2011
09.28

P値と信頼区間

★P値 P values
 論文を読んでいると必ず出てくるPという文字。多くはP<0.05で有意差ありと記されます。P値のPはProbabilityの略。この意味は「比較した群の間に差がないという仮定が正しい確率」となります。aグループとbグループとを比較して、結果がP=0.04であれば、aグループとbグループとで差がない確率は4%ということを示します。なので、96%の確率でaグループとbグループとで差があるだろう、ということ。すなわち、P値が小さいほど、比較した群の間に差のある確率が高くなるといえます。有意差というのは、確率を織り込んだ差です。なので、ひょっとしたら本当に差があるかは不明。上述のP=0.04だと、差のない確率が4%あるわけなのです。有意差ありでも間違うことがあるのは、知っておきましょう。逆もまた真なりで、有意差なしなら差がないとは決して言えません。

 P値というのは差の有無の確率を示すもの。次に知りたいのは、「その差はどの程度のものなのか?凄い差なのか、それともほんのちょっとの差なのか」ということ。実は、P値だけでは程度に関して何も言えません。じゃあそれを求めるには???

★信頼区間 Confidence interval:CI
 差の程度を知るには、信頼区間を用います。論文では95%信頼区間という使い方をよく見ますね。これは95%の確率で本当の差を含む値の範囲を示します。例えば、降圧薬Aの効果を知りたいとして、従来薬のBを使用したグループとの比較試験を行うとします。Aを使用したグループでは血圧が20mmHg低下。Bを使用したグループでは8mmHg低下。数字は適当ですが、Aの方が有意に下がりましたとしておきます。P=0.03 95%CI:8-17mmHgとなったとします(勝手に数字を入れました)。この場合は、Aは従来薬Bに比して95%の確率で8-17mmHg血圧を下げると解釈します。

 この信頼区間、問題なのが0(ゼロ)をまたいだ時。新薬Aの副作用調査をしたとします。Aを使用して下痢の副作用が生じた割合が24%、Bを使用して生じた割合が32%だとします。P=0.08 95%CI:-3-14%とすると、Aの副作用はBに比べて最高14%低いかもしれないが、ひょっとしたら最高3%高いかもしれない、という解釈になります。ちょっと困りますね。95%信頼区間の低い値がマイナスになっている時は、あるグループの比較するものが他のグループと比べて大きいかもしれないし、小さいかもしれない。こんな煮え切らない状態になってしまうのです。有意差なし、という奴です。

 そして、95%信頼区間というのは95%の確率で本当の差を含む値の範囲を示すと書きました。ということは、95%信頼区間の両端の値の幅が狭ければ狭いほど、有用となります。



 P値と信頼区間は、論文で最も良く出てくる統計用語です。研修医の先生は早めに理解しておきましょう。
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2011
09.23

小児の発熱:頼りになる血液検査項目は?

 子どもの発熱。

 救急外来でも私たちを悩ます症候の1つです。重症感染症をきちんと見抜かねばなりません。

Diagnostic value of laboratory tests in identifying serious infections in febrile children: systematic review

 6月のBMJからですが、バイオマーカーをうまく組み合わせ主に救急外来にて小児の発熱で重症感染症の診断精度を高められないか?というシステマティックレビューです。

 この中で最も診断的価値が高かったものはCRPとプロカルシトニンでした。CRPのpooled LR+ 3.15、pooled LR-0.33となっています。

 重症感染症をrule inするためのカットオフ値は、プロカルシトニン2ng/mL(2研究にて。LR+3.6-13.7、LR-0.54-0.58)、CRP 80mg/L(1研究。LR+8.4、LR-0.57)が勧められています。日本ではCRPの単位がmg/dLなので、ひと桁小さい8mg/dLということになります。重症感染症をrule outするには、プロカルシトニンは0.5、CRPは20(日本では2です)をカットオフにする必要があるとしています。また、これら2つのマーカーは値が上昇するまでのタイムラグに違いがあるので、組み合わせることで効果をより発揮するのではないかともされています(cost effectiveかは疑問だがという但し書きもありますが)。

 WBCは、rule inにおいてはある程度は役割を持つかもしれないとしています(LR+0.87-2.43)が、炎症性マーカーに勝るものではないとのことでした。rule outには価値が無い(LR- 0.61-1.14)と著者らは言っています。

 ベストパフォーマンスは、CRP、プロカルシトニン、検尿の組み合わせであり、LR+4.92、LR-0.07と結論付けられました。

 プライマリケアでのセッティングや、上記のマーカーの値の評価、バイタルサインなども含めて検討の余地があるとしています。

 この論文ではさらっと検尿と言ってくれていますが、なかなか取るのは難しいですね。。。採尿バッグはコンタミも多いので解釈には注意が必要です。クリーンキャッチもありかもしれませんが、乳幼児ではまず無理なことがほとんど。恥骨上穿刺は良い方法だとは思いますが、暴れられたら危険。カテーテルが無難でしょうか。

 あと言っておくことは、これらのエビデンスも前もって重症感染症を疑うことで活かされます。検査前確率が重要であり、その確率は小児の場合は観察(Pediatric Assessment Triangleと呼吸数含めたバイタルサイン)によって大部がなされるというのは覚えておきましょう。

 以下に、研修医時代自分の使っていたPediatric Assessment Triangle (PAT)と以下の流れを示しておきます。

★PAT
 最初の評価はPAT(Pediatric Assessment Triangle)を用いて行います。Appearance、Breathing、Circulationの3点を、パッと見で判断(PATなだけに?)。見るポイントは

☆Appearance 外観・見かけ
TICLSと覚えます。
 Tone筋緊張
 Interactiveness周囲への反応
 Consolability機嫌
 Look視線
 Speech発語、啼泣
この外観は、酸素化、換気、脳循環、安定性、中枢神経機能の適正さを反映します。

☆Breathing 呼吸仕事量
 体位
 胸部/腹部の動き
 呼吸数
 呼吸努力
 呼吸の音
この呼吸は、気道、酸素化、換気の適正さを反映します。

☆Circulation 循環・皮膚色
 Pallor蒼白
 Mottlingまだら
 Cyanosisチアノーゼ
この循環は、心拍出量、主要臓器への灌流の適正さを反映します。

 これらのTriangleから、具合がわるいか、それほどでもないかを判断します。具合が悪い!と思ったら、気道・呼吸・循環の迅速評価に入り、問題が発見されたらその時点で対応。それほどでもないかなーと思ったら、系統的評価(一次評価から三次評価まで)に入ります。

★一次評価~問題が見つかれば、その時点で治療を開始
ABCDEで評価します。
 Airway:開放されてるか閉塞されてるか?
 Breathing:息の仕方は?呼吸数は?SpO2は?
 Circulation:心拍数は?Capillary Refill Timeは?末梢の冷感は?血圧は?
 Disability:AVPUやGCSで評価を
 Exposure:服を脱がせて全身観察を。体温は?

★二次評価(身体診察とSAMPLE)
SAMPLEは以下。
 Signs & Symptoms:主訴に関わる症状や徴候
 Allergies:アレルギー
 Medications:薬剤
 Past history:既往歴、関連病歴
 Last meal:最後の経口摂取
 Events:現在の疾病や受診に繋がる状況

★三次評価
各種検査。
三ヶ月未満の発熱なら全員採血。ほぼ胸部レントゲンもルーチン化。
腹痛なら超音波と浣腸は大きな武器。
尿検査は難しいですね。採尿バッグ使うとコンタミ多いし。。。ちなみに、、、
1歳以下・熱発>39℃・感染源不明・2日以上発熱が持続
この4項目のうち2つ以上当てはまれば尿路感染の感度95%と言われています。

★子どものバイタル
 心拍数(HR)と呼吸数(RR)は必ず取りましょう。発達によって基準値が変わってくるのが面倒ですが、専門書にきちんと基準値が記されているのでコピーしてペタッとノートに貼りましょう。名大病院救急外来では、自分がひっそりと各治療室の机に貼っておきました。。。なかなか年齢別に覚えられなかったので、カンペです。

★ついでに血培の量
 ルーチンでの嫌気ボトルは必要ない。最低1mLの血液は欲しい。
体重1kg以下:2mLを1セット(計2mL)
1.1-2kg:2mLを2セット(計4mL)
2.1-12.7kg:3mLを2セット(計6mL)
12.8-40kg:10mLを2セット(計20mL)
それ以上:成人と同様。

 子どもは大人と勝手が違うので取っ付きづらいところがあり、苦手な研修医が多いと思います。PATとバイタル測定は必ず行うようにして、ん?と思ったら無理して帰さないのが大事だと思います。鑑別も大人と変わってきますし、子どもの症候はそれなりの時間をかけて勉強するのは言うまでもありません。
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2011
09.14

Diffusion Tensor Imaging(DTI)と精神疾患

 精神科領域でも画像検査は当然のように行われ、特に最近は、精神疾患において灰白質のみならず白質に注目が集まっています。そこで大事なのが、神経線維の走行を画像化できる拡散テンソル画像(DTI)です。水分子が白質の方向に沿ってどの程度動きやすいか、白質線維と直角の方向に動きにくいか、ということを定量的に評価できます。さらに白質線維の方向の情報も得られます。

 使用されることが多いのが、ADC(Apparent Diffusion Coefficient)もしくはMD(Mean diffusivity)とFA(Fractional Anisotropy)の値です。

 ADCもしくはMDは拡散の大きさを示す指標で、同じ様なもの。よりmacroscopicにはADCを使用する傾向にあるようです。ADCの高い値は、白質が密ではないことや微小管などの軸索内構造物の存在を示唆します。逆に低い値は拡散を妨害する路や線維、線維間での水の移動を減少させる厚いミエリン層の存在を示唆します。

 FAは異方性の強さを表す指標の一つで、白質線維の統合性の異常検出に鋭敏であると言われています。FAは0-1までの値をとり、白質で高く灰白質では低くなり、CSFで0になります。水の拡散を不自由にする構造があれば1に近くなっていきます。

 自分は物理に関して完全なる素人なので、どの様なメカニズムかは全く理解できません。。。

 この記事では、代表的な精神疾患であるアルツハイマー病/軽度認知障害、統合失調症、気分障害、不安障害、発達障害(自閉症、ADHD、読字障害)を扱います。

☆AD(Alzheimer disease)とMCI(Mild cognitive impairment)
 ADによる病的な白質の変化はミエリン密度の上昇やMBPの欠失、oligodendrocyteやmicroglia活性の低下など。DTIの分野では、ADとMCIにおいて3つの領域が注目されています。

(a) subregions of the medial temporal lobe: hippocampus, entorhinal cortex, and parahippocampal WM
(b) temporal lobes proper
(c) the posterior cingulum

 ADは健常者に比して著明なFAの低下とMDの上昇が見られます。MCIでは中等度。よって、白質の統合性が低下することはADの発展に関与する病理的な変化と考えられています。

☆Schizophrenia(統合失調症)
 前頭葉と側頭葉における深部白質のFA低下が言われています。健常者との最も顕著な違いを示す部位はcingulate(帯状回)、CC(脳梁)、前頭葉の白質です。他に示唆されているのはSLF(superior longitudinal fasciculus)、IFOF(infero-frontal occipital fasciculus)、uncinate fasciculus、frontal longitudinal fasciculus、arcuate fasciculusなどでのFA低下。これらは神経シグナルの葉内や葉間での伝達を担っている部位です。

 cerebral peduncles(大脳脚)のFA低下も言われています。この所見は、統合失調症の背景であると示唆されているcortico-cerebellar-thalamo-cortical circuitryの破綻を支持しています。

 CCとIFOFのFAは幻覚の重症度、fronto-temporo-limbic circuitsでFAが低下していることは患者の衝動性の増加と関連していると考えられています。

 また近年注目が集まっているPsychosis risk syndromeですが、この状態における研究では、発病に先んじてFA低下が見られるとしています。外来や入院している患者さんでもARMSか?と思えることがたまにあるので、画像研究が進むことは大きな恩恵となりそうです。

☆Mood disorders(気分障害)
 MDD(大うつ病性障害)では、上前頭回や側頭葉の白質においてFA低下が見られます。

 BP(双極性障害)でのDTI解析は解釈に難しいようです。CCでMD上昇とFA低下が見られることが、最も顕著な所見とされています。前頭前野や前頭葉についても言われており、他には交連線維なども。

 単極うつか双極かというのが臨床でも問題になっているので、画像が強力なサポートとなってくれると良いですね。


Fig. 1 Major brain regions implicated in bipolar disorder. A parasagittal section of the cerebrum shows the major brain regions and white matter tracts, i.e. prefrontal lobe (highlighted pink), frontal lobe (highlighted green), corpus callosum (highlighted yellow), internal capsule, uncinate fasciculus and superior and inferior longitudinal fasciculi that have been shown to exhibit white matter abnormalities in bipolar disorder

☆Anxiety disorders(不安障害)
 帯状束がOCDの発病に絡んでいると言われています。しかし、FAの値は様々であり、上昇していたり低下していたり一致しません。内包や脳梁でFA増加が、頭頂葉や縁上回、後頭葉の左舌状回ではFA低下が観察されています。そして、FA上昇は薬剤による治療で消失する可能性も示唆されています。

☆Developmental disorders(発達障害)
・Autism(自閉症)
 FA低下や拡散率の上昇は認知実行機能との関連が示されています。しかもFA低下は領域特異性があり、fusiform gyrus(紡錘状回)、superior temporal sulcus (上側頭溝STS、社会性に関与する部位)、vmPFC、ACC、temporoparietal junction、amygdala(扁桃体、心の理論の工程を担う)などがその例。

 自閉症児は脳、特に白質が大きく、PET解析ではセロトニン合成がより盛んであることが示されています。
FA低下と拡散率の上昇はミエリン化の減少、軸索の密度の減少や軸索の構造の異常を示しているかもしれません。このように仮定すると、上記の所見とつじつまが合うとされています。

・ADHD
 ADHDでは前頭葉領域が有意に影響を受けており、問題解決や計画性、他人の行動を理解すること、衝動のコントロールに難が見られます。興味深いことに、他の精神疾患と異なりテンソルでは前頭葉領域のFA"上昇"が見られるのです。FA上昇が病理を示唆するまれな例と言えます。前頭葉と線条体とを結合している前方のcorona radiata(放線冠)部位に差異が見られるのではないかと言われています。FA上昇は枝別れの少なさ(つまり一方向への干渉性の高差を示します)や代償機構によるものを示しているかもしれません。

 ADHDではFA値がどの部位でも上昇しているわけではありません。例としてはright premotor and striatal regions, bilateral cerebral peduncles, cerebellum, and left parieto-occipital, as well as in corticospinal and SLF regions of interestなどが挙げられています。小児期にADHDのあった成人においても、right cingulum, SLFでのFA低下が見られています。よって、ADHDにおけるテンソルの適応は、純粋な前頭葉から前頭皮質に行き来する情報ネットワーク(広範な脳部位へ広がります)の方向へわずかにシフトしていると言えましょう。

 最近の研究では、統合失調症とADHD、どちらも同様な認知行動機能の欠損を示しますが、その両疾患において左後部の脳弓にFA低下が見られたとしています。よって、この部位の異常は両疾患の関連性を示すものとなるやもしれません。

・Dyslexia(読字障害)
 neuroimagingと死後脳研究において、左の側頭葉から頭頂葉にかけてが読字能力の低下と関連しているのではないかと言われ、テンソルでも同部位のFAが強い関連性があるとされました。よって、この部位でのFAがより高いことは正常児のみならずこの障害を抱えた患児において有利となるのでしょう。


☆参考文献
Diffusion Imaging, White Matter, and Psychopathology
Annu. Rev. Clin. Psychol. 2011. 7:63–85

White matter abnormalities in bipolar disorder: insights from diffusion tensor imaging studies
J Neural Transm (2010) 117:639–654 DOI 10.1007/s00702-010-0368-9
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2011
09.09

双極性障害を見つけ出す

 双極性障害は、単極のうつとは異なったお薬が必要です。

 本当のうつ病なら、SSRIなど抗うつ薬が基本。双極性障害なら気分安定薬(+抗精神病薬)が基本であり、抗うつ薬での単剤治療は原則として行いません。
 
 しかし、なかなか双極性障害を見つけるのが難しいのです。

 双極性障害、いわゆる躁うつ病では、患者さんはうつ病相の時に来院します(躁の時は困らないことが多いので、自分からは来院しないことが多いです)。医者があまり話を聞かないと「うつですね」でSSRIなどの抗うつ薬を処方という流れになってしまいます。最近はプライマリケアでもうつは診断/治療できねばならないと言われているので、精神科以外の先生方も「うつを見たら双極性障害を疑え」と念じておく必要性があります。

 なので、うつかな?と思ったら、必ず躁/軽躁のエピソードや混合状態があったかを聞かねばなりません。例えば、、、

「気分が落ち込む前の時期に、あまり寝なくても頑張れたことってありましたか?」
「気分が大きくなってしまって、本来のあなたならしないようなこと、例えば車を運転中に信号無視をしてしまったり、大きな買い物をしてしまったり、そういうことをしたことはありますか?」
「何回かお仕事を変えてる様ですけど、どういった事情からですか?」
「お仕事や学校では上手くやれてますか?上司や先生にも自信を持って意見を言えた時期はありましたか?」
「若い時、例えば高校生の時などは、気分の波というものはあった方ですか?」
「中学校の頃にスランプがありましたか?」
「億劫だけれども、どこかイライラしている感じはありますか?」

などなど。以上の切り口から聞き"YES"であれば、さらに深く、さらに広げて聞く必要があります。双極性障害は遺伝性も強いので、患者さん自身が気分の波を肯定した場合は「お父さんとかお母さんの家系にもあなたと同じように気分の波を持っている人はいませんでしたか?」などと質問もしてみます(遺伝のことはDSMの診断基準に入ってませんが)。

 患者さんからのみでは多少心許ないところもあるので、ご家族にも必ず聞くようにしています。

 精神科非専門医の先生方は、双極性障害かな?と思った場合、信頼できる専門医に送った方が良いかもしれません。

 診断、といえば日本にすっかり定着した感のある(研究用)診断基準たるDSM。しかし、この基準は躁/軽躁をかなり狭く採っているとの批判があります。自然経過で躁/軽躁がなかなか出てこない患者さんもおり、彼らをDSMで双極性障害と診断するのは無理が出てきてしまいます。挙げられる問題点は、抗うつ薬誘発性の躁/軽躁、抗うつ薬抵抗性の病状、家族歴や発症年齢、病前性格、状況依存性の気分変動などなど、これらを加味していない点。こういったものを含めて双極性障害としようじゃないかという動きが、AkiskalやGhaemiらから出てきています(Akiskalの言うスペクトラムとGhaemiの言うスペクトラムとでは多少意義が異なってはいますが)。

 つまり、これまでは双極性障害が過少診断されてきたという主張です。しかし、最近は以上のようにスポットライトが当たったことにより、アメリカでは双極性障害の過剰診断がなされているのではないかとも言われています(Is bipolar disorder overdiagnosed? J Clin Psychiatry 69,6 p935-40,2008)。そうなると、本当のうつ病に抗うつ薬が使われないという不利益が。一時期、成人の発達障害が話題になり、どんどんと診断されていった経緯があるので、その行き過ぎ傾向を辿ってしまうのかとも思ってしまいます(精神科って何なんでしょうね…)。ただ、日本では相変わらず双極性障害は過少診断されているであろうというのが大方の意見。

 というわけで、どこからどこまでを双極性障害と呼んでいいのか、これが目下の気分障害研究者の中で議論が進んでいます。

 内海健先生が述べるように、特に双極性障害II型は、言うなれば人生を舞台にした疾患です。軽躁の神出鬼没さが指摘されており、病相として出現する場合もあれば、抑うつに混入、あるいは病気の形を取らず、様々なライフイベントに身をやつして展開することもあるのです。

 抑うつ状態の中の双極性を挙げると以下の様になります。

1.抑うつの出現様式:不全性、易変性、部分性
2.比較的特異な症状:焦燥、聴覚過敏、関係念慮、行動化
3.comorbidityが高い:パニック障害、摂食障害、物質依存など
4.病前性格:マニー型成分の混入
5.抗うつ薬への反応:しばしば軽躁転、病相頻発、非定型的な反応

 また、明確な病相が形成されにくく

1.不全性(症状が出揃わない)
2.易変性(症状が変動しやすい)
3.部分性(出現に場面依存性がある)

などがあり、典型的なうつ状態から考えると、どこかちぐはぐな印象をうけます。そして、典型的なうつとは異なり感情の表出が豊かなこともあります。また、うつ病相と軽躁病相との経過曲線がくっきりと出来にくく、混合状態は非常に起こりやすいとされています。うつ⇔軽躁の手の平を返したような展開。不安定であり、患者にとっても周囲にとっても性格の問題のように取り扱われてしまうところに悲しさの香りがします。

 Akiskalによると、混合状態は

・容赦のない不機嫌とかんしゃく
・制止を背景とした精神運動性激越
・激しい性的興奮
・極度に疲れているのに頭の中では思考が駆け巡る
・頑固な不眠
・パニック発作様の浮遊した不安
・自殺についての強迫観念と衝動

を特徴とする様です。

 こういったことを踏まえて「うつ」の患者さんに問診していく必要がある、と盛んに叫ばれています。横断的ではなく、病前性格や生活歴も聞き、厚みのある病歴とすることで、双極性障害が顔を出して来るのではないか、そう考えられています。制止が強くなければ、許可を得てBSDSという診断スケールに記入してもらってそれを参考に問診をより掘り下げることも良い方法なのかもしれません。

 Ghaemiの提唱するBipolar Spectrum Disorderの診断基準なんてのもあります。これは以下から成っています。

A.少なくとも1回以上の大うつ病エピソード
B.自然発生的な躁/軽躁病相はこれまでにない(現行診断基準を満たさない病相)
C.以下のうちいずれか1項目とDの少なくとも2項目以上(あるいは以下の2項目とDの1項目以上)があてはまる
1.第一度親族(親子と兄弟)における双極性障害の家族歴
2.抗うつ薬によって誘発される躁/軽躁の既往
D.Cの項目がなければ以下の9項目のうち6項目があてはまること
1.発揚性人格(抑うつ状態でない基準線においてマニー型や執着性格も含める)
2.反復性大うつ病エピソード(3回以上)
3.短い大うつ病エピソード(平均3ヶ月未満)
4.非定型うつ症状(DSM-IV:過眠・過食・鉛様麻痺・脱力感)
5.精神病性(精神病症状を伴う)大うつ病エピソード
6.大うつ病エピソードの若年発症(25 歳以下)
7.産後うつ病
8.抗うつ薬の効果減弱(wear-off)
9.3種類以上の抗うつ薬治療への非反応

 これが最善かと言われると何ともと思えるところもありますが。。。Ghaemiも発見的定義と断っていますし、信頼性がきちんと確立していません。他の参考所見としては上記に挙げたcomorbidityや焦躁・聴覚過敏・行動化など。

 スペクトラムとしてどんどん双極性障害が広がっていますが、スペクトラムの端っこにいるような患者さんに抗うつ薬を使うことが本当に良くないのかは、実は分かっていないのです。そして、スペクトラム診断が抗うつ薬抵抗性の理解につながるとは言いにくいという論文も出ています(Association Between Bipolar Spectrum Features and Treatment Outcomes in Outpatients With Major Depressive Disorder. Arch Gen Psychiatry 68,4 p351-60,2011)。何だか振り出しに戻った気分ですね。。。。。。。

 上述のように、何でもスペクトラムだと言って単極のうつ病を双極性にして抗うつ薬を使わないという問題も引き起こされており、単極と双極の境界は本当に不鮮明。こんなことも精神科はまだまだ分かっていないのです。真摯に受け止めねばなりませんね。

 自分は、どんなうつ病の患者さんでも、躁の成分、木村敏先生に倣って言うとintra festum成分ですが、それは混じっていると思います。昔から「うつ病の寛解期には普段よりちょっと元気になって、そこから元々の患者さんの状態になる」というようなことが言われていまして、この現象も混じっていた躁の成分を見ていたかもしれません。その混じりが大きいと気分安定薬が必要となる割合が高いのでしょうね。抗うつ薬は気分をよいしょおっと引き上げる薬なので、躁の混じりが大きい患者さんはそれによっていわゆる”躁転”を来たして生活に支障が出るのでは?と考えています。ただ、”躁の混じりが大きい”という表現。これの「どの辺りを大きいと取るか?」というのが難しいんです。これに過敏になってしまうと過剰診断、これに鈍感なら過小診断。難しい。。。今のところはDSMに則って、明らかな双極性障害を見逃さずに選択すべき薬剤を考える(もちろん患者さんにも説明して)というのが過剰にも過小にもならないのかも?????治療を開始してからも経過を追うことが重要というのは言うまでもありません。最近の「治療抵抗性のうつ=双極性障害」という風潮はやり過ぎ感がありますね。

 今後の研究によって、より上質な診断基準が出来ることを願います。

 ちなみに、NIRS(光トポグラフィー)はまだ研究段階です。幅広く臨床応用されるには時間がかかるでしょう。
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