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2019
10.20

神経梅毒について

 NEJMに神経梅毒のレビューが出ていました。精神科領域でもまだまだ精神症状の鑑別疾患に挙げられており、最近は日本でも感染者が増加しています。自分は「これは精神疾患ぽくないぞ」と思って梅毒検査をしたら見事陽性になった患者さんを覚えています。病歴からは心因とも言えそうだったのですが、症状そのものがどことなく「何か変だな…」という、言葉にしづらい違和感がありました。深刻味がないというか、悩みが強くないというか、どことなく他人事のような感じだったのです。心因であればもっと患者さん自身が強く悩むはずのことなのに、どこか感心が薄くて、とても奇妙でした。それが「器質っぽいなぁ」と思ったきっかけ。もちろん全員がそうではないのでしょうけれども、その患者さんのことが記憶に残っています。

 このレビューについて、全文の訳ではなくまとめとして以下に。

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Neurosyphilis. N Engl J Med. 2019 Oct 3;381(14):1358-1363. PMID: 31577877

●はじめに
 1期や2期の梅毒は2000年以降のアメリカで毎年増加傾向にあり、2017年は100000人中9.5人の割合となりました。神経梅毒は200年にわたって神経内科と精神科の分野で問題となる疾患でした。ただし、現代では数が少ないため、見過ごされる傾向にあります。神経梅毒はペニシリンが導入される前の時代と比較すれば稀ですが、臨床的に梅毒と診断される状態、もしくは眼科病変のある状態の患者さんの3.5%には、CSFの検査では神経梅毒が見られるとされます。また、初期梅毒の半数はHIVにも感染しており、その共感染の患者さんでは神経梅毒が2倍ほど多いとも言われます。

●症状など
 神経梅毒による症状と、1期~3期との関連については図1に示されています。最初の感染後数日以内に、トレポネーマは神経系に入り込み、神経梅毒は無症候性か症候性か、そして初期(最初の感染から1~2年後)か晩期に分類されます。晩期には進行麻痺や脊髄癆が含まれます。

図1

 神経梅毒に関する情報はペニシリン導入前に多くが語られています。ただし、HIVの共感染がある場合は神経学的な特徴がより早く出現する可能性があるということが、1990年前後から指摘されてきています。
 初期の神経梅毒はたいてい無症候性髄膜炎であり、CSF中の細胞反応のみです。しかし、頭痛、髄膜症、脳神経の麻痺、失明や難聴といった症状を認める場合もあります。南アフリカで行われた試験では、無菌性髄膜炎と診断された患者さんの3.3%は梅毒によるものでした。髄膜血管型梅毒は中枢神経系における小~中サイズの動脈の炎症がある髄膜炎であり、脳卒中や様々なタイプのミエロパシーを起こします。髄膜血管型梅毒はたいてい初期から晩期に一時的に出現し、典型的には最初の感染から1~10年で起こります。
 晩期の症候性神経梅毒は最初の感染から数十年で進展しますが、ペニシリン導入前は10~20%に見られていました。典型的なものは進行麻痺と脊髄癆です。両者ともスピロヘータの侵入に対する慢性的な反応と神経組織の破壊によるものであり、髄膜血管病変のために生じる脳梗塞も認めることがあります(表1)。

表1

 進行麻痺は狂気の概念を変えました。それは種々の精神疾患と同様の症状をもたらす構造的な脳の障害だったのです。誇大妄想を伴い、前頭葉と側頭葉が障害される認知症なのです。言葉も途絶や反復のパターンとなります。治療されずにいた場合、精神と身体の統制が取れなくなり、けいれんをよく伴います。現代では、進行麻痺は精神病状態、抑うつ状態、人格変化、特異的な徴候なく進展する認知症が特徴であり、時折華々しい妄想を伴います。
 脊髄癆はRomberg徴候を伴う歩行性の運動失調が特徴であり、ほとんどの場合、Argyll Robertson pupilsを伴います。歩行はstamp and stickと言われ、その音とリズムが特徴でしたが、今では糖尿病性ニューロパシーや多発性硬化症で見られることがより多くなっています。Charcot関節についても同様です。腹部や四肢の刺すような痛みは緊急手術を要する疾患と間違われます。原因は不明ですが、脊髄癆は進行麻痺よりも珍しいものとなってきています。

●診断は?
 診断は、血清やCSFの血清学的検査やCSF中の白血球数や蛋白の上昇によります。しかし、これらは不完全であり、ベンチマークとなりません。神経梅毒に対する血清学的検査はVDRLやRPRやトレポネーマ抗原を用いたFTA-ABSなどがあります。神経梅毒はたいていCSFの細胞数増加を伴い、これは数十年で減少していきます(表1)。そして、蛋白の軽度な上昇も認めます。HIV関連性髄膜炎の存在のため、細胞数増加はHIV感染のない患者さんよりもある患者さん、中でもHIV治療を受けていない患者さんや末梢血CD4+T細胞が多い患者さんでは特異度が低くなります。
 血清のVDRLやRPRは2期を過ぎてもほぼ全ての患者さんで陽性となりますが、晩期の神経梅毒では陰性になり、特に治療後では顕著です。CSFのVDRLは神経梅毒に特異的ですが、感度は30~70%しかありません。CSFのRPRは偽陰性がやや高くなります。神経梅毒を疑うような症状があるにもかかわらずCSFのVDRLが陰性であれば、CSF中のトレポネーマ抗原を用いた検査をすべきでしょう。諸検査の感度や特異度は表2に示されています。血清やCSF中のトレポネーマ抗原を用いた検査は未治療の場合は終生陽性となります。しかし、CSFの検査は合併症のない梅毒を治療した後、最大15%の患者さんで年余にわたり陰性となります。CSFのFTA-ABSは、血液のコンタミで赤血球が1000/mm3を超えていれば偽陽性となることがあります。

表2

 臨床的には、症候性の神経梅毒の診断は血清FTA-ABSが陽性(既感染を示唆)かつCSFのVDRLが陽性(神経梅毒を示唆)をもってなされます。CSFのトレポネーマ抗原を用いた検査が陰性であれば、無症候性の神経梅毒を除外でき、症候性の可能性も押し下げます。しかし、特に神経梅毒に一致するような症状がある場合には、決定打とはなりません。アメリカでは神経梅毒を含めた梅毒感染者に対してはHIV感染の検査が勧められています。

●CSF検査について
 血清中の検査が陽性であり神経梅毒に一致するような症状がある場合、CSFの検査が推奨されます。CSF中の白血球数を追うことで治療の妥当性がわかり、細胞数増加が6ヶ月以内に抑えられない場合、また治療後2年で駆逐できなければ、再治療が示唆されます。ある研究では、血清RPR力価が4倍にまで低下するか、または陰性になった場合、CSFの再検査は不要と指摘されています。しかし、私たちは細胞数が駆逐されるまでCSFの検査を行なっています。神経学的に無症候性の神経梅毒患者さんでHIVの共感染がある場合においても、十分な治療を行なった後に繰り返しCSFの検査を行うことの有用性は不明です。認知症に対し梅毒のCSF検査をルーチンで行なうことは勧められていませんが、HIB感染など梅毒のリスクがあれば、検査は適切かもしれません。

●治療
 過去50年で進行麻痺が稀になってきており、これは初期の梅毒治療が神経梅毒への進展を防いでいることを示しています。ペニシリンの非経口投与は神経梅毒のすべての病態に有効です。アメリカ、イギリス、EUのガイドラインは若干異なっています(表3)。歴史的な経験から、ペニシリンは晩期神経梅毒を改善させはしないけれどもその進展を食い止めるであろうことが分かっています。

表3

 ペニシリンアレルギーの場合は、皮内テストと脱感作が推奨されます。エビデンスは限られていますが、セフトリアキソン、テトラサイクリン、ドキシサイクリンが神経梅毒の治療に有効です。しかし、ペニシリンが強く推奨されます。

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ということでした。今回のレビューは簡潔にまとまっていると思います。多彩な症状を呈し、あのオスラーをして「the great imitator」「He who knows syphilis, knows medicine.」と言わしめた梅毒。疑わなければ診断できない疾患の代表格とも言えるでしょう。個人的に、このレビューにはもう少し精神症状に突っ込んだところが欲しかったのですが、それは精神科医だからですね…。
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2019
10.13

遠慮による過大評価?

 慢性疼痛の患者さんで、他院に紹介して認知行動療法(CBT)を受けてもらった人がいます。その人曰く「私には合わなかったかなぁ」と。小グループで行なうタイプのCBTで、同じグループにはその治療法が合う人もいたようです。

 薬剤治療も例外ではありません。どんな治療法も合う合わないってどうしてもありますね…。そして、その患者さんから聞いたのですが



「カウンセリングの先生(ここではCBTの施行者)が頑張ってるから、良くなってないって言いにくかった」



 とのこと。あ~、なるほど。それはあるかもしれないなぁ…。いわゆる忖度ってやつでしょうか。そこで、他にもCBTを受けてもらっている患者さんにちょっと聞いてみたのですが、「やっぱり言いにくい」というお返事。施行者と評価者は別々になっている病院で受けてもらっている患者さんもいますが、そこでも「先生の悪口を言っているみたいで、やっぱり効かなかったって言えません」というお返事でした(CBTを否定しているわけでは決してありませんので誤解なきよう!)。

 これはCBTに限ったことではなく、私たちの普段の臨床でもそうですよね。医者が一生懸命やっている(ように見える)ので、この薬剤が効かなかったと言えず、「ちょっと良い感じです」と答えることも十分にありえます。で、医者は「やっぱりこの薬は効くなぁ」と思い込んでしまう。患者さんが素直に言えない環境にしてしまっていないか?というのは考えねばなりません。

 ただ、臨床試験でそれがあってはマズイ。そこで行われるのが二重盲検です。2つの治療法のうち、患者さんも治療者も(評価者も)どっちで行なっているか分からないようにするというもの。

 薬剤治療では、実薬による治療と、それと色も形も同じであるプラセボによる治療を準備できるため、二重盲検にすれば患者さんも治療者もどれが実薬でどれがプラセボか分かりません。かつ評価者を中央で行えば完璧。漢方薬は、色や形の他にニオイを似せなければならないみたいで、大変だそうです。特に漢方薬はプラセボ効果が出やすいので、実薬のみの試験はあまり参考にならないことが多くて多くて…。まぁ、プラセボ効果も含めての臨床ではありますが。

 いっぽう、CBTを始めとした心理療法では二重盲検というわけにはいかない。”通常治療群 対 CBT”になるのです。患者さんがどちらを受けているかは一目瞭然であり、それは治療者もそうです。これは当たり前ですよね。そこで、その治療の効果がどんなものかを確かめるための評価者を別の人にすること、つまりはPROBE法を採用することで余計な肩入れを少なくするのですが、通常治療とCBTのどちらを受けているか患者さん自身が分かっているので(ここが薬剤治療で可能な厳密な二重盲検と異なる)、全員とは言わないまでも相当数が気を遣って”ちょっと上乗せして答えてしまう”ことも考えられます(ここは実体験からの憶測です)。やはり別の人に対してであっても、治療者のことを悪く言う(効果がなかったと言う)のははばかられる。特に心理療法は1回に50分くらいかけるので、やはりその時間で「一生懸命やっているしなぁ」という気遣いが生まれやすい(繰り返しですが、CBTを否定しているわけではないですよ!)。かつ、精神疾患の評価項目は検査値や画像ではないので、患者さんと治療者の主観がどうしても入ります。このような項目はPROBE法に向かないですね。

 心理療法の試験ってとても難しいと思います。薬剤と違って完全なプラセボを生み出せないのですから。しかも新しい治療法だと相当な期待もあるため、効果をより感じてしまう、かつ効果がなかったと言いにくくなる、ということもあります。薬剤も新薬ってすごく”効く”のですが、時がたつにつれて”新薬”というレッテルが剥がされていくと、その効果(プラセボ効果)は弱くなります。心理療法に関しては「薬を使わない方法がある!?」や「テレビで紹介されていた!」や「精神科は話を聞かないけどこれは50分も!?」という期待感が強くなるでしょう。

 心理療法で話題の治療法といえば、スキーマ療法でしょうか。日本でも2019年9月現在、慢性うつ病を対象として治験患者さんを集めていますが、以下の要領になっています。


スキーマ療法群:臨床心理士による個人セッションであるスキーマ療法を実施する。介入期間は2年間であり,2週に1回50分のセッションを最大48回実施する。

対照群:臨床心理士による電話モニタリングを実施する。介入期間は2年間であり,1か月に1回10分のセッションを最大24回実施する。


 どうでしょうか。時間だけを見ても、2週に1回50分と1か月に1回10分(かつ電話)という違いがあります。まだ試験は行われていませんが、結果はスキーマ療法の勝利であることは明らかでしょう。新しい治療法という期待感、そして圧倒的な時間のかけ方の違い。時間だけを取り上げて意地悪な言い方をすると

・2週に1回と1か月(4週)に1回なので、その時点で2倍
・1回50分と1回10分なので、その時点で5倍
→合わせて10倍だから…


電話モニタリングの10倍の効果があったら勝ちかな!(超意地悪)

  
 これは冗談ですけどね…(冗談ですよ!)。とはいえ、なかなか心理療法って評価が難しいなぁと思います。患者さんがどちらを受けているか分かってしまう、治療者ももちろん分かるという大前提。評価者を別にしても、評価項目の関係で大きな限界があるような気がします。もちろん薬剤であっても二重盲検化されなければ同様のことが言えるのは先述の通りですが、臨床試験の場では、二重盲検できるという設定を考えると薬剤は心理療法よりも厳密に比較可能であるというところはもっと注目されて良いかも?

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 ちなみにですが、うつ病に対するCBTの効果というのが、導入された1977年から時代が経つにつれ、だんだん落ちてきているという報告があるのです(Psychol Bull. 2015 Jul;141(4):747-68. PMID: 25961373 その修正→Psychol Bull. 2016 Mar;142(3):290. PMID: 26890388)。これってなかなか面白いですね。うつ病という疾患そのものが広がったという点や、様々なウデの治療者が増えたという点もあるでしょうし、あとは上述のように、”新しい治療法”から”一般的な治療法”になったというのも大きいかも知れません(日本ではまだ浸透していませんが)。新鮮味がなくなったので、患者さんの期待が薄まって効果が低くなってしまった、とか。ただ、その論文に対する反論もあり、さらにそれへの反論があって、雑誌上で白熱した戦いが繰り広げられていました。ドキドキ。

 で、何度も繰り返していますが、CBTを貶めようとしているわけではありません! ちょっと意地悪な記載だったので、誤解してしまったかたがいるかもしれませんが、決してそのような意図はありません。何ならホラ、自分もCBT勉強してるし、うん。
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2019
10.07

ゆるーいつながり

 患者さんから相談をされました。

「今度結婚する予定の人に、前の彼氏(もしくは旦那)の子どもがいて、僕はぜんぜん良いんですけど親が認めないんです。相手の親は娘を頼んだと言ってくれているんですけど…」

 よくあるパターン、だと思います。これまでに何度かそういう話を受けたことがあります。親御さんも自分の子どもが大事だから、色々と言いたくなるのでしょう。でも結婚する当の本人としては、それが束縛にも感じられるでしょう。

 今の若い人は、”実の子じゃない”というところへの気がかりが少なくなったような気がします。昔は「血がつながっていない子どもなんて…!」という考えの人のほうが多かったような?

 個人的には、”血のつながり(ここでは”親子・兄弟”を指します)”っていうのは一種の呪縛のようにも感じられて、「血縁なんて別にええやんか」という気持ち。でもそれを他人に押し付けるのも違うでしょう。それぞれの考えがあり、いずれを強要しても良くない。あくまでも自分の意見です。

 その患者さんが「育てていく覚悟はある」「自分の子どもが生まれても差別はしない」と言っても、当の子どもが大きくなったら、その子が疑問に感じるかもしれません。すなわち、「ぼく/わたし は本当の子どもじゃないんだ」と。それへの回答を用意しておいた方が良いとは思います。

 「血はつながっていなくたって親子は親子、家族は家族なんだよ」と言っても良いでしょう。しかし、それ以前に”血のつながり”のなさに苦しむ人には



君のお父さんとお母さんだってDNAレベルでは赤の他人だよ



 ということを強調します。家族の最小単位のひとつである夫婦って、実はまさに他人同士! それを考えると、家族っていうのはそんなに強いつながりである必要はなく、ゆるーくて良いんじゃないかな?と思うのです。強いつながりは、時としてきつい縛りにもなり、それはこころに喰い込みとても痛いものです。

 例えば、30歳で男女が出会って、ふたりとも35歳で結婚したとします。そして、男女どちらかの不妊症のため40歳で5歳の養子を迎えたとしましょう。その養子が15歳になり、「私って両親の実の子じゃない…」ということで、自分の存在について悩みます。

 多感な時期であれば、そのように悩むのは当然。それは、日本では家族というのは”血でつながっていること”が前提だからなのです。

 そこで、よーく考えてみましょう。

 上記の両親って、出会うまでの30年間は一切の他人です。もちろん幼馴染とか学校が一緒だったなんてのはあったかもしれませんが、ずっと一緒に住んでいたとは考えにくい。一緒に住んでいなかった期間って、30年もあるのです。その両親の養子は、生まれてから5年後に一緒。一緒にいなかった期間はたった5年。何だ、両親の方が他人の期間が長いじゃないか! こんな考えもできます。これは時間的な視点ですね。しかし、自分の最も推したい点は



そもそも両親は血でつながっていない



 ということなのです…!

 だから、自分はその患者さんに対して、子どもがもしそういうことを聞いてきたら、こんな風に言ってみたら?とお伝えしました。


「君が血のつながりに苦しむ必要なんてないよ。だってお父さんとお母さんだって血でつながってないしね」


 もしDNAや遺伝子という言葉を知っていたら、「DNAから見たらお父さんとお母さんなんて、他人だよ、他人」と笑いながら言ってみてほしいのです。

 だから、その患者さん自身も「血がつながっていなくたって…!」と気負わなくても良いし、その子どもにも楽に生きていってほしいな、とも思います。しかも遺伝的にはバラエティに富んでいる方が生存には有利だしね。

 家族なんてそんなもんですよ。赤の他人同士が集まっていたって、それでゆるーくつながっていれば良いじゃないか。だから、最近の流行に乗るならば



目指すはラグビー日本代表!



 でしょう。違う国籍の人たちが一緒にプレーをし、それが大きな力となる。血どころか国レベルで違うのに、すごい。バラバラだけどまとまっているというのは、まさに家族の究極形態なのではないか!?と感じずにはいられません。

 患者さんにはそんなことをお話ししました。「あーそうか。そうっスよねぇ」と腑に落ちたようで何より。もちろん反対しているご両親の気持ちもわかるので、そこは焦って強行突破するのではなく、時間が必要でしょう。それを積み重ねたうえで、その家族(予定)には幸せに過ごしてほしいなと思います。子どもが悲しい思いをせずに、そして親も気負わず自然体でいられるように。
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2019
09.20

古い慣習っていうのはなかなか…

 今回は真面目路線でして、Annals of Internal Medicineのせん妄治療におけるEDITORIALを読んでみましょう。EDITORIALって書く人の意見がぐいぐいっと出ているので良い点もあれば悪い点もあるのですが、なにせ短くまとまっているので読みやすい。あとは面白いっていうのもあります。

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Marcantonio ER. Old Habits Die Hard: Antipsychotics for Treatment of Delirium. Ann Intern Med. 2019 Sep 3. [Epub ahead of print] PMID: 31476768


 私(このEDITORIALの著者)が内科レジデンシープログラムにいた30年前は、入院患者さん、特に高齢の患者さんが混乱状態になることは変なことではない、なって当たり前と教えられました。些細なことであり予後にも影響せず、ただただ厄介なものとして扱われていました。混乱状態になれば、ハロペリドール10mgという、”ビタミンH”が投与されたのでした。

 30年経ってどうでしょうか。今は急性の混乱状態はせん妄という病態であり、決して当たり前、正常のものではないということが分かっています。せん妄を同定する標準的な方法すら手にしていますが、それでも、半数以上は認識されないままとなっています。また、せん妄はコモンであり、入院中の高齢患者さんの1/3、そしてICU入院患者さんや緩和ケアの患者さんでは3/4が発症しています。重要なことに、せん妄は、転倒、身体機能の低下、認知機能低下、死亡などの院内合併症を含む短期かつ長期の有害な転帰の強力な予測因子なのです。さらには、せん妄は入院期間を延ばし、退院後の施設によるケアにつながってしまうため、アメリカの医療システムでは年間数十億ドルの費用を拠出することになります。注目すべきは、せん妄が予防可能であるということです。その方法は多岐にわたり、非薬剤的なアプローチなのです。

 こういった進歩があるにも関わらず、せん妄が起こると、私たちは未だに30年前と同じ治療をしがちです、そう、抗精神病薬です。この薬剤治療にも一定の進歩はありました。第一に、ハロペリドールに加えていくつかの第二世代の抗精神病薬が登場しています。これらは副作用プロフィールにおいてハロペリドールよりも優れています。第二に、副作用の発生について私たちはより気を配るようになりました。そのため、開始用量は低めに設定され、患者さんもより細やかにモニターされるようになっています。にもかかわらず、この30年で新しい効果的な治療は生まれておらず、抗精神病薬がいまだにせん妄治療に用いられています(しかも適応外で)。

 せん妄治療の臨床試験は困難を極めるものであり、この雑誌の今号にあるせん妄予防のシステマティックレビュー(Oh ES, Needham DM, Nikooie R, et al. Antipsychotics for preventing delirium in hospitalized adults. A systematic review. Ann Intern Med. 3 September 2019 [Epub ahead of print]. )で述べられている臨床試験よりも非常に難しいのです。まず、せん妄治療では(予防とは反対に)せん妄の患者さんを見つけて試験に組み入れねばなりません。ほとんどがルーティーンのケアでは見つからないので、積極的に探さねばならないのです。次に、せん妄患者さんは同意能力が落ちてしまっているため、試験の候補者を見つけてもそこから同意を得るのが難しい場合もあります。さらには、患者さんは重篤な状態であり、全員にフィットするような治療プロトコールを組むことも困難です。最後に、適切なアウトカムを設定するのも大変なのです。予防であれば、キーとなるアウトカムは明らかであり、それはせん妄の発症です。しかし、治療においては予防よりも明確ではありません。

 これらの難題はありますが、せん妄治療の文献、特に抗精神病薬のものがここ10年で増えてきました。かつ最も大規模な試験がこの2年で発表されています(Agar MR, Lawlor PG, Quinn S, et al. Efficacy of oral risperidone, haloperidol, or placebo for symptoms of delirium among patients in palliative care: a randomized clinical trial. JAMA Intern Med. 2017; 177:34-42.[PMID:27918778]  Girard TD, Exline MC, Carson SS, et al; MIND-USA Investigators. Haloperidol and ziprasidone for treatment of delirium in critical illness. N Engl J Med. 2018;379:2506-2516. [PMID: 30346242])。この雑誌の今号にあるせん妄治療におけるシステマティックレビュー(Nikooie R, Neufeld KJ, Oh ES, et al. Antipsychotics for treating delirium in hospitalized adults. A systematic review. Ann Intern Med. 3 September 2019 [Epub ahead of print].)には特徴がいくつかあります。まず、著者らは米国厚生省公衆衛生局保健政策調査課(AHRQ)の提唱する厳しい基準を使用したのです。そして、ランダム化試験(実薬対照とプラセボ対照を含む)と観察研究の双方を含んで解析しました。また、せん妄治療ではあいまいだった”重大なアウトカム”を定義したのです。それは、認知機能、せん妄の重症度、入院期間、抗精神病薬の不適切な継続、そして鎮静でした(せん妄の持続期間と死亡率は”その他のアウトカム”に含まれることになりました)。最後に、可能な場合はデータをプールしてメタ解析を行ないました。

 このシステマティックレビューでは何が分かったのでしょう? まず、16のランダム化試験と10の観察研究のみが基準を満たしました。その試験は非常に多様であり、患者さんはICUから緩和ケアまで多岐にわたり、投与された薬剤やアウトカムもバラバラでした。重大なアウトカムのいくつかにおいては、利用可能なエビデンスが得られませんでした。

 症状特異的なアウトカムであるせん妄の持続時間と重症度では、ハロペリドールまたは第二世代抗精神病薬とプラセボとの間に有意差はなかったのです。入院期間や死亡率も同様でした。ハロペリドールと第二世代抗精神病薬、そして第二世代抗精神病薬間においてもほとんど差は見られませんでした。これらの薬剤は患者さんを鎮静させるために用いるのですが、プラセボとの間でそれすら有意差が認められなかったのです。

 著者らは、治療グループ間でどのような違いを見出したのでしょう? それは主に副作用であり、抗精神病薬の治療によってQT延長が認められたのです。いっぽうで、錐体外路症状などの神経症状において有意差はありませんでした。また、誤嚥性肺炎など他の副作用は調べられていませんでした。

 著者らは、現時点のエビデンスでは、成人の入院患者さんのせん妄を抗精神病薬で治療することは支持されないと結論付け、さらなる研究を求めています。私はこの意見に賛成であり、これからの研究では優先順位を明確にすべきだと考えます。せん妄だからといって抗精神病薬をすぐに用いて治療するのは止めるべきです。これからは患者さんの状態や環境を考えるべきであり、それは抗精神病薬の利益が害を上回る時、例えば自傷他害の恐れのある患者さんをコントロールする場合や、非薬剤治療が十分に行なえない場合などに限って短期的に使用する時、なのです。こういった特殊な状況で、どの抗精神病薬が最も害の少ないもので、そして、どのように投与すべきなのかが探求されることになるでしょう。

 30年間、私たちを避けてきた実に大きな研究の優先事項があります。それは、短期そして長期のアウトカムを改善させるために、どのようにせん妄をマネジメントするか、です。これには、現在見過ごされている”静かなせん妄(低活動型せん妄)”の患者さんの多くが含まれます。これらの患者さんは、過活動型せん妄で興奮する患者さんと同様にアウトカムが良くありません。私の意見では、患者さん中心のバンドルアプローチが最も成功しそうです。それは、1)早期にせん妄を発見する、2)基礎的な原因を評価し対処する、3)合併症を予防する、4)機能的回復を促す、ということです。その方法が同定、標準化され、かつクオリティ高く、持続可能な方法で提供できることが、次世代のせん妄治療研究の主なフォーカスとなるはずです。

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 という内容でした。抗精神病薬って非難轟々なのですが、それでもせん妄にはながらく用いられていますね。スタッフの人手が足りず、薬剤の力を借りねばならない状況は多々あると思います。また、患者さんが点滴を抜いて辺り一面血みどろ、バルーンを抜いて尿道損傷、なんてこもあります…。転んで骨折でもしたらかなわないので(訴訟も多くて大変なのです)やむなく拘束をするとどんどん筋力も落ちて動かないからせん妄も良くならず認知機能も怪しくなって…、という泥沼化も。うーん。

 ここでは抗精神病薬が挙げられていましたが、日本では古来より(?)鎮静系の抗うつ薬、トラゾドンやミアンセリンなどが用いられていました。国際発信力のなさから世界的には話題にならず、ちょっと悲しい立場。と思っていたら、頑張っている人たちがいました(Wada K, Morita Y, Iwamoto T, et al. First- and second-line pharmacological treatment for delirium in general hospital setting-Retrospective analysis. Asian J Psychiatr. 2018 Feb;32:50-53. PMID: 29216606)。特にトラゾドンは使いやすく、抗精神病薬のような血栓リスクは恐らくないでしょう。ただQT延長はちらほら報告があります。抗精神病薬は明らかに高齢者では死亡リスクになると言われているので、それよりはまだそれが言われていない(はっきりと”無い”とは言えない)トラゾドンが相応の効果を持つのならば、選択肢でしょう。睡眠リズムが乱れそうな入院患者さんに(予防の祈りもこめて)使用するのはアリなのではないか?とも思います。ただ、低用量ではH1受容体阻害がメインなので、それによってせん妄リスクになるような気がしないでもないし、難しいですね。予防に関してはラメルテオンやスボレキサントがエビデンス的には一歩先を行っています。個人的には酸棗仁湯も良いんじゃないかなと思うのですが、どなたか試験を組んでくれませんかね…。

 最後に、これは言っておきたいのですが、精神科はせん妄を治療する科ではございません。よくコンサルトを受けますが、せん妄が治るには基礎疾患の治療と身体的な基盤の回復が欠かせません。基礎疾患が治らない状態でせん妄だけ治せと言われても、それは無理。一時的な興奮を抑える役割を担うのが精神科であり、主科と協同して患者さんをいい方向に促していきたいと思っております。
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2019
09.15

もう院内薬局?

 前に勤めていた名古屋大学医学部附属病院(名大病院)。今では通りすぎるだけとなりました。

 名大病院に限りませんが、大学病院や大きな総合病院の近くにはいわゆる”門前薬局”というのが立ち並んでいます。需要あるところに供給あり、の典型例というかなんと言うか。商魂たくましいですね。

 いくつもあって競合するんじゃなかろうかとヒヤヒヤしているのですが、幸い?なことに名大病院の門前薬局はいずれも潰れることなく営業しています。さすが大学病院。患者さんも多いのでしょうね。ちなみにいま勤務している病院の門前薬局はひとつだけなので、恐らく大繁盛しているはず。診察の待ち時間よりもお薬の待ち時間のほうが圧倒的に長いと患者さんからちくりと言われます(ま、自分に言われても困っちゃうのですが)。



しかし、そんな名大病院の門前薬局に激震が!



 なんと、2019年の秋に…


RIMG2259.jpg


 スギ薬局名古屋大学病院店が…!

 ていうかもうこれ名大病院の敷地内です。院内薬局だよなぁ。。。「なければつくる」というのがもはや煽り文句にしか聞こえません。こんなのが出来てしまったら、既存の門前薬局はどうなるのか…!

 他人事ながらドキドキしております。
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