2018
02.23

臨床のワンフレーズ(24):恩返しをしましょう

Category: ★精神科生活
 うつ病患者さんの休職については、患者さん自身が後ろめたさを持ってしまうことがあり、そこをうまくお話できればなぁと思っております。「私が休むとみんなに迷惑が…」「休むと会社が回らなくなります…」というのが多いですね。「あぁた一人休んだくらいでダメになる会社なんて、そもそも体制に無理があるんや」と言いたくなるのですが、さすがにそれを言っちゃあオシマイよ、ということで、こころの中でブレーキが働きます。精神科医の中には逆におどけて「へぇ!!君がいなけりゃ回らないだなんて、そんなにすごい実力があるの!?」と話す医者もいるみたいですが、まだ経験の豊かではない自分が言うとよろしくないだろうなぁと想像しています。

 患者さんの自尊心を傷つけずにどう休職を促すか、というのが精神科医のウデの見せどころ?かもしれません。これという正解は無いのだと思いますが、自分は以下のように言うことが多いと思います。

自分「今の○○さんの状態だと、ここはしっかりと休んだ方が良いんじゃないかなぁと私は思うんですけど」
患者さん「…でも、休むとみんなに迷惑がかかってしまうので」
自分「確かにそういうお気持ちは無理もないかと思います。そこで実際この1週間の調子を伺いましたが、頭がうまくまとまらなくて、お仕事をするのもつらい状態だと感じました。ですから、ここは休みましょう!そうすると回復も早くなって、結果的に早くお仕事がうまくできるようになると思いますよ」
患者さん「そうなんですか…」
自分「ここは撤退する勇気を持ちましょう。今は休むのが仕事とお考えください」
患者さん「はい…。分かりました」
自分「会社のかたに迷惑をかけているというお気持ちは確かにあるでしょう。ですから、良くなったら恩返しをしましょう。そのために今は休むことがとっても大事になりますから。急がば回れとも言いますし」
患者さん「はい…」

 生活が苦しくなるレベルのうつ病になると「迷惑をかけている」という気持ちから逃れられなくなります。そこはこちらがどう言っても患者さんに残るので、それはもう認証してしまったほうが良いでしょう。その上で、患者さんに出来ることは何かを示します。そのための言葉が「撤退する勇気を持ちましょう」と「休むのが仕事です」の2つ。微かでも良いので踏ん切りを持ってもらうために、撤退する勇気を持つようにとお伝え。そして、仕事への親和性が高くなっている状態には、休むことそれ自体が仕事だとお話しします。

 そして、迷惑をかけているという気持ちを利用 (?) して、「良くなったら恩返しをしましょう」と自分は言っています。迷惑をかけていると思っているのなら、その負い目があるのなら、改善した暁にはその恩を返そうではないか、という気持ち。

 そうすると患者さんは休職に少し前向きになってくれます。かつ、改善して復職するという時には「誰か他の社員がうつ病で苦しんでいたら、ぜひ助けてやってほしい。それはうつ病を経験したあなただからできることなのだ」ともお伝えします (恩返しの一部)。そうすることで、患者さんの役割、しかもその人にしかできない役割が生まれます。

 会社で頑張っていた患者さんがうつ病で休む時、そして会社に戻る時。この節目はとても大事にしたいところですね。今回のワンフレーズは "恩返し" の部分を取り上げましたが、"撤退する勇気" や "休むのが仕事"、そして "他の人が苦しんでいたら助けてやってください" というのもとても重要です。
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2018
02.07

臨床のワンフレーズ(23):ともにある

Category: ★精神科生活
 患者さんは症状へのとらわれが生じており、症状から脱しよう/症状を打ち消そうともがくことで更に症状を産み、それに苦しむというループにはまっています。これを何とかしたいなぁということで、色んなフレーズを使って新しい ”気づき” を患者さんに得てもらえるように自分は働きかけています。

 症状を見つめることができる、というのが目標で、お薬は症状を少し軽くして患者さんがそれと距離を持てるようにするために用います。”あばれ馬”を少々落ち着かせる様なイメージでしょうか。そうすると付き合いやすくなりますよね。決して症状をゼロにするために用いるわけじゃあないんです。でも一番苦しい時はやっぱり少しでも楽になりたいのが人情で、そんな時に「さあ症状を見つめましょう」と言われても「いや、ちょっとそんなのいいから…」となるでしょう。お薬はそういう時に役立つものですし、やっぱりこういうのはタイミングが重要。

 患者さんに上記の様なループを説明すると「気を逸らせばいいんですか?」「気にしないようにするのがいいんですか?」と質問を受けます。しかし、これも症状にとらわれていることになっているような気がします。往々にして、気を逸らそうとすると/気にしないようにすると、かえって気になるという結果になってしまいます。「気にしちゃいけない、気にしちゃいけない…」と思えば思うほど…、なのです。それらがすぐに成功していれば精神科の病院には来ていないわけで、受診しているということは、気を逸らそうとしてもダメだった、気にしないようにしてもダメだった、からでしょう。患者さんは手詰まりになり、受診という行為に至ります。もちろん、お薬で症状が軽くなって気を逸らせるようになったり気にしないようにできたりすることもあり、それはそれで良いことです。

 受診するまでに患者さんは様々なトライをしています。それが残念ながら功を奏さなかったので、病院に来る。となると、私たち精神科医としては、新しいものの見方に気づいてもらうことが一番の仕事になるでしょう。それが、症状と戦わずに見つめるという視点 (前述のように、その視点の提供にはタイミングがあります)。少し前の流行歌ではないですが、日本的な表現の ”ありのまま” ”あるがまま” を考えてもらうことになります。ちなみに、レリゴーさんが流行っちゃってから ”ありのまま” が使い古されて手垢にまみれ陳腐な感じがしてしまって、診察でこの言葉を出すことがなくなってしまいました…。むむむ。

 ということで、私たちは色んな物事や感情と ”ともにある” んだ、ということに気づいてくれないかなと思って診察をします。これまでのワンフレーズでもお伝えしたように、症状そのものは決して悪いものではない。それにとらわれなければ、症状は症状にならないと考えています。とらわれるからこそ、症状になりえる。症状と ”ともにある” 感覚を得てもらえれば、とらわれから少しずつ抜け出せるのかもしれません。少々宗教じみていて患者さんによっては「ん?」と思うかもしれませんが、自分は外来時間が少し余裕のある時、こんなエクササイズをすることもあります。

自分「○○さん、ちょっと眼を瞑ってみてください」
患者さん「こうですか?」
自分「そうですね。そうやって、少し静かに。沈黙の時間が流れるように」

・・・・しばし沈黙・・・・

自分「実は、色んな音が聞こえてきませんか?」
患者さん「そうですね、聞こえます」
自分「隣の診察室の声とか、パソコンの音もそうですね。あとどんな音がありますか?」
患者さん「外で車が走る音?」
自分「そうですね。音以外だと、例えば○○さんは呼吸をしているから、肺が膨らんでしぼむという感覚も」
患者さん「あ、そうですね。あります」
自分「もちろん診察室で眼を瞑って黙っているという少し不思議な感覚も」
患者さん「そうですね(笑)」
自分「ま、このくらいにしましょうか」
患者さん「はい」
自分「もっと長く続けていれば、同じ姿勢で座ってお尻や腰が痛くなる感覚も出てくるかもしれんですね」
患者さん「はい」
自分「で、何が言いたいかというと、私たちって色んな事とともにあるってことなんです。普段は気づいていないけれど、たくさんの事が起こっている」
患者さん「そうですねー」
自分「○○さんの感覚もそうですね。無数の身体の感覚やこころの感覚が起こっていて、それとともにある」
患者さん「はい」
自分「だから、○○さんの不安な感覚も、本来ならばともにあることだと思うんです」
患者さん「あー、なるほど…」
自分「でもいつの頃からか、それを否定して、とらわれてしまっている」
患者さん「うーん」
自分「ともにあることを振り払おうとしても、それは消え去りはしないんじゃないかしら」
患者さん「そっか…」
自分「そのとらわれをほぐして、不安とともにある、見つめることがとても自然なこと。そう思います」
患者さん「そうですね…。今まで不安を消そう消そうとしてました…」

 と、周囲の音から始まって、身体感覚や感情なども実は現在進行形で起こっていることであり、私たちと ”ともにある” ものだという気づきを実感してもらいます。それは自然なことであり、とらわれが生じると不自然になっていきます。症状それ自体は敵ではなく、ただただ ”ともにある” もの。それを確認してもらって、見つめる練習を少しずつ取り入れていく。すると、硬いとらわれが徐々に雪解けになっていくでしょう。決して一度ではうまくいきません。そんなに人間は器用ではないので、練習練習。1日に10分でも良いので、毎日練習してみるのが大切なのです。

 練習には、症状があるというのを認めたうえで行動をするというのも含まれますし、上記の様なエクササイズを自宅でやってもらうのも効果的だと思います。今ここでの世界の蠢きとともにある、そんな感覚を得てもらうのがポイントでしょうか。
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2017
12.28

臨床のワンフレーズ(22):医者は慎重派

Category: ★精神科生活
 統合失調症の患者さんは微分回路的認知を持っているなんて言われまして、ちょっとした変化を敏感に察知して行動に出ます。それによって、生活では転職を繰り返したり、いきなり留学してみたり。双極性障害の患者さんも転職や思い切った行動が多い傾向ですが、それは軽躁で「よっしゃやるで!」「なんか出来そうな気がする!」という状態になり、パッパッと動くことによります。統合失調症患者さんはやはり”微妙な変化を察知する”という印象で、背景に動かねばならない焦りがあり行動に移す感じ。

 なので、診察でもいきなり「今度就職しようと思います」と言うことも。

自分「え? 就職?」
患者さん「はい」
自分「おぉ…。お仕事ですか」
患者さん「はい。働かないと」
自分「働くことが大事?」
患者さん「はい」
自分「なるほど。その気持は大事ですね。うーむ。確か、この前はデイケアにまず通ってみるって話していたような」
患者さん「でも、働かないと」
自分「働かないと」
患者さん「はい、そうです」
自分「そーでしたかぁ。具体的にどんなことを?」
患者さん「え?これから」
自分「んん、そうか…。働こうっていう意気込みを持ってくれたのはとっても嬉しいことよ。でね、この前デイケアのお話をしましたでしょ。まずはデイケアにトライしてみて、決まった時間に行って決まった時間過ごして決まった時間に帰る。それを続けてみるのがやっぱり大事かなと私は思ったんだけど」
患者さん「それだと遅いと思うんです」
自分「遅いと感じるのね。今まで働いたことがないし、朝起きるのもまだちょっとえらい(しんどい、という意味です)でしょ。仕事はじめたら毎日同じ時間に起きて仕事場に行くことになるし、今は大事にやっていきませんか?」
患者さん「うーん」
自分「働きたいって気持ちはとっても良いことよ。だからこそ、基礎をつくっていくのが、ね」
患者さん「…はい」
自分「○○さん、実はちょっと焦っとるでしょ」
患者さん「…はい」
自分「○○さんは少し焦り気味で考えるクセがあるで、そこを一緒に考えて一歩一歩やっていくのが大事だと思うんよ。仕事しちゃいかんってわけじゃないのよ。その気持ちを持てるほど調子が良くなってきたのは私も嬉しいです。そこでね、仕事をするためにも、まずは朝起きるとか時間通りに過ごすとか、基本的なところができるって言うのを見せてほしいな。それができたら私も太鼓判を押せるしね」

 患者さんに焦りが見える時、ちょっとしたブレーキ役を医者が担います。その中でも、働く意思を大切にしているということは明示し、患者さんの意欲が消えないようにします。患者さんが社会の中で生きていきたいと思う時、自分としてもそこが目標。とは言え仕事がどういうものかっていうのが分からない患者さんも結構いるので、まずは体験的なところからスタートしてみたい気分でもあります。そして、医者のブレーキが患者さんを挫いてしまわないように、最大限の配慮を! ここを疎かにしてはならないのです。

自分「あなたが焦っちゃう分、医者は焦らないのがお仕事」
患者さん「先生って慎重ですよねー」
自分「医者は慎重派よ。医者も一緒に焦ったらバランス悪いでしょ」
患者さん「あー、それもそうですね」

 こんな話をしても、数ヶ月後には同じ出来事が繰り返されることもありますが…。ただ、ここで強調しておきたいのですが、中には「えいっ」と社会の中に飛び込んでうまくいく人もいます! そういう時は患者さんに焦りをあまり感じないような気もするようなしないような。その見極めって難しいですね。しかしながら、失敗するリスクも高いので、「何を言われようとも働くよ!」という患者さんには、あらかじめこちらから

自分「じゃあやってみましょうか。でもね、うまく行かなくっても良いのよ。やってみようと思ってくれたことがまず大きな一歩。無理そうだったらすぐに撤退して。○○さんは頑張りすぎて休み下手なところがあるからね。私も気をつけておくでね」

 と、失敗しても大丈夫だとお伝えします。社会への参入に複数回失敗している患者さんも多く、それが外傷体験になっている場合も。その傷を増やさないためにも、一定の心遣いをすべきだと思っています。

 面白い(?)のは、いつの間にか仕事をはじめていたり変えていたりする患者さんがいるということ。何となく診察での会話に「あれ?」と思うところが出てきて、聞いてみると「あ、仕事はじめたんです」と。こっちはびっくりするんですが、患者さんはいたって平然。こういう患者さんは、症状も安定しているんですが診察は短時間であまり広がってこない感じ。でも広がりのなさに安住しているような、あえて広げてこないような印象もあり、こちらから生活について細かく聞き出すことにちょろっと抵抗を覚えます。

 統合失調症を持つ患者さんがゆとりの中で働けるような社会は、どんな人にも優しい社会なのだと思うのです。でも、だからこそ実現は難しいのかもしれませんね…。
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2017
12.05

臨床のワンフレーズ(21):揺らぎは自然

Category: ★精神科生活
 精神疾患は、回復の過程で良くなったり悪くなったりを繰り返します。その波を経て寛解へと向かっていく、このことを予め患者さんにしっかりと伝えておき、日々の診察の中でも話題にします。

患者さん「ここに来てお薬を飲み始めてから楽になってきました。でもこの前は何故かがくーってきちゃって…。ホントに良くなってきたのか分からなくなっちゃって…」
自分「そうでしたか。確かに良くなったり悪くなったりというのがあると、この先どうなるのかなっていうのは不安になりますね」
患者さん「はい」
自分「実はですね、最初の診察の時もお話しはしたんですが、こういう良くなったり悪くなったりっていうのは、回復の経過なんですよ」
患者さん「あ、そうなんですか!?」
自分「この症状の揺れ動きが大事でしてね。人間だれだって調子のいい時や何となく気合いの入らんなぁという時がありますよね」
患者さん「はい」
自分「そういう揺らぎは自然なんですよ。良くなったり悪くなったりっていう揺らぎがあって、段々と改善していくんです」

 と話しながら、こんな図を書いて患者さんに見せます。

ゆらぎ

患者さん「こういう感じなんですか」
自分「これって矢印だけ見ると一直線で良くなってますでしょ。でも細かく見ると、揺らいでますよね」
患者さん「はい」
自分「揺らぎがあるのが大事で、自然な治り方なんです。良くなるだけだったらぴゅーって一直線過ぎて人工的。かえって医者としては違和感がありますよ」
患者さん「はー、そうなんですね。良かったです」
自分「飛行機もそうですね。安定飛行に入ったらあんまり揺れませんけど、上昇中って結構揺れる。あれと同じですよ」

 初診時にもお話しはするんですが、患者さんは緊張していたり他にも色んな事を聞かれていたりするので、全部を覚えてはいません。繰り返しの説明が大事ですね。

 揺らぎは自然なもので、それがなくトントントンってスピーディに良くなると何となく「あれ?」って感じがします。ワンフレーズの18番目でもお話ししましたが、笠原嘉先生は「タマネギの薄皮を剥くように良くなる」という風に仰っていたように記憶しています。ちょっとずつ、ちょっとずつ。自分は揺らぎを前面に出してお話しをしますが、イメージとしては”薄皮を剥くように”というのはとても大事だと思います。その過程は、これまでの生活に無理があったところを見つめてこれからに活かしていくという時間でもあります。
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2017
10.24

ベンゾもたまには役に立つ

Category: ★精神科生活
David Hui, et al. Effect of Lorazepam With Haloperidol vs Haloperidol Alone on Agitated Delirium in Patients With Advanced Cancer Receiving Palliative Care A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2017;318(11):1047-1056. PMID: 28975307

 緩和ケアを受けている進行がん患者さんのせん妄(過活動タイプ)に対して、ハロペリドール単剤とハロペリドール+ロラゼパムの併用との比較。論文ではハロペリドール2 mgとロラゼパム3 mgを使用しており、結果は併用群の方がより低いRASSとなりました。

 ロラゼパムは代表的なベンゾジアゼピン受容体作動薬でして「え? せん妄にベンゾ?」と思ったかもしれません。確かにベンゾは単剤で使用するとせん妄が悪化したりせん妄そのものの原因の1つとなったりします。大事なのは、ハロペリドールと併用した、というところ。大学病院にレジデントとして労働していた頃は、上の先生から「ルートの取ってある患者さんなら、せん妄にハロペリドールとフルニトラゼパムを混ぜて使うと良いよ」と教えられていました。ハロペリドールの商品名はリントン®もしくはセレネース®で、フルニトラゼパムはロヒプノール®ですね。それぞれ注射液があり、ハロペリドール1Aが5 mg、フルニトラゼパム1Aが2 mgです、たぶん。当時は「ほーん」と思いながらそのまま行なっていましたが、今回のJAMAで「やっぱ効果あるんやなぁ」と納得したのであります(ただし、ロラゼパムをそのままフルニトラゼパムに置き換えても良いのかどうかは不明なのですが)。

 ハロペリドールとフルニトラゼパムという作用機序の異なるものを使うことで、1+1が2ではなく3になったようなものでしょうか。あわせ技一本みたいな。ドパミンを抑えてGABAを賦活して、という感じ? GABAの賦活だけだとせん妄によろしくないこともあるのですが、不思議ですね。せん妄は ”夢うつつ” みたいなもので、そこで様々な不安や恐怖が先鋭化します。治療はもちろん原疾患の解決なのですが、端的に言うと当座として”しっかり覚醒・しっかり睡眠”の2つが方法になります。メリハリが大切、ということ。ベンゾのGABA賦活だけでは ”しっかり” が出てこずモヤッとさせる、ということなのかしら。ベンゾでは俗に言う ”浅い睡眠” が増えますしね。ちょっと短く言い過ぎて誤解を生みそうではありますが、あくまでもイメージ的なものとしてお考えください。

 ただ、ちょっと残念なのは日本にロラゼパムの注射液がない! という点。これは本当にどうしようもないなぁと実感しているのです…。洋書を読んでいると「ロラゼパムを打て」と書いてある部分がとても多いのですが「ねぇんだよなぁ…」と肩を落とします。致し方なくフルニトラゼパムを使用しますが、これは半減期が長い(睡眠・覚醒の切り替えがうまくなされない)のと呼吸抑制の問題が大きいというのがあります。せん妄に対しフルニトラゼパムとレボメプロマジン(ヒルナミン®/レボトミン®)を併用すると明らかにSpO2が落ちるという文献もあるのです(J Clin Psychopharmacol. 2000 Feb;20(1):99-101. PMID: 10653217)。その文献ではハロペリドールとフルニトラゼパムの併用では特に問題はありませんでしたが、身体的に弱っている高齢患者さんだとちょっと心配ですよね。

 なので、大学病院にいた頃のオーダーは

リントン0.5-1A・ロヒプノール0.5-1A・生食100mL
100mL/hrで落とす
寝たらストップ、起きたら再開
呼吸状態モニタリング

 という感じだったように覚えています。患者さんの年齢や身体状態に合わせて1Aとするか0.5Aとするかを考慮。”呼吸状態モニタリング” は入れておくべきでしょう。

 自分としては、ハロペリドール5 mg(1A)でおさまらないようなせん妄に対してさらにハロペリドールで押してもあまりメリットはないように思います。ハロペリドールは錐体外路症状を起こしやすい定型抗精神病薬ですし、注射液だとQT延長のリスクが高いのです。複数のQT延長リスクの薬剤が入っていたら、ちょっと怖いですよね(キノロンとか)。せん妄も根本的な機序が分かっていないので、ドパミン受容体を抑える方法である程度頑張ってうまくいかないのであれば、それ以上ドパミン受容体を駆逐しても効果は乏しいかも。静かになったと思ったら実は錐体外路症状で動けなくなっていた、なんてのは冗談にもなりません。ちょっと他の方法も考えたほうが良いでしょう。昔、外科の先生から「リントン3A落としたけどせん妄おさまりません」と言われることがありましたが、ハロペリドール3A(15 mg)はちょっと怖いと思います。慢性期統合失調症でずっと使用しているならともかく、身体疾患で弱っている患者さんにハロペリドール15 mgは、うーん。その時は確かバルプロ酸のシロップをちょっと入れたらうまく整った記憶があります。確か2 mL(バルプロ酸100 mg)くらいだったかなぁ、使ったのは。せん妄対処の薬剤的引き出しを数多く持っていると、精神科医っぽく見られます(精神科医なんですけどね)。もちろんほとんどが経験的なものではありますが、上の先生にちょっとしたコツなどを教えてもらうといざという時に役立ちます。

 ベンゾは”使いよう”だと思います。不安や不眠にだらだらと使うのであれば不適切ではありますが、ここぞという時にスッと使うと大きな威力を発揮してくれます。ベンゾを出すから悪い医者、という単純なことでは決してありませんよ。もちろん、ここぞという時に処方する時も、こちらの祈りにも似た精神療法をベンゾに乗せていく必要はあります。”うまく使う”というのは、漫然と処方する立場やベンゾを絶対に出さないという立場からは決して見えてはこないのでしょう。自分も出す時は出しますし、飲む時は飲みます。

 自分はせん妄に対し「ハロペリドールは1Aまで」というマイルールがあり、使うならフルニトラゼパムと併用して少しでもハロペリドールの投与量を少なくしようとしています。予防には文献的にも経験的にもラメルテオン(ロゼレム®)やスボレキサント(ベルソムラ®)が良いですね。特にスボレキサントはラメルテオンよりも優れている印象ですが、ガチンコ対決の論文が出ると面白いかも。漢方では酸棗仁湯が好きです。軽いせん妄ならこれにしており、抑肝散はあまり使わないかな?

 いずれにしても、なかなか改善しないせん妄は精神科医のウデの見せ所でもあります。でも忘れちゃいけないのは、基本は原疾患の治療ということ。原疾患が良くなって患者さんもうまく覚醒と睡眠のバランスが取れてくると、せん妄は改善します。精神科医の役割はそれまでの”つなぎ”ですよ。決して精神科医が”なおす”ものではありませんので誤解なきよう…。そこは色んな科や看護師さんに勘違いされているので、苦しいところでございます。。。
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