2011
05.28

出血性脳卒中?虚血性脳卒中?

 救急の現場で、出血性脳卒中と虚血性脳卒中とを病歴と診察で見分けることができるか??

 もう精神科なので、こういった救急の現場はあまり関係なくなってしまいましたが、それでもやっぱり医者の基本は救急にあると思っているので、少しお勉強。

Does This Patient Have a Hemorrhagic Stroke?
Clinical Findings Distinguishing Hemorrhagic Stroke From Ischemic Stroke
Shauna Runchey, MD, MPH; Steven McGee, MD
JAMA. 2010;303(22):2280-2286.

 去年のですが、JAMAのRational Clinical Examinationからです。このシリーズは面白くて即実践可能なところが良いですね。さて、見分ける所見としては、、、

☆Probability of hemorrhagic stroke.
Coma  LR6.2 95%CI3.2-12.0
Neck stiffness  LR5 95%CI1.9-12.8
Seizures  LR4.7 95%CI1.6-14.0
Diastolic blood pressure>110 mm Hg  LR4.3 95%CI1.4-14.0
Vomiting  LR3 95%CI1.7-5.5
Headache  LR2.9 95%CI1.7-4.8
Cervical bruit  LR0.12 95%CI0.03-0.47
Previous TIA  LR0.34 95%CI0.18-0.65
Absence of xanthochromia on LP  LR0.31 95%CI0.19-0.49
Siriraj score>1  LR5.7 95%CI4.4-7.4
Siriraj score<-1  LR0.29 95%CI0.23-0.37
Siriraj score from 1 to -1  LR0.94 95%CI0.77-1.1

 これを見ると、昏睡、項部硬直、神経欠落症状を伴うけいれん、拡張期血圧>110mmHg、嘔吐、頭痛、Siriraj score>1が出血性の確率を引き上げます。逆に確率を下げるものとしては、頸部のbruit、TIAの既往、キサントクロミーのない事、Siriraj score<-1があります。

 ただし、ものすごく強力に引っ張る因子(LR≧10 or LR≦0.1)は無いですね。中等度のもの(LR≧5 or LR≦0.2)としては、昏睡、項部硬直、Siriraj score>1の3つが出血性を示唆。頸部bruitが中等度に虚血性を示唆(中等度と言っても、結構強力)。

 要注意なのは、腰椎穿刺をしてキサントクロミーがなかったからといって、出血を否定できないこと。LR0.31という数字は決して強いものではありません。最近は、特に出血を疑った時は腰椎穿刺よりもMRIのFLAIR画像を撮ってしまうこともありますし、発症から12時間以降に、光学スペクトロフォトメトリーでキサントクロミーを否定出来たらものすごく安心しますが、肉眼では半数を見逃すと言われます。後は、頭痛に関してですが、これは突発性のものかどうかの言及があるのかどうかが分かりません。単に「頭痛」だけでは両者ともありうる。これがsudden onsetを別個に考慮すると、少し変わってくるかもしれません。

 Siriraj scoreは、この論文で初めて知りました(Sirirajって何て読むの?シリラート?)。計算方法はちょっと面倒くさいですが、頭痛の項目では「2時間以内の頭痛」としていることから、やはり出血性脳卒中ではより早期に頭痛が起こってくるものと推察されます。

(2.5×semicoma or 5×coma)+(2×vomiting)+(2×headache within 2 hrs)+(0.1×dBP)-(3×≧1 of diabetes, angina, intemittent claudication)-12

 こんなんやってられるか!てなりそう。。。しかも20%の患者さんは-1から1の間の得点になってしまって、診断的効力を持たず、徒労です。これ計算する時間あれば、CT行った方が良いんじゃないだろうか...。

 というわけで、take home message↓

☆TAKE-HOME MESSAGE
Several clinical features are strongly suggestive of hemorrhagic cause, though none is
accurate enough to delay or replace neuroimaging.
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2011
05.23

脳梗塞に対するVEGF抑制療法

 自分の母校である新潟大学の、脳研究所からの報告。

Inhibition of VEGF signaling pathway attenuates hemorrhage after tPA treatment.
Kanazawa M, Igarashi H, Kawamura K, Takahashi T, Kakita A, Takahashi H, Nakada T, Nishizawa M, Shimohata T.
J Cereb Blood Flow Metab. 2011 Feb 9.

 脳梗塞には、日本では3時間以内であればt-PA(組織型プラスミノゲン・アクチベーター)という血栓溶解薬が使用可能なことがあります。しかし、この3時間という制約により、この治療を受けることが出来るのは脳梗塞患者全体の5%未満といわれています。

 もし3時間を超えた患者にt-PAが投与されると、一部の患者さんでは合併症の脳出血で予後が悪くなることもあります(ヨーロッパやアメリカでは、ウィーンの世界脳卒中会議を受けて4.5時間までの延長が推奨されています)。脳出血を起こす理由としては、血管閉塞が一定時間を超えてしまうと血管を構成する内皮細胞や周皮細胞、そして支持する細胞外マトリックスにも障害が生じてしまい、その結果血管が破綻するからとされています。

 この出血を予防することができれば、短い制限時間を延長させ、さらにt-PAによる血栓溶解療法を受けることが出来る患者を増やすことが可能となります。

 この論文では、t-PA治療後の血管障害を引き起こす蛋白の1つが血管内皮細胞増殖因子(VEGF)であることと、このVEGFを阻害することでt-PA治療後の脳出血を抑制し、治療可能時間を延長する可能性があると述べています。

 著者らはラットを用いた実験において、血管閉塞前には脳でのVEGF発現を認めないものの、t-PAを4時間後に投与した群では血管内皮細胞や周皮細胞、星状細胞にVEGFが高度に発現していたことを突き止めました。VEGFはその受容体を活性化し、さらにVEGFカスケードの下流に存在するマトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP9)の活性化を促し、細胞外マトリックスを分解することが分かりました。

 そしてVEGFを分子標的とした治療として、増加するVEGFを除去できる抗VEGF中和抗体(RBB-222)を静脈注射。虚血後のVEGF増加、MMP9活性化、細胞外マトリックスの分解はいずれも抑制され、脳出血も減少し、予後も改善しました。VEGF受容体リン酸化阻害剤(SU-1498)の腹腔内注射でも、抗体と比べると効果はマイルドではありましたが、同様の効果が認められました。

 以上から、治療可能時間を越えたt-PA治療による脳出血という合併症に対し、VEGF抑制療法は有効である可能性が示唆されました。


Figure 6 RB-222 or vascular endothelial growth factor receptor-2 (VEGFR2) inhibitor, SU1498 attenuates hemorrhagic transformation (HT) after tissue plasminogen activator (tPA) treatment. (A–C) Quantification of infarct volumes (A), edema volumes
(B), and hemoglobin concentrations of the lysates from the ischemic hemisphere (C) at 24 hours after ischemia. White bars indicate the permanent ischemia group treated with control antibody alone; black bars, the tPA 4-hour group treated with control antibody; gray bars, the tPA 4-hour group treated with RB-222 (n=6). **P<0.01. (D) Motor scales at 24 hours after ischemia of the permanent ischemia group treated with control antibody alone, and the tPA 4-hour group treated with control antibody or RB-222 (nX14). Outcomes were scored using the 5-point motor function scale: 0=no motor deficit, 1=flexion of the forelimb contralateral to the ischemic hemisphere, 2=reduced resistance against push toward the paretic side, 3=spontaneously circling toward the paretic side, and 4=death. *P<0.05. **P<0.01. (E–G) Quantification of infarct volume (E), edema volume (F), and hemoglobin concentration of the lysates from the ischemic hemisphere (G) at 24 hours after ischemia. Black bars indicate the tPA 4-hour group treated with vehicle (dimethyl sulfoxide); gray bars, the tPA 4-hour group treated with SU1498 (n=6). **P<0.01. (H) Motor scales at 24 hours after ischemia of the tPA 4-hour group treated with SU1498 and vehicle (n=14).
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2011
05.18

スルピリドとスルトプリド

 抗精神病薬に「スルピリド(商品名:ドグマチール、アビリット、ミラドールなど)」というお薬と「スルトプリド(商品名:バルネチールなど)」というお薬があります。

 一般名も商品名も似ている2剤。添付文書上の投与量は


 スルピリドは、統合失調症に対し「スルピリドとして、通常成人1日300~600mgを分割経口服用する。なお、年齢、症状により適宜増減するが、1日1200mgまで増量することができる」

 スルトプリドは「スルトプリドとして、通常成人1日300~600mgを分割経口服用する。なお、年齢・症状により適宜増減するが、1日1800mgまで増量することができる」


と、これまたほとんど同じ。

 しかし、スルトプリドに関しては添付文書に従うと大変なことになります。

 これに関しては自分の属している精神科の教授も注意するように述べており、下記の文献をレジデントに配布していました。

The antipsychotic sultopride is overdosed – a PET study of drug-induced receptor occupancy in comparison with sulpiride
International Journal of Neuropsychopharmacology (2006), 9, 539–545. Copyright f 2005 CINP doi:10.1017/S1461145705006103

 この論文は、スルピリドとスルトプリドが、どの用量で大脳皮質D2受容体をどのくらい占拠するかをPETで調べたものです。一般に、受容体占拠率70%前後が最も精神病症状に効果的で、80%を超えると錐体外路症状(EPS)が出てしまいます。この2剤で調べた結果は以下の図のよう。



 スルピリドはD2受容体を70-80%占拠するのに1010-1730mg必要だったのに対し、なんとスルトプリドは20-35mgで済んでしまうのです!!!!

 添付文書に従うと、初期投与量だけでほぼ100%のD2受容体を占拠してしまいEPSが出現。。。

 ですので、スルトプリドを使用する時は、投与量に気をつけましょう。
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2011
05.14

ロイコトリエン拮抗薬の実力

 少し前に、COPDの治療薬についての論文を紹介しました。

 COPDと来たら、お次は喘息。ということで、NEJMの新しめの論文。

Leukotriene Antagonists as First-Line or Add-on Asthma-Controller Therapy
N Engl J Med 2011;364:1695-707.

 ロイコトリエン拮抗薬(LTRA)は自分の中では、印象として「どうなのかしら??」という感じでした。あんまり信用していなかったというのが正直なところ。今回の試験は

★長期管理の第一選択としてLTRAと吸入ステロイドを比較する試験
★吸入ステロイドを投与されている患者への上乗せとしてLTRAと長時間作用型β2 刺激薬(LABA)を比較する試験

というもの。かかりつけ医のところで2年間の非盲検的な治療をしています。

 LTRAごときがステロイド様に肩並べようなんざ早い早い、との思いで読んだところ、、、


 結論として、2ヵ月時の時点においてプライマリケア医を受診するような喘息患者では、LTRAはコントローラーの第一選択薬として吸入ステロイドと同等で、また上乗せとしてはLABAと効果が同等であることが示唆されました。2年の時点では同等性は証明できなかったとしています。



 2年では残念な結果でしたが、リアルワールド(良い訳語が思いつきませんでした。実臨床?)における差は微弱でして、アドヒアランスの観点からもLTRAが第一選択薬として遜色ないという点を述べています。

 実地臨床試験の結果の解釈には限界がありまして、治療群間のcross-overとプラセボ群が設定されない点というもの。その限界性を踏まえた上で、やはり今回の結果は驚きとしか言いようがありません。まさかLTRAがこんな実力を持っているとは。。。COPDの時の予想は当たりましたが、今回は大ハズレ...。

 臨床では、最初からステロイドとLABAとの合剤(アドエアなど)を使うことが多いので、今度はそれとの比較なんてのも面白いかもしれませんね。

 ちなみに救急外来では、喘息の鑑別の1つに心不全、いわゆる「心臓喘息」がありますので、疑わしい患者さんでは3音・頸静脈怒張・心尖拍動の外側偏位(これらは陽性尤度比が非常に高いです)を見たり、胸部レントゲンで肺水腫を確認したりしましょう。自分はエコーを活用しております。IVC径を見て、肺エコーでB-lineがびゅんびゅん走っているかどうかを見ましょう。心エコーでは壁運動の様子を眺めます。

 肺エコーは本当に使えるので、是非是非トライしてみて下さい。
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