2011
04.21

COPD:抗コリン薬とβ2刺激薬

Tiotropium versus Salmeterol for the Prevention of Exacerbations of COPD
Claus Vogelmeier, M.D., Bettina Hederer, M.D., Thomas Glaab, M.D., Hendrik Schmidt, Ph.D., Maureen P.M.H. Rutten-van Mölken, Ph.D., Kai M. Beeh, M.D., Klaus F. Rabe, M.D., and Leonardo M. Fabbri, M.D. for the POET-COPD Investigators

N Engl J Med 2011; 364:1093-1103March 24, 2011


 COPDは、精神科も決して無縁な疾患ではありません。「うつ病」を併存しうるとして、GOLDガイドラインにも記載されています(頻度などはECLIPSE研究に詳しいです)。他にも心血管系や消化器の疾患も多い。COPDは呼吸器単独の疾患ではなく、全身病の様相を呈しています。特に心血管系疾患で亡くなる患者さんが多いのです。肺だけ注目していては患者さんを失ってしまう疾患、それがCOPDなのです。

 そんな病気の治療薬について、POET-COPDトライアル。

 チオトロピウムとサルメテロールのどっちが増悪予防に良いのか?というガチンコ対決。大体の予想はつきますが。。。

 対象患者さんは、中等症から最重症COPD患者・前年急性増悪既往のある方々で、中等度から重症の急性増悪の頻度を比較しました。

 結果は、チオトロピウムを投与した方が、増悪リスクと増悪の年間発生率が低いとのこと。たぶん、大方の予想通りですね。最近の比較試験でも抗コリンの連勝だった記憶があり、今回のでダメ押し。白黒はっきりついた感があります。




 ちなみに最近は非喫煙者のCOPDも取り沙汰されていて、世の中変わったなと実感。

 予測因子は、年齢、喘息既往、女性、低教育水準、だそうです。

COPD in Never Smokers
Results From the Population-Based Burden of Obstructive Lung Disease Study
BOLD Collaborative Research Group
CHEST April 2011 vol. 139 no. 4 752-763

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☆CAUTION!!!

6/16追加:ついこの前のBMJに、「チオトロピウム・ミスト(商品名はスピリーバ・レスピマット)」はCOPD患者さんの死亡率を52%も上げてしまうというショッキングな論文が出ました。ミストタイプの吸入器(ミストインヘラー)にだけ見られる事象で、一般的なパウダーインヘラーとは別物とお考えください。従来のパウダーインヘラーではそのような結果にはなっておりません。ミストインヘラーは不本意な高濃度になってしまうらしく、それが原因のようです。
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2011
04.13

消化管エコー

 一昔前までは消化管や肺というのは、空気が邪魔してエコーなんか役に立たんと言われていました。ですが、、

 消化管は、炎症があるとガスが掃けるため、じゃあそれをエコーで見ようという流れが出来ました。

 肺は、空気が邪魔するものの、アーチファクトを上手く利用しようという逆転の発想で臨床応用が進んでいます。

 自分が救急外来で行っていた肺エコーを以前ご紹介しましたので、今回は消化管エコーを。字ばっかりで画像がないというのは、エコーの説明には致命的かもしれませんが。。。

◆ポイント◆
☆腸管のエコー像は「良く分からない」のが正常
☆何かしら構造物(low echoを含んでいる)が見えたら、それは異常
☆なので、low echoを探すことが大事
☆ガスが多くて見えにくい場合は、その部に病巣はない可能性が高い
☆コンベックスでスクリーニング、詳しく見たいところはリニアで
☆腸管が肥厚?拡張?次に腸間膜の変化を見る
 ①肥厚:そこに病巣あり。肥厚を見たら潰瘍性病変を探す
 ②拡張:胃腸自体の疾患or二次的なもの
☆腸間膜の変化
 ①肥厚し、high echoが目立つ
 ②静脈怒張、動静脈血栓
 ③腸間膜のねじれ、屈曲
 ④リンパ節腫大
☆層構造に注目
①第3層(粘膜下層)はhigh echo、第4層(固有筋層)はlow echo
 ②浮腫性肥厚の場合、第3層の肥厚が著明
☆便の性状に注目
 ①上行結腸の泥状便:下痢がなければ虫垂炎を疑う(症状ありきですよ)
 ②上行結腸の正常便:下腹部痛があり、腹膜炎症状があるのにその状態で回腸もほとんど正常なら腸疾患は否定的。
 ③大腸が拡張して固形の便とガスが充満:便秘状態。激しい痛みがあれば虚血性大腸炎の初期や穿孔切迫状態
 ④腸管壁が著明に肥厚し、その部分に便がない:限局性なら憩室炎や虫垂炎、比較的広い範囲なら○○性大腸炎(虚血性や偽膜性、細菌性など)

◆便の性状の見かた◆
☆水様便:消化管内は粒状のエコーが見られるが全体が低エコーを呈する液体像によって占められている
☆泥状便:消化管内はハウストラに沿って高エコーを呈する内容を観察するが、内容は全体が均一的に観察され、多重エコーを伴いながらやがて音響陰影が見られる
☆固形便:消化管内はハウストラに沿って極めて強いエコーを認めるが、この強いエコーは孤状を呈しその直下から明瞭な音響陰影を生じている

◆腸管径と腸管璧の目安◆
☆腸管径の正常上限(最外層となる漿膜から反対側の漿膜まで)
 小腸:22mm
 大腸:上行18mm/横行12mm/下行15mm/S状14mm/直腸15mm
☆腸管壁の正常上限(粘膜表面から漿膜まで)
 小腸:4mm
 大腸:4mm ただし直腸は6mmまで正常

◆十二指腸◆
☆描出は、胆嚢や膵頭部との境界を意識する
☆十二指腸球部・下行部・水平部は膵頭部を取り囲むように走行
☆膵頭部の縦断走査でその頭側に球部、尾側に水平部が位置する
☆膵頭部の横断走査ではその右側に下行部の横断面が描出され、右側前方に胆嚢が位置する
☆水平部は腹部大動脈と上腸間膜動脈との間を走行
☆十二指腸と膵臓の解剖学的関連はきちんと覚えておく

◆大腸◆
☆回盲部の検索。psoasの横断像とその内側に見られる腸骨動静脈を同定。回腸末端はその上を乗り越えるように走行して上行結腸に入る
☆回盲部の横断像では、大腸はpsoasの前方やや右側に位置することが多い
☆上行結腸は太くハウストラもしっかり。下行結腸は空腸と間違いやすく、上行結腸よりやや深くより側壁に接するように存在
☆プローブは、上行結腸は斜上外側から、下行結腸は斜下外側から当てる
☆下行結腸は上部と下部に分けて描出
☆上部は、左肋間走査で脾上極内側の脾湾曲部を同定し、尾側に移動。すると横行結腸と下行結腸が分かれる短軸像が描出される
☆さらに尾側へ行くと、下行結腸が脾門部近傍・左腎前方を通り、左psoas外側を走行するのを確認
☆また、左肋間~側腹部の縦断走査で脾と左腎の間を走行する下行結腸長軸像が描出できる
☆下行結腸下部とS状結腸は腹側からの走査。縦断横断どちらでも左psoasを指標に。その外側部を走行する結腸を探す

◆潰瘍性病変◆
☆びらん:腸管が麻痺性に拡張し、粘膜面が不整でそこにhigh echo点付着
☆急性潰瘍:限局性浮腫性肥厚の中に強いhigh echoを伴う陥凹、また腸管の中心high echo上に不整形の斑状のhigh echo
☆慢性炎症に伴う潰瘍:層構造を失った壁肥厚内にhigh echo ただし潰瘍性大腸炎では基本層構造は保たれ、腸管の直線化が特徴
☆巨大な潰瘍:幅広い不整なhigh echo(血管性病変に多い)
☆腫瘍性潰瘍:境界明瞭でlow echoの強い壁肥厚内にhigh echoの陥凹

◆腸閉塞◆
☆エコー初心者がもっとも取っ付き易い
☆拡張した腸管、Keyboard sign、to & fro signの有無、腹水の有無を確認
☆to & fro signは腸管内容物が行ったり来たり、流れる様を見る。これはリアルタイムというエコーの長所を最大限に生かした所見
☆to & fro signがないこと、腹水があること、腸管壁の肥厚は絞扼性イレウスを強く示唆
☆腹部単純レントゲンでは、いわゆるgasless abdomenのイレウスを知っておかないと見逃すことがある。エコーでは明確に描出できる

◆虫垂炎◆
☆まず回盲部にプローブを当ててpsoasの断面を描出
☆間接サインから疑い、次に直接サインを探しにかかる
☆間接サインの中で重要なのは、上行結腸の便が軟便となること、回盲部付近のリンパ節の腫大
☆回盲部にガスが多く、見にくい場合には虫垂炎の可能性は低い(初期除く)
☆虫垂は、psoasの前方に最も多い。そこになければ、腸骨動静脈三角を探す。次に盲腸背側や外側に目を向ける
☆発症半日以後になると、周囲のlow echoが明らかになってくる

◆腸管壊死◆
☆腸管の粘膜面に付着するやや大きなhigh echo点は凝血と壊死物質によるもので、腸管壊死の1つのサイン
☆動脈閉塞か静脈閉塞かでエコー像が異なるが、初期にはどちらも腸管壁は軽い浮腫性肥厚を示し、粘膜面から小さい点状high echoが粉雪のように舞い上がるのが見られることも
☆動脈閉塞ではその後腸管壁は菲薄化し粘膜面に大きなhigh echo点が付着し腸間膜も菲薄化
☆静脈閉塞ではその後腸管壁は著明に肥厚し腸間膜も肥厚。しかしhigh echo点の付着は少ない。層構造の破壊が決め手
☆他、どちらの閉塞でも腹水が中等度以上出現(血性腹水)。動脈閉塞なら、多くが腸間膜動脈の起始部に血栓が見られるので検索を

◆穿孔◆
☆直接サインは、肥厚した消化管の壁とそれを貫通するhigh echo線
☆間接サイン
 ①free air(肝表面、肝下面、大網内)
 ②fluid collection(混濁した液体)
 ③穿孔部周囲の脂肪組織(大網など)の肥厚
 ④穿孔部周囲の腸管癖の肥厚とその付近の麻痺性拡張
☆free airの探し方
 ①大量の時:肝の描出が困難になる。体位変換で肝が描出できればairと確認
 ②軽度~中等度の時:肝の表面にhigh echoが見られ、その部以外では肝表面は描出。肝の辺縁に近いairは腸管内ガスのことが多いので注意
 ③ごく微量の時:穿孔部を被包した大網内や肝下面にだけ小さな点状high echoとして描出
☆下部消化管(大腸)の穿孔も同様に。ただし、大腸疾患で腹水を見たら穿孔を強く疑うこと

◆虚血性大腸炎◆
☆便がつかえた時に起きる
☆横行結腸や下行結腸が好発部位
☆多くは便秘→激しい下腹部痛→排便→下痢→血便
☆便が出ていない時の超音波検査では壁肥厚が出現していないことあり
☆下痢となって痛みが薄らいだ頃から壁肥厚が出てくる
☆繰り返しだが、大腸疾患で腹水出たら要注意!
☆超音波像は、病変部の著明な肥厚・比較的なだらかな潰瘍面をかたどるようにhigh echo点がみられる、というのが特徴
☆壁の内部エコーが多彩。壁の層構造が消失するとより重症。内部エコーの所々にlow echoの強いところが散在している像は、壁内の血腫を示す



 文字だけだとイメージが掴めないので、ぜひ消化管エコーの本を読んでみて下さい。そしてどんどん消化管エコーを実践しましょう!

 もし消化管エコーをしたことがなくて、救急外来でイレウスの患者さんがいたら、プローブを当ててみて下さい。威力が分かるはずです。肺エコーの時にも述べましたが、まずは病態が分かっている患者さんから学びましょう。自分も最初はイレウス、胃潰瘍、十二指腸潰瘍穿孔のそれぞれkeyboard sign、high echoを伴う陥凹、肝表面free airというエコー像を確定診断のついている患者さんから学びました。

 消化管エコーの本は「消化管エコーの診かた・考え方」「新超音波検査消化管」の2冊を使いました。教えてくれる上級医がいなかったので辛いところでしたが。


消化管エコーの診かた・考えかた消化管エコーの診かた・考えかた
(2004/04)
湯浅 肇、井出 満 他

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新超音波検査消化管新超音波検査消化管
(2006/05)
関根 智紀

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2011
04.05

診断への絵合わせ~研修医のOSとして~

 1年次が新たに入ってきました。少し前に昨年度の1年次に渡した診断学のプリントを、ここでも挙げておきます。

 以前に挙げた物をもう少しわかりやすくした感じ。言っていることはほぼ同じです。

 前にも記載しましたが、研修医に成り立ての頃は、全く新品のパソコンと同じで、OSが入っていません。OSがないとパソコンは作動せず、研修医は診断にたどり着く術を知りません。自分が挙げているのはOSの1つです。他にも色んなOSがあると思います。まだ診断の枠組みが定まっておらず、何となくこなしている研修医の方々や、研修医に成りたての方々は、少し眺めてみて下さい。なるほどなーと思ってくれたのなら、これを自分の研修医としての初期OSとして採用してもらえればと思います。なんのこっちゃと思ったら、たぶんこの考え方は合わないのかもしれません。その時は無理にこれをOSにする必要はありません。自分に合って、かつ臨床的に有用な考え方が一番です。

 なお、各確率の名称と脳卒中の選択肢にいては、池田正行先生のサイトから頂きました。



追加:何回かに分けて記事にしたものを作りました。医学一般のカテゴリからお入り下さい。




*1年次用資料

 事前確率、事前確率と口を酸っぱくして言ってきましたが、漠然として分からないこともあったかと思います。もう少し詳しく、診断へ至る確率を考えてみます。診断というのは、患者が言葉や所見で表現する疾患の「顔」と、我々の知っている鑑別疾患の「顔」とを照らし合わせて、誰の顔が一番近いか?を判断することと言っても良いでしょう。同じ胸痛という主訴でも、心筋梗塞の持つ顔と帯状疱疹の持つ顔は全く異なります。それぞれの顔を知っていれば、患者の持っている疾患の顔にどちらが近いかが分かり、鑑別の順位を付けることが出来るのです。ほぼ同様の内容ですが、概論や尤度比などは以前配布したプリントを参照して下さい。

★それぞれに、確率
 原則として、診断は

主訴→病歴→診察→検査→…

という一連の流れで行われます。そして"それぞれにおいて"確率(顔の特徴)が存在しているのです。そこを意識して鑑別の順位を変えていくことが大事。

 確率と言っても具体的に何%というところまで要求はされていません。感覚的に、高~低のどの辺に位置しているかを意識しましょう。今回はこれを、語弊があるかもしれませんが、確率と呼ばせてもらいます。ただ、感覚的にとは言ってもこの位置づけはきちんとした知識に立脚するものでなければいけません。詰め方が甘いと、鑑別の順位が異なってきたり重要な疾患を挙げていなかったりといった事態が生じます。最初でコケると後で挽回するのは大変。研修医同士で鑑別順位を挙げてその根拠を述べ合う(できれば誰かアドバイザーを立てて)、というのが勉強になるので是非トライしてみて下さい。

 さて、確率を分けると、以下のようになります。

主訴

↓←病歴前確率

病歴

↓←病歴後(診察前)確率

診察

↓←診察後(検査前)確率

検査

↓←検査後確率

...

*病歴前確率
 脳卒中は、どちら?

1. 81歳男性、昏睡
2. 18歳女性、昏睡

 このように、年齢・性差・既往歴・薬剤歴といった、病歴を患者から聞く前に得られる情報(患者背景)があります。主訴とこれらの因子を組み合わせることで、患者のもつ疾患の顔が、そこからぼんやりと得られ、ある程度のアタリを付けることが可能です。年齢は主訴から浮かんだ複数の鑑別疾患の可能性を大まかに分類してくれます。既往歴や薬剤歴はその患者さん特異的な疾患を想定するポイントとなります。ACEI服用中患者の咳、開腹手術歴のある患者の腹痛などは好例と言えますね。

 待合室にいる時や診察室に入ってくる時の患者さんの様子、顔つきなどもこの患者背景に含まれます。

*病歴後(診察前)確率
 脳卒中は、どちら?

1. 65歳男性、今朝起床時に左の手足に力が入らない
2. 65歳男性、半年前から両手に力が入らない

 病歴はもっとも大事。ここにおいては、OPQRST(★補足参照)などのゴロに従って、適切な病歴をとります。先程の病歴前確率も考慮に入れて行いましょう。適切な病歴というのは、複数ある鑑別疾患の顔を意識して聞くことです。漫然と思いついたことを聞くことは、極めて質の低い病歴になってしまいます。そのためにも、主訴を呈する鑑別疾患、広く構えるなら鑑別臓器を挙げられるようにしなければなりません。

 鑑別から外しやすくなってしまうのは、一見すると主訴からイメージしづらい臓器の疾患。例えば、嘔気嘔吐という主訴からは消化管や頭と考えるのは自然の流れ。しかし、心臓(心筋梗塞)、腎臓(腎盂腎炎)、DKAなどはふっと忘れてしまうことがあります。こういった、離れた臓器は意識して覚えておくことが肝要です。

 さて、鑑別疾患を想定できても、その疾患の持つ顔を知っておかなければいけません。咳の鑑別に副鼻腔炎があることを意識できても、副鼻腔炎はどういった振る舞いをするのか(どういう顔をしているのか)を知らなければ、質の良い病歴をとることは不可能です。鑑別となる疾患のOPQRSTを予め知っておけば、それに従って病歴をとることが出来るのです。

 「患者は答えを知っている」とは良く言われます。確かにその通りで疑う余地はありません。しかし、全ての答えを患者が自発的に答えてくれるわけではないのもまた事実。患者は不十分な答えしか我々の前に出さないのです。こちらの聞き方によっては、間違った答えを示してしまうこともあります。より完全に近い答えにするには、こちらから適切に聞いていかなければならないのです。何を聞くか、というのは、鑑別疾患の呈する典型的/非典型的なプレゼンテーション、つまりは顔を知っておく。知らなければ聞くことは出来ません。患者は「眉はこんな形で、髪型は…」と疾患の顔を述べます。我々は、複数ある鑑別疾患の顔を知っておく必要があります。その顔は、それぞれの疾患において特徴的です。例えるならば「ほくろはありましたか?あれば顔のどこですか?眼は一重ですか二重ですか?」こう聞くことで、疾患の顔をより細部にわたり想像できるのです。病歴の段階でどんな顔をしているかを、患者から出来るだけ聞いておきます。

 例えるなら、"同期の研修医"という括りの中でも、当然なことに研修医は1人1人異なる顔をしています。鑑別疾患も同じことなのです。

 余談になりますが、特に神経変性疾患というのは病歴で顔を絞り込むことが出来ます。例えば、転ぶという1つの症状を取り上げても、パーキンソン病では足が出ずに棒のように倒れ、ふらつきません。脊髄小脳変性症では倒れる前から足を広げており、足も出ますがふらついて倒れます。筋萎縮性側索硬化症では倒れる前に疲れてしまいます。この様に、各疾患で顔の特徴が異なります。我々は、その特徴をしっかりと押さえて患者から疾患がどういう顔をしているのか引き出すのです。

*診察後(検査前)確率
 病歴の段階で、ある程度の確率の意識(疾患の顔の想定)はなされています。それを補強するための診察。ここでは、我々の行う診察がどの程度の意義があるのかを考えましょう。例を挙げると

1. 頻尿・排尿時痛・発熱の女性患者:CVA tendernessが陰性なので腎盂腎炎ではないだろう
2. 心雑音・発熱・腰痛の患者:Janeway lesionがないので感染性心内膜炎ではないだろう
3. 頭位変換で誘発される回転性めまいの患者:Dix-Hallpikeが陰性なのでBPPVではないだろう
4. 咳と労作性呼吸困難の高齢患者:S3が聴こえたので心不全だろう
5. 長年の喫煙歴のある高齢患者の腹痛:腹部血管雑音が聴こえないのでAAAではないだろう
6. ふらついて歩けない高齢患者:指鼻試験と回内回外試験と膝踵試験が陰性なので小脳梗塞ではないだろう
7. 陰嚢痛の男性患者:Prehn徴候が陽性なので精巣捻転だろう
8. 腹痛の患者:触ってもお腹が柔らかいので腹膜炎ではないだろう

 これらの中で正しいのはどれでしょう?

 診察の意義を知らなければ、疾患の顔の再現がミスリードされてしまいます。
また、診察は施行者によりバラつきがあることも意識しましょう。

*検査後確率
 無駄な検査はしない。何故この検査をするのか、しないのかをはっきりと意識しましょう。そして、検査の意義も診察と同様に捉えておくことが肝心です。

 腹部単純レントゲンはイレウスの簡単なスクリーニング程度にしかなりません。良く言われるレントゲンでの便秘も、LR+が2に満たないとされています。

 実際に我々が体験するように、胸部単純レントゲンで肺炎が見えないことも多いです。特に脱水、高齢者、免疫抑制患者はその傾向が強いと言われます。

 心筋梗塞疑いの患者で頻用されるTrop-Tですが、発症6時間(特に3時間)に満たない段階での陰性で安心は出来ません。

 多くの検査は、病歴と診察で得た鑑別疾患の確率の確認です。

 ただし免疫抑制患者や高齢者などではそれらで顔を描きにくいため(症状や所見に乏しいため)、検査は必要となってくることが多いです。また、疾患によってはそれらで十分に絞り込めないこともあるため、検査が突破口になることも知っておく必要があります。好例としては、胆管炎やDKA、低血糖などが経験されると思います。

 また、診察と同様に検査にも施行者でバラつきがあります。画像の読影やエコーなどは研修医の間においてすら差が出てくる項目です。

★確率を意識した勉強を
 以上のように、患者の疾患が持つ顔と、我々が挙げる複数の鑑別疾患の顔とを見比べて、どの顔が患者の疾患の顔とより近いかで診断します。そのためには、どんな顔かをより詳細に聞かなければなりません。そのためには

1. 鑑別疾患を挙げられるようにする
2. 鑑別疾患の症状、自然経過を覚える

 地味ですが、これが大事です。それによって、患者に聞くことが整理されて現病歴がスッキリとしてきます。その上で、どの様な病歴・診察・検査がRule in/outに向かうのかというものを知識として蓄えましょう。

★補足
O:Onset
P:Provocative/Palliative(/Past)
Q:Quality
R:Region
S:associated Symptoms
T:Time course

 これらの項目を意識した視点で、鑑別疾患の持つ顔を整理してみましょう。

★推薦図書
病歴前確率:診察エッセンシャルズ、Symptom to diagnosis(考える技術)、Step Beyond Resident、がん患者の感染症診療マニュアル
診察前確率:診察エッセンシャルズ、Symptom to diagnosis(考える技術)、Rational Clinical Examination(論理的診察の技術)、The Patient History(聞く技術)、Step Beyond Resident
検査前確率:診察エッセンシャルズ、Symptom to diagnosis(考える技術)、Rational Clinical Examination(論理的診察の技術)、Evidence Based Physical Diagnosis(マクギーの身体診察学)、Step Beyond Resident
検査後確率:Symptom to diagnosis(考える技術)、Step Beyond Resident

★Clinical Pearls
 知っておくと役に立つ、ちょっとした臨床の知識。有名なものや自分が聞いたものを紹介します。

He who studies medicine without books sails an uncharted sea, but he who studies medicine without patients does not go to sea at all.
 患者を診ずに本だけで勉強するのはまったく航海に出ないに等しいと言えるが、本を読まずに疾病の現象を学ぶのは海図を持たずに航海するに等しい(その通り、の格言。患者のために、本で勉強すること、そして実際に経験すること。その両方が大事。Osler先生の有難い教え)

Listen to the patient, he is telling you the diagnosis.
 患者の声に耳を傾けろ。診断はそこにある(病歴聴取が如何に重要か。これもOsler先生。しかし、ただ聞くだけのListenではなく、こちらからもどんどん聞いていく姿勢が大切)

A stroke is never a stroke until it has received 50 of D50.
 脳卒中と思われる患者では、50%ブドウ糖液を50mL静脈投与するまで脳卒中と診断できない(Tierney先生の作った最も有名なPearlであり、救急外来では忘れていけないもの。低血糖は脳卒中の常なる対抗馬であるため。血圧も高くなり、まさに脳卒中症状を呈する事が多い。片麻痺、瞳孔不同なども出現しうる。いわんや意識障害をや)

Once an osteo, always an osteo.
 一度でも骨髄炎を発症した患者をみたら、常に骨髄炎を疑え(再発が異様なまでに多い)

Always remember PE in unexplained ↓SpO2
 説明のつかないSpO2低下は、肺塞栓を忘れるな(まさにそのまま)

Abdominal pain following vomiting doesn’t suggest appendicitis.
 嘔吐の先行する腹痛は虫垂炎ではない(虫垂炎の典型的なヒストリーから大きく外れるため)

Never forget appendicitis in any type of abdominal pain.
 どんな腹痛でも虫垂炎を忘れるな(虫垂炎は実に様々なプレゼンテーションをする。非典型例が実に多いというのが特徴。でもさすがに嘔吐が先行すると虫垂炎の確率は極めて低くなる…)

In a severe sore throat with a normal pharyngeal exam, call ENT; the diagnosis is epiglottitis.
 咽頭と扁桃の所見が正常で喉の強い痛みを訴える患者を診たら、耳鼻科医を呼びなさい。診断は喉頭蓋炎である(喉頭蓋炎は喉頭蓋の炎症であるため、喉を覗いても正常であることがほとんど)

Hyperventilation is Demon.
 過換気は悪魔である(軽く見ると頭蓋内出血や心筋梗塞など重篤な疾患を見逃す。過換気になる前の症状などに注目を)

Always remember vasculitis in unexplained numbness.
 説明のつかないしびれでは、血管炎を忘れるな(救急外来では血管炎を診断する必要はないが、有名なPearlなので掲載)

ショックの患者で手足が冷たければ頚から上は忘れろ
(血圧が低いことは頭蓋内疾患の可能性を低くする。cold shockでは尚更)

患者の胃痛・胸やけは心臓だ
(患者の言う主訴は適切な医学的主訴に置き換えること。胃痛は心窩部痛であるためACSは必ず考慮。胸やけは、否定されるまではACSと考える)

患者のふるえは医者のふるえ
(毛布をかぶっても治まらないようなふるえは、敗血症を強く示唆する)

女性を見たら妊娠と思え
(いささか差別的だが。。。女性の腹痛では、出来るだけ妊娠反応を。可能性はないと答えても裏切られることは、救急外来では経験する。また、妊娠の質問をする時は失礼のないように。)

CTは死のトンネル
(バイタルが安全域でない限り、CTへは行かない。CT中は医療者が介入できない状態である。)

頻呼吸の腹痛は気を引き締めろ
(頻呼吸であることは、腹部疾患でも膵炎などの横隔膜近辺の病変や穿孔や破裂で腹水が発生して横隔膜を刺激しているかも。またDKAなどの腹部疾患以外を想定するヒントにもなる)

研修医の「胃腸炎」はred flag!
(胃腸炎はゴミ箱診断。除外の上に成り立つものという意識を常に持つこと)


 こんな感じ。研修医のための診断学入門(あくまでも研修医用です)として、以前の資料と併せてご活用下さい。
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2011
04.02

青空の、さよなら

Category: ★研修医生活
 さよならは別れの言葉じゃなくて、再び会うまでの遠い約束

という一節が、どこぞの歌にあります。

 4月になったと言うことは、これまでの研修医生活とお別れということ。

 みんな荷物を整理して、一人、また一人といなくなった研修医室。最後に自分が出て行って、鍵を閉める。人と本のないそのお部屋。それは最初にそこを見た時と同じ風景。会う時と別れる時とで景色が同じなんて、当然だけど不思議な感覚。

 悲しみ、なんてのはなくて。でもどこか空っぽな感じが心にあって。研修医室と同じ様な。

 2年間一緒の仲間がいなくなる。さよならなんて、寂しい言葉。あんまり言いたくない言葉かもしれない。

 でも、そうじゃなくて。

 遠いものだけど、また会うための約束だから。だから、さよなら。


と感慨にふける余裕なんてなくてですね、さっそく4/1から精神科がスタートしました。といっても4/8までガイダンスというゆっくりスタート。でも名札に付いていた「研修医」が「精神科 医師」てのに変わると、ずっしりとこれまでと違う責任感が出てきます。しっかりやらんとね。

 記事内容も少し変わってくるかと思います。でも精神科についてアレコレ言える知識もないので、そんなに変わらないかしら。

 しっかし、真面目な文書くと疲れるな。。。

 そう、4/1の朝は、すっごくキレイな、カーンと響いて透き通る様な青空でした。


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