2011
06.21

超音波の心構え

Category: ★研修医生活
 6/18土曜日は、1年次研修医にエコーを教えてきました。プローブの種類から説明し、当て方、見える臓器の確認。消化管を含む腹部・肺・心、そしてちょろっと肋骨エコー。描出が難しい臓器はばっさり切り捨てて行いましたが、参加者の練習を含めて4時間近くかかりました。。。しかも久々にエコー機械に触れたという...。

 研修医の行うエコーは非常に見逃しが多いのです。練習量が足りないので、見るべき臓器を見ない・見方が甘い、でもそれでいて少し慣れるとエコーで除外した気になる。エコーそのものの限界と稚拙さと不勉強さとで、危険もあるのです。

 しかし、だからといってエコーに触れないというのもおかしな話。謙虚になって、ちゃんと練習する。

 自分のエコーはまだまだ使い物にならない、言い方を変えれば、自分のエコー検査はどんな疾患に対しても尤度比が1に近い。研修医1年のうちはそう思って、たくさん練習することが肝腎です(イレウスや肺水腫は分かりやすいですけどね)。そうすることで、尤度比が1から遠ざかってくれます。

 そういう心構えでエコーを行っていれば、2年になる頃には来年度の1年次にきちんと教えられるようになっているものです。

 鉄則は以下。

・エコーに時間をかけ過ぎて診断を遅らせない
・見にくい臓器は諦める
・エコーで除外しようとしない
・闇雲にエコーを当てない(事前確率を意識する)

 有用性と限界性を常に意識することが大事です。

 エコーに時間をかけ過ぎてしまう:何とかエコーで見ようとして、じーっと腹痛患者さんにエコーを当て続けて周りが見えなくなってしまうこともありがちです。診断が遅れてしまっては患者さんに不利益を与えてしまいます。例えば、教科書には大動脈解離のエコー像なんて載ってますが、我々レベルの行うエコーでそんな緊急疾患を探す時間はないと考えましょう。ペルジピンとインデラル使いつつ、腎機能が悪くても承諾を得て造影CTに可及的速やかに連れて行くこと。FASTをする時もじっくりやらない。FASTがSLOWになっては意味がありません。急ぐ時は急ぐ、撤退する時は潔く。

 見にくい臓器:膵臓や総胆管は特にエコー初心者は全体が見にくいです。何か見えないけど、いいや!と考えて膵炎や胆管炎を否定してしまう。これはやってはいけないこと。虫垂もそうですね。虫垂炎に対するエコーは、文献を見ると感度も特異度もすばらしい。でもそれはプロがやってのこと。まだまだ練習の足りてない研修医1年がその検査特性は出せません(自分だってそうです)。謙虚に謙虚に。心エコーでも切り方が悪いのに無理してEFとか出そうとすると変になります。最初の内は定性的な評価にとどめる。

 エコーで除外しようとしない:膵炎、胆管炎は何となくエコーで普通に見えても検査値が跳ね上がっていることも多いのです。感度の低い所見もエコーは多いので、それを意識しましょう。検者の腕にも左右されますし。同じくして、臓器を間違えないというのも大事。自分が2年次研修医の時、1年次が「下大静脈径が少し小さいんですけど、呼吸性変動があんまり」と言ってきたので、見たら「それ、大動脈だから...」とボソッと指摘したこともあります。見る物を間違えると評価が異なってしまいます。下大静脈径も、評価する時は心臓に入っていくのを確認しましょう。入るところから2-3cm、もしくは肝静脈分岐部から1cmほど尾側で計測するのがポイントです(上手く描出されない人も1割ほどいます)。ドップラーも怖いものです。SMA閉塞や腎梗塞、脾梗塞をドップラーで否定は決して出来ません。最初のうちはドップラーを使用しない方が良いでしょう。あえて使うなら胆嚢炎疑いの時の胆嚢壁内flowの増加でしょうか。

 闇雲にエコーを当てない:練習とは似て非なること。心窩部痛や嘔吐の患者さんに胆石があったから原因は胆石発作だ!と飛びつかないように。無症候性胆石なんてザラですし、きちんと心筋梗塞なども考えましょう。12誘導をとるとII・III・aVfでST上昇が。。。

 なぜエコーを当てるのか?当てて所見の有る無しでどう診断可能性が変わるのか?それを見据えた上で使うならば、エコーは武器になります。補助的検査に、でも使えば使うほどその鋭さは増す。そんな風に考えてもらえれば、良いのかなと思います。

 すごく厳しくて嫌な言い方をしてますが、偉ぶって言っているわけではありません。自分も同じ意識でエコーをたくさんしてきましたし、何より「まだまだ自分は甘い」と考えて練習することが、見落としが少ない、すなわち患者さんのためにつながるのだと思っているのです。

 鉄則を常に意識して、練習あるのみ。そうやって来年は後輩に教えられるようになる。それが年々続いていけば、しめたもの。

 自戒しながら、という姿勢は何事においても大切。先輩からも怒られ褒められ、成長していきましょう。怒る、ということに関して言うと、先輩が怒るのは、どこか必ず自分に足りないものがあるから。いじめてるんだとねじ曲げて考えてしまうのは非常にもったいないですよ。最近は怒る人が少なくなったので耐性がないのかもしれませんが、怒られるのは若い人の特権です。

 必要以上に自分を貶めることは良くはありませんが、自信を持ちすぎるのも怖い。ちょっと自信ないなぁというのが適切かもしれませんね。
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2011
06.15

第2版

Category: ★本のお話
 救急専門ではないですが、一般内科診断学の入門として読みやすくてためになる

「考える技術」

の第2版が6月23日に出るようです。原著は「Symptom to diagnosis」ですが、初版を見ると和訳の方の出来が良いという例外。訳注がすばらしいので、これは和訳を買った方がお得です。

 病歴や診察のエビデンスもきちんと入っているため、この所見があるから/ないからどうなるというのも理解しやすいです。

 学生さんも読んでみると良いと思います。どう診断するか、というのを実感できる本。もちろん、研修医も是非是非。


 精神科でもこういう本が出ると嬉しいのですが。。。
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2011
06.09

叩こう、聴こう

 少し前、後輩から「先生、大腿骨頸部骨折疑う時にはどんな診察したらいいですか?」と質問を受けました。

「auscultatory percussionが良いよ。アレ使えるから覚えといて」とお返事しましたが

「何ですか、ソレ?」

 意外と知られていないauscultatory percussion(聴打診)。McGee先生は、そんな化石みたいな診察技術はもういらないんじゃないのとおっしゃいますが、用途を絞った上なら、まだまだ現役で頑張れそうな、そんなワザであります。

 胸水貯留、慢性硬膜下血腫、大腿骨頸部骨折を疑った際には是非使いたい技術。

 胸水のauscultatory percussionに関しては、藤本先生の感染症レジデントマニュアルに記載があります。

 慢性硬膜下血腫用のauscultatory percussionは

額の真ん中に聴診器を当てて、額の左側と右側をそれぞれトントンと指で叩く

 もしくは

一方のこめかみに聴診器を当てて、額の一方からもう一方に向けてトントン叩いていく

 という方法で左右差を見ます。

 ですが、けっこう微妙。。。自分はトントン叩いてみて「ん?左右差ある、かな?どうかな?」という思いでCTに行ったら、教科書に載っても良いくらいの見事な慢性硬膜下血腫だった記憶があるのです。「こりゃ難しいな...」と唸ってしまいました。しかもこの疾患は両側性のこともあるので、その場合はこの手技の有用性は無くなるのでしょう。

 しかし、だからといって捨て打つものではありません。何と言っても有用性が高いのは大腿骨頸部骨折を疑った時なのです。診察で痛がっていて、折れてるかもしれんなぁと思う。レントゲンを撮ってみようと思っても、読影の自信がない。。。大丈夫そうに見えるけど...。というのは、ままあること。そんな時、auscultatory percussionをしてみましょう。

 方法は簡単。患者さんに仰向けに寝てもらって、恥骨結合の部分に聴診器を当てます。そして、左右の膝蓋骨をトントン。これだけ。折れている方は、音が鈍く感じられます。自分はベル部を当てるようにと教わりましたが、文献の画像では膜部になってますね。たぶん、どっちでも良いのでしょう(低い音を拾いたいからベル部の方が、、、とは思いますが)。



 感度や特異度については若干バラツキがあるようですが、ひいき目に見させてもらうと感度96%、特異度86%、陽性的中率98%、陰性的中率75%としています。尤度比に関しては、LR+6.73、LR-0.75と算出されています。auscultatory percussionを含めた診察、そしてレントゲンでも骨折らしくなかったら、その患者さんは骨折してないだろうと言われます。また、レントゲンで一見正常でもauscultatory percussionで所見が出たら、CT(可能ならMRI)に行っても良いのでは、と述べる先生も。

 自分は去年、救急外来でauscultatory percussionを大腿骨頸部骨折疑いの患者さん方に結構使ってみましたが、陽性の患者さんは、確かに皆さんレントゲンでパキッと折れている像が見えました。陰性の場合はレントゲンでは何も所見無しだった記憶があります。ただし、ひよっこの医者が行う診察と読影で、検証期間はたかだか1年にも満たないということはご理解ください。

 トントンとやって「お?」と思ったら、少なくともレントゲンはじっくりと、折れてるもんだと思って見る必要があると思います。診察で痛みもそんなに無く、かつトントンと叩いても左右差無し。かつレントゲンも正常なら「折れてないんだろうな」と考えて少し安心しても良いかもしれません。

 何にせよ、簡単にかつ短時間で行える技術であることは間違いありません。1つの参考指標にはなるのではないかな、と考えています。
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2011
06.07

精神障害、深部静脈血栓、肺塞栓。

Antipsychotic drugs and risk of venous thromboembolism: nested case-control study
Parker C, Coupland C, Hippisley-Cox J.
BMJ. 2010 Sep 21;341:c4245. doi: 10.1136/bmj.c4245.

 抗精神病薬で静脈血栓塞栓症(VTE)のリスクが上昇する、という論文。これまでも抗精神病薬とVTEとの関連は言われていましたが、この論文によって詳細なデータが出ました。

 リスクが特に高かったのは

・新たに使用を開始してから3カ月以内の患者さん
・非定型抗精神病薬を投与されていた患者さん

など。

 更に、高力価よりも低力価の方でリスクが高いことも分かりました(最もリスクが高かったのがクエチアピン)。また、当然のことながら、複数種類の方がハイリスク。

 精神科かかりつけの患者さんが救急外来に来た、というだけで救急外来のスタッフは思考停止してしまいがち。「息が苦しい」と訴えても、どこか鑑別が疎かになってしまうことが少なくありません。精神科の患者さんでも、精神科の患者さんだからこそ、背後に見逃してはいけない疾患が隠れている。そう考えて、診療に当たらなければならないということも知らせてくれる論文でした。

 ちなみに、ポケットブックでは「精神障害のある救急患者対応マニュアル」というのが秀逸の出来です。精神科医のみならず、救急医の先生方には目を通しておいて頂きたい一冊。個人的には、必読、と言いたいくらいですが、それは精神科医だからかもしれません。

 抗精神病薬がどんな身体疾患を引き起こすのか、というのに興味が沸いた人には「予測して防ぐ抗精神病薬の『身体副作用』」が分かりやすいです。各薬剤の受容体プロフィールによる副作用もとても有用。
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