2012
01.29

感染症診療 Starter & Booster:第9回~抗菌薬について知っておくこと-13

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13)狙うは1つ!メトロニダゾール
 非常に安価なメトロニダゾール(フラジール®)は、細胞内に入り還元されてDNAを障害します。Bioavailability良好で、組織移行性もばっちりです。日本には経口薬しかありません。Bioavailabilityが良いから静注製剤なくても良いんじゃない?と思うかもしれませんが、経口摂取不可能な患者さんもいますし腸の機能などの問題で静注の方が好ましい場合もやっぱりあります。

 狙う菌は嫌気性菌、特に横隔膜より下のBacteroides fragilis groupです(ActinomycesPropinibacteriumは嫌気性菌ですが、こいつらには効きません)。好気性菌には全く効かないので、基本的にはメトロニダゾール単剤ではなく他の抗菌薬と協同して使います。後はピロリの除菌や細菌性膣症の治療など。細菌以外では、耐性化が進んでいるもののGiardiaEntamoebaTrichomonasといった原虫に効果があります。これの覚え方としてはこれらの原虫の頭文字をとって、GET on the METROというのがありました。

 大事なものに、Clostridium difficileによる偽膜性腸炎の治療薬という立場があります。初発や軽症~中等症であれば、バンコマイシン内服よりもメトロニダゾールを優先すべきです。ただ、日本においてメトロニダゾールは抗原虫薬としての適応があるだけなので、嫌気性菌や偽膜性腸炎を叩く時は患者さんに妙な病名を付けなければいけません。ちなみに偽膜性腸炎、恐ろしい治療法にIMTという、腸内に他者の便を注入する治療法があります(Systematic Review of Intestinal Microbiota Transplantation (Fecal Bacteriotherapy) for Recurrent Clostridium difficile Infection: Clin Infect Dis. (2011) 53 (10): 994-1002.)。誰が考え出したか分からない摩訶不思議。これがまた9割くらいに効いてしまうので恐ろしい。。。何故か近親者の便の方が他人の便よりも効くそうです。しかし自分が患者さんの立場だったら、メトロニダゾールを選ばせて頂こうかと。。。他にはfidaxomicin(フィダクソマイシン or フィダキソマイシン)という、日本では認可待ちですが、偽膜性腸炎用の薬剤もあります。これはバンコマイシンと非劣性であることが示されており、有望な代替薬です(Fidaxomicin versus vancomycin for infection with Clostridium difficile in Europe, Canada, and the USA: a double-blind, non-inferiority, randomised controlled trial. The Lancet Infectious Diseases, Early Online Publication, 8 February 2012.)。

 他には、がん性悪臭を抑えるためにメトロニダゾール軟膏というものを作って塗布している病院もあります。緩和ケアでは大事な知識。

 副作用はあまり起きません。重篤なものには脳症などの中枢神経障害。末梢神経障害や白血球減少も挙げられます。薬剤相互作用もあり、ワーファリンもご多聞に洩れず注意。ジスルフィラム作用があるので、アルコールを摂取すると悪酔いします。妊娠初期、授乳婦への投与はダメです。
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2012
01.29

感染症診療 Starter & Booster:第9回~抗菌薬について知っておくこと-12

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12)アクが強いの?ST合剤
 葉酸合成を2段階で阻害します。ST合剤はバクタ®の1つのみです。Bioavailabilityも良く、組織移行性も良好。結構スペクトラムは広く、少し語弊があるものの大きく言ってしまえば「第3世代セフェム+細胞内寄生菌活性」でしょうか。この言い方で漏れる特徴としては、ST合剤はListeriaに効き、そしてCampylobacterとリケッチアとBLNAR型インフルエンザ菌には効かないというところ。他にはCA-MRSAやPneumocystis jiroveciに効きます。日和見感染などでたまに出てくるSPACE+αのうち、SE+αにも対処可能。変わり種ではNocardiaなど。そういえば川崎病の治療に効果があったという発表が前にありましたね。



 随分イメージと違って使えそうな印象かも?と思われたかもしれません。第3世代セフェム+細胞内寄生菌活性を考えれば尿路感染、呼吸器感染、多くの細菌性腸炎などが使えそうだなという印象になります。他の要素も加味すると、第1世代で失敗した蜂窩織炎の治療、ニューモシスチス肺炎なども。が、残念ながら耐性化、特にE. coliが問題になっています。他にはBLNAR型インフルエンザ菌やPRSPに効きません。地域の耐性具合を調べて使用しましょう。

 副作用も強いものがちらほら。Stevens-JohnsonやTEN、骨髄抑制、高K血症など。Cre上昇もありますが、これは高K血症を伴っていなければ恐れずとも大丈夫です。薬物相互作用もあり、SU薬やワーファリンなどなど、きちんと調べておきましょう。妊婦や授乳婦には基本的に禁忌です。

 上手く使えれば、面白い薬です。

☆追加
 ニューモシスチス肺炎の治療は、第一選択薬がST合剤、第二選択薬がペンタミジン(ベナンバックス®)です。しかし、HIV感染者にこれらを使うと、50%以上に副作用が出てしまって継続投与が難しくなる、ということがあります。よって、海外ではアトバコンという薬剤を使用することが多いです。これはPneumocystis jiroveciのミトコンドリア電子伝達系を選択的に阻害するという、ユビキノン類似体。
 
 そして今回、グラクソスミスクラインが、そのアトバコン(サムチレール®内用懸濁液15%)の製造承認を日本で取得した、と発表されました(2012年1月18日)。対象は「副作用により第一選択薬(ST合剤)の使用が困難な場合」と限られます。副作用が半数以上に認められ、悪心・皮疹・頭痛などなど。
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2012
01.26

輸液 Starter & Booster:第5回~ウチとソト

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 前章で軽く触れた是正輸液。これが厄介です。ここではとりわけ細胞外液量の減少に焦点を当てていくことにしましょう。細胞内液量はNa濃度異常という問題に置換して、別に章を設けます。

 輸液時に考えることは、前にお話ししたように「血管内に水がどのくらいあるか?血管内と細胞間質の間での水移動はどうか?」です。循環を保つことが第一なので、その評価を先にしましょう。そして、足りない量を推測するのが最も重要で最も難しいところ。日本語では体液量の減少を“脱水”と一括りに言いますが、英語ではきちんと細胞外液量減少が主たる場合をVolume depletion、細胞内液量減少が主たる場合をDehydrationと言い分けています。これは非常に大事な概念なので“脱水”という言葉を聞いた時は「この人はどっちのことを言っているのか?」と常に考えましょう。古典的には高張性脱水、等張性脱水、低張性脱水と区分されますが、臨床上はあまり有用ではありません。Volume depletionとDehydrationの二分法で行きましょう。



 そして治療の復習ですが、一般的にVolume depletionには生食を代表とする等張液、Dehydrationには5%ブドウ糖液などの低張液を輸液するんでしたね。ですが、過度のDehydrationでは細胞外液喪失(すなわちVolume depletion)を引き起こすため、その場合はDehydrationでも等張液の輸液をします。例えば血清Na濃度が160mEq/Lであれば、生食(Na濃度154mEq/L)ですらその患者さんには低張なので高Na血症の治療になります。

 患者さんの状態を見るポイントは、Volume depletionには循環障害が、Dehydrationには血漿浸透圧上昇(高Na血症)が伴うということです。前者では血管な容量が少なくなっているので循環系に異常を来たします。後者では主に細胞内液の喪失のため、高Na血症になっています。輸液は、これら血清Na濃度や循環係への影響を見ながら修正に修正を重ねてなされるものです。前提として、Volume depletionがいわゆる「体液喪失」を起こすあらゆる疾患・患者背景で起きるのに対し、Dehydrationは特定の患者背景でしか起こり得ません。Dehydrationは口渇を引き起こし正常なら飲水行動に出るため、その特定の患者背景とは、この飲水が不能なこと。自分で飲水のできない乳幼児や意識障害者、また脳梗塞後や口渇感の鈍い老人などがそれに当たります。循環障害の有無、高Na血症の有無、患者背景。これらをとらえて患者さんを評価しましょう。ちなみに尿崩症ではきちんと飲水をするので実際にはDehydrationや高Na血症は起きないことが多いのです(血清Naは正常上限)。

 体液量減少の指標としては、体重減少、バイタルサイン(尿量や起立性低血圧含む)、中心静脈圧、超音波による下大静脈径の評価、診察所見、血液尿検査所見などがあります。どれも1つの所見であるなしを言えないので、組み合わせて“総合的に”判断しなければなりません。体液量減少では特に細胞外液量、ひいては有効循環血漿量の減少は循環不全へとつながるため、見逃してはいけません。細胞外液量の減少をとらえる指標を覚えましょう。以下は有効循環血漿量減少の典型例とも言える敗血症性ショックも見据えてその話も織り交ぜながらお話しします。

 体重は可能であれば必ずチェックです。同じ時間(朝食前)に同じ服装で測ることが大事。食事摂取量が変わらないのなら脂肪や筋肉量も変わらないと考えるため、体重の変化は体液量の変化をダイレクトに示します。食事や栄養輸液が無い時は異化作用が生じるため、非水分体重は1日で約0.3kg減ります。体重の変化は体液量の変化と非水分体重変化を合わせたものなので、体液量の変化は体重の変化に0.3kg×日数を足したもの。血清Na濃度に変化がなければこの体液量の変化は主に細胞外液の変化と言えます。血清Na濃度に変化があれば、それに伴い細胞内外での体液移動が起こります。何やら分かりづらいので式で示しましょう。


⊿総体液量=⊿体重+0.3kg×日数
⊿細胞外液量=⊿体重+0.3kg×日数+⊿[Na]×0.4×体重
(0.4×体重=細胞内液量)


 バイタルサインも重要で、細胞外液量の減少により鋭敏な指標となってくれます。頻脈やsBP低下もありますが、有用なものは起立性低血圧や尿量変化。起立性低血圧の評価法は、まずは仰臥位で血圧と脈拍を測ります。次に立たせて1-2分後に測定。立てない患者さんでは、ベッドに座ってもらいますが、足をベッドからおろした状態にしてもらいます。ここ忘れやすいので要注意。そして、起立性“低血圧”と言いますが、より鋭敏なのは血圧低下(⊿sBPで20mmHg以上)ではなく脈拍増加(⊿HRで30bpm以上)や立ちくらみの症状とされています。尿量については、腎臓が体液量変化に非常に敏感であり、尿量を調節することで体液を一定にしようと頑張っています。なので、尿量を見ることは非常に大切。必ず蓄尿、と言いたいのですが、患者さんは往々にして溜めることを忘れてしまうため、不正確なこともあります(バルーン入ってれば楽ですけどね)。推移が重要ではありますが500mL/day以下であれば細胞外液量の減少を示唆します。また、A-lineが入っていれば動脈圧の呼吸性変動(ベースラインからの低下が5mmHg以上)、それが無くてもパルスオキシメータで検出されるプレチスモグラフィ波形でも呼吸性変動を確認です(Respiratory variations in pulse oximeter waveform amplitude are influenced by venous return in mechanically ventilated patients under general anaesthesia. Eur J Anaesthesiol 24: 245−251, 2007.)。ただ画面を見てすぐ計算は難しいので、パルスオキシメータの波形に関しては、眺めて変動がありそうだと感じることを第一にしましょう。今はそれも数値化表示出来る機械もあるらしいですね。ここで深入りして、これらの波形とパルスオキシメータ波形の呼吸性変動の見方を少し眺めてみましょう。





 血管が開くことで循環血漿量が相対的に低下したseptic warm shockでは波形のピーク値の呼吸性変動が強く出てきます。心拡張期に形成されるdicrotic wave(重複波)は,体血管抵抗(心後負荷)が強い際に高まり、体血管抵抗の低いseptic warm shockでは消失する傾向にあります。波形の立ち上がり角(dp/dt)は心収縮性を示し、そして波形下面積(AUC: area under curve )は心拍出量に比例すると言われます。輸液をしていく上ではこの呼吸性変動が軽減され、dp/dtが高まることを確認しましょう。輸液による心前負荷時やカテコラミンの使用時は、dicrotic waveやdp/dtの変化を時系列で追っていくことが大事になります。

 中心静脈圧(CVP)も大事大事と言われています。身体診察でのCVP推定は有名ですね。内頸静脈が推奨されていますが、外頸静脈でも評価に耐えうるとしています。ただ患者さんの身体を傾けて5cm足して、、、というのは本当に正確なCVPを反映しているのかは疑問があり、それよりも大まかにとらえて、座位で外頸静脈が張っていたら細胞外液が多い、臥位で外頸静脈が虚脱していたら細胞外液が減っている、と大きく考えた方が良いかもしれません。

 また、CVPと言えばseptic shockにおけるEGDT(Early Goal Directed Therapy)という治療指針が有名です。その目玉は、severe sepsisやseptic shockではCVPを8-12mmHgを目標に等張液輸液(必要なら輸血)を行いましょう、というもの。2008年のSurviving Sepsis Guidelineもこれを踏襲しています。しかし今後はちょっと事情が異なってきそうです。EGDT研究では水分投与量または水分出納量と死亡率との相関は認められていないのですが、SOAP studyではそれとは異なる結果が出ており、水分出納量がプラスであると死亡率が上昇することが示されました。VASST studyでは、水分出納量が多いほど、そしてCVPが高いほど死亡率が高いことが示されました。EGDTに反しCVPが8mmHg未満の死亡率がそれ以上よりも低いという結果が出て、更に治療開始12時間後における水分出納量が約プラス3Lの時に、最も生存率が高いのではないかとされました。Septic shock発症から12時間を過ぎると、中心静脈圧は輸液反応性(試験的な輸液投与によって心拍出量が上昇するかどうかの反応性)の予測に役立たないばかりか、水分出納量の指標にもならないと言われてしまいました。EGDTに従うと患者さんが理想的な状態よりもwetになってしまうという意識は必要かもしれないですね。CVPを重視しすぎるのはよろしくありません(Fluid resuscitation in septic shock: A positive fluid balance and elevated central venous pressure are associated with increased mortality: Critical Care Medicine: February 2011 - Volume 39 - Issue 2 - pp 259-265)。

 血管内の容量を見るなら、今は超音波の心窩部走査で下大静脈径を見る方が分かりやすいですね。バイタルサインよりも早期に異常が出てくると言われています。ただし10%ほどの患者さんでは、どんなに頑張ってプローブを動かしても評価に耐えうる下大静脈を描出するのは難しいようです。



 診察所見に有用なものは乏しいとされます。JAMAのRational Clinical Examinationには診察所見の細胞外液量減少に対する感度や特異度を調べた論文がありますが、細胞外液量減少の評価が甘く試験方法があまりよろしくないので、過度の信頼は禁物かもしれません(The rational clinical examination. Is this patient hypovolemic?; JAMA. 1999 Mar 17;281(11):1022-9.)。一応その中で有用とされたものは、腋窩乾燥(LR+2.8)、眼球陥没(LR+3.4)、言語不明瞭(LR+3.1)、Capillary Refill Time延長(LR+6.9)となっています。もっともLR+の高いCapillary Refill Timeですが、これは小児においては有用でしょうが、成人ではあまり大きな威力を持っていません(ちなみに、この記事では起立性低血圧をバイタルサインのところで取り上げています)。浮腫、についてですが、これは細胞外液量の増加を見ています。ただし、正確には細胞間質を反映したもので、septic shockに代表される激しい炎症状態では血管壁バリアが損傷されアルブミンも消費されてしまうため、血管内はカラカラなのに浮腫を起こすという事態が生じます。よって、浮腫があるから輸液を絞らないといけない、というのは間違っていることもあるため注意が必要です。このタイプの血管内容量の低下は、炎症からの復帰と栄養状態の改善を早期に立てないとなかなか難しく、等質晶質液のみではどんどん細胞間質に外液が逃げて行ってしまいます。高度の低アルブミン血症で循環不全になり腎臓にもガタが来て、、、など、何ともならない時はアルブミン液などが適応になるでしょう。浮腫の診察をする際、Sapiraの診断学にはPit Recovery Timeを見ることが有用と記載されています。これは前脛骨部を圧迫して、それから戻ってくる時間を計測するものです。低アルブミン血症が原因の浮腫では40秒以内に戻ってきますが、条件としては3ヶ月以内に発症した場合に限定されます(Sapira's Art and Science of Bedside Diagnosis; Lippincott Williams & Wilkins; 4版 (2009/12/14))。

 血液尿検査では、Ht, Alb, UAの相対的な上昇、BUN/Cre>20、尿浸透圧>500mOsm/L、尿比重>1.020、尿Cl<20mEq/L、FENa<0.1%、FEUN<35%などを見て行きます。FENaは0.1%じゃなくて1%じゃない?と思うかもしれませんが、柴垣先生によると一般成人も1%未満のことが多く、より正確に見るのなら0.1%をカットオフにするのが適切なようです(より理解を深める!体液電解質異常と輸液; 中外医学社; 改訂3版 (2007/04))。先ほども言ったように、患者さんは蓄尿を素直に行ってくれません。なので、スポット尿での判断が必要な場合はかなり多いです。また、蓄尿だと開始から24時間経たないと分かりませんが、スポット尿だと受診してすぐその場で取れて検査に出せます。患者さんの最初の尿はダイヤモンドよりも価値がある、と誰かが言ってましたし、色んな事が分かりますよ。ただし、尿検査と言うものは常に尿量とのバランスや腎機能を考える必要があります。特にFENaはGFR低下に反比例して上昇しますし、利尿薬使用で上昇します。その際はFEUNの出番。尿Cl濃度も高度の代謝性アシドーシス、副腎不全、利尿薬使用で上昇するため、この時は尿Na濃度を用いた方が良いでしょう。

 以上が主に細胞外液量の減少をとらえる指標でした。しつこいようですが、細胞外液量が減ると循環不全を起こしてしまいます。特に腎臓は身体の水を管理する元締めですから、腎障害となってしまっては身体の恒常性を維持するのが大変。循環不全は何としても避けたい、そして早く回復させたいものです。でもガンガン輸液して血管内をいっぱいいっぱいにしてしまってもアウトです。難しいですね。

 先ほど腎臓は尿量を調節して体液量を一定にしようと頑張っていると言いましたが、ちょっとここで腎臓と尿についてお話しします。尿は血液が糸球体で濾過された原尿が素材。「尿量を保て」と良く指導医から言われると思いますが、「尿量を保て」=「原尿を保て」=「有効循環血漿量を保て」と解釈しても良いでしょう。有効循環血漿量が足りなくなると原尿が作られなくなりますし、また、血液が来ないということは、腎臓がやられてしまいます。だから、尿量を保つことは大事なのです。じゃあ利尿薬を使えば良いのではと思うかもしれませんが、ラシックス®やドパミンrenal doseは尿量を確かに上げます。しかし、腎機能を保つことには必ずしもつながりません。それは、彼らは尿細管以降に働きかけるからなんです。原尿を保てないことは腎臓に血液が良い感じに流れていない証拠。それよりも後の機構に作用したところで、腎機能は良くならないのです。ということで、腎臓を守る基本は適切な輸液量と昇圧剤、中でもノルアドレナリンになります。なぜノルアド?と思うかもしれませんね。ヘロヘロになった患者さんでは腎血流量が落ちて腎障害となりますが、敗血症ではhyperdynamic stateになっていて腎血流はあるんです。ポイントは輸出細動脈がかなり拡張していて、糸球体の内圧が低下していること。これによって糸球体濾過がダウンしちゃいます。なので、敗血症による腎障害には輸液で何ともならなければノルアドを使って血管を少し締めてあげるのが良いと言われます。

 利尿薬については、心不全などで有効循環血漿量が落ちて血液の流れが渋滞している時は、その渋滞緩和のために用いると言うのは合理的。

スライド18
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2012
01.25

感染症診療 Starter & Booster:第9回~抗菌薬について知っておくこと-11

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11)古豪中の古豪、テトラサイクリン系
 リボソームに作用し、臨床で使う種類はドキシサイクリン(ビブラマイシン®)とミノサイクリン(ミノマイシン®)の2種と覚えましょう。後者には静注製剤もあります。国試的には、テトラサイクリンと言えばリケッチア。それほどまでに人畜共通感染症に強い抗菌薬です。Tigecycline(チゲサイクリン)という新しいテトラサイクリン系もあって色んな耐性菌に効くんですが、日本にはまだ導入されておらず、また薬剤関連死の疑いがあるとのことでFDAが警告を出しています。

補足:2012年9月末に、日本でもチゲサイクリンが製造販売承認されました(商品名はタイガシル®)。適応菌は「本剤に感性の大腸菌、シトロバクター属、クレブシエラ属、エンテロバクター属、アシネトバクター属。ただし、他の抗菌薬に耐性を示した株菌に限る」となっています。この”他の抗菌薬に耐性を示した株菌に限る”というのが大事なところですね。多剤耐性アシネトバクターに対して有効なのが、この抗菌薬の存在を際立たせています。ぽいぽいっと使ってはいけないのはもう言うまでもないでしょう。ちなみに緑膿菌には効きません。これも効かなくて良かったなーと思います。変に効いてたら乱用されそうですもんね。


 安い値段で非常にスペクトラムが広いのが特徴。他の種類の抗菌薬の開発が進んできたので、あまり表だってこの薬が使われることは少ないという印象です。どういう時に使えば良いのか、カバーしない菌から考えてみましょう。

 P. aeruginosaは当然ダメ。Bacteroides fragilis groupもカバーしません。口腔内の嫌気性菌は大丈夫ですけどね。腸内細菌科も多くをカバーしないです。となると、院内感染や腹腔内感染症、骨盤内感染症(クラミジア以外)などには向かないというのは一目瞭然ですね。

 GPCで言うと、S. pneumoniaeを含む連鎖球菌のカバーはしますが耐性菌が増えてきています。S. aureusですが、ドキシサイクリンはカバーしません。ただ、ミノサイクリンはCA-MRSAをカバーするという特殊技能を持っています。言うまでもなく、大事。

 他の菌は大体カバー出来てしまうのがすごいところです。ただし、何度も言うようですが、他の種類の抗菌薬がどんどん開発されているので、カバーするとは言えこのテトラサイクリン系が第一選択となるというのは珍しい状況。

 使い方としては、細胞内寄生菌への強さと、ミノサイクリンのCA-MRSAへの活性を考えると良いかなと思います。となると、軽症の市中肺炎や、何といっても人畜共通感染症ChlamydiaによるSTDなどが適応として想定されます。第1世代セフェムで治療の難渋した蜂窩織炎にも適応となります。

 後は、ビブリオをカバーすることもあり、肝硬変患者のVibrio vulnificus感染症にも良いです。Campylobacterにも効力を示しますが、最近は耐性の話をちらちら聞きます。

 使うのならば、一般感染症にはドキシサイクリンを、CA-MRSAが疑われた時にミノサイクリンという使い分けが良いかなと思います。梅毒とか炭疽とか、適応となる残りの細かい感染症は他のテキストで…。


 補:最近話題のマクロライド耐性マイコプラズマですが、テトラサイクリンに対しては重要な耐性機構を持ちません。マクロライドを十分量使ってもダメならば、このテトラサイクリンが治療薬候補になります。(12.8.2012)


 副作用は消化器症状が大きいです。食道潰瘍も起こしますが、沢山の水で飲めば予防可能と言われます。ミノサイクリンはめまいを起こしやすいということもありますから、一般外来の患者さんで家に帰るということを考えると、ドキシサイクリンの方が良いですね。光線過敏症はそれほど問題にならないようです。禁忌があり、妊婦、授乳婦、8歳以下の小児にはダメになっています。後、キノロンと同じく鉄剤や牛乳などなどによって吸収が阻害されるため、一緒に服用してはいけません。


→妊婦さん、授乳婦さん、8歳以下の小児には絶対的な禁忌ではなかったですね。失礼しました。(12.8.2012)
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2012
01.25

感染症診療 Starter & Booster:第9回~抗菌薬について知っておくこと-10

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10)名脇役?クリンダマイシン
 細胞内のリボソームに作用します。このクリンダマイシン(ダラシン®)は、黄色ブドウ球菌用セフェムに対嫌気性菌効果を加えたものという認識で良いと思います。言い換えれば、MSSA、連鎖球菌、横隔膜上下の嫌気性菌をターゲットにします。MSSAは使っている最中に耐性を示すことがあるので、そこは注意。これに関連して、マクロライド耐性のMSSAはクリンダマイシンにも耐性を示しやすいということがあります(誘導型MLSB耐性)。よって、マクロライド耐性のMSSA感染症でクリンダマイシンを使いたい状況になったら、検査室にD-testという検査をお願いしておきましょう。連鎖球菌に関しては、S. pneumoniaeには一定しておらず、地域によってはPRSPにも効くこともあります。嫌気性菌ですが、横隔膜下、特にBacteroides fragilis groupは耐性化が進みつつあるので、患者さんが重症であればこれを最初に用いるというのはちょっと躊躇ってしまいます。腸球菌には効かず、GNRにも効きません。

 β-ラクタム系にアレルギーを持つ患者さんにとって良い代替薬となり、特に蜂窩織炎や咽頭炎で使われます。骨への移行性も良いので、骨髄炎にも適しています。嫌気性菌カバーの強みを生かして、口腔内感染症や肺膿瘍などにもどうぞ。

 他にはGAS(S. pyogenes)の毒素産生を抑えるという理由から、TSS(毒素性ショック症候群)や壊死性筋膜炎にはβ-ラクタム系と併せて使うこともあります。本当にこれが意味あるのかどうかはきちんとした大規模スタディがないため謎ですが。

 副作用は、メジャーなものに下痢があります。20%ほどに生じるので、そこがこの抗菌薬を使いづらくさせています。この下痢のためか「偽膜性腸炎といえばクリンダマイシン」と国試を受ける医学生にすり込まれている感じ。偽膜性腸炎は確かにクリンダマイシンの副作用として有名ですが、他の抗菌薬でももちろん発症するので(セフェムはクリンダマイシンと発症リスク同等です)、これに限らず抗菌薬使用中に発熱を見たり炎症反応上昇を見たりした時には必ずこの疾患を鑑別を加えましょう。
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2012
01.25

感染症診療 Starter & Booster:第9回~抗菌薬について知っておくこと-9

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9)狙いがボケてる?マクロライド系
 細胞内のリボソームに作用し、開発の順にエリスロマイシン(エリスロシン)、クラリスロマイシン(クラリス)、アジスロマイシン(ジスロマック)があります。2011年9月にアジスロマイシンの静注製剤が日本でもやっと使えるようになったので(アメリカの14年遅れ!)、それまで静注製剤があることで立場を何とか保っていたエリスロマイシンの存在意義が薄くなった気がします。

 このマクロライド系、元々はGPCと細胞内寄生菌を対象としていましたが、開発によってGNRやピロリ菌、MACにも広がっていきました。P. aeruginosaと嫌気性菌には効きません。この2つに効かないってことは、逆に結構使いやすいんじゃない?と思ってくれるとありがたいのですが、現在はなかなかそう甘くなく…。何を狙っているのかあまりはっきりしない抗菌薬で、安全だからという理由で何となく出されている、そんなマクロライド。そして、残念ながら色んな菌が耐性化してきてしまってるんです。しかも1つのマクロライドに耐性を獲得したら、他のマクロライドも効かなくなります。

 耐性を獲得しつつある菌は、S. pyogenes(GAS)を筆頭にして、S. pneumoniae、腸球菌、MSSAといったGPCです。これらの菌が関与するような感染症には、自分は怖くて出せません。特に日本のGASは半分以上が耐性とも言われ、咽頭炎にホイホイと使用すべき抗菌薬ではないようです。S. pneumoniaeも日本ではそれくらいの耐性率とも言われています。この耐性には気をつけましょう。

 じゃあどういう時に使うのか、というところ。クラリスロマイシンとアジスロマイシンでは共通するところも多いのですが、少し強さが異なってきます。

・エリスロマイシンのGPCへの作用を強化:クラリスロマイシン
・GNRや細胞内寄生菌への効力up:アジスロマイシン

 まずはこんな位置づけと漠然と考えておいて具体例を見てみます。ちなみに髄液と関節への移行性が悪いので、それらの感染には使えません。

 市中肺炎や副鼻腔炎などは適応となり得るのですが、原因菌トップであるS. pneumoniaeの耐性化が著しく、マクロライド単剤での初期治療は何とも。使うなら、COPD急性増悪などH. influenzaeMoraxellaのカバーが必要そうな時。またLegionella疑いならアジスロマイシンでして、レボフロキサシンと同等の効果。MycoplasmaChlamydophila pneumoniaeによる非定形肺炎であれば、クラリスロマイシンの方が強くなっています。

 そして他には細菌性腸炎。これは外来のGNRが原因菌であるため、GNRをカバーできるアジスロマイシンです。ただ、Salmonellaには効かないことが多く、Campylobacterも耐性を獲得しつつある状況。ただCampylobacter腸炎は抗菌薬なしでも治るので、最初から使わなくても良いかもしれません。自分も2010年にCampylobacter腸炎になりましたが、何とかOS-1という経口補水液で粘って治しました。ヘロヘロになりましたけど。。。EHECなど外来のE. coliはキノロン耐性が進んでいるため、アジスロマイシンは良い代替薬となります。

 STDも良い適応です。尿道炎や子宮頚管炎に対してアジスロマイシンを選択します。N. gonorrhoeaeも同時に感染していることがあるため、セフトリアキソンなどとの併せ技を行うことが推奨されています。N. gonorrhoeaeにもアジスロマイシンの2g製剤(ジスロマックSR成人用ドライシロップ2g)が適応となりましたが、より活性の強い抗菌薬を選んだ方が今のところ安全。PIDになると嫌気性菌が絡んで来るので、嫌気性菌にも効果のある抗菌薬が必要となります。

 他にはピロリ菌、百日咳、ネコひっかき病などには同等の効果。ピロリにはクラリスロマイシンとアモキシシリンとランソプラゾールの配合剤(ランサップ)があるので、それで治療してもいいかもしれません。ただし、ピロリもマクロライドへの耐性獲得中で、今は20%以上が耐性を持っているのではとも言われます。MACに対してはクラリスロマイシンの方がやや強いようですが、薬剤相互作用やコンプライアンスなども考えて、アジスロマイシンとクラリスロマイシンのいずれかを選んだ方が良いでしょう。

 アジスロマイシンの静注薬は経口薬とは比べ物にならないほどの強さを持ち、マクロライド高度耐性の肺炎球菌にも効果を示すことが知られています(Efficacy of azithromycin in the treatment of community-acquired pneumonia, including patients with macrolide-resistant Streptococcus pneumoniae infection. Intern Med. 2009;48(7):527-35. Epub 2009 Apr 1.)。嫌気性菌もカバーしてしまうので、もはや別個の抗菌薬??かなりの広域、と考えるべきでしょう。アジスロマイシンのSR製剤は経口薬と静注薬の中間的イメージ。嫌気性菌には効力を持ちませんが、マクロライド耐性の肺炎球菌に効くこともあります。

 副作用はアジスロマイシンが最も軽く、エリスロマイシンが最も多いです。胃腸症状がメイン。そしてマクロライド系、特にエリスロマイシンとクラリスロマイシンは薬剤相互作用が問題となることもあり、使用薬剤は確認が必要。QT延長となることもあるので気をつけましょう。またマクロライド系、特にアジスロマイシンは妊婦にも使いやすい抗菌薬として有名です。食事による影響も言われていて、クラリスロマイシンは食事により吸収が良くなり、後の2剤は吸収が落ちると言われます。でも本によって少し記載が変わってますね。。。

 補足:アジスロマイシンが心血管死リスクが上昇するという論文がNEJMに掲載されていました。100万回投与すると、約47人の心疾患死亡増となるようです。多いとするか少ないとするか。。。特に心疾患ハイリスクでは更に増加するとのことで、ちょっとここは頭に入れておいても良いかもしれませんね(Azithromycin and the Risk of Cardiovascular Death; N Engl J Med 2012; 366:1881-1890)

 ↑また補足:2013年3月に、FDAがアジスロマイシンによるQT延長について警告を出しました。既往歴や家族歴の確認、そして心電図検査は投与前にしておいた方がより安全かもしれません。

 マクロライドは抗菌作用の他に抗炎症作用も知られています。DPBに対する治療は有名ですね。他にもCOPDの急性増悪を抑えてくれる可能性も指摘されています(Azithromycin for Prevention of Exacerbations of COPD. N Engl J Med 2011;365:689-98.)。更にSIRSにおいて、貪食能が高まったAlert cell(炎症を感知する細胞)に取り込まれて効果を発揮するかも?と言われており、SIRS患者さんにおいて治療上のBreakthroughをもたらしてくれるかもしれません。
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2012
01.25

診断推論 Starter & Booster:第10回~まだあるミスの原理

目次→コチラ

 各ステップと尤度比の説明が終わったところで、ミスの種類を2つお話しします。以前挙げたものは、“主訴を取り違えてしまう”というものと“想起しない”というものでした。”想起しない”っていうのは、「主訴から想定しづらい臓器がある」こと、「臓器別ではない鑑別疾患がある」ことの2点でしたね。残りの2つをこれから説明します。

 1つは“鑑別に挙げた以降の間違い”です。これは“鑑別に挙げた疾患を容易に切ってしまう、もしくはそれに飛びついてしまう”という2点に分解されます。なぜそのような失敗を侵してしまうのか?

 大きな要因としては、鑑別疾患の臨床経過や診察や検査の特性を知らないことで、その結果に振り回されてしまうことが挙げられます。せっかく主訴・患者背景から鑑別順位を付けたものの、さほど重要でない症状から「この疾患だ!」と考えてしまったり、重要な症状があるのに「この疾患じゃなさそうだ」と切ってしまったり。各疾患の典型的/非典型的なコースを知っておかないと、自分の知っている疾患像からちょっと外れただけで除外してしまう、少しでも疾患像に似ていたら飛びついてしまう、ということがあります。また、診察や検査の力を過大評価してしまい、その前の段階での確率が高くても所見なし=疾患除外、確率が低くても所見あり=疾患確定という見方をとってしまうことが言えます。自分の行う診察、検査についてはどんな有用性と限界性を持っているのかを知り、かつ適切な前確率を設定する、これが鑑別を適切に行う大切な心構え。

 例えば、昨日から頻尿と排尿時痛があって高熱も出ていて尿も濁っている患者さん。ぶるぶる震えています。診察ではCVA tendernessが陰性でした。腎盂腎炎ならCVA tendernessがあると思い込んでいたら、この所見が出ないことで腎盂腎炎の鑑別順位をかなり下げちゃうかもしれませんね。

 尤度比はもちろん大事で、それを意識した患者背景獲得・病歴聴取・診察・検査を行うことで診断に到達します。しかし、これまで何度も言っているように、それだけを見て物事を決めてはいけません。問診なり診察なり検査なり、それをする1歩手前の鑑別疾患群の確率を適切に位置づける、このことがあって初めて尤度比は生きてきます。診断というのは積分的なものの見方が必要です。検査値1つで揺らいでしまう微分的な考えはよろしくありません。

 もう1つのミスは“言葉の取り違え”です。診察前確率のところでも出てきていましたが、ここで改めて。

 以前にお話ししたように、患者さんは患者さんの日常の世界を生きており、私たちは私たちの日常の世界と医学の世界の2つを生きています。患者さんからもたらされる症状の数々は、私たちの2つの世界により整理されます。そして私たちはまた必要な問診事項を患者さんの世界へ投じます。その繰り返しによって、患者さんの持っている像が描けてきます。この一連の作用を失敗してしまう、すなわち

・専門語で情報を交換しようとする
・日常語の多義性をとらえ損ねる

のであれば、こちらも正しい情報を手に入れることが出来ません。こちらに十分な疾患の知識があっても、それを患者さんに分かる言葉で聞くことが出来なければ、そしてその言葉の多義性を理解しなければ、その知識を生かせません。また、患者さんの言葉を適切に医学の世界に変換できなければ、疾患の知識と結びつきにくくなります。特に病歴においては、患者さんと私たちとの“あいだ”、そして私たちの中にある“あいだ”の2つを理解しましょう。

 自分のいう感覚的確率アプローチは、主訴と患者背景・病歴・診察・検査というステップを意識し、それぞれにおける鑑別疾患の確率を大まかにとらえることです。大まかにとらえるというのは、あらかじめ知識として持っている疾患そのものの典型的/非典型的な像、つまりは顔つきと、こちら側が患者さんから引き出した情報との照らし合わせです。昨今はエビデンスエビデンスと言われてはいますが、なかなか全てが数値としては出てきません。そこは我々の感覚が重要となってくるのです。その感覚の精度を上げるためには、敵の顔を十分に知っておかねばなりません。疾患そのものを知るという最も基本的な事柄が重要になってくるのです。この疾患の顔というのは、先人たちが記してきた経験。Evidence Based Medicineな部分とExperience Based Medicineな部分、両方の“EBM”を用いながら疾患を知っていきましょう。そして、患者さんから上手く情報を引き出すため、問診の精度を上げることも大事です。それには、“あいだ”を意識しましょう。疾患の知識を土台にして、適切な問診能力がその上に乗ることが、感覚的確率アプローチの基礎となります。

 ここで例を1つ。胸痛と冷や汗を訴える中年の男性患者さん。心筋梗塞を疑って12誘導心電図を取ってトロポニン-Tを測って、両方空振りだったので安心して帰宅させたら、実は。。。というのはパターンとして有名です。これは12誘導心電図とトロポニン-Tの特性を知らないため、陰性結果ということに大きく揺さぶられてしまったという事が言えます。心筋梗塞に対する12誘導心電図は、初回では50%ほどが正常心電図を示すとも言われているため、疑ったのなら何度もとって波形の変化が出てこないかを見るのが大切。トロポニン-Tは心筋梗塞の発症早期では陰性となることが多いということがあります。発症3時間以内では感度55.2%、特異度95.7%とされているので、LR+12.8、LR-0.47となります。この陰性尤度比を見ると、全く除外には向かないことが分かりますね(陽性になった場合、検査前確率を50%以上と見積もっていたら検査後確率は90%を超えます)。

 まとめると、ミスの原理と言うのは以下の様になります。”鑑別に挙げた以降の間違い”を2つに分解したので、ここでは5つあげています。



 こいつらを意識して勉強することが、ミスの少ない診断に近づく方法になります。びしっと意識してみましょう。そして、自分が間違えたとき、その原因を探りながらこの原理を見返してみてください。
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2012
01.22

ステマじゃないですよ

 柿の種、といえば辛くてお茶請けにピッタリなお菓子。新潟にある浪花屋というお店が元祖。全国のスーパーにはむしろ亀田製菓(これも新潟)の柿ピーが幅を利かせている印象。柿ピーはそのピーナッツの存在意義を永遠に問われるものだと思いますが、一般的にはどうなんでしょうね。

 さて、そんな柿の種ですが、自分が好きなのは本家本元の柿の種ではなく、亜流に属する「柿の種チョコ(柿の種にチョコレートを纏わせたお菓子)」。甘さと辛さの織り成す豊かで深みのある味わい。これこそ日本が世界に誇るべきお菓子。100円ショップでも買って食べたことはありますが、やはり一番美味しいのが件の浪花屋が作っている「柿チョコ®」でしょう。柿の種チョコで問題となるのは

・柿の種そのものの質
・チョコレートの質
・シンクロ率


の3点。甘く、それでいて舌をくすぐる柿の種の程よい辛さ。単純ではない世の中を具現化させたこのバランスは、老舗ならではの技術と言えましょう。

 新潟だとコンビニにも売ってましたけど、名古屋に来てからは見かけず。ふらっと寄った金山駅の成城石井にありました(確か230円)。何故に成城石井??という疑問はあるものの、久々に出会った旧友のような懐かしさ。



 柿チョコ®には他にもホワイトチョコでコーティングされた「ホワイト柿チョコ®」やカフェオレチョコによる「カフェオレ柿チョコ®」などがありますが(確か全部で5種類くらい)、一番美味しいのはやはり亜流の中の王道極めたるノーマルな柿チョコ®。

 ぜひ、浪花屋の柿チョコ®を見かけたら買い物カゴに入れて下さい。実に美味しゅうございます。
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2012
01.21

感染症診療 Starter & Booster:第9回~抗菌薬について知っておくこと-8

第9回目次→コチラ

8)良すぎる使い勝手、キノロン系
 乱用が問題視されているキノロン。細胞内のDNA合成酵素に働きかけるので、濃度依存性です。昔々のいわゆるオールドキノロンの代表がナリジクス酸ですが、耐性が多くなりすぎて今は使いません。これを第1世代とすると、第2世代以降が今使われているニューキノロン。代表例を挙げると第2世代がシプロフロキサシン(シプロキサン®)、第3世代がレボフロキサシン(クラビット®)、第4世代がモキシフロキサシン(アベロックス®)となります。世代の分け方は色んな先生が色んな事を言っているので、決まっているわけではありません。ちなみに2011年1月からレボフロキサシンの静注製剤が販売になりました。そして本当にどうでも良い知識ですが、クラビット®の名前の由来は「CRAVE(熱望する、切望する)IT」からCRAVITとし、待ち望まれた薬剤であることを表現したそうです。キノロンは色んな薬剤が開発されてますが、どれも似たり寄ったり。基本は上記の第2-4世代の3剤にして、他は覚えなくて(使わなくて)良いと思います。

 第1世代のスペクトラムはGNRでしたが、世代を経るごとにGPC、果てはBacteroides fragilis groupの嫌気性菌にまで広げて行ったという経緯があります。広げ方はセフェムと逆のパターンですね。ニューキノロンは何と言ってもP. aeruginosaに効くというのがポイント。これだけでも乱用すべきものでは決してないということが分かります。そして、結核に効いてしまうというのもあります。ニューキノロンを肺炎治療で使う時は、必ず結核を否定してからにしましょう。さもなければ中途半端に結核を治療することになってしまいます。感染症の専門医以外は、肺炎(疑い)の患者さんにはキノロンを”使わない”という方法を持つことが大切です。

 補:結核の診断前にキノロンを使用してしまうことで、結核患者さんの結核死亡リスクが上昇するという報告が出ました。培養や塗抹が陰性となってしまうようで、早期に見つかりにくくなることが原因(Fluoroquinolone exposure prior to tuberculosis diagnosis is associated with an increased risk of death; The International Journal of Tuberculosis and Lung Disease, Volume 16, Number 9, 1 September 2012 , pp. 1162-1167(6))。記事にしましたので、リンクはコチラから。

 どの様な細菌をターゲットにするかと言うのを大雑把に表すと

第1世代:GNR(腸内細菌科)
第2世代:GNR(緑膿菌含む)、細胞内寄生菌
第3世代:GNR(緑膿菌含む)、細胞内寄生菌、GPC(肺炎球菌)
第4世代:GNR(緑膿菌含む)、細胞内寄生菌、GPC(肺炎球菌)、嫌気性菌


 この様に発展しますが、第1世代のナリジクス酸を使うことは全くないと思います。各菌に対して見ていきましょう。

 P. aeruginosaへの活性の強さは、第2世代のシプロフロキサシンがキノロンの中では最強です。次点に第3世代のレボフロキサシン。GNRでは腸内細菌科はほぼカバーしますが、E. coliが最近は耐性を持ち始めていて怖いところ。他にH. influenzaeや、GNRの分類で出てきた「外部から侵入し消化管内に感染症を起こすGNR」つまりは細菌性腸炎にも効きます。しかし最近はよそ者のGNRもキノロン耐性を獲得してきているので、難しくなっていますStenotrophomonas maltophiliaには残念ながら効きません。

 細胞内寄生菌、特にLeginonellaに有効でこれは第一選択。MycoplasmaChlamydophila pneumoniaeもO.K.ですが、他の薬剤で治せるため無駄にキノロンは使わないようにしましょう。シプロフロキサシンは、STDを起こすChlamydiaにはあんまり効かないと言われています。

 GPCで言えば、MSSAもある程度カバーしますが、キノロンで治療するものではありません。そしてMRSAには効きません。腸球菌では、尿路感染なら良いかもしれませんが血流感染では使用を控えましょう。特に第4世代のモキシフロキサシンは尿への移行が悪いので、腸球菌によるものであれ何であれ、尿路感染に使用してはいけません。第3世代以降はS. pneumoniaeをカバーするのでレスピラトリーキノロンなんて言われますが、S. pneumoniaeを狙って出すものではないということは覚えておきましょう。他に良い薬があります。ま、総じてGPCを狙って使うものではありません、キノロンは。

 嫌気性菌は第4世代がカバーしているものの、それ単独で叩きにいけるかは分かりません。自分は嫌気性菌狙いで第4世代を使ったことはなく、少し怖いところ。というか第4世代自体使用経験ありません(モキシフロキサシンは肝障害の報告がありますね)。

 他には、MoraxellaNeisseria(髄膜炎菌、淋菌)に効果があります。しかし、淋菌は恐ろしいほどキノロン耐性が増えてしまい、ポンと簡単に治療は出来なくなってきています。

 E. coliが耐性を持ち始めている、とお話ししました。そこで1つ言いたいんですが、膀胱炎に対する治療。キノロン、特にクラビット®は膀胱炎にホイホイ出されすぎています。原因菌はE. coliが圧倒的に多く、結構この耐性には気を付けたいところ。更に現在の耐性もそうですが、将来的なことも考えるとたかが膀胱炎にクラビット®を使うのは「うーん」と思ってしまいます。S. pneumoniaeをカバーする必要もないですし。自分はST合剤(バクタ®)やホスホマイシン(ホスミシン®)を使っています。

 飲み方の注意としては、制酸剤(H2ブロッカーやPPI以外のもの)、Mgの下剤、鉄剤、牛乳などと一緒に飲むと効果が落ちるので注意。投与の間隔を2-3時間くらい空けましょう。副作用で有名なのは高齢者の中枢神経症状やアキレス腱断裂。相互作用もあり、QT延長やNSAIDsとの併用で生じうる痙攣など、使用薬剤のチェックを怠らないこと。特にワーファリンを使っている患者さんには注意しましょう。妊婦、授乳婦、小児には基本的に禁忌扱いです。2012年には、キノロン服用中の患者さんは網膜剥離のリスクが有意に高まるという論文が出ました(Oral Fluoroquinolones and the Risk of Retinal Detachment. JAMA 2012;307(13):1414-1419.)。眼には注意してなかったですね。。。

 補:キノロンが重篤な不整脈を引き起こすかもしれないという論文が出ています(Fluoroquinolones and the Risk of Serious Arrhythmia: A Population-Based Study; Clin Infect Dis. (2012) 55(11): 1457-1465)。この中では、ガチフロキサシンがダントツで、次にモキシフロキサシン、シプロフロキサシンが続きます。日常で使用する分には大丈夫でしょうが、薬剤相互作用は知らず知らずのうちに…ということもあるので注意が必要かもしれません。三環系うつ薬なんかはQTを延長させますしCYPも広範囲に阻害しますから、その併せ技で一本取られない様に。。。

 キノロンはカルバペネムと同様にスペクトラムが広く、使い勝手が良いと思われがちです。しかし、スペクトラムが広いということは、それだけ無駄が多いと言えなくもありません。どんどん使われてしまった結果、多くの菌がキノロン耐性になってきています。将来まで使えるように、使う状況を絞っていくことが大事です。カルバペネムにも同じことが言えますけどね。効く抗菌薬が適切な抗菌薬というわけでは決してありません。これは絶対に覚えておきましょう。
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2012
01.21

感染症診療 Starter & Booster:第9回~抗菌薬について知っておくこと-7

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7)多剤耐性への切り札?アミノグリコシド系、アズトレオナム
 アミノグリコシド系は細胞内のリボソームに作用し、ゲンタマイシン(ゲンタシン®)、トブラマイシン(トブラシン®)、アミカシン(ビクリン®)などがあり、血中濃度をモニタリングして使用します。この薬剤は好気性GNR、特にP. aeruginosaを代表とするSPACE+αのためのものと考えましょう。大事なこととして、嫌気下では効力を発揮しない、すなわち嫌気性菌にはお手上げな点ということがあります。低pH下も苦手なので、膿瘍もダメです。単独でGPCに立ち向かうというのも無謀です。髄液移行性はありません。しかし多剤耐性のGNRにも効くことがあり、今後は少しその場面で活躍するかもしれません。

 こうして見ると、市中感染で使うような代物ではなさそうです。この薬剤、現在は単剤で使われることはあまりなく、多くは重症感染症への併用で目にします。ただし併用が格段優れているという実証に乏しいのも事実。IDSAの発熱性好中球減少症ガイドラインからは、併用療法が推奨から外されました。主に使われるのはGPC感染、それも主に腸球菌感染ですが、それに対しては、腸球菌がゲンタマイシンに高度耐性でなければβ-ラクタム系との併用を行います(GPC感染に併用するアミノグリコシド系はゲンタマイシン一択と考えておきましょう)。

 アミノグリコシド系は少し前までは1日複数回投与だったのですが、時間依存性と濃度依存性の原則から、1日1回投与が最近はなされることも多くなりました。副作用、特に腎毒性も1日1回の方が軽くなっています。ただし、1日複数回投与が推奨されているものもあり、感染性心内膜炎や重症感染症がその例です。また、アミカシンは他のアミノグリコシド系に耐性のGNRにも使用できるという特徴があります。

 アズトレオナム(アザクタム®)はモノバクタム系に属し、広い意味でのβ-ラクタム系です。ペニシリン系やセフェム系にアレルギーがあっても使用可能。スペクトラムはアミノグリコシドから副作用を取り除いたものと覚えておくと良いかもしれません。なら使いやすいじゃないかと思って乱用すると、すぐ耐性が出来てしまいます。あくまでも、代替薬がない時にのみ使いましょう。
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2012
01.21

輸液 Starter & Booster:第4回~輸液をする時

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 輸液製剤について学びましたが、今度はどう言う時に輸液をするか?です。原則としては“食べることのできる患者さんに輸液はしない”ということ。当然と思うかもしれませんが、思いのほか病棟では漫然と輸液されている患者さんが多いのです。これは忘れないで下さい。食べられない患者さんに輸液はするものですよ。だから少し前に流行った”点滴バー”なんてのは言語道断。アレをやってる医者は何とも思わんのでしょうかね。結構お値段も張るし。

 さ、そして最初の方にもお話ししましたが、全ての液の出入りは血管内を経由する、ということです。体液の喪失はまず細胞外液、特に血管内から生じます。それによる張度の変化によって細胞内外へ水の移動がなされていきます。これをもう一度意識しておきましょう。以下は経口摂取の出来ない患者さんを対象として進めます。

 さて、輸液を自分たちが組む時に考えることは、患者さんの状態の経過です。これは大野先生の『ICU/CCUの薬の使い方、考え方』を参照してみることにします。疾患の勢いが強い急性期、これはおおよそ治療開始から12時間ですが、その間は炎症と凝固がどんどん起こっていますから、内皮細胞表面層の損傷も酷いことになっています。このため血管透過性が最大になり、血管内の水分が細胞間質に逃げています。12-48時間でそれは頭打ちで、プラトー期と言われます。治療が奏功した場合はその後の48-72時間で血管壁のバリアが修復され始め、逃げていた水が血管内に戻って来ます。利尿期というやつですね。そして5-7日で従来の状態に戻ると言われます。ここまで来たら一安心。しかし、この経過は治療が効果を示している時。原疾患のコントロールが付いていなかったり、呼吸や循環に問題があったり、感染などの新しいイベントが生じているのであれば、利尿期には移行せずに炎症と凝固が続いてしまいます。



 輸液を開始する時や施行中の時は、常に上記のような患者さんの疾患の動きに着目です。それはやはり、以下に換言できるでしょう。

・血管内に水がどのくらいあるか?
・血管内と細胞間質の間での水移動はどうか?


 この2つを意識します。やはり最も気を付けたいのは患者さんの循環動態。それがどうなのかをこの2点から見ておくことが大事であり、特に以下で学ぶ“是正輸液”でこの考え方は大事になってきます。

 Naと織り交ぜてみると、少し前に「Na量は細胞外液に影響し、Na濃度は細胞内液に影響する」と言いました。これから言えるのは、Naの量や濃度の異常は細胞外液や内液の異常です。これの是正のために輸液は必要。ただNa量の増加に関しては、細胞外液量が増えているため輸液は逆効果になってしまうこともあります。

 他に輸液が必要な状況は、何らかの原因により体液喪失の多い患者さんで、これからの異常を防ぐために体液全体を維持したい時。後は栄養補給をしたい時など。こういう時に輸液をします。

 では使う輸液はどういうものか。まずは是正輸液(Na量異常やNa濃度を正すための輸液)の基本的な考え方ですが、これは先ほどの

・血管内に水がどのくらいあるか?
・血管内と細胞間質の間での水移動はどうか?

に基づきます。

 血管内に水が足りないなら、もちろん等張液が必要になります。生食や乳酸リンゲルなどの等張晶質液ですね。疾患の勢いが強く細胞間質に水が逃げて行っている状態、すなわち細胞外液として全体量は多いけれども血管内に少ない状態なら、血管内にがっしりとどまり、かつ水を間質からぐいっと引っ張ってくる様な20%アルブミン液が必要になることもあります。出血で血管内から水が無くなっているけれども間質には逃げていないと言う状態では、等張晶質液や場合によっては5%アルブミン液などを使用。

 細胞内液が足りないなら、そこに多く分布する輸液が必要。ということは5%ブドウ糖液などの低張液が適切ですね。ただし極度に細胞内液が足りない時は細胞外液も一緒に失われていることが殆どです。つまりは血管内からも水が外へ出て行っている状態。そういう時は生食などの等張液で対応することもあります。

 細胞内液に多い時、殆どは低Na血症ですが、その時はどうでしょう?外液が失われているようなら等張液を使用しますが、高度のものや症候性であれば3%食塩水などの高張液を用いてNa濃度を復旧させます。

 全体としては上記の様ですが、難しいのが足りない量を推し量ること。そのために有用な所見を参考に輸液を選ぶ必要があります。これはまた後ほどお話ししましょう。

 では、体液喪失に用いる維持輸液についてはどうかというと、血管内に水が十分あり、疾患のコントロールもついて安定した患者さんが対象になります。

 人間は黙っていても体液を喪失します。腎臓からは尿として、腸管からは便として、皮膚からは汗として、肺からは呼気として。結構出て行くものでして、尿量が1000mL/dayとすると普通にボーっとしていても1500-2000mL/dayくらいは全体として出て行ってしまいます。ということは、維持するための輸液、維持輸液もそのくらい必要。その輸液に何を使うかと言えば、判で押したように3号液が選択されています。代表例はソリタ3号液®ですが、これは母乳中の電解質を参考に作られたそうです。

 しかし、健常人の生理的な体液喪失については3号液で良いのですが、入院患者さんはやはり病人。例えば腎不全の患者さんだとKの排泄が上手くいかないので、Kを多めに含んでいる3号液は適切とは言えません。また、体液喪失もちょっと事情が異なってきています。1つはストレスがかかっていること、もう1つは下痢やドレナージなどによる喪失があります。この様な病的な体液喪失については盲目的に3号液を入れるのではなく、少し考えてみましょう。

 前者の「ストレスがかかっている」というのは、心理的なストレスもそうですし、外傷・炎症としてのストレスも含まれます。この様な患者さんではADHが分泌されており、このADHは尿の水成分を出さない作用がある(尿に含まれるNaが多くなる)ため、こういう時に3号液で立ち向かうと、あれよあれよという間に低Na血症になってしまいます。現実問題として、院内で生じる低Na血症は医原性のものが非常に多いんですよ。また、炎症が強い状態だと血管壁バリアが崩れてきますから、これに対して3号液というのもおかしな話。なので、最近は急性期患者さんや周術期の患者さんでは3号液ではなく生食などの等張液を使う方が適切だと言われています。

 後者の「下痢やドレナージによる喪失」では、その喪失体液の分をベースの輸液にプラスしてあげます。胃液であれば半等張、胃液以外の消化液は等張、汗は高度の低張と大まかにとらえておきましょう。フロセミド(ラシックス®)で利尿を掛けた尿は、NaとKを足して75とされ、別名1/2生食(half normal saline)と言われています。喪失体液は、それらの出た分の輸液メニューを別に組んであげてプラスすると良いわけですね。後は細かく調節です。血液検査と尿検査で電解質の動きを推測しながら、輸液を組み立てていきましょう。

スライド14

 実際は、目の前の患者さんは既に体液量が減少していて、かつこれからも体液が喪失していくと想像されるというパターンが多いと思います。こういう時は是正輸液で現在の減少分を補い、維持輸液でこれからの喪失を補充してあげます。是正輸液と維持輸液をそれぞれ考えて、併せて投与するというのが合理的ですね。循環動態や電解質が安定したら是正輸液は必要なくなりますし、経口摂取が可能になったら維持輸液もおさらばです。
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2012
01.19

診断推論 Starter & Booster:第9回~感度と特異度、そして尤度比

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 Rule inとRule outを意識して主訴に対する一連の流れを行いますが、そのために必要な知識が感度Sensitivityと特異度Specificity、そして尤度比Likelihood Ratioです。これは現代の診断学を語る上では外せない話題。今回のレクチャーでは統計の専門知識をあまり使わない方針ですが、この三つの言葉はどうしても覚えてもらわねばなりません。これを知ると自分の行っているものがどの程度対象としている鑑別疾患を引っ張ってくるか、それとも圏外に押しのけるのかというのが実感できます。まずは感度と特異度を極端な例で見てみましょう。

 ある疾患Aが存在するとします。それに対する感度100%の検査Bと、特異度100%の検査Cがあるとします。検査Bの意味するものは、この結果が陽性とならないAは存在しない、Aならば必ずそのBが陽性ということになります。ただし、他の疾患でBが出ることを否定するものではありません。他の疾患でBが陽性になることもあるけれど、Aなら確実に陽性になる。裏を返せばBが陰性であればAは否定できると言うことになります。つまりは、感度が高いほど、それが陰性であればAではない方向性(除外)に向くんですね。

 では、検査Cの意味するものは、結果が陽性となるのはAにしか見られないものとなります。ただし、Aなら必ずCが陽性になるという情報を与えるものではありません。他の疾患ではCが陽性になることはないけれど、Aでも陰性の時がある。しかし陽性なら必ずAである。つまりは、特異度が高いほど、それが陽性であればAである方向性(確定)に向くんですね。まとめるとこんな感じ。



 感度や特異度が高ければ高いほど、上図の矢印の”必ず度合い”が強くなることになります。まとめると、感度Sensitivityの高い項目が陰性Negativeなら除外Rule outの方向に、特異度Specificityの高い項目が陽性Positiveなら確定Rule inの方向に、と言えます。これをSnNOut、SpPInと覚えましょう。感度100%の所見が無ければアリバイ完全成立、特異度100%の所見があれば言い逃れできずに即逮捕、という感じ。

 ここで、ある疾患に対する感度90%、特異度80%の検査があるとします。となると、この検査が陽性もしくは陰性になったとき、その疾患の可能性がどう変化するのか?それはちょっと分かりづらい。じゃあどうしようか、となります。

 それを分かりやすく表したのが、尤度比(ゆうどひ)です。”もっともらしさ”を示すもので、感度と特異度から計算することで導かれます。尤度比には2つあり、陽性尤度比(LR+)と陰性尤度比(LR-)。前者は、その検査が陽性の場合、どのくらいの”もっともらしさ”があるかを示します。後者は、その検査が陰性の場合、どのくらいの”もっともらしさ”があるかを示します。検査前確率と尤度比から、検査後確率が導かれるわけですね。どの様に計算するかは、以下に示されます。

・陽性尤度比=感度/(1-特異度)
・陰性尤度比=1-感度/特異度

 この尤度比が1からどのくらい離れているか?でそのパワーを知ることが出来ます。



 尤度比=1は、全く役に立ちません。その疾患を確定の方向にも除外の方向にも動かさないものです。感度50%、特異度50%という状況を想定すると分かりやすいでしょう。尤度比が0に近づけば近づくほど、”もっともらしさ”から遠ざかります。尤度比が∞に近づけば近づくほど、”もっともらしさ”に接近します。ということは、これら両極端の値に近いものほど役に立つということです。

 では実際どのくらいの数字の尤度比が役に立つのか、というのが知りたいところ。一般的にLRが5以上もしくは0.2以下で中くらい、10以上もしくは0.1以下ですごく使える、とされています。ただし「尤度比がすごく高いから確定だ、尤度比がすごく低いから除外だ」という訳ではありません。それはやはりその検査をする前の確率、つまり“検査前確率に左右される”というのは絶対に覚えておきましょう。ここでノモグラムを紹介します。検査前確率と尤度比からどのくらいの検査後確率が生まれるのかというのを簡単に知ることが出来るスグレモノ。



 これを使って例を出します。例えばですが、統合失調症の検査前確率が50%とします。ここに統合失調症に対するLR+20、LR-0.6という検査が出来たとします(架空の検査です。精神科領域にも役に立つ検査欲しいですね…)。これを先ほどのノモグラムを使って考えてみましょう。



 よって、この検査が陽性であれば、統合失調症の検査後確率が95%くらいになり、確定診断に近づきます。しかし、陰性の場合は検査後確率が40%であまり変わりません。除外は出来ませんね。では、今度は統合失調症の検査前確率を1%にしてみましょう。ほとんど疑っていない状況です。



 なんと、検査が陽性でも検査後確率が20%に満たないのです。これを見ると分かるように、検査前確率が著しく低い状況では、ものすごく役に立つと言われる検査でも非力なものです。だから検査はすりゃ良いってもんではなくて、何故するのか、その理由を考えましょう。さもないといちいち検査結果に揺さぶられてしまいます。

 しかし、ここで1つ疑問が沸きます。「このノモグラム、いつも持ち歩かなければならんのか?」そんなのは面倒ですね。これを解決に近づけてくれたのが、McGeeという先生で、彼は足し算方式を考えてくれました。それは、検査前確率が10-90%の範囲内という前提で、大きく言うとある程度メインな鑑別に挙がっているという状況で

LR10→+45%
LR5→+30%
LR2→+15%
LR0.5→-15%
LR0.2→-30%
LR0.1→-45%

というものです。


検査前確率+[LRから推定される確率]=検査後確率


 これを覚えておくと、大凡の見当が付くので非常に楽ちん。でもきちっとしている人は、こんな曖昧な感じで良いのかと思うかもしれません。先ほどのノモグラムでも大体こんなもん、そしてここでも大まかな足し算。

 しかし、それで良いのです。何故かというと、検査前確率を何%と正確に出すことは無理だからなんです。「この患者さん、肺炎の検査前確率は37%、急性上気道炎の確率が18%、胸膜炎の確率が6%…」と見積もることは不可能。大体こんなパーセンテージかな、というファジィな確率を想定することしか私たちには出来ません。なので、その時点からして実は曖昧なんです。エビデンスエビデンスと言われて数字がもてはやされていますが、根っこの部分ははっきりしないものです。それでも、こういった尤度比などは知っておいて、かつ適正に使えれば損はありません。自分は後輩に教えるために数字を細かく覚えておいてますが、その様に知る必要はありません。以下のように


強く引っ張るor強く押しのける(LR+≧10、LR-≦0.1)
中くらいに引っ張るor中くらいに押しのける(LR+≧5、LR-≦0.2)
参考くらいに(LR+:2-5、LR-:0.2-0.5)


3段階を目安として知っておくと良いですよ。Rule inとRule outの意識を高める良い素材だと思っています。

 検査検査と言ってきましたが、最近は診察項目にもエビデンスが出てきています。最たるものが先ほど紹介したMcGee先生の書かれた”Evidence-Based Physical Diagnosis”や、その親本的存在であるJAMAの”Rational Clinical Examination”です。ここでは、こんな症状がある患者さんにこんな疾患を疑って、その時に行われる診察(や病歴)がどの程度役に立つか、というのを感度、特異度、尤度比を以て示しています。ということで、この2冊は是非読んで下さい。和訳も出てます。病歴に絞れば、Tierney先生が監修している”The Patient History”があります。総合して尤度比と言う意識を用いながらの診断学としては”Symptom to Diagnosis”がお勧め。”Symptom to Diagnosis”に関しては、和訳(”考える技術”)の方が優れています。

 さて、宣伝したところで尤度比に戻りましょう。この尤度比で引っかかるのは、尤度比が5以上もしくは0.2以下で有用とした部分。では、0.2~5のものはどう扱えばいいのだろう?という疑問が残ると思います。特に尤度比が2とか3とかの所見をどう解釈して良いのか分からなくなってしまいます。単純に足し合わせれば良いと思うかもしれませんが、そうそう単純に行かないのです。各々の所見の尤度比を足し合わせることが出来るのは、それらが独立した因子である時。別々の病態生理に基づいている時、と考えても差し支えは無いと思います。純粋に2+3=5になるのはそういう時です。同じ病態生理から派生した所見であれば、2+3=2.6になるかもしれないのです。さて、どうしたものか。

 そういう時、いわゆるスコアリングが発表されているものがあります。色々な所見を複数集めて、尤度比をある程度まで確保するシステムです。細菌性咽頭炎の鑑別の際に咽頭痛を訴える患者さんに用いるModified Centor’s Criteriaや、肺塞栓の鑑別の際に呼吸苦の患者さんに用いるWell’s criteria simplified version、胸部Xpが必要かの判断のために咳をしている患者さんに用いるDiehr’s Threshold Scoreなど。比較的便利なものが多いので、きちんと有用性が検証されているスコアリングは覚えておいて損はないです。

 余談ですが、San Francisco Syncope Ruleという、失神患者さんに用いる比較的有名なスコアリングがあります。5つの項目があり、7日後の重大なイベントの予測の感度96.2%、特異度61.9%と2005年に発表されました(尤度比を計算するとLR+2.5、LR-0.06)。尤度比を見ても分かるようにRule outに特化したものでして、5項目全て無ければ恐らく帰しても大丈夫、1つでも当てはまれば入院させましょうという感じで使われています。しかしその後検証が行われ、それほど信頼性の高いものではないと言うことが分かり、2010年のシステマティックレビューでは感度86%、特異度49%と言われています(LR-0.28なので危険な失神の除外に用いるには不安な尤度比)。この様に、後々になって実はあまり使えないんだと分かることもあります。スコアリングを用いる際は、その有用性というものをきちんと理解してからにしましょう。

 また、尤度比やスコアリングを用いる際は、どんな疾患を疑って、どんな患者さんに用いるかを明確にしましょう。「○○を主訴とする○○な患者さんにおいて、○○を疑った際の検査/診察の尤度比」とセットにして知っておく。これがとてつもなく大事。先の例で出したModified Centor’s Criteriaは、咽頭痛を主訴にする患者さんで、ウイルス性咽頭炎か細菌性咽頭炎かの鑑別に用いるもの。咽頭痛というだけで使ってはいけません。きちんと危険な疾患を除外して、上記の2疾患が鑑別となった時に用いるものです。乱暴に言えば、咳を主訴にした患者さんに咽頭痛があるからと言ってこのスコアリングを使う、なんてことをしてしまうと肺炎の患者さんをウイルス性咽頭炎として帰してしまう、ということになります。どういうセッティングで用いるものかをはっきりと理解しましょう。そうでない状態で使ってしまってはミスリードされてしまいます。

 診察と検査は、しっかりと尤度比を理解した上で用いましょう。そして、診察前確率のところでお話ししたように、病歴の中で得られる症状についてもそれは当てはまるものです。その中にも尤度比が分かっているものがありますし、実はこれまで述べたこと、すなわち患者背景と病歴から鑑別疾患群の順位づけをするという作業自体が、数字的には表れにくいんですけど、”経験的な尤度比”に基づくものなのでした。感覚的確率アプローチは、「らしさ」「らしくなさ」を照合度合いで決めるものですが、この感覚的というのは、数字に出ない尤度比っていうのも意識して名付けたものなんです。

 尤度比の使い方のセオリーとしては、鑑別順位の上位にある疾患に対しては尤度比が5以上、出来れば10以上のものを検索してRule inに、鑑別順位の下位にある疾患に対しては尤度比が0.2以下、出来れば0.1以下のものを検索してRule outに持って行くというもの。ただし、くどいようですが「見逃してはいけない疾患」に対しては、尤度比が0に近い所見があってもRule outというよりは一端保留という態度にしておく方が安全だと思います。

 また、診察や、検査の中でも超音波などはそれを行う医師の腕によってかなり所見の出方が異なってきます。研修医のうちは論文に出ているような尤度比を自分が出せるとは思わずに、少し差し引いて考えておくことが大事です。病歴も、熟練者の聞き方によって初めて得られる情報もあります。

 救急外来で用いることのある検査について、いくつかピックアップして尤度比をベースに解説している記事もあります。参考にしてみて下さい。

 まとめですが、各疾患について、尤度比が分かっている所見を3段階に分けましょう。そして、有用とされているスコアリングがあるのなら覚えて活用しましょう。しかし、尤度比を活用する際は“セッティング”をきちんと意識し、また一歩手前の確率を出来るだけきちんと見積もることが大事となります。
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2012
01.19

感染症診療 Starter & Booster:第9回~抗菌薬について知っておくこと-6

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6)高すぎる、リネゾリド(+ダプトマイシン)
 リネゾリドはオキサゾリジノン系に属し、細胞内のリボソームを叩きます。静注と経口の2種類が販売されており、更に経口でもbioavailabilityが100%という優れモノ。腎機能による調節も不要で、更に各臓器への移行性もばっちりです。バンコマイシンも効かないVREに効果を発揮する大事な薬剤。

 MRSAにも効きますが、これによる菌血症や感染性心内膜炎は失敗例が報告されています。しかしそれに反対する結果となった論文が2009年に出されました。持続するMRSA菌血症に対するリネゾリド(ザイボックス®)とバンコマイシンの比較で、サルベージとしてリネゾリドに軍配が上がったというもの。小規模スタディなこともあり、まだ何ともですね。後は、移行性の良さにより、MRSA肺炎やMRSA骨髄炎にはバンコマイシンと同等かそれ以上の治療成績かもしれないと言われます。

 前者では「MRSA肺炎にはリネゾリド」的な雰囲気に各種ガイドラインでもなりつつありますが、マーケティングによるものもあるかもしれません。ZEPHyR試験という有名な試験があり、これはMRSA肺炎に対するリネゾリドのバンコマイシンに対する非劣性を示そうとザイボックス販売元のファイザーが巨額のお金を出して組んだ試験(Linezolid in Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus Nosocomial Pneumonia: A Randomized, Controlled Study. CLIN INFECT DIS 2012)。治療成功はリネゾリドの方が優れていたということですが、60日間死亡率に差はナシ。WebでのAppendix Figure 2では、Kaplan-Meier曲線にそれほど最初から差があるようには見えず。これを見るとリネゾリドをどんどん使ってやろうとは思いません。本文にこの図を載せないのは何か理由があるのでしょうか。。。??勘ぐってしまいます。

リネゾリド

 この試験では一応はリネゾリドの方が良いですよということになり、ファイザーが攻めています。しかし、非劣性試験で優位性を示そうと言うのはお門違いですし、このFigure 2を見るとちょっと。。。

 試験に入るまでに投与されていた抗菌薬は、半数以上がバンコマイシン。もともとバンコマイシン入っていた患者さんを割り付けというのは不思議。

 しかも、ITT解析ではないというのも突っ込めます。ランダム化したは良いですが、その後に7割以上を除外してから解析してるんです。有意ではないんですが、バンコマイシン群ではもともと腎障害と菌血症が多くなっており、糖尿病やら心疾患やら人工呼吸患者などもちょろちょろ多くなっていて、最初からバンコマイシンにとってやや不利な条件になってます。

 全体としては胡散臭い試験、と言えます。

 それを実証するかのように、2010年のCritical Care Medicineに掲載された論文では、リネゾリドとグリコペプチド系のメタアナリシスが行われ、リネゾリドの優位性を示せませんでした(Linezolid versus vancomycin or teicoplanin for nosocomial pneumonia: A systematic review and meta-analysis: Crit Care Med 2010;38(9):1802-8)。同じく2011年のCHESTでも同じ様な報告となっており、何でもかんでもリネゾリドを推す気にはなれません(Linezolid vs Glycopeptide Antibiotics for the Treatment of Suspected Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus Nosocomial Pneumonia: A Meta-analysis of Randomized Controlled Trials. Chest. 2011 May;139(5):1148-55. Epub 2010 Sep 23.)。バンコマイシンのトラフを上記のように15-20μg/mLという高値に設定することで、リネゾリド失敗例の治療に成功することもあります。MRSA骨髄炎に関しては治療が長丁場となるので、経口でO.K.なリネゾリドは向いているかもしれません。これから色々臨床試験はされるでしょうが、やたらめったら使う抗菌薬ではないことは確かです。副作用は消化器系症状が多く、使用が2週間を超えてくると血球減少や神経障害などが出てきます。

 残念ながらスペインではかなり使われ、リネゾリド耐性の黄色ブドウ球菌のアウトブレイクが起こってしまいました。。。まじか!(Sanchez Garcia M, la Torre De MA, Morales G, et al. Clinical outbreak of linezolid-resistant Staphylococcus aureus in an intensive care unit. JAMA 2010; 303:2260–2264.)
 
 しかし何よりも、めちゃくちゃ高価格というのが欠点(調べてみて下さい。びっくりしますよ)。バンコマイシンも高いですが、それをはるかに上回る高さ。ファイザーさんがプッシュする理由もここからうっすらと分かりますが、何とかなりませんかね。

 ちなみに、鳴り物入りで登場したお薬にリポペプチド系のダプトマイシン(キュビシン®)があります。これはMRSAやVREなどを含むすべてのGPCに有効な薬剤。とっても大事なお薬なので、すぐ使わずに切り札として温存しておくのが良いでしょう。世界ではもはや耐性菌の出現が報告されていますので。。。1日1回投与でO.K.なのが嬉しいですね。髄液移行性は悪いので髄膜炎は少々苦手。肺ではサーファクタントと競合し効果が落ちるので、肺炎には使用しないことをお勧めします。副作用は骨格筋障害によるCK上昇が主なもので、S. aureus菌血症において、ダプトマイシンのトラフが24.3mg/L以上でその予測因子ということが示唆されています(Daptomycin Exposure and the Probability of Elevations in the Creatine Phosphokinase Level: Data from a Randomized Trial of Patients with Bacteremia and Endocarditis: Clinical Infectious Diseases 2010;50:1568–1574)。
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2012
01.19

感染症診療 Starter & Booster:第9回~抗菌薬について知っておくこと-5

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5)名前で損する、キヌプリスチン・ダルホプリスチン
 ストレプトグラミン系というものに属し、細胞内のリボソームに干渉します。何とも分かりにくい名前ですね。。。自分はこの一般名をなかなか覚えられず「キヌなんとか」で一時期済まそうとしておりました...。この薬は静注剤のみ。キヌプリスチン・ダルホプリスチン(シナシッド®)の売りは何と言ってもVREに効く!というほぼこの1点。E. faecalisはこの抗菌薬に自然耐性でして、E. faeciumにしか効きません。しかし幸いなことにVREのほとんどはE. faeciumです。何たる巡り合わせ。他にはMRSAに使用されることがありますが、第1選択ではありません。

 副作用は関節痛や筋肉痛など。使用中止の理由で最も多いものです。あまりメジャーな薬剤ではないので、使う時に勉強するのが良いかもしれません。
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2012
01.19

感染症診療 Starter & Booster:第9回~抗菌薬について知っておくこと-4

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4)トラフを保て、バンコマイシンとテイコプラニン
 この2つはグリコペプチド系というもので、β-ラクタム系と同じく細胞壁に作用する薬剤ですが、血中濃度(特にトラフ)を測りながら使用するというのがβ-ラクタム系と異なります。この2剤は同じ様な作用をするので、主にバンコマイシンについてここでは述べます。

 これらはGPCとGPRを狙い撃ちし、GNRには一切効きません。MRSA用という認識で間違ってはいませんが、使用する状況としては、β-ラクタム系耐性のGPCによる感染症、β-ラクタム系アレルギー患者さんの重症感染症、重症もしくは再発性の偽膜性腸炎が挙げられます。バンコマイシンは内服では一切吸収されないため静注で使用しますが、偽膜性腸炎は腸管にいるClostridium difficileが原因。なのでバンコマイシンを使用する時は、この疾患に限り内服です。薬剤が全身に回らないので大きな副作用もありません。しかし、覚えておいてほしいのですが、偽膜性腸炎は基本的にはメトロニダゾールで治療します。治療成績はバンコマイシンの方が良いのは確かです。しかし、価格のことやVREというバンコマイシン耐性腸球菌出現の可能性を危惧して(VRE出現頻度を上げると言うエビデンスはないですが)、再発例や重症例を除いては出来るだけメトロニダゾールで勝負します。この偽膜性腸炎へのメトロニダゾール、日本では適応外使用なのが納得行きません…。

 大事なのは、血液培養からGPCが出た時。MRSAやfaeciumfaecalisかまだ分からない段階の腸球菌など、バンコマイシンが活躍しそうな菌が想定される状況の場合は、すぐに投与するということです。MRSAか分からないからきちんと生えてくるまで待とうという作戦なら、患者さんの状態が悪くなることも十分想定されます。疑ったらドン!と使いましょう。違ったら速やかに撤退するのも忘れてはいけません。

 不適切な投与としてよく見られるのが、皮膚科や外科で創面を拭ってそこからMRSAが出たからバンコマイシン使うという場面。これは明らかにバツな使い方です。「MRSA検出=感染」ではありません。単なる定着を拾って騒いでしまうのは、検査結果に振り回されていることになります。難しいのは、ICU患者さんの吸引痰の解釈。たまにMRSAが貪食されている像があり、それをもってMRSA肺炎と言ってしまいたくなります。しかし、吸引痰はなぜか分かりませんが、原因菌でないのに貪食されているのを見ることがあり、結構それがMRSAだったりします。MRSA肺炎の診断は、実はかなり難しい。。。患者さんの状態や、グラム染色の結果、血液培養の結果なども併せて判断せねばいけません。

 MRSA肺炎に対する抗菌薬治療については、リネゾリドの項目で述べますので参考にしてみて下さい。

 バンコマイシン治療で大事なのはトラフという血中濃度の最低値。4-5回目の投与の直前に測定です。2011年IDSAのバンコマイシン投与の項目では、トラフを15-20μg/mLに保てとされています(重症でない軟部感染ではもっと少なくて良いとも言っています)。これは以前に比べると多めです。投与量は、腎機能が正常な患者さんでは15-20mg/kg/回(Actual body weight)の投与が推奨されています。この時、1回の投与量が2gを超えないようにします。重症感染(敗血症、髄膜炎、肺炎、感染性心内膜炎)では25-30mg/kg(Actual body weight)のLoading doseも考慮される、とのこと。

 副作用で有名なのはred man syndromeですが、ゆっくり投与でその頻度は低くなります。また、覚えておくべきものは発熱。使用開始後なぜか2-3週間経ってから熱が出てくるというものです。その期間の発熱は、バンコの副作用かも??とチラッと思いましょう。

 テイコプラニン(タゴシッド®)に関しては、トラフ値が添付文書の10μg/mLではなかなか効果を発揮しづらく、初期投与量も添付文書よりは多めが必要と言われています。自分の属している病院の救急部教授の投与方法は、トラフ値は17-20μg/mLを目標に、投与初日は1回量を10 mg/kgとして8時間ごとに3回投与。投与開始24時間でトラフ値を評価します。投与2日目からは投与量を4-6 mg/kgに減量して、1日1回投与とします(腎機能正常の場合)。
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2012
01.18

感染症診療 Starter & Booster:第9回~抗菌薬について知っておくこと-3

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3)根絶やし宣言、カルバペネム系
 これもβ-ラクタム系。細胞壁に作用します。超広域の代名詞とも言われ、P. aeruginosaにも効く、嫌気性菌にも効く、ESBL産生菌にも効く、AmpC産生菌にも効く。効く菌が多すぎて、効かない菌を覚えることが臨床として大事です。種類としてはメロペネム(メロペン®)とイミペネム・シラスタチン(チエナム®)などがあります。日本はカルバペネム系が数多く売られていますが、どれもこれも似たようなものなので、まず覚えるのは上記の2つにしましょう。また、恐ろしいことに経口のペネムなんてのが日本にはあります。アホかと思います。。。そんなのはホイホイと出さないようにしましょうね。

 ちなみにP. aeruginosaを苦手とするカルバペネムもあり、日本にあるものではパニペネム(カルベニン®)です。また日本未発売のErtapenem(エルタペネム)という抗菌薬は、P. aeruginosaのカバーを外しています。ペネムだからP. aeruginosaに効くだろーと考えてカルベニン®を投与しても、賢い選択とはなかなか言えません。

 効かない菌は、もちろん細胞内寄生菌。細胞壁に作用する抗菌薬なので、彼らには効果なしです。そして腸球菌に効きません。チエナム®はE. faecalisにやや活性があると言われていますが、それを狙って使う薬ではありません(特にバンコマイシン耐性のVREには無効)。MRSAMRSE、他に真菌にもダメです。後は、偽膜性腸炎の原因菌であるClostridium difficileや日和見感染として出ることのあるStenotrophomonas maltophiliaにも活性を示しません。Burkholderia cepaciaという菌は、メロペン®のみ効きます。

 それら以外には大抵効いてしまうというのが恐ろしいところです。広すぎて使いづらく、簡単に出していい薬剤ではありません。例えば、P. aeruginosaや嫌気性菌の関与が否定できず患者さんも危うい。そんな「ここぞ!」という時に限って使うものと考えましょう。基礎疾患のない患者さんの市中感染で出したら打ち首モノです。

 知っておくポイントとしては、ドリペネム(フィニバックス®)は肺炎に向かないということ。VAP(人工呼吸器関連肺炎)の臨床試験で何とチエナムに負けてしまい、試験が中止になりました。これを踏まえ、FDAは肺炎に適応がないことを改めて強調しています。アメリカでは、ドリペネムの適応は複雑性腹腔内感染と複雑性尿路感染だけなんですよ。

 もしカルバペネムを十分量かつ十分期間使用してもダメな時は、本当に感染症かどうかというのもそうですが、膿瘍など抗菌薬の到達しづらい病態があるかもしれない、また上記の「効かない菌」が原因かもしれない、と考えることが出来ます。




☆追記:肺炎球菌はカルバペネムに対して意外に耐性を持ってきています。ペネムやってるから安心安心、という訳にはなかなか行かないご時世ですね。
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2012
01.18

感染症診療 Starter & Booster:第9回~抗菌薬について知っておくこと-2

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2)じわじわ広がる、セフェム系
 セフェム系もβ-ラクタム系に属し、細胞壁に働きます。開発の順で世代に分けますが、大まかに言うと第1世代はGPC用のもの。そして世代が進むにつれて、スペクトラムをGNRに広げて行きました。効力という点では、第1世代から第3世代において、世代が進むとGNRに強くなり、逆にGPCには弱くなって行きました。新しい第4世代は第1世代と第3世代を足したものと考えましょう。



 ただし、セフェムはどんなに強力になっても腸球菌とListeriaには全く歯が立たないことは覚えておくべき事項です。第1世代と第2世代、そして第3世代のセフォペラゾンは髄液移行性がないというのも要暗記。内服薬としてのセフェムでは、第3世代のものは吸収が悪いと覚えておきましょう(bioavailabilityが低いと言います)。神戸大学の岩田先生はセフェム系を世代で覚える必要はないと仰っており、臨床的に役立つ分類としては

・黄色ブドウ球菌用セフェム
・嫌気性菌用セフェム
・緑膿菌用セフェム
・その他


というのがあります。

 黄色ブドウ球菌用セフェムは、いわゆる第1世代セフェムであるセファゾリン(セファメジン®)、セファレキシン(ケフレックス®)、セファドロキシル(ドルセファン®)など。世代が古くても、MSSAが原因菌なら国内では第一選択です。連鎖球菌にも効くので、普通の蜂窩織炎の治療や術前投与に最適。このセフェムは感受性があれば腸内細菌科なんかもやっつけることができます。ただし髄液に移行しづらいので、MSSA感染による髄膜炎はこれで治療できません。黄色ブドウ球菌用ペニシリンがあればスマートに治療できるんですけどね。。。蜂窩織炎で言うと、さっきも言いましたが最近はCA-MRSAという輩が出てきてまして、市中感染でもMRSAを考慮しなければならない時代。もし第1世代で上手くいかなかったら、CA-MRSAも考えましょう。ただし、こいつはβ-ラクタム系以外の薬剤であるクリンダマイシンやST合剤、ミノサイクリンも結構効いてくれるので、そこはまだ安心ですね。

 嫌気性菌用セフェムはセフメタゾール(セフメタゾン®)やフロモキセフ(フルマリン®)。これらは第2世代に属します。ただ、これ単剤で重症の腹腔内感染症に立ち向かえるほど強いかと言われると、自信はありません。もう少しGNRへの活性の強い抗菌薬を使用した方が最初は無難。嫌気性菌に効くということで下部消化管の術前投与に頻用されますが、近頃は耐性化が進んできてます。中等症までの腹腔内感染症などには良いかもしれません。有名な副作用にジスルフィラム作用(嫌酒薬様作用)と、ビタミンK欠乏を起こし出血傾向になることがある、というものがあります。

 緑膿菌用セフェムは第3世代のセフタジジム(モダシン®)や第四世代のセフェピム(マキシピーム®)。前者は後者に取って代わられている感じがあり、またGNRの耐性が問題になっていること、GPCへの活性が殆ど消えてしまっていることなどからあまり出番はありません。2011年に改訂されたIDSAの発熱性好中球減少症の治療ガイドラインでは、セフタジジムが推奨から外されました。セフェピムはP. aeruginosa含むSPACEにも活性があります。

 その他はセフトリアキソン(ロセフィン®)やセフォタキシム(セフォタックス®)などの第3世代。第2世代はあまり出番がありません。GPCよりはGNRの方にやや活性が高いので、MSSAには効きますが切れ味は鋭くないです。多くは肺炎、尿路感染症などの初期治療に使用される薬剤です。また、この2剤は髄液移行性があるので髄膜炎の初期治療などに使用されます。また、BLNAR型インフルエンザ菌にはペニシリン系も第2世代セフェムも効かず、第3世代が効力を発揮します。この菌が多い地域や重症である場合には、第3世代を使用しましょう。H. influenzaeによる重症感染に使えるので、頻用されては困る抗菌薬です。安易に使わず、代わりに使えるものはないか?と常に考えましょう。ちなみにセフトリアキソンは細胞壁に作用する抗菌薬ですが何と1日1回投与で良いという不思議な薬剤。

 謎なセフェムとしては、セフォペラゾン・スルバクタム(スルペラゾン®)があります。嫌気性菌にはまあ効きますが、P. aeruginosaにはちょっと、MSSAにもちょっと、という何とも感が否めない薬剤。胆道移行性が良いと言われてますが、別段それで胆管炎などにすごく効くこともなく。髄液移行性も殆どありません。エビデンスも少なく世界的にもあまり活躍していないので、これをあえて前面に出して使う意義もなさそうです。自分は使ったことありません。

 セフェムはESBL産生菌(後で述べます)には効果がないと思っておきましょう。セフメタゾールや第4世代は効果ありや?という時もありますが、これらを分解する酵素を別に持っていることもあるので、特に重篤な患者さんでは次に出てくるカルバペネム系を使用しておいた方が無難だと思われます。同じくAmpC産生菌(これも後で述べます)に対してもセフェムは効かず、カルバペネムの出番となります。

 ちなみに第5世代の開発も進んでいて、Ceftaroline(セフタロリン)、Ceftobiprole(セフトビプロール)などがあります(両者とも日本未発売)。基本的にはMRSA含めた耐性菌狙いの薬剤。セフタロリンについては、PORT risk class III or IVの市中肺炎で、セフトリアキソンに劣らない効果を示すという論文が出てます(Integrated Analysis of FOCUS 1 and FOCUS 2: Randomized, Doubled-Blinded, Multicenter Phase 3 Trials of the Efficacy and Safety of Ceftaroline Fosamil versus Ceftriaxone in Patients with Community-Acquired Pneumonia. Clinical Infectious Diseases 2010; 51(12):1395–1405)。が、市中肺炎に使ってどうすんだ?と思ってしまいます。繰り返しですけど、これはMRSAに効く大切なお薬。市中肺炎でMRSAが原因というのはまずないですよね。ナンセンスな試験だなーと感じてます。


補:2012年6月に、FDAはマキシピームを投与する際に腎障害をきちんと考慮せよとおふれを出しました。けいれんが生じることがあるようです。CrCl≦60では用量調節をしっかり行うことが求められます。
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2012
01.18

感染症診療 Starter & Booster:第9回~抗菌薬について知っておくこと-1

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1)全てはここから、ペニシリン系
 ペニシリン系はβ-ラクタム系。β-ラクタム系は細胞壁に干渉して効力を発揮するので、時間依存性です。1日頻回投与が原則。このペニシリン系は大きく言うとGPCをターゲットに作られ、開発が進むにつれ徐々にスペクトラムが広がった感じです。組織移行性については、炎症の乏しい前立腺、眼球、炎症のない髄液への移行は悪いというのは覚えておきましょう。分類としては

・古典的ペニシリン
・アミノペニシリン
・β-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン
・黄色ブドウ球菌用ペニシリン
・緑膿菌用ペニシリン


この5つ。では順に見ていきます。

 古典的ペニシリンはペニシリンGと筋注用であるベンザシンペニシリンGです。後者は残念ながら日本にありません。これらはGPCをカバーしますが、残念ながらMSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)は既に耐性を持っていて効きません。これが大きな問題なんですよね。カバーするのはS. pneumoniaeを含む連鎖球菌、E. faecalisN. meningitidis、梅毒、破傷風菌、口腔内嫌気性菌などなど。昔の薬ですが、意外と使える状況はあるものです。ただ、内服するとペニシリンGが安定せず、効果がなくなってしまいます。細菌性咽頭炎は内服で治せますが、他は点滴しなければならないのが面倒と言えば面倒。

 アミノペニシリンはアンピシリン(ビクシリン®)やアモキシシリン(サワシリン®)。古典的ペニシリンに+αされた様な存在。E. faecalisには古典的ペニシリンよりも効き、第一選択的存在(ただ、ペニシリン系の効く腸球菌はE.faecalisです。E.faeciumというのもいますが、こいつには効きません)。他に、アミノペニシリンはListeriaや感受性があれば腸内細菌科などにも効きます。同じく感受性があれば、H. influenzaeMoraxellaにも効果を発揮。ペニシリンGでも感受性があればもちろん有効ですが、内服ではアミノペニシリンであるアモキシシリンの方が安定。この内服できるというメリットから、アモキシシリンは中耳炎や副鼻腔炎、軽症の肺炎球菌性肺炎などは良い初期治療になります(アンピシリンの内服は効果が安定せず、あんまり出番はありません)。ただ中耳炎と副鼻腔炎は対症療法が基本。それでダメならという段階的措置となります。他の感染症でも培養で感受性と判明すればアミノペニシリンにすることが出来ます。

 β-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリンはアンピシリン・スルバクタム(ユナシン®)やアモキシシリン・クラブラン酸(オーグメンチン®)やピペラシリン・タゾバクタム(後述)。β-ラクタマーゼ阻害薬が入ることで、嫌気性菌(Bacteroides fragilis group)MSSAGNRにまで効力を広げられます。嫌気性菌に効くというのがポイントですね。アモキシシリン・クラブラン酸で細かいことを言うと、日本で売られているオーグメンチン®はアモキシシリンとクラブラン酸の配合比が2:1でして、欧米と比較するとクラブラン酸の比率が高くなっています。そうすると下痢の副作用が強く出るため、処方する時はオーグメンチン®1錠につきサワシリン®を1-2錠噛ませてあげると良いです。ターゲットとなる感染症に動物咬傷(ヒト含む)があるのは覚えておきましょう。β-ラクタマーゼ産生のH. influenzaeにも有効なことから、アモキシシリンの初期治療で難渋した中耳炎や副鼻腔炎や軽症肺炎も良い適応。ただ、BLNAR型インフルエンザ菌(後で述べます)を考慮しなければならない地域では、このβ-ラクタマーゼ阻害薬も意味をなしません。他には、嫌気性菌とGNRカバーがあるので市中感染の腹腔内感染症にも使用して良いかもしれませんが、E. coliはかなりの割合で耐性化が進んでいます。

 黄色ブドウ球菌用ペニシリンはナフシリンやオキサシリン。MSSAのみをターゲットとします。しかし、これは先ほど述べた大きな問題でして、この種類のペニシリン、今の日本にはないお薬なのでした。。。β-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリンがありますが、MSSAを狙うためだけにこんな広域の薬剤を使うのは勿体なくて、気が引けてしまうのです。こういうシンプルな薬剤が少ないのが、日本での感染症治療をしにくくさせている一因かもしれません。

 緑膿菌用ペニシリンはピペラシリン(ペントシリン®)とピペラシリン・タゾバクタム(8:1の配合がゾシン®)です。ピペラシリン単剤は保険用量が低すぎて使い物になりません。ここでは後者のみ覚えましょう。このピペラシリン・タゾバクタムはP. aeruginosaに効くという大事な特性があります。そしてβ-ラクタマーゼ阻害薬が入っているので、嫌気性菌にも効きます(しかも最強クラス)。P. aeruginosaと嫌気性菌、この2種類に効くというのが大きな特徴となっているため、おいそれと使うものではありませんP. aeruginosaが関与しやすい院内感染が良い選択肢となるはずでした。

 ですが、このピペラシリン・タゾバクタムは重症感染症には使うべきではない、とする意見もあります。嫌気性菌への活性がものすごく強いため腸内細菌叢のバランスが狂い、腸管内の菌交代をもたらし、Bacterial Translocationを引き起こしやすいとされます。ただでさえヘロヘロな重症感染症の患者さんに、Bacterial Translocationで2nd atackが生じたらトドメになりかねません。更に、治療中に緑膿菌が耐性を持ちやすく、緑膿菌感染症では使うな!と言う意見もあります(Outcomes of bacteremia due to Pseudomonas aeruginosa with reduced susceptibility to piperacillin-tazobactam: implications on the appropriateness of the resistance breakpoint. Clin Infect Dis 2008; 46: 862-7.)。後述するESBLにも効果が乏しいという点も不利に働きます。
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2012
01.18

感染症診療 Starter & Booster:第9回~抗菌薬について知っておくこと

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 代表的な細菌の知識を入れたところで、抗菌薬についてさらっと復習しましょう。抗菌薬は大きく分けて、細胞壁に作用するもの、細胞の中に入って作用するものの2つ。前者に属するのがβ-ラクタム系とグリコペプチド系、後者はそれ以外とこれまた大まかに捉えます。この2つの分け方は意味があり、もちろん細胞内寄生菌を叩けるかどうかの目安、そして後述しますが抗菌薬投与の時間依存性/濃度依存性の考え方のベースになります。

 そして大切なこととして『嫌気性菌やP. aeruginosaに効く抗菌薬は別に覚えておく』ということです。この場合の嫌気性菌は、特にBacteroides fragilis groupを指します。このグループとP. aeruginosaに対する抗菌薬は限られているため、これらによる感染を考えたらすぐに適切な抗菌薬を引き出せるようにし、またP. aeruginosaと嫌気性菌を想定しない感染症では、これらをカバーしない抗菌薬を出来るだけ使うということを忘れずに。



 Bacteroides fragilis group感染を疑うのは膿瘍や腹腔内感染、それとPIDなどの時。P. aeruginosa感染を疑う時は入院患者さんや免疫の低下した患者さんの感染時。こういう状況では、彼ら用の抗菌薬を使用する必要があり、それ以外の患者さんでは、その抗菌薬は原則使用しない。そう思うだけで随分と使う抗菌薬の整理ができます。繰り返しの説明ですけどね。

 また、P. aeruginosaに効く薬はほとんどが広域スペクトラムのもので、広域であることは使いやすいと思われがちです。しかし、広域のものやP. aeruginosaに効くものというのは、それだけで縛りが生じると認識しておくべきです。状況を選んで、外せない!という時に切るカードと考えましょう。また、これからする抗菌薬の説明には「~に効かない」という表現が多々あります。この「効かない」という情報にがっかりするのではなく、余計なものをカバーしない利点として捕え、より使用状況を浮き上がらせてくれるという認識を持つことが大事です。


嫌気性菌(Bacteroides fragilis group)に効く抗菌薬:メトロニダゾール、クリンダマイシン(耐性化進んでいる)、アンピシリン・スルバクタム、アモキシシリン・クラブラン酸、ピペラシリン・タゾバクタム、セフメタゾール(耐性化進んでいる)、フロモキセフ(耐性化進んでいる)、カルバペネム系、モキシフロキサシン(臨床的には??)

P. aeruginosaに効く抗菌薬:ピペラシリン・タゾバクタム、セフタジジム、セフェピム、カルバペネム系(パニペネムとエルタペネム以外)、キノロン系、アミノグリコシド系、アズトレオナム


 そして、先ほども少し出てきた抗菌薬の時間依存性濃度依存性です。前者は、1日3回投与や4回投与など、1日の投与回数を多くすると効果が出るもの。後者は1日1回500mg投与など、1回の投与量が多いと効果が出るものです。なので、時間依存性の抗菌薬を使う時、合計投与量が同じでも1日2回より1日4回の方が効果的。同じく濃度依存性の抗菌薬なら、1日3回よりも1日1回とか2回とかにして、1回の投与量を多くすべきです。大まかな分類としては、細胞壁に作用する抗菌薬は時間依存性、細胞内に侵入して作用する抗菌薬は濃度依存性としておくと良いと思います。他には腎機能によって投与量を変える必要のあるなしも抗菌薬によって異なりますが、投与の問題に関しては投与するたびにサンフォードを見て学んでいきましょう。ただし、サンフォードはアメリカを基準としているので、耐性菌の問題など国によって異なる事情もあるので、そのまま常に使えるという訳ではないというのは頭に入れておくことです。そして、サンフォードを崇拝してはいけません。アレを使えばそこそこの抗菌薬使用が出来るようになりますが、決して絶対的なものではありません。そこはお間違いなく。

 それと、抗菌薬の投与経路による効果の違いがあります。経口投与と経静脈投与とでは威力が違う抗菌薬があり、それは押さえておきましょう。Bioavailability(バイオアベイラビリティ)という概念で、投与した薬物がどの位その効果を体内で発揮できるか、を示すもので、経静脈を100%として考えます。経口投与だと吸収や初回通過効果などの影響で思ったよりも効力が出ない、、、ということもあります。特に第3世代セフェムはそれが著しいので気をつけましょう。全ての抗菌薬でbioavailabilityを覚える必要はなく、それが高く経口でも耐えうるものを覚えると良いですね。

 これらを踏まえた上で、少し抗菌薬の種類をおさらいです(一般名と商品名の両方を記しています)。なお、叩ける菌が頭の中に入っていれば、どんな感染症に使えるかは何となく見えてくるかと思います。あまりここではターゲットとする感染症をずらずらと挙げることはしないでおきますが、説明が必要そうなものに対してはちょろちょろと話してみます。静菌的、殺菌的という分類は多くの感染症でどの程度有用なものか不明なので、今回は省いています。



☆各種抗菌薬
1.ペニシリン系→コチラ
2.セフェム系→コチラ
3.カルバペネム系→コチラ
4.バンコマイシン、テイコプラニン→コチラ
5.キヌプリスチン・ダルホプリスチン→コチラ
6.リネゾリド(+ダプトマイシン)→コチラ
7.アミノグリコシド系、アズトレオナム→コチラ
8.キノロン系→コチラ
9.マクロライド系→コチラ
10.クリンダマイシン→コチラ
11.テトラサイクリン系→コチラ
12.ST合剤→コチラ
13.メトロニダゾール→コチラ
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2012
01.13

輸液 Starter & Booster:第3回~輸液製剤を分解する

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 前回は張度の概念と、少し炎症のお話もしました。ここからは輸液製剤について学びましょう。輸液製剤には、外液と呼ばれる生理食塩水(生食)や乳酸リンゲル液(ラクテック®など)、後は1号液~4号液、5%ブドウ糖液、そして膠質浸透圧を意識した膠質液と呼ばれる輸液製剤、例えばアルブミン液などがあります。大きく分けて、電解質の入っている輸液製剤を晶質液、ニカワ成分が入っていて血管内への水分保持能を高めたものを膠質液と言います。膠質液は特殊なので、まずはそれから説明を。

 膠質液はアルブミン液が代表ですが、生物製剤なので高価で感染のリスクがあるとのことで、代用としてデンプンやゼラチンを混ぜたもの(サリンヘス®など)もあります。これら膠質液の特徴は血管内に留まる能力が高いということ。細胞間質に逃げにくいということから、理論的には血管内の容量の少なくなってしまった患者さんには適任です。中でもアルブミン液は4.4%や5%のものと、20-25%という高濃度のものがあり、4.4%や5%ですと血漿のアルブミン濃度に近いので、投与した量がそのまま血漿に。20-25%のものはめちゃくちゃ濃いです。ということは、膠質浸透圧が上昇、換言すると血管内の張度が上昇。すると、間質や細胞内からぐぐっと水を引っ張ってきますね。なので、投与量以上の血漿量が増加することになります。



 ただ、皆さんご存じの様に、アルブミン液を代表とする膠質液が生命予後の改善に役立っているという明らかな研究結果は出ていません。そればかりか、代用の膠質液は敗血症に対して使用した際、腎臓に悪い影響を与える可能性があると示唆されています(Renal effects of synthetic colloids and crystalloids in patients with severe sepsis: A prospective sequential comparison. Critical Care Medicine: June 2011 - Volume 39 - Issue 6 - pp 1335-1342)。これは敗血症に限ったことではなく、いわゆるcritically ill patientや、特にデンプンの分子量が大きいとそのリスクが高まるとされます。合成の膠質液の中でも第三世代と言われるHES 130/0.4というものは腎障害を与えないと言われていますが、それも果たして。現在大規模研究が行われています。

 しかし、だからといって全てを生食などの等張晶質液にするというのはフェアでないかもしれません。対決姿勢にするんじゃなくて、晶質液と膠質液とが手を取り合って血管内水分の保持に努めねばいかんのでしょうね。また今度お話ししますが、輸液ではまず血管内水分量が適切かどうかを考えます。少なすぎても多すぎても内皮細胞表面層が関与する血管壁バリアの機能が低下します。そうすると、凝固系に乱れが生じたりタンパクを多く含んだ水分が血管外へ移動したりしてしまいます。この場合には炎症のコントロールに努めると同時にアルブミン液などの膠質液を投与して血管内の膠質浸透圧を維持することも候補になります。血管内容量を維持すれば、血管壁バリア機能が相当低下していても間質への水分移動を減らすことが出来ます。輸液を考える際には血管壁バリアを意識した“炎症”概念を持ち出す必要があると言えましょう。いかなる時も、どうすれば血管内に適切な水分量を保持できるか、有効循環血漿量(動脈系への“血の巡りの良さ”)を保てるか、それを考えるべき。細胞間質へ水分が逃げてしまうことと血管内容量が多すぎることの両者とも出来るだけ避けたいもんです。

 さて、炎症の話はここまでにして、次はその他の輸液です。ここでの原理原則は、高張液や栄養輸液を除いて「全ての輸液製剤は生食(等張液)とブドウ糖液(自由水)を混ぜ合わせたものだ」と言うこと。

 生食はNaとClとが154mEq/Lずつ入っています。細胞外液のNa濃度とほぼ同じなので、生理的であります。これを投与すると、細胞外液に広がっていきます。なにぶん生理的でして、張度も細胞外液と同じ。154mEq/Lという濃度のNaは血管内を自由に移動しますが、細胞外液の張度を変えないので細胞内液に干渉せず。血管内と細胞間質に分布するのです。分布量としては、「生食≒細胞外液」ですから、最初に戻って「細胞外液の3/4が細胞間質、1/4が血漿量」という事実を思い出せば、3/4が細胞間質へ、1/4が血漿へということが分かるかと思います。



 乳酸リンゲルも生食と同じ外液に属しますが、成分が若干違います。生食は細胞外液の陽イオン(と言っても殆どNaですが)を全てNaに、陰イオンを全てClに置き換えたもの。乳酸リンゲルはNa 130 mEq/L、K 4 mEq/L、Ca 3 mEq/L、Cl 109 mEq/L、Lac 28 mEq/Lとなっています。このKや乳酸を嫌う先生方もいますが、臨床的には特に問題にならないことの方が多いと言われます。生食はClが多く含まれているため大量投与では高Cl性代謝性アシドーシスを呈しやすく、そのためか腎機能保持に関しても乳酸リンゲルの方に分があるのでは?と言う意見も。乳酸も乳酸リンゲルに入っている量だと大丈夫とMarino先生も仰ってますね。

 5%ブドウ糖液はどうでしょう。このブドウ糖はすぐに分解されるため、張度を形成するような溶質のない水、osmole free waterを入れているのと同じ。良く言われる自由水free waterは、真水であると理解しましょう。自由水だと尾崎豊を連想しますし、何が自由だか分からないですよね。アルコールフリーとか糖質フリーとかのフリーです。ちなみに純粋な水を入れてしまうとその部位だけでも張度が急激に下がって赤血球が溶血を起こしてしまいますよ。5%ブドウ糖液は溶質のない水を入れているのと同じ。ということは、張度0です。細胞外液に入り、その張度を下げる。すると細胞内液の張度の方が相対的に高くなり、サーッと細胞内液にも広がります。容積比は最初にお話ししたように細胞内液:細胞間質:血漿量=8:3:1なので、それに従って分布。ただし、ものすごく濃いブドウ糖液を、分解速度を上回るくらいに投与すると、血漿内で無視できない張度を作り出します。



 他の輸液製剤はこの生食(等張液)と5%ブドウ糖液(自由水)との組み合わせで説明できます。例えば生食の半分の輸液があるとします。0.45%食塩水ですね。これを1000mL輸液するとします。するとこの1000mLは、生食500mLと5%ブドウ糖液500mLとを輸液したものと解釈できます。生食500mLは全て細胞外液に、5%ブドウ糖液500mLは1/3が細胞外液に、2/3が細胞内液に。こんな感じで輸液をイメージできるんです。

 しかし、輸液の中身を見てみると、大体はKとか他の電解質も含まれています。もちろん、Na以外の陽イオンも張度を作りますし、血漿と異なり輸液の種類によっては中に含まれているKの量は無視できません。よって、輸液に関して言うと、NaとKを張度の要員として数えましょう。他の電解質は少ないのでスルーできます。ということは、輸液の生食らしさ、すなわち等張性を考える場合は、輸液のNaとKの総和で判断。ある輸液のNaが77mEq/Lであっても、Kも同量の77mEq/Lであれば、これは立派な等張液で、細胞外液にのみ分布します。

 以上を踏まえて、1号液~4号液を見てみましょう。ここでは、ソリタT1号®とソリタT3号®を分解。

 T1はNaが90mEq/L含まれています。Kは入っていません。ということは、154mEq/Lが等張だから、等張液らしさは90/154≒0.59となります。T1を1000mL投与すると、590mLの等張液と410mLの自由水を投与することと同じ。生食の590mLはそのまま細胞外液に、細かく言うと3:1で細胞間質と血管内に、5%ブドウ糖液の410mLは8:3:1で細胞内液と細胞間質と血管内に分布します。

 T3はNaが35mEq/Lですが、Kが20mEq/L入っています。足すと55mEq/Lなので、等張性は55/154≒0.36となります。T3を同じく1000mL投与すると、360mLの等張液(Kが入っているので生食という言い方は避けました)と640mLの自由水を投与するのと同じになります。以下のような位置づけですね。



 この様に輸液製剤を分解すると、どれくらい分布するかの印象が沸くと思います。1号から4号になるにつれて、生食らしさが無くなっていき、真水らしさが出てくる、そう理解すると良いですね。ここで、生食とT1、T3、5%ブドウ糖溶液の各コンパートメント分布を表にしてみましょう。多くのテキストに載っていますが、表になっていた方が分かりやすいですし。

輸液の分布

 ただし、これは理論的なモノの言い方です。特に血管内の水分が少ない患者さんに生食を入れた場合、半分くらいは血管内に残るとも言われます。人間の身体は全て計算通りには運ばないので、臨床的な状況を常に加味することが大事。
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2012
01.10

輸液 Starter & Booster:第2回~浸透圧から張度の理解へ

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 さて、第1回では浸透圧が水を引っ張る力と言いましたが、もっと詳しく説明すると、ここで言う浸透圧は、細胞膜を通過できない物質による圧である、ともう一歩踏み込んだ理解をしましょう。水は、細胞内液と細胞外液の両陣営にしっかりと分かれている連中が引っ張り合います。尿素なんてのは細胞膜をひょいひょい通過してどっちの陣営にも行ったり来たりする軽薄な輩なので、引っ張り合いには参加しません。敵から水を引っ張る、その強い意志のある物質をeffective osmole(有効浸透圧物質)と言い、それによって作られる浸透圧を有効浸透圧(effective osmolality)張度(tonicity)と呼びます。この張度という概念は重要なので、しっかり押さえておきましょう。

 浸透圧と張度は違う。これを式で見てみます。血漿浸透圧の式は覚えているでしょうか。


血漿浸透圧(mOsm/kgH2O)=2×[Na+ + K+]+血糖(mg/dL)/18+BUN(mg/dL)/2.8


 Na濃度やK濃度に2を掛けるのは、同じ分だけ陰イオンを連れてくるからでした。では血漿張度はどうなるか??


血漿張度(mOsm/kgH2O)=2×[Na+ + K+]+血糖(mg/dL)/18


 このようになります。尿素(BUN)は自由に細胞内外を行き来するので、張度には関与しません。ブドウ糖は細胞外液側の陣営なので、張度にも参加。でもこの張度、もう少し簡単にできます。


血漿張度(mOsm/kgH2O)≒2×[Na+ + K+]


 何と細胞外液側にきちんといるはずのブドウ糖が省けます。著しい高血糖でない限り、「血糖(mg/dL)/18」というのは微々たる戦力。なので、殆どいないも同然。ヤムチャのような存在なんですね。。。Kも同じです。血漿中のKは少ないので、これも無視してしまっても大丈夫。ということは、浸透圧と張度の式はここまで簡単になります。


血漿浸透圧(mOsm/kgH2O)≒2×[Na+]+血糖(mg/dL)/18+BUN(mg/dL)/2.8
血漿張度(mOsm/kgH2O)≒2×[Na+]


 おー、あっさり。これから分かるように、水の移動に寄与する血漿張度はほぼNaが命運を握っているようなもの。

 では、お塩を食べると?お塩は細胞外液に行きますね。すると細胞外液の張度が上昇し、細胞内液の水を引っ張ります。細胞内液が減少するとADHが分泌されて水を出さないようにして、また口渇感が出てきて飲水します。水を飲むと2/3は細胞内液に、1/3は細胞外液に分布。細胞内液が元の量を復活させる頃には、細胞外液は増えています。ということは、Na量が増えると細胞外液が増えますね。循環血漿量が増加したり浮腫になったり。逆にNa量が減ると細胞外液が減ってしまって、カラカラに。Naの投与は細胞外液に影響するんですね。

 量の話が出たら、今度は濃度の話も。Na濃度が下がる、いわゆる低Na血症ではどうでしょう?細胞外液の張度が減少。ということは、水が細胞内液の方へ。高Na血症だと、細胞外液の張度が上がるので、水が細胞外液の方へ引っ張られます。Naの濃度は、細胞内液に影響するんですね。

 簡潔に言うと、Na量は細胞外液に影響し、Na濃度は細胞内液に影響する。こうまとめられます。実際にNa関連の問題ではこの量と濃度の程度が色々混ざっていますが、まずは簡単にこう覚えておきましょう。

 そうか、水の移動はNaを押さえれば良いんだな。確かにそうです。しかし、ここでもう1つ、水の移動に関わる物質が登場します。“膠質浸透圧”って、聞いたことあるでしょうか?それに関わるのが、アルブミンを代表とする血漿蛋白。これらも水を引っ張る力を持ちます。ただしこのアルブミンは血漿の中のみ。普通の状態では血管の外には出て行きません。何とシャイな。。。大きく言うと、膠質浸透圧は「血管内外限定の張度をつくる」と言っても良いかもしれません。Naは血管内外の移動が自由なのが違い。

 ただし、この膠質浸透圧について少し違う言い方が最近はされています。血管内皮細胞の表面には厚さが1μm以上もある層(ESL)があると言われており、この層は、glycocalyxとそれに結合した血漿タンパクと血漿水分から成っています。これと血管内皮細胞が血管壁の二重バリアを形成し、血管の内から外へ水分が無制限に出て行くのを防いでいる様です。



 血管内に水をとどめておくには、血管内外の膠質浸透圧差よりもこの層自体に膠質浸透圧勾配があることが重要、と考えられています。でも今の段階では考えやすいように、膠質浸透圧は「血管内外限定の張度をつくる」と覚えておきましょう。ちなみに、この層のglycocalyxは、炎症や血管内容量過多などなどによりアルブミンが減少したりTNFαやらANPやらが多くなったりすることで、傷ついてしまいます。これが少なくなると血小板凝集・白血球接着・内皮細胞の透過性亢進が生じることで、凝固系のバランスが乱れ、また水が血管の外へ逃げて組織浮腫となってしまいます。この血管壁バリアを守る/回復させるというコンセプトは重要で、“炎症と凝固の相互作用”を考える際にはこの先重要な概念となってきます(Therapeutic strategies targeting the endothelial glycocalyx: acute deficits, but great potential. Cardiovasc Res (2010) 87 (2): 300-310.)。



 さて、輸液の話に戻ると、細胞の内外ではNaが水の引っ張り合いに関与し、血管の内外では血漿蛋白が水の引っ張り合いに関与する、と簡単に考えて良さそうです。



 すると、長期の低栄養や激しい炎症により血漿蛋白が少なくなるとどうなるか、はもう分かりますね。血管壁バリアも傷ついてしまい水を血管内に引っ張っておく力が足りなくなるので、血管内から水が逃げていって、間質に移行します。これは、浮腫や胸水という形で臨床像を呈します。細胞外液量としては結構な量があっても、血管内の量は少なくなってしまうという事態はこういう状態で現れ、これは厄介。。。こういう状態は、血漿のアルブミン濃度が2g/dL以下になると顕著に見られます。

 他に“圧”の付くものには、毛細血管部位の静水圧があります。血管から水が出て行く強さのこと。血液は細動脈から毛細血管を経て細静脈に流れますが、毛細血管は文字通り細く、動脈側では血液が渋滞しがち。この渋滞の強さが静水圧の強さの様なものと考えて下さい。静脈側の流れが滞ってしまうと、動脈側の渋滞が強くなり血管外に水が押し出されてしまいます。ただし、健康な状態ではあまり静水圧は血管内外の水の出入りに関与していません。先ほども出てきた内皮細胞表面層、これが大きく関与しています。炎症の酷い状態や手術や麻酔時など、この血管壁のバリアが傷ついた状態ではスターリングの法則が成り立ち、毛細血管内外の静水圧と膠質浸透圧が平衡するように水分が移動します。手術は外傷と考え、輸液を組む際はそこから導かれる炎症のコントロールという意識を持ちましょう。

 後1つ、輸液を学ぶ際に重要な知識、と言っても当然のものですが、全ての液の出入りは血管内を経由する、ということです。経口摂取も輸液も血管内を通して体内に分布します。汗や尿などの喪失も血管内を介します。本当に当然な事実でありますが、これはきちんと認識しておきましょう。この血管内から、主に張度の変化によって細胞内外へ水の移動がなされていきます。
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2012
01.10

診断推論 Starter & Booster:第8回~検査前確率と検査後確率を知る

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 病歴前確率から診察前確率に発展し、そしてこの様な流れを組んで、次にすることは診察。想定する鑑別疾患群で行うべき診察を行い、それが終了した時点での確率が、検査前確率となります。救急外来など時間のない現場では、それまでに挙げた鑑別疾患をRule in/out(確定/除外)の方向に持ち込むような診察項目を選んで行うことになります。

 更にその確認のために行うのが、検査です。検査の終了した時点での確率が、検査後確率。その確率の最も高い鑑別疾患が、恐らく患者さんの抱えている疾患なのであろうと判断します。原則として検査は疾患を見つけるためのものではなく、確認のために行われるべきものです。ただし診察までの時点で有用な情報を得にくい患者さん、例えば高齢者や意思疎通の取りづらい患者さんでは検査は疾患発見的意義を持ちます。状況によっては検査に頼ることも必要なのです。「問診と診察が~」とは良く言われますが、それに拘泥するのも良くありません。検査を生かすも殺すも問診と診察次第。それらを正確に行うのであれば、その上に置かれる検査は重要なものなのです。

スライド16

 診察で、思いもしない所見が見つかったなら、必ず病歴と患者背景に戻ります。同じく、検査で「えっ!?」と言うような結果が出たら、必ず診察と病歴と患者背景に戻ります。ミスの原理の1つである「想起されない」というものに、この段階で気づくことがあります。病歴と診察を取り直すことで、聞いていなかった症状などが出てくることも。嘔吐の鑑別に心筋梗塞がすっぽり抜けていて、血液検査をしたらCKがめっちゃ上がってた、などは好例ですね。また、診察や検査を行ったその結果次第では、更に追加で行うべきものも出てくるでしょう。

 問診でもそうでしたが、ここにおいても自分たちと患者さん側とでの”あいだ”で診断は組み立てられて行くものです。患者さんと何度も何度も接触することで診断は生まれてきます。こちらが閉じこもってカルテと向かい合っていても何も生まれませんよ。

 この診察と検査で大きな役目を果たすのが、感度/特異度、そして尤度比となります。今している診察や検査にはどんな意味があるのか、その意味合いの強さを数値化してくれるものです。病歴に関してもこれらの知識は非常に役立ちますが、良く研究され王道となっているのは検査について。この重要な項目は、章を改めて説明することにしましょう。

 このレクチャーでは似顔絵捜査官の例えをしています。この主訴ならこれこれの容疑者(鑑別疾患群)の書いてあるリストを頭の中から引っ張り出して、というもの。問診までである程度の似顔絵は出来てきます。診察と検査は「犯人の目星は付いているのでそのウラを取りたい」「問診だけでは絞りきれないから、より細かい特徴を見ていこう」という位置づけ。次に学ぶ感度や特異度は、容疑者の特徴の有無を際だたせるための知識だと思ってみては如何でしょう??


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2012
01.10

感染症診療 Starter & Booster:第8回~グラム染色での見え方と臨床的知識

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 前回は常在菌と感染原因菌との関連を学びました。その中では菌の名前がたくさん出てきましたので、グラム染色での判別も兼ねて、GPCとGNRの知識を少し入れておきましょう。今回、真菌は省きます。

 まずグラム染色では、青か赤かで陽性か陰性かを判断し、次にブドウ状や連鎖状などの種類を分けましょう。そして、形や大きさなどから見えている菌の名前を考えてみます。最初のうちはこれらに気を配って顕微鏡を覗いてみましょう。もちろん、菌名の推定は臨床状況を加味して行います。

 覗くと言っても、検体のどこを顕微鏡見れば良いのでしょうか?ポイントは、細胞が濃くなるところと薄くなるところの境界線、いわゆる”波打ち際”ですね。無ければ薄い部分を、それも無ければ濃い部分を探します。波打ち際は細胞数も適度で染まり具合も丁度いいので、最も見やすい部分なんです(藤本卓司先生の「感染症レジデントマニュアル」にその記載があります)。



 まずは、グラム陽性のブドウ状球菌から見てみましょう。これが見えたら、S. aureusかCNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)か、そしてMR(メチシリン耐性)か否か、この2点を思い浮かべます。

 CNSにはS. epidermidisS. saprophyticsなどがあり、後者は性的にactiveな若年女性の尿路感染症の時に考慮するくらいで、他の状況ではS. epidermidisを多く想定します。なので、ここでは臨床的に重要なS. aureusS. epidermidisとを考えます。MRか否かですが、S. epidermidisであればとりあえずMRSEであろうと判断してコトを進めます。S. aureusは院内感染だとMRSAとして最初は考えておきます。市中感染では、最初はMSSAとして考えます。最近は地域によってCA-MRSA(Community Acquired MRSA)という耐性菌を考慮しなければならないところもありますけどね。この菌については後でお話しします。

 問題は、グラム染色でブドウ球菌のS. aureusS. epidermidisとを判別できるか?というところ。研修医の段階ではそこまで踏み込まない方が良いのかもしれませんが、慣れてくると何となく特徴が分かってきます。その特徴は、培養していない状態の検体ではS. aureusよりもS. epidermidisの方が、1つ1つが丸々としていて大きいかな?というもの。じーっと見ると、何となく…?でもほとんどアテにならないと思います。

スライド1

 注意が必要なのは、上記のものが非培養検体という点。血液培養の、しかも好気ボトルのグラム染色においては、なんと逆になります。すなわち、好気ボトルではS. aureusの方が丸々としていて大きく見え、クラスター度も高いです(嫌気ボトルでは元気なく見えますが)。これは論文も幾つか出ていて結構頼りになる所見(血液培養液中のブドウ球菌属の塗抹グラム染色による形態学的鑑別 感染症学雑誌第82巻第6号、Rapid identification of Staphylococcus aureus from BacT/ALERT blood culture bottles by direct Gram stain characteristics J Clin Pathol; 2004;57:199-201 doi:10.1136/jcp.2003.10538 )。これは補足として1つの記事を設けて追加記載しています(補足→コチラ)。

 次はグラム陽性の連鎖状球菌で、これには連鎖球菌と腸球菌が含まれます。グラム染色の見え方をお話しする前に、連鎖球菌について述べておく必要があります。A群とかβ型とかが連鎖球菌の表現に出てきますね。連鎖球菌には多くの種類があり、代表的な分類は、寒天培地上の溶血によるものとLancefield抗原によるものとがあります。これが群やら型やらという分け方なのですが、何ともややこしい。。。嫌々ながらも少し詳しく見てみましょう。

 溶血による分類では、α型(コロニー周囲に緑色の溶血環を生成)、β型(透明の溶血環を生成)、γ型(溶血環を生成しない)の3種類。漠然と、β型が最も病原性が強く、最も弱いのがγ型と覚えます。α型は中間ですが、これに含まれるS. pneumoniaeは例外的に病原性が強いということは知っておきましょう。β型がいわゆる溶連菌というもので、α型にviridans streptococciの多くが含まれます。

 Lancefieldの分類はA~V群まであり(IとJは欠番)、大きく言えばA群(C, G群)は最も病原性が強く、D群はマイルドです。B群はその間。A群(C, G群)、D群、B群以外の群は出番も少なく、割愛します。青木先生の仰るように、このLancefieldの分類は、β型という最強グループをより細かく見るためのものと考えていいかもしれません。

 かなり大ざっぱですが、この2つの分類を併せて見てみます。



 β型にはA群としてS. pyogenes、B群としてS. agalactiae、C, G群として主にS. dysagalactiaeがいます。B群は皮膚、鼻咽頭、腸管、女性生殖器に常在していますが、若干病原性が劣るので、新生児や妊婦、高齢者、糖尿病など免疫機能が少し低下した患者さんがターゲットになります。C, G群も多くは基礎に何かある人に感染し、A群と同じように咽頭炎、蜂窩織炎などを起こします。菌血症を生じることもあり、また心内膜炎の原因にもなります。

 α型には抗原分類できないS. pneumoniaeの他に様々なグループがあります。それらは口腔内に常在しているということが大事で、心内膜炎の原因菌になります。この中でもS. milleri groupは膿瘍を作りやすいという傾向があり、覚えておいて良い知識。病原性という点では肺炎球菌は強力ですが、その他は若干力不足。抗原分類では様々な群が見られます。血液内科領域ではたまにβ-ラクタム系が利かないα型連鎖球菌がいるので注意。

 γ型には、以前は腸球菌が含まれていましたが今は外されています。ここにも様々なグループが入ります。D群のS. bovisはα型やγ型を示します。彼は腸管に常在としており、心内膜炎の原因にもなりますが、何といっても結腸癌の併発。この菌が検出されたら、癌の検索はしましょう。病原性そのものは強くありません。

 さて、腸球菌に関してはE. faecalisE. faeciumとを意識しましょう。後者の場合は何とVRE(バンコマイシン耐性腸球菌)を考えねばなりません。前者にVREはほとんどいません。この腸球菌、腹腔内感染や尿路感染でポツポツと検出されますが、臨床的な意義がなかなか分からないこともあります。腹腔内感染症でこれ以外の原因菌をカバーする抗菌薬で治療しても治ってしまうことは良く経験するものでして。ただ、カテ感染と感染性心内膜炎では完全なる原因菌になります。

 こういった細菌たちを含め、グラム染色でこれらを見分けられるかどうか。連鎖する数と1つ1つの形を見て行くことになります。

スライド2

 S. pneumoniaeは2連鎖が多くいわゆるランセット型でして、丸々とはしておらず細長い感じ。莢膜を持っているので、その部分が抜けて見えることもあります。この菌は簡単に分かると思うかもしれませんが、見た目だけでS. pneumoniaeと自信を持って言うのは難しいかもしれません。鑑別となって出てくるのが、意外かもしれませんがGNCのMoraxellaです。彼らは強く染まってしまうことがあり、グラム陽性に見えなくもない時も。しかしMoraxellaはけっこう丸い双球菌でしかも集塊を作らないというのが特徴。また、S. pneumoniaeはその細長さのためGPRのCorynebacteriumと間違えやすいです。Corynebacteriumはハの字型に曲がっており、S. pneumoniaeよりも大きく染色も強いのが鑑別ポイント。S. pneumoniaeはペニシリン耐性の度合いからPSSP、PISP、PRSPに分けられています。それについては後述しましょう。

 腸球菌は4-8連鎖です。1つ1つが少し細長いのがfaecalisで、丸いのがfaeciumと言われおり、何回も染色像を見ると何となく見分けが付いてきます。前者はS. pneumoniaeと似ていて、後者はS. agalactiaeとの鑑別を要します。そのS. agalactiaeは1つ1つの直径が約1μmであり、連鎖球菌の中では大型(S. aureusと同じくらい)。丸々としていて染まりの良いことが特徴。

 E. faecalisと似たような形で連鎖が8連鎖以上と非常に長ければ、viridans streptococciを考えます。しかし、viridans streptococciの全てが長い連鎖となるわけではありません。膿瘍形成をしやすいS. milleri groupは短連鎖で染色性が少し悪くはっきりしないのが特徴となります。難しいですね。

 また、菌周囲が赤く見えるのなら、いわゆる溶連菌の可能性が高いとも言われます(グラム染色道場師範手前のご意見)。鑑別の補助としてみましょう。

 どこまでグラム染色で迫るか、というのは難しいところです。臨床状況と検体を加味した上で、S. pneumoniaeらしさと腸球菌らしさを意識するところから始めるのが良いかなと思います。欲が出てきたら、背景情報(フィブリン塊、上皮など)にも目を配ると深みが出てきますよ。

 次はグラム陰性の桿菌。これは腸内細菌科かブドウ糖非発酵菌かの区別を付けたいところ。何故かというと、後者にはP. aeruginosaをはじめ院内感染の原因菌が含まれており、抗菌薬の選択に大きな影響を与えるからなんです。また、グラム陰性菌でも薬剤耐性は問題になっており、ESBL、AmpC、メタロβ-ラクタマーゼ、インフルエンザ桿菌のBLNARなどは良く悩みの種となります。こういった耐性菌は項を改めてお話しします。

 一般にグラム染色では、腸内細菌科は濃く染まり縁がカクカクっとなっていて、ブドウ糖非発酵菌はやや薄く染まって、縁が丸く見えます。

スライド3

 P. aeruginosaはブドウ糖非発酵菌の代表選手ですが、KlebsiellaH. influenzaeとの鑑別が必要になってきます。P. aeruginosaは柔らかい感じの色合いで、小さめで何となくひょろっとしている。サナトリウムにいる青年のような印象を受けます。塊を作ることも多いですね。ムコイドがあるならその部分もベタっとした感じに染まってきます。菌の両端が丸く、やや湾曲していることも鑑別の注意点。

 Klebsiellaは赤くはっきり染まる感じで、やや厚みのあるその菌の両端はカクカクしてます。しかし検体の種類によって形が少し変わってくるのがクセモノ。連鎖状に見えることもあり、染色次第ではブドウ球菌やS. pneumoniaeと間違えそうになることもあります。ムコイドもありますが、塊を作ると言うよりも散在している感じ。この菌は基礎疾患を持っているような人に良く感染を起こし、その部位も多彩。色々な感染症を引き起こします。免疫が正常でも尿路感染や肝胆道系感染症などは起こりやすいです。

 H. influenzaeは一面に散在していてゴミの様に見えるのが特徴。桿菌とは言いますが、短いので細長い印象をあまり受けません。フィラメント化して長くなっているものもあり、そうなるとP. aeruginosaとの区別が難しくなってきます。この菌には非莢膜株と莢膜株との2種があり、病原性も異なります。非莢膜株が中耳炎や肺炎など気道感染症を起こす一般的なもの。莢膜株は血流に進入して感染を起こします。敗血症や新生児の髄膜炎、急性喉頭蓋炎などの原因。良くHibと言いますが、これはH. influenzae type bのことで、代表的な莢膜株です。

 嫌気性菌の見え方も話しておきましょう。

スライド4

 嫌気性菌の関与する感染は混合感染なので、グラム染色では色々な菌が見えます(polymicrobial pattern)。ということは、グラム染色で陽性も陰性も長いのも丸いのも色々見えたら、嫌気性菌が感染に一役買っているのかしらと考えましょう。嫌気性GPCの場合は菌が小さいこと、染色性が不均一になることが特徴です。嫌気性GNRは腸内細菌科のようにしっかりと染色されず、どちらか言えばP. aeruginosaなどのように少し薄い染まりに。多形性を示す菌が多く、Bacteroidesはそれが特徴的です。Fusobacteriumなどは縁が細く、紡錘形になることもあります。

 最後に、貪食像について。顕微鏡で覗いてみると、貪食?それとも白血球に菌が乗っているだけ?と疑問に思う時がありますが、その判断の目安は、白血球の核です。

 白血球の核は標本の表面方向に盛り上がって立体的に見えます。貪食なら、菌は白血球の核と同じかそれより下のレベル。顕微鏡のピントをちょろちょろっと動かして、核や細胞質と同じレベルにいるか見てみましょう。核より少し上のピントにすると、白血球はぼやけます。菌もぼやけるなら貪食で、はっきり見えるようになれば乗ってるだけ。でも難しいですね。。。

 細菌の分類、常在菌と原因菌との関連、グラム染色での代表的な菌の鑑別。以上の臨床微生物学は、抗菌薬選択の際に重要となってきます。菌によって随分と性格に違いがあるなと理解してくれたでしょうか。こういった知識を踏まえて、次は抗菌薬について学びます。
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2012
01.06

輸液 Starter & Booster:第1回~体液の組成を覗いてみる

目次→コチラ

 今回は第1回。まずは自分たちが持っているものから知ることにしましょう。何をやるにしても己れを知るということがやっぱり大事。

 体液は、私たちの身体が何らかの形で持っている液体のこと。体重の60%(男性で60%、女性で50%ほどとされます)が体液とされています。その容積の2/3が細胞内液、1/3が細胞外液。細胞外液の更に3/4が細胞間質、1/4が血漿量。ということは、容積比は細胞内液:細胞間質:血漿量=8:3:1ですね。こんな感じで覚えましょう。体液のうち血管の中にある分は印象としてめっちゃ少ない感じ。



 そして、輸液に欠かせない水移動の知識。水は細胞膜を移動しますが、これは細胞膜を挟んだ両側にある溶質が作る浸透圧の勾配に従います。浸透圧は溶質モル濃度の総和で、水を引っ張る力のことと理解しましょう。浸透圧の差があれば、高い浸透圧の方がよいしょっと水をどんどん引っ張ってきて、両者の浸透圧が同じになったら同じ力で引っ張り合うことなので外見上は平和です。細胞内液の溶質は細胞外液の2倍あると言います。ということは、水も2倍あることが分かります。だからさっき出てきた体液量も、細胞内液が細胞外液の2倍ということに。

 成分は水ばかりじゃありません。細胞外液にある主な溶質はNaで、細胞内液ではKです。細胞膜にあるNa/K ATPaseがNaを細胞の外へ押しやって、Kを中に入れておこうとしています。これはかなり厳密に行われていることに注目しましょう。細胞外液はNa、細胞内液はKです。



 実際に細胞内外の電解質濃度を覗いてみると、以下の様になっています。これを見ても、きっちりとNa/K ATPaseが仕事してるなーと感じますね。


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2012
01.06

輸液 Starter & Booster:第0回~目次

 今回は輸液。診断学、感染症をこれまで取り上げてきていますが、輸液も研修医になった途端にどんどん実践に迫られる分野。特に前2者と異なり学生の頃は重要視しなかったところです。眼前に広がる輸液製剤の数々をどう考えるかも良く分からない状況。

 このレクチャーでは本当に概論的、基本的なところになります。細部に入り説明しだすと良く分からなくなりますし膨大になってしまうので、病態別の輸液や各電解質異常の補正についても殆ど触れていません。総論を学ぶというスタンスです。その輸液について大まかに知るには、体液の分布や、Naと水の移動について少し詳しくなっておく必要がありますから、これを中心にお話しします。また、急性期をメインに据えて”炎症”と絡めてみようと思います。

 各項目について記事にしていきます(ここではリンクを貼っていきます)。
・体液の組成を覗いてみる→コチラ
・浸透圧から張度の理解へ→コチラ
・輸液製剤を分解する→コチラ
・輸液をする時→コチラ
・ウチとソト→コチラ
・Na濃度異常はどうするか→コチラ
・救急外来の輸液→コチラ
・おしまいのどんぶり勘定→コチラ


☆参考文献
水・電解質と酸塩基平衡―Step by stepで考える(黒川先生の名著)
より理解を深める!体液電解質異常と輸液(日本ではおそらく最も詳しいです)
酸塩基平衡、水・電解質が好きになる(臨床、を意識したスタンス)
輸液ができる、好きになる(これも知識を臨床でどう使うかを考えています)
Clinical Physiology of Acid-Base and Electrolyte Disorders (全てのテキストの原点)
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