2011
07.24

双極性障害に対する薬物治療のまとめ

☆ガイドライン概観
 ここではWFSBPとCANMATの2つを取り上げます。

WFSBPによる維持療法/再発予防治療
・双極I型
 急速交代なし
Lithium(A)、Valproate(B)、Carbamazepine(B)、躁病優勢ならAtypical antipsychotics、うつ病優勢ならLamotrigine(A)
 急速交代あり
LithiumとCarbamazepineもしくはValproateの併用(いずれもC)、Carbamazepine(D)、Clozapine(D)、躁病優勢ならLithium(C)、Olanzapine(D)、うつ病優勢ならLamotrigine(D)
・双極II型
 急速交代なし
Lithium(C)、Carbamazepine(D)
 急速交代あり
Lamotrigine(C)、Valproate(D)

CANMATによる双極II型障害に対する薬物療法
うつ病相/急性期
1st:Quetiapine
2nd:Lithium、Lamotrigine、Valproate、LithiumもしくはValproateとAntidepressantの併用、LithiumとValproateの併用、Atypical antipsychoticsとAntidepressantの併用
3rd:Antidepressant(軽躁発現頻度が低い場合のみ)、別のAntidepressantへの変更、Ziprasidone
維持期/再発予防
1st:Lithium、Lamotrigine
2nd:Valproate、LithiumもしくはValproateもしくはAtypical antipsychoticsとAntidepressantの併用、LithiumもしくはLamotrigineもしくはValproateもしくはAtypical antipsychoticsのうちから2剤併用
3rd:Carbamazepine、Atypical antipsychotics、ECT
推奨せず:Gabapentine

☆Lithium反応性予測因子
 気分安定薬の中で最もエビデンスレベルが高いのはLithiumです。これをどう使うか、使わないかがポイント。基本的にはうつ病相にやや弱く、また効果発現まで数週間を必要し、妊娠可能年齢の女性には使いづらいことが欠点と言えましょうが、他にも以下の因子を考慮して適応を決めます。

反応良好因子
・多幸感、爽快感を伴う古典的躁病
・軽症、中等症の躁病
・双極性感情障害の家族歴
・躁病相の先行
・発症年齢が高い

反応不良因子
・不快気分や抑うつ気分を持つ混合病相
・急速交代型
・気分と不調和の精神病症状を伴う重症躁病
・脳器質性障害の合併
・アルコール/物質乱用の合併
・頻回の病相
・うつ病相の先行

 なお、2010年に発表されたBALANCE試験の結果では、リチウムとバルプロ酸との併用はリチウム単剤に比して有意な再発予防効果があるわけではないとされ、更にリチウムとバルプロ酸とでは、再発においてリチウムに軍配が挙がるという結論となりました(Lithium plus valproate combination therapy versus monotherapy for relapse prevention in bipolar I disorder (BALANCE): a randomised open-label trial. The Lancet, Volume 375, Issue 9712, Pages 385 - 395, 30 January 2010)。しかし、この試験はリチウムとバルプロ酸の忍容性をあらかじめ確認してからスタートしているので(リチウムに耐えられない患者は最初から組まれていない)、忍容性に劣るリチウムの問題点を考慮していない構成で行われていることは知っておくべきでしょう。

 あとは、こういう大規模試験が重視されますが、このようなものは患者さんの個別性を失わせていることに注意すべきと思います。神田橋條治先生は、リチウムが合うのは”人付き合いの良い人””お友達になりたい人””お中元やお歳暮をくれる人”と表現されています。バルプロ酸は”こちらが気楽にものを言えない人””物言いに気をつけないとご機嫌を損ねる人”で、カルバマゼピンは”調子が一番悪い時はどうしても保護室に入れなければいけない人”とのこと。リボトリールが”センスの良い人””心の襞をキャッチできる人””自分が病気であることに対する強い苦悩感を持つ人”のようです。素晴らしい表現ですね。同じ疾患でもこういう感覚的な使い分けというのは非常に大事だと思います。大規模試験ではそういうところがなくなってしまうんですよね。

☆自殺予防という観点
 自殺予防効果が現時点ではっきりとしているのはLithiumです(2011年に、リチウムとバルプロ酸で有意差なしというRCTが出されました:Treatment of suicide attempters with bipolar disorder: a randomized clinical trial comparing lithium and valproate in the prevention of suicidal behavior. Am J Psychiatry 168,10 p1050-6,2011)。

 抗精神病薬は気分安定薬と同等の有効性があると示唆されていますが、気分安定薬単独の治療と比べて自殺企図の頻度が抗精神病薬単剤で9.4倍、併用で3.5倍に増加したという報告もあります1)。抗精神病薬は気分安定薬たりえないと指摘する専門家も存在します。Ghaemi先生のことですが。

 抗うつ薬は双極性障害においてもうつ病エピソードが遷延した場合は併用する場合もあり、有効性を示唆する研究もありますが、気分安定薬の単独投与と比較して自殺企図が有意に増加するという研究も存在するため、投与は慎重にならざるを得ないです。

☆抗精神病薬の使用
 速やかな効果発現が特徴でして、躁病・混合エピソードでは情動安定化作用や鎮静・静穏作用が、うつ病エピソードでは抗うつ作用が、さらに維持期においては情動安定化作用に加えて、一時的な感情の破綻に対する静穏作用や抗不安作用を発揮します。

 用いられる抗精神病薬としては、Olanzapine、Quetiapine、Aripiprazole、Risperidone(Paliperidone含む)、Haloperidoleがあります。

 うつ病エピソードにおいては、Quetiapineが突出して有効。Olanzapine単剤ではプラセボ治療群との間で治療反応性に大きな差はなく、あくまでもFluoxetineとの併用においてはっきりとした差が出ていることに注意が必要2)。他の抗精神病薬は目立った効果がないのが実情(Aripiprazoleは用量を減らせば良いかも?)。

 躁病エピソードに対しては、上記の抗精神病薬いずれも効果が認められます。

 抗精神病薬、特にAtypicalは代謝系副作用が存在するため、十分留意せねばなりません。特に維持期における薬物使用は長期間となるため、Atypical antipsychoticsが気分安定薬に置き換わるものなのか、気分安定薬との併用が良いのかには更なる検討が必要とされています。維持期において使用するならばQuetiapineかOlanzapineでしょうか?Aripiprazoleはうつ病相の再燃予防にはプラセボとの有意差が見られなかったとされています。

☆抗うつ薬の併用
 STEP-BD trialでは、気分安定薬を十分に使用している限りでは、抗うつ薬のリスクもベネフィットも強調できないという結果になっています。ただし、気分安定薬と抗うつ薬を併用して2ヶ月以上の安定が得られた症例を、無作為に抗うつ薬継続群と中止群に分けて検討した場合、継続群の方がうつ症状が軽い傾向やうつ病相再燃が遅れる傾向を認めたものの、1-3年の全観察期間を通して病相再発率や寛解期間において両群に差は見られなかったほか、急速交代型では抗うつ薬継続によりうつ病相の再発頻度が有意に高まることが示されました3)。

 各種ガイドライン(NICE、ICG、EC、CANMAT、BAP、WFSBP)では投与に慎重であり、否定も推奨もしていません。CANMAT2009とWFSBP2010のみが重症度を問わずに第一選択の一つとして推奨しています。前者では双極I型障害のうつ病で気分安定薬とSSRIもしくはBupropionの併用およびOlanzapineとSSRIの併用がランクされています。他にもLithium単剤、Lamotrigine単剤、Quetiapine単剤、LithiumとValproateの併用なども第一選択となっており、ラインナップを幅広くとっています。後者では双極I型障害のうつ病でFluoxetine単剤もしくはOlanzapineとFluoxetineの合剤がランクされています(これは少数例の比較試験の結果も重視したため)。その他のガイドラインでは、気分安定薬または非定型抗精神病薬との併用で双極I型またはII型のうつ病相の治療薬として第二選択レベルに。中等症以上の場合に第一選択として用いることが推奨される場合もあります。

 具体的な薬剤としては、多くのガイドラインで推奨されており、かつ日本で使用できるものはsertralineとなっています。

☆うつ病相をどうするか?
 これらから分かるように、双極性障害においては、うつ病相に使用できる薬剤が限られています。Quetiapineに望みを託している状況ですが、糖尿病のある患者であればQuetiapineとOlanzapineが使用禁忌になってしまうため一気に幅が狭まってしまいます。その際は、リチウムを使用しているのであれば、血中濃度を0.8mEq/Lに上げてみることが1つの方法。それでも効かなければ、ドパミンアゴニストのPramipexoleを使用するのも良いでしょう4)。手の打ちようがなければ、気分安定薬をしっかりと入れた状態で抗うつ薬をトライすることになるでしょうか。怖いので自分はsertralineを12.5mgという少量から使います。。。

 これは全くの私見ですが、Aripiprazoleに関して言うと少量であれば抗うつ効果が期待されるため、双極性障害においてもうつ病相に少量投与して改善を図るという方法もあっていいかもしれません。以前に行われたスタディでは、Aripiprazoleが比較的高用量であったため抗躁効果しか示せませんでした。これを低用量で行ってみる価値はあるかもしれません(例えば3-6mgという量)。自分はその他にPerospironeを1-4mg使いますが、これに関しては臨床試験が行われていないので効果の程は不明。


☆参考文献
1) Bipolar pharmacotherapy and suicidal behavior: Part 3: Impact of antipsychotics
J Affect Disord. 2007 Nov;103(1-3):23-8. Epub 2007 Jun 29.

2) Efficacy of olanzapine and olanzapine- fluoxetine combination in the treatment of bipolar I depression.
Arch Gen Psychiatry. 2003;60:1079-1088. 166.

3) Antidepressant discontinuation in bipolar depression: a Systematic Treatment Enhancement Program for Bipolar Disorder (STEP-BD) randomized clinical trial of long-term effectiveness and safety.
J Clin Psychiatry. 2010 Apr;71(4):372-80.

4) Pramipexole for bipolar II depression: a placebo-controlled proof of concept study.
Biol Psychiatry. 2004 Jul 1;56(1):54-60.


c.f.この記事は、あくまでも2011年7月時点でのエビデンスなどのまとめです。
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2011
07.20

精神疾患でのラモトリギン

 ラモトリギン(ラミクタール®)が、日本でも双極性障害の治療薬として承認されました。

 維持療法への新たな選択肢の1つ。中でもうつ病優勢であれば第一選択としてCANMATやBAP、TMAP2007年改訂版などでも支持されています。WFSBPにおいては、双極I型で急速交代なしの時、うつ病優勢ならエビデンスレベルA、急速交代ありの時、うつ病優勢ならエビデンスレベルDとして、双極II型で急速交代ありの時、エビデンスレベルCとして掲載されています。

 特に現在使われているリチウム(リーマス®)やバルプロ酸(デパケン®/セレニカ®)は催奇形性が確認されているので、妊娠可能年齢の女性には気分安定薬の使用を控える傾向にあります。ラモトリギンはそれらよりも危険性が低いと言うことで、貴重な代替薬となりえます(註参照)。また、体重に対する影響がないというのも特に若年女性にとってはアドヒアランスという点でも特記すべき事項でしょう。しかもリチウムやバルプロ酸はうつ病エピソードの予防に対し、少し力が弱いところがありました。ラモトリギンは躁/軽躁エピソードの予防は苦手ですが、うつ病エピソードの予防に優れているという点が特徴です。

 単剤としてもリチウムと同等の再発予防効果があるのではないか、特にうつ病エピソードに効果的ではないかと言われています。使用量ですが、維持には200mg/dayが適しているのではという研究結果があります。

 併用療法ではリチウム+ラモトリギンがリチウム単剤よりも抗うつ効果が増強され、再燃or再発までの期間が延長されることが示されています。

 バルプロ酸との併用も有望視されてはいますが、これは注意が必要。ラモトリギンのクリアランスが低下し、血中濃度増加、半減期延長が生じます。逆にカルバマゼピンやフェニトイン、リファンピシンとの併用ではラモトリギンの代謝が促進されてしまいます。

 注意点としては、皮疹。これが出たら即中止が必要です。よって、少ない量からじわじわ時間をかけて上げて行かねばならず、もどかしい印象を与えます。決して急性期治療に用いるものではありません。皮疹のリスクファクターとしては

・Cytochrome P450 inhibitors(バルプロ酸など)との併用
・急速な増量
・患者への皮疹に関する教育の欠如
・12歳未満
・他の抗てんかん薬による皮疹の既往

などが挙げられています。自分は皮疹が怖いので、バルプロ酸と併用していなくても25mg隔日投与から開始しています。日本での皮疹発生率は7%ちょっとという報告ですが、自分の勤めている病院ではもっと多い印象。みんな使い方を順守してるんですけどね。。。看護師さん受けも悪く、「ラミクタール使いますんで」というと


工エエェェ(´ロ`ノ)ノェェエエ工


 こうなります。。。

 後述のように効果は双極性障害のみにとどまりません。そのため皮疹が出ないように注意して注意して使うんですが、それでも。25mg隔日投与から開始すると述べましたが、そんな態度で臨んでも出たことが1回ありまして。その時ばかりは開いた口がふさがらなかったですわ。

 ラモトリギンについては、これから肯定的/否定的なものを含めてどんどんエビデンスが蓄積されていくと思います。個人的には、妊娠可能年齢の女性に維持療法を行う際に使用可能(ベネフィットが上回る場合)というところがありがたいです。

 ここからは全くエビデンスありません。独り言として。。。双極性障害の患者さんに使っていると、25mgくらいで引っ張ってると、それでずいぶんと良くなる人もいます。販売元のグラクソスミスクラインのMRさんに「25mg/dayじゃダメ?」て聞いてみましたが、やっぱり維持には相応の量をお願いしますとのこと(そりゃMRさんは添付文書以上のことを言ってはいけませんからね)。双極性障害のうつ病相そのものには25-75mgくらいでも効果ありな印象はあります。維持となると違うんでしょうかね。後は適応外使用ですが、単極性うつ、それも結構強いうつにちょろっと増強で使っても効いてくる印象。妄想を伴うようなうつ病にはサインバルタと併せて処方すると何とか浮上してくれます。統合失調症で、無為自閉になってしまった患者さんとか抑うつが強くなった患者さんにもちょろちょろっと使うと、ちょろちょろっと活動的になります。でも統合失調症では失敗することの方が多いかしら(ハイパーになっちゃう人が結構…)。全般性不安障害や強迫性障害といった神経症圏内にも増強として使用でき、器質的なもの、例えば発達障害とか頭部外傷後とかレビー小体病とか、そういう患者さんの気分を安定させたり幻覚を軽くしてくれたり、そんな手応えがあります。結構フシギな薬剤だな、、、と思ってます。何だこのオールラウンダーは。使用量についてはほとんど25-50mg/dayくらいにしています。多分、器質的なキズに効いてくれるんでしょうね。純粋な統合失調症は内因性(古い言い方ですが)。



註(2011年11月7日記載):妊婦への使用ですが、オーストラリア基準では、ラモトリギンがB→Dに格下げされ、これで気分安定薬は全てDになりました。FDAは変わらずCのままで、気分安定薬の中で唯一のCとなっており、他はDです。

補:ラモトリギンの副作用で「無菌性髄膜炎」がありました。2010年にFDAも警告しています。恥ずかしながら自分はその副作用を知らず、同期が入院患者さんで使用していてその患者さんが発症し、知るところとなりました。患者さんは発熱があって頭痛がありながらも結構元気が良くて、新聞も読んじゃってました。ただ、首が硬くてうつむくことが出来ませんとの訴えあり。新聞も異様に良い姿勢で読んでました。。。sickな印象が乏しいというのはやはり薬剤性の特徴でもありますね。
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2011
07.10

肺炎、喘息、COPD

Procalcitonin and C-Reactive Protein in Hospitalized Adult Patients With Community-Acquired Pneumonia or Exacerbation of Asthma or COPD
CHEST 2011; 139(6):1410–1418


 近年、抗菌薬は簡単に処方されすぎて薬剤耐性の細菌をポンポン生み出しています。細菌感染のバイオマーカーがあれば、この無駄な使用を減らせるかも知れません。

 この論文では市中肺炎と喘息・COPDの急性増悪との鑑別において、プロカルシトニンとCRPを用いています。
62人の肺炎、96人の喘息、161人のCOPD患者が登録されました。

 プロカルシトニンとCRPは強く相関していて、肺炎でプロカルシトニンとCRPが有意に増加していました。

 肺炎と喘息・COPDの急性増悪とを区別するためのROC曲線下面積(95% CI)は、プロカルシトニン、CRPでそれぞれ0.93 (0.88-0.98) 、0.96 (0.93-1.00)でした。



 そして、CRPが>48 mg/Lの時、つまり日本の単位にしてCRP>4.8mg/dLでは感度91%(95% CI, 80%-97%)、特異度93% (95% CI, 86%-98%)で肺炎と喘息・COPDを区別できるとしています。

 尤度比を計算してみると、LR+13, LR-0.1となりました。結構良い数字ですね。


 ちょっとこの論文は単純すぎる方法で行われていますが、CRP復権の兆し...?

 しかし、CRPは発症から上昇までのタイムラグがかなりあることを忘れてはいけません。最低でも6時間(プロカルシトニンは3-4時間)。これも考慮すると、おそらく発症から早めに受診した患者さんではCRPが上昇してないから抗菌薬投与がされずに帰宅、となるかもしれません。あくまでも血液検査は補助的なものであるという姿勢を崩さないのが大事。患者さんの背景・病歴・診察を細かく追跡することで、検査前確率が大分違ってくることは言うまでもありません。

 でも、使いようによってはCRPは優秀なマーカーです。振り回されずに使いこなすことを覚えるのも大事ですね。

 ちなみにプロカルシトニンガイドの抗菌薬治療も少しずつ浸透してきているようです。PRORATA studyでその地位をがしっと強固なものにした印象はありますが、あんまりcost-effectiveではないような気も。また、何でもかんでもプロカルシトニンガイドというのも、馬鹿の1つ覚えですね。繰り返しですが、診療というのは病歴と診察あってのもの。なので、こういうものを利用するのは「病歴と診察が有用でない時」です。例えば寝たきりで意思疎通の取りづらい患者さん、ICUで鎮静のかかっている患者さんなど。何でもプロカルシトニンを乱発してはダメです。考えるということ、そして患者さんの所に行って話を聞く/診察をするという基本的なことをせずに、値だけ追っかける。これだけは絶対にしてはいけません。
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