをどこに設定するかで検査特性が異なるとの記載があります(6)。

 個人的には、急性腸管虚血の中でもNOMI(Non-Occlusive Mesenteric Ischemia)は血栓閉塞性ではなく有効循環血漿量の低下で生じるものなので、これについてはD-Dimerは弱いのかと思います。もちろんNOMIでも時間が経てば炎症と凝固の両者がどんどん亢進するのでD-Dimerも上昇するでしょうが、閉塞タイプよりは早期に上昇しにくいのではないかと思います(偽陰性となりやすい?)。そして、急性腸管虚血は非常に診断が難しいもので、リスクファクターと病歴が何よりも重要になってきます。“他に診断が思いつかず、症状は悪くなる一方、D-Dimerや乳酸などの検査値も悪化していく”という時間軸を加味してのっぴきならない事態であれば、疑わしきは罰するという態度をとらざるを得ないというのが実情かも知れません。ちなみに、現在研究が行われていて有用であろうとされている検査項目にはD-lactate、 GST、そしてi-FABPというのがあります。

 D-Dimerは総じて疾患特異的でありません。ただし、思いっきり上がっていたら「??」と思って病歴を取り直すという態度は必要です。何かの見落としが浮かび上がることも経験されるでしょう。そしてD-Dimerも色々とキットがあり、それぞれカットオフが異なってきますから、困ったものだなと思います。名大病院は積水メディカルのナノピア®というラテックス凝集法を用いるキットを使っており、これだとカットオフが1.0になります。ただ、他社のカットオフと同等というのは完全に保証されてはいないというのが難しいところ。


☆参考文献
1) Diagnosis of Acute Aortic Dissection by D-Dimer. Circulation. 2009; 119: 2702-2707
2) Clinical Decision Rules for Excluding Pulmonary Embolism: A Meta-analysis. Ann Intern Med. 2011 Oct 4;155(7):448-60.
3) D-Dimer for the Exclusion of Acute Venous Thrombosis and Pulmonary Embolism: A Systematic Review. Ann Intern Med April 20, 2004 140:589-602
4) The correlation of the D-dimer test and biphasic computed tomography with mesenteric computed tomography angiography in the diagnosis of acute mesenteric ischemia; Am J Surg. 2009 Apr;197(4):429-33.
5) Systematic review and pooled estimates for the diagnostic accuracy of serological markers for intestinal ischemia; World J Surg. 2009 Jul;33(7):1374-83.
6) Current status on plasma biomarkers for acute mesenteric ischemia; J Thromb Thrombolysis. 2012 May;33(4):355-61.
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2012
02.24

救急外来で使用する検査項目~NT-pro BNP

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 救急外来では、呼吸苦の患者さんの鑑別の1つに急性心不全がありますが、診断に有用なマーカーとしてはNT-pro BNPが挙げられます。自分の勤めている病院では、BNPはその日のうちに結果が戻ってきませんが、NT-pro BNPは30分くらいで返ってくるのが強み。臨床症状のみで診断するよりも、このマーカーを組み合わせた方がより正確な診断が出来るとされています。しかし、このマーカーは、特に年齢と腎機能に大きく影響されるということを知っておきましょう。以下は、救急外来に呼吸苦でやって来た患者さんを対象としたものです。

 年齢について、2006年のEuropean Heart Journalを参照します(1)。NT-proBNPのカットオフ値は、50歳未満、50-75歳、75歳overでそれぞれ450、900、1800 pg/mLとされており、急性心不全に対する感度90%、特異度84%なので、LR+5.6、LR-0.12という尤度比と計算され、年齢別に値を設定することで有用性が再確認されました。このマーカーだけで云々言えませんが、臨床状況と併せて考えると優秀なマーカーになってくれます。また、どの年齢でも300を除外判定とすると、この場合は感度99%、特異度60%となり、LR+2.5、LR-0.017というすばらしい陰性尤度比を誇り、ほぼ除外できます。

 腎機能障害がある場合は、解釈が非常に難しく、注意が必要であるとされています。データが不十分であり、決め手となるカットオフ値が存在しません。色々な論文が色々なことを言っている状況。1つの目安として、2006年のJournal of the American College of Cardiologyに掲載された論文を見てみます(2)。そこには、GFR<60でカットオフを1200にした場合、感度89%で特異度72%(LR+3.2、LR-0.15)となったと記載されています。個人的な意見ですが、eGFR<30の場合は強力なマーカーとして扱わない方が良いかと思います。本当に1つの参考程度にとどめておくのが無難かと。

 慢性心不全の急性増悪に関しては、以前の値と見比べることが大事となります。以前の値がない場合は、今回の結果だけで判断するのは難しいと考えておきましょう。

 また、急性心不全になるということは、その背後に基礎となる出来事があります。「心不全」というだけで安心せず、なぜこの様な事態になったのか、これを確認することで救急外来における初期治療に幅が生まれます。

 治療に頻用される利尿薬のラシックスですが、これはX線や肺エコーで肺水腫を見てすぐ使用するのではなく、きちんと心窩部走査で下大静脈が強く張っていることを確認してから使用すべきです。肺水腫は溢水のみで起こるわけではないため(意外とこの事実は知られていません)、下大静脈を見ておくという癖を付けましょう。下大静脈が張っていない状態でラシックスを使用するとあっという間に患者さんの循環血漿量が持って行かれちゃいます。

 心不全診療への目安として、Nohria分類というものがあります。一度見ておくとチェックポイントが分かると思います。


☆参考文献
1) NT-proBNP testing for diagnosis and short-term prognosis in acute destabilized heart failure: an international pooled analysis of 1256 patients: The International Collaborative of NT-proBNP Study. Eur Heart J (February 2006) 27 (3): 330-337.
2) Renal Function, Congestive Heart Failure, and Amino-Terminal Pro-Brain Natriuretic Peptide Measurement: Results From the ProBNP Investigation of Dyspnea in the Emergency Department (PRIDE) Study. Journal of the American College of Cardiology, Volume 47, Issue 1, 3 January 2006, Pages 91-97

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2012
02.22

救急外来で使用する検査項目~プロカルシトニンとCRP

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 細菌感染症や敗血症の診断マーカーとして最近よく使われているプロカルシトニン(PCT)。その実力を知った上で使うことが勧められます。日本ではCRPが頻用されていますが、これは数値に反映されるまで発症から6-8時間を最低でも要すると言われており、しかも上昇や下降のスピードがゆっくりなので、上がり始めを血液検査で捕えてしまうと「数値的には重症でない」という事態になり、下がり始めを捕えてしまうと「数値的にはまだ重症である」という事態をちょくちょく産みます。更に、CRPはNSAIDs、他にもステロイドなど免疫を抑える薬剤が上昇に大きく影響してしまうという欠点、そして肝臓で合成されるため肝臓がヘタっている劇症肝炎の患者さんでは上昇しづらいとう欠点もあります。対してPCTはCRPよりもリアルタイム性細菌感染への特異性が強いのが特徴。発症から上昇までも約3時間と早め。免疫抑制剤などにも影響されにくいのではとされています。

 値の大きさが重症度や細菌感染の有無を反映するかという点ですが、2004年のシステマティックレビューでは、PCTとCRPのどちらが細菌感染症を見分けるのに有用かという比較がなされています(1)。そこでは、細菌感染症と非感染症との鑑別において、PCTは感度88%、特異度81%であり、CRPは感度75%、特異度67%でした。また、細菌感染症とウイルス感染症との鑑別では、PCTが感度92%、特異度73%であるのに対し、CRPは感度86%、特異度70%となりました。この論文ではCRPよりも有用であろうとの結論がなされていますが、ちょっとPCTに肩入れしている様な数字に見えてしまいます。

 近頃はそれ程の威力はないだろうと言われており、2007年には救急外来に発熱を主訴に来院した患者を対象にPCTを測った論文が出ました(2)。0.2をカットオフにすると、細菌感染もしくは寄生虫感染に対する感度77% 、特異度59%という結果。救急の医師が「これは細菌感染か寄生虫感染じゃないか?」という疑いの目が何と感度85%、特異度57%となり、PCTが救急医の判断よりも優れているわけではないことが示されています。医者の直感って凄いもんです。ただ、PCTが5を上回る患者は重篤な経過を辿りやすいともされました。

 2010年のCritical Care Medicineの論文でも、救急外来の同様な患者を対象に細菌感染症を検索しています(3)。そこでは細菌感染を示唆するマーカーの中で最も強力なものはCRPと寒気だとしており、それにPCTを加えることでより正確な診断に近づくと結論しています。予後にかかわるものとしては、CRPよりPCTの方が優れているとされました。ちなみに、寒気に関しては3段階に分ける徳田安春先生の論文が非常に面白いですよ。

 また、菌血症のRule outを念頭にPCTのカットオフを0.5、0.2に設定した際、それぞれ感度56%と92%、特異度83%と43%となり、尤度比は0.5ではLR+3.3、LR-0.53、0.2ではLR+1.6、LR-0.19と計算され、0.2でようやく除外の有用性が中等度ほど(4)。よって、敗血症への十分な感度と特異度の両者を有しているマーカーは今のところまだ存在しないと考えるのが妥当なのでしょう(5)。マーカー1つで物事を決められることはありません。

 発症から十分な時間が経過しているのであれば、発見的な意義としてCRPとPCTの効力は同じ、との論文もあり、それを以下に2つ示します。2011年のBMJでは、小児の発熱において、重症感染症をrule inするためのカットオフ値は、PCT 2ng/mL(LR+3.6-13.7、LR-0.54-0.58)、CRP 8mg/dL(LR+8.4、LR-0.57)が勧められています。逆に重症感染症をrule outするには、PCTは0.5、CRPは2をカットオフにする必要があるとしています(6)。同じく2011年CHESTには、肺炎と喘息・COPDの急性増悪とを区別するためのROC曲線下面積(95% CI)は、PCT、CRPでそれぞれ0.93 (0.88-0.98) 、0.96 (0.93-1.00)と報告されました。CRP>4.8mg/dLでは感度91%(95% CI, 80%-97%)、特異度93% (95% CI, 86%-98%)で肺炎と喘息・COPDを区別できるとしています(7)。尤度比を計算してみると、LR+13, LR-0.1となりました。結構良い数字ですね。CRPも復権してきたのか?という感じがします。ただ、CRPは前述のように上昇まで時間がかかりますから、それをクリアしてのこの尤度比ということなのでしょう。そこが重要なポイントかなと自分は思います。実験医学的に例えると、CRPはPCR的で、PCTがreal-time PCR的と言っても良いかもしれませんね。

 CRPについてもう少し(8)。CRPは敗血症に対してはRule outに向きます。CRPが高くても敗血症とは言えませんが、ピクリとも動かないCRPは敗血症の可能性を低くします。また、一回のCRPの値で判断するよりもその流れで判断する方が良いとされます。上昇を続けるCRP値は感染症の進行や増悪を示唆します。毎日CRPを測定し、4.1mg/dL以上増加した場合、院内感染症の感度92.1%、特異度は71.4%とした報告もあります。さらに値そのものが8.7mg/dL以上だと感度特異度は高くなり、それぞれ92.1%と82.1%とされています。治療中のCRPの推移をみると、治療開始後48時間(もしくはそれ以上)のCRP値が低下していれば治療が成功していることの指標とできる、という報告が結構多いです。後は、PCTは感染の重症度を反映しますが、感染症の存在をみるにはCRPが良い、という報告もある。とにかくいろんなことが言われています。

 そのPCTについては、偽陽性も知っておきましょう。腫瘍、熱傷、手術、膵炎、熱中症、非細菌性の重症感染症などなど、いわゆるcritically ill patientでは上昇してしまいます(9)。2007年の論文では、そのcritically ill patient、特にICU患者も含めると、敗血症への感度71%、特異度71%という期待はずれなものとなってしまいました(10)。偽陽性を知って使いこなすことが求められます。

 今は、抗菌薬治療のガイドとしての研究がメインかもしれません。2009年JAMAなどで、主に下気道感染治療に対するガイドに用いられ、抗菌薬使用を大幅に減らすことが出来ました。大まかに以下の様に示されます(11)。

<0.1μg/l:細菌感染症の可能性がかなり低い
0.1-0.25μg/l:細菌感染症の可能性が低い
0.25-0.5μg/l:細菌感染症の可能性が高い
0.5μg/l<:細菌感染症の可能性がかなり高い

 敗血症やICU患者に対しても同様にガイドとしての役割を持たせて治療に使おうと言う研究も進んでいます(12)(13)。この2つの論文では、PCTをガイドにすることで抗菌薬の使用を減らせるだろう、ICU滞在期間が短くなるだろうとしています。

 総じて、現在はまだPCTを細菌感染の診断として生かすことが出来るかは難しいところ。一時期は大きな期待が寄せられていたPCTですが、この検査だけで全てを決めることは、決してしてはいけません。研究がより進み、保険点数の問題が解決されると、重篤さの指標として、また抗菌薬使用の指標として参考になるかもしれません。しかし、何より大事なのは毎日の問診と診察です。それがあって初めてPCTも生きてくる、そう考えましょう。CRPについても同じ。一回の値を信用せずに継続して見ていく。それも臨床所見と必ず併せなければならない、ということ。


☆参考文献
1) Serum Procalcitonin and C-Reactive Protein Levels as Markers of Bacterial Infection: A Systematic Review and Meta-analysis. Clin Infect Dis. (2004) 39 (2): 206-217.
2) Serum procalcitonin measurement as diagnostic and prognostic marker in febrile adult patients presenting to the emergency department. Crit Care 2007;11(3):R60
3) Additional value of procalcitonin for diagnosis of infection in patients with fever at the emergency department. Crit Care Med. 2010 Feb;38(2):457-63.
4) Usefulness of procalcitonin serum level for the diagnosis of bacteremia. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2001 Aug;20(8):524-7.
5) Sepsis biomarkers: a review. Crit Care. 2010; 14(1): R15.
6) Diagnostic value of laboratory tests in identifying serious infections in febrile children: systematic review. BMJ. 2011 Jun 8;342:d3082.
7) Procalcitonin and C-Reactive Protein in Hospitalized Adult Patients With Community-Acquired Pneumonia or Exacerbation of Asthma or COPD. CHEST 2011; 139(6):1410–1418.
8) Biomarkers in the critically ill patient: C-reactive protein. Crit Care Clin. 2011 Apr;27(2):241-51.
9) Procalcitonin assay in systemic inflammation, infection, and sepsis: clinical utility and limitations. Crit Care Med. 2008 Mar;36(3):941-52.
10) Accuracy of procalcitonin for sepsis diagnosis in critically ill patients: systematic review and meta-analysis. Lancet Infect Dis (2007) vol. 7 (3) pp. 210-7.
11) Effect of procalcitonin-based guidelines vs. standard guidelines on antibiotic use in lower respiratory tract infections: the ProHOSP randomized controlled trial. JAMA (2009) vol. 302 (10) pp. 1059-66.
12) Procalcitonin-guided antibiotics in severe sepsis. Crit Care. 2008;12(6):309. Epub 2008 Dec 4.
13) Procalcitonin to Guide Duration of Antimicrobial Therapy in Intensive Care Units: A Systematic Review. Clin Infect Dis. (2011) 53 (4): 379-387
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2012
02.21

抜け殻というお化け

Category: ★精神科生活
 この前、看護師さんから不安な声で聞かれました。

「先生、○○さん便秘で、摘便したんですけどこんなカプセルみたいなのがじゃらじゃら出てきて。。。何なんでしょう??」

 保管してくれていたらしく、出てきたのはこんなもの↓







 ワタクシは思い当たる節があり、以下。

「あ、これインヴェガ®じゃないですか?あれゴーストピルで出てきますよ」

 対して看護師さん以下。

「ゴースト?何ですかそれ??」



 ゴーストピル(ゴーストタブレット)は、お薬の抜け殻のこと。代表例はオキシコンチン®。精神科ではデパケンR®もその類ですね。こういった薬剤は徐放剤で、ゆっくりと体内に吸収されるようにお薬が工夫されています。この徐放剤の中には、成分を特殊に加工された外膜が包んでいて、安定してゆっくりと成分がじわじわと出るように工夫されているものがあり、そういうお薬は、飲むのが1日1回でも良くなっています。

 この○○さんという患者さんに使用していたインヴェガ®というお薬は、リスペリドン(リスパダール®)の活性代謝物であるパリペリドンの錠剤。これは浸透圧を利用した特殊なカプセルを使っているらしく、1日1回投与が可能になったものです。リスパダール®は、添付文書的には1日2回投与(抗精神病薬の1日何回とか言うのはあまりアテにはなりませんが…)。

 自分はインヴェガ®のゴーストピルを見るのは初ですが、インヴェガ®がゴーストピルになるタイプのお薬であること、後はあまりにも出てきたモノの形がインヴェガ®そっくりだったことが、思い当たる原因となりました。

 医療関係者の方々はゴーストピルについて知っておいて損はないと思います。患者さんにもあらかじめ説明しておきましょう。消化されずに出てくると思ってしまったり、幻覚妄想状態にある患者さんはそれで何かしらの妄想を抱いてしまうやもしれません。これらは不安を惹起させたりアドヒアランス低下にもつながります。

 ということで、実に精神科らしい記事となりました。


 ちなみにこれがインヴェガ錠そのもの。

PA0_0330.jpg

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2012
02.19

てんかんを勉強するには

Category: ★本のお話
 「てんかん」は精神科が診ることもあれば、神経内科が診ることもあります。精神科が診るというのは結構世界的には珍しい部類だと思います。でもそういう素地があったからこそ非定型精神病という概念が生まれてくれたのかもしれませんね。

 自分の勤めている病院ではてんかんを神経内科が診るのですが、愛知医科大学は精神科。そこには兼本浩祐先生という、てんかんの超エキスパートが鎮座しております。

 てんかんは専門医に任せたくなってしまいますが、いつ何時こちらが診ないとも限りません。そこで本を紹介。

てんかん学ハンドブックてんかん学ハンドブック
(2006/01)
兼本 浩祐

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 医学書院から出ているこの本、表紙が実に素っ気なくて買う気を起こさせませんが、志高くがんばろーという若手医師向けの本です。脳波を教えに来てくれる寺島先生という、これまた脳波の鬼みたいな先生なんですが、その先生が「てんかんなら”てんかん学ハンドブック”」と仰っております。

 でも自分はあんまりてんかんの勉強意欲がぐぐっと来ず。他の精神疾患に手一杯の状況でして。。。ヒヨッコで、専門外だしなぁ、、、でも勉強しなきゃいかんぞ、あ、でもでも薄めの本が良いという人にはこちら。

専門外の医師のための大人のてんかん入門専門外の医師のための大人のてんかん入門
(2011/05)
不明

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 こちらも同じく兼本先生の本ですが、中外医学社から。まだ表紙はかわいい。ターゲットとする読者は題名の通り。名は体を表すとはまさにこのことです。てんかん学ハンドブックは2006年でしたが、この本は2011年の本なので、ラモトリギン(ラミクタール)やレベチラセタム(イーケプラ)のことも触れられています。こっちの方が分かりやすいので、まずはここから。

 自分が診て患者さんが悪くなるのは申し訳ないですし、何としても必要最低限は目指したいものです。道のりは遠いですな。。。



 と思っていたら、”てんかん学ハンドブック”の第3版が出てしまいました。まずは本当にさらっと学びたい方には”大人のてんかん入門”で、少し入門からしっかりめにという方には”てんかん学ハンドブック”という感じ。

てんかん学ハンドブック 第3版てんかん学ハンドブック 第3版
(2012/04/13)
兼本 浩祐

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2012
02.18

基礎医学の総合的理解に

Category: ★本のお話
カラー図鑑 人体の正常構造と機能―全10巻縮刷版カラー図鑑 人体の正常構造と機能―全10巻縮刷版
(2012/01)
不明

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 『カラー図鑑 人体の正常構造と機能 全10巻縮刷版』¥18900

 お金に余裕があれば買いたい教科書。各臓器の解剖組織生理をまとめた本で、2012年に改訂第2版となりました。上記のリンクは全10巻のエッセンスをまとめた縮刷版。本当にお金が余っていれば、臓器ごとの分冊が欲しいですね。でも全部そろえると70000円弱となり、少し厳しいかしら。。。

 これを見ながら基礎医学を学ぶと、ずいぶんと楽しいと思います。試験に全て対応しているとは言い難いですが、絵もきれいですし説明も分かりやすい。何かとあれば便利です。

 これの臨床よりなものが、メディックメディアからのヒット作『病気がみえる』でしょう。

 どちらも学生さんには心強いものになってくれると思います。この前ぱらぱらとめくってそう思いました。小難しい本を読むのも味わいがあって良いですが、まずは分かりやすくて見た目にインパクトのあるところから入るのも良いのではないでしょうか。
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2012
02.07

大動脈解離を見つけたい、否定したい

 大動脈解離 Aortic Dissectionはマレですが、実に怖い病気。特にA型は致命率が非常に高く、救命はなかなか難しいとされています。国試では結構snap diagnosis的な疾患ですが、実際は見つけづらいもの。非典型例が典型だ、とも言われてしまいます。放置しているとSIRSとなるため、熱も出るしSpO2も下がってくるし。発熱されたら解離をついつい鑑別から外してしまいそうになってしまいます。しかも血管が裂けることで痛みが生じるので、意外と痛みに波が出るんです。裂けて、少し休んで、また裂けて。この様に進展する場合は「蠕動痛…?」と勘違いしてしまうこともありますね。

 McGee先生のEvidence Based Physical Diagnosis(2nd edition)では胸痛患者における身体所見で、大動脈解離を疑うものの感度(sensitivity)、特異度(specificity)、陽性尤度比(positive likelihood ratio:LR+)陰性尤度比(negative likelihood ratio;LR-)をそれぞれ出しています。以下、ご紹介。

Pulse deficit:感度12-49% 特異度82-99% LR+6.0 LR-NS
AR murmur:感度15-49% 特異度45-95% LR+NS LR-NS
Focal neurologic sign:感度14% 特異度100% LR+33.4 LR-NS

 どれも感度が高くないのが欠点ですが、巣症状はさすがに凄いですね、特異度100%でLR+33.4って…(あくまでも胸痛患者さんにおいて、です)。AR雑音はあってもなくても診断に何ら寄与せず、というのも意外。

 その本では更に続きまして、複数の所見の組み合わせで診断の補助にしよう!という論文が挙げられています。

Clinical Prediction of Acute Aortic Dissection(FULL TEXT)

 2000年の論文。この中では

①pain that is tearing or ripping(引き裂かれるような痛み)
②pulse deficits, blood pressure differentials(>20mmHg), or both(脈拍欠損、血圧左右差)
③mediastinal or aortic widening on chest radiography(胸部X線で、縦隔か大動脈の拡大)

以上3つのコンボで解離の診断の助けに!ということを紹介しています。この①から③の中で

3つともない:感度4% 特異度47% LR+0.1 LR-…
1つある:感度20% 特異度… LR+0.5 LR-…
2つある:感度49% 特異度… LR+5.3 LR-…
3つともある:感度27% 特異度100% LR+65.8 LR-…

 3つともなければ、事前確率にも依りますが解離は否定的になります。1つあっただけじゃ何とも。。。2つある場合は中等度に確率を押し上げます。3つともあった日にゃあ、Rule in!CXRの縦隔拡大なんて自分はあんまり大したモンじゃなかろうと考えていたのですが、合わせ技だと使えますね。。。ちなみに単品ではLR+2.0 LR-0.3なので、何とも微妙。。。

 解離のA型は見逃したらアウトなので、やはり疑う!というのが大事。心筋梗塞を疑えば必ず解離によるものを否定しなければいけませんし(治療が全く逆)、特に解離が冠動脈を噛む場合は右冠動脈が多いので、右室梗塞を見たら解離から来たのか?と疑うのは外せません(大動脈経の拡大・AR・フラップの存在、をエコーで見ましょう)。

 患者さんを失わないためには、病歴・身体所見などで疑い、他の致命的な疾患でないのなら造影CTを追加するべき、というのが結論になるのでしょうか(巣症状、脈拍欠落、血圧左右差、背部痛、腹痛、下肢痛などなど)。

 身体所見ではなく血液検査ですが、解離を疑った患者さんのD-Dimerが基準値以内であれば、解離が100%否定できるとする論文が2005年に日本人によって出ています。

A rapid bedside D-dimer assay (cardiac D-dimer) for screening of clinically suspected acute aortic dissection.(PDFファイルへのリンク)

 それによるとD-Dimerの解離に対する感度は100%、特異度54%、陽性予測値58%、陰性予測値100%となっています。しかし、ちょっと検証に用いた患者さんの人数が少ない。

 その後に出た論文を眺めていると、感度100%はイイスギ感があり、でも95%くらいはあるようです(Serum D-dimer is a sensitive test for the detection of acute aortic dissection: a pooled meta-analysis.)。

 更に、カットオフの値を下げると感度100%で行けるよ~、と示した論文も(D-dimer in ruling out acute aortic dissection: a systematic review and prospective cohort study.)。いずれもレビューですが。

 でも大切なのは、病歴と身体所見で、ある程度の「らしさ」を弾き出しておくことだと思います。胸痛患者さんでも平気な顔をしていて移動する痛みや発症時から最大の激痛などがなく、なんか深呼吸すると痛い…という方なら、D-Dimerが基準値でほぼ100%否定できるのでしょう。一方、裂けるような痛みで背中に移動してるんですが…という患者さんでD-Dimerが正常であっても、完全なrule-outは出来ないかと。やはり病歴と身体所見で疑わしければ造影CTへ速やかに移行するのが大事だと思います。しかも偽腔閉塞型だとD-Dimerは上昇しづらいとも言われます。

 何か解離っぽくないんだけど、怖いから否定したい!という時にD-Dimerはほぼ100%の感度で除外できる、と考えるのが妥当ではないでしょうか。

 注意したいのは、D-Dimerは検査機器や試薬によって値にバラツキがあるということ。自分の病院ではどうなのかを知っておくことは大切です。


 追補:解離のCXRで、こういうサインもありました↓

カルシウムサイン Calcium Sign:consisting of the separation of intimal calcification from the outer border of the aortic knob by 1 cm or more, is highly suggestive of dissection but present in a minority of cases.

 CXRを見ると、ある程度年齢の行った人は大動脈弓の辺縁部に石灰化を見ることがあります。この沈着物は当然、内膜にくっ付いてます。解離は血液が中膜をベリベリッと破くので、内膜と外膜とが「解離」します。ですから、CXRの石灰化に注目すると、解離では石灰化が異様に大動脈弓の内部に見えることがあるとのこと。感度や特異度、尤度比はちょっと分かりませんでしたが、あまり見られる所見ではないのは確かなようです。あれば大きな武器になる、といったところでしょうか。この石灰化が離れて見えるサインは、弓部のみでなくそれ以降でも確認することが出来ます。

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 胸部の単純CTでも解離では石灰化が大動脈内腔の方に移動して見えます。これもカルシウムサインの1つと言えるでしょう。

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2012
02.06

心音の聴診

 医者は学生の時に聴診器を買います。手にした時は「何となく医者だなー」と思ったものです。実際に心臓の音を聞いて見ても、最初は何が何やらだった記憶があります。懐かしいものですね。旧ブログにあった心音関係の記事をここにまとめておきます(学生の時に記載したものなので間違いがあるかもしれません…)。

 I音とII音。

I音…僧帽弁(と三尖弁)閉鎖の直後に生じる振動
II音…大動脈弁(と肺動脈弁)閉鎖の直後に生じる振動

 典型的な聴診の順序を示しましょう。

 まず、指で胸の心尖拍動(一番ドクンドクンって動くところ)を触知。そしてその触知した部位に聴診器(膜型)を当てます。もし触知できなかったら、左鎖骨中線第五肋間あたりに何となく聴診器を当てます。

 次に胸骨左縁第四肋間、胸骨左縁第三肋間(Erb領域)、胸骨左縁第二肋間、胸骨右縁第二肋間と移動させます。

 心尖部では ドントッ ドントッ ドントッ と聞こえてくるはずです。若いヒト(十代までかしら)なら ドントトン ドントトン と聞こえてきます(この「トン」は生理的III音)。残念ながら自分は若くないので聴こえませんでした…。親戚など、近くに子供がいれば聴いてみて下さい。

 さて話を戻して、、、 ドントッ のドンがI音で、トッがII音です。

 もうちょっと分かりやすくすると、次に聴こえてくる音との時間が短い方がI音。長い方がII音。聴こえ方を示すと

①② ①② ①② ①②

こんな感じになります。

 それでも分からなければ、心尖部から心基部(胸骨左縁第二肋間や胸骨右縁第二肋間)に移行していって、大きくなっていくのがII音ということになります。ちなみに正常の場合、心尖部ではI音はII音よりも大きく(心尖部は僧帽弁により近いため)、心基部ではII音の方が大きくなります(心基部は大動脈弁により近いため)。こんな風にするとI音とII音は判別できますが、それよりも楽な方法として、聴診と同時に頚動脈を触知するというのもあります。I音→頚動脈拍動→II音の順番なので分かりやすいです(I音と頸動脈拍動はほぼ同時)。

 ここで1つ例を。心尖部でI音よりもII音の方が大きく聞こえる時は何だろう??ということは、I音が小さいかII音が大きくなっているかのどちらか。つまり「I音の減弱」か「II音の亢進」を疑います。I音の減弱では左心室の機能低下を、II音の亢進では持続性の高血圧を考えます(がしかし、追補のエビデンスをご覧下さい)。

 でもでも、I音の減弱かII音の亢進かなんてワカランよ…。そんな時は、ベル型と膜型とを切り替えてみましょう。
I音がベル型では聴かれるけど膜型では聴きにくい、こういう時にI音の減弱を疑います。それ以外ではII音の亢進、となる訳、らしい。

 また例を1つ。II音の生理的分裂。注意深く聴くと、心基部でII音の分裂が分かります(心尖部では聴こえません)。正常では息を吸った時(吸気時)に ドントロン ドントロン ドントロン と聴こえ、吐いた時(呼気時)は ドントッ ドントッ ドントッ と聴こえるはずです。でも最初は、息を吸った時の雑音がかなり邪魔でとてつもなく聴きづらいので、息を止めてやや前かがみになって(自分の心音を聴いている時。他のヒトを聴診している時は前かがみになってもらって)聴いてみましょう。すると聴こえてきます。でもあまりはっきりしないヒトもいるそうですが。

 ちょっとポイント:心電図異常(不完全右脚ブロック)があり、II音が呼気時でも同じくらい分裂している場合(固定性分裂)は心房中隔欠損を疑います。

 I音・II音のエビデンス
①リズムが正常にもかかわらずI音の強さが変わっていたら、房室解離を強く示唆(LR+24.4)
②意外にも、IIpの亢進は肺高血圧を示唆しない!IIpの亢進がなくとも肺高血圧は否定できない!(感度58-96%、特異度19-46%、LR+NS、LR-NS)
③触知できるIIp音は、肺高血圧を示唆(LR+3.6)
④IIp音が触知できない場合、肺高血圧は否定的(LR-0.05)
-----
 今度はII音に絞ってお話しを。II音は大動脈成分(IIA:大動脈弁の閉鎖する音)と肺動脈成分(IIP:肺動脈弁の閉鎖する音)の二つからなります。普段聴いているII音はIIAがメインで、IIPは隠れてしまっているのですが、吸気(静脈還流が増加し、胸腔内圧が低下)によってIIAもIIPも両方聴こえます(これを「分裂する」と言います)。それは何故?ということで教科書から引っ張ってきました↓

第一に、右心室の拍出量が増加することによって肺動脈弁の閉鎖が遅れること、第二に、肺血管のコンプライアンスが吸気時に増強し、そのために左心系への還流血液が増強し、同様の機序で左心系の駆出時間が短縮するためである。

だそうです(何か難しい…)。ま、とにかく分裂するということで、、、、、。

 で、II音の分裂には「生理的分裂」「幅広い分裂」「固定性分裂」「奇異性分裂」があります。

 生理的分裂 physiological (respiratory) splitting は、吸気時に分裂して聞こえるというもので、生理的と言う名前の通り病的な意義はなし。

 幅広い分裂 wide splitting は呼吸サイクル全体を通して分裂が聴かれるというもの。呼気時にも分裂して聴こえますが、その幅は吸気時よりも小さいものです。右脚ブロック(最多)、肺動脈弁狭窄、僧帽弁逆流などで肺動脈弁の閉鎖が遅れることから出る所見。

 固定性分裂 fixed splitting も呼吸サイクル全体で聴こえるのですが、呼気・吸気の影響を受けません。ずっと同じ間隔を空けてII音が分裂しています。心房中隔欠損で聴こえるものです(前回ちょっと出ましたね)。心房でシャントが出来ることで、呼吸に伴う血液量の変化がキャンセルされてしまうために分裂が固定されてしまう、とのこと。
この固定性分裂が聴こえない場合は、ASDがないことを強く示唆します(LR-0.1)。聴こえてもASDと決め打ちはできません(LR+2.6)。

 奇異性分裂 paradoxical splitting 。如何にも名前が病的ですな。。。これは一般と逆で、呼気時に分裂して聴こえ、吸気時には分裂がなくなってしまうという、まさに奇異な分裂です。しかも、IIAが遅れるかIIPが早くなる→IIPがIIAに先行しているのです(普通はIIAの次にIIPが聴こえます)。これまた奇異ですね。大動脈弁の閉鎖が遅れたり、肺動脈弁の閉鎖が早くなったりという病態で聴こえます。左脚ブロックや大動脈弁狭窄が例として挙げられます。が、感度や特異度もあまり芳しくなく、臨床的な意義は薄いとされています(感度50%、特異度79%。LR+NS、LR-NS)。

 II音の判別っていうのもあります。心尖部から心基部にかけて幅広く伝わっているのがIIA。胸骨左縁第二肋間の辺りに限局しているのがIIPということに。

 何か色々あるもんですね。。。
-----
 最後に過剰心音を取り上げましょう。これには6種類を挙げておきます(他にもありますが、一応コモンなもの、重要なものとして)。

III音(心室充満音)、IV音(心房音)、僧帽弁開放音(OS)、大動脈駆出音(AE)、肺動脈駆出音(PE)、収縮中期クリック(K)

 これらですね。

 いきなりですが、とある患者さんの聴診で、II音の後に過剰心音を聴きました。さて、その鑑別は?
⇒IIp、OS、III音を考えましょう。

 IIpはII音の分裂で、II音(IIa)の直後にあり、音量は小さいです(心尖部聴診なら殆ど聴こえないはず)。OSですが、最近は僧帽弁狭窄症の患者さんが少なく、殆どお耳にかからないとのこと。IIpと比べるとII音から離れて、高い音なんだそうです。III音はII音から最も離れていて、心尖部で良く聴こえます。これには生理的III音と病的III音がありまして、前者は若年者で聴かれるもの(正常でも聴こえないことが多いのですが、その時は一応高血圧や心筋の肥厚を疑うとのこと)。I音、II音も大きく聴こえ、III音の音程も高いのが生理的の特徴です。病的なものですと、I音が小さく聴かれて、III音の音程が非常に低いです。ベル型で注意して「あるかーあるかー」と聴きましょう。病的III音はCHFによる容量負荷、僧帽弁・三尖弁の逆流なんかで心室機能が低下したら出てくるもの。心室性奔馬調律ventricular gallopなんて言われたりもしますね。ギャロップ、何か循環の講義で聞いた覚えのある単語。。。拡張型心筋症dilated cardiomyopathy(DCM)でも聴こえることで有名。DCMは残念ながら予後不良の疾患。心臓移植を受けなかった場合の5年生存率は50%未満とのこと。

 では、またとある患者さんの聴診で、II音の後というよりはI音の前(直前)で過剰心音を聴きました。さて、鑑別は?
⇒IV音、I音の分裂、くらいかしら。。。

 IV音。これはIII音と比較すると臨床的意義は低いとされています。心尖部で聴取されますが、この子も音が低くて聴こえづらいので、ベル型を使いましょう(III音・IV音は患者さんを左側臥位にすると聴きやすくなります)。左室の拡張障害が起こっていることを示しますから、左室肥厚(肥大型心筋症や高血圧)のため、左室拡張末期圧が上昇している状態なんです(容量負荷というよりは圧負荷)。大量の血液の柱が心室に流れ込んで、心房の収縮が大きくなることで発生。心房性奔馬調律atrial gallopなんて呼ばれ方もします。肥大型心筋症hypertrophic cardiomyopathy(HCM)は突然死の原因になったりなんぞしますが、多くの患者さんでは肥大は軽度で、普通に寿命を全うできるようです。遺伝子の突然変異が関わっているそうですね、この疾患。I音の分裂はあんまり重要な所見とは考えないというのが一般的のようです(と言うと怒られそう…)。じゃあ問題なのが、IV音とI音の分裂との聴き分けとなります。これはベル型と膜型を使い分けることで解決。ベル型で良く聴こえるのがIV音。逆がI音の分裂です。

 III音、IV音の両方が聴こえる患者さんではI音、II音とともに四部調律となります。これで頻脈になったら、III音とIV音とが重なって重合奔馬調律summation gallopというものになります。頻脈で三つ音が聴こえる、となったら重合奔馬調律を考えたいですが、正確なものは徐脈にしてみないと分からないのではないかしら、と思います。どうなんでしょう、実際。

 収縮中期クリックは、I音とII音との間に聴かれるもので、結構高い音になってます。I、クリック、IIの順で「タパタ、タパタ」なんて聴こえるみたいです。僧帽弁逸脱症で名に負う代物ですが、この音単独では臨床的な重要性は低いと考えられていて、僧帽弁逆流雑音が同時に聞かれなければ特に問題は無い様子。本当かどうかは定かではありません。

 駆出音は、大動脈弁狭窄や肺動脈弁狭窄の時に収縮期雑音の直前に発する過剰心音でして、弁狭窄と弁下狭窄の鑑別に用いられるそうです(前者は駆出音あり、後者はなし)。また、先天生の大動脈二尖弁でも聴こえるみたいですね。AEとPEとの鑑別は非常に難しいので、他の所見を参考にすべし、というのが沢山先生(聴診の大御所)のお言葉。後ですね、駆出音はI音の病的分裂として括っても良いみたいです。あんまり大事にするような音ではないというのが、個人的な意見(あくまでも個人的な意見です)。

 過剰心音のエビデンス
①III音が聴こえることの意味
 駆出率<0.5を示唆(LR+3.4)
 左房内圧を示唆(LR+5.7)
 BNP上昇を強く示唆(LR+10.1)
 胸痛患者が心筋梗塞であることを示唆(LR+3.2)
 呼吸困難で救急外来を受診した患者では心不全を強く示唆(LR+11)
②術前評価でIII音が聴こえることの意味
 術後の肺水腫をを強く示唆(LR+14.6)
 術後の心筋梗塞や心臓死を強く示唆(LR+8.0)
③III音が聴こえないことの意味
 駆出率>0.3を示唆(LR-0.3)
④IV音が聴こえることの意味
 心筋梗塞後の5年生存率が低下することを示唆(LR+3.2)

 以上で心音の聴診について、軽くまとめました(心雑音は扱ってないですが)。あくまでも学生時代に記したものなので、鵜呑みにしないようにお願いいたします。でも精神科となった今の自分よりも色々知っていたような。。。もはや修正、確認する知識もなくなりました…。
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2012
02.06

心臓の触診

 心尖拍動の触診。最も基本的な身体診察の1つです。触って何の意味があるの?ただ心尖部の聴診のために位置を見つけるくらいじゃないの?と思われがちですが、我々の予想を越えて、心尖拍動の触知には疾患に対する幾つかのヒントが隠されています。McGee先生の"Evidence Based Physical Diagnosis"から。

☆POSITION OF APICAL BEAT
Supine apical impulse lateral to MCL
・Detecting cardiothoracic ratio>0.5:感度39-60%、特異度76-93%、LR+3.4、LR-0.6
・Detecting low ejection fraction:感度24-66%、特異度93-98%、LR+10.1、LR-0.6
・Detecting increased left ventricular end-diastolic volume:感度33%、特異度96%、LR+8.0、LR-0.7
・Detecting pulmonary capillary wedge pressure>12mmHg:感度42%、特異度93%、LR+5.8、LR-NS
Supine apical impulse>10cm from midsternal line
・Detecting cardiothoracic ratio>0.5:感度61-80%、特異度28-97%、LR+NS、LR-0.5

☆SIZE OF APICAL BEAT
Apical beat diameter≧4cm in left lateral decubitus position at 45 degrees
・Detecting increased left ventricular end-diastolic volume:感度48-85%、特異度79-96%、LR+4.7、LR-NS

 上の結果を見ると、仰臥位で心尖拍動が鎖骨中線より外側なら、心胸郭比>50%や駆出率低下、左室拡張末期容量の増加、PCWP>12mmHgといったことが考えられるんです。ベッドをギャッジアップし患者さんを45度の姿勢で仰臥位にした状態で、心尖拍動の直径が4cm以上なら左室拡張末期容量増加を疑うことができます。

 これらの情報を救急外来に生かすとするなら、呼吸苦を訴えている患者さんで心尖拍動がMCLより外側(大ざっぱに言えば、乳頭より外側)にあれば、心不全を示唆すると考えておきましょう。

 また、拍動にも種類があり、hyperkineticやsustainedなどが代表例。hyperkineticは、心尖拍動が大きい、つまりoveractingなものです。MSの患者さんで心尖拍動がhyperkineticなら、MRや大動脈弁疾患の存在を強く疑います(LR+11.2)。また、hyperkineticでなければ、それらの存在がやや否定的になります(LR-0.3)。ですが、hyperkineticかnormalかは主観に基づいているので、初心者には厳しい。。。

 より分かりやすいのはsustained(持続性)。収縮期間中ずっと外方運動を続け、II音で降下し始めるものと理解されています。感覚で言うと、「ぬったり」と触れる感じでしょうか…。圧and/or容量のoverload、重症心筋症、左室瘤などがあるとこういう触れ方になるようです。んで、大動脈性の駆出性雑音がある患者さんでこのsustainedがあれば、MRの合併を強く疑います(LR+11.2)。そしてsustainedがなければMR合併を少々否定的に見ます(LR-0.3)。また、心基部で拡張早期雑音を聴いた患者さんでもこのsustainedがなければ、中等度から重度のARはかなり否定的(LR-0.1)。また、胸骨傍の左下領域(Erb辺り?)でsustainedな動きがあれば、右室最高圧≧50mmHgであることをある程度示唆します(LR+3.6)。

 ちなみに胸骨左縁第2肋間で収縮後期に拍動が触れるということは、IIpが触知されたことを意味します。MS患者さんでそれが触れたら、肺高血圧であることを示唆します(LR+3.6)。そしてIIpが触れなければ、MSでの肺高血圧はとんでもなく否定的(LR-0.05)。

 肺高血圧の話が出たついでですが、聴診でII音亢進の有無は、肺高血圧の診断になんら寄与しない様です(LR+NS、LR-NS)。意外ですよね…。でも国試では肺高血圧か!?と強く疑いましょう。

 心臓の触診1つ取っても色んなことが分かるんですね。身体所見は限界をきちんと把握した上で行えば大事な情報がきちんと得られるんだなと、再確認できるようなエビデンスばかりでした。

 ただこの本では、仰臥位では健常人の25-40%で、側臥位でも50%ほどでしか触知できないとされています(仰臥位で見えたら左室拡大を少々疑います)。でもアメリカ人のデータなので、日本人なら彼らより痩せてますからもうちょっと触知できる確率は上がるのかも?
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2012
02.04

くも膜下出血を否定!したい。。

High risk clinical characteristics for subarachnoid haemorrhage in patients with acute headache: prospective cohort study.
BMJ. 2010 Oct 28;341:c5204. doi: 10.1136/bmj.c5204.

 救急外来の大敵、くも膜下出血(SAH)。地雷疾患の横綱として永きに渡り君臨しています。2010年のBMJから、どういう患者さんを安心して帰せるか、という論文が出ました。

 救急を受診した16歳以上の患者さんのうち、神経学的障害がなく(GCS15)非外傷性の頭痛であり、痛みの強さが最大になるまで発症から1時間かからなかった、または頭痛によって失神したという人々を対象としています。ちなみに前向きコホート。

 問診・身体診察・検査を行って、色々組み合わせたら以下の3つのルールが出来ましたよ、というお話。

☆Rule 1
Age >40
Complaint of neck pain or stiffness
Witnessed loss of consciousness
Onset with exertion

☆Rule 2
Arrival by ambulance
Age >45
Vomiting at least once
Diastolic blood pressure >100 mm Hg

☆Rule 3
Arrival by ambulance
Systolic blood pressure >160 mm Hg
Complaint of neck pain or stiffness
Age 45-55

※これらの各ルールにおいて、1つでもYesがあれば高リスクで検査が必要、すべてNoだった患者は低リスクと判断する。

 SAHに対し、3つのルールの感度は、

全て100%(95%CI:97.1-100.0)

 陰性予測値も100%でした。低リスクなら安心してご帰宅!

 そして特異度。

ルール1:28.4%(26.4-30.4)
ルール2:36.5%(34.4-38.8)
ルール3:38.8%(36.7-41.1)

 CTとルンバールのどちらかまたは両方を行うべき患者の割合は、

ルール1:73.5%
ルール2:65.8%
ルール3:63.7%

という結果。

 こういうのがあると心強い!でも、これで1つでもYesがあった時はやっぱりコワイ。。。しかもCTとルンバールのどちらかを行う患者さんも随分多かったみたいですし。しかも研修医や非専門医が読影するCTもなかなか安心できないもの。ほんの少しの出血とか、軽度の脳室拡大とか、こういうのは見逃しやすいですよね。。。

 ただし、この論文を鵜呑みにすることは今のところ避けましょう。世の中に完全なものはありませんので。参考とするには全く差し支えないと思います。

 なお「人生で最大の頭痛だった。。。」と言った人はこの研究では78.5%の人々だったそうです。
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2012
02.04

人間は”あいだ”で成り立つ

 ”赤の他人”という言葉があります。それは、隣人を何とも非常に遠い存在に思わせます。私たちは「そんな奴ら関係ないよ、所詮は他人でしょ」と考える傾向がありますが、意外にも人っていうのは近くでつながっているんです。初めて知り合った人とお話をしているうちに、共通の友人がいて、、、なんてことがありますが、好例ですね。

 それについて「本当にそうなの??」と色々と実験がされていまして、ミルグラムという先生が元祖。大規模なものはコロンビア大学のワッツ先生が行い、電子メールを利用したもの。その方法はインターネットで実験への参加者を募り、世界の何処か遠くにいる一般人の目標人物まで電子メールの鎖をつなぐというもの。彼らの実験では何とですね、


赤の他人との距離は6人程度


という結果が出たんです。すなわち、私たちは6人くらいで世界の人とつながってるんです!これを『6次の隔たり』といい、ネットワークの原理の1つ。それは、大人数がいて枝が複雑に絡み合ったネットワークの中に、私たちがいることを示してくれます。複雑だからこそ、どんな人とも少ない人数を辿れば接点があるんですね。雑踏ですれ違うあまたの人とも、6人位つないでいけば知り合えるかもしれません。そう考えると、他人も身近に感じてしまいます。

 勿論それだけで人間関係を語ることは出来ず、もう1つの原理に『コミュニティ(クラスター)』というものがあります。換言すると「集団」とも表現できます。家族であったり、部活であったり、飲み友達など…。みんな、複数のコミュニティに属しています。6次の隔たりと違って、こっちは自分でもすんなり理解できそう。コミュニティは、それに属することで人に安心感・帰属感を与えてくれる機能を持っています。これ大事。

 その2つの原理を結びつけるのが『ショートカット(近道)』という存在。例えば、あなたが北海道にいるとしましょう。そこから会ったことのない三重の人まで知人を介して会おうとする時、北海道から青森、そして青森から岩手、そして岩手から宮城、、、と地理的に段々と近づくことはしないと思います。三重出身で今北海道にいる人や、三重に勤めたことのある人などなど、何か三重に縁のある人を身近にまず探します。その人が、北海道と三重を直接つないでくれます。それが、近道。

 コミュニティの多いネットワークに、近道をプラスしてあげる。すると、6次の隔たりが出来上がるとともに、そのコミュニティも崩れません。「友達の友達はまた友達」の構図ができ、巡り巡って人類みな友達に。私たちのいるこのようなネットワークを


スモールワールド・ネットワーク


っていいます。このスモールワールドでは、全ての人はつながっていて、コミュニティによって守られています。

 人間関係にはこれ以外にもスケールフリーやハブといった理論があり複雑ですが、基本はこの2つの原理。

 コミュニティに関して、子どもについて付け加えておきます。子どもに色んなお稽古事や塾を押し付ける親が多いですが、それだと子どもが精神的に参ってしまいます。毎日異なるコミュニティに少しづつ接することとなり、どのコミュニティにも深く入っていけません。そして家族との時間も少なくなり、結果的に、どのコミュニティの中にもいられなくなります。これが精神的な傷となってしまうのでは、と危惧されています。子どもの帰れる、安心を得られるコミュニティをまず親に作ってもらいたいと思います。勿論、1つのコミュニティへの囲い過ぎは良くありません。コミュニティを奪い過ぎない程度に家族や学校以外の世界もあることを伝えると、子どもにとって良いのでは。

 私たちの中には、組織に埋もれて日々を何となく過ごしたり、義務的に送ったりという人も多いかもしれません。コミュニティも希薄化し、心の拠り所が寂しいものとなり、兎角に人の世は住みにくいという言葉がぴったり。でも、私たちは誰かと結びついています。その結びつくネットワークでは欠けてはならない存在。自分に自信を持って、そして自分を大切に。そしてコミュニティを無下に扱ってはいけません。帰るところがある、という意識は人に安心感をもたらしてくれます。

 こういったことは忘れがちですが、社会を生きていく上で意味のある、暖かい考えだと思います。
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2012
02.04

救急外来で使用する検査項目~トロポニン-T(ラピチェック追加)

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 胸痛患者さんではトロポニンTを使うことが多いと思いますが、この検査特性を理解してから使用するようにしましょう。

 トロポニンTは自分の勤務している病院で使用できる心筋マーカーの中で最も早期に陽性となり、救急外来でも「胸痛で救急車。はいトロップTね!」という勢いで使われ、とりあえずビール的な印象。でもここで大事なことは、心筋梗塞の発症から測定までの時間によって尤度比が大きく変わるという点。2009年NEJMの報告を示します(1)。

発症から3時間以内:感度55.2%、特異度95.7%、LR+12.8、LR-0.47
発症から6時間以内:感度62.1%、特異度94.9%、LR+12.1、LR-0.40

 他の文献でも大体こんなもんじゃないでしょうか。尤度比を見ると、3時間以内でも陽性尤度比は10以上を示して有用性が高いと言えます。しかし、陰性尤度比は6時間以内でも0.4であり、検査後確率を大きく下げることにはなりません。仮に心筋梗塞の検査前確率を50%とすると、LR-0.4では検査後確率は30%ほどとなり、除外するには程遠い値。ここに注意して下さい。

 LR-0.2というある程度除外に有用性のある数値を出すには、発症から6-8時間経過することが必要になります。トロポニンTが陰性だから心筋梗塞の可能性は低い、とは一概に言えないということは必ず覚えておきましょう。大切な知識ですよ。

 陽性の場合は非常に心筋梗塞の可能性が高くなりますが、それも検査前確率に左右されます。心筋梗塞の検査前確率が50%で、発症から3時間以内のトロポニンTが陽性ならLR+12.8ですので、検査後確率は92%ほどになります。しかし、検査前確率が10%であればトロポニンが陽性でも検査後確率は60%に満たないのです。

 偽陽性の例としては、心筋炎や肺塞栓、大動脈解離、心不全、高度腎不全、骨格筋障害、蘇生後の外傷などなど、多彩な疾患で上昇します。この事実も覚えておき、むやみやたらに検査を乱発したり、その結果に振り回されることのないようにするのが肝腎。

 心筋梗塞に限らず、ある疾患をどれだけ疑っているかで、それを対象とする検査の意義はかなり変わってきます。「検査陰性=その疾患ではない」「検査陽性=その疾患である」という判断は非常に危険です。常に病歴と患者背景、そして診察から適切な検査前確率を弾き出すようにしましょう。

 上記でお分かりなように、トロポニンTは決して完全な検査ではありません。陰性でも疑わしければ循環器内科コンサルトで、、、という安全志向がやはり重要かもしれませんね。

 また、日本で発見されたマーカーにH-FABP(ラピチェック)というものがあります。早期除外と言う意味ではトロポニンTよりも優れてるんですけど、それでも単独で除外の役割を担えません。2010年のAmerican Journal of Cardiologyでは、ラピチェックとトロポニンTの併用を検討しています(2)。胸痛発生から4時間以内の段階でラピチェック単独だと感度86%、特異度66%(LR+2.5、LR-0.2)という値でした。トロポニンTと組み合わせてどちらかが陽性になった場合、感度93%、特異度66%となりました。これだとLR+2.7、LR-0.1となり、確かに有用ですね。4時間以内でこの陰性尤度比は、何と高感度トロポニンIでも不可能な数字なんです。4時間を超えた場合、ラピチェックとトロポニンTとを組み合わせたものの感度は100%、特異度が64%となっています(LR+2.8、LR-0)。この論文はトロポニンTの検査特性がイヤに高く出ており、しかもn=97という小規模。それを考慮する必要があると思いますが、併用は優れているということを示す良い論文だと思います。

 そこまで言っておいてナンですが、現時点で残念ながらラピチェックとトロポニンTの同時測定は保険上認められていないのでした。。。
 
 まとめですが、トロポニンTはそれ単独では決して除外できない検査です。それはどのマーカーにも言えることで、ラピチェックとの組み合わせを行うにせよ同様です。検査に依存せずに、適切な検査前確率の設定が求められます。陽性の際は心筋梗塞をやはり念頭にし、他の鑑別疾患(偽陽性を示す疾患)を手早く除外することが必要になります。


☆参考文献
1) Sensitive Troponin I Assay in Early Diagnosis of Acute Myocardial Infarction; N Engl J Med 2009; 361:868-877; August 27, 2009
2) Comparison of Usefulness of Heart-Type Fatty Acid Binding Protein Versus Cardiac Troponin T for Diagnosis of Acute Myocardial Infarction; American Journal of Cardiology; Volume 105, Issue 1 , Pages 1-9, 1 January 2010
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2012
02.04

救急外来で使用する検査項目~肺炎球菌とレジオネラの尿中抗原

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 尿中抗原には肺炎球菌とレジオネラの2種類があります。いずれも肺炎ではルーチンで測られることがあり、皆さんも救急外来で肺炎を見たらオーダーしているかもしれません。

 まずは肺炎球菌から。肺炎球菌性肺炎は市中肺炎の半数近くを占めます。尿中抗原は、特に良質な喀痰が得られない患者さんや、抗菌薬が投与されても排泄される特性があるため、既に抗菌薬投与が成された患者さんで有効とされます。ただし抗菌薬の感受性は得られないので、検出された肺炎球菌がどんな耐性を持つかなどは分からないことに注意。

 この検査は肺炎球菌性肺炎に対する感度80%、特異度95%です。LR+16、LR-0.21なので、陽性の場合は一気にRule inに。しかし、陰性の際は除外しきれません!2010年のArchives of Internal Medicineでも「陽性なら有用」としています(1)。更に、以下に示す事実を考慮しましょう。

 小児では偽陽性があり、これは上咽頭のバリア未熟、IgAが低いこと、潜在的な中耳炎などが関連していると言われます。また、この抗原は一度陽性になると数週間は排泄されます。2008年のJournal of the American Geriatrics Societyによると、中には数か月間も排泄される患者さんもいるみたいで。肺炎球菌ワクチン(ニューモバックス)を接種後1週間ほどは陽性になるらしいです(2)。既感染か新規発症かきちんと判断しましょう。

 次にレジオネラ。日本では温泉や24時間風呂が発症の患者背景として多いです。市中肺炎での占める割合は数%ですが、50 歳以上の男性が圧倒的に多く発症します(男性は女性の3-8倍の罹患率)。突然の高熱、全身倦怠感で発症することが特徴で、2-3日してから咳や痰が出るようになり、消化器症状の合併もあります。症状の進行は異様に速く、検査値では低Na血症やLDH・AST・ALTなどの上昇が見られることが多いとされます。レジオネラには血清型が複数あり、日本におけるレジオネラ肺炎の半数が1型によるものです。

 尿中抗原はその1型を基本的に調べるもの。1型の診断率は95%以上の感度とされますが、それ以外の血清型では約78.6%、L. pneumophila以外の菌種では13.6%という惨憺たる結果。異なる血清型や、異なる菌種によるレジオネラ感染症を完全には否定することはできません。すべてのレジオネラを含めると感度特異度ともに肺炎球菌尿中抗原と大体同じ値。ただし、2009年のCHESTに掲載された論文では、対象とした論文の質がどれも低く、出版バイアスの可能性もあるとのことで、更なる検討が必要としています(3)。

 肺炎球菌尿中抗原と同様に、レジオネラ肺炎でも尿中抗原が発症後数週間は排泄されてしまいます。レジオネラ肺炎患者には再燃が多々認められるので、検査結果に振り回されないようにしましょう。


☆参考文献
1) Current and Potential Usefulness of Pneumococcal Urinary Antigen Detection in Hospitalized Patients With Community-Acquired Pneumonia to Guide Antimicrobial Therapy; Arch Intern Med. Published online September 27, 2010.
2) Might Streptococcus pneumoniae urinary antigen test be positive because of pneumococcal vaccine?; J Am Geriatr Soc. 2008 Jan;56(1):170-1.
3) Systematic Review and Metaanalysis:Urinary Antigen Tests for Legionellosis; Chest. 2009 Dec;136(6):1576-85. Epub 2009 Mar 24.
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2012
02.04

救急外来で使用する検査項目~マイコプラズマIgM

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 最近はマイコプラズマが流行しているので、救急外来でも見ることがあるんじゃないかなと思います。この病院(名大病院を指します)でも迅速検査でマイコプラズマIgMを測定できますが、この特性を知った上で使用することがとてつもなく大事。

 2009年のclinical infectious diseaseに掲載されている論文を見ると、この検査(イムノカード)は、

感度81%、特異度63%

とされています(1)。もうちょっと高い数字と思っていましたが、意外にも低い数字ですね。この数字だけで尤度比をだすならば、陽性尤度比2.2、陰性尤度比0.3になります。一般的に役に立つ尤度比は5以上もしくは0.2以下なので、この数字はあまり使いものになりません。マイコっぽいなと考えてる患者さんで陰性となったら、困ってしまいますね(検査前確率50%でイムノカードが陰性でも、検査後確率は20-30%くらいはあります)。

 同じくその論文では、年齢別に感度特異度を出しています。

0-9歳:感度97%、特異度48%
10-18歳:感度89%、特異度43%
19歳以上:感度40%、特異度82%

 そして、発症から測定までの期間では、以下のような感度。

0-21日:感度76%
22-59日:感度94%
60日以上:感度100%

 ただし、症例数がかなり少ないという問題もあり、これらの数字が絶対正しいとは言えません。他の論文では異なる数値が示されています(2)(3)。

 またこの論文とは別に、マイコプラズマIgMを測定する際には、一般的に以下の条件を見定めねばなりません。

1.測定時期
2.マイコ既往
3.年齢


 1.においては、マイコの病像が形成されてからIgMが産生されるまで3-4日かかるため、発症早期には陰性になることが多いと言われます。2.においては、これまでの約1年間でマイコ既往があれば偽陽性となることが多いとされます。3.に関しては、成人ではIgMの産生能力が弱いために偽陰性になりやすく、逆に小児ではIgMの産生能力が強すぎるために、既感染でも陽性となってしまう可能性が指摘されています。蛇足ですが、検査値でいうとマイコ肺炎ではASTやALTは殆ど上昇しないと言われていまして、レジオネラとは対照的ですね(Legionnaires' Disease: Clinical Differentiation from Typical and Other Atypical Pneumonias; Infectious Disease Clinics of North America Volume 24, Issue 1 , Pages 73-105, March 2010)。→ただ、上がることもあるよ!と言っている論文もあるんですよね。。。自分はマイコでばんばん肝酵素が上昇しているのを見たことはないですが、ちょろ上がりは少しあります…。

 この1-3の条件をきちんと考えて、目の前の患者さんに活用すべきでしょう(この場合の活用は、検査を使用しないという意味も含まれています)。

 診断と言うのは、検査が陽性だから確定、陰性だから除外などと単純に白黒つくものなんかじゃありません。検査は特性を知って使いこなすもので、こちらが振り回されるものではないんです。検査前確率で大きなミスをしないことが最も重要となってくるため、適切な問診と診察を行いましょう。

 総じてこのマイコプラズマIgM迅速検査は早期診断に向かないものであると考えておくことが無難です。小児の1週間続く咳において、あくまでもスクリーニングとして用いるのであれば、まだ有用性は高いかもしれません。

 参考文献ではPCRについても言及されています(1)(2)(3)。興味があればご参照ください。


☆参考文献
1) Comparison of Laboratory Diagnostic Procedures for Detection of Mycoplasma pneumoniae in Community Outbreaks. Clin Infect Dis. (2009) 48 (9): 1244-1249.
2) New insights into the pathogenesis and detection of Mycoplasma pneumoniae infections. Future Microbiol. 2008 December ; 3(6): 635–648.
3) Detection of Mycoplasma pneumoniae in adult community-acquired pneumonia by PCR and serology. J Med Microbiol December 2008 vol. 57 no. 12 1491-1495
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2012
02.04

輸液 Starter & Booster:第8回~おしまいのどんぶり勘定

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 炎症概念を輸液に持ち込んで、そして腎臓をヘタらせない。これが達成できるように適切な輸液を心がけたいものです。何も一発でピタリと当てる必要はなくて、方向性を間違えないことが大事です。京都から札幌に行く時に大間違いをして福岡の方向を選ばなければ大丈夫。一回で札幌に行くのは凄いですが、新潟や宮城を経由しながらでも到達すれば良いのです。日々修正していきましょう。



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2012
02.03

検査に強くなる!

 何だかんだ言って、検査というものは救急外来で外せません。「問診と診察」にこだわるのは結構なことですが、やはり検査抜きで物事を語るのは今の時代厳しいかと思います。だからこそ、検査の意味もきちんと知らなければなりません。

 今回は、救急外来で用いる検査(迅速検査、血液検査など)について、間違いのない使用法を知ってもらおうと企画しました。

 研修医が陥りがちな思考に

検査陰性=Rule out
検査陽性=Rule in

というものがありますが、この様に単純に考えることは絶対にしてはいけません。「問診と診察」によって適切な検査前確率を設定し、行わんとする検査の正しい尤度比を理解する。この2つが織り合わさって初めて、検査を行う意義があるものと思って下さい。

 尤度比の大雑把な使い方としては、検査前確率が10-90%の範囲内という前提で、大きく言うとある程度鑑別に挙がっているという状況では

LR10→+45%
LR5→+30%
LR2→+15%
LR0.5→-15%
LR0.2→-30%
LR0.1→-45%

という足し算方式のものがあります。

検査前確率+[LRから推定される確率]=検査後確率

 上記のようになるわけですね。こんな感じで尤度比を使ってみて下さい。ただしこれは検査前確率が低すぎたら全く使い物になりません。もうちょっと細かい数字を出したい先生は、ノモグラムというものを使って出す方法もあります。

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 こんなの。Pre-Test ProbabilityとLikelihood Ratioが分かれば、後はぐーっとそれをつないだ線の延長上にPost-Test Probabilityが見えてきます。

 さて、このレクチャーでは以下の項目を用意しています。多くは、月に一度なされる朝の救急外来勉強会で1年次研修医に紙媒体で配布しているものに、若干記載を加えたものとなっています。

・マイコプラズマIgM→コチラ
・肺炎球菌とレジオネラの尿中抗原→コチラ
・トロポニン-TとH-FABP→コチラ
・D-Dimer→コチラ
・プロカルシトニンとCRP→コチラ
・NT-pro BNP→コチラ
・脳梗塞に対するMRI→コチラ
・くも膜下出血に対するCT→コチラ
・インフルエンザ迅速診断キット→コチラ
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2012
02.02

感染症診療 Starter & Booster:第11回~抗真菌薬について軽く

目次→コチラ

 せっかくなので、抗真菌薬(ここでは全身投与用のものを指します)についても触れておきましょう。大きく分けると4種類。アゾール系、キャンディン系、ポリエンマクロライド系、ピリミジン誘導体です。例を挙げると

1)アゾール系
フルコナゾール(ジフルカン®)、イトラコナゾール(イトリゾール®)、ボリコナゾール(ブイフェンド®)など。同じアゾールと言えども、それぞれスペクトラムが異なるのが注意点。

2)キャンディン系
ミカファンギン(ファンガード®)、カスポファンギン(カンサイダス®)

3)ポリエンマクロライド系
アムホテリシンBデオキシコール酸塩(ファンギゾン®)、アムホテリシンBリポソーム製剤(アムビゾーム®)の2つ。後者の方がより安全性高い。

4)ピリミジン誘導体
フルシトシン(アンコチル®)

となります。抗真菌薬は他剤との相互作用の多いものがかなりあるので、常にそれを気にしながら用いましょう。

 そして真菌も少し分類しましょう。酵母と糸状真菌の2種類に分割。酵母にはCryptococcusCandidaTrichosporonなど。糸状真菌にはAspergillusFusariumZygomycetesPseudallescheriaなどがあります。Histoplasmaを代表とする日本ではレアな二形性真菌は、今回省きました。Candidaはその中でも色々種類があり、抗真菌薬の感受性が異なります。

 それを踏まえた上で、主な抗真菌薬のスペクトラムを青木先生の本から抜粋します(クリックで拡大)。



 こう見ると、アゾール系のスペクトラムとCandidaの種類を押さえるのが少し大変という感じ。抗真菌薬の詳細は他書にお任せするとして、ここでは本当に軽く眺めてみましょう。Candidaの種類への作用は、後でまとめて示します。

1)アゾール系
 真菌細胞膜の原料となるエルゴステロールの合成を阻害します。フルコナゾール(ジフルカン®)、イトラコナゾール(イトリゾール®)、ボリコナゾール(ブイフェンド®)などがあります。

 イトラコナゾールはやや影の薄い存在。堂々と第一選択として用いることは少なく、口腔カンジダ症や食道カンジダ症といった軽度の真菌症か、他の抗真菌薬で思わしい効果を上げられなかった時に使用するという位置づけです。

 フルコナゾールは、あまり重症でない侵襲性カンジダ症やカンジダ血症に用います。水溶性が高く、髄液、硝子体、尿路、組織液、唾液に移行しやすいと言われています。よって、それを意識した病態への治療に用いることになります。本薬剤は抗真菌薬の中では珍しく、腎排泄になっています(あとはフルシトシン)。Candidaでは、C. kruseiC. glabrataが耐性を良く示します。

 ボリコナゾールは、フルコナゾールよりも脂肪親和性が強くなっており、アゾール系では最も広いスペクトラムを持ちます。この売りは何と言ってもAspergillusに効くという点。更にアムホテリシンBの効かないAspergillus terreusFusarium spp.、Pserdallescheria boydiiにも効果があります。このFusarium spp.に効く抗真菌薬はあまりないので、重要。ただし、Zygomycetes(接合菌)には効きません。よって、推奨される病態は、まず侵襲性アスペルギルス症。これを覚えましょう。第一選択として使用されます。

2)キャンディン系
 日本にあるのはミカファンギンのみでしたが、2012年にカスポファンギンも承認されました。真菌細胞壁のβ(1,3)-D-グルカンの合成を阻害します。基本的にはCandidaAspergillusのための抗真菌薬。Candidaに関しては、アゾール耐性のものにも効くことが多いので、その際に出番となることが多いです(C. parapsilosisには効きにくい)。ただし眼内への移行性は悪いので、Candida眼内炎の際は使用しない方が良いです。またAspergillusではアムホテリシンBの効かないAspergillus terreusにもバシッと効いてくれます。ただ、ボリコナゾールが出てからはAspergillusに対してミカファンギンを第一選択として使う状況は少なくなった感があります(第二選択としての位置づけ)。意外かもしれませんが、他の抗真菌薬が効くCryptococcusには無効です。

3)ポリエンマクロライド系
 アムホテリシンBデオキシコール酸塩とアムホテリシンBリポソーム製剤の2つが日本にあります。後者の方が副作用、特に腎障害が軽くなっています。ただし尿路への移行性は前者よりも劣ると言われています。アムホテリシンBは真菌細胞膜のエルゴステロールに直接干渉して抗真菌作用を発揮。古い薬ですが、まだまだ高い信頼を得ています。

 アムホテリシンBはスペクトラムがかなり広いため、カバーしない真菌を挙げます。CandidaではC. lusitaniaeが代表例。後はPseudallescheria boydiiFusarium spp.、Trichosporon beigelliAspergillus terreusA. flavusなど。

 使われる状況は非常に多く、特にZygomycetesに効くのは原則的にアムホテリシンBのみと考えて良いです。ただしアゾール耐性カンジダ症に対してはミカファンギンやカスポファンギンも使用されることも多くなっています。副作用としては発熱や悪寒というものがあり、これにより治療をミスリードしてしまうことも。きちんと臓器特異的な指標を追って、発熱に揺さぶられることのないようにしましょう。

4)フルシトシン
 細胞内に取り込まれ、そこで何と抗癌剤として使用される5-FUに変換され、作用を発揮します。移行性は良く、大体どこにでも広がります。また、フルコナゾールと同じく腎排泄という特徴があります。耐性が出やすいので、他の抗真菌薬との併用で用います。

 基本的にフルシトシンはCandidaCryptococcusに使用する薬剤。ただし、C. kruseiは自然耐性。臨床での出番はクリプトコッカス髄膜炎に対するアムホテリシンBとの併用です。重症のカンジダ症にも併用で用いて良いとするデータもあります。副作用で骨髄抑制があるのは覚えておきましょう。
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2012
02.02

輸液 Starter & Booster:第7回~救急外来の輸液

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 病棟やICUでは様々な輸液製剤を使いこなし、かつ経口摂取のできない患者さんでは栄養輸液をすることもあると思います。場所を移し急性期のfirst touchとも言える救急外来ではどうでしょう?

 実は救急外来では、特に大人であればほとんど生食のみで戦えます!後は速度の調節ですね。刹那的な出会いの場である救急外来においては、まずは今この場での状態を改善することに大きな力を注ぎます。ショックの患者さんや、そこまで行かなくとも細胞外液の減少している患者さん。彼らの循環動態をまず安定化させましょう。仮に高Na血症でも、血清Na濃度が生食の154mEq/Lを上回るのであれば、生食ですら血清Na濃度を下げますし、またそれほどの高Na血症であれば細胞外液量も相当持って行かれているので循環を立て直す意味でも生食は適切と言えます。救急外来では生食無双なんですね。

 そして、生食にはK(カリウム)が入っていません。全然尿の出ていない患者さんにKの入っている輸液をするのはやっぱり医療者として気持ち悪いものです。利尿がついて、検査データも安心できるものであれば、そこからKの含まれる輸液に変えても問題はないでしょう。

 あれ、でも前に生食だと高Cl性の代謝性アシドーシスが起こると言ったじゃないか、と思うかもしれません。確かにそうです。でも生食のみで起こるわけではなく、しかも起こるのも5-6Lなどかなり大量に入れた時。救急外来で使う量ではそうそう起こるもんじゃないのでした。

 じゃあ細胞外液がいっぱいいっぱいの代表選手、心不全はどうするんだ?と思うかもしれません。心不全なら5%ブドウ糖液を選択する様に教わっている人も多いでしょう。しかし、仮に5%ブドウ糖液を1L入れても、血管内には85mL入ります。と言うことは、5%ブドウ糖液を60mL/hrで落とすことと生食を20mL/hrで落とすことは同じことなのです。確かにNaは排泄されにくいのですが、心不全の患者さんではADHが過剰なことが多く、救急外来に来るような急性期では尚更です。よって、水排泄もなかなかされません。ということは、低張液を投与すると低Na血症になることが非常に多い、ということになりますね。「心不全=5%ブドウ糖液」と判で押したように対応させては時として足をすくわれかねません。

 非常に汎用性の高い生食。救急外来では速度を調節しながら使っていきましょう。
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2012
02.02

診断推論 Starter & Booster:第11回~疾患そのものを知るという大前提

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 最後に、これまでお話ししたところから、救急外来のセッティングですが診断への流れを以下に示します(せっかくなので、クリックで拡大)。



 この流れが、感覚的アプローチを俯瞰することになります。図の説明を少ししてみましょう。

☆病歴前確率
 ここから勝負が始まるので、十分な情報を得ておきましょう。適切な主訴・患者背景から鑑別疾患群が想起されます。主訴からは鑑別臓器をヒントに見逃してはいけない疾患と良くある疾患を思い浮かべます。想起しづらい鑑別疾患は個別に暗記しておくのが良いでしょう。そして、それらにおける4つの要素(緊急性・有病率・年齢・個別性)という軸を以て順位付けします。この中には尤度比が分かっているものもあるので、それは知っておいて損はないでしょう。主訴と患者背景では、犯人のアウトラインを被害者からある程度聞き出しておくと言えますね。これらはすべて、この段階での鑑別疾患群の基礎知識があってなされることで、その基礎知識を元に、実際に患者さんから情報を引き出し、考え、また引き出し、ということを繰り返して鑑別の確率をより確かにしていきます。図で言う基礎知識との照合ということになります。この照合は繰り返すという意識が大事なので、矢印はすべてのステップで双方向にしています。

☆診察前確率
 次は現病歴。これも闇雲に聞くのではなく、鑑別疾患群の典型的/非典型的な経過を頭に入れておかねばなりません。全部を知りつくすのは大変ですし、不可能でしょう。ある症状の有無には特定の疾患に特徴的なものがあります。尤度比で表現すると、この症状があること/ないことがこの疾患に対してどのくらいの尤度比を持つのかを知っておく、ということです。これを目標に疾患の勉強を。病歴の聴取では、研修医1年のうちは出来ればOPQRSTに則るのが聞き漏らしも少なくなると思います。特にOとTは見逃してはいけない疾患を考慮する上では念入りに聞きます。容疑者の顔の違いを整理して十分に知っておく、そして犯人のより細かな特徴を聞き、鑑別の順位付け、そしてさらに聞く。病歴で順位付けする、とは言いますが、実際これはかなり動的なもの。一回聞いて終わりではなく、聞いてる中でも順位の変動が頭の中で起こり、それによって聞く内容も変わってきたりします。絶えず照らし合わせ。それによって細かな違いも患者さんから聴取できます。図で言う経過知識との照合という奴です。

☆検査前確率
 診察も同様です。鑑別疾患群がそれぞれどういう診察項目で陽性・陰性となるのかを知っておきましょう。しかも、その診察結果がどのくらいのパワーを持つのか、換言すればどのくらいの尤度比を持っているのか、これを知ることです。特に救急外来ではTop to Bottomで診察というのは原則として行いません。鑑別となる疾患同士で違いが浮き彫りになるような項目を絞って行います。診察の所見いかんで、更にこの診察も追加、これはしなくても良い、などがわかってきます。診察知識との照合ですね。

☆検査後確率
 検査もそうですね。ついつい検査というのは結果が目に見えたり数字で出たりするので過信してしまい、また尤度比も病歴や診察に比べて研究されています。ですが、これまで積み重ねて出てきた検査前確率を無視せず、積分的な考えをしましょう。尤度比は、それのみを見るのではなく、一歩手前の確率と相談して行うべきもの。いくら尤度比が高い項目が引っかかっても、それまでの前確率が低ければ十分な根拠となりません。そして、検査項目の結果次第では、鑑別の順位が変わったり、更に検査が必要になったり、ということも起きます。これが検査知識との照合。

 背景情報、病歴、診察、検査。これらには尤度比の分かっていないものも数多くあります。そこをどう詰めるかが、感覚的確率アプローチでの“感覚”の要素でもあります。1つ前の項目でお話ししましたが、このアプローチではExperienceとEvidenceの両面から疾患を知るということが重要になってきます。鑑別に挙がる容疑者たちの顔をきちんと知らずして犯人を捕まえられるはずがないのです。これをいい加減にしか知らないと、最初に鑑別に挙げたとしても病歴や診察や検査で「違うかな」と弾いてしまったり「これだ!」と飛びついてしまったりすることになってしまいます。病名は知っているけどどういう病像をとるかあんまり良く知らない、というのでは全く役に立ちません。患者さんの話からとある容疑者の名前が想定された。でも、その容疑者の顔を知らなければ、患者さんに聞きようがないですね。患者さんは顔を表現することは出来ますが、その犯人の名前は知りません。“胸痛”という主訴から“自然気胸”という疾患名を鑑別として挙げても、「あなたの病気は自然気胸ですね?」と患者さんに聞いたって分かりません。捜査をするこちら側が、自然気胸について詳しく知っておく必要があるんです。

 診察前確率のところでお話ししましたが、各鑑別疾患の典型/非典型なコースを知っておき、それらの特徴の違いをはっきりさせておく、かつ“あいだ”としての問診を意識することが、適切な確率の配分へとつながります。診察前確率を大きく誤ると、いくら診察と検査の特性に熟知していても的確に診断に結びつきにくくなってしまいます。知っておくべきものは、有病率・緊急性・年齢・個別性を意識した病歴前情報、OPQRSTで整理された病歴、かつ有用な尤度比が得られている症状、これらです。鑑別に挙がる疾患がどういう病像を取りやすいのかは言うに及ばず、頻度は低いけれども取りうる病像も、特に「見逃してはいけない疾患」については熟知しておかねばなりません。そして、問診の際にはきちんと言葉の多義性を意識しましょう。日常語と専門語の意味を十分に知っておくべきです。その次に来るのが、先ほどもお話しした、正しい診察と検査の知識。

 私たちは似顔絵捜査官であるという例えをしました。容疑者である鑑別疾患群から犯人を探すには、それらの大きな特徴から理解し大まかに切り落としをし、詰めの作業を細部の特徴で行うことに尽きます。鑑別の対象になる疾患たちの像というものをどれだけそれらの間の差を意識して覚えておくかが、診断の鍵となるんです。結局は疾患の勉強か、と思うかもしれません。ですが、それを知らずして正しい病歴聴取は不可能ですし、勉強する部分も生きた知識が必要になってきます。鑑別疾患群の中に生まれる差をとらえましょう。

 感覚的確率アプローチとは、これまで述べたように、自分が鑑別に挙げた疾患の診断についての情報と、患者さんから引き出す情報との照合度合いを見るもので、お互いの情報をより詳しく知ることがその確率を上げる大きな要素となってきます。その中で、尤度比が出ているものについてはそれを適正に利用していきましょう。なので、疾患の情報についても正確に知っておき、患者さんからも上手く情報を引き出し、科学的な視点が得られているものの正しい知識を持っておく、この3点がとっても大事です。これらが噛み合わさって、診断が導かれてくると考えましょう。そして疾患の情報は、鑑別に挙がるものたちの間で、その違いを意識して覚えることが大事。

 図を見て分かるように、医者と患者さんをつないでいるのは知識です。これがあって初めて相互作用がなされていくんです。診断への道に素晴らしいファンタスティックな方法はありません。知識というのはとても大事なものなんですよ。その知識も、このレクチャーで述べたように整理をしながら体系だてていく。ごちゃごちゃした知識は役に立ちにくいので、自分なりに工夫をして臨床に役立つようにまとめることが肝心。

 最後に、医者の神様であるOsler先生の言葉を紹介します。


He who studies medicine without books sails an uncharted sea, but he who studies medicine without patients does not go to sea at all.
患者を診ずに本だけで勉強するのはまったく航海に出ないに等しいと言えるが、本を読まずに疾病の現象を学ぶのは海図を持たずに航海するに等しい


 
 この言葉付け加えるならば、その海図も正確なものであるべき、ということ。分かりにくい海図はかえってミスリードになります。正確な海図を持つことが、安全な航海に。その海図の重要性や着目点が、このレクチャーで少しでも分かってもらえたらと思います。

 ここでお話ししたことはあくまで総論。即戦力とはならないでしょう。しかし、各論のみ覚えて医療に当たるならば、それはその場しのぎの知識となってしまいます。総論で一本のスジを通して、その上に各論の知識を積み上げていく。この様なイメージが良いと思います。

 これで診断推論のお話はおしまいです。お疲れ様でした。
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2012
02.01

輸液 Starter & Booster:第6回~Na濃度異常はどうするか

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 これまでNa濃度に関しては、それが細胞内液に影響すること、そして血漿張度はNaが左右すると言う点を述べてきました。更に、輸液ではKが無視できない量なので、それも張度を形成することを学びました。それらを念頭にNa濃度異常を学んでみましょう。

 健康な人は飲水量を意識して変えてみても、血清Na濃度は一定の範囲内にあります。これは、尿の濃さを変えていることによりなされること。もっと言うと“尿の張度”を調節することで血清Na濃度を保っているのです。実は、輸液と血清の他にも、尿にも張度があるのです。尿は細胞外液からつくられるため、尿の張度は尿排泄後の細胞外液の張度変化を知る際に非常に重要になってきます。尿中のKは無視できないくらい多いので、尿張度は2×[Na+K]で考えます。そして、この尿の張度をメインでコントロールするのがADHなのです。水分や食事で入ってくるモノの張度と、尿として出て行くモノの張度が引っ張り合いをして、上手く均衡状態にあるのが普段の私たちなんですね。たくさん飲んだらたくさん出して、あまり飲まなかったらあまり出さない。



 そのバランスが崩れると血清Na濃度が乱れてきます。低Na血症では患者さんによっては他の病態、特に消化管からの喪失なども参加してきますが、大きくは「口や輸液などから入ってくるモノ」と「尿として出て行くモノ」の2つで、とりわけ後者の異常が原因として大きなものを占めます。その中でも、この尿の張度の張節異常は“ADHの作用異常・腎機能障害(尿の希釈と濃縮)・利尿薬”の3つが注目すべきもの。例えば入院患者さんに低Na血症が多いのは、ストレスなどでADHが不適切に分泌され自由水が出て行かず、かつ口渇によらない水分摂取としての低張輸液の多用が大きな原因になっています。





 低張性低Na血症の症状は、張度が低下するため細胞内へ水分が移行して細胞が浮腫になることで出現します。特に脳細胞の浮腫による症状が出ますが、慢性の低Na血症ではあまり出てきません。これは、脳細胞が浸透圧物質を細胞外に水とともに追い出すメカニズムを持っているからと言われます。よって、症状が出るのは急性のものか、慢性でも高度のもの(Na<120mEq/L)、進行スピードの速いものになります。頭痛や嘔吐、脱力、傾眠、痙攣、昏睡などの“水中毒”症状が出現してきます。

 高Na血症の症状は慢性であれば軽い焦燥感、傾眠傾向など。高度でかつ急性のものであれば、細胞萎縮が高度になり高熱、過換気、易刺激性、痙攣、昏睡や脳出血、くも膜下出血などが見られてきます。

 治療は各種原因疾患によって異なりますが、どれにも共通して言えることは、尿所見を常に参照しながら行うと言うことです。特に大事なのは“尿の張度”です。これを血漿張度、輸液しているのなら輸液中の張度とも見比べてこの先どうなっていくかの予測を立てて行きます。原則としてはこの様な感じです。

張度

 ピタッと正確なものではないのですが、大まかな指針にはなりますし、何よりも簡便。低Na血症で注意しなければならないのは、仮に生食を入れても低Na血症が進行することもある、ということです。SIADHでは尿のNa濃度が異様に高い時があり、尿の[Na+K]が生食の[Na]154mEq/Lを超えることもあります。この場合、生食を入れても次の日採血したら血清Na濃度が下がってしまう憂き目にあいます。
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2012
02.01

感染症診療 Starter & Booster:第10回~耐性菌の怖さ

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 主な抗菌薬を学んだので、今回はそれへの耐性について。

 昨今は細菌の抗菌薬への耐性化が進んでいます。何でもかんでも広域カバーの抗菌薬を出していたら、いずれまた妙な耐性菌が出てしまいます。広域抗菌薬は、多くの菌に効いてくれる一方、効いてしまうのです。ですから、原因菌をつかむ努力をして、分かったら速やかに狙い撃ちに持っていく。この姿勢が大事なのです。ここではこれまで説明を棚上げにしておいた耐性菌について、代表的なものについて少しだけ触れておきます。

☆BLNAR
 BLNARはβ-lactamase negative ampicillin resistanceというものでして、特に日本のH. influenzaeで問題になっています。これがあるとペニシリン系と第1,2世代セフェムが効きません。使用薬剤は第3世代セフェム、キノロン、カルバペネム(、アジスロマイシン)となります。市中でも常にこの耐性機構を考えねばなりません。

☆ESBL
 ESBLはExtended spectrum β-lactamaseで、主にE. coliKlebsiellaで問題になります。元々はペニシリナーゼであったものがまさにExtended spectrumしてしまい、有効であったセフェムが効かなくなってしまったものです。その威力は第3世代にまで及んでいます。他にはモノバクタムやピペラシリンも破壊してしまいます。第4世代については、それを分解するESBLも出てきたり、それを分解する他のβ-ラクタマーゼを持つことも多いです。カルバペネムはまず効きます。大事な点は、感受性検査で常に正確に表現されるわけではないということ。第3世代セフェム、モノバクタム、ピペラシリンのいずれかに耐性か中間の感受性を示すものは、これらすべてに対してESBLを産生すると考えて、耐性と判断します。ESBL産生株が多い地域や施設では、E. coliKlebsiellaでも重症感染であれば最初はカルバペネムを投与すべきと言われます。セファマイシン系は感受性と表示されていても臨床的には必ずしも有効でない場合が多く、キノロンも耐性化してしまっていることがあります。なかなかこちらの武器が乏しい印象ですね。β-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリンに関しては効くという人もいたり効かないという人もいたり。最近の論文では、ESBL産生大腸菌の血流感染に対しβ-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリンも、カルバペネムに劣らず臨床的に効く可能性があるとの結果が出ましたが、Post Hoc解析なので全面的には信用しがたいところはありますね…(β-Lactam/β-Lactam Inhibitor Combinations for the Treatment of Bacteremia Due to Extended-Spectrum β-Lactamase–Producing Escherichia coli: A Post Hoc Analysis of Prospective Cohorts: Clinical Infectious Diseases 2012;54(2):167–74)。

☆AmpC
 そしてAmpCですが、ESBLと似ており、また両者の耐性を持つこともあります。日本ではまだ少ないのですが、この機構を持つのはEnterobacterが代表例。これが出てしまうとβ-ラクタム系で効くのは第4世代セフェムとカルバペネムのみという大変な状況。ESBLの様に感受性検査で常に正確に表現されるわけではないという問題点はありません。しかし、第3世代セフェムが有効だったEnterobacterなどにおいてその抗菌薬の使用が長期化すると耐性を獲得してしまうという懸念は存在します。AmpCが見つかったら、カルバペネムで攻めるのが無難だと思います。

☆MBL
 MBLはmetallo β-lactamaseでして、これが出たら大問題です。院内、特にICUにおいてP. aeruginosaE. cloacaeなどが持つことがあります。これにはカルバペネムが効かなくなってしまい、アミノグリコシドやキノロンも耐性を持つことが多くなります。有効な抗菌薬がコリスチンなど、非常に限られてしまう事態。

☆CA-MRSA
 CA-MRSAは何と市中獲得型のMRSAです。市中感染でもMRSAを考慮しなければいけないご時世になったんですね。ただ、このCA-MRSAは院内でお目にかけるMRSAよりも素直です。ST合剤やミノサイクリン、クリンダマイシンといった抗菌薬がぐっと効きやすいです。最初からこの菌を想定する必要はなく、地域によって、臨床状況によって、ということになります。

☆VRE
 VREはバンコマイシンが効かなくなった腸球菌。殆どのVREがE. faeciumです。これがまだ検出されていない病院もあるので、勤務している病院の状況でこれを考慮するかどうかが変わってきます。治療薬としてはキヌプリスチン・ダルホプリスチンやリネゾリドがメインとなります。

☆PRSP
 PRSPはペニシリン耐性のS. pneumoniae。ペニシリンに感受性のあるものはPSSP、中間のものはPISPと表現されます。2008年にPRSPのMIC(最少阻止濃度)が変更されています。表を見ていただきましょう(クリックすると少しだけ拡大)。



 以前は一括してPRSPはMIC≧2だったんですけど、今は髄膜炎ではなくてかつ静注のペニシリンであればMIC≧8でPRSPとされています。MICが4くらいなら、投与量を多くすれば十分ペニシリンやアミノペニシリンで闘えるということを覚えておきましょう。MICが8を超える様な本格的なPRSPはなかなかいません。また、PRSPは”ペニシリン”耐性ではありますが、他の抗菌薬にも耐性であることが非常に多いです。β-ラクタム系は言うに及ばず、マクロライド系といった細胞内に作用する抗菌薬も効きにくくなっています。髄膜炎など本当に重症で感受性が分からない時は、まずバンコマイシンの出番になります。

補足:MICは”最小阻止濃度”のこと。大事なことは、MICの数値を、複数種類の抗菌薬の効果の比較に用いることに意味はないということ。基本的にはMICを見なくても、感受性としてSとかRとか出てくれるので、そっちで大丈夫。
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