2017
09.09

事前確率とセットでね!

Category: ★研修医生活
 研修医の先生に論文を読んでもらって解説をしてますよーというお話を1つ前の記事でしました。その中で、時間がある時は事前確率の大切さを説くことがあります。もうすっかり尤度比の使い方も世の中に根付いたかと思っていたのですが、意外にもそうではないことに気づき、ちょっと解説するようにしました。自分が研修医の時は誰も教えてくれなかったしなぁ。

 例えば、この論文。

Antunez E, et al. Usefulness of CT and MR imaging in the diagnosis of acute Wernicke's encephalopathy. AJR Am J Roentgenol. 1998 Oct;171(4):1131-7. PMID: 9763009

 ここでは、Wernicke脳症に対するMRIの感度が53%、特異度が93%となっています。もっと感度が高いよ!とする論文もありますが、例としてこれを。研修医の先生にこの感度と特異度をどう思うか聞きますが、多くは「特異度が高いから診断に役立って、感度が低いから除外には向かない」と、バシッと答えてくれるのであります。感度や特異度というのは、例えば、感度80%の所見というのは”病気を持つ人”の80%に見られる所見だということを示します(Positive in desease)。いっぽう、特異度80%の所見というのは”健康な人(その病気を持たない人)”の80%に見られない所見だということを示します(Negative in health)。実は、自分はこの辺りをちょっと正確に理解していなかった時期があり、そのため過去の記事でも間違った記載が存在し、そこは修正を入れておきました。大事なので言い方を変えてお話しすると…

 感度とは、想定する病気を持っていると判明している人たち(患者さん)にその検査をした場合、どのくらいの割合で検査が陽性になるのか? という指標です。だからその病気を持っていない人(健康な人)にこの検査をしたらどうなるのかは、実は感度からだけでは分からないのです。健康な人でも陽性になる可能性が十分に考えられます(偽陽性)。

 特異度とは、想定する病気がないと判明している人たち(健康な人)にその検査をした場合、どのくらいの割合で検査が陰性になるのか? という指標です。だからその病気を持っている患者さんに検査をしたらどうなるのかは、実は特異度からだけでは分からないのです。患者さんでも陰性になる可能性が十分に考えられます(偽陰性)。

 そして、この感度と特異度は連動しているので、別々に見ると誤解を生むことがあります。特異度がものすごく高いけれども感度が著しく低い検査の有用性などは、盛んに指摘されていますね。感度5%、特異度98%の検査があったとして、それが陽性なら「特異度の高い検査が陽性! Rule Inだ!」と考えがちですが、決してそうではない。特異度はあくまで”病気がない人の中でその検査が陰性になる割合を示すもの”なのです。”特異度が高いからRule In” ”感度が高いからRule out” というのは、多くの場合はそれで問題ないことが多いのですが、実際はちょっと早計なのでございます! 感度と特異度は別個に考えてはいけない。自分は研修医の時、ここを完全に勘違いしておりました…。

 「あくまで病気がない人の中での話で、患者さんに当てはめられない??」と頭がこんがらがってきそうなので、要は感度と特異度っていうのは、単独ではなくつなげて考えねばならないのだと言うことにして、そのためのツールである”尤度比”のお話に移りましょう。

 感度と特異度をがちゃがちゃ計算して出て来る”尤度比”ですが、研修医の先生に尋ねると

自分「感度と特異度をバラバラに見ると間違うから、尤度比にしてみようか。尤度比って知ってる?」
研修医「…」

 となることが稀ならずあり、尤度比をしっかり教えることも大事やなぁと考えるに至ったのであります。それが今回の記事をつくるきっかけになりました。計算してもらい数字を弾き出してもらうと、感度53%、特異度93%はだいたい

陽性尤度比:7.6
陰性尤度比:0.5

 となります。計算式は”陽性尤度比=感度÷(1-特異度)”であり、”陰性尤度比=(1-感度)÷特異度”です。尤度比というのは尤もらしさ(もっともらしさ)を示すものですが、英語の Likelihood Ratio の方が分かりやすいかもしれませんね。Likely な度合いを示します。陽性尤度比は”所見が陽性の時の尤もらしさ”を、陰性尤度比は”所見が陰性の時の尤もらしさ”を意味しています。尤度比が1というのは尤もらしさを全く動かしません。感度50%、特異度50%というやつですね。大まかな動き方は

10:尤もらしさぐぐっとup!
5:尤もらしさちょっとup
1:ピクリとも動かない
0.2:尤もらしさちょっとdown
0.1:尤もらしさぐぐっとdown!

 となります。例えば、陽性尤度比5、陰性尤度比0.1の検査があったとすると、その検査が陽性の時は、ある病気の尤もらしさがちょっとupし、陰性の時は尤もらしさがぐぐっとdownするということになります。

 「おー、尤度比は便利だな」と思うかもしれません。しかししかし、感度だけ、特異度だけで物事を見てはいけないのと同様に、尤度比だけで考えても間違いのモトになってしまいます(めんどくせぇ)。尤度比を運用するために欠かせないのが”事前確率”でして、「この検査をする前の段階で、患者さんがこの病気である確率はどれくらいだろう?」というのが代表例。この”見積もり”いかんによっては、尤度比のインパクトもだいぶ変わってきてしまいます。「尤度比だけで物事は決められない」と覚えておきましょう。

 役に立つのがノモグラム(nomogram)というもので、これを使うと事前確率の大切さがひしひしと伝わってくるのではないでしょうか。

nomogram.png

 ある検査を想定すると、左側のバーが検査前確率、真ん中のバーが尤度比、右側のバーが検査後確率。検査前確率と尤度比をつないだ線をぴーっと延長して右側のバーにぶつけると、検査後確率が判明するというスグレモノ。分かりやすいように、感度99%、特異度99%というものすごく優秀な検査を想定しましょう。ELISAによるHIV抗体検査が実はこれ以上に優秀な検査であり、確か国試の公衆衛生でも出てきたような?? で、この尤度比を計算すると、

陽性尤度比:99
陰性尤度比:0.01

 これはすごい! この検査が陽性なら必ずその病気をRule in、陰性なら必ずRule outにできそうな気がしてきます。しかし、ここでちょっと冷静になりましょう。検査前確率が0.1%というややレアな病気(鑑別でほぼ想定していない病気という意味)の場合はどうでしょうか。それでもそんなに興奮できるかどうか。

 とある病気の検査前確率0.1%という時、この陽性尤度比99という検査をしてばっちり陽性になった。さて本当に「この病気だ!」と言い切れるのか? nomogramを使ってみると…

nomogram 2

 なんと、検査後確率はほぼ10%なのです! ハイパーに優れた検査が陽性でも、こんな結果だなんて…。

 これから分かるように、検査(診察も)をする時は、「この患者さんがこの病気を持っている確率はどんなもんだろう?」という”見積もり”をできるだけ正確に行なう必要があるのです。このセッティングを疎かにして絨毯爆撃的に検査をしてしまったら、いざ陽性になった時にミスリードとなってしまいますし、陰性でも同じこと。

 では最初に戻り、Wernicke脳症に対するMRI(陽性尤度比:7.6、陰性尤度比:0.5)を見てみましょう。アルコール依存症で、ここ1ヶ月ほど食事もあまり摂取しておらず、そういえば歩き方が何となく変だな…と思った時、Wernicke脳症の検査前確率はかなり高そうです。80%と見積もってみましょう。「これはWernicke脳症っぽいなぁ。MRIだなこれは」と思って撮りました。結果は特に異常所見なし。さて、Wernicke脳症を否定できるかどうか。

 同じくnomogramを使うと…

nomogram 3

 あれ、検査後確率が80→70%程度に下がっただけ。全然否定できません! 検査前確率を50%と考えても、検査後確率は30%以上残っています。この例えをすると、研修医の先生は「おー」と感心してくれることが多くてですね、教え甲斐があるなぁと実感するのでございます。よって、闇雲に診察や検査をするのではなく、常にその一歩手前の確率、診察前確率や検査前確率といった事前確率をできるだけ正確に考えることが大切です。常に事前確率とセットで尤度比を考える、そこを忘れないようにしましょう。すなわち、検査をするなら問診と診察で、診察をするなら問診でそれぞれきちんと鑑別疾患の事前確率を想定しましょうね、ということなのです。

 ちなみに、McGee先生の本にはnomogramではなく以下のような足し算方式が載っており、それを眼にしたことのある研修医の先生もいるかもしれません。

0.1:-45%
0.2:-30%
0.5:-15%
1:動かず
2:+15%
5:+30%
10:+45%

 これは事前確率が10-90%、言い換えれば救急外来や一般外来の初期に鑑別に挙がってくるような病気の時に使うことができます。「この患者さん、肺炎の検査前確率は40%くらいかなぁ」と思った時に、陽性尤度比5の検査が陽性になったら、40+30で検査後確率は70%と考えることができます。「この病気の可能性はかなり低いなぁ」という時はnomogramを使用しましょう。

 ただし、検査前確率というのは”見積もり”なので、正確無比ではありません。患者さんの病歴や診察などから「この病気の確率はこんなもんかな…?」という感覚的な確率(言い方は変ですが)なのであります。よって、特に初期研修医1年目のうちは事前確率を”なさそう””あるかも””ありそう”の3段階くらいにまずは分けてみて、その上で尤度比を10、5、0.2、0.1くらいを目安にこれまた感覚的に検査後確率を推定していく、というやり方が良いのかなと思っています。もっと勉強して経験して種々の病気のゲシュタルト(岩田先生風に?)が分かってくると、患者さんの像とのつながり具合からもっと事前確率が細かく、例えば5段階くらいに分かれてくるようにも考えています。そうしたら、尤度比ももっと緻密に運用できるかもしれませんね。

 ということで、感度、特異度、尤度比のお話でした。これらだけで診断をしてはならず、常に一歩前の確率を考えましょう、というのがいちばん大事なところではありますが。
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2017
09.03

研修医の先生に読んでもらう論文をいくつか

Category: ★研修医生活
 自分が勤めている病院に研修医の先生が2週間やって来ることがあります。研修医の先生がいる病院に精神科がなく、それで精神科のタームの時だけこちらに来るというシステム。若い先生を見ると、昔の自分を思い出しますね。

 多くの研修医の先生は精神科に興味がないので、こちらも色々教えるというよりは「せん妄の対処は知っておこう!」くらいの立ち位置になります。しかもローテーションも2週間だし、出来ることは限られている。ちなみに精神科志望であればなおさら「今のうちに身体疾患の勉強をしておこう!」と言うことにしています。

 研修医の先生に一緒に診てもらう患者さんは他の先生がたが紹介しているので、自分は午前中に論文を何本か読んでもらって午後にその内容でお話をする、というスタイルにしています。座学も大切ですし、自分自身がリハビリ出勤なので省エネにしているというのも否めず。読んでもらう論文は大体決まっておりまして…

・Galvin R, et al. EFNS guidelines for diagnosis, therapy and prevention of Wernicke encephalopathy. Eur J Neurol. 2010 Dec;17(12):1408-18. PMID: 20642790

・Isenberg-Grzeda E, et al. Wernicke-Korsakoff syndrome in patients with cancer: a systematic review. Lancet Oncol. 2016 Apr;17(4):e142-8. PMID: 27300674

・Bhattacharyya S, et al. Antibiotic-associated encephalopathy. Neurology. 2016 Mar 8;86(10):963-71. PMID: 26888997

・Turrini A, et al. Not only limbs in atypical restless legs syndrome. Sleep Med Rev. 2017 Apr 4. pii: S1087-0792(17)30080-1. [Epub ahead of print] PMID: 28559087

 こんな感じ。人によって読むスピードは異なるので、全部読めなくてもO.K.です。あとは志望科によってそれと関係する論文を1つ付けるかどうか。

 これら論文を読んでもらう狙いとして

「Wernicke脳症を見逃すな!」
「がん患者さんのWernicke脳症だとモヤッとした症状もあるぞ!」
「抗菌薬で脳症が起きるぞ!」
「restless "legs" だけじゃないぞ!不定愁訴と片付ける前にちらっと疑え!」

 という強いメッセージがあるのです。精神科以外を志望しているのであれば、統合失調症の精神病理学とかを話してもあまり意味はないので、他の切り口にしているのでした。これら論文の内容を踏まえて研修医の先生に話す内容はですね…

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 Wernicke脳症はとても見逃されており、有名な3徴は16%にしか見られない。国試的には「Wernicke脳症といえばアルコール依存症、アルコール依存症といえばWernicke脳症」であるが、決してそれだけでない。アルコール依存症以外でも見られることは覚えておくべきであり、その内訳では、がん患者さん(特に血液腫瘍や消化管腫瘍)、消化管手術、妊娠悪阻、飢餓(神経性やせ症も注意)でアルコール依存症以外において発症するWernicke脳症の50%以上を占める。そして、がん患者さんでは頭痛、無気力、脱力といった ”モヤッとした” 症状を来たすことがある。「がんだし無気力にもなるよなぁ」「がんだしあまり動かず寝ているとアタマも痛くなるよなぁ」と過剰に了解することなく、「ひょっとしたらWernicke…?」と考えてまず治療をしてみるというのも大事。検査はMRIが有名だが、感度や特異度はスタディによってまちまちで、基本的にはRule inのために用いる補助と考えておこう。よって、所見がなくても治療してみるという勇気も必要。治療にはビタミンB1の経静脈的投与が行われるが、安価でありゆっくり投与すれば大きな副作用も大きなものはないので、疑ったら治療開始の気持ちで。ただ、投与量や投与期間にコンセンサスはない。

 抗菌薬の副作用で脳症が起きることもある。これらは大きく3つのグループに分けられる。開始後数日で発症し、けいれんやミオクローヌスが多く生じ脳波異常も見られやすいグループが1つ。これはペニシリン系とセフェム系に多く、特にセフェム系は腎機能が悪いと起こりやすい(セフェピムは特に有名)。別のグループは精神病症状が多いもので、これも開始後数日で発症する。脳波は異常がそれほど多くなく、プロカインペニシリン、スルホンアミド、キノロン、マクロライドで生じやすい。精神病症状だからと言ってすぐ精神科に!ではなく、これら抗菌薬を使用していればそれによる脳症かを考えよう(だから精神科医もそのことを知っておく必要がある)。別のグループはメトロニダゾールによるもので、投与後数週間してから発症する。小脳症状が多く、脳波は非特異的異常所見を示し、MRIでも異常所見(小脳歯状核がT2強調で高信号、脳梁膨大部が拡散強調で高信号)が見られる。最近、日本でも偽膜性腸炎(CDAD)の治療薬として静注のメトロニダゾールが承認されたので、こういった例が増えるかも? イソニアジドはいずれのグループにも入らない。発症は数週から数ヶ月で、精神病症状がコモン。脳波は異常を示すが非特異的である。

 Restless legs syndrome(RLS)は見逃されやすい疾患であるが、"legs" ではなく腕、他にも会陰部や膀胱、腹部、後背部、顔や口など様々な部位にも生じることが分かってきた。IRLSSGの診断基準は以下だが、それを身体の各部位に当てはめて疑うことが大切である。「変な症状だな。不定愁訴か」と括ってしまう前に、鑑別を考えよう。ドパミンアゴニストで速やかに改善することが多い(でもフェリチン低値なら鉄剤投与が優先かな…)。

IRLSSG 診断基準
1: 脚を動かしたくてたまらない衝動と不快感
2: 安静時に悪化
3: 脚の運動により不快感が軽減ないし消失
4: 夕方から夜に悪化
5: これらの特徴を持つ症状が,他の疾患・習慣的行動で説明できない

 ちなみに、日本語では”むずむず脚症候群”というが、”むずむず”では引っ掛けられないことが多い。”ちくちく””そわそわ””虫が這うような””お布団を蹴っ飛ばしたくなるような感じ””落ち着かない”など様々な訴えである。まさに"restless"なので、”むずむず”に引っ張られないように! 後は、「落ち着かないから眠れない」のではなく、「眠れないから落ち着かない」と患者さんは考えることがある。そうなると患者さんは「眠れない」としか言わないので、こちらから積極的に問うことが大事。

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 と、このような感じ。どれも精神科以外で遭遇しやすいので、こういう知識を入れておくのはムダではない、はず(覚えておいてくれれば)。こういった論文の中には検査方法の感度や特異度も記載されているものがある(Wernicke脳症に対するMRIなど)ので、時間があれば尤度比のお話もしています。今度はそれを記事にしようかな?

 そう言えば、以前は名古屋大学で研修医の先生がた相手に朝の勉強会を行なっていたんですが、他の科も勉強会をすることが多くなったそうで、研修医の先生から「朝は忙しいから夜にしてくれ」と言われ、しょうがないなーと思って夜にずらしたは良いけれども今度は「夜に集まるのは困難です」と言われ、何と2015年の7月(だったかな?)を最後に中止に追い込まれた苦々しい過去があります…。その時は「随分と身勝手な研修医だな…」と実は怒っていたんですが、まぁでも魅力のある面白い勉強会ならみんな来てくれていたんだろうと思うと、まだまだ自分も勉強不足だなと(今になってようやく)考えております。教えるっていうのは難しいものですね。
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2017
03.26

あとでまわれ

Category: ★研修医生活
 研修医の先生方は4月から色んな科をローテすることになりますね。そこで言えるのは、


行きたい科や好きな科は最初に廻らないようにしよう!


 ということ。もう遅いよ、廻る順番決めちゃったよ、という声も聞こえてきそうですが。。。

 なぜかって言うと、最初は研修病院のシステムに慣れることで精一杯だからなんです。病院のどこに何があって、どんな電子カルテ(紙カルテでも記載の方法など)を導入していてどんな操作をするのか、上級医の先生や看護師さんたちとどうやってコミュニケーションをとって、そして何より患者さんとどう話をしていくか、などなど。。。こういうことにまず慣れる必要性があり、それは最初にローテする科の体験の中で学んでいくことが多いのではないでしょうか。他にも、どこにスーパーがあるとか、どこに食べるところがあるとか、新しく住むところに馴染むとか、どんな同期や2年次がいるとか。
 
 自分は学生の時、神経内科の推理っぽさが好きでした。それもあって「好きな科を最初に回ってモチベーションアップや!」と思っていたら、カルテの使い方と病院の構造を理解するまでに2週間を要してしまい、あまり神経内科を肌で感じられなかった経験があります。バタバタと慣れていくうちに研修する期間の半分が過ぎてしまいました。指導医の先生も「最初だからまずカルテの使い方から勉強してね」という感じで。論文の調べ方もあんまり知らず、見やすいパワポの作り方も全然分からず、しかも患者さんとお話しするのも慣れてなくてね…。今では口先で商売する感じになってますけど。

 なので、好きな科があれば、そして出身校の附属病院でなければ(附属病院ならポリクリで廻ってるので勝手知ってるはず)、最初に回るのは”あんまり興味のない科”にした方が良いでしょう。自分だったら消化器内科とかかな…(すんません)。

 ちなみに自分は腎臓内科も好きで、それは2年次研修医の時に廻りました。そこでは深く学べたなぁと実感してます。たしか3ヶ月か4ヶ月くらい?廻ったはず。2年次ローテでは腎臓内科とICTを集中的に選択して楽しかったなぁ。感染症ってすごく大事で、どの科でも遭遇します(精神科でもね)。そこで適切な診断と適切な検査と適切な抗菌薬の選択が出来るようになれれば、やっぱり良いもんです。特に感染症に関しては上の年代の先生方はみっちり勉強してないので、若手が一本取れるチャンスでもありますよ。こういう成功体験ってやっぱり健全な自己愛を満たすために大切だと思ってます。

 ということでね、廻る科の順番は、科そのものの興味では決められないというお話でした。
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2016
04.24

精神科志望の研修医は何を勉強すべき?

Category: ★研修医生活
 ありがたいことに、精神科を志望してくれる研修医が一定数います。理由は色々あるでしょうけれども、若い力が入ってくれるのは心強いものです。個人的には、ちょっと文系的な、言葉に興味がある人とかだと更に嬉しくなっちゃいますが。やっぱり精神科医は言葉のプロですからね。

 そういった人たちから「研修医のうちに、どんな勉強をすれば良いですか?」という質問もあります。今回はそれについて、周辺のことも交えての記事。前にも何回かしたような記憶もありますが。

 その前に、精神科医になったら何を最初に学ぶべきか。それはやはり、今の時代はお薬(向精神薬)の勉強だと思います。新鮮で変にクセの付いていないまっさらな状態のうちに、良質なテキストで学ぶのが良いでしょう。そうすると、例えばベンゾジアゼピン系をぽんぽん出さないとか、離脱症状に配慮するとか、そういったところへの気づきが出てきます。もちろん継続的な服薬が必要な患者さんもいるため、「すべての向精神薬は悪だ!」という極論はそういう患者さんを愚弄していることになりかねません。一部のコトバに偏らないようにしましょう。極端な情報を発信する人からはビジネスの香りがしますね…。

 こういうお薬の勉強や文献での勉強は「頭でっかち」と非難されがちですが、若手は経験では絶対的に不足しておりそれは覆せませんから、その分きちんと本や文献を読んで知識を入れるのは、患者さんを診療するにあたっての礼儀でもあると思うのです。経験も少なく、知識も少ないのではダメダメですよね。最初は頭でっかち(この言葉を”知識先行”という意味で用いています)でも良いのです。経験は必ず付いてくるので、そのために知識を最初は身に付けておきましょう。つまりは


頭でっかち上等!


 の心意気やで。焦らず、教科書や文献で正しい診断や治療の”型”をしっかり学んでおきましょう。”習うより慣れろ”ではなく、”習って慣れろ”的なイメージを。

 そして、生活習慣の改善、つまり”養生”を治療の第一義とするように心がけること。さらには”処方しない”という選択肢も用意しておくべきです。特に昨今の精神科外来は一昔前のような”疾患同士の比較”というよりは”健常との比較”にシフトしてきています(その境目もファジィというのは論を俟たないものです)。だからこそお薬が効きにくいですし、処方せずに養生をお願いする術も意識しましょう。その養生には個別性がありますから、必然的に患者さんの生活を聞く事にもなります。それは大切な情報。

 しかし、そういったことは精神科医になってから! 研修医のうちは仮に精神科志望であっても、というか精神科志望だからこそ、”身体疾患の勉強”をして欲しいと思います。精神科医になったら精神疾患に否が応でもどっぷり浸かるわけですから、そうなる前は身体疾患のお勉強を。つまりは普通の研修をするべきでございます。これは自分が医局の教授から教えられたことでもあります。実は、自分は研修医2年次の時に「精神科をたくさん選択してスタートダッシュをしよう!」と目論んでいたのですが、教授から「研修医のうちにしっかりと身体を診ておきなさい」と諭され、かなりローテする期間を減らしたのでした。

 身体疾患の中には精神疾患の大事な鑑別となるものがあります。しかし、他科から「精査したけどうちの科じゃないから」と言われて精神科に来た患者さんに対して精神科は「じゃあ精神疾患として治療しよう」と考えて身体疾患を今一度調べ直すことを忘れてしまうことがしばしば。


”精神科の患者さん”というラベリングがいったんなされてしまうと、それはなかなか洗い流せないものなのです


 以前にも記事にしましたが”精神科医こそ身体疾患を鑑別する最後の砦”でもあります。そのためにもしっかりと研修医期間中に基本的な考え方(診療のOS)を習得。精神疾患だけ勉強すれば良いというのではいけませんよ。その鑑別となる身体疾患への目配せを怠らないためにも、研修医のうちは身体疾患の勉強をして身体疾患を持つ患者さんに接しておくのが求められるのです。論理的に考える技術を身に付けるために、やっぱり欠かせません。事前確率や尤度比を冷静に見つめて診断に至るその考え方は、すべての医者が知っておくべき知識でございましょう。「尤度比って何?」という精神科医がいまだに多いのは悲しいことです。

 そして、鑑別となる身体疾患の勉強だけで済ませてはダメでして、いわゆるコモンディジーズの診断や治療に用いるお薬の特徴をも知っておきましょう。精神疾患を持っている患者さんの身体疾患の治療にとっても役立ちますし、他の病院で処方されたお薬の特徴を知っておくことで、患者さんの一見すると症状悪化と思われた状態が実は相互作用によってもたらされたものだと気づくこともできます。

 自分は高血圧症や脂質異常症や2型糖尿病といったコモンな疾患の治療をしてますし、よく出会う感染症の治療も。特に感染症はとんでもない抗菌薬を使う医者も多いので、自分で勉強して治療した方が良い時がとても多いのです。。。蜂窩織炎にレボフロキサシン(クラビット®)を1ヶ月出す皮膚科医とかいますからね…。あとは第三世代セフェムや経口カルバペネムをぽいぽい出す医者も「むむむ…」と思ってしまいます。それよりは自分がしっかりと診断して抗菌薬も選んで治療。もちろん自分では手に負えない状態であれば、それはお願いします。何でもやろうとするのは、単に自分の自己愛を満たしたいだけになってしまい、患者さんをその延長として見ることになりかねません。

 ある程度であれば自分で治療するのがストレスもなく、患者さんの服用するお薬も分かります。そして精神疾患以外のちょっとしたところに手が届くと、患者さんの信頼度も実はアップ。患者さんの身体に目配せをすることで、実は精神科的にも良い作用になっているのです。こういうのは、臨床研修制度を経験している若手の医者の強みだと思いますよ。もちろん、他の病院で妙なお薬を使われて相互作用で大変な目に遭うのを避けたいという思いもあったりしますが。こっちでリチウム(リーマス®)出しておいてるのを知っているのに向こう(開業医さん)でロキソプロフェン(ロキソニン®)を180mg/dayで定期的に出されてリチウムの血中濃度が…なんてことは稀じゃないのでした。。。向精神薬の知識って精神科以外はかなり乏しいのです(精神科医で乏しければ失格です)。同様に、「精神科医は向精神薬以外は何も知らねぇんだな」という誹りを受けないためにも、コモンな身体疾患で頻用されるお薬については最低限知っておかねばなりません。患者さんが高血圧症でACE阻害薬を服用していたら、やっぱりリチウムは軽々と処方できないでしょう。心房細動でワルファリン(ワーファリン®)を服用していたら、フルボキサミン(デプロメール®/ルボックス®)は積極的に出せないでしょう。

 何だか愚痴になってしまいましたが、何を言いたかったんでしたっけ…。そうそう、精神科志望であっても、研修医のうちは精神科ばっかり勉強するんじゃなくて、身体疾患、特に精神疾患との鑑別になる身体疾患の診断、そしてコモンディジーズの診断と正しい治療が出来るようになっておくことが欠かせないということでした。診断推論って大事。

 研修医のうちから精神病理学の難しい本を読んだり、精神分析のちょっと摩訶不思議な本を読んだり、言語学を学んだりする必要はないですよ。それは精神科医になってからちょっとずつで結構です。研修医のうちは身体疾患を「これでもか!」というくらいに勉強してくださいまし。”今”に浸ってその中でもがくことこそ、将来の原石。

 それでも何か…という研修医の先生には、医学書院さんから出ている姫井昭男先生の『精神科の薬がわかる本』をオススメします。この1冊をきちんと読むだけでもだいぶ違いますし、精神科以外の先生方みなさんも是非読んでみてください。そして、精神科医になったらすぐに『The Maudsley Prescribing Guidelines in Psychiatry』を買いましょう(2016年3月の段階で第12版が最新)。この本は最強の薬剤処方のガイドラインです。
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2016
03.23

不安でいること

Category: ★研修医生活
 研修医のみなさんが主戦力となる場、それは救急外来ではないでしょうか。自分が研修した病院では診た患者さん全員を内科直もしくは外科直に上申するという安全第一のシステムでしたが、病院によってはそうでないところもあります。

 特に救急外来デビューの日はめちゃくちゃ緊張する/したと思います。自分が初めて当直で救急外来に来た時、第一診察室では心肺蘇生が行われていた真っ最中でした。同期が頑張って胸骨圧迫をしていたのを見て、「おぉ、やっていけるかな…」と怖くなったものです(同期も初日に胸骨圧迫でくじけそうになったと言っていました)。ちなみに初めて診た患者さんは「喉が痛い」というかたで、典型的な咽頭炎。でもわたわたとしてしまって、カルテ記載も恥ずかしいレベルでした。そしてその日は色んなマニュアルやテキストを持って来ていたのも覚えています。重かったのですが、この重いのがお守り的な。ただ、色々と持ち込むのは研修医の2年間を通じてずっと不変でした。

 そこで、1つ重要なことを。それは


不安でいてほしい


 ということです。「救急外来怖いな」「何か失敗するんじゃないかな」という思いは、必ず持っていてほしい。なぜなら、その気持は真摯な勉強につながるからです。医学の勉強もそうですし、患者さんの勉強も。「いつまで経っても不安で、こんなんでオレ大丈夫かな…」と感じることもあるかもしれませんが、その不安があるからこそ、しっかりと勉強できるんですよ。だからその感情があるのは素敵なことなんです。敵視せずに、医者として生きていく上で大切なパートナーだとすら思ってみてください。

 逆に怖いのが「救急外来慣れたし、もう大丈夫だな」というこころ。確かにとっても優秀な人は大丈夫なのかもしれません。ですが多くの研修医にとって、それは”慢心”に変換されるでしょう。そうなると、自分自身にスキが出来てしまい、手痛いしっぺ返しを喰らうことだってあります。自分の経験では、エコーをたくさん練習して「結構イイ線行ったんじゃない?」と感じた時期がありました。今思い返すととても恥ずかしくて黒塗りにしたいくらいなんですが、その当時はそんな気分でいたのです…。しかし、ある患者さんの胆石を見つけられず、結果的にCTで判明したということがありました。内科直の先生からは「この部分のは見づらいよ」と慰めとも言える言葉をもらいはしたものの、エコーにちょっと自信が出ていた自分の鼻はポッキリと折れました。慢心の典型的な例でしょう。ふくらし粉で見かけだけ大きくなった安物のパン、そんな空虚な自信だったのです。

 自信を持つな、というわけではありません。自信が出ることはそれだけ勉強した傍証でもあるでしょう。しかしながら、自分1人が体験した世界の中、しかもそれは研修医の短い期間で得られた狭い自信であるということも忘れてはなりません。その部分では、不安を捨てずに持っていてほしいと思います。

 救急外来の怖さが抜けない研修医のみなさん、デビューを控えてちょっとドキドキしているかたがた、その姿がいちばんです。その怖さ・不安を忘れずに最後まで持っていてください。それは大きな武器です。

 自信が出てきたかたがた、しっかりと勉強しており、とっても素晴らしいと思います。でも、みんなが体験した”あの頃”の怖さも思い出してあげて下さい。今までの勉強は、その怖さがあったからこそ進んできたのかもしれません。それを糧にすると、もっと診察の質が向上されることでしょう。

 総じて、不安は決して悪者ではありません。その不安を不安として見つめてあげることが大切なのです。その上で、研修医として何をしていけば患者さんのためになるかをじっくりと考えて、その道を進んで欲しいと思います。不安はその道中を共に歩いてくれる仲間となり得るでしょう。
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