2016
04.24

精神科志望の研修医は何を勉強すべき?

Category: ★研修医生活
 ありがたいことに、精神科を志望してくれる研修医が一定数います。理由は色々あるでしょうけれども、若い力が入ってくれるのは心強いものです。個人的には、ちょっと文系的な、言葉に興味がある人とかだと更に嬉しくなっちゃいますが。やっぱり精神科医は言葉のプロですからね。

 そういった人たちから「研修医のうちに、どんな勉強をすれば良いですか?」という質問もあります。今回はそれについて、周辺のことも交えての記事。前にも何回かしたような記憶もありますが。

 その前に、精神科医になったら何を最初に学ぶべきか。それはやはり、今の時代はお薬(向精神薬)の勉強だと思います。新鮮で変にクセの付いていないまっさらな状態のうちに、良質なテキストで学ぶのが良いでしょう。そうすると、例えばベンゾジアゼピン系をぽんぽん出さないとか、離脱症状に配慮するとか、そういったところへの気づきが出てきます。もちろん継続的な服薬が必要な患者さんもいるため、「すべての向精神薬は悪だ!」という極論はそういう患者さんを愚弄していることになりかねません。一部のコトバに偏らないようにしましょう。極端な情報を発信する人からはビジネスの香りがしますね…。

 こういうお薬の勉強や文献での勉強は「頭でっかち」と非難されがちですが、若手は経験では絶対的に不足しておりそれは覆せませんから、その分きちんと本や文献を読んで知識を入れるのは、患者さんを診療するにあたっての礼儀でもあると思うのです。経験も少なく、知識も少ないのではダメダメですよね。最初は頭でっかち(この言葉を”知識先行”という意味で用いています)でも良いのです。経験は必ず付いてくるので、そのために知識を最初は身に付けておきましょう。つまりは


頭でっかち上等!


 の心意気やで。焦らず、教科書や文献で正しい診断や治療の”型”をしっかり学んでおきましょう。”習うより慣れろ”ではなく、”習って慣れろ”的なイメージを。

 そして、生活習慣の改善、つまり”養生”を治療の第一義とするように心がけること。さらには”処方しない”という選択肢も用意しておくべきです。特に昨今の精神科外来は一昔前のような”疾患同士の比較”というよりは”健常との比較”にシフトしてきています(その境目もファジィというのは論を俟たないものです)。だからこそお薬が効きにくいですし、処方せずに養生をお願いする術も意識しましょう。その養生には個別性がありますから、必然的に患者さんの生活を聞く事にもなります。それは大切な情報。

 しかし、そういったことは精神科医になってから! 研修医のうちは仮に精神科志望であっても、というか精神科志望だからこそ、”身体疾患の勉強”をして欲しいと思います。精神科医になったら精神疾患に否が応でもどっぷり浸かるわけですから、そうなる前は身体疾患のお勉強を。つまりは普通の研修をするべきでございます。これは自分が医局の教授から教えられたことでもあります。実は、自分は研修医2年次の時に「精神科をたくさん選択してスタートダッシュをしよう!」と目論んでいたのですが、教授から「研修医のうちにしっかりと身体を診ておきなさい」と諭され、かなりローテする期間を減らしたのでした。

 身体疾患の中には精神疾患の大事な鑑別となるものがあります。しかし、他科から「精査したけどうちの科じゃないから」と言われて精神科に来た患者さんに対して精神科は「じゃあ精神疾患として治療しよう」と考えて身体疾患を今一度調べ直すことを忘れてしまうことがしばしば。


”精神科の患者さん”というラベリングがいったんなされてしまうと、それはなかなか洗い流せないものなのです


 以前にも記事にしましたが”精神科医こそ身体疾患を鑑別する最後の砦”でもあります。そのためにもしっかりと研修医期間中に基本的な考え方(診療のOS)を習得。精神疾患だけ勉強すれば良いというのではいけませんよ。その鑑別となる身体疾患への目配せを怠らないためにも、研修医のうちは身体疾患の勉強をして身体疾患を持つ患者さんに接しておくのが求められるのです。論理的に考える技術を身に付けるために、やっぱり欠かせません。事前確率や尤度比を冷静に見つめて診断に至るその考え方は、すべての医者が知っておくべき知識でございましょう。「尤度比って何?」という精神科医がいまだに多いのは悲しいことです。

 そして、鑑別となる身体疾患の勉強だけで済ませてはダメでして、いわゆるコモンディジーズの診断や治療に用いるお薬の特徴をも知っておきましょう。精神疾患を持っている患者さんの身体疾患の治療にとっても役立ちますし、他の病院で処方されたお薬の特徴を知っておくことで、患者さんの一見すると症状悪化と思われた状態が実は相互作用によってもたらされたものだと気づくこともできます。

 自分は高血圧症や脂質異常症や2型糖尿病といったコモンな疾患の治療をしてますし、よく出会う感染症の治療も。特に感染症はとんでもない抗菌薬を使う医者も多いので、自分で勉強して治療した方が良い時がとても多いのです。。。蜂窩織炎にレボフロキサシン(クラビット®)を1ヶ月出す皮膚科医とかいますからね…。あとは第三世代セフェムや経口カルバペネムをぽいぽい出す医者も「むむむ…」と思ってしまいます。それよりは自分がしっかりと診断して抗菌薬も選んで治療。もちろん自分では手に負えない状態であれば、それはお願いします。何でもやろうとするのは、単に自分の自己愛を満たしたいだけになってしまい、患者さんをその延長として見ることになりかねません。

 ある程度であれば自分で治療するのがストレスもなく、患者さんの服用するお薬も分かります。そして精神疾患以外のちょっとしたところに手が届くと、患者さんの信頼度も実はアップ。患者さんの身体に目配せをすることで、実は精神科的にも良い作用になっているのです。こういうのは、臨床研修制度を経験している若手の医者の強みだと思いますよ。もちろん、他の病院で妙なお薬を使われて相互作用で大変な目に遭うのを避けたいという思いもあったりしますが。こっちでリチウム(リーマス®)出しておいてるのを知っているのに向こう(開業医さん)でロキソプロフェン(ロキソニン®)を180mg/dayで定期的に出されてリチウムの血中濃度が…なんてことは稀じゃないのでした。。。向精神薬の知識って精神科以外はかなり乏しいのです(精神科医で乏しければ失格です)。同様に、「精神科医は向精神薬以外は何も知らねぇんだな」という誹りを受けないためにも、コモンな身体疾患で頻用されるお薬については最低限知っておかねばなりません。患者さんが高血圧症でACE阻害薬を服用していたら、やっぱりリチウムは軽々と処方できないでしょう。心房細動でワルファリン(ワーファリン®)を服用していたら、フルボキサミン(デプロメール®/ルボックス®)は積極的に出せないでしょう。

 何だか愚痴になってしまいましたが、何を言いたかったんでしたっけ…。そうそう、精神科志望であっても、研修医のうちは精神科ばっかり勉強するんじゃなくて、身体疾患、特に精神疾患との鑑別になる身体疾患の診断、そしてコモンディジーズの診断と正しい治療が出来るようになっておくことが欠かせないということでした。診断推論って大事。

 研修医のうちから精神病理学の難しい本を読んだり、精神分析のちょっと摩訶不思議な本を読んだり、言語学を学んだりする必要はないですよ。それは精神科医になってからちょっとずつで結構です。研修医のうちは身体疾患を「これでもか!」というくらいに勉強してくださいまし。”今”に浸ってその中でもがくことこそ、将来の原石。

 それでも何か…という研修医の先生には、医学書院さんから出ている姫井昭男先生の『精神科の薬がわかる本』をオススメします。この1冊をきちんと読むだけでもだいぶ違いますし、精神科以外の先生方みなさんも是非読んでみてください。そして、精神科医になったらすぐに『The Maudsley Prescribing Guidelines in Psychiatry』を買いましょう(2016年3月の段階で第12版が最新)。この本は最強の薬剤処方のガイドラインです。
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2016
03.23

不安でいること

Category: ★研修医生活
 研修医のみなさんが主戦力となる場、それは救急外来ではないでしょうか。自分が研修した病院では診た患者さん全員を内科直もしくは外科直に上申するという安全第一のシステムでしたが、病院によってはそうでないところもあります。

 特に救急外来デビューの日はめちゃくちゃ緊張する/したと思います。自分が初めて当直で救急外来に来た時、第一診察室では心肺蘇生が行われていた真っ最中でした。同期が頑張って胸骨圧迫をしていたのを見て、「おぉ、やっていけるかな…」と怖くなったものです(同期も初日に胸骨圧迫でくじけそうになったと言っていました)。ちなみに初めて診た患者さんは「喉が痛い」というかたで、典型的な咽頭炎。でもわたわたとしてしまって、カルテ記載も恥ずかしいレベルでした。そしてその日は色んなマニュアルやテキストを持って来ていたのも覚えています。重かったのですが、この重いのがお守り的な。ただ、色々と持ち込むのは研修医の2年間を通じてずっと不変でした。

 そこで、1つ重要なことを。それは


不安でいてほしい


 ということです。「救急外来怖いな」「何か失敗するんじゃないかな」という思いは、必ず持っていてほしい。なぜなら、その気持は真摯な勉強につながるからです。医学の勉強もそうですし、患者さんの勉強も。「いつまで経っても不安で、こんなんでオレ大丈夫かな…」と感じることもあるかもしれませんが、その不安があるからこそ、しっかりと勉強できるんですよ。だからその感情があるのは素敵なことなんです。敵視せずに、医者として生きていく上で大切なパートナーだとすら思ってみてください。

 逆に怖いのが「救急外来慣れたし、もう大丈夫だな」というこころ。確かにとっても優秀な人は大丈夫なのかもしれません。ですが多くの研修医にとって、それは”慢心”に変換されるでしょう。そうなると、自分自身にスキが出来てしまい、手痛いしっぺ返しを喰らうことだってあります。自分の経験では、エコーをたくさん練習して「結構イイ線行ったんじゃない?」と感じた時期がありました。今思い返すととても恥ずかしくて黒塗りにしたいくらいなんですが、その当時はそんな気分でいたのです…。しかし、ある患者さんの胆石を見つけられず、結果的にCTで判明したということがありました。内科直の先生からは「この部分のは見づらいよ」と慰めとも言える言葉をもらいはしたものの、エコーにちょっと自信が出ていた自分の鼻はポッキリと折れました。慢心の典型的な例でしょう。ふくらし粉で見かけだけ大きくなった安物のパン、そんな空虚な自信だったのです。

 自信を持つな、というわけではありません。自信が出ることはそれだけ勉強した傍証でもあるでしょう。しかしながら、自分1人が体験した世界の中、しかもそれは研修医の短い期間で得られた狭い自信であるということも忘れてはなりません。その部分では、不安を捨てずに持っていてほしいと思います。

 救急外来の怖さが抜けない研修医のみなさん、デビューを控えてちょっとドキドキしているかたがた、その姿がいちばんです。その怖さ・不安を忘れずに最後まで持っていてください。それは大きな武器です。

 自信が出てきたかたがた、しっかりと勉強しており、とっても素晴らしいと思います。でも、みんなが体験した”あの頃”の怖さも思い出してあげて下さい。今までの勉強は、その怖さがあったからこそ進んできたのかもしれません。それを糧にすると、もっと診察の質が向上されることでしょう。

 総じて、不安は決して悪者ではありません。その不安を不安として見つめてあげることが大切なのです。その上で、研修医として何をしていけば患者さんのためになるかをじっくりと考えて、その道を進んで欲しいと思います。不安はその道中を共に歩いてくれる仲間となり得るでしょう。
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2015
11.01

風邪を風邪と診断するために

Category: ★研修医生活
 救急外来でとても多い風邪の患者さん。研修医はたくさん来る患者さんの中からミミックを探しだして倒さねばなりません(倒せずザラキを唱えられて砕け散るのも避けたいですね…)。換言するならば



風邪を風邪と言い切れるか!?



 という、一見当然にも感じられることがとても大事になってきます。

 今回は1年次研修医向けにつくった勉強会のレクチャーから、風邪についてお話(しかし勉強会自体がなくなってしまったのでお蔵入りになってしまった…)。ほとんどは故・田坂佳千先生の書かれた『”かぜ”症候群の病型と鑑別疾患(今月の治療. 2006;13(12):1217-21)』をベースにしています。いわゆる”風邪本”(例えば岸田直樹先生の『誰も教えてくれなかった風邪の診かた』や山本舜悟先生の『かぜ診療マニュアル』)も元をたどるとこの田坂先生の論文に行き着きます。風邪本の源流と言っても良いでしょう。

 さて、研修医にとってとても心配になるのが「患者さんに風邪と診断して自信を持って帰せるか?」というところ。例えば

「喉が痛い」→大動脈解離!
「気持ち悪くて吐いた」→心筋梗塞!
「下痢をした」→消化管出血!

 こんなのを診てしまうとびっくりしてしまいます。

 もちろん”後医は名医”という言葉の通り、時間が経つことで疾患の輪郭がよりはっきりとし、後で診た医者が正しく診断できるのは当たり前。よって、患者さんには「これこれこういう症状が出たら/今の症状がどんどん悪くなるようなら、また来てくださいね」など、鑑別で捨てきれなかった疾患でまだ出現していない症状や今ある症状の増悪の可能性をお伝えして、”時間性”をうまく使うようにします。

 救急外来、特に発症早期ではまだ症状が揃わずうまく疾患としてのまとまりに欠けるため、診断には限界があるというのを大前提とします。その限界を意識しながらも出来るところまで詰めていくというのが求められます。そして、限界の先に向かうために、患者さんにこちらの予想をお伝えして診断に幅をもたせることを利用します。

 それを認識した上で、まず風邪の定義ですが


ほとんどの場合、自然寛解するウイルス感染症で、多くは咳・鼻汁・咽頭痛といった多症状を呈するウイルス性上気道感染のこと


 と表現できます。細菌感染では原則として細菌が1種類の臓器で暴れます。もちろん例外はたくさんあり、代表例はレジオネラ肺炎の腹部症状でしょうか。ウイルス感染は多くの臓器にまたがるのが通常です。

 ”細菌が1種類の臓器で暴れる”というのは様々なprediction ruleにも反映されており、例えば細菌性咽頭炎とウイルス性咽頭炎との鑑別に用いられるCentor's criteriaでは”咳がないこと”というのが、細菌性咽頭炎らしさを示しています(咽頭に感染するのであって、より下の気道症状である咳は細菌性らしくないということ)。肺炎の検査前確率を推定するDiehr's threshold scoreでは、咽頭痛と鼻汁の存在は肺炎らしくなさを示します(細菌は肺に感染し、喉や鼻の症状は出にくいということ)。

 ということで、典型的な風邪とは以下の図で示せます。
典型的な風邪

 この図の言わんとしていることは


“咳・鼻・喉”の症状がほぼ等しく急性に出現している時は、風邪と判断して良い


 ということ。これをしっかりと認識しているのといないのとでは、風邪症状を訴える患者さんへの取り組みが全く異なってきます。典型的な風邪の顔つきを上記でつかんだ次は、典型的ではない、辺縁に位置するような症状の時が注意点になってきます。そこが医者にとって大切で、田坂先生の以下の名言のように


風邪(症候群)における医師の存在意義は、他疾患の鑑別・除外である


 ということ。これに尽きるのだと思います。それをスッキリさせるため、まずこのようにまとめましょう。
典型ではない
 これらの時は「典型的な風邪とはちょっと違うなぁ」と思うところで、しっかりと鑑別疾患を挙げて除外していくことが求められます。

 最初は、鼻症状が中心の時。
鼻症状
 これの代表的な鑑別には急性副鼻腔炎があります。意外に診断は難しく、以下を参考とします。

いわゆる「風邪のぶり返し」
うつむいて顔面痛の惹起や増悪
上歯痛
耳鏡で鼻腔を覗いて膿性鼻汁を確認
エコー(心臓用のプローブ)で上顎洞の貯留液を確認

 JAMAの『Rational Clinical Examination』を読んでも、なかなか「これは!」と思える所見に出くわさないのでした。。。この「風邪のぶり返し」は急性副鼻腔炎に限らず「細菌感染かな?」と思える糸口になりえます。

 次は、咳症状が中心の時。
咳症状
 もちろん本命対抗は”肺炎”です。実はこの肺炎の診断は

聴診で分からないことがとても多い
レントゲンではっきりしないことも多い(撮るなら正面像と側面像)
エコーが有用!?
グラム染色は行なうこと
尿中抗原でRule outは難しい

 という特徴があります。聴診で分からないからといってそれを省くのは以ての外でして、レントゲンではシルエットになって分かりづらい肺底部のcracklesが聴こえることもありますし、レントゲンでは見えないけれども肺胞呼吸音が気管支呼吸音化していてCTでしっかり肺炎像が出ているなんてことも。エコーはちょっと自信ないですけど…。自分は肺水腫と気胸を見つける時にしか使わなかったので、肺炎を見つけるためのエコー経験が乏しいのでした…。やはり重要なのは流行・患者背景・症状をしっかりとらえることになります。

「風邪のぶり返し」でガッツリ来る
悪寒戦慄を伴う高熱と咳
びっしょり寝汗や頻脈や頻呼吸
基礎疾患やマイコプラズマの流行
ホテル、温泉、湯沸かし…(レジオネラ)

 この辺りは最低限チェックしておきたいですね。頻脈や頻呼吸にはやっぱり敏感になっておきたい。

 もちろん怖い疾患が隠れていることもあり、急性心不全や肺塞栓なんてのは医者泣かせだと思います。患者背景で狙いを付けて、SpO2低下・頻呼吸・呼吸困難といった所見があれば注意をしておきますし、否定できなければBNP(もしくはNT-pro BNP)やD-dimerなどの検査。

 そして、慢性咳嗽の初期を見ていることもあります。慢性咳嗽は3週間以上続く咳が定義ですが、初期に見るとそれは”急性咳嗽”になってしまいます。急性咳嗽と慢性咳嗽とでは鑑別疾患の色合いが異なり、結核や肺がんや心不全などなど…。以上を頭の片隅に。

  次は喉症状が中心の時。
喉症状
 鑑別として細菌性咽頭炎は言うまでもないかもしれませんが、その細菌は何とGASにも、若年者(15-30歳)ではFusobacterium necrophorum, GCS, GGSといった細菌が発症に関与するとという報告が出ています(Centor RM, et al. The Clinical Presentation of Fusobacterium-Positive and Streptococcal-Positive Pharyngitis in a University Health Clinic: A Cross-sectional Study. Ann Intern Med. 2015 Feb 17;162(4):241-7.  Centor RM, et al. Avoiding sore throat morbidity and mortality: when is it not "just a sore throat?". Am Fam Physician. 2011 Jan 1;83(1):26, 28.)。特にFusobacterium necrophorumは結構多いらしいです…。迅速診断キットはGASのみを対象としているため、これらの細菌では陰性になることがあります。これを考えると、Centor's criteriaで4点以上ならキットなしで抗菌薬投与というのも何となく頷けます。ちなみに日本にいるGASは多くがマクロライド耐性なので、細菌性咽頭炎にマクロライドを出しても改善しないことがあるので注意。また、上記論文の著者であるCentor先生は、あのCentor's criteriaのCentor先生です。すごいですなぁ、まだ生きてたんだ(おい)。

 他の鑑別は結構怖いものが多く、いわゆるKiller sore throatには急性喉頭蓋炎、咽後膿瘍、扁桃周囲膿瘍、Ludwig アンギナ、 Lemierre症候群(前述のFusobacterium necrophorum感染の重大な合併症)などがあるのです…!感染症以外では大動脈解離、心筋梗塞、くも膜下出血、亜急性甲状腺炎などが挙がってきます。恐るべし喉症状…!

 ここで、風邪っぽくなく咽頭炎っぽくなく、「おや…?」と嗅ぎ分けるポイントを。

 咳と鼻汁が少なく咽頭痛が中心の時で、“咽頭痛が強い+咽頭所見が強い”は当然注意すべき。問題は…


咽頭所見は軽く、嚥下痛が強い!
もしくは
咽頭所見は軽く、嚥下痛が軽い!



 これが「何かおかしいなぁ…」と感じる第一歩。患者さんが「喉が痛い」と言っているにもかかわらず咽頭所見が軽いというのは、事件の中心は“咽頭”ではないことを示します。つまり


咽頭周囲の問題
頚部の問題
放散痛の問題



 という風に分類できましょう。仮に咽頭ではなく”頚部痛”であったとしても、患者さんは「頚が痛い」ではなく「喉が痛い」と言うことがとても多いです。専門用語では頚と喉は異なりますが、患者さんの世界では明確な分類になっていません。自分の身に起きた現象を何とか持っている言葉で表現しようとして「喉が痛い」になるのです。医者側はそれを考慮して、言葉の奥の現象をとらえるようにする必要があります。患者さんの言葉に引きずられずここに気を配れるようになると、問診力がアップしますよ。患者さんと医者とは異文化の存在だという認識を持ち、出てくる言葉が表そうとしている現象(シニフィエと言えるかもしれません)に思いを馳せてみましょう。

 上記の点を考えながら、鑑別をしっかりかけて見逃してはいけない疾患を除外していきます。

 最後は、咳症状・喉症状・鼻症状のいずれもないという時。
いずれもない
 その際は「うーん、風邪でしょう」と言わないようにしましょう。”発熱+α”でとらえ、その+αは、頭痛、倦怠感、消化器症状、関節痛、皮疹などなどなど…。それぞれに従って鑑別疾患を挙げて診断していきます(個々の鑑別疾患は割愛)。+αが無く発熱のみのいわゆるsolo feverなら、気合いを入れた診察が欠かせず、血液・尿・胸部レントゲンの検査は必要になることが多いです。腎盂腎炎、胆管炎、前立腺炎、感染性心内膜炎、高齢者の肺炎など、ちょっと見逃せないものばかり。子どもさんも中耳炎から心筋炎まで幅広い。

 咳症状・喉症状・鼻症状がない時は本当に気をつけねばなりません。診断や診察の本をしっかり読んで鑑別を頭に入れておくことが結局のところ大事です。考える力も欠かせませんが、ある程度の暗記というか知識は絶対に必要。

 ということで、風邪のお話でした。最後に、いつも同じようなことを言っているかもしれませんが


風邪の典型例を知り、風邪と間違えやすい疾患を知ること。そうすることで“風邪”と“非・風邪”との境界線がよりはっきりと浮き出てくる!


 とまとめて、終わりとします。
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2015
10.12

教育としての病歴や診察

Category: ★研修医生活
 研修医の先生には、やはり病歴と診察という基本中の基本を大事にしてもらいたい、と思っています。検査というのは、検査前確率あってのもの。それをより正確に近づけるには、病歴と診察がどうしても必要になります。陽性尤度比10の検査があっても、検査前確率1%と30%とでは全くもってその意義が異なるでしょう。検査を活かすも殺すも、病歴と診察次第です。

 そして、最近の若い人は「病歴と診察、大事なのは知ってますよ」と答えてくれます。さらに、それらにもエビデンスが入り込むことで、「この病歴の感度特異度は○○%」などが分かってきており、それも若い人の知的欲求を掻き立てているでしょう。『The Patient History(聞く技術)』や『Rational Clinical Examination(論理的診察の技術)』や『Evidence Based Physical Diagnosis(マクギーの身体診断学)』などがその代表格で、そういったエビデンスを診断経過にまとめ入れた『Symptom to Diagnosis(考える技術)』は名著でございますね。上田先生の『内科診断リファレンス』はチート級の出来でしょうか。

 とは言え、これら病歴や診察のエビデンスは、医者によって大いに異なるというのは強調しておくべきことでしょう。以前にも記事にしましたが、研修医がマクギー先生の本を見て「何だ、肺炎の診断に聴診なんて大したことないじゃん」と思うことだって実はあります。それで聴診をしなくなるのであれば、その時点でその研修医の聴診能力はストップしてしまい、自らの言葉が自らの診察技術を言い当てることになってしまうのです。大事なのは、限界を知りつつも”繰り返す”こと。肺炎が聴診で分からなくてCTで分かった場合、答え合わせのようにしてその部位の音を注意深く聴いてみることです。健常部位とよーく比較すると、わずかな気管支呼吸音化が聴き取れるかもしれません。そこで得た繊細な感覚を、次の患者さんのために覚えておく。”分かること””分からないこと”を繰り返し繰り返し吟味することで、本に載っている感度特異度を凌駕することだって可能です。鮮やかな技術は、泥臭い練習の地層があってこそ。

 また、診察所見をとらえることで感動を産むこともあり、それが研修医にとって大きな経験の第一歩になってくれるでしょう。例えばIII音の存在。呼吸苦の患者さんでIII音が聞こえたら心不全の可能性がめちゃくちゃ高まることは周知の事実だと思います。ただ、感度が恐ろしく低いのが玉に瑕。これをどう受け取るか? 「III音の意義は、聴診器の性能が良いかどうかを知るところだ」と皮肉を言う人もいますが、鼓膜に触れてくるようなあのIII音を聞いて、「あ! 心不全だ!」と発見することの驚きを伴った喜び(患者さんは苦しいのですが)。確かに感度が低いためRule outには使えませんしRule inも他の検査で出来てしまうのもありますが、だからと言って省いても良いのか。これが聴こえることで謎が一気に解決に向かう快感とも言える感情は、診察への強い興味をそそるものです。しかもその時に指導医が「これがIII音だよ。呼吸苦の患者さんでこれが聴けたら心不全の可能性がとても高いんだ。よく見つけたね。この感覚を忘れないようにしていこう」とでも言ってくれたら、この研修医はどんなに嬉しいことでしょう、どんなに診察に真面目になるでしょう。その体験は、何にも代え難いものだと思います。

 診察は、診断にもそうですが経過を追うことにも役立ちます。腱反射は他の人と所見が一致しないことも多いのですが、自分自身の中では再現性がありますから、それを経過を追うことに使えます。頚静脈の怒張も、症状改善とともに見えにくくなっていきます。そして、入院患者さんを丁寧に診ることは、それ自体が治療効果をもたらすことも知るでしょう。「診断に役に立たないから」と切って捨てるのではなく、触れることは、医療の原点だと思います。

 病歴も同じですね。聞き方によって患者さんの答えは変わります。労作性呼吸困難を聴取する時に「運動する時いつもより苦しく感じませんか?」と聞いても、その”運動”は何を指すのか? 患者さんは良く分からないから「いいえ」と答えるかもしれません。でも、その患者さんを知る指導医が「○○さん。いつもあのスーパーに買い物行っとるでしょ。最近そこの行き帰り、ちょっと歩いててしんどいなぁって思うことない?」と聞くと、患者さんは「あーそうだねぇ。先週くらいから途中で一息つくようになったかねぇ」と答えます。これこそ、病歴の中に生活を織り込む技術であり、患者さんその人を診ていたからこその聞き方。病歴の感度特異度を上げるためには、患者さんを知ることがとっても大切になってくるのです。その指導医の姿を見た研修医は、患者さん1人1人の生活が透けて見えてくるような関わり方を心がけるようになるかもしれないでしょう、人間的な医学というものの醍醐味を知ることになるかもしれないでしょう。

 よって、生活に棲む病歴、そして修練として、”手当て”としての診察。これらは決して軽視するべからざるものです。患者さんとの”あいだ/あわい”を意識させ、自分自身にとってもレベルアップとなるという事実を見据えて、これから学んでいくことが大事でございますよ。
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2015
07.08

鵜呑みにしない、自分で考える

Category: ★研修医生活
 7月某日に行なわれたシオ○ギさんのwebカンファレンスは、呼吸器感染症でカルバペネム系を使う時についてのお話。もはやタイトルからして不安な香りが漂うという素敵なカンファです。

 研修医の時にこの会社のwebカンファを観て、随分と偏った内容で演者の先生がドリペネム(フィニバックス®)をぐいぐい推しておりました。その時も肺炎の治療でしたが、色々と前半はグラム染色とか培養とかの話をしておきながら、後半は


演者「ま、肺炎の治療はペネムで良いと思います」


 と、前半をぶっ壊すような発言。何とか製薬会社の宣伝を入れなければならないため、ヘアピンカーブ的な話の展開で苦しさが伝わり、研修医とICTの先生方で失笑した記憶が強烈に残っています。その時の演者の先生の名前も覚えており、それ以来うかつに信用できなくなってしまいました…。

 他のは分かりませんが、この製薬会社が提供する抗菌薬のwebカンファレンスはいつも「ちょっといかがなものか…」思います。某日の内容もご多分に漏れないものだったようで、シオ○ギさんはもうちょっとうまくやった方が良いんでないかい?と他人事ながら心配してしまいます。

 こういうのってむしろ製薬会社と演者の先生に悪いイメージしか与えないのでは…。昔ならいざしらず、今の時代こんなひどい宣伝で騙される研修医もいないでしょうし(と思いたい)…。これで信じてしまう研修医はよっぽど人が良いのか勉強不足なのかどっちかでしょう。

 後輩曰く、某日のwebカンファでは”研修医は肺炎球菌性肺炎をペニシリンで治療するのがスマートだと洗脳されている”とか”誤嚥性肺炎ににはアンピシリン・スルバクタム(ユナシン®)のみならずカルバペネムも十分に考慮されるべき”とか、ここまで言ってしまって大丈夫かしら…というちょっと悲しい内容。

 いやいや、肺炎球菌性肺炎ならペニシリンが最も合理的ですし、むしろ演者の先生が製薬会社に洗脳されているんじゃない? とも皮肉の1つでも言ってやりたい気分。ペニシリンという最も古くて狭域の抗菌薬で肺炎球菌性肺炎の患者さんが治っていくという経験をすることが、研修医のこれからの感染症治療にとってかけがえない事柄になると思うのですが。というか肺炎球菌と分かっているならペネムなんかよりもペニシリンの方がシャープに効くでしょう。誤嚥性肺炎にもなぜペネムがどんどん出るのか…。もちろん全てにおいてペネムを絶対使わないということはないでしょうけれども、ドリペネムはその中でも使わない部類になります(Kollef MH, et al. A randomized trial of 7-day doripenem versus 10-day imipenem-cilastatin for ventilator-associated pneumonia. Crit Care. 2012 Nov 13;16(6):R218.)。ドリペネムの講演をするのなら、FDAが適応としている複雑性腹腔内感染症・複雑性尿路感染症にとどめておくのが製薬会社も演者の先生も痛手を受けずに済むのかもしれません。もういい加減、肺炎にドリペネムという宣伝はやめましょうや。

 しかしながら、確かに製薬会社はお薬が売れないと会社が傾いてしまい、新たなお薬の開発も出来なくなり、そうなると医者側も困ってしまいます。最悪は倒産して社員の皆さんやご家族が路頭に迷う。だから宣伝するのは無理もないことなのです(”会社”ですし利益をあげないと)。ということは、「製薬会社が提供するものは基本的に宣伝が入っているかも?」という当然の認識を医者側がすべきでしょう。なので、あんまり「webカンファで勉強しよう!」とは思わない方がむしろ良いのです。少し予防線を張っておいて、一歩退いて眺めておくべき。宣伝を見つけられたら、「よしよし、自分は勉強してるな」と確認するようなテスト感覚でいましょう。

 製薬会社を叩くよりも、自分たちが正しい勉強をして惑わされないようにするのが大切なことでしょう。それを今回のwebカンファは若い先生がたに示してくれたのだと思います。シオ○ギさんと演者の先生は自ら身体を張ってそのことを教えてくれたんや。
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